説明

導電性微粒子の製造方法および導電性微粒子

【課題】複合タングステン酸化物を含んでなる導電性粒子をより低温で生成させる製造方法と、複合タングステン酸化物を含んでなる導電性粒子を提供する。
【解決手段】一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物を含む導電性粒子の製造方法であって、当該導電性粒子の原料となるタングステン化合物またはタングステン化合物と上記M元素化合物とを、アルコールもしくはアルコール水溶液中でソルボサーマル合成反応処理する導電性粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子の製造方法と、複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子とに関する。詳細には、ソルボサーマル合成反応による複合タングステン導電性微粒子の製造方法と、複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや太陽電池に不可欠の部材である透明導電膜は、真空技術を用いて製造されている。これに対し、当該真空技術を用いずに、導電性粒子微粒子や溶液を用いて透明導電膜を形成する方法が、様々に開発され、提案されている。
【0003】
特許文献1には、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony−doped Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO、SnO、CaWOから選ばれた透明導電膜形成用金属酸化物微粒子の分散液を被処理基板上に塗布し、大気中で150〜200℃で焼結して多孔質透明導電膜を形成した後、酸素またはオゾンを含むガスとハロゲン化インジウムガスまたは有機インジウムガスとの混合ガス雰囲気中において、100℃〜250℃で加熱成膜する低抵抗透明導電膜の製造法が提案されている。
【0004】
特許文献2には、インジウム化合物およびスズ化合物を含有し、かつ、アルカリ金属の含有量が2質量ppm以下であることを特徴とする透明導電膜形成液、および、当該透明導電膜形成液を用いた透明導電膜付基体の製法が提案されている。
【0005】
特許文献3には、平均1次粒子径10〜60nmのITO微粒子が、平均2次粒子径120〜200nmの2次粒子を形成し、当該2次粒子が分散している透明導電膜形成用インク組成物と、当該透明導電膜形成用インク組成物を用いて成膜された透明導電膜とが提案されている。
【0006】
また、最近では、ITOやATO、IZOのほかに、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物を含んでなる導電性粒子も検討されている。
【0007】
特許文献4には、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩とを原料とし、当該原料の混合水溶液を約300〜700℃に加熱して乾固物を得、当該乾固物に対して不活性ガス(添加量;約50vol%以上)を添加した水素ガス、または、水蒸気(添加量;約15vol%以下)を添加した水素ガスを供給することによる、一般式MxWO(但し、M;アルカリIa族、IIa族、希土類などの金属元素、0<x<1)で表される種々のタングステンブロンズの調製方法が提案されている。
【0008】
特許文献5には、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物を含んでなる導電性粒子の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−249125号公報
【特許文献2】特開2004−026554号公報
【特許文献3】特開2001−279137号公報
【特許文献4】特開平8−73223号公報
【特許文献5】特開2006−156121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、以上の諸提案にはそれぞれ透明導電膜としての欠点、または、実用化を阻む問題点がある。
特許文献1記載の透明導電膜は、材料コストの高いインジウムを含む。他方、インジウムを含まない場合は、得られた導電膜の抵抗値が高いといった問題がある。
特許文献2、3に記載の導電膜は、いずれもインジウムを含むために材料コストが高い。
また、特許文献4に記載のタングステンブロンズは、燃料電池などの電極触媒やエレクトロクロミック材料へ利用される固体材料として考えられており、透明導電性に関する考察はされていない。
さらに、特許文献5に記載のタングステン酸化物または/および複合タングステン酸化物は、実施例記載のように、その製造において最終的に700℃〜800℃という高い温度で処理する必要があった。
【0011】
本発明は、上述の状況のもとで成されたものであり、複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子をより低温で生成させる製造方法と、複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明者等が鋭意研究を継続した結果、ソルボサーマル合成反応処理により、複合タングステン酸化物を含んでなる導電性微粒子の生成温度低下させることが出来るという、画期的な技術的知見を得て本発明を完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物を含む導電性微粒子の製造方法であって、
当該導電性微粒子の原料となるタングステン化合物と上記M元素化合物とを、アルコールもしくはアルコール水溶液中でソルボサーマル合成反応を用いて反応させることを特徴とする導電性微粒子の製造方法である。
第2の発明は、
上記導電性微粒子を、還元性ガスおよび/または不活性ガス雰囲気下で処理することを特徴とする第1の発明に記載の導電性微粒子の製造方法である。
第3の発明は、
上記導電性微粒子の原料となるタングステン化合物は、六塩化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸、から選択される1種類以上であることを特徴とする第1または第2の発明のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法である。
第4の発明は、
上記導電性微粒子の原料となるM元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、
B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の水酸化物、または、水和物、または、水やアルコールに溶解する化合物、であることを特徴とする第1または第2の発明のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法である。
第5の発明は、
ソルボサーマル合成反応の溶媒がアルコール、または、アルコール水溶液であることを特徴とする第1または第2の発明のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法である。
第6の発明は、
ソルボサーマル合成反応の加熱温度が100℃から300℃であることを特徴とする第1または第2の発明のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法である。
第7の発明は、
導電性微粒子の形状が、繊維状、針状、ロッド状、ディスク状、または、板状のいずれか1種類以上であることを特徴とする第1〜第6の発明のいずれかの製造方法によって得られた導電性微粒子である。
第8の発明は、
第1から第6の発明のいずれかに記載の導電性微粒子へ、分子中に窒素原子を有する還元性ガス、または、前記還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスの、いずれかの雰囲気下において、300℃〜900℃のアニール処理をすることを特徴とする導電性微粒子の製造方法である。
第9の発明は、
第8の発明に記載の導電性微粒子の製造方法で製造された、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記され、X線光電子分光分析において、396.4eVのW−Nボンドに対応するピークを有する複合タングステン酸化物を含むことを特徴とする導電性微粒子である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複合タングステン酸化物の原料化合物から、複合タングステン酸化物を生成させる温度を大幅に低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1に係る微粒子のSEM像である。
【図2】本発明の実施例2に係る微粒子のTEM像である。
【図3】本発明の実施例3に係る微粒子のTEM像である。
【図4】本発明の実施例4に係る微粒子のTEM像である。
【図5】本発明の参考例1に係る微粒子のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、まず複合タングステン酸化物から成る導電性微粒子の製造方法について詳細に説明し、次に製造された導電性微粒子について詳細に説明する。
【0017】
1.導電性微粒子の製造方法
一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be
、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物を含む導電性微粒子は、当該導電性微粒子の原料となるタングステン化合物(以下、「タングステン化合物出発原料」と称する場合がある。)を、アルコールもしくはアルコール水溶液中におけるソルボサーマル合成反応により得られる。さらに、得られた導電性微粒子を還元性ガスおよび/または不活性ガス雰囲気下で処理することにより、優れた導電性を有する微粒子を従来の合成方法より低温で得ることができる。
以下、タングステン化合物出発原料、ソルボサーマル合成反応、さらに付加的な処理として還元性ガス雰囲気下におけるアニール処理の順に説明する。
【0018】
[タングステン化合物出発原料]
上記導電性微粒子のタングステン化合物の出発原料には、六塩化タングステン(WCl)、オキシ塩化タングステン(WOCl又はWOCl)、タングステン酸アンモニウム((NHWO)、タングステン酸から選択される1種類以上が好ましい。
【0019】
M元素の原料には、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素を含む、水酸化物、水和物、および、水やアルコールに可溶なM元素の化合物が好ましい。
また、M元素化合物として、M元素のタングステン酸塩(MWO)を用いることも好ましい構成である。タングステン酸ナトリウムやタングステン酸セシウムは、試薬をはじめ容易に入手可能である。但し、M元素の化合物としてM元素のタングステン酸塩(MWO)を用いるときは、当該MWOとタングステン化合物の出発原料との配合量は、所望のMxWyOzのxとyの比となる配合量として調整することに留意しなければならない。
【0020】
使用するアルコールは特に限定されない。但し、当該使用されるアルコールは、水に溶解するアルコールであることが好ましい。具体的には、アルコールのうちでも、特に水に対する溶解性に富むメタノール、エタノールやプロパノール等の水と任意に溶解するアルコールを用いることが好ましい。また、アルコールと水の配合比率は、特に限定されない。
【0021】
タングステン化合物出発原料、M元素の各原料化合物材料、および、溶媒となるアルコールと水の混合方法は、特に制限されないが、例えば、全ての原材料と溶媒を一括して混合してもよいし、各原材料と溶媒とを順次混合していってもよい。原材料を混合することで原材料混合物を得ることが出来る。
さらに、タングステン化合物出発原料やM元素の各原料化合物材料の、アルコールまたは水への溶解性に応じて、例えば、タングステン化合物出発原料をあらかじめアルコールへ溶解したタングステン化合物出発原料アルコール溶液を調製し、他方、M元素化合物を水に溶解したM元素化合物水溶液を調製し、両者を混合することとしてもよい。尤も、各原材料の混合は、使用する溶媒の沸点以下で行う。
【0022】
[ソルボサーマル合成反応]
ソルボサーマル合成反応とは、一般的に高温の溶媒、特に高温高圧の溶媒の存在の下に行われる物質の合成および結晶成長法をいう。
具体的には、前記各原材料を混合し、オートクレーブ、ソルボサーマル合成装置、等の反応器中での加圧下、100〜300℃程度の温度で加熱して、数時間〜数日間、攪拌または静置して反応させるものである。
【0023】
尚、本発明において、昇温速度とは、1時間あたりの温度変化を示すものである。すなわち、昇温速度は1時間あたりの平均の温度変化を意味する。当該1時間あたりの温度変化は、1時間の始めと終わりの温度差から求められる。そして、前記特定の温度領域(室温から100℃までの温度領域)における温度上昇速度を求めるに際しては、1時間あたりの温度変化は、混合時もしくは昇温開始時を起点として1時間ごとに継続して測定することが好ましい。
前記特定の温度領域(室温から100℃までの温度領域)、および、当該温度領域以外における昇温速度の下限は、特に制限されるものではない。
尤も、工業的な生産性を考慮すれば、反応器内の温度を、速く目的の温度に到達させるのが望ましい。従って、前記温度上昇速度は、好ましくは1.5℃/時間以上、より好ましくは6℃/時間以上であるのがよい。ただし、昇温開始直後や、反応器内の温度が目的温度に到達する直前には、加熱操作の特性上、前述した下限の好ましい範囲を下回ることもある。
【0024】
前記ソルボサーマル合成反応における加熱手段は、特に限定されるものではない。例え
ば、反応器を、ソルボサーマル合成装置のボックス内に設置しボックス内を電気加熱してボックス内雰囲気の温度上昇により反応器を加熱する方法(ボックス式)、反応器の外側にジャケットを備えた反応器を用い、当該ジャケットに高温流体を流通させることで反応器内の混合物を加熱する方法、反応器の外側にバンドヒータ等の固体加熱装置を接触させることで反応器内の混合物を加熱する方法、反応器内部に流体を流通させうる配管を設置し、当該配管に高温流体を流通させることで反応器内の混合物を加熱する方法などを採用することができる。
【0025】
昇温速度は、通常、加熱用媒体の温度(例えば、前記高温流体の温度や前記固体加熱装置の設定温度など)を一定の速さで徐々に上げていく方式(直線状に加熱する方式)や、加熱用媒体の温度を一定時間ごとに上げていく方式(階段状方式)などがある。本発明においては、両方式を採用可能であるが、加熱媒体の温度と、反応器内の温度(反応器内の混合物の温度)との間には、一般に温度差が生じる。当該温度差の為、加熱媒体の温度上昇を停止して一定温度を維持しても、反応器内の温度が一定の温度になるまでには時間的ずれが生じる。そのため、通常、反応器内の温度が目標とする温度よりも10〜20℃低い温度に達した時点で加熱用媒体の温度を一定に保持し、反応器内の温度の上昇が止まって一定になるのを確認した後に、再度、加熱媒体の温度を調節し、最終的に内温が所望の温度になるようにする、といった手法を採ることが好ましい。
【0026】
ソルボサーマル合成反応を行う際は、反応容器を攪拌してもよいし、静置してもよい。
上述のソルボサーマル合成反応により、上記タングステン化合物出発原料とM元素化合物とを、アルコールまたはアルコール水溶液と共に、300℃以下で反応させることで、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0027】
[還元性ガス雰囲気下におけるアニール処理]
得られた微粒子を、分子中に窒素原子を有する還元性ガス、または、当該還元性ガスと不活性ガスの混合ガスの、いずれかの雰囲気下でアニール処理することにより、当該微粒子の導電性がさらに向上するので好ましい構成である。上述の分子中に窒素原子を有する還元性ガスとして、例えば、NHガスを挙げることが出来る。一方、上述の不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムガスを挙げることが出来る。
【0028】
上述したアニール処理温度は特に限定されないが、導電性を向上させる観点からは300℃〜900℃、好ましくは400℃〜900℃であり、さらに好ましくは400℃〜700℃である。尤も、アニール処理温度が900℃以下であれば、タングステン酸化物微
粒子または複合タングステン酸化物微粒子から金属のタングステンが析出することが回避できる。
アニール処理時間は、アニール処理温度やタングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子の処理量により適宜選択できるが、30分間〜120分間が望ましい。
NHなどの還元性ガスと、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスとの混合比率は、上述した処理時間、処理温度や処理量により適宜選択すれば良い。ただし、いずれの条件を選択するにしても、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子から金属のタングステンを析出させないことが肝要である。
【0029】
2.導電性微粒子
一般に、三酸化タングステン(WO)は可視光透過性に優れるが、有効な伝導電子(自由電子)が存在しないため、導電性材料としては有効でない。ここで、WOのタングステンに対する酸素の比率を3より低減することによって、WO中に自由電子が生成される。さらに、当該タングステンと酸素との組成範囲の特定部分において、導電性材料として特異的に有効な範囲がある。
【0030】
上記タングステン酸化物において、導電性材料として特異的に有効な範囲なタングステンと酸素との組成範囲は、当該導電性微粒子をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が、2.2以上であれば、当該導電性微粒子中に目的以外であるWOの結晶相が現われるのを回避することができると共に、材料としての化学的安定性を得ることができるので有効な導電性材料として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量の自由電子が生成され導電材料となる。
【0031】
ここで、上述したタングステン酸化物微粒子へ、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種以上の元素)を添加し、複合タングステン酸化物微粒子とすることによっても、当該複合タングステン酸化物微粒子中に自由電子が生成され、導電材料として有効となる。
【0032】
この場合、この導電性微粒子は、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物であることが肝要である。さらに、安定性の観点からは、M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素であることが好ましい。
さらに、光学特性、耐候性を向上させる観点からは、前記M元素は、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属する元素から選択される1種類以上の元素であることがさらに好ましい。
【0033】
上記MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物において、酸素量の制御を示す
z/yの値について説明する。
当該複合タングステン酸化物においても、前述したタングステン酸化物WyOzと同様に、z/yの値が、(2.2≦z/y≦2.999)の範囲で伝導電子(自由電子)が発現される。当該複合タングステン酸化物においては、これに加え、z/y=3.0においても、上述したM元素の添加量による伝導電子の供給があるため、z/yの好ましい値は2.2≦z/y≦3.0、さらに好ましくは2.72≦z/y≦3.0である。そして、当該複合タングステン酸化物においては、z/y=3が当該添加元素Mの最適添加量となる。これは、上述のようにMxWyOzが、いわゆるタングステンブロンズの結晶構造をとることによる。
【0034】
一方、タングステン1モルに対するM元素の添加量は、化学量論的には、六方晶タングステンブロンズの結晶構造の場合に0.33モル程度までが好ましく、正方晶タングステンブロンズの結晶構造の場合に0.5モル程度が好ましく、立方晶タングステンブロンズの結晶構造の場合に1モル程度までが好ましい。但し、上記の結晶構造が種々の形態を取り得るので、添加元素Mの添加量は必ずしも上述の添加量に限定されるものではない。
【0035】
上述したように、得られたタングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子へ、分子中に窒素原子を有する還元性ガス雰囲気下におけるアニール処理を行うことで当該微粒子の導電性がさらに向上する。
これは、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子のO2−サイトのO2−がN3−で置換されたサイトが生成し、当該微粒子において電荷バランス保持の為、アニオン欠陥が増加することによって導電性が向上するのだと考えられる。
【0036】
この現象を、還元性ガスとしてNHガスを用いた場合で説明する。
まず、当該NHガスを用いたアニール処理を行わなかったタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を、XPS(X線光電子分光分析)で測定すると、N1sにピークが観察されなかった。
一方、当該NHガスを用いたアニール処理を行ったタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子では、N1sにピークが確認された。当該確認されたN1sピークは、微粒子表面に吸着した窒素の電子状態のピーク(401.3eVのN−Hボンドに対応するピーク)と、粉内部に固溶した窒素の電子状態のピーク(396.4eVのW−Nボンドに対応するピーク)とである。
ここで、当該NHガスを用いたアニール処理後の微粒子にArスパッタリングを実施すると、微粒子表面に吸着した窒素のピークのみが消失した。タングステン酸化物および複合タングステン酸化物は、W6+イオンが6個のO2−イオンで囲まれたWO八面体構造を基本としている。従って、396.4eVのW−Nボンドを有することは、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子において、O2−サイトのO2−がN3−で置換されたサイトが存在することを意味する。
以上の測定結果から、窒素は、NHガスを用いたアニール処理により、確実にタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の結晶内部に侵入しており、当該窒素の侵入は、欠損酸素位置の置換により行われていると考えられる。
アニール処理を行ったタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子は、Arスパッタリングを実施しても396.4eVのピークを有することから、アニール処理によりタングステン原子に結合した窒素原子を有するタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子であり、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子のO2−サイトのO2−がN3−で置換されたサイトが生成し、当該微粒子において電荷バランス保持の為、アニオン欠陥が増加することによって導電性が向上するのだと考えられる。
【0037】
また、本実施形態の導電性微粒子は、粒径が200nm以下、好ましくは100nm以
下がよい。粒子径が200nm以下の場合には、幾何学散乱もしくはミー散乱によって、400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が大きくなり、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなることを回避できる。膜に鮮明な透明性を得るためには、光の散乱をできるだけ抑える必要があり、その有力な方法は粒子径を減少させることである。即ち、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱が低減し、ミー散乱もしくはレイリー散乱のモードが強くなる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。
【0038】
さらに、本実施形態の導電性微粒子の粒子径が50nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましい。しかし、本実施形態の導電性微粒子の粒子径が極度に小さくなると、粒子表面の化学組成が変化しやすく、赤外線遮蔽機能が低減する場合があるので粒子径が1nm以上であることが好ましい。また、合成可能な工業的に比較的容易に製造できる粒子サイズは、粒子径が0.1nm以上である。
【0039】
一般的に、複合タングステン酸化物においてイオン半径の大きなM元素を添加したとき、六方晶を形成することが知られている。具体的には、複合タングステン酸化物に、Cs、K、Rb、Tl、Ba、In、Li、Ca、Sr、Fe、Snの各元素を添加したとき、六方晶を形成しやすく好ましい。尤も、これらの元素以外でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよく、上記元素に限定されるものでない。また、これらの六方晶の構造を持つ複合タングステン酸化物は、均一な結晶構造でもよく、不規則でも構わない。
【0040】
六方晶構造を有する複合タングステン酸化物の導電性微粒子が均一な結晶構造を形成したとき、添加元素Mの添加量は0.1以上、0.4以下が好ましく、さらに好ましくは0.33である。これは、WOで形成する六方晶結晶構造の最大の空隙をすべてCsイオンで埋めたときのMの添加量の値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい導電性が得られるからである。
【0041】
本実施形態の導電性微粒子の形状は、繊維状、針状、ロッド状、ディスク状もしくは板状のいずれか1種類以上である。高導電性微粒子が膜中に分散して導電膜を形成する場合、電子が通過する導電パスは接触した粒子間を流れていく。従って、微粒子の形状が球状であるよりも、板状、ディスク状、ロッド状、針状、繊維状、髪の毛状のいずれかである方が、高い導電性が得られる。当該形状を有する導電性微粒子を構成するタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子は、2次元の膜に分散した時に、優れた導電性を発揮する。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例を参考例とともに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、各実施例において、圧粉抵抗値の測定はvander Pauw法(第4版、実験化学講座9電気・磁気 平成3年6月5日発行、編者:社団法人 日本化学会、発行所:丸善株式会社を参照)に拠っている。
試料は10mmφの円盤状に圧粉した加圧ペレットとし、当該円盤面に90°間隔で4端子の電極を設置し、9.8MPaの加圧をしながら、隣り合う2端子間に電流を流したときの残りの2端子間の電圧を測定し、抵抗値を算出した。
【0043】
[実施例1]
室温(25℃)下にて、容積100mlのテフロン(登録商標)製静置式耐圧封管(反応器)に、0.014molのWClと0.007molのCsClを入れ、さらに、
57.2vol%エタノール/水溶液を、当該容積100mlのテフロン(登録商標)製静置式耐圧封管が満たされるまで加えた。
これらの原材料を入れた容積100mlのテフロン(登録商標)製静置式耐圧封管を、200℃で10時間加熱してソルボサーマル合成反応を行なった。室温から200℃までの昇温速度は400℃/時間とした。尚、加熱にはボックス式のソルボサーマル合成反応装置を用いた。
析出した微粒子を、遠心分離器を用いて溶液から分離して取り出した後、エタノールで3回洗浄し、60℃で一晩真空乾燥し、実施例1に係る試料粉末を得た。
得られた実施例1に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例1に係る試料粉末はCs0.33WOと同定された。
実施例1に係る試料粉末の40000倍のSEM観察では、直径が約50nm、長さが約1μmの針状微粒子が観察された。当該実施例1に係る試料粉末の40000倍のSEM像を図1に示す。9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0090Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、テフロン(登録商標)製静置式耐圧封管に替えてテフロン(登録商標)製回転式耐圧封管を用い、水熱処理中に100rpmで回転させた以外は、実施例1と同様にして水熱処理を行ない、実施例2に係る試料粉末を製造した。実施例2に係る試料粉末のXRDパターンからCs0.33WOと同定された。
実施例2に係る試料粉末の50000倍のTEM観察では、直径が約10nm、長さが約100nmのナノロッド微粒子が観察された。当該実施例2に係る試料粉末の50000倍のTEM像を図2に示す。9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0100Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0045】
[実施例3]
室温(25℃)下にて、容積100mlのテフロン(登録商標)製回転式耐圧封管(反応器)に0.014molのWClと0.007molのNaClを入れ、42.8vol%エタノール/水溶液を反応器が満たされるまで加えた。
反応器を100rpmで回転させながら、200℃で10時間のソルボサーマル合成反応処理を行なった。なお、室温から200℃までの昇温速度は60℃/時間であった。また、加熱にはボックス式のソルボサーマル合成反応装置を用いた。
析出した微粒子を、遠心分離器を用いて溶液から分離して取り出した後、エタノールで3回洗浄し、60℃で一晩真空乾燥し、実施例3に係る試料粉末を得た。
得られた実施例3に係る試料粉末のXRD測定からNa0.5WOと同定された。
得られた実施例3に係る試料粉末の50000倍のTEM観察では、直径が約300nmの板状微粒子が観察された。当該実施例3に係る試料粉末の50000倍のTEM像を図3に示す。9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.1330Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0046】
[実施例4]
室温(25℃)下にて、容積100mlのテフロン(登録商標)製回転式耐圧封管(反応器)に0.014molのWClと0.0047molのCsClを入れ、エタノール50mlを加えた。
反応器を100rpmで回転させながら、200℃で10時間のソルボサーマル合成反応処理を行なった。なお、室温から200℃までの昇温速度は60℃/時間であった。また、加熱にはボックス式のソルボサーマル合成反応装置を用いた。
析出した微粒子を、遠心分離器を用いて溶液から分離して取り出した後、エタノールで3回洗浄し、60℃で一晩真空乾燥し、実施例4に係る試料粉末を得た。
得られた実施例4に係る試料粉末のXRD測定からCs0.33WOと同定された。
得られた実施例4に係る試料粉末の60000倍のTEM観察では、直径が約10nmで、長さが数μmのナノファイバー微粒子が観察された。当該実施例4に係る試料粉末の60000倍のTEM像を図4に示す。9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0070Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0047】
[実施例5]
200℃で10時間の加熱に替えて、150℃で24時間加熱した以外は実施例1と同様の操作を行って、実施例5に係る試料粉末を得た。
得られた実施例5に係る試料粉末のXRD測定からCs0.33WOと同定された。
得られた実施例5に係る試料粉末の10000倍のTEM観察では、直径が約50nm、長さが約1μmの針状微粒子が観察された。9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0128Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0048】
[実施例6]
200℃で10時間の加熱に替えて、250℃で6時間加熱した以外は実施例1と同様の操作を行って、実施例6に係る試料粉末を得た。
得られた実施例6に係る試料粉末のXRD測定からCs0.33WOと同定された。
得られた実施例6に係る試料粉末の20000倍のTEM観察では、直径が約50nm、長さが約1μmの針状微粒子が観察された。9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0071Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0049】
[実施例7]
室温(25℃)下にて、容積100mlのテフロン(登録商標)製静置式耐圧封管(反応器)に、0.014molのWClと0.0049molのCsOHを入れ、さらに、57.2vol%エタノール/水溶液を、当該容積100mlのテフロン(登録商標)製回転式耐圧封管が満たされるまで加えた。
この回転式耐圧封管を、水熱処理中に100rpmで回転させながら200℃で12時間加熱してソルボサーマル合成反応を行なった。室温から200℃までの昇温速度は400℃/時間とした。尚、加熱にはボックス式のソルボサーマル合成反応装置を用いた。
析出した微粒子を、遠心分離器を用いて溶液から分離して取り出した後、エタノールで3回洗浄し、60℃で一晩真空乾燥した。得られた乾燥粉を、500mL/分のNH流通雰囲気下400℃で1時間アニール処理し、実施例7に係る試料粉末を得た。
得られた実施例7に係る試料粉末に、金属タングステンの析出は見られなかった。
得られた実施例7に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例7に係る試料粉末はCs0.20WOと同定された。また、当該試料粉末へのXPS分析から、396.4eVにW−Nボンドに対応するピ−クが観察された。
実施例7に係る試料粉末の50000倍のSEM観察では、直径が約80nm、長さが約200nmのロッド状微粒子が観察された。また、9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0015Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0050】
[実施例8]
実施例7において、NH流通雰囲気下の温度を450℃とした以外は、実施例7と同様にして実施例8に係る試料粉末を得た。
得られた実施例8に係る試料粉末に、金属タングステンの析出は見られなかった。
得られた実施例8に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例8に係る試料粉末はCs0.20WOと同定された。また、当該試料粉末へのXPS分析から、396.4eVにW−Nボンドに対応するピ−クが観察された。
実施例8に係る試料粉末の50000倍のSEM観察では、直径が約80nm、長さが約200nmのロッド状微粒子が観察された。また、9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0013Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0051】
[実施例9]
実施例7において、NH流通雰囲気下の温度を500℃とした以外は、実施例7と同様にして実施例9に係る試料粉末を得た。
得られた実施例9に係る試料粉末に、金属タングステンの析出は見られなかった。
得られた実施例9に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例9に係る試料粉末は主相のCs0.33WOとCsWと同定された。また、当該試料粉末へのXPS分析から、396.4eVにW−Nボンドに対応するピ−クが観察された。
実施例9に係る試料粉末の50000倍のSEM観察では、直径が約80nm、長さが約200nmのロッド状微粒子が観察された。また、9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0010Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0052】
[実施例10]
実施例7において、NH流通雰囲気下の温度を700℃とした以外は、実施例7と同様にして実施例10に係る試料粉末を得た。
得られた実施例10に係る試料粉末に、金属タングステンの析出は見られなかった。
得られた実施例10に係る試料粉末をX線回折法で測定した。得られたX線回折パターンから、実施例10に係る試料粉末はCsWと同定された。また、当該試料粉末へのXPS分析から、396.4eVにW−Nボンドに対応するピ−クが観察された。
実施例10に係る試料粉末の50000倍のSEM観察では、直径が約80nm、長さが約200nmのロッド状微粒子が観察された。また、9.8MPaの圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.0008Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0053】
[参考例1]
炭酸Csとタングステン酸とを、Cs/Wのモル比が0.33となるように秤量して乳鉢で混合して混合物を得た。当該混合物を、還元雰囲気(アルゴン/水素=97/3体積比)中において600℃で2時間加熱した。そして、一旦、室温に戻した後、今度は、800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱して、Cs0.33WO組成を有する参考例1に係る試料粉末を得た。
参考例1に係る試料粉末は、X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズであった。当該参考例1に係る試料粉末の10000倍のSEM像を図5に示す。図5から明らかなように、参考例1に係る試料粉末には六角柱の結晶が観察された。参考例1に係る試料粉末を9.8MPa圧力下で測定した圧粉抵抗値は0.013Ω・cmであり、良好な導電性が確認された。
【0054】
【表1】

【0055】
[評価]
実施例1〜実施例10、参考例1に係る試料粉末の圧粉抵抗値の測定値を表1に示す。
表1に示す測定結果より、実施例1〜実施例10に係る試料粉末の圧粉抵抗値は、600〜800℃という高温下で製造された参考例1に係る試料粉末の圧粉抵抗値に匹敵する程低く、導電性が良好であった。特に、実施例1、2、実施例4〜10に係る試料粉末の圧粉抵抗値は、参考例1に係る試料粉末の圧粉抵抗値より低く、導電性が非常に良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物を含む導電性微粒子の製造方法であって、
当該導電性微粒子の原料となるタングステン化合物と上記M元素化合物とを、アルコールもしくはアルコール水溶液中でソルボサーマル合成反応を用いて反応させることを特徴とする導電性微粒子の製造方法。
【請求項2】
上記導電性微粒子を、還元性ガスおよび/または不活性ガス雰囲気下で処理することを特徴とする請求項1記載の導電性微粒子の製造方法。
【請求項3】
上記導電性微粒子の原料となるタングステン化合物は、六塩化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸、から選択される1種類以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法。
【請求項4】
上記導電性微粒子の原料となるM元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の水酸化物、または、水和物、または、水やアルコールに溶解する化合物、であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法。
【請求項5】
ソルボサーマル合成反応の溶媒がアルコール、または、アルコール水溶液であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法。
【請求項6】
ソルボサーマル合成反応の加熱温度が100℃から300℃であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の導電性微粒子の製造方法。
【請求項7】
導電性微粒子の形状が、繊維状、針状、ロッド状、ディスク状、または、板状のいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの製造方法によって得られた導電性微粒子。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の導電性微粒子へ、分子中に窒素原子を有する還元性ガス、または、前記還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスの、いずれかの雰囲気下において、300℃〜900℃のアニール処理をすることを特徴とする導電性微粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性微粒子の製造方法で製造された、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.1、2.2≦z/y≦3.0)で表記され、X線光電子分光分析において、396.4
eVのW−Nボンドに対応するピークを有する複合タングステン酸化物を含むことを特徴とする導電性微粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−100710(P2011−100710A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61243(P2010−61243)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】