説明

導電性ポリマー溶液の製法

【課題】MEK,トルエン等の汎用の有機溶剤に可溶で、導電性に優れるとともに、溶解安定性にも優れた導電性ポリマーを得ることができる、導電性ポリマー溶液の製法を提供する。
【解決手段】溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤中に、下記の(A)成分を溶解した後、(B)成分と(C)成分とを添加し、これらを乳化させて上記(B)成分のモノマー中に上記(A)成分に由来するスルホン酸構造を導入した後、このスルホン酸構造が導入された上記(B)成分のモノマーを重合する導電性ポリマー溶液の製法を提供する。
(A)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマーであって、数平均分子量が4千〜10万で、かつ、スルホン酸官能基量が0.3〜0.5mmol/gであるπ電子非共役系ポリマー。
(B)アニリン、メチルアニリンおよびメトキシアニリンからなる群から選ばれた少なくとも一つのモノマー。
(C)0.3〜3Nの酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマー溶液の製法に関するものであり、詳しくは、電気、電子、材料等の諸分野において、高分子材料表面の導電性化や各種絶縁材料の導電性化、もしくは金属材料の表面被覆等に有用な導電性ポリマー溶液の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール等の芳香族系の導電性高分子は、空気中における安定性に優れ、また合成も容易であることから、その活用が注目されている。例えば、これら導電性高分子の中でも、ポリアニリンは、空気中における安定性に特に優れ、また安価な材料であるため、二次電池の正極材料として実用化されている。
【0003】
しかし、従来、上記ポリアニリン等の芳香族系の導電性高分子は、溶媒に不溶、不融であるため、成形性に劣り、その応用分野は限られていた。このため、溶解性の良好な導電性高分子の実現が求められていた。
【0004】
そこで、本発明者は、界面活性剤構造を持ったアニリンを重合してなるポリアニリンが、水や有機溶剤に可溶であることを突き止め、このポリアニリンについてすでに特許出願をしている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、本発明者は、さらに研究を続けた結果、上記ポリアニリンは、メチルエチルケトン(MEK)のようなケトン系溶剤や、トルエンのような芳香族系溶剤への分散(溶解)性に対する要求に充分に応えられず、求められるような均一溶液になりにくいということを突き止めた。
【0006】
そこで、本発明者は、これらの問題を解決するため、鋭意研究を続けた結果、界面活性剤構造を有する導電性ポリアニリンの溶液であって、上記界面活性剤構造を形成するために用いられる界面活性剤が、分子構造中に、アルキレンエーテルの繰り返し構造を有する導電性ポリアニリンの溶液により、上記問題を解決できることを突き止め、このような導電性ポリアニリン溶液について、先に特許出願した(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−279584号公報
【特許文献2】特開2003−277500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の導電性ポリアニリン溶液について、さらに研究を続けた結果、導電性ポリアニリンの溶液を所定時間、例えば、1週間程度放置すると、ポリアニリンの沈殿物が生じる傾向にあることを突き止めた。この沈殿を生じたポリアニリンは、再溶解がやや難しく、したがって、導電性ポリアニリンは、その溶解安定性にやや劣るという傾向がみられる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、汎用の有機溶剤に可溶で、導電性に優れるとともに、溶解安定性にも優れた導電性ポリマーを得ることができる、導電性ポリマー溶液の製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の導電性ポリマー溶液の製法は、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤中に、下記の(A)成分を溶解した後、(B)成分と(C)成分とを添加し、これらを乳化させて上記(B)成分のモノマー中に上記(A)成分に由来するスルホン酸構造を導入した後、このスルホン酸構造が導入された上記(B)成分のモノマーを重合するという構成をとる。
(A)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマーであって、数平均分子量が4千〜10万で、かつ、スルホン酸官能基量が0.3〜0.5mmol/gであるπ電子非共役系ポリマー。
(B)アニリン、メチルアニリンおよびメトキシアニリンからなる群から選ばれた少なくとも一つのモノマー。
(C)0.3〜3Nの酸。
【0010】
すなわち、本発明者らは、汎用の有機溶剤に可溶で、導電性に優れるとともに、溶解安定性にも優れた導電性ポリマーを得るため、鋭意研究を重ねた。そして、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする特定の溶剤中に、特定の数平均分子量およびスルホン酸官能基量に設定された特定のπ電子非共役系ポリマーを予め溶解した後、そこにアニリン、メチルアニリン、メトキシアニリンからなる群から選ばれた少なくとも一つのモノマーと、特定濃度の酸とを添加し、これらを攪拌して乳化させることを想起した。このようにすると、上記特定のモノマー中に、上記π電子非共役系ポリマーのスルホン酸構造が導入(ドーピング)され、その後、このスルホン酸構造が導入(ドーピング)された上記モノマーを重合すると、上記特定のπ電子非共役系ポリマーから誘導される部分(特定のπ電子共役系ポリマーから構成される部分)が、スルホン酸イオンを介して、上記モノマーの重合体(導電性ポリマー)のイオン性部分と強固に結合(イオン結合)するようになると考えられる。すなわち、アニリン等のモノマーの重合体(ポリアニリン等)の「−NH+ 」のようなイオン性部分と、π電子非共役系ポリマーのスルホン酸官能基の「SO3 - 」イオンとがイオン結合し、ポリアニリン等とπ電子共役系ポリマーとが強固に結合すると考えられる。その結果、得られる導電性ポリマーは、溶解安定性に優れるとともに、有機溶剤に可溶で、導電性にも優れるようになる。しかも、それを湿熱(高湿高温)環境に放置した場合でも、上記強固な結合(イオン結合)によって、導電性ポリマーの凝集現象が殆どみられず、湿熱環境での電気抵抗の変化が少なく、湿熱環境での安定性にも優れるようになる。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明の導電性ポリマー溶液の製法によると、上記特定のπ電子非共役系ポリマーから誘導される部分が、スルホン酸イオンを介して、上記モノマーの重合体(導電性ポリマー)のイオン性部分と強固に結合(イオン結合)するようになると考えられる。その結果、得られる導電性ポリマーは、溶解安定性に優れるとともに、有機溶剤に可溶で、導電性にも優れるようになる。しかも、それを湿熱環境に放置した場合でも、上記強固な結合(イオン結合)によって、導電性ポリマーの凝集現象が殆どみられず、湿熱環境での電気抵抗の変化が少なく、湿熱環境での安定性にも優れるようになる。なお、本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液は、少量の有機溶剤で導電性ポリマーを溶解でき、厚塗りが可能になるため、例えば、この導電性ポリマー溶液を用いて導電性薄膜を作製した場合には、有機溶剤の乾燥時間を短縮できる等の利点がある。
【0012】
そして、上記特定濃度の酸(C成分)の混合割合が、上記特定のモノマー(B成分)1モルに対して、1.0〜30モルの範囲であると、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)と、上記のモノマー(B成分)の重合体との相溶性(溶解性)が良好になることと、イオン結合が強固になり、湿熱環境での安定性が優れるようになる。
【0013】
また、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)の上記溶剤に対する溶解度が15%以上であると、本発明の製法により得られる導電性ポリマーの溶解性が増し、厚塗りが可能になるとともに、乾燥時間の短縮も可能になる。
【0014】
また、上記溶解性パラメーターが8.0〜10. 0である溶剤が、芳香族系溶剤およびケトン系溶剤の少なくとも一方の溶剤であると、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)への溶解性が高く、特定濃度の酸(C成分)を混合攪拌する時の乳化が微細になり、均一で強固なスルホン酸基を導入することができるとともに、均一な重合反応が可能になるという効果が得られる。
【0015】
また、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)が、ウレタンエラストマーであると、溶剤への溶解性を保つことが容易となり、上記特定のモノマー(B成分)と、強固な結合(イオン結合)を形成しやすいため、湿熱環境での安定性がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
本発明の導電性ポリマー溶液の製法は、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤中に、下記の(A)成分を溶解した後、(B)成分と(C)成分とを添加し、これらを乳化させて上記(B)成分のモノマー中に上記(A)成分に由来するスルホン酸構造を導入した後、このスルホン酸構造が導入された上記(B)成分のモノマーを重合するという構成をとる。
(A)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマーであって、数平均分子量が4千〜10万で、かつ、スルホン酸官能基量が0.3〜0.5mmol/gであるπ電子非共役系ポリマー。
(B)アニリン、メチルアニリンおよびメトキシアニリンからなる群から選ばれた少なくとも一つのモノマー。
(C)0.3〜3Nの酸。
【0018】
本発明では、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤を用い、かつ、数平均分子量およびスルホン酸官能基量がそれぞれ特定の範囲に設定された、特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)をドーパントとして用いるとともに、特定の酸(C成分)を併用し、B成分の重合時に効率的にA成分をドーピングするのであって、これらが最大の特徴である。
【0019】
ここで、主成分とするとは、上記の溶解性パラメーターを有する溶剤が、溶剤全体の少なくとも60重量%を占めることをいい、溶剤全体が上記パラメーターを有する溶剤で占められていてもよい。
【0020】
また、本発明において、スルホン酸官能基とは、スルホン酸基およびスルホン酸塩基(スルホン酸ナトリウム塩基,スルホン酸カリウム塩基等のスルホン酸金属塩基や、スルホン酸アンモニウム塩基等)からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基をいう。そして、このスルホン酸官能基は、導入されたモノマー中において、スルホン酸構造(スルホン酸金属塩構造,スルホン酸アンモニウム塩構造等)を形成する。
【0021】
上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)は、数平均分子量(Mn)が4千〜10万で、かつ、スルホン酸官能基量が0.3〜0.5mmol/gである必要があり、好ましくは数平均分子量(Mn)が3万〜7万で、スルホン酸官能基量が0.35〜0.45mmol/gの範囲内である。すなわち、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)の数平均分子量(Mn)が4千未満であると、エラストマーとしての物性が低下し、逆に10万を超えると、溶剤への溶解性が低下し、または合成時の増粘により、上記特定のモノマー(B成分)へのスルホン酸構造の導入が行いにくくなるからである。また、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)のスルホン酸官能基量が0.3mmol/g未満であると、上記特定のモノマー(B成分)へのスルホン酸構造の導入が行いにくくなるため、湿熱環境での安定性の効果が不充分となり、また、上記特定のモノマー(B成分)のみが重合して沈殿が生じるからである。逆に、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)のスルホン酸官能基量が0.5mmol/gを超えると、溶剤への溶解性の低下を引き起こすからである。
【0022】
なお、上記数平均分子量の測定は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行うことができる。
【0023】
また、上記スルホン酸官能基量の測定は、例えば、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)をフラスコで燃焼させ、イオンクロマトグラフ法でイオウ元素量を求め、これをスルホン酸官能基量として換算することにより求めることができる。
【0024】
また、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)は、上記溶剤に対する溶解度が15%以上であることが好ましく、特に好ましくは30%以上である。
【0025】
ここで、本発明において、π電子非共役系ポリマーとは、単結合と多重結合とが交互に連なったπ電子共役系ポリマー以外のポリマーを意味する。
【0026】
上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)としては、数平均分子量(Mn)およびスルホン酸官能基量が上記特定の範囲内のものであれば特に限定はなく、例えば、スルホン酸官能基を有するウレタンエラストマー、スルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー、スルホン酸官能基をもつエラストマー(イソブチレンゴム,スチレン系エラストマー,ニトリルゴム(NBR)等にスルホン酸基を付与したもの)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、湿熱安定性、溶解性の点から、スルホン酸官能基を有するウレタンエラストマーが好適に用いられる。
【0027】
上記スルホン酸官能基を有するウレタンエラストマーとしては、ポリエステル系,ポリカーボネート系,ポリエーテル系等の従来公知のウレタン骨格に、スルホン酸官能基を導入したものであれば特に限定はなく、例えば、酸成分とグリコール成分とを反応させて得たポリオール,もしくはポリカーボネートジオールと、有機ジイソシアネートとを反応させることにより得ることができる。
【0028】
上記ポリオールの酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、ドデシニルコハク酸等の脂肪族二塩基酸や、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)メタン、2,2ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)プロパン等の脂環族二塩基酸や、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、分散性の点で、アジピン酸、セバシン酸、ドデシニルコハク酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸が好適に用いられる。また、全酸成分中の所定の範囲(好ましく、20〜50モル%の範囲)で、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸を共重合させることが好ましい。
【0029】
また、上記ポリオールのグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル、2′,2′−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等の脂肪族系グリコールや、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等の脂環族系グリコール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル、2′,2′−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。また、全グリコール成分中の所定の範囲で、2−ナトリウムスルホ−1,4ーブタンジオール、2−ナトリウムスルホ−1,6−ヘキサンジオール等のスルホン酸金属塩含有グリコールを共重合させることが好ましい。
【0030】
上記ポリカーボネートジオールとしては、例えば、ジオールと、ジアルキルカーボネート(例えば、ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート等),アルキレンカーボネート(例えば、エチレンカーボネート等),ジアリールカーボネート(例えば、ジフェニルカーボネート等)等のカーボネートとを、脱アルコール反応や脱フェノール反応させたものがあげられる。また、全ポリカーボネートジオール成分の所定の範囲(好ましくは、20〜50モル%の範囲)で、5−ナトリウムスルホイソフタル酸,5−カリウムスルホイソフタル酸,ナトリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸、あるいは2−ナトリウムスルホ−1,4−ブタンジオール,2−ナトリウムスルホ−1,6−ヘキサンジオール等のスルホン酸金属塩含有グリコールを共重合させることが好ましい。上記ポリカーボネートジオールの具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリヘプタメチレンカーボネートジオール、ポリオクタメチレンカーボネートジオール、ポリノナメチレンカーボネートジオール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールが好ましい。
【0031】
つぎに、上記有機ジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニレンジイソシアネート、4,4′−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、1,4−ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、4,4′−ジイソシアネートシクロヘキサン、4,4′−ジイソシアネートシクロヘキシルメタン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートが好適に用いられる。
【0032】
上記スルホン酸官能基を有するウレタンエラストマーとしては、例えば、下記の構造式(1)で表される構造を備えたものが好ましい。
【0033】
【化1】

【0034】
また、上記スルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマーとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、アクリルシリコーン系樹脂、アクリルフッ素系樹脂、公知のアクリルモノマーを共重合したもの等であって、分子構造中に、スルホン酸基およびスルホン酸塩構造の少なくとも一方が導入されているものがあげられる。アクリル系樹脂へのスルホン酸基導入の方法は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等のスルホン酸基またはスルホン酸塩基を有するビニルモノマーと、ラジカル,アニオン,カチオン共重合する方法や、スルホン酸基を有するジオールモノマーを、ウレタン反応,エステル交換反応で導入する方法がある。
【0035】
上記スルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマーとしては、具体的には、下記の構造式(2)で表される構造を備えたものが好ましい。
【0036】
【化2】

【0037】
つぎに、本発明においては、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)とともに、アニリン、メチルアニリン、メトキシアニリンからなる群から選ばれた少なくとも一つのモノマー(B成分)が用いられる。反応性の点からアニリン、オルトまたはメタ位に置換基を有するメチルアニリン(トルイジン)やメトキシアニリン(アニシジン)が好適に用いられる。
【0038】
上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)と、特定のモノマー(B成分)との混合比(モル比)は、A成分/B成分=1/0.5〜1/20の範囲内が好ましく、特に好ましくはA成分/B成分=1/5〜1/15の範囲内である。なお、A成分は、スルホン酸基1つに対する分子量(モル当量)を1モルとして計算する。
【0039】
上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)および特定のモノマー(B成分)とともに用いられる特定濃度の酸(C成分)としては、アレニウス,ブレンステッド・ローリー,ルイスの定義で用いられるものであれば制限はないが、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ素化合物、クロラニル(テトラクロロ−p−ベンゾキノン)等のp−ベンゾキノン構造をもった化合物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0040】
上記酸(C成分)の濃度は、0.3〜3.0Nの範囲内であれば特に限定はないが、好ましく0.5〜2.0Nの範囲内である。すなわち、上記酸(C成分)の濃度が0.3N未満であれば、上記特定のモノマー(B成分)へのスルホン酸構造の導入が困難となり、逆に3.0Nを超えると、重合時に上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)の分解や、導電性ポリマーとしての高分子量化が困難になるからである。
【0041】
また、上記濃度の酸(C成分)の混合割合は、上記のモノマー(B成分)の1モルに対して、1.0〜30.0モルの範囲内が好ましく、特に好ましくは5.0〜25.0モルの範囲内である。混合の方法は、重合前に酸の全量をモノマーと混合してもよいし、酸を分割し重合の進行段階に応じて混合してもよい。
【0042】
本発明の導電性ポリマー溶液の製法に用いられる特定の溶剤は、溶解性パラメーター(SP値)が8.0〜10.0である溶剤を主成分とするものである。
【0043】
ここで、溶解性パラメーター(SP値)とは、溶解度係数(solubility parameter)と同義であり、液体間の混合性の尺度となる液体の特性値である。このSP値をδ、液体の分子凝集エネルギーをE、分子容をVとすると、δ=(E/V)1/2 で表される。
【0044】
上記特定の溶剤としては、上述のように、SP値が8.0〜10.0である溶剤を主成分とするものであれば特に限定はなく、SP値が8.0〜10.0である溶剤を、1種もしくは2種以上混合しても差し支えない。また、上記特定の溶剤は、SP値が8.0〜10.0である溶剤(x)のみからなる場合が好ましいが、上記SP値が8.0〜10.0である溶剤(x)と、SP値が8.0未満もしくはSP値が10.0を超える溶剤(y)とを混合するすることも可能である。この場合、溶剤(y)の割合は、特定の溶剤(混合溶剤)全体の30重量%未満とすることが好ましい。すなわち、SP値が8.0〜10である溶剤(x)の割合が少なすぎると、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)の溶解性が悪く、特定のモノマー(B成分)へのドーピングが効率的に起こらないからである。なお、上記溶剤(y)としては、例えば、n−ヘキサン(SP値:7.3)、n−ブタノール(SP値:11.4)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)(SP値:11.2)、ジメチルスルホキシド(SP値:12.8)、N,N−ジメチルホルムアミド(SP値:11.5)等があげられる。
【0045】
上記SP値が8.0〜10.0である溶剤としては、特に限定はなく、例えば、芳香族系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。上記SP値が8.0〜10.0である溶剤としては、好ましくは芳香族系溶剤およびケトン系溶剤の少なくとも一方の溶剤が用いられ、両者を混合する場合の混合比は特に限定されるものではない。
【0046】
上記芳香族系溶剤としては、例えば、トルエン(SP値: 8.9)、キシレン(SP値: 8.8)等があげられる。上記ケトン系溶剤としては、例えば、MEK(SP値:9.3)、アセトン(SP値:10)、メチルイソブチルケトン(SP値:8.4)、シクロヘキサノン(SP値:9.9)等があげられる。また、上記エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル(SP値:9.1)、酢酸ブチル(SP値:8.5)等があげられる。上記エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)(SP値:9.5)、エチルセロソルブ(SP値:9.9)、ブチルセロソルブ(SP値:8.9)等があげられる。
【0047】
ここで、本発明の導電性ポリマー溶液の製法について、具体的に説明する。すなわち、溶解性パラメーター(SP値)が8.0〜10.0である溶剤を主成分とする特定の溶剤、好ましくはトルエン等の芳香族系溶剤およびMEK等のケトン系溶剤の少なくとも一方の溶液を準備する。つぎに、上記特定の溶剤中に上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)を予め溶解した後、特定のモノマー(B成分)と、特定濃度の酸(C成分)とをそれぞれ所定量添加し、所定温度(好ましくは−10〜30℃)に調節する。つぎに、この溶液を所定温度(好ましくは2〜10℃)に保ちながら攪拌して乳化させ、上記特定のモノマー(B成分)中に、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(A成分)に由来するスルホン酸構造を導入する。つぎに、過硫酸アンモニウム等の化学酸化剤を所定量加え、所定時間(好ましくは、10〜25時間)重合反応を行うことにより、目的とする導電性ポリマー溶液を得ることができる。
【0048】
また、上記導電性ポリマー溶液に、水やメタノール等の貧溶剤を加えて、未反応物、化学酸化剤や、その分解物等を取り除き(洗浄)、高純度な導電性ポリマーを得た後、これを芳香族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤等の溶剤に溶解させ、静置または遠心分離し、吸引濾過して不溶分を取り出すことにより精製すると、凝集不純物の殆どない均一な導電性ポリマーを得ることができる。
【0049】
なお、本発明の製法において、上記化学酸化剤として過硫酸アンモニウムを用いたが、これに限定するものではなく、過酸化水素水や過酸化ベンゾイル等の過酸化物、クロラニル等のベンゾキノン、塩化第二鉄等の公知の酸化剤を用いることも可能である。
【0050】
このような本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液は、1週間程度放置しても、凝集のない均一な溶液に保たれていることから、溶解安定性に優れている。また、本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液から作製した導電性フィルム(塗膜)は、前述のように、強固な結合(イオン結合)によって、例えば、湿熱環境下に10日間程度放置しても、導電性ポリマーの凝集現象が殆どみられず、湿熱環境での電気抵抗の変化が少なく、湿熱環境での安定性に優れている。
【0051】
本発明の製法により得られる導電性ポリマー(主鎖部分)の数平均分子量(Mn)は、500〜100,000の範囲内が好ましく、特に好ましくは1,000〜20,000の範囲内である。
【0052】
本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液は、例えば、ラングミュアーブロジェット(LB)膜形成手法や、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェット法、ディップ法、遠心成型法等によって、ポリマー薄膜とすることも可能である。また、ミセル、ベシクル構造を形成する両親媒性物質(界面活性剤)とともに、ミセル、共ベシクルを形成して、ポリマー複合体を形成することも可能である。
【0053】
また、本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した場合、その電気抵抗は、1×100 〜1×1010Ω・cmの範囲内が好ましく、特に好ましくは1×100 〜1×106 Ω・cmの範囲内である。
【0054】
また、本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液は、単独で用いても他の樹脂やゴム,塗料,無機物と混合した複合物として用いてもよく、その加工性や電気特性の安定性を生かした分野である電気、電子、材料等の諸分野において、特に有用である。具体的には、静電気防止用のコーティング剤、電子写真機器のプリンター、複写機のローラ、ベルト、ブレード部材、繊維の処理剤、自動車用燃料ホースの帯電防止材料、二次電池の正極材料、有機薄膜太陽電池や色素増感型太陽電池の電極や活性層材料、防錆塗料、電磁波シールド材、IDタグのアンテナ材料、高分子アクチュエータ、スーパーキャパシターの電極材料、有機EL用材料、有機トランジスタの半導体等に用いることができる。
【実施例】
【0055】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕
(スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマーの調製)
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸11.4重量部(以下「部」と略す)、およびネオペンチルグリコール41.9部を加え、200℃で5時間エステル交換反応を行った。つづいて、アジピン酸46.7部を加え、200℃で10時間反応させた後、反応系を3時間かけて200mmHgまで減圧し、さらに5〜20mmHg、210℃で2時間重縮合反応を行い、ポリエステルジオール(Mn:2000)を得た。つぎに、このポリエステルジオール100部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを13.9部添加した後、1,6−ヘキサンジオールを1.05部添加して、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー(Mn:45,000、スルホン酸官能基量:0.4mmol/g)を得た。
【0057】
(導電性ポリマーの調製)
トルエン(SP値: 8.9)とMEK(SP値:9.3)との混合溶液〔トルエン/MEK=1/2(重量比)〕4500mlに、上記スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー0.1モル(スルホン酸官能基換算)を予め溶解し、o−メチルアニリン(o−アニシジン)1モルを加えた後、1N塩酸10.5リットル(10.5モル相当)を加え、この溶液を2〜8℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記o−メチルアニリンに、ポリエステル系ウレタンエラストマーに由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記o−メチルアニリン1モルに対して10.5モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリo−メチルアニリン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0058】
つぎに、上記導電性ポリマー10gに、MEK90gを加えて攪拌したところ、MEKに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は8×104 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は1.2×105 Ω・cmであった。
【0059】
〔実施例2〕
(スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマーの調製)
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸14.8部、1,6−ヘキサンジオール18.3部、およびネオペンチルグリコール26.8部を加え、200℃で5時間エステル交換反応を行った。つづいて、アジピン酸40.1部を加え、200℃で10時間反応させた後、反応系を3時間かけて200mmHgまで減圧し、さらに5〜20mmHg、210℃で2時間重縮合反応を行い、ポリエステルジオール(Mn:2000)を得た。つぎに、このポリエステルジオール100部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを12.5部添加して、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー(Mn:50,000、スルホン酸官能基量:0.5mmol/g)を得た。
【0060】
(導電性ポリマーの調製)
MEK2700mlに、上記スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー0.07モル(スルホン酸官能基換算)を溶解し、アニリン1モルを加えた後、3N塩酸6300mlを加え、この溶液を2〜8℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記アニリンに、ポリエステル系ウレタンエラストマーに由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記ルイス酸(塩酸)の混合割合は、上記アニリン1モルに対して19モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0061】
つぎに、上記導電性ポリマー10gに、THF90gを加えて攪拌したところ、THFに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は1.5×102 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は5.2×102 Ω・cmであった。
【0062】
〔実施例3〕
(スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマーの調製)
上記実施例2と同様にして、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー(Mn:50,000、スルホン酸官能基量:0.5mmol/g)を得た。
【0063】
(導電性ポリマーの調製)
トルエン5000mlに、上記スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー0.1モル(スルホン酸官能基換算)を溶解し、o−メチルアニリン1モルを加えた後、0.3N塩酸45000mlを加え、この溶液を5〜10℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記o−メチルアニリンに、ポリエステル系ウレタンエラストマーに由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記o−メチルアニリン1モルに対して13.5モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、25時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリo−メチルアニリン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0064】
つぎに、上記導電性ポリマー10gに、THF90gを加えて攪拌したところ、THFに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は5.5×104 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は8.8×104 Ω・cmであった。
【0065】
〔実施例4〕
(スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマーの調製)
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸9.3部、1,6−ヘキサンジオール18.4部、およびネオペンチルグリコール26.9部を加え、200℃で5時間エステル交換反応を行った。つづいて、アジピン酸28.0部、およびテレフタル酸17.4部を加え、200℃で10時間反応させた後、反応系を3時間かけて200mmHgまで減圧し、さらに5〜20mmHg、210℃で2時間重縮合反応を行い、ポリエステルジオール(Mn:2000)を得た。つぎに、このポリエステルジオール100部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを13.9部添加した後、1,6−ヘキサンジオールを1.04部添加して、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー(Mn:10,000、スルホン酸官能基量:0.3mmol/g)を得た。
【0066】
(導電性ポリマーの調製)
トルエンとMEKとの混合溶液〔トルエン/MEK=1/2(重量比)〕4500mlに、上記スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー0.15モル(スルホン酸官能基換算)を溶解し、m−メチルアニリン1モルを加えた後、1N塩酸10500mlを加え、この溶液を2〜8℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記m−メチルアニリンに、ポリエステル系ウレタンエラストマーに由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記m−メチルアニリン1モルに対して10.5モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリm−メチルアニリン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0067】
つぎに、上記導電性ポリマー10gに、MEK90gを加えて攪拌したところ、MEKに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は7×105 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は3×106 Ω・cmであった。
【0068】
〔実施例5〕
(スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマーの調製)
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸14.8部、1,6−ヘキサンジオール18.3部、およびネオペンチルグリコール26.8部を加え、200℃で5時間エステル交換反応を行った。つづいて、アジピン酸40.1部を加え、200℃で10時間反応させた後、反応系を3時間かけて200mmHgまで減圧し、さらに5〜20mmHg、210℃で2時間重縮合反応を行い、ポリエステルジオール(Mn:2000)を得た。つぎに、このポリエステルジオール100部を、MEKに固形分重量が20重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを12.5部添加して、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー(Mn:100,000、スルホン酸官能基量:0.5mmol/g)を得た。
【0069】
(導電性ポリマーの調製)
MEK9000mlに、上記スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー0.05モル(スルホン酸官能基換算)を溶解し、アニリン1モルを加えた後、1N塩酸3000mlを加え、この溶液を15〜20℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記アニリンに、ポリエステル系ウレタンエラストマーに由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記アニリン1モルに対して3モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られ、これに、さらに塩酸27000ml(27mol)加えた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0070】
つぎに、上記導電性ポリマー10gに、THF90gを加えて攪拌したところ、THFに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は5×101 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は6×101 Ω・cmであった。
【0071】
〔実施例6〕
(スルホン酸官能基を有するポリカーボネート系ウレタンエラストマーの調製)
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、1,6−ヘキサンジオール52部、および炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)48部を加え、反応触媒としてテトラブチルチタネート0.01部を仕込み、窒素気流下にて反応物を130℃に保ちながら、精製するエチルアルコールを留出させた。200℃で5時間減圧して低沸物を除去し、分子量2000のポリカーボネートジオールを合成した。つぎに、このポリカーボネート系ジオール70部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを12.5部添加した後、2−ナトリウムスルホ−1,6−ヘキサンジオールを3.3部添加して、スルホン酸官能基を有するポリカーボネート系ウレタンエラストマー(Mn:30,000、スルホン酸官能基量:0.3mmol/g)を得た。
【0072】
(導電性ポリマーの調製)
トルエンとMEKとの混合溶液〔トルエン/MEK=1/2(重量比)〕4500mlに、上記スルホン酸官能基を有するポリカーボネート系ウレタンエラストマー0.1モル(スルホン酸官能基換算)を溶解し、o−メトキシアニリン1モルを加えた後、1N塩酸1050mlを加え、この溶液を2〜8℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記o−メトキシアニリンに、ポリエステル系ウレタンエラストマーに由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記o−メトキシアニリン1モルに対して1.05モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリo−メトキシアニリン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0073】
つぎに、上記導電性ポリマー10gに、MEK90gを加えて攪拌したところ、MEKに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は3×106 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は8×106 Ω・cmであった。
【0074】
〔実施例7〕
(導電性ポリマーの調製)
MIBK(SP値:8.4)4500mlに、前記式(2)で表されるスルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー(Mn:6522、スルホン酸基量:0.3mmol/g、MIBKへの溶解度15%以上)0.3モル(スルホン酸官能基換算)を溶解し、2−メチルアニリン1モルを加えた後、1N塩酸3リットル(3モル相当)を加え、この溶液を10〜13℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記2−メチルアニリンに、上記スルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマーに由来するスルホン酸構造を導入した。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。さらに、27リットルの1N塩酸を追加した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記2−メチルアニリン1モルに対して30.0モルである。重合反応が進行するにつれて、ポリ2−メチルアニリン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0075】
つぎに、上記導電性ポリマー10gに、MEK90gを加えて攪拌したところ、MEKに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は3×102 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は2.2×102 Ω・cmであった。
【0076】
〔比較例1〕
アニリン塩酸塩0.2モルと、水100mlとの混合液に、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.2モルを加えた後、0℃に調節した。つぎに、この溶液を0℃以下に保った状態で攪拌しながら、過硫酸アンモニウム0.25モルを加え、4時間重合反応を行った。溶液は、当初、不均一系であったが、重合反応が進行するにつれて、均一系となり、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。ついで、この溶液に、メタノールを加え、ポリアニリンの沈殿物を得た後、JIS K 7194に準じて、電気抵抗を測定した結果、電気抵抗は115Ω・cmであった。
【0077】
つぎに、上記ポリアニリンの沈殿物に、MEKを加えて攪拌し、上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとMEKとの相溶性が悪く、均一な溶液とならなかった。この上澄み液をガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み1μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は7800Ω・cmであった。
【0078】
また、上記ポリアニリンの沈殿物に、トルエンを加えて攪拌し、上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとトルエンとの相溶性が悪く、均一な溶液とならなかった。この上澄み液をガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は10500Ω・cmであった。
【0079】
〔比較例2〕
特開2003−277500号公報の実施例1に準じて、ポリアニリン溶液を作製した。すなわち、アニリン塩酸塩0.2モルと、水100mlとの混合液に、界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム塩(第一工業製薬社製、ハイテノールNo.8)0.2モルを加えた後、5℃に調節した。つぎに、この溶液を2〜8℃に保った状態で攪拌しながら、過硫酸アンモニウム0.2モルを加え、8時間重合反応を行った。溶液は、当初、不均一系であったが、重合反応が進行するにつれて、均一系となり、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。ついで、この溶液に、メタノールを加え、ポリアニリンの沈殿物を得た後、JIS K 7194に準じて、電気抵抗を測定した結果、電気抵抗は35Ω・cmであった。
【0080】
つぎに、上記ポリアニリンの沈殿物に、MEKを加えて攪拌し、上澄みを分離させたところ、上澄み部分では、ポリアニリンと、MEKとが相溶し、均一溶液となった。この上澄み液をガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は49Ω・cmであった。また、その上澄み液の7日後の状態は、ポリアニリンの凝集物(沈殿物)が発生しており、再度上記と同様にして塗膜を作製し、電気抵抗を測定したところ2880Ω・cmであった。
【0081】
また、上記ポリアニリンの沈殿物に、トルエンを加えて攪拌し、上澄みを分離させたところ、上澄み部分では、ポリアニリンと、トルエンとが相溶し、均一溶液となった。この上澄み液をガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は120Ω・cmであった。また、その上澄み液の7日後の状態は、ポリアニリンの凝集物(沈殿物)が発生しており、再度上記と同様にして塗膜を作製し、電気抵抗を測定したところ4380Ω・cmであった。
【0082】
上記結果から、全実施例品は、MEKやトルエンとの相溶性に優れるとともに、経時での安定性(溶解安定性)や、導電性に優れていた。また、湿熱環境での安定性に優れていた。
【0083】
これに対して、比較例1品は、MEKやトルエンとの相溶性がやや劣っていた。比較例2品は、MEKやトルエンに対する可溶性は初期的には良好だが、保管による安定性が若干劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の導電性ポリマー溶液の製法は、電気、電子、材料等の諸分野において、高分子材料表面の導電性化、もしくは各種絶縁材料の導電性化等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤中に、下記の(A)成分を溶解した後、(B)成分と(C)成分とを添加し、これらを乳化させて上記(B)成分のモノマー中に上記(A)成分に由来するスルホン酸構造を導入した後、このスルホン酸構造が導入された上記(B)成分のモノマーを重合することを特徴とする導電性ポリマー溶液の製法。
(A)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマーであって、数平均分子量が4千〜10万で、かつ、スルホン酸官能基量が0.3〜0.5mmol/gであるπ電子非共役系ポリマー。
(B)アニリン、メチルアニリンおよびメトキシアニリンからなる群から選ばれた少なくとも一つのモノマー。
(C)0.3〜3Nの酸。
【請求項2】
上記(C)成分の酸の混合割合が、上記(B)成分のモノマー1モルに対して、1.0〜30モルの範囲である請求項1記載の導電性ポリマー溶液の製法。
【請求項3】
上記(A)成分のπ電子非共役系ポリマーの上記溶剤に対する溶解度が15%以上である請求項1または2記載の導電性ポリマー溶液の製法。
【請求項4】
上記溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤が、芳香族系溶剤およびケトン系溶剤の少なくとも一方の溶剤である請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性ポリマー溶液の製法。
【請求項5】
上記(A)成分のπ電子非共役系ポリマーが、ウレタンエラストマーである請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性ポリマー溶液の製法。

【公開番号】特開2006−176753(P2006−176753A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238776(P2005−238776)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(592046507)
【Fターム(参考)】