説明

導電性シリカゾル、及び導電性シリカヒドロゲルの製造方法

【課題】導電性シリカゾル、及び導電性シリカヒドロゲルの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の導電性シリカゾルの製造方法は、アルコキシシラン又はケイ酸塩を含む前駆体溶液と、スズ化合物とを混合し、前記アルコキシシラン又はケイ酸塩を加水分解することを特徴とする。前記前駆体溶液は、アルコキシシラン又はケイ酸塩に加えて、アルコール、及び酸性に調製した水を含むものとすることができる。前記スズ化合物とともに、アルコール及び酸性に調製した水を混合してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シリカゾル、及び導電性シリカヒドロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリカゾルやシリカヒドロゲルは、様々な分野で用いられてきた(特許文献1参照)。本来、シリカゾルやシリカヒドロゲルは導電性を持たない絶縁性の物質であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−298226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、シリカゾルやシリカヒドロゲルは、導電性を持つことが要求される用途には、用いることができなかった。
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、導電性シリカゾル、及び導電性シリカヒドロゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明は、
アルコキシシラン又はケイ酸塩を含む前駆体溶液と、スズ化合物とを混合し、前記アルコキシシラン又は前記ケイ酸塩を加水分解することで導電性シリカゾルを製造する導電性シリカゾルの製造方法を要旨とする。
【0006】
本発明で製造する導電性シリカゾルは、導電性を有するため、様々な用途、例えば、帯電防止、充填剤に用いることができる。より具体的には、帯電防止フィルム、導電性フィルム、導電性塗料等に用いることができる。また、本発明で製造した導電性シリカゾルは、絶縁性及び疎水性シリカゾルへの導電率付与または改善の用途に用いることができる。本発明の導電性シリカゾルが導電性を有する理由は、スズの水和イオンと対イオンがキャリアーとして働くためであると推測できる。
【0007】
前記アルコキシシランとしては、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)、TMOS(テトラメトキシシラン)等が挙げられる。また、前記アルコキシシランの代わりにケイ酸塩、例えば、ケイ酸ソーダ、ケイ酸アンモニウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等を用いてもかまわない。前記スズ化合物としては、例えば、二塩化スズ二水和物、二塩化スズ無水、四塩化スズ五水和物、二リン酸スズ二n水和物、二シュウ酸スズ、ステアリン酸スズ、硫酸スズ等が挙げられる。
【0008】
前記アルコキシシラン又は前記ケイ酸塩と、前記スズ化合物との配合比は、シリカに対し、0.1mol%〜20mol%の範囲が、溶解性、経済性の理由で好ましい。
(2)請求項2の発明は、
前記前駆体溶液は、前記アルコキシシラン又は前記ケイ酸塩に加えて、アルコール、及び酸性に調製した水を含むことを特徴とする請求項1記載の導電性シリカゾルの製造方法を要旨とする。
【0009】
本発明は、前駆体の組成を例示する。前記アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール等が挙げられる。前記酸性に調製した水は、例えば、塩酸を用いて調製できる。その水のpHとしては、例えば、1.0〜4.5の範囲が好適であり、特に2.0が好適である。
(3)請求項3の発明は、
前記スズ化合物とともに、アルコール及び酸性に調製した水を混合することを特徴とする請求項1又は2記載の導電性シリカゾルの製造方法を要旨とする。
【0010】
本発明は、導電性シリカゾルの製造方法を例示する。前記アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール等が挙げられる。前記酸性に調製した水は、例えば、塩酸を用いて調製できる。その水のpHとしては、例えば、1.0〜4.5の範囲が好適であり、特に2.0が好適である。
(4)請求項4の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の導電性シリカゾルの製造方法により製造した導電性シリカゾルをゲル化させることを特徴とする導電性シリカヒドロゲルの製造方法を要旨とする。
【0011】
本発明で製造した導電性シリカヒドロゲルは導電性を有するので、様々な用途、例えば、バッテリーの電解液に用いることができる。より具体的には、白金の対電極、亜鉛と銅、銅と銅などを平行平板電極とし、電解液媒体として本発明の導電性シリカヒドロゲルを用いたバッテリー等に用いることができる。
【0012】
導電性シリカゾルをゲル化させるには、例えば、静置熟成、又は加温熟成すればよい。
また、本発明は、導電性ヒドロゲルを乾燥させて、導電性シリカゲルとした利用や、導電性シリカゾルを被膜化し、導電性シリカ被膜とした利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】シリカゾルの導電性を測定するための装置構成を表す説明図である。
【図2】導電性シリカゾルの製造方法を表すフローチャートである。
【図3】導電性シリカゾルの物性測定の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明する。
1.導電性シリカゾルの製造と評価
(1)TEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、及び塩酸でpH2に調製した水を、モル比で1:1:1に計りとり、1時間混合攪拌した。これを前駆体溶液とした。
(2)前駆体溶液3モルに対し、エタノール、及び塩酸でpH2に調製した水を、それぞれ、1モル、3モル添加した。さらに、二塩化スズ二水和物を、この(2)で添加するエタノール1モルに対し0.004モルの割合で添加し、導電性シリカゾルの原料溶液とした。
(3)図1に示すように、上記(2)で製造した原料溶液1を、容器3に収容した。そして、平行平板電極5の一端を、原料溶液1に浸漬した。この平行平板電極5は、一対の電極7を備え、その電極7は、縦90mm×幅10mmの短冊状の形状を有し、銅から成る。一対の電極7は、それぞれ、上端から10mmの領域である上端部7aの両面と、下端から10mmの領域である下端部7bの片面では銅が露出しているが、その他の部分では、絶縁性樹脂で覆われている。一対の電極7は、その間に厚さ10mmのゴム8を挟み、一対の電極7間の距離が10mmとなるように固定されている。電極7の向きは、下端部7bのうち、銅が露出している面が内側となる向き(他方の電極7と対向する向き)である。平行平板電極5のうち、下端部7bは原料溶液1中に浸漬され、下端部7bのうち、銅が露出している面は原料溶液1に接触する。平行平板電極5のうち、上端部7aは、原料溶液1に浸漬されない。
【0015】
平行平板電極5における一対の電極7の上端部7aに、それぞれ、リード線を介して、外部電極9、10を接続した。この外部電極9、10間には、直流電源11により、直流電圧を印加することができる。また、直流電源11と外部電極9、10との接続をOFFとした状態で、直流電圧計13を外部電極9、10間に接続し、外部電極9、10間(すなわち平行平板電極5における一対の電極7間)の直流電圧(起電力)を測定することができる。さらに、一方の電極7と外部電極10との間には直流電流計15が取り付けられ、一対の電極7間に流れる電流値を測定することができる。
(4)原料溶液1を容器3内で1時間攪拌しながら、原料溶液1の温度測定と電流測定を継続的に行った。電流測定は、以下のように行った。直流電源11により、0.5Vの静電場を平行平板電極5に印加し、およそ10秒間通電を持続して電流値が安定したところでその値を記録した。測定は、測定開始から0〜20分間は1分ごとに行い、20分〜60分間は5分ごとに行った。
(5)粘度測定は、B型粘度計(トキメック(株)製)を使用し、ローター(BLタイプ)、回転数(6〜60rpm)の条件で測定した。なお、上記の実験方法の概略を図2に示す。塩化スズ(II)は水に溶解すると加水分解し、白色沈澱が生じ、均一な水溶液にならない。このために、上記の実験では、エタノールに溶解させる方法をとっている。
(6)上記(4)における温度と電流との推移を図3(a)に示す。図3におけるSnCurrentが電流を表し、Sntempが温度を表し、Snviscosityが粘度を表す。Sntempは上記(2)の添加から4.3分で50.2℃に達し、同時に電流値も0.2mAまで上昇した。このとき、加水分解により、原料溶液1から、導電性シリカゾルが生成したと考えられる。
2.比較例のシリカゾルの製造と評価
原料溶液1を製造するとき、二塩化スズ二水和物を添加しない点以外は上記1.(1)〜(6)と同様にして、比較例のシリカゾルを製造した。その製造過程における、原料溶液1、及びそれから生成するゾルの、温度、電流、及び粘度を上記1.(4)〜(5)と同様に測定した。その結果を図3(a)に示す。図3におけるOriginalCurrentが比較例の電流を表し、Originaltempが比較例の温度を表し、Originalviscosityが比較例の粘度を表す。
【0016】
二塩化スズ二水和物を添加しない比較例では、上記1.(2)の添加(ただし、二塩化スズ二水和物は除く)後、Originaltempは時間の経過とともに上昇し、当初の22℃(常温)から、11.7分の時点では34.6℃に達した。その後、Originaltempは低下した。同様に、OriginalCurrentも、一時的に、およそ0.1mA程度まで上昇したが、その後、大きく低下した。
3.導電性シリカヒドロゲルの製造と評価
前記「1.導電性シリカゾルの製造と評価」の(1)から(4)と同様に製造し、導電性シリカゾルを製造した。
その後、静置熟成しつつ、電流測定と粘度測定とを、原料溶液1が容器3中でゲル化するまで続けた。その温度と粘度との推移を図3(b)に示す。図3(b)において導電性シリカゾルが生成した後、Snviscosityが上昇していることは、導電性シリカゾルがゲルへと変化し、ゲル状の材料が生成したことを示している。特に、加水分解後およそ180時間経つとSnviscosityは72mPa・sの値で、これはヒドロゲルになったことを示す。その時のSnCurrentは0.1mA程度を維持していた。
なお、スズを添加した導電性シリカゾルに、ゲル化後も、一定の電流が流れていることより、ゲル化後のシリカヒドロゲルも導電性があることは明らかである。
4.比較例のシリカヒドロゲルの製造と評価
前記「2.比較例のシリカゾルの製造と評価」と同様に製造し、比較例のシリカゾルを製造した。
その後、静置熟成しつつ、電流測定と粘度測定とを、原料溶液1が容器3中でゲル化するまで続けた。その温度と粘度との推移を図3(b)に示す。図3(b)におけるOriginalviscosityが上昇していることは、比較例シリカゾルがゲルへと変化し、ゲル状の材料が生成したことを示している。具体的には、加水分解後およそ300時間経つとOriginalviscosityは71mPa・sの値で、これはヒドロゲルになったことを示す。その時のOriginalCurrentは0.0mA程度を維持していた。
なお、図3(b)におけるOriginalviscosityの上昇は、Snviscosityと同様にゲル化に至る過程を示している。スズを添加しないシリカゾルにおいて、シリカゾルが生成して、その後ゲル化しても、全く電流が流れていないことより、スズを添加しないゲル化後のシリカヒドロゲルは全く導電性がないことは明らかである。
【0017】
尚、本発明は前記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、TEOSの代わりに、他のアルコキシシランを用いてもよいし、ケイ酸ソーダの代わりに、他のケイ酸塩を用いてもよい。
【0018】
また、本発明は、導電性ヒドロゲルを乾燥させて、導電性シリカゲルとした利用や、導電性シリカゾルを被膜化し、導電性シリカ被膜とした利用が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0019】
1・・・原料溶液、3・・・容器、5・・・平行平板電極、7・・・電極、
7a・・・上端部、7b・・・下端部、8・・・ゴム、9、10・・・外部電極、
11・・・直流電源、13・・・直流電圧計、15・・・直流電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン又はケイ酸塩を含む前駆体溶液と、スズ化合物とを混合し、前記アルコキシシラン又は前記ケイ酸塩を加水分解することで導電性シリカゾルを製造する導電性シリカゾルの製造方法。
【請求項2】
前記前駆体溶液は、前記アルコキシシラン又は前記ケイ酸塩に加えて、アルコール、及び酸性に調製した水を含むことを特徴とする請求項1記載の導電性シリカゾルの製造方法。
【請求項3】
前記スズ化合物とともに、アルコール及び酸性に調製した水を混合することを特徴とする請求項1又は2記載の導電性シリカゾルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の導電性シリカゾルの製造方法により製造した導電性シリカゾルをゲル化させることを特徴とする導電性シリカヒドロゲルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−6268(P2011−6268A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148668(P2009−148668)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】