説明

導電性マイエナイト化合物と導体との接合体の製造方法

【課題】簡単な工程で、導電性マイエナイト化合物と導体の間に、再現性良くオーミック接合を形成することが可能な、オーミック接合形成方法を提供する。
【解決手段】オーミック接触が形成された、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体の製造方法であって、(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、(2)前記マイエナイト化合物の粉末およびバインダを含む成形体を準備する工程と、(3)前記成形体を導体と組み合わせて、組立体を得る工程と、(4)前記組立体を加熱しバインダを除去して、脱脂体を得る工程と、(5)前記脱脂体を、還元性雰囲気下で、1230℃〜1415℃の範囲の温度に保持して、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を得る工程と、を含むことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイト化合物は、12CaO・7Alで表される代表組成を有し、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、内部が酸素イオンで占められている。しかしながら、このケージ内の酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を有しており、このため、ケージ内の酸素イオンは、特にフリー酸素イオンと呼ばれている。マイエナイト化合物は、[Ca24Al2864]4+・2O2−とも表記される(非特許文献1)。
マイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンの一部または全部を電子と置換した場合、マイエナイト化合物に導電性が付与される。これは、マイエナイト化合物のケージ内に包接された電子は、ケージにあまり拘束されず、結晶中を自由に動くことができるためである(特許文献1)。このような導電性を有するマイエナイト化合物は、特に、「導電性マイエナイト化合物」と称される。
【0003】
導電性マイエナイト化合物は、2.4eVと比較的仕事関数が低く、さらに導電性を有すると言う特徴を有するため、例えば蛍光ランプ等の電極材料としての適用が期待されている。
【0004】
なお、導電性マイエナイト化合物を蛍光ランプ等の電極材料として使用するためには、この材料を金属導線のような導体と電気的に接合する必要がある。また、このような電気的接合部は、電流−電圧の関係が、いわゆるオーミック接触挙動を示す必要がある。なぜなら、電流−電圧の関係が非オーミック接触挙動を示す電気的接合部を有する電極材料を使用した場合、装置の動作電圧および消費電力の増大、ならびに電極の低寿命化など、好ましくない影響が生じ得るためである。
【0005】
このような観点から、特許文献2には、導電性マイエナイト化合物材料の表面をリン酸処理して改質した後、この改質表面に金属を蒸着することにより、両者の間にオーミック接触を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/000741号
【特許文献2】特開2010−45228号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F.M.Lea,C.H.Desch,The Chemistryof Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,1956
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、導電性マイエナイト化合物材料の表面をリン酸処理して改質した後、この改質表面に金属を蒸着することにより、両者の間にオーミック接触を形成することができる。
【0009】
しかしながら、このような従来の製造方法では、リン酸による表面改質処理が必須であり、これにより製造工程が増えるとともに、製造工程が煩雑化してしまうという問題がある。また、リン酸は、導電性マイエナイト化合物との反応性が極めて高く、表面改質処理を適正な段階に制御することが難しいという問題がある。このため、従来の方法では、導電性マイエナイト材料と金属との間に、再現性良くオーミック接触状態を得ることは難しい。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、簡単に、再現性良く、オーミック接触が形成された導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、
オーミック接触が形成された、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末およびバインダを含む成形体を準備する工程と、
(3)前記成形体を導体と組み合わせて、組立体を得る工程と、
(4)前記組立体を加熱しバインダを除去して、脱脂体を得る工程と、
(5)前記脱脂体を、還元性雰囲気下で、1230℃〜1415℃の範囲の温度に保持して、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を得る工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0012】
ここで、本発明による製造方法において、前記(5)の工程は、COガスを含む雰囲気下で行われても良い。この場合、前記(5)の工程は、前記組立体をカーボンを成分として含む容器中に入れた状態で行われても良い。また、この場合、前記(5)の工程は、雰囲気中に酸素分圧が1000Pa以下の不活性ガスを供給して行われ、または圧力が100Pa以下の真空雰囲気で行われても良い。
【0013】
また、本発明による製造方法において、前記(5)の工程は、COガスおよびアルミニウム蒸気を含む雰囲気下で行われても良い。この場合、前記カーボンを含む容器中にアルミニウムが存在しても良い。また、前記(5)の工程は、雰囲気中に酸素分圧が1000Pa以下の不活性ガス(ただし窒素ガスを除く)を供給して行われ、または圧力が100Pa以下の真空雰囲気で行われても良い。また、前記(5)の工程は、1230℃〜1360℃の温度範囲で行われても良い。
【0014】
また、本発明による製造方法において、前記(3)の工程の組立体は、前記粉末を含むブロック状成形体に、導体を挿入した状態で構成されても良い。
【0015】
また、本発明による製造方法において、前記導体は、導電性マイエナイト化合物の融点より高い融点を有する金属または合金であっても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、簡単に、再現性良く、オーミック接触が形成された導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造方法の一例を示したフロー図である。
【図2】成形体と導体とを一体化することにより構成された、組立体の一例を示した図である。
【図3】黒色物質E1における導通試験の結果を示すグラフである。
【図4】黒色物質E4における導通試験の結果を示すグラフである。
【図5】黒色物質E5における導通試験の結果を示すグラフである。
【図6】黒色物質E6における導通試験の結果を示すグラフである。
【図7】湿潤環境保持前後の黒色物質E5における導通試験の結果を示すグラフである。
【図8】湿潤環境保持前後の黒色物質E6における導通試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末およびバインダを含む成形体を準備する工程と、
(3)前記成形体を導体と組み合わせて、組立体を得る工程と、
(4)前記組立体を加熱しバインダを除去して、脱脂体を得る工程と、
(5)前記脱脂体を、還元性雰囲気下で、1230℃〜1415℃の範囲の温度に保持して、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を得る工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0019】
ここで、本願において、「マイエナイト化合物」とは、ケージ(籠)構造を有する12CaO・7Al(以下「C12A7」ともいう)およびC12A7と同等の結晶構造を有する化合物(同型化合物)の総称である。
【0020】
また、本願において、「導電性マイエナイト化合物」とは、ケージ中に含まれる「フリー酸素イオン」の一部もしくは全てが電子で置換された、電子密度が1.0×1018cm−3以上のマイエナイト化合物を表す。全てのフリー酸素イオンが電子で置換されたときの電子密度は、2.3×1021cm−3である。
【0021】
従って、「マイエナイト化合物」には、「導電性マイエナイト化合物」および「非導電性マイエナイト化合物」が含まれる。
【0022】
本発明では、「導電性マイエナイト化合物」の電子密度は、1.0×1019cm−3以上であることが好ましく、1.0×1020cm−3以上であることがより好ましく、1.0×1021cm−3以上であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、本願において、導電性マイエナイト化合物の電子密度は、マイエナイト化合物の電子密度により、2つの方法で測定される。電子密度は、1.0×1018〜3.0×1020cm−3の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルの2.8eV(波長443nm)の吸光度(クベルカムンク変換値)から算出される。この方法は、電子密度とクベルカムンク変換値が比例関係になることを利用している。以下、検量線の作成方法を説明する。
【0024】
電子密度の異なる試料を4点作成しておき、それぞれの試料の電子密度を、電子スピン共鳴(ESR)のシグナル強度から求めておく。ESRで測定できる電子密度は、1.0×1014〜1.0×1019cm−3程度である。クベルカムンク値とESRで求めた電子密度をそれぞれ対数でプロットすると比例関係となり、これを検量線とした。すなわち、この方法では、電子密度が1.0×1019〜3.0×1020cm−3では検量線を外挿した値である。
【0025】
電子密度は、3.0×1020〜2.3×1021cm−3の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルのピークの波長(エネルギー)から換算される。関係式は下記の式を用いた:

n=(−(Esp−2.83)/0.199)0.782

ここで、nは電子密度(cm−3)、Espはクベルカムンク変換した吸収スペクトルのピークのエネルギー(eV)を示す。
【0026】
本発明では、導電性マイエナイト化合物の導電率は、0.1S/cm以上であることが好ましく、1S/cm以上がより好ましく、10S/cm以上が特に好ましい。
【0027】
また、本発明において、導電性マイエナイト化合物は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)からなるC12A7結晶構造を有している限り、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)の中から選ばれた少なくとも1種の原子の一部が、他の原子や原子団に置換されていても良い。例えば、カルシウム(Ca)の一部は、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択される1以上の原子で置換されていても良い。また、アルミニウム(Al)の一部は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ヨーロピウム(Eu)、イットリビウム(Yb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびテリビウム(Tb)からなる群から選択される1以上の原子で置換されても良い。また、ケージの骨格の酸素は、窒素(N)などで置換されていても良い。
【0028】
ここで、導電性マイエナイト化合物は、一般に、(a)マイエナイト化合物の粉末の調製(粉末調製工程)、(b)マイエナイト化合物の焼結体の調製(焼成処理工程)、および(c)マイエナイト化合物中のフリー酸素イオンと電子との間の置換(還元)反応処理(還元反応工程)、の各工程を経て製造される。
【0029】
また、一般に、導電性マイエナイト化合物と導体とをオーミック接触させる際には、このようにして得られた導電性マイエナイト化合物を用いて、例えば、導電性マイエナイト化合物の焼結体の表面を紙やすりなどで削り、切削面をスパッタリングなどで金属を膜付けしたのち、導体を接続させる方法がある。また特許文献2では、導電性マイエナイト化合物の焼結体の表面をリン酸処理して改質した後、この改質表面に金属を蒸着する必要がある。
【0030】
しかしながら、このような従来のオーミック接触の形成方法では、機械的な加工や、リン酸による表面改質処理および金属成膜処理が必須であり、これにより製造工程が増えるとともに、製造工程が煩雑化してしまうという問題がある。特に、従来の方法では、導電性マイエナイト化合物を得るまでに、既に多くの工程が実施されており、その後、さらに複雑な工程を増やすことは好ましくない。
【0031】
また、機械的な加工では、導電性マイエナイト化合物の焼結体にクラック等が生じるおそれがある。一方、リン酸は、導電性マイエナイト化合物との反応性が極めて高く、表面改質処理を適正な段階に制御することが難しいという問題がある。このため、導電性マイエナイト化合物と金属との間に、再現性良く適正なオーミック接触状態を得ることは難しい。
【0032】
これに対して、本発明の製造方法では、(i)マイエナイト化合物粉末を含む成形体を導体と組み合わせて、組立体を得る工程(組立体形成工程)と、(ii)前記組立体を、還元性雰囲気下で、1230℃〜1415℃の範囲の温度に保持する工程(加熱処理工程)と、を有する。
【0033】
このような本発明の製造方法では、マイエナイト化合物の焼成処理と、導電性マイエナイト化合物を形成するための還元反応処理と、導電性マイエナイト化合物と導体との間のオーミック接触の形成処理とが、一度に行われるという特徴を有する。また、本発明の製造方法では、従来のような表面改質処理は、不要である。このため、本発明の製造方法では、工程が簡略化され、生産性が向上するとともに、再現性の高い、オーミック接触が形成された、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体の製造方法を提供することが可能になる。
【0034】
また、従来のオーミック接触の形成方法は、導電性マイエナイト化合物を形成してから、これに導体を接合する、いわゆる「後付」型の方法であり、このため、接合部分に相応の強度を得ることは難しい。
【0035】
これに対して、本発明の製造方法では、導電性マイエナイト化合物と導体とのオーミック接触は、マイエナイト化合物の加熱処理工程中に形成される。すなわち、マイエナイト化合物が焼結し、さらに導電性を付与されると同時に、導体にも導電性マイエナイト化合物が固着する。このため、本発明による方法で得られたオーミック接触は、比較的強度が高いという特徴を有する。特に、本発明による方法では、導体の熱膨張係数が導電性マイエナイト化合物の熱膨張係数とが多少異なることにより、残留応力が発生しても、破損し難いオーミック接触を比較的容易に得ることができる。
【0036】
(本発明の製造方法)
以下、図面を参照して、本発明の製造方法について、詳しく説明する。
【0037】
図1には、本発明の製造方法のフローの一例を概略的に示す。
【0038】
図1に示すように、本発明の製造方法は、
マイエナイト化合物または導電性マイエナイト化
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程(ステップS110)と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末およびバインダを含む成形体を準備する工程(ステップS120)と、
(3)前記成形体を導体と組み合わせて、組立体を得る工程(ステップS130)と、
(4)前記組立体を加熱しバインダを除去して、脱脂体を得る工程(ステップS140)と、
(5)前記脱脂体を、還元性雰囲気下で、1230℃〜1415℃の範囲の温度に保持して、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を得る工程(ステップS150)と、
を有する。以下、それぞれの工程について説明する。
【0039】
(工程S110:粉末調製工程)
まず、マイエナイト化合物粉末を合成するための原料粉末が調合される。
【0040】
原料粉末は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合が、CaO:Alに換算したモル比で、12.6:6.4〜11.7:7.3となるように調合される。CaO:Al(モル比)は、約12:7であることが好ましい。
【0041】
なお、原料粉末に使用される化合物は、前記割合が維持される限り、特に限られない。
【0042】
原料粉末は、カルシウムアルミネートを含むか、または、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、およびカルシウムアルミネートからなる群から選定された少なくとも2つを含むことが好ましい。原料粉末は、例えば、カルシウム化合物とアルミニウム化合物とを含む混合粉末であっても良い。原料粉末は、例えば、カルシウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。また、原料粉末は、例えば、アルミニウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。また、原料粉末は、例えば、カルシウム化合物と、アルミニウム化合物と、カルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。さらに、原料粉末は、例えば、カルシウムアルミネートのみを含む混合粉末であっても良い。
【0043】
カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、およびハロゲン化カルシウムなどが挙げられる。これらの中では、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムが好ましい。
【0044】
アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびハロゲン化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、水酸化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが好ましい。
【0045】
次に、原料粉末が高温に保持され、マイエナイト化合物が合成される。合成は、不活性ガス雰囲気下や真空下で行っても良いが、大気下で行うことが好ましい。合成温度は、特に限られないが、例えば、1200℃〜1415℃の範囲であり、1250℃〜1400℃の範囲であることが好ましく、1300℃〜1350℃の範囲であることがより好ましい。1200℃〜1415℃の温度範囲で合成した場合、C12A7の結晶構造を多く含むマイエナイト化合物が得られ易くなる。合成温度が低すぎると、C12A7結晶構造が少なくなるおそれがある。一方、合成温度が高すぎると、マイエナイト化合物の融点を超えるため、C12A7の結晶構造が少なくなるおそれがある。
【0046】
高温の保持時間は、特に限られず、これは、合成量および保持温度等によっても変動する。保持時間は、例えば、1時間〜12時間である。保持時間は、例えば、2時間〜10時間が好ましく、4時間〜8時間であることがより好ましい。原料粉末を2時間以上、高温で保持することにより、固相反応が十分に進行し、均質なマイエナイト化合物を得ることができる。
【0047】
合成により得られるマイエナイト化合物は、一部または全てが焼結した塊状である。塊状のマイエナイト化合物は、スタンプミル等で、例えば、5mm程度の大きさまで粉砕処理される。さらに、自動乳鉢や乾式ボールミルで、平均粒径が10μm〜100μm程度まで粉砕処理が行われる。ここで、「平均粒径」は、レーザ回折散乱法で測定して得た値を意味するものとする。以下、粉末の平均粒径は、同様の方法で測定した値を意味するものとする。
【0048】
さらに微細で均一な粉末を得たい場合は、例えば、C2n+1OH(nは3以上の整数)で表されるアルコール(例えば、イソプロピルアルコール)を溶媒として用い、湿式ボールミル、または循環式ビーズミルなどを用いることにより、粉末の平均粒径を0.5μm〜50μmまで微細化することができる。溶媒としては、水は使用できない。マイエナイト化合物はアルミナセメントの一成分であり、容易に水と反応し、水和物を生成するからである。
【0049】
以上の工程により、マイエナイト化合物の粉末が調製される。
【0050】
粉末として調整されるマイエナイト化合物は、導電性マイエナイト化合物であってもよい。導電性マイエナイト化合物は非導電性の化合物より粉砕性に優れるからである。導電性マイエナイト化合物の粉末を用いても、後の脱脂工程において酸化されるため、導電性のないマイエナイト化合物となる。
【0051】
導電性マイエナイト化合物の合成方法は、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。例えば、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器中に入れて、1600℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2005/000741号)、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2006/129674号)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末から作られる、カルシウムアルミネートなどの粉末を蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2010/041558号)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末を混合した粉末を、蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(特開2010−132467号公報)などがある。
【0052】
導電性マイエナイト化合物の粉砕方法は、上記マイエナイト化合物の粉砕方法と同様である。
【0053】
以上の工程により、導電性マイエナイト化合物の粉末が調整される。なお、マイエナイト化合物と導電性マイエナイト化合物の混合粉末を用いても良い。
【0054】
(工程S120:成形体準備工程)
次に、工程S110で調製したマイエナイト化合物の粉末およびバインダを含む成形体が準備される。
【0055】
成形体は、マイエナイト化合物の粉末を含む混練物からなる成形材料(粉体、スラリー等)の加圧成形により調整することが好ましい。
【0056】
成形材料には、バインダが含まれる。バインダとしては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルブチラール、EVA(エチレンビニルアセテート)樹脂、EEA(エチレンエチルアクリレート)樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂(ニトロセルロース、エチルセルロース)、ポリエチレンオキシド、などが使用できる。
【0057】
成形材料には、必要に応じて、潤滑剤、可塑剤または溶媒が含まれる。潤滑剤としてワックス類やステアリン酸が使用できる。可塑剤としてフタル酸エステルが使用できる。溶媒としては、トルエン、キシレンのような芳香族化合物、酢酸ブチル、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、化学式C2n+1OH(n=1〜4)で表されるアルコール(例えばイソプロピルアルコール)等が使用できる。溶媒として水を使用すると、マイエナイト化合物が水和による化学反応を起こすため、安定したスラリーが得られないおそれがある。n=1、2のアルコール(例えばエタノール)も水和しやすい傾向があり、n=3、4のアルコールが好ましい。
【0058】
成形材料をシート成形、押出成形、または射出成形することにより、成形体を得ることができる。ニアネットシェイプ成形が可能である、すなわち、最終製品に近い形状を生産性よく製造可能であることから、射出成形が好ましい。
【0059】
射出成形では、予めマイエナイト化合物の粉末とバインダを加熱混練して成形材料を用意し、この成形材料を射出成形機へ投入して、所望の形状の成形体を得ることができる。例えば、マイエナイト化合物の粉末をバインダと加熱混練し、冷却することで、大きさ1〜10mm程度のペレットまたは粉末状の成形材料を得る。加熱混練では、ラボプラストミルなどが用いられ、せん断力により粉末の凝集がほぐれ、粉末の1次粒子にバインダがコーティングされる。この成形材料を射出成型機に投入し、120〜250℃に加熱してバインダに流動性を発現させる。金型は予め50〜80℃で加熱しておき、3〜10MPaの圧力で金型へ材料を注入することで、所望の成形体を得ることができる。
【0060】
あるいは、成形材料を金型に入れ、この金型を加圧することにより、所望の形状の成形体を形成しても良い。金型の加圧には、例えば、等方静水圧プレス(CIP)処理を利用しても良い。CIP処理の際の圧力は、特に限られないが、例えば、50〜200MPaの範囲である。
【0061】
成形体の形状は、特に限られない。成形体は、例えば、シート状またはブロック状等であっても良い。
【0062】
成形体は、最終製品である導電性マイエナイト化合物と導体との接合体における導電性マイエナイト化合物で構成される部分と同様の形態を有していること、すなわち、ブロック状の形態を有することが好ましい。ブロック状とは、四角柱、六角柱、または円柱など、上面と下面の断面積が同じ立体;四角錐台、円錐台など上面と下面の断面積が異なる立体形状;円錐、角錐、円筒、角筒、球状など、一般的な立体形状を単体で、あるいは組み合わせて得られる形状を意味する。より具体的には、成形体は、ロッド、カップ、または、円柱の片方底面と円錐の底面が合わさった形状(ペンシル形状)であることが好ましい。
【0063】
あとの工程で成形体を導体と一体化させる際に組立体を得やすいことから、成形体は300μm以上の厚みを有することが好ましく、500μm以上がより好ましく、1mm以上が特に好ましい。成形体がロッドの場合、直径は2〜5mm、長さは10〜20mmが好ましい。成形体がカップの場合、外径は2〜5mm、内径は1〜4mm、長さは10〜20mm、カップの底の厚みは2〜8mmが好ましい。成形体がペンシル形状の場合、円柱部の直径は2〜5mm、円柱部の長さは2〜10mm、円錐部の長さは2〜10mmが好ましい。
【0064】
(工程S130:組立体形成工程)
次に、工程S120で得られた成形体を導体と一体化させて、組立体が構成される。
【0065】
導体の材質は、特に限られず、導体は、金属(例えばニッケル、鉄、コバルト、モリブデン、タングステン、チタン、ジルコニウム)または合金(例えばコバール、ステンレス鋼など)であることが好ましい。導体は、以降の工程S150における熱処理において、溶融したり気化したりしない材料から選定される必要がある。導体は、導電性マイエナイト化合物の融点より高い融点を有する金属(例えばニッケル、モリブデン、タングステン)または合金(例えば、コバール)が好ましい。
【0066】
導体の形状は、特に限られず、導体は、線状もしくは棒状、または板状等であっても良い。線状もしくは棒状の導体において、直径は0.05〜2.0mmが好ましく、0.1〜1.0mmがより好ましく、長さは10〜50mmが好ましい。板状の導体において、短辺は1〜2mmが好ましく、長辺は10〜50mmが好ましく、厚みは0.05〜0.5mmが好ましい。ブロック状の成形体と一体化する場合、導体の最大断面面積は、成形体の長さ方向の最大断面積面積より小さいことが好ましい。
【0067】
組立体を構成する方法は、特に限られない。例えば、ブロック状の成形体に、線状または棒状の導体を差し込んで、組立体を構成しても良い。あるいは、図2に示すようにして、組立体を構成しても良い。
【0068】
成形体に設けられた穴に、予熱した金属導線を指し込む方法が好ましい。成形体の穴は、なくても構わないが、あらかじめ設けておいたほうが好ましい。金属導線を挿入する位置精度を高められるからである。穴のある成形体をあらかじめ作製しておくと、穴を空ける工程が省けるので好ましい。穴の直径は、差し込む金属導線の径と同じ、またはそれより小さいほうが好ましい。金属導線の予熱温度は、成形体に含まれるバインダによるが、100〜250℃が好ましく、130〜220℃がより好ましく、150〜200℃が特に好ましい。金属導線を予熱する温度が低すぎると、成形体に金属導線が挿入し難くなり、高すぎると、成形体が変形する恐れがある。
【0069】
以下、直径3mm、長さ15mmのロッド形状の成形体に、線径0.5mm、長さ20mmのニッケル線を差し込み、組立体を形成する工程を説明する。まず、成形体の底部の中心に、予めステンレス製のリュータで直径0.5mm、深さ2.5mmの穴を開ける。次に差し込むニッケル線を、170℃のホットプレート上に設置し予熱しておく。成形体中のバインダが80℃で軟化する場合、170℃で予熱されたニッケル線が触れた部分は急激に軟化し、ニッケル線を挿入し易くなる。挿入後は温度が下がるため、成形体中のバインダは硬化し、ニッケル線が成形体に強く接続される。
【0070】
図2には、成形体と導体とを一体化することにより構成された、組立体の一例を示す。
【0071】
図2(a)の例では、円錐状の先端を有する略円柱状の成形体110Aの底面に、線状の導体130の一端が挿入され、組立体100Aが構成されている。
【0072】
図2(b)の例では、カップ状の成形体110Bの底面に、線状の導体130の一端が挿入され、組立体100Bが構成されている。
【0073】
図2(c)の例では、ロッド状の成形体110Cの底面に、線状の導体130の一端が挿入され、組立体100Cが構成されている。
【0074】
この他にも、様々な形態で、組立体を構成することができる。
【0075】
(工程S140:脱脂工程)
次に、工程S130で得られた組立体中のバインダが大気中の加熱処理で除去される。加熱処理の温度はバインダの種類、成形体の厚み、粉末の粒径によるが、バインダが揮発する温度域をゆっくり昇温させると良い。バインダの揮発する温度は、熱分析によって得られる。
【0076】
例えば、バインダが揮発する温度域が300〜500℃の場合は、200〜600℃の温度域を、10〜100℃/時間の昇温速度で加熱すると良い。昇温速度は、好ましくは20〜80℃/時間、さらに好ましくは、30〜60℃/時間である。昇温速度が遅すぎると、生産効率が悪くなる。昇温速度が速すぎると、バインダが急激に揮発し、成形体が破損、または変形する恐れがある。
【0077】
600℃まで昇温した後は、後述する降温速度で室温まで冷却しても構わないが、バインダが揮発する温度域よりも高い温度(以後、脱脂温度と呼ぶ)で保持することにより、脱脂体を破損し難くすることもできる。脱脂温度は、特に限定されないが、組立体中のバインダが揮発する温度よりも100℃高い温度(以後、脱脂下限温度と呼ぶ)から1300℃が良い。脱脂下限温度〜1150℃が好ましく、脱脂下限温度〜1000℃がさらに好ましい。脱脂下限温度〜脱脂温度までの昇温速度は、100〜600℃/時間が好ましく、200〜400℃/時間がさらに好ましい。
【0078】
脱脂温度で保持する時間は成形体の形状や大きさにもよるが、0〜24時間が好ましく、0〜12時間がさらに好ましく、0〜6時間が最も好ましい。成形体が複雑な形状であるほど、脱脂温度は高く、保持時間は長くしたほうが良い。
【0079】
脱脂後の降温速度は、成形体の形状や大きさにもよるが、100〜600℃/時間が好ましく、150〜500℃/時間が好ましく、200〜400℃/時間がさらに好ましい。降温速度は遅すぎると、生産効率が悪くなり、速すぎると脱脂体が破損する恐れがある。
【0080】
なお、工程S120の成形体準備工程で用いられる粉末が、導電性マイエナイト化合物であっても、この脱脂工程後には酸化されるため、脱脂体中に含まれる粉末は、マイエナイト化合物となる。
【0081】
以上より、組立体中のバインダが除去された、脱脂体が得られる。
【0082】
(工程S150:加熱処理工程)
次に、工程S140で得られた脱脂体が還元性雰囲気で加熱処理される。
【0083】
ここで、「還元性雰囲気」とは、環境中の酸素分圧が10−3Pa以下の雰囲気の総称を意味し、該環境は、不活性ガス雰囲気、または減圧環境(例えば圧力が100Pa以下の真空環境)であっても良い。例えば、還元性雰囲気は、一酸化炭素ガスを含む雰囲気であっても良い。酸素分圧は、10−5Pa以下が好ましく、10−10Pa以下がより好ましく、10−15Pa以下がさらに好ましい。酸素分圧が10−3Pa超の場合、十分な導電性を得ることができなくなるおそれがある。
【0084】
加熱処理の方法は、複数存在するため、以下、代表的な2通りの加熱処理方法のそれぞれについて、説明する。
【0085】
(第1の加熱処理方法)
第1の加熱処理方法では、加熱処理は、1230℃〜1415℃の高温の還元性雰囲気で行われ、還元性雰囲気中に、CO(一酸化炭素)ガスを存在させる。
【0086】
例えば、COガスは、被処理体の置かれる環境に外部から供給しても良い。還元性雰囲気中に脱脂体とカーボンの固形物(カーボン製シート等)を配置しても良い。脱脂体をカーボン製容器中に入れ、該容器を還元性雰囲気中に配置しても良い。なお、導体がニッケルを含む場合は、導体とカーボンが接触しないように、導体とカーボンの間にはアルミナ等のセパレータが配置されていることが好ましい。
【0087】
脱脂体を蓋付きカーボン容器に入れた場合、脱脂体の高温保持中に、カーボン容器側からCOガスが生じる。従って、マイエナイト化合物のケージ内のフリー酸素イオンとCOガスとを以下の反応式のように反応させることにより、マイエナイト化合物のケージ中に電子を導入することができる:

2−+CO → CO+2e (1)式

被処理体の置かれる環境には、酸素分圧が1000Pa以下の不活性ガス雰囲気を供給することが好ましく、供給する不活性ガス雰囲気の酸素分圧は、好ましくは100Pa以下であり、より好ましくは10Pa以下であり、さらに好ましくは1Pa以下であり、特に好ましくは0.1Pa以下である。あるいは、被処理体の置かれる環境を圧力が100Pa以下の真空雰囲気にすることが好ましく、圧力はより好ましくは60Pa以下であり、さらに好ましくは40Pa以下であり、特に好ましくは20Pa以下である。
【0088】
脱脂体を保持する温度は、1230℃〜1415℃の範囲であり、特に、1250℃〜1380℃の範囲であることが好ましく、1280℃〜1360℃の範囲であることがより好ましい。処理温度が1230℃よりも低い場合、マイエナイト化合物に十分な導電性を付与することができないおそれがある。また、処理温度が1415℃よりも高い場合、脱脂体中のマイエナイト化合物の溶融が進行し、脱脂体の形状が維持できなくなるおそれがある。
【0089】
ここで、脱脂体は、マイエナイト化合物の粉末を含む成形体と接触する導体を有する。このため、この第1の加熱処理により、焼結され、還元された(導電性)マイエナイト化合物は、in−situで、導体と熱接合される。従って、この工程S150では、マイエナイト化合物の還元、焼結、および導電性マイエナイト化合物と導体との間のオーミック接触の形成が一度に行われる。
【0090】
脱脂体を加熱するときの平均昇温速度は、室温から最高温度まで、50〜1000℃/時間が好ましく、100〜600℃/時間がより好ましく、200〜400℃/時間がさらに好ましい。昇温速度が遅すぎると、時間がかかり生産効率が悪い。さらに導電性マイエナイト化合物と金属線との界面に化学反応により異相が析出するおそれがある。異相が析出すると、一般には電気抵抗が増加するので好ましくない。一方、昇温速度が速すぎると、導電性マイエナイト化合物と導体の線熱膨張係数の差から熱応力が発生し、導電性マイエナイト化合物と導体の界面に亀裂が生じて接合体の機械的接合強度が劣化する、また、導電性マイエナイト化合物と導体の接触面積が減り接合体の電気抵抗が増加するおそれがある。
【0091】
最高温度における保持時間は、5分〜48時間の範囲であることが好ましく、30分〜12時間の範囲であることがより好ましく、1時間〜10時間の範囲であることがさらに好ましく、2時間〜8時間の範囲であることが最も好ましい。保持時間が5分未満の場合、十分な導電性を得ることができなくなるおそれがある。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、作製コストを考えると、保持時間は、6時間以内が好ましい。
【0092】
脱脂体を加熱後に冷却するときの平均降温速度は、最高温度から室温まで、50〜1000℃/時間が好ましく、100〜600℃/時間がより好ましく、100〜400℃/時間がさらに好ましい。降温速度が遅すぎると、時間がかかり生産効率が悪い。さらに導電性マイエナイト化合物が降温過程で、再酸化されてしまい、電子密度が小さくなるおそれがある。一方、降温速度が速すぎると、導電性マイエナイト化合物と導体の線熱膨張係数の差から熱応力が発生し、導電性マイエナイト化合物と導体の界面に亀裂が生じて接合体の機械的接合強度が劣化する、また、導電性マイエナイト化合物と導体の接触面積が減り接合体の電気抵抗が増加するおそれがある。
【0093】
以上の加熱処理により、マイエナイト化合物粉末が焼結して一体化物(焼結体)が形成されるとともに、マイエナイト化合物が導電性マイエナイト化合物に還元される。さらに、導電性マイエナイト化合物と導体との間に、オーミック接触が形成される。
【0094】
本発明による方法では、一度の工程(加熱処理工程S150)で、マイエナイト化合物の焼成、マイエナイト化合物焼結体への導電性の付与、およびオーミック接触の形成の3つの処理を行うことができる。特に、本発明では、新たな工程を追加しなくても、従来の導電性マイエナイト化合物を製造する際に必要となる工程内で、導電性マイエナイト化合物と導体との間のオーミック接触を、簡単に形成することができる。
【0095】
従って、本発明による方法では、工程が簡略化され、生産性が向上するとともに、従来のような表面改質処理が不要となるため、再現性の高いオーミック接触が形成された、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体の製造方法を提供することが可能になる。
【0096】
(第2の加熱処理方法)
次に、第2の加熱処理方法について説明する。
【0097】
第2の加熱処理方法では、加熱処理は、1230℃〜1360℃の還元性雰囲気で行われる。
【0098】
また、第2の加熱処理方法では、環境中に、COガスおよびアルミニウム蒸気を存在させる。この場合、COガスだけの第1の加熱処理方法よりも高い電子密度の導電性マイエナイト化合物が得られる。金属アルミニウム蒸気の還元力により、多くのフリー酸素が以下の反応により置換される:

3O2−+2Al → Al+6e (2)式

アルミニウム蒸気源は、特に限られない。アルミニウム蒸気源は、例えばアルミニウム粉末を敷き詰めて構成したアルミニウム層であっても良い。また、アルミニウム蒸気源は、アルシック(アルミニウムと炭化ケイ素の複合体)のような複合材料の一部のアルミニウムであっても良い。
【0099】
COガスは、被処理体の置かれる環境に外部から供給しても良い。被処理体をカーボンを含む容器に配置しても良い。例えばカーボンを含む容器を使用した場合、被処理体の高温保持中に、カーボンを含む容器側からCOガスが供給される。カーボン製シートを環境中に配置してもよく、カーボン製容器を用いることが好ましい。
【0100】
例えば、COガスおよびアルミニウム蒸気を供給するため、例えば、蓋付きカーボン製容器内に脱脂体とアルミニウム層とを配置した状態で、加熱処理が実施されても良い。なお、アルミニウム蒸気源(例えばアルミニウム層)とCOガス源(例えばカーボンを含む容器)とは、直接接触させないことが好ましい。これは、両者を接触させた状態のまま高温に保持すると、両者が接触部で反応してしまい、反応環境に、十分な量のアルミニウム蒸気およびCOガスを供給することが難しくなるためである。
【0101】
アルミニウム蒸気源(アルミニウム層)とCOガス源(カーボン)の間にはアルミナ等のセパレータが配置されていることが好ましい。また、導体がニッケルを含む場合は、導体とカーボンが接触しないように、導体とカーボンの間にはアルミナ等のセパレータが配置されていることが好ましい。
【0102】
なお、この方法の場合、加熱処理温度は、1230℃〜1360℃の範囲とすることが好ましい。1360℃を超える温度では、焼結体が変形し所望の形状を得られ難いためである。
【0103】
また、第2の加熱処理方法では、環境中にアルミニウムが存在する。このため、不活性ガスとして、窒素ガスを使用することは好ましくない。高温では、窒素ガスは、アルミニウムと反応して、窒化アルミニウムを生成する。このため、雰囲気中に窒素ガスが含まれる場合、この窒素によってアルミニウムが消費されてしまい、アルミニウムの還元剤としての効果が失われるからである。
【0104】
被処理体の置かれる環境には、酸素分圧が1000Pa以下の不活性ガス雰囲気(ただし窒素ガスを除く)を供給することが好ましく、供給する不活性ガス雰囲気の酸素分圧は、好ましくは100Pa以下であり、より好ましくは10Pa以下であり、さらに好ましくは1Pa以下であり、特に好ましくは0.1Pa以下である。あるいは、被処理体の置かれる環境を圧力が100Pa以下の真空雰囲気にすることが好ましく、圧力はより好ましくは60Pa以下であり、さらに好ましくは40Pa以下であり、特に好ましくは20Pa以下である。
【0105】
最高温度における保持時間、脱脂体を加熱するときの平均昇温速度、および冷却するときの平均降温速度は、第1の加熱処理方法と同じ理由で、同じ範囲である。
【0106】
以上、2通りの加熱処理方法について説明した。しかしながら、これらは一例であって、その他の方法で、加熱処理を実施しても良い。特に、本発明において、還元剤として、カーボンおよび金属アルミニウムの他に、あるいはこれらに加えて、例えば、金属カルシウム、および/または金属チタン等を使用しても良い。
【0107】
本発明で製造される導電性マイエナイト化合物と導体との接合体は、蛍光ランプの電極(冷陰極蛍光ランプ用電極、熱陰極蛍光ランプ用電極)として用いられる。また電子放出特性を利用し、有機化合物の化学反応を促進させる、触媒としての用途が考えられている。
【実施例】
【0108】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0109】
(実施例1)
以下の方法で、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造した。
【0110】
(マイエナイト化合物粉末の作製)
酸化カルシウム(CaO):酸化アルミニウム(Al)のモル比換算で12:7となるように、炭酸カルシウム(CaCO)粉末313.5gと、酸化アルミニウム(Al)粉末186.5gとを混合した。次に、この混合粉末を、大気中、300℃/時間の昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃に6時間保持した。その後、これを300℃/時間の冷却速度で降温し、約362gの白色塊体を得た。
【0111】
次に、アルミナ製スタンプミルにより、この白色塊体を大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、さらに、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕し、白色粒子(以下、粒子「A1」と称する)を得た。レーザ回折散乱法(SALD−2100、島津製作所社製)により、得られた粒子A1の粒度を測定したところ、平均粒径は、20μmであった。
【0112】
次に、粒子A1を350gと、直径5mmのジルコニアボール3kgと、粉砕溶媒としての工業用ELグレードのイソプロピルアルコール350mlとを、2リットルのジルコニア製容器に入れ、容器にジルコニア製の蓋を載せてから、回転速度94rpmで、16時間、ボールミル粉砕処理を実施した。
【0113】
処理後、得られたスラリーを用いて吸引ろ過を行い、粉砕溶媒を除去した。また、残りの物質を80℃のオーブンに入れ、10時間乾燥させた。これにより、白色粉末(以下、粉末「B1」と称する)を得た。X線回折分析の結果、得られた粉末B1は、C12A7構造であることが確認された。また、前述のレーザ回折散乱法により得られた粉末B1の平均粒径は、3.3μmであることがわかった。
【0114】
(マイエナイト化合物の成形体の作製)
前述の方法で得られたマイエナイト化合物の粉末B1を79.8g、成形用バインダとしてポリエチレンオキサイドを13.0g、可塑剤としてフタル酸ジブチルを0.2g、潤滑剤としてステアリン酸を7.0gを配合し、150℃に加熱させて混練させた。得られた混練物を射出成形用の成形型に流し込み、室温まで冷却させた。これにより、直径3.4mm、長さ15mmのロッド型の成形体C1を得た。
【0115】
(組立体の形成)
次に、以下の方法で、ロッド状の成形体C1の2つの底面のそれぞれに、金属線を挿入し、組立体を形成した。
【0116】
まず、リューターを使って、成形体C1の各底面の中心に、直径0.5mm、深さ2.5mmの穴を形成した。
【0117】
次に、各穴内に、150℃に加熱した線径0.5mm、長さ10mmのニッケル線を挿入した。ニッケル線は、加熱されているため、成形体C1との接触部分の樹脂は軟化し、ニッケル線を容易に挿入することができた。
【0118】
(脱バインダ処理)
次に、ニッケル線付きの成形体C1の脱バインダ処理を行った。
【0119】
成形体C1をアルミナ板に置いた状態で電気炉内に設置し、大気中で、40分間で200℃まで加熱した。さらに8時間で600℃まで加熱した後、2時間で室温まで冷却させた。得られた脱脂体D1は、白色であり、ロッド形状を維持していた。また、ニッケル線に脆化は認められなかった。
【0120】
(還元焼結処理)
次に、以下の方法で、脱脂体D1を還元雰囲気で焼結させることにより、マイエナイト化合物の粉末を還元焼結させ、導電性マイエナイト化合物を形成した。
【0121】
まず、脱脂体D1を外径40mm×内径30mm×高さ40mmの第1のカーボン容器内に設置し、この第1のカーボン容器の上部に、カーボン製の蓋をした。なお、脱脂体D1のニッケル線が第1のカーボン容器と直接接触しないようにするため、ニッケル線と第1のカーボン容器の間には、セパレータ材としてアルミナ板を配置した。
【0122】
次に、この蓋付きの第1のカーボン容器を、外径80mm×内径70mm×高さ75mmの第2のカーボン容器内に設置し、この上部に、カーボン製の蓋をした。また、この蓋付きの第2のカーボン容器を、窒素雰囲気中に配置した。この雰囲気には、酸素量1ppmの窒素が500mL/分の流速で供給されている。
【0123】
次に、蓋付きの第2のカーボン容器を、300℃/時間の昇温速度で1300℃まで加熱した。その後、この温度に6時間保持した後、蓋付きの第2のカーボン容器を、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却させた。
【0124】
これにより、黒色物質(以下、黒色物質「E1」と称する)が得られた。また、黒色物質E1の両底面には、ニッケル線が強固に接合された。このニッケル線は、数回曲げても折れることはなく、脆化は認められなかった。
【0125】
なお、ニッケル線を挿入していない成形体C1を用いて、同様の還元焼結処理を実施した。これにより、黒色物質(以下、黒色物質「E1'」と称する)が得られた。黒色物質E1'の相対密度は、98.2%であった。
【0126】
また、この黒色物質E1'の電子密度測定を行うため、アルミナ製スタンプミルにより、黒色物質E1'を、大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕した。
【0127】
得られた粉末は、暗緑色をしており、X線回折分析の結果、黒色物質E1'は、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルからクベルカムンク法により求められた電子密度は、1.0×1020cm−3であり、導電率は、0.8S/cmであった。このことから、黒色物質E1'は、導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0128】
(導通試験)
このようにして得られた黒色物質E1を用いて、2本のニッケル線の間の導通試験を実施した。
【0129】
導通試験は、室温で、2本のニッケル線の間に電流を印加した際に生じる電圧を、デジタルマルチメーターで測定することにより実施した。
【0130】
図3には、導通試験の測定結果を示す。この図から、印加電流と出力電圧は、直線関係にあることがわかる。このことから、黒色物質E1の2つのニッケル線は、導電性マイエナイト化合物との間でオーミック接触が形成されていることが確認された。
【0131】
導電性マイエナイト化合物とニッケル線の接触抵抗(出力電圧(V)/電流密度(A/cm))を求めた。電極間の電圧が127mVのとき、接触抵抗は、2.7Ω・cmであった。
【0132】
(実施例2)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造した。ただし、この実施例2では、前述の(組立体の形成)の工程において、使用する金属線を、線径0.60mm、長さ100mmのモリブデン線に変更した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0133】
これにより、前述の(還元焼結処理)の工程後に、黒色物質(以下、黒色物質「E2」と称する)が得られた。黒色物質E2の底面には、モリブデン線が強固に接合されていることが確認された。
【0134】
実施例1と同様の方法により、得られた黒色物質E2を用いて、導通試験を行った。その結果、導電性マイエナイト化合物とモリブデン線の間には、オーミック接触が形成されていることが確認された。
【0135】
(実施例3)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造した。ただし、この実施例3では、前述の(組立体の形成)の工程において、使用する金属線を、線径1mm、長さ100mmのコバール(鉄、ニッケルおよびコバルトなどの合金)線に変更した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0136】
これにより、前述の(還元焼結処理)の工程後に、黒色物質(以下、黒色物質「E3」と称する)が得られた。黒色物質E3の底面には、コバール線が強固に接合されていることが確認された。このコバール線は、数回曲げても折れることはなく、脆化は認められなかった。
【0137】
実施例1と同様の方法により、得られた黒色物質E3を用いて、導通試験を行った。その結果、導電性マイエナイト化合物とコバール線の間には、オーミック接触が形成されていることが確認された。
【0138】
(実施例4)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造した。ただし、この実施例4では、前述の(還元焼結処理)の工程を、下記のように変更した。
【0139】
まず、脱脂体D1を外径40mm×内径30mm×高さ40mmのアルミナ容器内に設置し、このアルミナ容器の上部にアルミナ製の蓋をした。アルミナ容器の底部には、金属アルミニウム粉末を3g敷き詰めて形成されたアルミニウム層が設けられており、脱脂体D1は、このアルミニウム層と直接接触しないようにするため、アルミナ板の上に配置した。次に、この蓋付きアルミナ容器を、外径80mm×内径70mm×高さ75mmのカーボン容器内に設置し、上部にカーボン製の蓋をした。
【0140】
次に、この蓋付きのカーボン容器を電気炉内に設置した。ロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプを用いて、炉内を真空処理した。
【0141】
その後、炉内の圧力が5Pa以下になってから、カーボン容器を、300℃/時間の昇温速度で1250℃まで加熱した。この温度で6時間保持した後、カーボン容器を300℃/時間の降温速度で室温まで冷却させた。
【0142】
これにより、表面が薄白色の黒色物質(以下、黒色物質「E4」と称する)が得られた。黒色物質E4の両底面には、ニッケル線が強固に接合された。
【0143】
なお、ニッケル線を挿入していない成形体C1を用いて、同様の還元焼結処理を実施した。これにより、黒色物質(以下、黒色物質「E4'」と称する)が得られた。黒色物質E4'の相対密度は、97.0%であった。
【0144】
また、この黒色物質E4'の電子密度測定を行うため、アルミナ製スタンプミルにより、黒色物質E4'を、大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕した。
【0145】
得られた粉末は、焦げ茶色をしており、X線回折分析の結果、黒色物質E4'は、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルからクベルカムンク法により求められた電子密度は、1.6×1021cm−3であり、導電率は、17S/cmであった。このことから、黒色物質E1'は、導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0146】
実施例1と同様の方法により、得られた黒色物質E4を用いて、導通試験を行った。
【0147】
結果を図4に示す。この図4から、印加電流と出力電圧は、直線関係にあることがわかる。このことから、黒色物質E4の2つのニッケル線は、導電性マイエナイト化合物との間でオーミック接触が形成されていることが確認された。
【0148】
導電性マイエナイト化合物とニッケル線の接触抵抗を求めた。電極間の電圧が128mVのとき、接触抵抗は、0.055Ω・cmであった。
【0149】
(実施例5)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造した。ただし、この実施例5では、前述の(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程以降を、以下のように変更した。
【0150】
(マイエナイト化合物粉末のグリーンシートの作製)
前述の方法で得られた粉末B1を40g、トルエン10g、イソプロピルアルコール(IPA)6g、フタル酸ジオクチル(DOP)2.4g、および分散剤(BYK180、ビッグケミー社製)0.4gを、250mLの蓋付きプラスチック容器に入れ、さらに、メディアとして、2mmφのジルコニアボールを250g添加した。この混合溶液を90rpmで1時間混合した後、メディアを除去した。この混合溶液に、予めビヒクル状に調製したポリビニルブチラール(PVB)を固形分換算で14g加えて混合し、脱泡することで、スラリーを得た。ビヒクルの固形分は25重量%で、溶媒はトルエン:IPAを5:3の重量比で混合したものであった。
【0151】
得られたスラリーを、厚さ200μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、ステンレス鋼製のアプリケーターを使用して、これを膜状にした。さらにこの膜を、80℃で乾燥させることにより、平均厚さ200μmのグリーンシートを得た。
【0152】
(積層体の作製)
このグリーンシートを20mm×20mmの大きさに切断し、このグリーンシートを6枚積層した。
【0153】
次に、この上部に、幅4mm、長さ10mm、厚さ0.1mmの短冊状の2枚のニッケル板を設置した。一方のニッケル板は、一部が最上部のグリーンシートの第1の辺の中央部分から、外方に向かって突出するようにして配置した。また、他方のニッケル板は、一部が最上部のグリーンシートの第1の辺と平行な、第2の辺の中央部分から、外方に向かって突出するようにして配置した。両ニッケル板は、グリーンシートの平面上の一つの直線上に延伸するようにして配置した。ただし、ニッケル板同士は、相互に離して配置されており、両者の先端の間隔は、10mmとした。
【0154】
さらに、ニッケル板の上部に、下側の6枚のグリーンシートと重なるようにして、別の6枚のグリーンシートを積層した。
【0155】
この積層体を、積層方向から一軸プレスした。一軸プレスの際の圧力は、1MPaとし、温度は、80℃とした。その後、同じ温度で、さらに、積層体を100MPaで等方静水圧プレス処理した。
【0156】
(脱バインダ処理)
その後、得られた積層体を使用して、前述の実施例1の場合と同様の(脱バインダ処理)を行った。
【0157】
(還元焼結処理)
次に、得られた脱脂体を使用して、前述の実施例1の場合と同様の(還元焼結処理)を行った。これにより、幅18mm×長さ18mm×厚さ1mmの黒色物質E5を得た。黒色物質E5の両側には、ニッケル板が強固に接合された。
【0158】
なお、ニッケル板を挿入していない積層体を用いて、同様の還元焼結処理を実施した。これにより、黒色物質(以下、黒色物質「E5'」と称する)が得られた。黒色物質E5'の相対密度は、98.0%であった。
【0159】
また、この黒色物質E5'の電子密度測定を行うため、アルミナ製スタンプミルにより、黒色物質E5'を、大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕した。
【0160】
得られた粉末は、暗緑色をしており、X線回折分析の結果、黒色物質E5'は、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルからクベルカムンク法により求められた電子密度は、1.1×1020cm−3であり、導電率は、1.0S/cmであった。このことから、黒色物質E5'は、導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0161】
(通電試験)
実施例1と同様の方法により、得られた黒色物質E5を用いて、導通試験を行った。
【0162】
結果を図5に示す。この図5から、印加電流と出力電圧は、直線関係にあることがわかる。このことから、黒色物質E5の2つのニッケル板は、導電性マイエナイト化合物との間でオーミック接触が形成されていることが確認された。
【0163】
導電性マイエナイト化合物とニッケル線の接触抵抗は、電極間の電圧が24.0mVのとき、接触抵抗は、0.83Ω・cmであった。なお、接触抵抗は金属と導電性マイエナイトの配置が同じでないと比較できないため、実施例1〜4の接触抵抗とは単純には比較できない。実施例5の接触抵抗は、実施例6〜8の接触抵抗と比較できる。
【0164】
(実施例6)
前述の実施例5と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造した。ただし、この実施例6では、ニッケル板の代わりに、幅4mm、長さ10mm、厚さ0.1mmの形状のモリブデン板を使用した。その他の条件は、実施例5の場合と同様である。
【0165】
これにより、黒色物質(以下、黒色物質「E6」と称する)が得られた。黒色物質E6の両側には、モリブデン板が強固に接合された。
【0166】
実施例1と同様の方法により、得られた黒色物質E6を用いて、導通試験を行った。測定結果を図6に示す。この図6から、印加電流と出力電圧は、直線関係にあることがわかる。このことから、黒色物質E6の2つのモリブデン板は、導電性マイエナイト化合物との間でオーミック接触が形成されていることが確認された。
【0167】
導電性マイエナイト化合物とモリブデン板の接触抵抗は、電極間の電圧が7.3mVのとき、接触抵抗は、0.20Ω・cmであった。
【0168】
(実施例7)
以下の方法により、前述の実施例5で得られた黒色物質E5の経時的劣化の有無を評価した。
【0169】
黒色物質E5を、温度21℃、湿度60%の環境下で120日間保持した。その後、この湿潤環境保持後のサンプルを用いて、導通試験を実施した。
【0170】
結果を図7に示す。なお、同図には、比較のため、湿潤環境保持前の黒色物質E5のサンプルによる測定結果を同時に示している。
【0171】
この図から、湿潤環境保持後のサンプルにおいても、湿潤環境保持前のサンプルとほぼ同様の電流−電圧関係が得られていることがわかる。このことから、黒色物質E5は、湿潤環境に保持しておいても、オーミック接触の状態に、変化はほとんど生じないことがわかった。
【0172】
導電性マイエナイト化合物とニッケル板の接触抵抗は、電極間の電圧が26.5mVのとき、接触抵抗は、0.92Ω・cmであり、湿潤環境保持前の0.83Ω・cmと比べて大きな変化がないことが分かった。
【0173】
(実施例8)
実施例7と同様の方法により、前述の実施例6で得られた黒色物質E6の経時的劣化の有無を評価した。
【0174】
図8には、黒色物質E6の湿潤環境保持前後の導通試験の結果を比較して示す。この図から、湿潤環境保持後のサンプルにおいても、湿潤環境保持前のサンプルとほぼ同様の電流−電圧関係が得られていることがわかる。このことから、黒色物質E6は、湿潤環境に保持しておいても、オーミック接触の状態に、変化はほとんど生じないことがわかった。
【0175】
導電性マイエナイト化合物とニッケル板の接触抵抗は、電極間の電圧が8.0mVのとき、接触抵抗は、0.22Ω・cmであり、湿潤環境保持前の0.20Ω・cmと比べて大きな変化がないことが分かった。
(実施例9)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を製造した。ただし、この実施例9では、前述の(還元焼結処理)の工程において、降温速度を100℃/時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0176】
これにより、前述の(還元焼結処理)の工程後に、黒色物質(以下、黒色物質「E9」と称する)が得られた。黒色物質E9の底面には、ニッケル線が強固に接合されていることが確認された。
【0177】
実施例1と同様の方法により、得られた黒色物質E9を用いて、導通試験を行った。その結果、導電性マイエナイト化合物とニッケル線の間には、オーミック接触が形成されていることが確認された。
【0178】
導電性マイエナイト化合物とニッケル線の接触抵抗を求めた。電極間の電圧が111mVのとき、接触抵抗は、0.6Ω・cmであった。降温速度を遅くすると接触抵抗が小さくなることが確認できた。
【0179】
(比較例1)
前述の実施例5と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物と導体との間に接合体を形成することを試みた。ただし、この比較例1では、前述の(還元焼結処理)の工程において、処理温度を1200℃とした。その他の条件は、実施例5の場合と同様である。
【0180】
これにより、緑色物質(以下、緑色物質「E9」と称する)が得られた。なお、緑色物質E9の対向する2側面には、ニッケル板が接合されているように見えた。しかしながら、この接合は、良好ではなく、緑色物質E9のハンドリングの際に、接合部は、容易に崩壊し、ニッケル板が脱落した。
【0181】
(比較例2)
前述の実施例4と同様の方法により、黒色物質を作製した。ただし、この比較例1では、前述の(導通試験)の工程において、黒色物質E4ではなく、黒色物質E4'を使用した。
【0182】
黒色物質E4'にはニッケル線が接合されていないため、黒色物質E4'の各底面の2ヵ所を直接ワニ口クリップで挟み、導通試験を試みた。ところが電流が流れず、導通試験に使用した装置では測定不能であった。これは、黒色物質E4'の表面層が絶縁体であるため、ワニ口クリップで挟むだけでは、導通が取れないためと考えられる。
【0183】
このように、黒色物質E4'を直接、ワニ口クリップで挟んだときは、測定不能であることが確認できた。
【0184】
(比較例3)
前述の実施例1と同様の方法により、黒色物質を作製した。ただし、この比較例3では、ニッケル線を挿入していない、黒色物質E1'にニッケル線の挿入を試みた。
【0185】
黒色物質E1'の底部の中心にリュータで直径0.5mm、深さ2.5mmの穴を空けようとしたが、黒色物質E1'が固いため、穴を空けることができなかった。そこで金属製のドリルを用いて、前記穴を空けようと試みたが、10個中9個の黒色物質E1'が破損してしまった。穴の空いた黒色物質E1'にニッケル線を挿入しようとしたが、穴の直径とニッケル線の線径がほぼ等しいため、挿入することはできなかった。穴の直径を大きくした場合、ニッケル線を挿入することはできるが、接合がゆるいため、簡単にはずれてしまうことは自明である。
【0186】
以上のことから、オーミック接触を得る目的で、黒色物質を得てから金属線を挿入することは、適さないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明は、蛍光ランプ等に使用され得る、導電性マイエナイト化合物の製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0188】
100A〜100C 組立体
110A〜110C 成形体
130 導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーミック接触が形成された、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末およびバインダを含む成形体を準備する工程と、
(3)前記成形体を導体と組み合わせて、組立体を得る工程と、
(4)前記組立体を加熱しバインダを除去して、脱脂体を得る工程と、
(5)前記脱脂体を、還元性雰囲気下で、1230℃〜1415℃の範囲の温度に保持して、導電性マイエナイト化合物と導体との接合体を得る工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記(5)の工程は、COガスを含む雰囲気下で行われる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(5)の工程は、前記組立体をカーボンを成分として含む容器中に入れた状態で行われる請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(5)の工程は、雰囲気中に酸素分圧が1000Pa以下の不活性ガスを供給して行われ、または圧力が100Pa以下の真空雰囲気で行われる請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記(5)の工程は、COガスおよびアルミニウム蒸気を含む雰囲気下で行われる請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンを含む容器中にアルミニウムが存在する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記(5)の工程は、雰囲気中に酸素分圧が1000Pa以下の不活性ガス(ただし窒素ガスを除く)を供給して行われ、または圧力が100Pa以下の真空雰囲気で行われる請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記(5)の工程は、1230℃〜1360℃の温度範囲で行われる請求項5乃至7のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項9】
前記(3)の工程の組立体は、前記粉末を含むブロック状成形体に、導体を挿入した状態で構成される請求項1乃至8のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項10】
前記導体は、導電性マイエナイト化合物の融点より高い融点を有する金属または合金である請求項1乃至9のいずれか一つに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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