説明

導電性材料用支持体

【課題】 バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有し、電解質を内部分散させることにより導電性材料として用いることができる、低コストかつ薄型軽量で、平滑性が高く、電解質を内部分散させた状態において導電性の高い導電性材料用支持体を提供する。
【解決手段】 バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有する導電性材料用支持体であって、前記バクテリアセルロースに対するパルプ繊維の含有率が75wt/wt%未満である導電性材料用支持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有し、電解質を内部分散させることにより導電性材料として用いることができる導電性材料用支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境保全、省資源あるいはリサイクルなどが重視されている。特に、生物資源(バイオマス)は、カーボンニュートラルの観点からサスティナブル(sustainable)な資源であることから、生産から廃棄に伴う環境破壊を低減し、かつ、持続的な生産を継続できる資源として注目されている。
【0003】
このような生物資源として、バクテリアセルロース(Bacterialcellulose)がある。バクテリアセルロースは、食酢の醸造に利用されているAcetobacter属菌などを培養することにより生産されるものであり、ミクロフィブリルの微細な網目構造と、3次元的な絡み合いや水素結合による優れた機械特性とを有しており、植物セルロースとは異なる性質を示すことから、新しい素材として研究開発が進められている。
【0004】
一方、導電性材料とは、一般的に電気抵抗値が10Ω・cm以下の材料をいい、その到達電気抵抗値によって、電子材料用基板、帯電防止材料、電磁波吸収材料、表示素子および遮へい材料などの各種応用分野へと使い分けされている。
【0005】
近年、バクテリアセルロースを利用した導電性材料の開発がなされている。例えば、特開2004−270064号公報には、電子材料用基板材料として利用可能な、水、トルエンおよびバクテリアセルロースからなるシート状構造物が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−270064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、バクテリアセルロースは凝集性が高いことから、導電性材料の支持体としてバクテリアセルロースを用いる場合、その凝集を抑えることが求められていた。
【0008】
本発明は、バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有し、電解質を内部分散させることにより導電性材料として用いることができる、低コストかつ薄型軽量で、平滑性が高く、電解質を内部分散させた状態において導電性の高い導電性材料用支持体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、バクテリアセルロース懸濁液にパルプ繊維を添加することによりバクテリアセルロースの凝集を抑えることができること、バクテリアセルロースにパルプ繊維を一定量添加してシートを作製すると水や電解質などの浸透性や平滑性が向上すること、バクテリアセルロースにパルプ繊維を一定量添加して作製した支持体に電解質を内部分散させると導電性が向上することなどを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有する導電性材料用支持体であって、前記バクテリアセルロースに対するパルプ繊維の含有率が75wt/wt%未満である導電性材料用支持体。
[2] 粗面率が3.7%未満である、[1]に記載の導電性材料用支持体。
[3] 前記バクテリアセルロースの繊維幅W1と前記パルプ繊維の繊維幅W2とが15nm<W1<50nmおよび11μm<W2<17μmである、[1]または[2]に記載の導電性材料用支持体。
[4] バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有する導電性材料用支持体の製造方法であって、バクテリアセルロースを生成する微生物を培養することによりバクテリアセルロースを生成する工程と、前記生成したバクテリアセルロースの破砕物にパルプ繊維の破砕物を添加する工程と、前記バクテリアセルロース破砕物にパルプ繊維破砕物を添加したものをアルコールに分散させる工程と、前記アルコール分散液を濾過して乾燥させることにより支持体を形成する工程とを有する導電性材料用支持体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストかつ薄型軽量で、平滑性が高く、電解質を内部分散させた状態において導電性の高い導電性材料用支持体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る導電性材料用支持体の製造方法を表すフロー図である。
【図2】バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が0:100の導電性材料用支持体については80箇所、同比が50:50、75:25および100:0の導電性材料用支持体については100箇所を測定点として任意に選択して、繊維幅を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る導電性材料用支持体について詳述する。本発明における導電性材料用支持体とは、一定割合のバクテリアセルロースとパルプ繊維とを基本的構成要素として有する支持体であり、電解質を内部分散させることによって導電性材料として用いることができるものである。
【0014】
バクテリアセルロースとは、炭水化物を含む培地においてある種の微生物を培養することにより、その微生物が体外に排出して膜状に作り出すセルロースのことであり、ミクロフィブリルの微細繊維が網目構造をなしている。バクテリアセルロースと植物セルロースとの大きな違いはその微細な構造にあり、植物セルロースが、セルロース分子鎖が多数集束して形成したミクロフィブリル繊維がさらに束になり、フィブリル、ラメラ、繊維細胞と段階的に高次構造を形成しているのに対し、バクテリアセルロースは、菌細胞から分泌されたセルロースのミクロフィブリルが、そのままの太さで微細な網目構造を形成している。そのため、パルプ繊維の繊維幅が数十μmであるのに対し、バクテリアセルロースのミクロフィブリルの繊維幅は数十nmである。また、植物セルロースはヘミセルロースやリグニンなどと複合体を形成しているのに対し、バクテリアセルロースはセルロース以外の他の成分をほとんど含んでおらず、非常に高純度のセルロースである。さらに、バクテリアセルロースをシート状に形成した場合、植物セルロースからなる一般的な紙と比較して見かけの形態がほとんど変わらないと同時に、シート内部には非常に微細な細孔が存在し、溶液を含浸させた場合の吸収性能及び保持性能が高いことが特徴である。
【0015】
本発明において用いることができるバクテリアセルロースは、ミクロフィブリルからなるセルロースであって、微生物によって生産されたセルロース、β−1,4グルカンを主鎖としたヘテロ多糖ならびにβ−1,3およびβ−1,2などのグルカンのいずれかまたはこれらの混合物である。なお、ヘテロ多糖の場合におけるセルロース以外の構成成分は、マンノース、フラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸などの6炭糖、5炭糖および有機酸などである。
【0016】
本発明において使用可能なバクテリアセルロースを生産する微生物は、いわゆるセルロース生産菌であれば特に限定されず、例えば、Acetobacter属、Gluconacetobacter属、Enterobacter属、Agrobacterium属、Rhizobium属、Sarcina属、Pseudomonus属、Achromobacter属、Alcaligenes属、Aerobacter属、Azotobacter属、Zoogloea属などに属する細菌や、Sarcina ventriculi、Bacterium xyloidesなどを挙げることができる。Acetobacter属に属する細菌としては、例えば、BPR2001株などのAcetobacter xylinum subsp.sucrofermentans、Acetobacter xylinum ATCC23768、Acetobacter xylinum ATCC23769、Acetobacter xylinum ATCC14851、Acetobacter xylinum ATCC11142、Acetobacter xylinum ATCC10821、Acetobacter pasteurianus、Acetobacter rancensなどを挙げることができる。Gluconacetobacter属に属する細菌としては、例えば、Gluconacetobacter xylinus ATCC53582、Gluconacetobacter hanseniiなどを挙げることができる。また、これらの微生物をニトロソグアニジンなどで処理するなど、公知の方法によって変異処理することにより作製される各種変異株を使用してもよい。なお、本発明において用いられるバクテリアセルロースは、これらの微生物により生産されたものの他、これらの微生物により生産されたものを混合したものであってもよい。
【0017】
これらの微生物の培養方法としては特に限定されないが、例えば、静置培養法の他、電気攪拌培養法などの攪拌培養法を挙げることができる。また、培地についても特に限定されず、当業者が通常の手法によって適宜選択できるが、本実施例においてはHS培地を好適な培地として用いている。なお、このHS培地に代えて、糖蜜をスクロース含量4.0wt/wt%となるように調整して加水分解した後、乾燥ビール酵母を添加した培地を用いることが発明者らによって確認されている。
【0018】
本発明において用いられるバクテリアセルロースの繊維幅は、使用する微生物や培地、培養条件によって様々であるが、好ましくは5nm〜100nmであり、より好ましくは10nm〜70nm、さらに好ましくは15nm〜50nmである。
【0019】
バクテリアセルロースの繊維幅の測定は、当業者の通常の手法によって行うことができるが、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)による測定、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による測定、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)による測定を挙げることができる。本実施例においては、SEMによる測定方法を好適な測定方法として用いている。
【0020】
また、本発明において用いることができるパルプ繊維の原料としては特に限定されないが、N材(針葉樹)パルプやL材(広葉樹)パルプなどの木材パルプの他、バガスパルプ、藁パルプ、リンターパルプ、ケナフパルプ、バンブーパルプなどの非木材パルプ、古紙パルプ、レーヨンやビニロンなどの化学合成繊維をパルプ化した合成繊維パルプなどを挙げることができる。なお、本実施例においては、日本製紙社の木材パルプである勇払LBKPのパルプ繊維を好適なパルプ繊維として用いている。
【0021】
本発明において用いられるパルプ繊維の繊維幅は、使用する原料、機械パルプ(MP)や化学パルプ(CP)などの製造条件によって様々であるが、好ましくは5μm〜30μmであり、より好ましくは10μm〜20μm、さらに好ましくは11μm〜17nmである。繊維幅の測定は、バクテリアセルロースの繊維幅の測定と同様、当業者の通常の手法によって行うことができる。
【0022】
内部分散させることが可能な電解質としては特に限定されず、液状、ゲル状あるいは固体状の電解質を挙げることができる。電解質を内部分散させる方法としては、電解質を水や有機溶媒などの極性溶媒に溶解させることにより、電気伝導性を有する溶液である電解液(電解質溶液)を調製し、含浸させる方法が一般的である。具体的な電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ホウ酸塩類、イミド塩類、過塩素酸テトラブチルアンモニウムなどを挙げることができる。ホウ酸塩類のとしては、例えば、ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ホウ酸リチウムなどを挙げることができ、イミド塩類としては、例えば、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム((CFSONLi)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CFSO)(CSO))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム((CSONLi)などを挙げることができる。なお、本実施例においては、過塩素酸テトラブチルアンモニウムを好適な電解質として用いている。
【0023】
電解質を溶解させる溶媒としては、用いる電解質にあわせて、当業者が適宜選択することができるものであれば特に限定されないが、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどを用いることができる。環状炭酸エステルとしては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどを挙げることができ、鎖状炭酸エステルとしては、例えば、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどを挙げることができる。また、環状カルボン酸エステルとしては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどを挙げることができる。これらのような電解質を溶解させる溶媒は、上記に列挙された溶媒のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本実施例においては、ジメチルスルフォキシドを好適な溶媒として用いている。
【0024】
また、本発明に係る導電性材料用支持体の粗面率や空隙率の測定や算出は、当業者の通常の手法によって適宜測定装置の選択や算出式の選択を行うことによりすることができるが、例えば、作製した導電性材料用支持体の重さ、厚みおよび体積を測定し、下記の(式1)および(式2)を用いて算出することができる。
(式1)空隙率={1−(重さ/体積)}/セルロース比重(1.52)×100
(式2)粗面率=(厚みの標準偏差/厚み平均)×100
【0025】
導電性材料用支持体の粗面率は、バクテリアセルロースに対するパルプ繊維の含有率Cwt/wt%(すなわち重量%)により変化することが発明者らによって明らかにされている。粗面率が低値すなわち平滑性の高い導電性材料用支持体を得るためには、0%<C<75%が好ましく、0<C≦50%がより好ましく、25%≦C≦50%がさらに好ましい。
【0026】
導電性材料用支持体の導電性の評価は、作製した導電性材料用支持体に電解質を内部分散させ、電流値や電圧値、抵抗値(インピーダンス)などを測定することにより行うことができる。電流値や電圧値、抵抗値(インピーダンス)などの測定は、当業者の通常の手法によって行うことができるが、本実施形態においては、Frequency response analyzer 1255B(Solartron社)およびElectrochemical interface SI1287(Solartron社)を用いて、周波数を0.01Hz〜10Hzと変化させながらインピーダンスを測定することにより行っている。
【0027】
本発明における導電性材料用支持体を用いて作製される導電性材料としては、例えば、電子材料用基板、コンデンサー用セパレーター、電池用セパレーター、表示素子、帯電防止材料、電磁波吸収材料、遮へい材料などを挙げることができる。
【0028】
本発明に係る導電性材料用支持体には、この作用を損なわない範囲で、バクテリアセルロースとパルプ繊維以外の材料や添加剤などを含んでもよく、また、その形状は特に限定されず、適宜選択することができる。
【0029】
次に、本発明に係る導電性材料用支持体の製造方法について詳述する。本発明に係る導電性材料用支持体は、バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有する導電性材料用支持体の製造方法であって、図1に示すように、
(i)バクテリアセルロースを生成する微生物を培養することによりバクテリアセルロースを生成する工程(バクテリアセルロース生成工程;S1)
(ii)生成したバクテリアセルロースの破砕物にパルプ繊維の破砕物を添加する工程(パルプ添加工程;S2)
(iii)バクテリアセルロース破砕物にパルプ繊維破砕物を添加したものをアルコールに分散させる工程(アルコール分散工程;S3)
(iv)アルコール分散液を濾過して乾燥させることにより支持体を形成する工程(支持体形成工程;S4)
以上、(i)〜(iv)の工程を有している。
【0030】
バクテリアセルロース生成工程(S1)は、調製した培養液にバクテリアセルロースを生産する微生物を摂取し、培養することによりバクテリアセルロースを生産させ、回収する工程である。使用可能な培地や微生物などは上記のとおりである。
【0031】
パルプ添加工程(S2)は、バクテリアセルロース生成工程(S1)で得られたバクテリアセルロースを破砕し、これに破砕したパルプ繊維を添加する工程である。バクテリアセルロースやパルプ繊維の破砕は、当業者が適宜選択可能な装置や方法を用いることにより行うことができる。本実施例においては、スーパーマスコロイダ−MK−CA6−2(増幸産業社)を用いて、砥石感覚での破砕を行っている。
【0032】
アルコール分散工程(S3)は、バクテリアセルロース破砕物にパルプ繊維破砕物を添加したものをアルコールに分散させる工程である。バクテリアセルロース破砕物にパルプ繊維破砕物を添加したものを水に混ぜ、その後アルコールに置換してもよい。本発明において用いることができるアルコールは特に限定されず、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールのいずれでもよく、このようなアルコールとしては、例えば、メタノールやエタノール、プロピルアルコールなどの低級アルコールや高級アルコールなどを挙げることができる。なお、本実施例においては、エタノールを好適なアルコールとして用いている。
【0033】
支持体形成工程(S4)は、シート状などの導電性材料用支持体として用いられる形状に形成して乾燥させる工程である。このような形成や乾燥の手法は、当業者により適宜選択することができる。
【0034】
なお、本発明に係る導電性材料用支持体の製造方法は、作製される導電性材料用支持体の作用を損なわない範囲で、所望により、各種濾過、pH調整、温度調整、殺菌、脱色、遠心分離、分取などの任意の工程を追加することができる。
【0035】
以下、本発明に係るについて、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0036】
<実施例1> 導電性材料用支持体の作製
(1)培地の調製
以下の組成のHS培地をpH6.0に調整し、その50mLを容量200mLの三角フラスコに張り込み、120℃で20分間蒸気滅菌し、培養液を調製した。
グルコース 20g/L
バクトペプトン 5g/L
酵母エキス 5g/L
クエン酸 1.15g/L
リン酸水素二ナトリウム 2.7g/L
(pH6.0)
【0037】
(2)バクテリアセルロース破砕物の作製
本実施例(1)調製した培養液に、マイナス80℃で保管されたAcetobacter xylinum (Gluconacetobacter xylinus) ATCC53582株を1白金耳接種して、30℃で5日間静置培養することにより膜状のバクテリアセルロースを得た。
【0038】
得られたバクテリアセルロースを1.0%水酸化ナトリウム水溶液で殺菌および脱色し、pHが10.0以下となるように蒸留水で置換した後、バクテリアセルロース湿重量200g当たり1.0Lの蒸留水を加え、スーパーマスコロイダ−MK−CA6−2(増幸産業社)を用いて、砥石感覚の40μm、1500rpmの条件で破砕し、バクテリアセルロース破砕物分散液を得た。得られたバクテリアセルロース破砕物分散液を、himac CR22GII(日立工機社)を用いて、8000rpmで10分間遠心分離を行い、バクテリアセルロース破砕物を分取した。
【0039】
(3)パルプ繊維破砕物の調製
パルプシート(勇払LBKP;日本製紙社)を1cm角程度に切出し、パルプシート湿重量200g当たり1.0Lの蒸留水を加え、スーパーマスコロイダ−MK−CA6−2(増幸産業社)を用いて、砥石感覚の40μm、1500rpmの条件で破砕し、パルプ繊維破砕物分散液を得た。得られたパルプ繊維破砕物分散液を、himac CR22GII(日立工機社)を用いて、8000rpmで10分間遠心分離を行い、パルプ繊維破砕物を分取した。
【0040】
(4)導電性材料用支持体の作製
本実施例(2)および(3)で得られたバクテリアセルロース破砕物とパルプ繊維破砕物とを、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比(バクテリアセルロースの重量部:パルプ繊維の重量部)がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25および100:0となるよう、バクテリアセルロース破砕物とパルプ繊維破砕物とを蒸留水にそれぞれ配合し、himac CR22GII(日立工機社)を用いて、8000rpmで10分間遠心分離を行うことにより脱水した後、懸濁液をエタノールに置換した。次いで、オスターブレンダー(Osterizer社)を用いて1分間攪拌し、バクテリアセルロース破砕物とパルプ繊維破砕物との混合液をそれぞれ調製した。調製した混合液を、それぞれ90mm角の濾紙を敷設して形成した濾過床に流し込み、ムラが生じないよう攪拌しながら吸引濾過し、湿潤なバクテリアセルロース破砕物とパルプ繊維破砕物との混合物を得た。これらを濾紙で挟み込み、室温で乾燥させることにより、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25および100:0である導電性材料用支持体を作製した。
【0041】
<実施例2> 導電性材料用支持体の評価
(1)導電性材料用支持体を構成するバクテリアセルロースとパルプ繊維との繊維幅の測定
実施例1(4)で作製した、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25および100:0である導電性材料用支持体のうち、0:100、50:50、75:25および100:0のものについて繊維幅を測定した。
【0042】
バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が0:100、50:50、75:25および100:0である導電性材料用支持体の拡大写真を、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が0:100の導電性材料用支持体については25倍、その他の導電性材料用支持体については13000倍として、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM、FE−SEM(JEOL JSM−6500F)、日本電子社)を用いて撮影し、それぞれの拡大写真について、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が0:100の導電性材料用支持体については80箇所、その他の導電性材料用支持体については100箇所を測定点として任意に選択して、繊維幅を測定した。その結果を図2に示す。
【0043】
図2中、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が50:50、75:25および100:0である導電性材料用支持体についてはバクテリアセルロースの繊維幅の測定値(計300箇所)を示し、0:100についてはパルプ繊維の繊維幅の測定値(80箇所)を示す。図2に示すように、バクテリアセルロースの繊維幅(W1)とパルプ繊維の繊維幅(W2)とは、15nm<W1<60nmおよび11μm<W2<17μmであることが示された。
【0044】
(2)導電性材料用支持体の空隙率および粗面率の算出
実施例1(4)で作製した、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25および100:0である導電性材料用支持体の重さ、厚みおよび体積を測定し、下記の(式1)および(式2)を用いて空隙率および粗面率を算出した。
(式1)空隙率={1−(重さ/体積)}/セルロース比重(1.52)×100
(式2)粗面率=(厚みの標準偏差/厚み平均)×100
その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、バクテリアセルロースにパルプ繊維を添加することにより、空隙率が向上することが確認された。また、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が50:50および75:25の導電性材料用支持体において、粗面率が低下することが確認され、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が25:75の導電性材料用支持体においては、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が100:0の場合よりも粗面率が高くなることが確認された。以上の結果より、バクテリアセルロースに対するパルプ繊維の含有率が75wt/wt%未満である場合に、導電性材料用支持体の粗面率が低下して、平滑性が向上することが示された。
【0047】
(3)導電性材料用支持体の電解質の浸透性の評価
導電性材料用支持体の電解液の浸透性を評価するため、実施例1(4)で作製した、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25および100:0である導電性材料用支持体について、JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.32−2(紙−吸水性試験方法−第2部:滴下法)に準じ、5μLの水が完全にしみ込むまでの時間を測定した。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が100:0の導電性材料用支持体では、水が完全に浸透するまで相当の時間を要したが、バクテリアセルロースにパルプ繊維を添加した、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比がそれぞれ25:75、50:50および75:25である導電性材料用支持体では、水の浸透速度は大幅に高まった。一方、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が0:100の導電性材料用支持体では、水が滴下と同時にしみ込んでしまうため、浸透時間を測定することができなかった。以上の結果より、バクテリアセルロースにパルプ繊維を添加することにより、導電性材料用支持体の電解液の浸透性が大幅に向上することが示された。
【0050】
(4)導電性材料用支持体の導電性の評価
実施例1(4)で作製した、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25および100:0である導電性材料用支持体について、電解液を含浸させてインピーダンスを測定することにより導電性を評価した。
【0051】
まず、実施例1(4)で作製した、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25および100:0である導電性材料用支持体のそれぞれをパンチでくり抜くことにより、直径が8mmで面積が0.5cmの円形サンプルをそれぞれ作製するとともに、ジメチルスルフォキシド溶媒に電解質である過塩素酸テトラブチルアンモニウムを0.2M溶解させることにより電解液(電解質溶液)を調製した。次いで、上記導電性材料用支持体から作製されたそれぞれのサンプルに前記調製した電解液を含浸させて、ITO電極膜が形成されたガラス透明電極間に一定の圧力ではさみ、Frequency response analyzer 1255B(Solatron社)およびElectrochemical interface SI1287(Solatron社)を用いて、周波数を0.01Hz〜10Hzと変化させながらインピーダンスを測定した。電解質の導電性を示す高周波数領域におけるそれぞれの円形サンプル(0.5cm)のインピーダンスの値を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示すように、バクテリアセルロースに対するパルプ繊維の含有率が75%未満の場合に、電解液を含浸させた導電性材料用支持体の導電性が向上することが確認された。バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が25:75の導電性材料用支持体では導電性が低下した。これは、過剰なパルプ繊維の含有により、電解液の保持が不可能となったと発明者らは考えている。また、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比が0:100の導電性材料用支持体では、電解液を含浸させた状態で形状を維持することが困難であったため、インピーダンスを測定することができなかった。これらの結果から、バクテリアセルロースに対してパルプを添加した導電性材料用支持体に電解質を内部分散させて導電性材料を作製した場合、導電性が向上することが示され、かつバクテリアセルロースに対してパルプを過剰添加した場合は、導電性が低下することが示された。
【0054】
<比較例> エタノールを用いずに作製した支持体の評価
実施例1(4)において、エタノールを用いずに支持体を作製し、重さ、厚みおよび体積を測定し、実施例1(4)と同様の手法により空隙率および粗面率を算出した。
【0055】
実施例1(2)および(3)で得られたバクテリアセルロース破砕物とパルプ繊維破砕物とを、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比(バクテリアセルロースの重量部:パルプ繊維の重量部)がそれぞれ5:95、25:75、50:50および100:0となるよう、バクテリアセルロース破砕物とパルプ繊維破砕物とを蒸留水にそれぞれ配合し、オスターブレンダー(Osterizer社)を用いて1分間攪拌することにより、バクテリアセルロース破砕物とパルプ繊維破砕物との混合液を調製した後、それぞれ90mm角の濾紙を敷設して形成した濾過床に流し込み、ムラが生じないよう攪拌しながら吸引濾過し、湿潤なバクテリアセルロース破砕物とパルプ繊維破砕物との混合物を得た。これらを濾紙で挟み込み、室温で乾燥させることにより、バクテリアセルロースとパルプ繊維との含有量の比がそれぞれ5:95、25:75、50:50および100:0である支持体を作製し、重さ、厚みおよび体積を測定して、空隙率および粗面率を算出した。その結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
表4および実施例2(2)の表2に示すように、エタノールを用いずに作製した支持体の粗面率は、エタノールを用いて作製した導電性材料用支持体の粗面率と比較して、相当高い値であることが確認された。
【0058】
なお、本発明に係るは、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有する導電性材料用支持体であって、前記バクテリアセルロースに対するパルプ繊維の含有率が75wt/wt%未満である導電性材料用支持体。
【請求項2】
粗面率が3.7%未満である、請求項1に記載の導電性材料用支持体。
【請求項3】
前記バクテリアセルロースの繊維幅W1と前記パルプ繊維の繊維幅W2とが15nm<W1<50nmおよび11μm<W2<17μmである、請求項1または請求項2に記載の導電性材料用支持体。
【請求項4】
バクテリアセルロースとパルプ繊維とを有する導電性材料用支持体の製造方法であって、
バクテリアセルロースを生成する微生物を培養することによりバクテリアセルロースを生成する工程と、
前記生成したバクテリアセルロースの破砕物にパルプ繊維の破砕物を添加する工程と、
前記バクテリアセルロース破砕物にパルプ繊維破砕物を添加したものをアルコールに分散させる工程と、
前記アルコール分散液を濾過して乾燥させることにより支持体を形成する工程と
を有する導電性材料用支持体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−235802(P2010−235802A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86027(P2009−86027)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(506156665)株式会社アグリバイオインダストリ (16)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】