説明

導電性塗料

【課題】単位厚さのシールド特性を向上する。
【解決手段】本発明の導電性塗料は、水溶性エマルジョン100重量部に、アスペクト比が20以上1000以下である導電性繊維を1〜20重量部混合する。水溶性エマルジョンはアクリル酸エステル共重合エマルジョンである。導電性塗料がロールコーティング用塗料であれば、導電性塗料100重量部に対してポリビニルアルコール0.001〜0.02重量部含むことが好ましい。そして、導電性繊維は銀メッキ繊維又は炭素繊維であることが好ましい。これにより導電性及び電波シールド性能に優れ、尚且つ様々な用途に使用可能で取り扱いも容易である導電性塗料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院のMRI室や電波暗室などに代表される電波シールドルームを構築 する際に使用する導電性塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ある空間に電波シールドを構築する場合、その空間全体を僅かな隙間も無いように電波シールド材料で覆う必要がある。現在、上記の電波シールド材としては、厚さ70マイクロメートル程の銅箔や、導電性金属と木質材料の複合パネルが一般的に広く用いられている。材料の接合部分については、銅箔の場合は接合部の全周にわたってハンダ処理を行うことや、複合パネルについては専用の接合金具によってシールド対象の電波の漏れを防止している。
【0003】
しかし、電波シールド材料に銅箔を用いた場合、その薄さ故に施工時のわずかな物理的衝撃によって破れたり、亀裂が生じやすい不具合があった。また接合部分にハンダ処理を行うことは微小な隙間も許されないため、高度な技術と経験を必要とし、熟練した作業員以外のものが行うことはできない問題点もあった。一方、シールド材料として複合パネルを使用した場合は、上記の接合金具を取り付ける際のネジの取り付け間隔、及び締め付けトルクの場所による違いにより、シールドの性能にばらつきが生じてしまい、結果的にシールドされた空間全体において、均一なシールド性能が得られない不具合がある。
【0004】
この点を解消するために、水溶性エマルジョンに金属粉末を含有させた導電性塗料が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。この導電性塗料では、スプレーによる吹き付け塗装、又はローラーでの塗装が可能になるため、従来の導電性金属箔テープを用いるには適さなかった広範囲にわたる補修または対策が可能になる。また、スプレーで吹き付けることにより、凹凸や曲面、手の入らない隙間及びコーナー部分への使用も導電性金属箔テープに比べ、非常に容易に行うことができる。
【特許文献1】特開2003−147271号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の導電性塗料では、単位厚さの塗膜が生じさせるシールド効果が十分でなく、必要なシールド効果を得るためには、この塗料を複数回塗布して比較的厚い塗膜を得なければならない、未だ解決すべき課題が残存していた。また、金属粉末としてニッケル粉末を用いた場合には、そのニッケル粉末が比較的高価なため結果的に得られた導電性塗料自体が非常に高価なものとなってしまう不具合もあった。
本発明の目的は、単位厚さのシールド特性を向上し得る導電性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、水溶性エマルジョン100重量部に、アスペクト比が20以上1000以下である導電性繊維が1〜20重量部混合された導電性塗料である。
その特徴ある点は、水溶性エマルジョンがアクリル酸エステル共重合エマルジョンであるところにある。
この請求項1に記載された導電性塗料では、水溶性エマルジョンに導電性繊維を混合するので、金属粉末を混合する従来の導電性塗料品に比較して、得られた塗膜中における金属物質の連鎖が向上し、単位厚さ当たりのシールド効果を向上させることができる。
そして、その水溶性エマルジョンがアクリル酸エステル共重合エマルジョンであるので、導電性繊維が混合されていても得られた導電性塗料の粘度を比較的低く抑えることができる。このため、この導電性塗料の塗装作業を、スプレーによる吹き付け塗装、刷子を用いた塗装、又はローラを用いた塗装であるロールコーティングが可能になり、その塗装作業を容易にすることができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、導電性塗料がロールコーティング用塗料であって、導電性塗料100重量部に対してポリビニルアルコール0.001〜0.02重量部含むことを特徴とする導電性塗料である。
この請求項2に記載された導電性塗料では、導電性塗料が常温で粉末の所定量のポリビニルアルコールを含むので、導電性塗料自体の粘度を向上させてロ−ラを用いたロールコーティングにふさわしい粘度とすることができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、導電性繊維が銀メッキ繊維または炭素繊維である導電性塗料である。
この請求項3に記載された導電性塗料では、導電性繊維である銀メッキ繊維または炭素繊維はニッケル粉末に比較して安価であり、ニッケル粉末を混合する従来の導電性塗料に比較して得られた導電性塗料の単価を安価にすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性塗料では、水溶性エマルジョン100重量部に、アスペクト比が20以上1000以下である導電性繊維を1〜20重量部混合するため、金属粉末を混合する従来の導電性塗料品に比較して、得られた塗膜中における金属物質の連鎖を向上させて、単位厚さ当たりのシールド効果を向上させることができる。そして、水溶性エマルジョンをアクリル酸エステル共重合エマルジョンとすることにより、導電性繊維が混合されていても得られた導電性塗料の粘度を比較的低く抑え、その塗装作業を容易にすることができる。ここで、導電性塗料がロールコーティング用塗料である場合には、ポリビニルアルコールを所定量含ませることにより、導電性塗料自体の粘度を向上させてロ−ラを用いたロールコーティングにふさわしい粘度とすることができる。また、導電性繊維として比較的安価な銀メッキ繊維または炭素繊維を用いることにより、粉末を混合する従来の導電性塗料に比較して得られた導電性塗料の単価を安価にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明は、通常の内装及び外装用の塗料である水溶性エマルジョンに導電性繊維を含有するように構成した導電性塗料である。そしてその比率は、水溶性エマルジョン100重量部に、導電性繊維を1〜20重量部混合する。そして、水溶性エマルジョンはアクリル酸エステル共重合エマルジョンである。ここで、水溶性エマルジョンがアクリル酸エステル共重合エマルジョンであることを要件とするのは、アクリル酸エステル共重合エマルジョンは比較的低粘度であり、低粘度であることが塗装の作業性や導電性繊維の分散性の点で更に好ましいからである。そして、その水溶性エマルジョンがアクリル酸エステル共重合エマルジョンであることにより、導電性繊維が混合されていても得られた導電性塗料の粘度を比較的低く抑えることにより、この導電性塗料の塗装作業を、スプレーによる吹き付け塗装、刷子を用いた塗装、又はローラを用いた塗装であるロールコーティングが可能になり、その塗装作業を容易にすることができる。
【0011】
また、水溶性エマルジョンに混合する導電性繊維を1〜20重量部に限定するのは、導電性繊維が1重量部未満であると十分な導電性を得ることが困難になり、20重量部を越えると得られた塗料の粘性が上昇して得られた塗料の塗布作業が困難になる。なお、導電性繊維の混合比率は、適正な粘度と得られる導電性とのバランスから5〜10重量部であることが好ましく、8〜10重量部であることが更に好ましい。
また、導電性繊維は、そのアスペクト比が20以上1000以下であるものが用いられる。ここで、導電性繊維のアスペクト比を20以上1000以下とするのは、アスペクト比が20未満であると十分な導電性を得ること困難になり、1000を越えるとその繊維を得ることが困難になるからである。導電性繊維の更に好ましいアスペクト比は20以上200以下である。
【0012】
ここで、導電性塗料がロールコーティング用塗料である場合には、導電性塗料100重量部に対してポリビニルアルコール0.001〜0.02重量部含ませることが好ましい。このように、導電性塗料に常温で粉末の所定量のポリビニルアルコールを含ませることにより、導電性塗料自体の粘度を向上させてロ−ラを用いたロールコーティングにふさわしい粘度とすることができる。ポリビニルアルコールが0.001重量部未満であると、導電性塗料自体の粘度がロールコーティングにふさわしい粘度にまで上昇させることが困難になる。ポリビニルアルコールが0.02重量部を越えると、導電性塗料自体の粘度たロールコーティングにふさわしい粘度を越えるおそれがある。ポリビニルアルコールを含ませる場合の更にふさわしい範囲は、導電性塗料100重量部に対してポリビニルアルコール0.005〜0.015重量部である。
【0013】
更に、導電性繊維は銀メッキ繊維または炭素繊維であることが好ましい。これらは比較的安価に入手しうることから好ましい。ここで、銀メッキ繊維は、有機繊維に銀メッキを施すことが好ましい。有機繊維とは天然及び合成の有機物の繊維、即ち綿、麻、再生セルロース、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィン、ポリエステル等の繊維である。この有機繊維の太さは0.1〜15d(d=デニール)で、0.1dより細いと、金属の被覆量を多く必要とし、比重も大きくなり、また15dより太いと、金属の被覆量は減らせるけれども、繊維が堅くなり得られた塗料の塗布作業性が劣ることになる。金属である銀を被覆する方法は、無電解メッキ法でその他の方法として真空蒸着法等があるが、無電解メッキ法が量産性に優れていて好ましい。金属である銀の被覆量は5〜50重量%で、5重量%より少ないと繊維を十分に被覆することができず、導電性が悪くなり、50重量%を越えると比重が大きくなる。
【0014】
このように構成された本発明の導電性塗料では、スプレーによる吹き付け塗装、又はローラーでの塗装を可能とし、従来の導電性金属箔テープを用いるには適さなかった広範囲にわたる補修または対策が可能にするものである。また、スプレーで吹き付けることにより、凹凸や曲面、手の入らない隙間及びコーナー部分への使用も導電性金属箔テープに比べ、非常に容易に行うことができるものである。この塗料は塗布後、室温の約26℃で乾燥される。
【0015】
また本発明の導電性塗料では、導電性の繊維を使用することによって、得られた塗膜が非常に優れた導電性を有することになる。即ち、塗膜の導電性能はその塗膜中に含まれる導電性成分の体積的な比率に依存するため、従来用いられていた金属粉末はその姿がフレーク状であっても体積が小さいため、目標とする導電性能を得るためには上記に挙げた通り、樹脂成分の重量に対し、数倍の量が必要となっていた。こらに対して導電性繊維を混合した本発明では、その長さを調節することで、樹脂成分との体積比率が同等あるいはそれ以上となり、結果的に非常に少ない添加量で、高い導電性能を持たせることが可能となる。
【実施例】
【0016】
次に本発明の実施例を説明する。
<実施例1>
水溶性エマルジョンとしてのアクリル酸エステル共重合エマルジョンにアスペクト比が20である炭素繊維および粘度調整剤を撹拌しながら少量づつ添加し、エマルジョンと炭素繊維の混合物からなる導電性塗料を得た。この時のエマルジョンと炭素繊維は重量比で10:1となるようにした。この作製物をスプレーガンにより厚さ12mmであって、外形が700×700mmの合板の表面に塗布乾燥させた後、その得られた塗膜の厚さと表面電気抵抗値を測定した。その結果、塗膜の厚さは0.2mmであって、電気抵抗値は2×100Ωであった。
次に電波シールド性能を測定した。電磁波シールド測定室に設けた710×710mmの開口部分に、この塗料を塗布した合板を取り付け、未塗布の合板を取り付けた場合との開口部分を透過する電波レベルの差から、開発した導電性塗料のシールド性能を測定した。測定には発信側、受信側共にログペリ型のアンテナを使用しスペクトルアナライザのトラッキングジェネレータを使い、周波数が400MHzから3GHzまでの電波を連続で発生させるようにした。測定周波数を400MHzとしたのは、開口部分の面積と電波の波長を考慮したものである。
その結果、塗料のシールド性能としては、非常に高い、55dB(周波数400MHz−3GHz)という性能を得た。
【0017】
<実施例2>
実施例1と同様の方法で、水溶性エマルジョンとしてのアクリル酸エステル共重合エマルジョンに銀メッキ繊維を混合した導電性塗料を得た。その時の銀メッキ繊維のアスペクト比は20で、エマルジョンとの混合比は10:1である。そして、実施例1と同様に得られた導電性塗料を合板に塗布乾燥させた後、得られた塗膜の厚さと表面電気抵抗値、及びシールド性能を実施例1と同様に測定した。その結果、塗膜の厚さは0.2mmであって、電気抵抗値は6×10-1Ωであった。そしてそのシールド性能は実施例1を上回る60dBであった。
【0018】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で、水溶性エマルジョンとしてのアクリル酸エステル共重合エマルジョンにNi粉末を混合した導電性塗料を得た。この時のエマルジョンとNi粉末の重量比は1:3となるようにした。そして、実施例1と同様に得られた導電性塗料を合板に塗布乾燥させた後、得られた塗膜の厚さと表面電気抵抗値、及びシールド性能を実施例1と同様に測定した。その結果、塗膜の厚さは0.2mmであって、表面電気抵抗値は1×104Ωという結果であった。そしてその電磁波シールド性能は15dBであった。
【0019】
<評価>
実施例1の導電性塗料では、得られた塗膜により2×100Ωという表面電気抵抗値が得られた。また実施例2の導電性塗料では、得られた塗膜により6×10-1Ωという表面電気抵抗値が得られた。一方、Ni粉末を混合した比較例1では得られた塗膜の表面電気抵抗値は著しく高い1×104Ωである。従って、これらの結果からしても、本発明の導電性塗料は、塗布乾燥させることにより電波シールド材料として十分に使用できる塗膜を得ることができることが判る。また本発明品は、従来の内外装用塗料と同様の現場用途布機械が使用できるため、取扱いも容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性エマルジョン100重量部に、アスペクト比が20以上1000以下である導電性繊維が1〜20重量部混合された導電性塗料であって、
前記水溶性エマルジョンがアクリル酸エステル共重合エマルジョンであることを特徴とする導電性塗料。
【請求項2】
導電性塗料がロールコーティング用塗料であって、導電性塗料100重量部に対してポリビニルアルコール0.001〜0.02重量部含むことを特徴とする請求項1記載の導電性塗料。
【請求項3】
導電性繊維が銀メッキ繊維または炭素繊維である請求項1又は2記載の導電性塗料。

【公開番号】特開2007−91859(P2007−91859A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282266(P2005−282266)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(390001339)光洋産業株式会社 (46)
【Fターム(参考)】