説明

導電性繊維基材の製造方法

【課題】優れた導電性と耐久性を有する導電性繊維基材を、効率的に製造することができる導電性繊維基材の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維基材に沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与する工程、及び、酸化剤溶液を付与する工程を有し、少なくとも一つの工程において溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与し、繊維基材表面において該モノマーを重合せしめることを特徴とする導電性繊維基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維基材の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた導電性と耐久性を有する導電性繊維基材を、効率的に製造することができる導電性繊維基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体から得られる重合体は、優れた導電性を有し、種々の静電防止塗料、静電防止素材などとして利用されている。従来から、これらモノマーの重合体は、モノマーと導電性塩の存在下に、電解反応により陽極上に重合体を析出させる電気化学的方法により重合させる電解重合法と、モノマーと化学酸化剤の存在下で水系で重合させる酸化重合法が知られている。
導電性高分子形成性モノマーを酸化重合して形成される導電性高分子の生成過程は、エピタキシャル生長と言われ、形成される導電性高分子の性能から、導電性高分子形成性モノマーの酸化重合は、水溶液を静置して低温でゆっくりと行うのがよいとされてきた。このために、従来、織布、編布、不織布、糸などの繊維基材に、導電性高分子形成性モノマーを酸化重合して導電性高分子被膜を形成する場合には、単にモノマーと酸化剤とを含有する導電化処理液に繊維基材を浸漬する方法が採用されていた。例えば、優れた導電性を有し、耐久性に優れた導電性複合体を容易に製造することができる方法として、被導電処理材を処理液中に浸漬し、該処理液中で電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーとドーパント作用を有する酸化重合剤とに接触せしめ、かつ酸化重合剤とともにドーパントを併用する方法が提案されている(特許文献1)。
この方法では、モノマーと酸化剤を含んだ溶液に繊維基材を浸漬処理するために、繊維基材に対して2%o.w.f.以上のモノマーが必要であり、さらに長時間浸漬する必要があった。また、浸漬処理なので、モノマーを繊維に十分に吸着させるために、多量のモノマーが必要であった。さらに、繊維基材全体を浴に長時間浸漬させて処理を行うために、一度に処理できる繊維基材の量は限られ、処理における効率はよくなかった。
高性能の導電性を有するとともに、洗濯耐久性があり、摩擦や放置による性能低下の少ない導電性繊維製品の製造方法として、繊維に酸化剤と電子を授受する制御物質を含浸させ、次いでピロールの蒸気を20℃以下の雰囲気で付与させて、繊維表面部にピロールの重合体を形成させる導電性繊維製品の製造方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法では、ピロールを蒸気にて付与させるために均一性に乏しく、処理時間も10〜24時間と非常に長い時間が必要であった。
【特許文献1】特公平6−18083号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開昭62−299575号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、優れた導電性と耐久性を有する導電性繊維基材を、効率的に製造することができる導電性繊維基材の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、繊維基材への導電性高分子形成性モノマーの付与と、酸化剤の付与とを別工程で行い、繊維基材表面において該モノマーを重合せしめることにより、優れた導電性と耐久性を有する導電性繊維基材を効率的に製造し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)繊維基材に沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与する工程、及び、酸化剤溶液を付与する工程を有し、少なくとも一つの工程において溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与し、繊維基材表面において該モノマーを重合せしめることを特徴とする導電性繊維基材の製造方法、
(2)繊維基材に沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与したのち、酸化剤溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与する(1)記載の導電性繊維基材の製造方法、
(3)繊維基材に酸化剤溶液を付与したのち、沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与する(1)記載の導電性繊維基材の製造方法、
(4)沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーが、ピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体である(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の導電性繊維基材の製造方法、
(5)酸化剤溶液が、ペルオキソ二硫酸塩の溶液である(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の導電性繊維基材の製造方法、及び、
(6)酸化剤溶液を、水分率1〜200質量%の繊維基材に付与する(1)又は(2)記載の導電性繊維基材の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の導電性繊維基材の製造方法によれば、優れた導電性と耐久性を有する導電性繊維基材を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の導電性繊維基材の製造方法は、繊維基材に沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与する工程、及び、酸化剤溶液を付与する工程を有し、少なくとも一つの工程において溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与し、繊維基材表面において該モノマーを重合せしめる。
本発明方法に用いる繊維基材の材質に特に制限はなく、例えば、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリアミド、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、芳香族ポリイミドなどの合成繊維などを挙げることができる。本発明方法に用いる繊維基材の形態に特に制限はなく、例えば、糸、織布、編布、不織布、組物、レース、ロープ、網などを挙げることができる。
本発明の導電性繊維基材の製造方法は、繊維基材に沸点45℃以上、より好ましくは沸点65℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与する工程を有する。導電性高分子形成性モノマーの沸点が45℃未満であると、繊維基材にモノマー溶液を付与する工程において、溶液からモノマーが揮散して作業環境を汚染し、災害が発生する危険を生ずるのみならず、繊維基材に付与されずに失われるモノマーが生じて、モノマーの利用率が低下するおそれがある。
【0007】
本発明方法に用いる沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーとしては、例えば、ピロール、チオフェン、アニリン、フラン、インドール及びそれらの誘導体などを挙げることができる。これらの導電性高分子形成性モノマーは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中で、ピロール、チオフェン、アニリン及びそれらの誘導体は、繊維基材に高い導電性を与えるので、好適に用いることができる。
ピロールの誘導体としては、例えば、N−メチルピロールなどのN−置換ピロール、3−メチルピロール、3−オクチルピロールなどの3−置換ピロール、4−メチルピロール−3−カルボン酸メチルなどの3,4−置換ピロール、3,5−ジメチルピロールなどの3,5−置換ピロールなどを挙げることができる。チオフェンの誘導体としては、例えば、2−チオフェンカルボン酸などの2−置換チオフェン、3−メチルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−チオフェンカルボン酸などの3−置換チオフェンなどを挙げることができる。アニリンの誘導体としては、例えば、o−メチルアニリン、o−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、o−クロルアニリンなどのo−置換アニリン、m−メチルアニリン、m−メトキシアニリン、m−エトキシアニリン、m−クロルアニリンなどのm−置換アニリン、p−メチルアニリン、p−メトキシアニリン、p−エトキシアニリン、p−クロルアニリンなどのp−置換アニリンを挙げることができる。
【0008】
本発明方法において、繊維基材への導電性高分子形成性モノマーの付与量は、0.2〜5%o.w.f.であることが好ましく、0.3〜3%o.w.f.であることがより好ましい。繊維基材への導電性高分子形成性モノマーの付与量が0.2%o.w.f.未満であると、十分な導電性能が得られないおそれがある。繊維基材への導電性高分子形成性モノマーの付与量が5%o.w.f.を超えると、モノマー量に見合った導電性能が得られないおそれがある。
本発明方法に使用する酸化剤としては、例えば、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、三酸化クロム、二クロム酸ナトリウム、二クロム酸カリウム、二クロム酸銀などのクロム酸類、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸銀などの硝酸塩、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウムなどのペルオキソ二硫酸類、次亜塩素酸、次亜塩素酸カリウムなどの酸素酸類、過塩素酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、クエン酸第二鉄などの三価の鉄化合物、塩化銅などの遷移金属塩化物などを挙げることができる。これらの酸化剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中で、ペルオキソ二硫酸塩は、反応性が良好であり、高い導電性を有する繊維基材を容易に得ることができるので、特に好適に用いることができる。
【0009】
本発明方法において、繊維基材に付与する酸化剤は、導電性高分子形成性モノマーの0.1〜3当量倍であることが好ましく、0.5〜1.5モル当量倍であることがより好ましい。繊維基材に付与する酸化剤が導電性高分子形成性モノマーの0.1当量倍未満であると、繊維基材表面において、導電性高分子が十分に形成されないおそれがある。繊維基材に付与する酸化剤が導電性高分子形成性モノマーの3当量倍を超えると、繊維基材が酸化により劣化するおそれがある。
本発明方法において、導電性高分子形成性モノマーの溶液及び酸化剤溶液を調製するための溶媒としては、水又は親水性有機溶媒と水との混合溶媒を挙げることができる。水との混合溶媒を形成する親水性有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテートなどのグリコール類及びそれらの誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどを挙げることができる。親水性有機溶媒と水との混合溶媒における水の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。混合溶媒における水の含有量が1質量%未満であると、導電性高分子形成性モノマーの反応が十分に進行せず、十分な導電性能が得られないおそれがある。
【0010】
本発明方法においては、繊維基材に導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与する工程と、酸化剤溶液を付与する工程のうち、少なくとも一つの工程において溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより繊維基材に付与する。溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより繊維基材に付与することにより、選択的に繊維基材表面においてモノマーを重合して導電性高分子を形成し、効果的に繊維基材に導電性を与えることができる。他の工程において繊維基材に導電性高分子形成性モノマーの溶液又は酸化剤溶液を付与する方法に特に制限はなく、例えば、パディング、ディッピング、スプレー、コーティング、プリントなどを挙げることができる。
本発明方法においては、繊維基材に沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与したのち、酸化剤溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与することができ、あるいは、繊維基材に酸化剤溶液を付与したのち、沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与することができる。繊維基材を導電性高分子形成性モノマーの溶液又は酸化剤溶液に含浸し、モノマー又は酸化剤を十分に吸着させ、搾液したのち、酸化剤溶液又は導電性高分子形成性モノマーの溶液を繊維基材にスプレー、コーティング又はプリントにより付与することにより、導電性高分子形成性モノマーの溶液と酸化剤溶液とが独立し、それぞれが溶液の状態で混和することがない。導電性高分子形成性モノマーの溶液と酸化剤溶液が混和したり、一方の溶液が繊維基材に同伴して他の溶液に持ち込まれたりすると、溶液中で重合反応が進行し、繊維基材表面に付着しない高分子が生成して、モノマーと酸化剤が無駄に消費されるおそれがある。
本発明方法において、繊維基材に溶液を付与する順序は、繊維基材に導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与したのち、酸化剤溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与することが好ましい。酸化剤溶液は、スプレー又はコーティングにより付与することがより好ましい。繊維基材にモノマー溶液を先に付与することにより、モノマーが効率よく付与されて損失が抑えられ、均一な導電性繊維基材を得ることができる。
【0011】
本発明方法において、導電性高分子形成性モノマーの溶液又は酸化剤溶液をコーティングする方法として、溶液を泡状にして繊維に付着させる泡加工コーティング法を好適に用いることができる。泡加工コーティング法によれば、起泡した溶液を必要量のみ繊維基材に付与することができ、従って乾燥に要するエネルギー及び時間を大幅に短縮することができ、また溶液を全量無駄なく使用することができる。
本発明方法において、溶液をプリント又はコーティングにより繊維基材に付与する場合は、溶液を加工に適した粘度に調整することができる。粘度調整に用いる粘度調整剤に特に制限はなく、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ザンタンガム、デンプン糊などを挙げることができる。
本発明方法において、スプレー法としては、例えば、圧搾空気により溶液を霧状にして吹き付けるエアスプレー、液圧霧化方式のエアレススプレー、スプレーガンと繊維基材の間に静電界を形成して、溶液の粒子を負に帯電させ、正に帯電した繊維基材に効率よく塗着させる静電スプレーなどを挙げることができる。コーティング法としては、例えば、エアドクタコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、カーテンコーター、カレンダコーターなどを用いるコーティングを挙げることができる。プリント法としては、例えば、ローラー捺染機、フラットスクリーン捺染機、ロータリースクリーン捺染機などを用いるプリントを挙げることができる。
【0012】
本発明方法において、導電性高分子形成性モノマーの溶液が付与された繊維基材に対して、酸化剤溶液を付与するとき、繊維基材の水分率が1〜200質量%であることが好ましく、5〜120質量%であることがより好ましい。繊維基材の水分率は、繊維基材の乾燥質量をW0、吸湿質量をWとしたとき、[(W−W0)/W0]×100(%)で表される値である。繊維基材の水分率が1質量%未満であると、導電性高分子形成性モノマーと酸化剤の反応が十分に進行しないおそれがある。繊維基材の水分率が200質量%を超えると、水分過多により重合体の偏在などが起こるおそれがある。
本発明方法においては、繊維基材の導電性をさらに向上させるために、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン類、五酸化リンなどのルイス酸、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、サリチル酸、酢酸、安息香酸などのプロトン酸などの酸類やこれらの可溶性塩をドーパントとして添加することができる。また、導電性の耐久性を向上させるために、抗酸化剤、紫外線吸収剤などを併用することができる。さらに、繊維の風合及び導電性を損なわない範囲で、導電処理したのち、スプレー法、浸漬法、コーティング法、転写法などにより、厚さ1〜2μm程度のポリマー層を繊維基材の表面に形成することができる。
【実施例】
【0013】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、漏洩抵抗値と摩擦帯電圧は、試料を温度20℃、湿度40%RHの室内に24時間を放置したのち測定した。漏洩抵抗値は、表面抵抗計[TOA Electronics社、Super Megohmmeter SM−5E]を用いて測定した。摩擦帯電圧は、JIS L 1094に従い、摩擦帯電圧測定機[(株)大栄科学精器製作所、ロータリースタティックテスターMRS−500D]を用いて測定した。
また、繊維基材として、いずれも目付200g/m2の精練済のポリエステルニット、ナイロンニット又はアクリルニットを使用した。
【0014】
実施例1
ピロール1.1質量部とp−トルエンスルホン酸3.1質量部を蒸留水95.8質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液61g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は1.5×104Ωであり、摩擦帯電圧は2Vであった。
実施例2
ピロール0.5質量部とp−トルエンスルホン酸1.5質量部を蒸留水98.0質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液28g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は5.4×106Ωであり、摩擦帯電圧は5Vであった。
実施例3
ピロール2.2質量部とp−トルエンスルホン酸6.2質量部を蒸留水91.6質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液122g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は2.3×102Ωであり、摩擦帯電圧は0Vであった。
【0015】
実施例4
ピロール1.1質量部とp−トルエンスルホン酸3.1質量部を蒸留水95.8質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸カリウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液73g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は1.9×104Ωであり、摩擦帯電圧は3Vであった。
実施例5
アニリン1.1質量部とp−トルエンスルホン酸3.1質量部を蒸留水95.8質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液44g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は3.5×106Ωであり、摩擦帯電圧は25Vであった。
実施例6
チオフェン1.1質量部とp−トルエンスルホン酸3.1質量部を蒸留水95.8質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液49g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は1.1×105Ωであり、摩擦帯電圧は18Vであった。
【0016】
実施例7
ピロール1.1質量部とp−トルエンスルホン酸3.1質量部を蒸留水95.8質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。塩化第二鉄六水和物25.0質量部を蒸留水75.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液64g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は5.2×107Ωであり、摩擦帯電圧は235Vであった。
実施例8
ピロール1.1質量部とp−トルエンスルホン酸3.1質量部を蒸留水95.8質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解し、起泡剤[花王(株)、アンヒトール20N]0.1質量部を添加し、泡加工機[Werner Mathis社、Mathis MINIMIX]を用いて20倍に発泡し、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液61g/m2をアプリケーターを用いて繊維基材にコーティングし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は2.1×105Ωであり、摩擦帯電圧は11Vであった。
実施例9
ピロール1.1質量部とp−トルエンスルホン酸3.1質量部を蒸留水95.8質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解し、非イオン系増粘剤[日華化学(株)、ネオステッカーNT]を用いて粘度10Pa・sに調整して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、酸化剤溶液61g/m2をプリントし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は3.5×105Ωであり、摩擦帯電圧は14Vであった。
【0017】
実施例10
ピロール1.1質量部とp−トルエンスルホン酸3.1質量部を蒸留水95.8質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットをモノマー溶液に浸漬し、ピックアップ90質量%に設定したマングルで搾液し、120℃で2分間乾燥した。ポリエステルニットの水分率は、1.2質量%となった。この布に、酸化剤溶液61g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は1.6×107Ωであり、摩擦帯電圧は324Vであった。
実施例11
ピロール2.2質量部とp−トルエンスルホン酸6.2質量部を蒸留水91.6質量部に溶解して、モノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム11.0質量部を蒸留水89.0質量部に溶解して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットを酸化剤溶液に浸漬し、ピックアップ60質量%に設定したマングルで搾液した。この布に、モノマー溶液176g/m2をスプレーし、1分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して導電性繊維基材を得た。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は4.8×105Ωであり、摩擦帯電圧は127Vであった。
比較例1
実施例1〜11に用いたポリエステルニットの漏洩抵抗値と摩擦帯電圧を測定した。漏洩抵抗値は6.0×1013Ωであり、摩擦帯電圧は6,958Vであった。
比較例2
1Lのガラス製ビーカーに蒸留水800gを入れ、ピロール0.4gとp−トルエンスルホン酸3.7gを加えて溶解した。この溶液に、ポリエステルニット40gを浸漬し、塩化第二鉄六水和物3.2gを徐々に加えたのち、4時間静置した。次いで、この布を蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥した。
得られた処理布の漏洩抵抗値は4.8×109Ωであり、摩擦帯電圧は1,550Vであった。
実施例1〜11及び比較例1〜2の結果を、第1表に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
第1表に見られるように、ポリエステルニットにピロール、チオフェン又はアニリンの溶液を付与したのち、酸化剤溶液を付与して繊維基材表面で重合せしめた実施例1〜11の導電性繊維基材は、ピロールと塩化第二鉄を溶解した浴にポリエステルニットを浸漬して処理した比較例2の処理布よりも、漏洩抵抗、摩擦帯電圧ともに低く、良好な導電性を有する。実施例1〜11の導電性繊維基材の中では、酸化剤として塩化第二鉄を用いた実施例7の導電性繊維基材よりも、酸化剤としてペルオキソ二硫酸塩を用いた導電性繊維基材の方が導電性が優れている。ピロール溶液に浸漬し、マングルで搾液し、乾燥したのち、酸化剤を付与した実施例10の導電性繊維基材よりも、ピロール溶液に浸漬し、マングルで搾液したのち、水分率が高い状態で酸化剤溶液を付与した導電性繊維基材の方が、導電性が優れている。酸化剤溶液を付与したのち、ピロール溶液を付与した実施例11の導電性繊維基材よりも、モノマー溶液を付与したのち、ペルオキソ二硫酸塩溶液を付与した導電性繊維基材の方が、導電性が優れている。
実施例12
ポリエステルニットの代わりに、ナイロンニットを用いて、実施例1と同じ処理を行った。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は8.6×103Ωであり、摩擦帯電圧は1Vであった。
実施例13〜22
ポリエステルニットの代わりに、ナイロンニットを用いて、実施例2〜11と同じ処理を行った。
比較例3
実施例12〜22に用いたナイロンニットの漏洩抵抗値と摩擦帯電圧を測定した。
比較例4
ポリエステルニットの代わりに、ナイロンニットを用いて、比較例2と同じ処理を行った。
実施例12〜22及び比較例3〜4の結果を、第2表に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
第2表に見られるように、ナイロンニットにピロール、チオフェン又はアニリンの溶液を付与したのち、酸化剤溶液を付与して繊維基材表面で重合せしめた実施例12〜22の導電性繊維基材は、ピロールと塩化第二鉄を溶解した浴にナイロンニットを浸漬して処理した比較例4の処理布よりも、漏洩抵抗、摩擦帯電圧ともに低く、良好な導電性を有する。実施例12〜22の導電性繊維基材の中では、酸化剤として塩化第二鉄を用いた実施例18の導電性繊維基材よりも、酸化剤としてペルオキソ二硫酸塩を用いた導電性繊維基材の方が導電性が優れている。ピロール溶液に浸漬し、マングルで搾液し、乾燥したのち、酸化剤を付与した実施例21の導電性繊維基材よりも、ピロール溶液に浸漬し、マングルで搾液したのち、水分率が高い状態で酸化剤溶液を付与した導電性繊維基材の方が、導電性が優れている。酸化剤溶液を付与したのち、ピロール溶液を付与した実施例22の導電性繊維基材よりも、モノマー溶液を付与したのち、ペルオキソ二硫酸塩溶液を付与した導電性繊維基材の方が、導電性が優れている。
実施例23
ポリエステルニットの代わりに、アクリルニットを用いて、実施例1と同じ処理を行った。
得られた導電性繊維基材の漏洩抵抗値は5.2×104Ωであり、摩擦帯電圧は8Vであった。
実施例24〜33
ポリエステルニットの代わりに、アクリルニットを用いて、実施例2〜11と同じ処理を行った。
比較例5
実施例23〜33に用いたアクリルニットの漏洩抵抗値と摩擦帯電圧を測定した。
比較例6
ポリエステルニットの代わりに、アクリルニットを用いて、比較例2と同じ処理を行った。
実施例23〜33及び比較例5〜6の結果を、第3表に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
第3表に見られるように、アクリルニットにピロール、チオフェン又はアニリンの溶液を付与したのち、酸化剤溶液を付与して繊維基材表面で重合せしめた実施例23〜33の導電性繊維基材は、ピロールと塩化第二鉄を溶解した浴にアクリルニットを浸漬して処理した比較例6の処理布よりも、漏洩抵抗、摩擦帯電圧ともに低く、良好な導電性を有する。実施例23〜33の導電性繊維基材の中では、酸化剤として塩化第二鉄を用いた実施例29の導電性繊維基材よりも、酸化剤としてペルオキソ二硫酸塩を用いた導電性繊維基材の方が導電性が優れている。ピロール溶液に浸漬し、マングルで搾液し、乾燥したのち、酸化剤を付与した実施例32の導電性繊維基材よりも、ピロール溶液に浸漬し、マングルで搾液したのち、水分率が高い状態で酸化剤溶液を付与した導電性繊維基材の方が、導電性が優れている。酸化剤溶液を付与したのち、ピロール溶液を付与した実施例33の導電性繊維基材よりも、モノマー溶液を付与したのち、ペルオキソ二硫酸塩溶液を付与した導電性繊維基材の方が、導電性が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の導電性繊維基材の製造方法によれば、繊維基材に付与された導電性高分子形成性モノマーと酸化剤が、繊維基材上で反応して導電性高分子を形成し、導電性高分子形成性モノマーと酸化剤を含む浴に繊維基材を浸漬する方法に比べて、導電性高分子は完全に繊維基材に付着するので、導電性高分子形成性モノマーと酸化剤が無駄に失われることがなく、経済的に導電性繊維基材を製造することができる。本発明方法によれば、優れた導電性と耐久性を有する導電性繊維基材を連続的に生産することができる。本発明方法により製造された導電性繊維基材は、漏洩抵抗と摩擦帯電圧が低く、優れた導電性を有し、起爆性雰囲気中における作業衣、カーペットなどに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材に沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与する工程、及び、酸化剤溶液を付与する工程を有し、少なくとも一つの工程において溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与し、繊維基材表面において該モノマーを重合せしめることを特徴とする導電性繊維基材の製造方法。
【請求項2】
繊維基材に沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液を付与したのち、酸化剤溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与する請求項1記載の導電性繊維基材の製造方法。
【請求項3】
繊維基材に酸化剤溶液を付与したのち、沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーの溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより付与する請求項1記載の導電性繊維基材の製造方法。
【請求項4】
沸点45℃以上の導電性高分子形成性モノマーが、ピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の導電性繊維基材の製造方法。
【請求項5】
酸化剤溶液が、ペルオキソ二硫酸塩の溶液である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の導電性繊維基材の製造方法。
【請求項6】
酸化剤溶液を、水分率1〜200質量%の繊維基材に付与する請求項1又は請求項2記載の導電性繊維基材の製造方法。

【公開番号】特開2006−233349(P2006−233349A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47061(P2005−47061)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】