説明

導電性材料の製造方法及び該方法により製造された導電性材料

【課題】排ガス中のスス等の炭素含有粒子を有効利用する方法を提供すること。
【解決手段】排気ガス中に含まれる炭素含有粒子と、植物精油含有水溶液との混合物に対し、加圧成形と不活性ガス雰囲気下又は真空下での熱処理を施すことを含む導電性材料の製造方法、及びこの方法により製造された導電性材料を提供した。
【効果】本発明の方法は、排気ガスより回収したスス等の炭素含有粒子を単純な操作で導電性材料にすることができるため、極めて効率的であり、実用化も容易である。また、従来廃棄されていた排気ガス中の炭素含有粒子を原料として、炭素電極等として利用可能な導電性材料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料の製造方法及び該方法により製造された導電性材料に関する。より詳細には、排気ガス中に含まれる炭素含有粒子を用いた導電性材料の製造方法及び導電性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、火力発電や自動車や船舶等、化石燃料を多く使用する場面が多くなっている。これに伴い、化石燃料を燃焼することにより発生する酸化窒素化合物(NOx)、酸化硫黄化合物(SOx)、粒子状物質(PM; particulate matter)が大気中に放出され、大気汚染等の問題を引き起こしている。
【0003】
排気ガスによる大気汚染等の問題を解決するため、近年、排気ガス中に含まれる粒子状のスス等のPMを効率良く除去するための種々の装置が開発されている。例えば、特許文献1の装置では、植物精油含有水溶液の蒸気と排気ガスとを接触させて、植物精油含有水溶液のエアロゾル粒子とPMとを結合させ、粒径が増大した結合粒子をフィルターで捕捉する。粒径を増大させることにより、粒径の小さいPMが引き起こすフィルターの目詰まりを防止し、かつ、捕捉困難な微小サイズのPMの捕捉も可能となり、効率良くPMを捕集することができる。このような装置の開発により、排気ガスからのPM回収量も増大している。
【0004】
一方、排気ガス中から回収したススの利用方法としては、回収したススを精製しフラーレンを得る方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2の方法では、排気ガスより回収したススから得られるフラーレンは微量であり、回収したススの再生利用方法として実用化するには不十分である。
【0005】
回収したススの利用方法として、実用化が可能な効率のよい利用方法は知られておらず、回収されたススは廃棄されているのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−172130号公報
【特許文献2】特開平05−186209号公報
【特許文献3】米国特許第6,165,964号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、排ガス中のスス等の炭素含有粒子を有効利用する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、排気ガス中に含まれる粒子状のスス等の炭素含有粒子と、植物精油含有水溶液との混合物は、加圧によりペレット化することが可能であること、さらに、そのようにして形成されたペレットを加熱することにより、ペレットを導電性物質にすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、排気ガス中に含まれる炭素含有粒子と、植物精油含有水溶液との混合物に対し、加圧成形と不活性ガス雰囲気下又は真空下での熱処理を施すことを含む導電性材料の製造方法を提供する。また、本発明は、上記本発明の方法により製造された導電性材料を提供する。さらに、本発明は、上記本発明の導電性材料を用いて製造された炭素電極を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、排気ガス中に含まれる粒子状のスス等の炭素含有粒子から導電性材料を得る方法が初めて提供された。本発明の方法は、排気ガスより回収したスス等の炭素含有粒子を単純な操作で導電性材料にすることができるため、極めて効率的であり、実用化も容易である。また、従来廃棄されていた排気ガス中の炭素含有粒子を原料として、炭素電極等として利用可能な導電性材料を得ることができるため、産業上もきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法で、導電性材料の原料として用いられる炭素含有粒子とは、排気ガス中に含まれる、炭素成分を含む粒子状の物質のことをいう。前記炭素成分としては、元素状炭素(elemental carbon)の他、有機炭素、無機炭素が包含される。炭素含有粒子としては、粒子状であれば固体であっても液体のエアロゾル等であってもよく、例えばスス、未燃焼燃料等が挙げられる。中でもススが好ましく、特にディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるススが好ましい。なお、特に限定されないが、本発明で用いられる炭素含有粒子の粒径は、概ね100μm〜0.001μm程度である。なお、排気ガス中の有害物質のうち、粒子状の成分は粒子状物質(PM; particulate matter)と表現されることがあるが、化石燃料を用いる内燃機関の排気ガス中に含まれるPMは大部分が炭素成分を含有する粒子であるため、本明細書においては、「PM」という語を炭素含有粒子の意味で用いることがある。
【0012】
排気ガスとしては、上記した炭素含有粒子を含む排気ガスであれば特に限定されず、いかなる内燃機関から放出されるものであってもよい。そのような排気ガスを放出する内燃機関の例としては、化石燃料を用いるものが挙げられ、火花点火機関(ガソリンエンジン等)、圧縮点火機関(ディーゼルエンジン等)等が挙げられる。これらのうち、ディーゼルエンジンは、上記した炭素含有粒子を多く含む排気ガスを放出するので、本発明で用いられる炭素含有粒子を含む排気ガスとしては、ディーゼルエンジンの排気ガスが好ましい。
【0013】
排気ガスからの炭素含有粒子の回収方法は、特に限定されず、排気ガス中の粒子を分離して回収できる方法であれば、いかなる方法であってもよい。例えば、排気ガスをフィルターに通してPMを回収し、該PMを上記炭素含有粒子として用いることができる。フィルターにより回収されるPMには、炭素成分以外の成分(イオウ、鉄、重金属等)も含まれ得るが、本発明の方法においては、抽出工程を経ることなく、回収されたPMをそのまま上記炭素含有粒子として使用することができる。また、排気ガス中のPMを除去する種々の装置が公知であり(例えば特許文献1等)、また、市販もされているので(株式会社ジュオン等)、そのような公知の装置により捕集されたPMを、上記炭素含有粒子として好ましく用いることができる。特に、後述するとおり、特許文献1の装置や市販の排気ガス浄化装置(株式会社ジュオン)のように、植物精油含有水溶液のエアロゾル粒子と排気ガス中のPMとを結合させた結合粒子をフィルターで回収することにより、上記炭素含有粒子を回収する場合には、回収された炭素含有粒子は既に炭素含有粒子と植物精油含有水溶液との混合物となっているため、後述する植物精油含有水溶液との混合工程は不要であり、作業工程を簡略化できるので特に好ましい。
【0014】
本発明の方法では、炭素含有粒子は、植物精油含有水溶液と混合して用いられる。植物精油含有水溶液との混合物は、加圧成形が可能であり、また、1000℃程度の加熱で導電性を獲得するようになる。
【0015】
ここで、植物精油含有水溶液とは、植物から抽出した精油成分を含む水溶液である。植物精油としては、特に限定されないが、ヒノキ(Chamaecyparis obtusa(Seib. et Zucc.) Endl.)、台湾ヒノキ(Chamaecyparis obtusa (Seib. et Zucc.)Endl. forma formosana Hayata )、青森産ヒバ(Thujopsis dolabrata Seib.et Zucc. Hondai Makino)、サイプレス(Cypressus sempervirens L., Cypress)、エンピツビャクシン(Juniperus virginiana L.)、セイヨウネズ(Juniperus communis L.)、ネズミサジ(Juniperus utilis Koidz);アトラスセダー(Cedrus atlantica Manetti)、ヒマラヤスギ(C. deodora (Roxb) Loud.)、サザンレッドセダー(Juniperus virginiana L.およびJ. mexicana Scheide)、イーストホワイトセダー(Thujaoccidentalis L.)、日本スギ(Cryptomeria D. Don)、トドマツ(Abies sachalinenis Fr. Schmidt および A. sachalinenis Fr. Schmidt var. mayriana Miyabe et Kubo)、アカマツ(Pinusdensiflora Seib. et Zucc.)、大王マツ(Pinus palustris Mill);シネオール系ユーカリ(Eucalyptus globulus Labill.)、ピペリトン・フェランドレン系ユーカリ(Eucalyptus dives Schauer Type)、酢酸ゲラニル系ユーカリ(Eucalyptus macarthuri H. Deane et J.H. Maiden)、シトロネラール系ユーカリ(Eucalyptus citriodora Hook);カヤプテ(Melaleuca leucadendronL., Cajeput)、チャ(Thea sinensis L.)、タケ(Bamboo)、イチョウ(Gingko biloba L.)およびポプラからなる群から選ばれる植物から得られた精油であるか、これらから得られた精油の混合物であることが好ましい。これらのうち、台湾ヒノキ、青森産ヒバ、西洋ヒノキ、サイプレス、セイヨウネズ、ネズミサジ、ヒバ、アトラスセダー、ヒマラヤスギ、サザンレッドセダー、日本スギ、トドマツ、シネオール系ユーカリ、酢酸ゲラニル系ユーカリ、シトロネラール系ユーカリ、イチョウおよびポプラからなる群から選ばれる樹木から得られる精油またはこれらの混合物であることがさらに好ましい。ただし、これらに限定されず、例えばニオイヒバ、チャボヒバ、ハイビャクシン、サワラ、カイヅカイブキ、オキナワハイネズ、コウヤマキ、コウヨウザン、エゾマツ、シラベ、ハイマツ、アカエゾマツ、トウヒ、モミ(Abies firma Sieb. et Zucc., Abiesfir)、ツガ、ストローブマツ、アオトウヒ、ヒマラヤスギ、カヤなどの針葉樹やクスノキ(Cinnamomum camphon Sieb.)、タブノキ、ヤブニッケイ(C. japonicum Sieb. ex Nees)、シロダモ、ミヤマシキミ、サンショウ(Zanthoxylum piperitum D. C.)、シキミ等の広葉樹の葉や幹、さらにその他の樹種からも精油を得ることができる。
【0016】
精油の製造方法は公知であり、例えば、原料となる植物体のうち所望の部位を常法により裁断して適当な大きさのチップとし、該チップを水蒸気蒸留装置にかけ、所定の温度と圧力で所定の時間水蒸気蒸留を行うと、精油画分と水溶性成分を含む画分(水画分)とが得られる。精油を得るために使用する部位は、精油製造分野における公知の情報に基づき、植物の種類に応じて適宜選択することができ、例えば台湾ヒノキは根の部分、タケは幹又は葉、スギは幹又は葉、イチョウは枝又は葉等、ポプラは枝又は葉を好ましく用いることができる。
【0017】
植物精油含有水溶液は、例えば、特許文献3に記載の方法により、上記精油画分と水画分とを所定の割合で混合することによって調製することができる。混合割合は、例えばヒノキ油の場合、精油画分:水画分:水=(0.5〜2):(2〜4):(4〜8)とするのが好ましく、その他の植物精油でもこの混合割合に準じて適宜調製することができる。また、複数種類の植物精油を混合して植物含有水溶液を調製してもよい。
【0018】
所望により、植物精油含有水溶液には、ワックス類を添加してもよい。ワックス類は、天然ワックスと合成ワックスとに大別され、天然ワックスには、カルナウバワックス、木ろう、サトウロウなどの植物ワックス;ミツロウ、昆虫ロウ、鯨ロウ、羊毛ロウなどの動物ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス;モンタンワックス、オゾケライトなどの鉱物ワックスが包含される。また、合成ワックスには、カーボワックス、ポリエチレンワックス、塩素化ナフタレンワックスなどが包含される。なお、精油含有水溶液との混合割合は、精油画分の粘稠度によって適宜、増減することができる。
【0019】
植物精油の製造方法及び植物精油含有水溶液の製造方法を、台湾ヒノキを用いる場合を例に挙げて説明する。伐採した木の根を掘り起こし、クラッシャーなどを用いて0.5〜1mm角程度の大きさのチップにする。こうして得たチップ約500kgを蒸留装置に入れ、所定の温度で、チップに含まれる水分を利用して水蒸気蒸留を行う。具体的には、約100〜120℃の温度で4〜8時間程度蒸し、チップに含有されている精油成分を蒸気とともに留出させる。温度および時間は、チップにした木の含水量などにより適宜調節する。精油成分を含む蒸気を水に通すことにより冷却し、水と精油とに分離させ、精油を得ることができる。なお、使用するヒノキのチップの量によって、抽出時間、蒸留釜の大きさ、上流時間などは適宜調整することができる。約1tのチップを上記のようにして処理すると、5kg〜10kgの精油、すなわち、台湾ヒノキ油を得ることができる。
【0020】
上述のようにして得た精油は、水に不溶または難溶性の成分を多く含むため、下記の様にして水画水および精製水と混合して組成物とする。ヒノキ油の場合を例にとって説明する。すなわち、上記のようにして得たヒノキ油と水画水と水とを、(0.5〜2):(2〜4):(4〜8)の割合で混合し、通常、22〜28℃、好ましくは室温にて、0.5〜数時間攪拌混合することにより、台湾ヒノキ油含有水溶液を調製する。
【0021】
台湾ヒノキ油含有水溶液以外の植物精油含有水溶液も、上記に例示した方法に準じて調製することができる。また、植物精油含有水溶液は市販もされているので(商品名バイオカタリスリキッド:BCL、株式会社ジュオン)、そのような市販品も好ましく用いることができる。
【0022】
炭素含有粒子と植物精油含有水溶液とは、回収した炭素含有粒子を植物精油含有水溶液と混合してもよいが、上記した通り、例えば特許文献1の装置や市販の排気ガス浄化装置(株式会社ジュオン)のように、排気ガス中の炭素含有粒子を、植物精油含有水溶液のエアロゾル粒子と結合させ、これをフィルターで捕捉回収することにより炭素含有粒子を回収する場合には、回収される炭素含有粒子は既に植物精油含有水溶液との混合物となっている。従って、そのようにして回収した炭素含有粒子を、本発明の導電性材料の原料として用いる場合には、廃棄物のリサイクルとなるので環境面、コスト面からも好ましく、また、何らの処理を行なうことなくそのまま本発明の方法に供することができるので簡便である。排気ガス中の炭素含有粒子を植物精油含有水溶液のエアロゾル粒子と結合させて回収する方法は、周知であり、既に実用化されており、例えば特許文献1に記載されるようにして行うことができる。すなわち、例えば、植物精油含有水溶液を加熱して生じた蒸気と排気ガスとを接触させることにより、排気ガス中の炭素含有粒子と、植物精油含有水溶液のエアロゾル粒子とを結合させて、炭素含有粒子と上記エアロゾル粒子との結合粒子を形成させ、この結合粒子をフィルターで捕捉することにより、排気ガス中の炭素含有粒子を回収することができる。あるいは、植物精油含有水溶液を噴霧して霧状にし、これと排気ガスとを接触させることによっても、炭素含有粒子と植物精油含有水溶液エアロゾル粒子との結合粒子を形成させることができる。なお、本発明において、上記結合粒子を形成させることを、「炭素含有粒子をエアロゾル粒子でトラップする」という。炭素含有粒子をエアロゾル粒子でトラップする場合には、上記の通り調製した植物精油含有水溶液は通常2〜500倍に希釈して用いられるが、約10倍程度に希釈すると炭素含有粒子を効率良く回収できるので好ましい。市販の植物精油含有水溶液を用いる場合には、添付の説明書に従って用いることができる。
【0023】
炭素含有粒子と植物精油含有水溶液との混合物は、加圧成形と不活性ガス雰囲気下又は真空下での熱処理を施すことにより、所望の形状に成形された導電性材料とすることができる。上記した通り、排気ガスから回収した炭素含有粒子と、植物精油含有水溶液との混合物は、加圧により成形可能であり、また、1000℃程度の加熱で導電性を獲得する。所望の形状に加圧成形をした後に上記熱処理を行えば、所望の形状を有する導電性材料を得ることができる。また、熱処理を先に行えば、粉末状の導電性材料を得ることができる。粉末状の導電性材料は、先に熱処理を行なう場合に採用される、後述する加圧成形条件で加圧成形することで所望の形状の導電性材料とすることができるし、また、その他常法により、適宜所望の物質と混合し成形して用いることもできる。なお、下記実施例では、ペレット状又はロッド状に成形しているが、加圧成形に用いる型の形状を所望の形状とすることにより、直方体や多角柱等の所望の形状に成形することができる。
【0024】
加圧成形は、上記混合物を型に入れ、圧力をかけることにより行なわれる。圧力は通常10MPa程度以上であり、好ましくは、60MPa〜400MPa程度の圧力をかけることにより行われる。一軸加圧プレス機や静水圧プレス機等を用いて容易に行うことができるが、これに限定されず、所望の圧力をかけることができるいずれの手段をも用いることができる。上記混合物は、加圧により容易に成形可能である。なお、加圧成形に先立ち、上記混合物に対し、触媒としてNi粉末やCo粉末等をそれぞれ例えば0.5〜2.0重量%程度ずつ混合してもよい。これらの触媒は、加圧成型物を単層カーボンナノチューブの原材料として用いる際に役立つものである。ただし、本発明の方法では、触媒は不要であり、使用しなくても導電性材料を製造することができる。
【0025】
熱処理は、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下又は真空下で行う。すなわち、炭素と雰囲気中の気体分子との反応を防止するために、不活性ガス分子以外の気体が実質的に存在しない条件下で熱処理を行なう。加熱温度は750℃〜1500℃、好ましくは900℃〜1100℃であり、加熱時間は約1時間〜5時間、好ましくは約2時間〜4時間程度である。不活性ガスの圧力は特に限定されず、通常、0.05MPa〜0.2MPa程度であるが、0.05MPaよりも低くてもよく、真空下でもよい。加熱装置としては、特に限定されないが、例えば図1又は図2に示す加熱装置を用いることができる。図1に示す加熱装置は、主な構成として真空ポンプ1、石英管2、不活性ガスボンベ3、電気炉4を具備しており、不活性ガス圧の調節が可能である。図1の加熱装置を使用する場合には、例えば以下のようにして熱処理を行うことができる。すなわち、炭素含有粒子と植物精油含有水溶液との混合物又は該混合物を加圧成形したペレットを、セラミックボート5にのせて石英管2の中央部にセットし、石英管2内部を真空ポンプ1により4Pa程度に減圧する。次いで、不活性ガスを入れ、電気炉4を1000℃まで昇温する。昇温の際、不活性ガス圧が0.08MPaになるようにガス流量を変化させる。1000℃にて3時間保持する。また、図2に示す加熱装置は、主な構成として燃焼管11、不活性ガスボンベ12、電気炉13を具備している。図2の加熱装置を使用する場合には、例えば以下のようにして熱処理を行うことができる。すなわち、炭素含有粒子と植物精油含有水溶液との混合物又は該混合物を加圧成形したペレットを、セラミックボート14にのせて燃焼管11の中央部にセットする。燃焼管11内部に不活性ガスを流し、管内部を不活性ガスで置換する。次いで、不活性ガスを流しながら電気炉13を1000℃〜1500℃まで昇温し、所望の設定温度に達したら、不活性ガスを流しながら3時間保持する。なお、これらの熱処理条件は特に好ましい1例であり、好ましくは上記した加熱温度範囲、加熱時間範囲、不活性ガスの圧力範囲内で適宜選択することができる。
【0026】
上記本発明の方法により、従来廃棄されていた排気ガス中の炭素含有粒子から、導電性材料を得ることができる。下記実施例にある通り、排気ガス中の炭素含有粒子から作られたペレットは、熱処理前には電気抵抗率が極めて高いが、上記の通り熱処理すると、電気抵抗率が顕著に低下し、グラファイトのペレットと同等の電気抵抗率になる。従って、本発明の方法により得られた導電性材料は、グラファイトと同等の導電性材料として、例えば炭素電極等として利用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
1.導電性材料の製造
(1) ディーゼル排気ガス中のススの回収
株式会社ジュオンより市販されている排気ガス浄化装置を用いて、船舶のディーゼルエンジンの排気ガスより、粒子状のススを回収した。該装置は、植物精油含有水溶液「バイオカタリスリキッド(BCL)」(商品名、株式会社ジュオン)を用いて、BCLのエアロゾルと排気ガス中の粒子状のススとを結合させ、粒径を増大させた後にフィルターで捕集するものであった。フィルターに付着したBCL−スス結合粒子は、水洗いすることにより回収した。回収されたススは、植物精油含有水溶液との混合物の状態であった。
【0029】
(2) 加圧成形
上記の通り回収されたディーゼルエンジン排気ガス中のススを、一軸加圧プレス機を用いて、約200MPaで加圧成形し、ペレット(直径10mm x厚さ3mm)を作製した。あるいは、静水圧プレス機を用いて、約120MPaで加圧成形し、ロッド(直径約7mm x長さ50mm)を作製した。
【0030】
(3) 熱処理
上記の通り作製したペレット又はロッド(以下、「ペレット等」という)を、図1又は図2に示す加熱装置を用いて、アルゴン雰囲気下にて1000℃で3時間加熱することにより、ペレット等を導電性材料に改質した。図1に示す加熱装置を用いた熱処理は以下のようにして行った。すなわち、上記の通り作製したペレット等を、セラミックボート5にのせて石英管2の中央部にセットし、石英管2内部を真空ポンプ1により4Pa程度に減圧した。次いで、アルゴンガスを入れ、電気炉4を1000℃まで昇温した。昇温の際、アルゴンガス圧が0.08MPaになるようにガス流量を変化させた。1000℃にて3時間保持した。また、図2に示す加熱装置を用いた熱処理は以下のようにして行った。すなわち、上記の通り作製したペレット等を、セラミックボート14にのせて燃焼管11の中央部にセットした。燃焼管11内部にアルゴンガスを流し、燃焼管内部をアルゴンガスで置換した。次いで、アルゴンガスを流しながら電気炉13を1000℃まで昇温し、アルゴンガスを流しながら1000℃で3時間保持した。
【0031】
上記熱処理後のペレット等は、質量が約50%減少し、サイズも若干(1〜2割程度)縮小していた。
【0032】
2.電気抵抗率の測定
熱処理前のディーゼルススのペレット、熱処理後のディーゼルススのペレット、及びグラファイトのペレットのそれぞれについて、Agilent 4156C Semiconductor Parameter Analyzer(Agilent Technologies社)を用いた二端子法により、I-V特性を測定した。なお、グラファイトのペレットは以下のようにして得た。すなわち、ススと同様な条件で、一軸加圧プレス機を用いて、約200MPaで加圧成形した。熱処理前後のディーゼルススのペレットについての測定結果のグラフを図3及び図4に示す。
【0033】
測定結果から、上記各ペレットサンプルについて抵抗値を求め、ペレットの断面積及び厚さから電気抵抗率を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すとおり、ディーゼルススと植物精油含有水溶液との混合物から作製したペレットは、熱処理により電気抵抗率が顕著に低下し、グラファイトのペレットと同等の電気抵抗率になった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】炭素含有粒子と植物精油含有水溶液との混合物又は該混合物を加圧成形したペレットの熱処理に用いる加熱装置の一例を示す図である。
【図2】炭素含有粒子と植物精油含有水溶液との混合物又は該混合物を加圧成形したペレットの熱処理に用いる加熱装置の一例を示す図である。
【図3】熱処理前のディーゼルススのペレットのI-V特性グラフである。
【図4】1000℃での熱処理後のディーゼルススのペレットのI-V特性グラフである。
【符号の説明】
【0037】
1 真空ポンプ
2 石英管
3 不活性ガスボンベ
4 電気炉
5 セラミックボート
6 マスフローコントローラー
7 試料
11 燃焼管
12 不活性ガスボンベ
13 電気炉
14 セラミックボート
15 マスフローコントローラー
16 シリコーン栓
17 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中に含まれる炭素含有粒子と、植物精油含有水溶液との混合物に対し、加圧成形と不活性ガス雰囲気下又は真空下での熱処理を施すことを含む導電性材料の製造方法。
【請求項2】
前記混合物を加圧成形し、次いで前記熱処理を行なう請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記排気ガスが、ディーゼルエンジンの排気ガスである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記炭素含有粒子が、ディーゼルエンジンの排気ガス中のススである請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記混合物が、前記炭素含有粒子を、植物精油含有水溶液のエアロゾル粒子でトラップしたものをフィルターで捕捉したものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記加圧成形が、前記混合物に対し10MPa以上の圧力をかけることにより行われる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理における加熱温度が750℃〜1500℃、加熱時間が1時間〜5時間である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱温度が900℃〜1100℃であり、前記加熱時間が2時間〜4時間である請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記植物精油含有水溶液が、台湾ヒノキ、青森産ヒバ、西洋ヒノキ、サイプレス、セイヨウネズ、ネズミサジ、ヒバ、アトラスセダー、ヒマラヤスギ、サザンレッドセダー、日本スギ、トドマツ、シネオール系ユーカリ、酢酸ゲラニル系ユーカリ、シトロネラール系ユーカリ、イチョウ若しくはポプラから得られる精油又はこれらの2以上の混合物を含有する請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法により製造された導電性材料。
【請求項11】
請求項10記載の導電性材料を用いて製造された炭素電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−166084(P2008−166084A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353640(P2006−353640)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】