説明

導電性ペースト用銅粉およびその製造方法、並びに、導電性ペースト

【課題】貴金属より安価な銅を用いる事によりコスト性にすぐれるとともに、焼結開始温度が高く、耐酸化性に優れ、電気的特性への悪影響を回避しながら電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉を提供する。
【解決手段】導電性ペースト用銅粉の平均粒径を0.1μm〜1.0μmとし、2.0μm以上の粗粒の割合を0.01%以下とするとともに、その表面に膜厚が100nm以下の、Si以外の酸化物を含有するSiOゲルコーティング膜を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト用銅粉およびその製造方法、並びに、導電性ペーストに関し、とくに、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ等の積層セラミック電子部品の内部電極を形成するのに用いて有効なものに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば積層セラミックコンデンサは、一般的に以下のようにして製造される。チタン酸バリウム系セラミックなどの誘電体セラミックグリーンシート上に、内部電極用導電性ペーストを所定のパターンで印刷する。このシートを複数積み重ね、圧着して、セラミックグリーンシートと内部電極ペースト層とが交互に積層された未焼成の積層体を得る。この積層体を所定の形状のチップに切断した後、高温で同時焼成して、積層セラミックコンデンサの素体を得る。
【0003】
次いで、素体の内部電極の露出する端面に、導電性粉体、ガラス粉末、および有機ビヒクルを主成分とする外部電極用の導電性ペーストを塗布し、乾燥した後、高温で焼成することにより外部電極が形成される。この後、外部電極には、必要に応じて、ニッケル、スズなどのめっき層が、電気めっき等により形成される。
【0004】
上記内部電極を形成するための材料すなわち導電性ペースト用の金属材料として、従来は、パラジウム、銀−パラジウム、白金等が使用されていたが、高価な貴金属を用いるためにコスト的な問題いわゆるコスト性が悪いという問題があった。
【0005】
このため、近年では、そのコスト性を確保するために、ニッケル、銅等の卑金属を用いることが主流となってきている。しかしながら、これらの卑金属を用いた場合、焼成の際にセラミック基材と内部電極材料の熱収縮の相違に起因して発生するデラミネーションやクラック、および導電性粉末の酸化による電気的特性への悪影響が問題となる。このような問題はとくに電極を薄膜化した場合に生じやすい。
【0006】
一方、積層セラミックコンデンサは近年、高容量化・小型化のために、内部電極の薄層化が求められている。また、用途の拡大により、内部インダクタが小さく、高周波数特性ではたとえばGHzオーダーまで使用できる特性が求められている。
【0007】
たとえば、特許文献1には、Cuへ、Ag、Cr、Zrからなる群から選ばれた1または2以上の元素を含有させた銅合金粉末を用いることで焼結開始温度の上昇をはかる技術が開示されている。また、特許文献2には、表面の少なくとも一部にガラス質薄膜をコーティングすることで、銅の酸化を防止させる技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−131655号公報
【特許文献2】特開2005−286111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の銅合金粉末は、その焼結開始温度を純な銅粉のそれよりも高い500℃付近まで上昇させることができるが、一般的な誘電体セラミックの焼結開始温度である1000℃以上と比較すると十分とはいえない。
【0010】
特許文献2に記載の銅粉は、十分な耐酸化性を有するとの記載があるものの、使用されているガラス質の種類・物性から、良好な焼結特性は得られないと考えられる。
【0011】
このため、上記従来の技術に係る銅粉を用いた導電性ペースト用銅粉は、卑金属である銅を用いることによりコスト的な問題は克服されるものの、たとえば積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品の内部電極を形成するのに用いた場合に、デラミネーションやクラックの発生および電気的特性への悪影響を回避することができない。
【0012】
さらに、上記内部電極材料に用いる導電性ペースト用銅粉の製造方法としては、熱分解性の銅化合物と、熱分解して該金属と固溶しないガラス質を生成する酸化物前駆体とを含む溶液を微細な液滴にし、その液滴を該金属化合物の分解温度より高温で加熱することで、銅粉生成と同時にガラス質を該銅粉の表面近傍に析出させる熱分解法がある。しかし、この方法は、特別な設備および装置を必要とするため、コスト的に不利であるという問題があった。
【0013】
本発明は以上のような問題を鑑みたものであって、その目的は、コスト性にすぐれるとともに、耐酸化性に優れ、焼結開始温度が高く、電気的特性への悪影響を回避しながら、電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉およびその製造方法、並びに、導電性ペーストを提供することにある。
【0014】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するため、本発明者らが研究を行った結果、コスト性を確保しながら上述した特性上の要求を満たすためには、上記導電性ペースト用の金属材料として、電気抵抗が低い銅粉を用いることが肝要であることに想到した。さらに、当該銅粉において、焼結制御(高温まで焼結しない)が可能であるとともに、耐酸化性に優れ、微粒で分散性の良い粗粒を含まないものであることが求められることに想到した。
【0016】
さらに、本発明者らは、ゾル・ゲル法に着目して銅粉表面に金属酸化物をコーティングすることを種々試みた。そして、このようにして得られた無機コーティング膜をもつ銅粉は、当該皮膜なしの銅粉に比べて、酸化開始温度を高くすることが可能になるとともに、焼結開始温度も制御出来ることを知得した。
【0017】
以上の知得より、上記課題を解決する第1の発明は、
平均粒径が0.1μm以上、1.0μm以下であり、粒径2.0μm以上の粗粒の割合が0.01%以下である銅粉であって、
当該銅粉の表面に無機コーティング膜が施されていることを特徴とする導電性ペースト用銅粉である。
【0018】
第2の発明は、
上記無機コーティング膜が、SiOゲルコーティング膜であることを特徴とする第1の発明に記載の導電性ペースト用銅粉である。
【0019】
第3の発明は、
上記SiOゲルコーティング膜の厚みが、100nm以下であることを特徴とする第2の発明に記載の導電性ペースト用銅粉である。
【0020】
第4の発明は、
上記SiOゲルコーティング膜は、ガラス形成成分としてSi以外の元素Mの酸化物を含有し、Siに対するMの原子比(M/Si)で表記したとき、0.1≦(M/Si)≦0.5の範囲で含有していることを特徴とする第2または第3の発明に記載の導電性ペースト用銅粉である。
【0021】
第5の発明は、
元素Mが、Ba、P、B、Na、K、Pb、Zn、Al、Bi、Ti、Mg、Ca、SrおよびLiからなる群より選ばれた少なくとも1種以上のものであることを特徴とする第4の発明に記載の導電性ペースト用銅粉である。
【0022】
第6の発明は、
SEMによって観測される単体粒子の平均粒径(単体粒子径)に対し、レーザ回折によって観測される凝集粒子のd50粒径(凝集粒子径)の比(二次粒子径/一次粒子径)が、2.0以下であることを特徴とする第1〜第5の発明のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉である。
【0023】
第7の発明は、
大気中での酸化開始温度が200℃以上であることを特徴とする第1〜第6の発明のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉である。
【0024】
第8の発明は、
銅に対し5%以下のSiを含有し、そのSiの実質上すべてがSiOゲルコーティング膜として銅粒子表面に被着していることを特徴とする第1〜第7の発明のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉である。
【0025】
第9の発明は、
水溶性の有機溶媒中で、銅粉、オルガノシラン化合物および水を反応させてオルガノシランの加水分解物を生成させ、この生成物の懸濁液にゲル化剤を連続添加して縮合反応を行わせることにより、上記銅粉表面にSiOゲルコーティング膜を形成させ、次いで、固液分離して、SiOゲルコーティング膜を有する銅粒子を採取する導電性ペースト用銅粉の製造方法であって、
上記オルガノシランの加水分解生成物が生成した懸濁液もしくは生成途中または生成前の液に、ガラス形成性成分を溶解した水溶液を添加することを特徴とする導電性ペースト用銅粉の製造方法である。
【0026】
第10の発明は、
上記ゲル化剤としてアンモニアを用いることを特徴とする第9の発明に記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法である。
【0027】
第11の発明は、
第1〜第8の発明のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉を用いて作製されたことを特徴とする導電性ペーストである。
【発明の効果】
【0028】
コスト性にすぐれるとともに、焼結開始温度が高く、耐酸化性に優れ、電気的特性への悪影響を回避しながら電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉を得ることができる。
上記以外の作用/効果については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の導電性ペースト用銅粉について詳細に説明する。なお、本特許請求の範囲及び本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
本発明に係る導電性ペースト用銅粉は、平均粒径が0.1μm以上、1.0μm以下の範囲にあり、粒径2.0μm以上の粗粒の割合が0.01%以下である銅粉の粒体表面に無機コーティング膜が施されたものである。
【0030】
本発明の導電性ペースト用銅粉には平均粒径が0.1μm以上、1.0μm以下の範囲にある銅粉を用いるが、これは、積層セラミックコンデンサの高容量化・小型化のために必要な内部電極の薄層化(近年では、層厚み2.0μm以下)を実現する上で必要であることによる。
【0031】
さらに、本発明では、平均粒径が0.1μm以上、1.0μm以下の範囲にあることに加えて、粒径2.0μm以上の粗粒の割合が0.01%以下であり、且つ、粒体表面に無機コーティング膜が施された銅粉を用いる。これは、内部電極の薄層における粗粒の存在が、内部電極と誘電体セラミックグリーンシートを積層させた際に、誘電体層を突き破って絶縁不良を引き起こす不具合解消のために必要であることによる。
【0032】
以上のことより、当該導電性ペースト用銅粉は、コスト性にすぐれるとともに、焼結開始温度が高く、耐酸化性に優れ、電気的特性への悪影響を回避しながら電極の薄膜化を可能にした導電性ペースト用銅粉を得ることができ、これにより、導電性ペーストを用いて作製される積層セラミック電子部品等の高性能化・小型化に大きく寄与することができる。
【0033】
特に、上記無機コーティング膜がSiOゲルコーティング膜であると、金属酸化物をコーティングするのに、ゾル・ゲル法の手法を用いて銅粉表面に無機コーティング膜を施すことが出来、好ましい。さらに、このようにして得られたSiOゲルコーティング膜をもつ銅粉は、当該皮膜なしの銅粉に比べて、酸化開始温度を100℃〜200℃程度高くすることが可能になるとともに、焼結開始温度も1000℃以上へと上昇することを見出した。
つまり、オルガノシラン化合物由来の加水分解性生物の薄膜層を銅粒子表面にシロキサン結合で被着させたあと、触媒などによって縮合反応を行わせることにより、銅粒子表面に均一な極薄のSiOゲルコーティング膜を湿式法で生成できることを見出したものである。
【0034】
また、上記SiOゲルコーティング膜の厚みが20nmあれば、上述の効果を得ることが出来る。さらに、ゲルコーティング膜が厚くなっても100nm以下であれば、銅粉同士が凝集を起こす事態を回避することが出来る。
【0035】
さらに、SiOゲルコーティング膜に適切なガラス形成性成分を含有させることにより、ガラス形成性成分含有のSiOゲルコーティング膜付の銅粉を作製し、これをビヒクル中に分散させて導電性ペーストを作製することで、焼結性を制御できることも判明した。
【0036】
このガラス形成成分の添加は、当該成分の水酸化物、酸化物、無機酸塩、オキソ酸または、オキソ酸塩を溶解した溶液を使用して行うのがよい。ガラス形成成分としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、両性金属、あるいはオキソ酸形成可能な元素が挙げられる。
【0037】
ガラス形成性成分の添加量としては、添加に使用する元素をMと表記とした場合に、そのMのSiに対するMの原子比を(M/Si)で表記したとき、0.1≦(M/Si)≦0.5の範囲とするのが望ましい。
【0038】
原子比(M/Si)が0.1以上ではガラスとの濡れ性が十分となり、0.7以下であればガラスの結晶化を回避出来るからである。原子比(M/Si)を0.5以下とすることは、さらに好ましい。
【0039】
本発明で使用するガラス形成性成分は、Ba、B、P、Na、K、Pb、Zn、Al、Bi、Mg、Ca、SrおよびLi、またはこれら元素を任意に組合せたものを使用できる。このようなガラス形成性成分は、銅粉をフィラーとした導電性ペーストを焼成する際にガラス化しやすい成分であり、これらを添加することで銅粉の焼結開始温度を制御することができる。
【0040】
アルカリ金属としてはLi、Na、Kが挙げられる。アルカリ土類金属としては、Ca、Sr、Baがあるが、ガラス化範囲は、SiOとBaOの組み合わせが、SiOとCaOまたはSrOの組み合わせよりも広い。このため、Baでは焼成時にガラスの結晶が起こりにくい。したがって、アルカリ土類金属の中ではBaの使用が好ましい。
【0041】
両性金属としては、Al、Zn、Pb、Bi、Mgが挙げられるが、本発明では、毒性や環境負荷の低いAl、ZnまたはMgが好ましい。
【0042】
オキソ酸形成可能な元素としてはP、Bが挙げられるが、とくにPとBは、SiOと混ざり合ってガラスを形成しやすい性質があり、ガラスと金属の濡れ性を向上させることができるので好適である。
【0043】
また、上述した粗粒の存在と同様に、凝集粒子の存在も上記内部電極の形成に悪影響を及ぼす。そこで、上記内部電極を形成するのに用いられる導電性ペースト作製に用いる銅粉は、一次粒子(単体粒子)だけが個々に存在している形態の方が望ましい。
【0044】
具体的には、SEMによって観測される単体粒子(一次粒子)の平均粒径(単体粒子径)に対し、レーザ回折(Helos)によって観測される凝集粒子(二次粒子)のd50粒径(凝集粒子径)の比(二次粒子径/一次粒子径)が、2.0以下であることが望ましい。
【0045】
この比(二次粒子径/一次粒子径)は凝集度合いを表現する指標であって、この比が2.0より大きい値であれば凝集が激しく、内部電極の形成に悪影響を及ぼす。
安定な内部電極を形成させるために、上記比(二次粒子径/一次粒子径)は2.0以下が好ましいが、1.5以下ならばさらに好ましい。
【0046】
以上の構成により、本発明に係る導電性ペースト用銅粉の大気中での酸化開始温度を200℃以上とすることが出来た。そして、後工程の脱バインダー工程おいて、導電性ペースト中の樹脂や溶剤を気化させる為、200〜300℃の温度で加熱された際に、望まれない銅粉の酸化を回避することが可能になった。
この結果、
(1)銅粉の酸化が回避出来るので、当該銅粉の焼結性、メッキ液への耐食性、導電性への悪影響をなくすことが出来る、
(2)脱バインダー工程における脱酸素操作が不要になるので、脱バインダー工程自体が簡略化され、生産性が向上すると伴に、生産コストの削減が出来る、
等の、効果を得ることが出来た。
【0047】
以下、本発明に係る導電性ペースト用銅粉の製造方法について説明する。
(銅粉の製造)
本発明として用いられるSiOゲルコーティング膜を被着させる前の銅粉(無垢銅粉)としては、その粉末製法がとくに限定されることはないが、容易に微粒粉末の製造が可能で、コスト・量産に有利である化学還元法により製造されたものを用いることが望ましい。
【0048】
また、SiOゲルコーティング膜の被着前後で、ペースト作製の条件や用途に応じて、形変化処理(化学還元法によって作製された銅粉に特有の角張った形状の角を取る処理。ペーストの粘度に影響)、分散処理、分級処理を実施してもよい。
【0049】
一般的に内部電極用の導電性ペーストを製造する際は、ペースト化する導電粉(銅粉)中に上記不具合を引き起こしそうな粗粒が含まないようにフィルターを用いて濾過するが、その粗粒がたとえば数%存在すると、目詰まりによる生産性、収率の悪化を伴う。このことから、好ましくは、2.0μm以上の粗粒の割合は0.01%以下とすることが望ましい。
【0050】
(銅粉への無機膜コーティング)
以下、上記SiOゲルコーティング膜へのガラス形成性成分の添加について説明するが、その要旨とするところは、前記のように水溶性の有機溶媒中で、銅粉、オルガノシラン化合物および水を反応させてオルガノシランの加水分解生成物を生成させ、得られた懸濁液にゲル化剤を連続添加して銅粉の粒子表面にSiOゲルコーティング膜を形成させ、次いで、固液分離してSiOゲルコーティング膜を有する銅微粒子を採取する銅粉の製造法であって、上記オルガノシランの加水分解生成物が生成した懸濁液もしくは生成途中または生成前の液に、ガラス形成性成分を溶解した水溶液」を添加することによって、生成するSiOゲルコーティング膜中にガラス形成性成分を含有させるものである。
【0051】
すなわち、ここで説明する方法では、オルガノシランの加水分解生成物(ゾル)が生成した懸濁液、またはゾルの生成途中もしくはゾルの生成前の液に、ガラス形成性成分を溶解した水溶液を添加する点に特徴がある。
【0052】
その際、上記ゾルが生成した懸濁液に対して、ガラス形成性成分を溶解した水溶液を添加する場合には、ゲル化剤の添加前にガラス形成性成分を添加してもよい。この場合、ゲル化剤にガラス形成性成分を含有させた状態で添加することもできる。
【0053】
ガラス形成性成分を水溶液の形態で添加してゲル化剤(アンモニア)でゲル化を進行させると、生成するゲル中にガラス形成性成分の酸化物が取り込まれ、ガラス形成性成分を一様に含有したSiOゲルコーティング膜が銅粒子の表面に形成される。
【0054】
以下、銅粉の粒体表面に無機コーティング膜を設ける製法について、ゾル・ゲル法を用い、SiOゲルコーティング膜を形成する場合を例として、より具体的に説明する。
【0055】
平均粒径が0.1〜1.0μmの銅粉に対して、その粉体粒子表面にオルガノシラン化合物の加水分解・縮合のゾル・ゲル反応を有機溶媒中で進行させると、膜厚が薄くて均一なSiOゲルコーティング膜を形成できる。
具体的には、まず、ゾルの加水分解を行うために、水溶性の有機溶媒たとえばイソプロピルアルコール中で銅粉、オルガノシラン化合物および水を反応させる。
【0056】
有機溶媒としては、加水分解を進行させるゾル媒体として機能するためにも、水を溶解するものが好ましくて、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサンなどがあげられる。
【0057】
オルガノシランとしては、たとえば一般式R4−aSi(ORで表されるアルコキシシラン(Rは1価の炭化水素基、Rは炭素数1〜4価の1価の炭化水素基、aは3〜4)が好適であり、代表的なものとしては、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシランなどがあげられる。
【0058】
アルコキシシランの加水分解反応を上記有機溶媒中の銅粉表面で行わせるためには、先ず、銅粉を有機溶媒に入れて撹拌して懸濁させておく。その中にアルコキシシランを添加する。次に、加水分解に供される水(純水)を添加する(あるいは純水添加したあとでアルコキシシランを添加する)。このような操作手順を経てから、加水分解・縮合反応を促進させるアルカリ触媒、たとえばアンモニア水を連続添加すると良い。
【0059】
これによって、先ず、銅粉表面にはシロキサン結合によってアルコキシシランが付着し、そのアルコキシシランが銅粉表面で加水分解し、縮合反応して(ゲル化して)SiOの均一な皮膜が銅粒子表面に形成される。
【0060】
一般にゾル・ゲル反応の触媒には酸またはアルカリが用いられるが、銅粉粒子にSiOゲルコーティング膜を形成する場合には、アンモニアが触媒として最も適していることが本発明者らにより知得された。
【0061】
塩酸、硫酸、燐酸などの酸では耐酸化性が十分なゲルコーティング膜が得られないが、アンモニアを用いた場合には、良好な耐酸化特性をもつゲルコーティング膜が得られる。これに加えて、アンモニアは不純物を含まない高純度のものを低コストで入手可能であり、その揮発除去も簡単であるという利点がある。
【0062】
上記縮合反応は、アンモニア水を連続添加したあと、所定温度で所定時間熟成することによって進行させることが望ましい。熟成する間の液温としては20〜60℃が好適である。
【0063】
SiOゲルコーティング膜の膜厚は一般的にアルコキシシラン量、液温、保持温度に依存するので、これらを調整することによって、均一な厚みのSiOゲルコーティング膜の薄膜を銅粒子表面に形成させることができる。
【0064】
上述したように、粗粒の存在と同様に、凝集粒子の存在も上記内部電極の形成に悪影響をおよぼす。そこで、上記内部電極を形成するのに用いられる導電性ペースト作製に用いる銅粉は、一次粒子(単体粒子)だけが個々に存在している形態の方が望ましい。
【0065】
ここで、アンモニア触媒の使用にあたっては、連続的に反応系に添加することによって、SiOゲルコーティング膜付き銅粉の凝集を防止できることがわかった。仮に凝集したとしても、反応系に超音波を付与すると良好に分散して少なくとも原料銅粉と同程度までは分散させることができる。
【0066】
このようにして、銅粉表面に均一な膜厚のSiOゲルコーティング膜を形成できるが、このコーティング膜による導電性への影響については、コーティング膜のSiO量が銅に対して10%を越えると大きくなることが判明した。したがって、コーティング膜は、そのコーティング膜中のSiO量が10%以下となるように形成することが望ましい。
【0067】
また、コーティング膜量が多くなると銅粒子の凝集が激しくなる傾向が現れるので、コーティング膜量はそれ以下とするのがよく、Si量で言えば5%以下であるのがよい。すなわち、5%以下のSiを含有した銅粉であって、そのSiの実質上すべてが、SiOゲルコーティング膜として銅粒子表面に被着しているのがよい。
【0068】
ここで、Siの「実質上」すべてとは、SiO以外にも少量のSiが皮膜中に不可避的に残存してもよいという意味であり、たとえば製造上の理由によりSiの一部がアルコキシシランの残留物として皮膜中に不可避的に残存しても、SiO以外のSi酸化物として少量存在してもその量が僅かであれば、とくに悪影響を与えることはない。
【0069】
このようにして、ゾル・ゲル法により銅粉表面にSiOゲルコーティング膜を施すことができ、これによって銅粉と耐酸化性と焼結性を向上させることができるが、このゾル・ゲル法によるSiOゲルコーティング膜を施す過程で適切なガラス形成性成分を当該ゲルコーティング膜に含有させるようにすると、良好な耐酸化性を維持しながら、焼結特性(焼結温度の制御性)を向上させることができる。
【0070】
なお、銅粉表面のSiOゲルコーティング膜については、これをガラス化するための処理はとくに必要ではない。SiOゲルコーティング膜は、これを、200℃を超える或る温度に加熱するとガラス化することができるが、このようなガラス化のための熱処理を行わなくても、ゲルコーティング膜のままにしておいて導電性ペーストに要求されるに十分な耐酸化性・焼結性を有している。
【0071】
むしろ、ガラス化のための熱処理を行うと、コーティング膜に亀裂が発生したりゲルコーティング膜が収縮して銅粒子の表面が露出したりして、却って耐酸化性を阻害したり焼結特性に悪影響を与えることになるので、本発明にとっては好ましいことではない。
【0072】
(導電性ペーストの製造)
本発明に係る導電性ペースト用銅粉用銅粉を用いて、導電性ペーストを製造するのは公知の方法を用いて製造することが出来る。
製造された本発明に係る導電性ペーストは、コスト性にすぐれるとともに、焼結開始温度が高く、耐酸化性に優れ、電気的特性への悪影響を回避しながら電極の薄膜化を可能とする。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0074】
〔実施例1〕
(1)銅粉の作製:
特級試薬の固体硝酸銅を含有銅換算で2.29mol計量し、純水1100gに溶解させた。さらに、この硝酸銅水溶液にクエン酸水溶液を加えて混合した。クエン酸水溶液は、硝酸銅に対して0.15mol%のクエン酸を純水700gに溶解させたものである。この混合液をA液とする。
【0075】
一方、攪拌機が備え付けられた5Lビーカー内に苛性ソーダ水溶液を準備した。苛性ソーダ水溶液は、硝酸銅に対し1.14当量分の苛性ソーダを計量し、これに純水700gを添加して希釈させた後、十分に窒素抜気して溶存酸素濃度を0%としたものである。
【0076】
ビーカー内の苛性ソーダ水溶液を27℃に保ったところに、上記A液を添加し、350rpmの回転数で攪拌しながら、水酸化銅を生成させた後、水和ヒドラジン溶液を加え、70℃に昇温させた後、2時間保持して亜酸化銅を生成させた。これにより亜酸化銅スラリー溶液が作製された。水和ヒドラジン溶液は、銅イオン還元分に対して1.0当量分の80%水和ヒドラジンを秤量し、これに純水700gに希釈して作製した。
【0077】
上記亜酸化銅スラリー溶液に、銅イオン還元分に対して3.0当量分の80%水和ヒドラジンを添加した後、90℃に昇温して銅粉末スラリー溶液を得た。この溶液を固液分離したのち、純水にて十分に水洗し、窒素雰囲気中にて、110℃で6時間乾燥させて銅粉を得た。得られた銅粉を以下の項目について評価した。
【0078】
粒度分布(SYMPATEC社 HELOS&RODOS−KF)、化学組成分析、比表面積(BET法 ユアサオイオニクス社 4ソーブ)、TAP密度(同和法)、SEM径、2.0μm以上の粗粒評価、焼結開始温度(ULVAC社 TM7000)、酸化開始温度(セイコーインスツルメンツ社 TG/DTA 6300)、後述するゲルコーティング膜厚。その測定結果は表1,2に示し、さらに図1に示す。
【0079】
上記測定において、2.0μm以上の粗粒評価方法は、得られた銅粉5.0gをアセトン500g中に超音波を照射しながら20分間分散させた後、捕集粒子が2.0μm以上の焼結金網フィルターの中へ注いで濾過させた。
【0080】
この際、焼結金網フィルターの濾液側にアセトン溶媒(3Lビーカーに入れたもの)が接触するようにセットし、超音波をかけて銅粉がフィルターを通過しなくなるまで実施した後、焼結金網フィルター上に残った銅粉量を計量することで求めた。
【0081】
焼結開始温度は、銅粉1.0gと有機ビヒクル数滴を混合して円柱状に成型する。この成型体を鉛直方向にし、かつ円柱の軸方向に加重を付与した状態で昇温炉に装填し、窒素雰囲気中で、常温から1000℃まで昇温速度10℃/minで連続的に昇温しながら、成型体の高さ変化(収縮・膨張の変化)を自動記録する。そして、成型体の高さ変化(収縮)が始まり、その収縮率が0.5%達したところの温度を「焼結開始温度」とした。
【0082】
酸化開始温度の測定は、空気中での示差熱分析計(TG)で行った。酸化開始温度とは、「示差熱分析計において、サンプル銅粉の重量が初期値から0.5%増加したときの温度」と定義した。
【0083】
ゲルコーティング膜厚は、実施例・比較例で得られた銅粉の20万倍のTEM写真から膜厚を3点で測定し、その平均値より求めた。SEM径は、3視野2万倍で観測した粒子500個のフェレ径の平均より算出した。
尚、フェレ径とは、粒子径を定義する統計的径の一つであって、当該粒子を挟む2本の平行線間の距離で定義される定方向接線径のことである。
【0084】
(2)SiOゲルコーティング膜の被着:
(1)で作製した銅粉100gを、500mLビーカーにイソプロピルアルコール250gと純水34gを混合した溶液中に分散させた。これを、窒素雰囲気中で、640rpmの回転数で攪拌した。酸素濃度がゼロになるのを確認した後、40℃に昇温した。これにテトラエトキシシランを12.3g添加して5分間熟成させた。
【0085】
この溶液に、20.5%のアンモニア水33gを45分間かけて添加した(約0.73g/minの速度)。60分間熟成した後、スラリーを固液分離し、窒素雰囲気中にて、110℃で6時間乾燥させることより、SiOゲルコーティング膜が被覆された銅粉を得た。
【0086】
この銅粉の評価については、前述した測定項目・方法で実施した。その測定結果は表1、2に示し、さらに図1に○と実線で示す。
【0087】
〔実施例2〕
(1)Ba−Bを添加したSiOゲルコーティング膜の被着:
実施例1の(1)と同じ方法で作製した銅粉100gを、500mLビーカーにイソプロピルアルコール250gを計量した溶液中へ分散させた。
【0088】
これを、窒素雰囲気中で、640rpmの回転数で攪拌した。酸素濃度がゼロになるのを確認した後、40℃に昇温した。これに、34gの純水に1.4gのホウ酸と水酸化バリウム・8水和物0.2gを溶解させた水溶液を添加した。
【0089】
この溶液にテトラエトキシシランを12.3g添加して5分間熟成させた。さらに、この溶液に20.5%のアンモニア水33gを45分間かけて添加した(約0.73g/minの速度)。60分間熟成した後、スラリーを固液分離し、窒素雰囲気中にて、110℃で6時間乾燥させることにより、SiOゲルコーティング膜が被覆された銅粉を得た。
【0090】
この銅粉の評価については、実施例1と同様に実施した。その測定結果は表1,2に示し、さらに図1に□と1点鎖線で示す。
【0091】
〔実施例3〕
(1)SiOゲルコーティング膜の被着(膜厚変更):
実施例1の(1)と同じ方法で作製した銅粉100gを、500mLビーカーにイソプロピルアルコール250gと純水34gを混合した溶液中に分散させた。このあと、窒素雰囲気中で、640rpmの回転数で攪拌した。酸素濃度がゼロになるのを確認した後、40℃に昇温した。これにテトラエトキシシランを6.2g添加して5分間熟成させた。
【0092】
この溶液に20.5%のアンモニア水33gを45分間かけて添加した(約0.73g/minの速度)。60分間熟成した後、スラリーを固液分離し、窒素雰囲気中にて、110℃で6時間乾燥させることにより、SiOゲルコーティング膜が被覆された銅粉を得た。
【0093】
このようにして得られた銅粉の評価については、実施例1と同様に実施した。その測定結果は表1,2に示し、さらに図1に△と2点鎖線で示す。
【0094】
〔比較例1〕
実施例1と同様だが、SiOゲルコーティング工程を省いて銅粉を作製した。
このようにして得られた銅粉の評価については、実施例1と同様に実施した。その測定結果は表1,2に示し、さらに図1に◇と破線で示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
以上の結果から、実施例1,3では、1000℃まで焼結しない、耐酸化性に優れた銅粉を得ることが出来た。また、SiOゲルコーティング膜の被着による凝集と、2.0μm以上の粗粒分の増加は、どちらも見られなかった。
【0098】
実施例2では、比較例1、実施例1に対し、耐酸化性を保持したまま、焼結開始温度を低温度側へ制御することができている。
【0099】
現状は、誘電体セラミックの焼結開始温度が1000℃以上であることから、実施例1,3を用いることで、内部電極と誘電体の同時焼成の際にセラミック基材と内部電極材料の熱収縮の相違に起因して発生するデラミネーション、クラック、および導電性粉末の酸化による電気的特性への問題を解決できる。
【0100】
今後、誘電体の焼結開始温度が1000℃以下の低温度側へシフトして行った場合には、実施例2のような耐酸化性を保持したまま、焼結開始温度を制御できるものが有用になると考えられる。
【0101】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様や応用が可能である。たとえば、本発明による導電性ペースト用銅粉は、積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品においてその内部電極の形成に用いてとくに有効であるが、上記以外にも好適に適用可能である。
【0102】
たとえば、積層セラミックインダクタのコイル導体パターン、あるいはセラミック基板を用いたマイクロストリップラインやマイクロ波アンテナ等の導体パターン形成にも好適に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
コスト性にすぐれるとともに、焼結開始温度が高く、耐酸化性に優れ、電気的特性への悪影響を回避しながら電極の薄膜化を可能にした導電性ペースト用銅粉を得ることができ、これにより、導電性ペーストを用いて作製される積層セラミック電子部品等の高性能化・小型化に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】実施例および比較例に係る導電性ペースト用銅粉の熱収縮挙動を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.1μm以上、1.0μm以下であり、粒径2.0μm以上の粗粒の割合が0.01%以下である銅粉であって、
当該銅粉の表面に無機コーティング膜が施されていることを特徴とする導電性ペースト用銅粉。
【請求項2】
上記無機コーティング膜が、SiOゲルコーティング膜であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項3】
上記SiOゲルコーティング膜の厚みが、100nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項4】
上記SiOゲルコーティング膜は、ガラス形成成分としてSi以外の元素Mの酸化物を含有し、Siに対するMの原子比(M/Si)で表記したとき、0.1≦(M/Si)≦0.5の範囲で含有していることを特徴とする請求項2または3に記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項5】
元素Mが、Ba、P、B、Na、K、Pb、Zn、Al、Bi、Ti、Mg、Ca、SrおよびLiからなる群より選ばれた少なくとも1種以上のものであることを特徴とする請求項4に記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項6】
SEMによって観測される単体粒子の平均粒径(単体粒子径)に対し、レーザ回折によって観測される凝集粒子のd50粒径(凝集粒子径)の比(二次粒子径/一次粒子径)が、2.0以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項7】
大気中での酸化開始温度が200℃以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項8】
銅に対し5%以下のSiを含有し、そのSiの実質上すべてがSiOゲルコーティング膜として銅粒子表面に被着していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項9】
水溶性の有機溶媒中で、銅粉、オルガノシラン化合物および水を反応させてオルガノシランの加水分解物を生成させ、この生成物の懸濁液にゲル化剤を連続添加して縮合反応を行わせることにより、上記銅粉表面にSiOゲルコーティング膜を形成させ、次いで、固液分離して、SiOゲルコーティング膜を有する銅粒子を採取する導電性ペースト用銅粉の製造方法であって、
上記オルガノシランの加水分解生成物が生成した懸濁液もしくは生成途中または生成前の液に、ガラス形成性成分を溶解した水溶液を添加することを特徴とする導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項10】
上記ゲル化剤としてアンモニアを用いることを特徴とする請求項9に記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉を用いて作製されたことを特徴とする導電性ペースト。

【図1】
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