説明

導電性繊維構造体

【課題】合成繊維特有の賦型性、しなやかさや強靱性、強度、高い耐摩耗性を有するとともに、従来の金属メッキ繊維に匹敵する高い導電性と導電安定性とを具備し、温湿度変化によらず、一定の導電性を有し、変動が少ない優れた導電性を示し、さらには表面からの導電剤の脱落が少ない、導電性繊維構造体を提供する。
【解決手段】芳香族ポリエステルにカーボンブラックを含有した樹脂組成物からなる導電性繊維構造体であり、表面抵抗率が10〜10Ω/□であり、繊維構造体密度が0.2〜1.0g/cmであり、繊維構造体を構成する導電性繊維の単糸繊度が0.1〜20dtexであることを特徴とする導電性繊維構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維特有の賦型性、しなやかさや強度、高い耐摩耗性を有するとともに、従来の金属メッキ繊維に匹敵する高い導電性と導電安定性とを具備し、表面からの導電剤の脱落が少ない、導電性繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維の高機能化においては様々な機能性付与が検討され、導電性もその1つとして重要視されている。この導電性を有する繊維(以後、導電性繊維)は、例えば、クリーンルーム用の衣料用繊維やカーペットへの混繊用繊維として用いられる他、近年では、各種装置内に組み込まれる部品用に使用される繊維として、静電気を除去する目的や装置内で電荷を付与する目的等で使用されている。
【0003】
特にIT分野においては、画像形成(表示)装置などのOA機器や電子情報機器、特に携帯電話などの無線端末の普及により、導電性繊維はブラシやシート状に加工され、電気伝導材料や電磁波遮蔽素材としても利用されている。例えば、このように導電性繊維は、衣料用途だけでなく各種産業用などの幅広い分野で用いられており、需要の高まりと共に、更なる高性能化が進められている。
【0004】
この導電性繊維の技術開発については多くの繊維形成材料での検討が行われており、中でもポリオレフィンやポリアミドあるいはポリエステルについて数多くの検討がなされている。
【0005】
例えば、カーボンブラックを23重量%含有したナイロン6繊維を含んだ導電性不織布が提案されている(特許文献1)。該技術では、単繊維間の電気抵抗のばらつきを少なくするため熱延伸・弛緩熱処理を施している。しかしながら、吸湿性を有するポリアミドを用いているため温湿度変化による電気抵抗率変化が起こり、電気抵抗の安定性が不十分であった。また、導電性についても不十分であった。
【0006】
一方、高い導電性を得る目的で繊維表面に金属蒸着やメッキ加工を施した不織布や繊維表面に導電材料を含んだ樹脂を塗布する技術が提案されている(特許文献2、3)。しかしながら、高い導電性を得ることは出来るが、導電層が露出する部位で使用することで、摩擦や折れ曲がりにより繊維表面に付着していた金属層や導電層が剥がれ落ち、導電性が低下するなどの欠点を有していた。
【特許文献1】特開2003−227090号公報
【特許文献2】特開平7−258965号公報
【特許文献3】特開2003−89969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、本発明は、合成繊維特有の賦型性、しなやかさや強度、高い耐摩耗性を有するとともに、従来の金属メッキ繊維に匹敵する高い導電性と導電安定性とを具備し、温湿度変化によらず、一定の導電性を有し、変動が少ない優れた導電性を示し、さらには表面からの導電剤の脱落が少ない、導電性繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、芳香族ポリエステルにカーボンブラックを含有した樹脂組成物からなる導電性繊維構造体であり、表面抵抗率が10〜10Ω/□であり、繊維構造体密度が0.2〜1.0g/cmであり、繊維構造体を構成する導電性繊維の単糸繊度が0.1〜20dtexであることを特徴とする導電性繊維構造体である。
【発明の効果】
【0009】
芳香族ポリエステルにカーボンブラックを含有した樹脂組成物からなる導電性繊維構造体でカーボンブラックを特定の物性値に限定し繊維構造体密度、単糸繊度を特定の範囲とすることで、合成繊維特有の賦型性、しなやかさや強靱性、強度、高い耐摩耗性を有するとともに、従来の金属メッキ繊維に匹敵する高い導電性と導電安定性とを具備し、温湿度変化によらず、一定の導電性を有し、変動が少ない優れた導電性を示し、さらには表面からの導電剤の脱落が少ない、導電性繊維構造体を提供することができる。
【0010】
また、本発明の導電性繊維構造体は、高い導電性および環境変化に対する導電性の安定性が必要とされる用途、特に画像形成装置や電子写真装置の帯電部材や除電部材、清掃部材として組み込むことで、温湿度変化の影響を受けず、安定した鮮明な画像を得ることが出来る。また、微弱な電流を流し、電荷を与え、静電気を発生させることで、静電吸着力を利用したクリーナーやフィルターなどにも用いることも出来る。
【0011】
また、繊維構造体は、一般的に不織布やフェルトと呼ばれる物であり、画像形成装置や電子写真装置に組み込まれ、不織布やフェルトによって形成する事が出来る転写ベルトや被印刷物を運搬する部材としても用いることが出来る。また、センサーの一部として用いることも出来、電極などと組み合わせ感圧センサー、シートセンサー、接触センサーなどとして用いることも出来る。また、繊維構造体には微細な空隙が無数にあり、その空隙は毛細管現象により液状物を吸い上げたり、保持することが出来ることから、インクタンクやペン先などとして使用することも出来る。
【0012】
さらには、通電することで電気抵抗による発熱が起こる特徴を利用し、面状発熱体として利用でき、ロードヒーターや保温シート、床暖房部材、発熱マット、融雪マットなどの熱を発する部材の一部として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における繊維とは細く長い形状を指し、一般的に言われる長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であっても良い。
【0014】
本発明の導電性繊維構造体は、ASTM(アメリカ材料試験協会)で定義している「繊維どうしを接合物質によって接合したウェッブあるいはマット状の構造をもつ布状物質」であり、紡績機、織機、編機を用いずに製造した布状あるいはシート状の繊維材料であり、マルチフィラメントを得た後カットして短繊維として用いることが好ましく、乾式不織布又は紙に代表されるような湿式不織布の製造方法で作製してもよい。
【0015】
本発明の導電性繊維構造体は、公知の不織布、製紙方法でシート状に加工する方法で作製することができる。そして、繊維構造体を構成する導電性繊維(短繊維)の繊維長は、乾式不織布では30〜150mmが好ましく、55〜110mmであることがより好ましい。湿式不織布では2〜6mmとすることが好ましい。
【0016】
また、導電性繊維の繊度、フィラメント数は、シート、成形体の形態により決定されるが、シートの厚み、目付けの均一性や導電性繊維の均一分散性、接触状態の均一性を考慮すると、単糸繊度は0.1〜20dtexとする。好ましくは、1〜10dtex、更に好ましくは、3〜6dtexである。これは、画像形成(表示)装置などのOA機器に組み込み使用した場合、電荷を付与する物質と接触した際に、斑無く電荷を付与するためには単糸繊度が太い方が好ましいが、逆に擦り合わせた時の摩擦抵抗が大きくなり、滑りが悪くなるほか、強く擦りすぎて傷の原因となりやすくなる。また、摩擦抵抗を小さくするためには単糸繊度は細い方が好ましいが、電荷付与斑が起こりやすくなることから、単糸繊度は、上記範囲とすることが重要である。
【0017】
また、導電性繊維の断面形状についても、丸形であれば均一な繊維物性および繊維断面内における等方的な導電性を有するため好ましく、また例えば繊維の曲がる方向に異方性を持たせて剛性を高める、あるいは偏平型、多角形、多葉型、中空型、あるいは不定形型などでも好ましい。
【0018】
本発明の導電性繊維構造体は、本発明の趣旨を損ねない範囲で一般的に言われている不織布と同様に繊維構造体としての形態を安定させるための加工を施しても良い。例えば、得られた繊維構造体をエンボス加工等の熱処理により部分的に熱接着させたり、繊維構造体の全体を加熱ロールや加熱プレスにより表面を熱接着させても良く、全体の形態を安定させるためには加熱ロールや加熱プレスにより表面を熱接着させることが好ましい。しかし、繊維構造体は、合成繊維特有の賦型性、しなやかさを得るために、繊維構造体密度を0.2〜1.0g/cmとする。繊維構造体密度を上記範囲とすることで高い導電性を維持したまま、合成繊維特有の賦型性、しなやかさを得ることが出来る。繊維構造体密度が、0.2g/cm未満では繊維同士が接合している割合が少ないことから導電性が低くなり、1.0g/cmを超えると硬くなりすぎて賦型性が得られなくなる。
【0019】
そして、本発明の導電性繊維構造体は、導電性繊維を主体繊維として構成されるものであるが、繊維構造体としての表面抵抗率を満足する範囲内、その他の効果を損なわない範囲内で、バインダー繊維や、分散剤などの添加剤を混合して繊維構造体を作成してもよい。導電性繊維構造体における電気抵抗値に影響する要因は導電性繊維であるため、バインダー繊維として導電性物質を含有しない通常の熱可塑性繊維を含んでいたとしても、繊維構造体全体として導電性性能に影響はない。ただし、バインダー繊維の量が多くなりすぎると、繊維構造体中の導電性繊維の分布が不均一となることにより、繊維構造体内で電気抵抗値のばらつきが生じてしまうので、バインダー繊維の混合量は繊維全体の60質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
本発明の導電性繊維構造体の導電性能は、表面抵抗率が10〜10Ω/□である。表面抵抗率は小さければ小さいほど導電性が高く、電気を流しやすいため、用途によっては高い導電性(低表面抵抗率)が要求される。本発明においては、導電剤であるカーボンブラックの最大含有量が50重量%であり、表面抵抗率の下限は10Ω/□である。該表面抵抗率の範囲とすることで、例えば導電性ブレードとしての除電性能あるいは帯電防止が可能となる導電レベルを充分到達することができる。
【0021】
一般的にOA機器用の部材に導電性繊維を用いる際には、10〜1012Ω/□の表面抵抗率であることが好ましいことから、本発明の導電性繊維構造体が導電性ブレードに用いる際には10〜10Ω/□が好ましい。装置の特性および導電ブレードの役割に応じて最適な表面抵抗率の導電性繊維構造体を用いればよい。
【0022】
本発明の導電性繊維構造体の表面抵抗率は、導電剤の種類(主として導電特性)、導電剤の濃度、単繊維繊度、繊維横断面における導電性成分の露出長の比率、導電性成分の厚さなどで制御することが可能である。上記表面抵抗率を得るための芳香族ポリエステルにカーボンブラック(以下CBと記載)を含有した樹脂組成物におけるCB含有量は10重量%〜50重量%が好ましく、20重量%〜35重量%がより好ましい。10重量%以上とすることで、カーボンストラクチャーの形成により導電性能が顕在化し、20重量%以上で急激に導電性能が向上する。また、CB含有量を50重量%以下とすることで良好な曳糸性が得られる。
【0023】
なお、CBによる導電性付与にあたっては、CBの連鎖構造であるストラクチャー、特に2次凝集体であるアグロメレート・ストラクチャーによる連鎖構造の形成が肝要である。高い導電性を得るためには、該ストラクチャーを破壊せずにポリマー中に分散させ、長い繋がりを保持しつつ高密度に存在させなくてはならない。この手段として、延伸又は仮撚加工工程において、未延伸糸の自然延伸比近傍で延伸することで、ストラクチャーの破壊を抑制しつつ、繊維長手方向へストラクチャーを引き伸ばすことが可能となる。
【0024】
本発明に用いられるCBとしては、ファーネス法により得られるファーネスブラック、ケッチェン法により得られるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどがある。その中でも、導電性を有するファーネスブラックやアセチレンブラックを用いることがより好ましい。その中でも、CBの導電性能の基本的性質である粒子径(比表面積)、ストラクチャー、表面性状(粒子表面の化学的性質)の制御範囲が広いファーネスブラックが特に好ましい。
【0025】
CBの導電性能は、比抵抗値として低いほどよく、5.0×10Ω・cm以下が好ましく、1.0×10−6〜5.0×10Ω・cmがより好ましい。また、本発明の繊維に含有させた場合に、繊維の力学特性を損ねることなく、導電回路としてのストラクチャーを形成させるために、CBの一次粒子の平均粒径を1〜200nmの範囲とすることが好ましく、5〜80nmの範囲がより好ましい。
【0026】
またストラクチャーの大きさの指標であるジブチルフタレート(DBP)吸収量が50〜180cm/100gが必要であり、80〜175cm/100gのものが好ましく、100〜150cm/100gのものがより好ましい。該DBP吸収量を上記範囲とすることで、曳糸性が良好で高い導電性を得ることができる。この該DBP吸収量は、CBのストラクチャーの大きさの指標であり、このストラクチャーは樹脂中で導電回路を形成しており、大きければ導電性が良くなるが、樹脂の流動性を低下させてしまい、曳糸性が低下する。従って、樹脂の流動性、曳糸性を維持したまま、高い導電性を得るためには、上記の範囲とすることが重要である。
【0027】
また、検討において、比表面積とDBP吸収量の積の平方根を取った値がCBの導電性と関係することがわかり、この値を導電指標とした。この導電指標が60〜220の範囲であることが必要である。好ましくは、70〜200、更に好ましくは、130〜180である。該導電指標を上記範囲とすることで、導電層の流動性を維持したまま、より高い導電性を得ることができる。なお、導電指標は以下の式で求めることができる。
導電指標(無次元)=√{(比表面積[m/g])×(DBP吸収量[cm/100g])}
本発明の導電性繊維構造体を構成する芳香族ポリエステルは、強度の観点から、その80モル%以上がアルキレンテレフタレートを繰り返し構成単位からなるものが好ましい。具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどを好適な例として挙げることができる。なかでも、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構成単位とする芳香族ポリエステル(PTT系ポリエステル)やテトラメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とする芳香族ポリエステル(PBT系ポリエステル)は、CBなどの粒子を添加する場合は、樹脂流動性が良好なことからより好ましい。
【0028】
他の汎用的に用いられる芳香族ポリエステル、例えばエチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル成分(PET系ポリエステル)の場合は、通常、CBを高濃度(10重量%以上)に含有させた場合には溶融紡糸中の糸切れが多発して全く引き取りができないが、該PTT系ポリエステル成分やPBT系ポリエステルは、CBを多量に含有させた場合であっても、溶融粘度が大きく変化することがなく、繊維を形成させるためのプロセス、例えば溶融紡糸においても通常のPTT系ポリエステルやPBT系ポリエステルのみを溶融紡糸するのと何ら変わりなく同じように溶融紡糸が達成でき、飛躍的に曳糸性が向上したことを本発明者らは見出したのである。これにより、従来はポリアミド系ポリマーで可能であった高い導電性を有する導電性繊維の製造が、ポリエステル系ポリマーであっても同じように高濃度のCBを含有させ、高い導電性を有する導電性繊維を形成することが可能となったのである。これは、PTT系ポリエステルやPBT系ポリエステルはPET系ポリエステルと比較して、独特のメチレン鎖の屈曲構造に由来して、分子鎖間がルーズな構造をとりうる。このような分子構造であるため、CBとの親和性が高くなるものと推定している。
【0029】
該PTT系ポリエステルは、カルボン酸であるテレフタル酸とグリコールであるトリメチレングリコールのエステル化反応により形成される、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位から構成されるポリマーである。また、該PBT系ポリエステルは、カルボン酸であるテレフタル酸とグリコールであるテトラメチレングリコールのエステル化反応により形成される、テトラメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位から構成されるポリマーである。主たる繰り返し構造単位とは、50モル%以上を意味する。そして主たる繰り返し構造単位から構成される成分が80モル%以上であることが好ましく、90%モル以上であることがより好ましい。
【0030】
該PTT系ポリエステルや該PBT系ポリエステルには、本発明の目的、すなわち高濃度でCBを含有しても高い溶融紡糸性を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良く、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0031】
また、該PTT系ポリエステルや該PBT系ポリエステルには、本発明の目的、すなわち高濃度でCBを含有しても高い溶融紡糸性を損ねない範囲でメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族カルボン酸を主たる共重合成分としてランダムに共重合することも出来る。メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸として、メチレン基の鎖長が短いものから順に、ピメリン酸(メチレン基の鎖長が5)、スベリン酸(同6)、アゼライン酸(同7)、セバシン酸(同8)、ウンデカン2酸(同9)、ドデカン2酸(同10)、トリデカン2酸(同11)、テトラデカン2酸(同12)、ペンタデカン2酸(同13)、ヘキサデカン2酸(同14)、ヘプタデカン2酸(同15)、オクタデカン2酸(同16)、ノナデカン2酸(同17)、エイコサン2酸(同18)等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸を共重合した芳香族ポリエステルは、該脂肪族ジカルボン酸のメチレン鎖長が長いほど、CBとの親和性が優れ、また溶融紡糸における変形追従性も高められるため好ましいことから、メチレン基の鎖長が8以上(セバシン酸以上の長鎖)の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、メチレン基の鎖長が10以上(ドデカン2酸以上の長鎖)の脂肪族ジカルボン酸が特に好ましい。
【0032】
ここで「主たる共重合成分」であるというのは、これらメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸が共重合成分として、1種類単独で共重合された場合にはモル%として最も多い共重合成分であることを意味し、また複数種用いられる場合には、これらメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸の合計モル%が共重合成分の中で最も多い共重合成分量であることを意味する。さらに「ランダムに共重合されている」というのは、本発明における前記共重合芳香族ポリエステルを調製するための通常の重合反応において、重合反応が停止する以前の任意の段階で、前記メチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸を添加・共重合せしめることによって、芳香族ポリエステル中にランダムに、すなわちポリマー全体としては均等かつ均質に脂肪族ジカルボン酸を共重合させたものを意味し、芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとを溶融混合して得られる混合ポリマーもしくはブロックコポリマーとは本質的に異なる。該混合ポリマーもしくはブロックコポリマーは、目視では均質なポリマーとなりうるが、カーボンブラックを含有せしめたポリエステル樹脂組成物とした場合には、カーボンブラックの混練不均一が生じやすいことにより繊維形成時に繊維長手方向の大きな導電性斑を引き起こしやすく、また製糸性に関しても冷却時の構造形成速度の不均一や溶融伸長粘度の変形速度依存性の点で不均一が生じやすいことにより製糸性、特に溶融紡糸における曳糸性が劣る傾向にあるため、高い導電性が求められる導電繊維であればあるほど該混合ポリマーもしくはブロックコポリマーの適用は難しく、従ってランダムに共重合されていることがよい。
【0033】
また、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0034】
9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分としては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−フェニル]フルオレン等の9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシ−フェニル)フルオレン;9,9−ビス[3−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(3−ヒドロキシC2−4アルコキシ−フェニル)フルオレン;9,9−ビス[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(2−ヒドロキシC2−4アルコキシ−フェニル)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン等の9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシ−C1−4アルキルフェニル)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン等の9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシ−ジC1−4アルキルフェニル)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−アリールフェニル]フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−アラルキルフェニル]フルオレン等が挙げられる。特に9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレンが好ましい。また、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
この9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を共重合した芳香族ポリエステルを用いることにより、曳糸性が飛躍的に向上し、繊維長手方向における均一性が高く、CBの分散斑が小さくなる。これは、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格の一部がフラーレン(C60)構造と近似していることから、CBのグラファイト構造との相互作用により、ポリマーとCBの親和性が高くなったためと推測している。
【0036】
また、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を共重合せしめることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸やメチレン基の鎖長が5以上の脂肪族ジカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族のヒドロキシカルボン酸化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
本発明の導電性繊維構造体において、CBを含有させた樹脂組成物(導電層)が、構成する導電性繊維の一部または全部を形成しても良い。該導電性繊維の繊維表面での導電性を高くするために、該導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成することが出来る。繊維表面に導電層を露出させることで、繊維表面で導電パスが形成され、低電圧でも電子の受け渡しが速やかに行われる。また、接触効率をより向上させるために、繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率は、25%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
また本発明の導電性繊維構造体を構成する導電性繊維は、繊維表面での導電性を高くし、かつ安定した導電性を確保するために、導電層で完全に被覆する構造(導電層の露出長の比率が100%)とすることが最も好ましい。そのためには、芳香族ポリエステル樹脂組成物にCBを含有させた樹脂組成物からなる導電層(A)を鞘成分とし、カーボンブラックの含有率が0〜10重量%であるポリエステルからなる低導電性組成物(B)を芯成分とした芯鞘複合構造とすることが好ましい。芯鞘複合構造とすることで、製糸性に優れ、強度や伸度のような繊維物性も良好にできる。
【0039】
低導電性組成物(B)からなる芯成分は、繊維横断面積の5〜90%を占有することが好ましい。該芯成分は繊維物性(例えば強度、伸度等)を維持するための補完的役割を担う。本発明の導電性繊維構造体を用いて繊維製品を製造する際の加工性を容易にし、生産性を高めるとともに、製品の耐久性を向上させるため、芯成分の比率は少なくとも5%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。また、低導電性組成物(B)に繊維剛性の高いPET系ポリエステルを用いることで、導電層(A)と低導電性組成物(B)との比率を変えつつ、繊維剛性を制御することも可能となる。一方、導電層からなる鞘成分の比率は繊維の導電性能を担い、高い導電性を付与するために、鞘成分の比率は少なくとも10%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上である。
【0040】
また、本発明の導電性繊維構造体を構成する導電性繊維の構成としては、前述の好ましい形態である繊維表面が全て、CBを含有する芳香族ポリエステル樹脂組成物で覆われてなるのであれば、該ポリエステル樹脂組成物と他の1種または他の複数種のポリマーとからなる複合繊維であっても良い。
【0041】
本発明の導電性繊維構造体を構成する導電性繊維において、導電層(A)は、繊維軸方向に垂直な繊維横断面中で1箇所、あるいは2箇所以上の複数箇所で配置されていても良い。1箇所の配置を「芯」と称し、2箇所以上の複数箇所であれば「島」と称する。
【0042】
一方、低導電性組成物(B)が2箇所以上の複数箇所に配置されている場合には、高々100箇所配置されていることが好ましい。2箇所以上の複数箇所に配置されている場合には、曲げ剛性や引張強度あるいは引張弾性率などの繊維物性が均質になるという点で、繊維軸方向に垂直な繊維横断面において繊維中心点に対して対称となるよう等しく配置されることが好ましい。
【0043】
繊維軸方向に垂直な繊維横断面における芯あるいは島の形状としては、円あるいは楕円であっても、三角形や四角形あるいはそれ以上の多角形など、多種多様な形状であっても良い。芯あるいは島が円形状であれば、前述の繊維横断面において、曲げに対して等方的な強度(剛性)を有するが、丸形状以外の形状、例えば、楕円や三角形においては、曲げの剛性が曲げる方向において異なるという挙動を示すことがある。
【0044】
低導電性組成物(B)は、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステルであって、具体的には、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができる。これらにかかるポリエステルとしては、その主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートあるいはシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、であるポリエステル、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0045】
これら低導電性組成物(B)として、CB含有PTTとの界面接着性が良好で剥離が生じがたいという点で、その主たる繰り返し構造単位は、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、乳酸が挙げられる。特に、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルは、CB含有PTTと主たる繰り返し構造単位が化学的に類似しているため界面接着性が良好であり特に好ましい。得られた繊維の弾性率が高く硬い繊維として様々な用途で用いられうるという点では、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルが特に好ましく、逆に得られた繊維の弾性率が低く柔らかい繊維として様々な用途で用いられうるという点では、トリメチレンナフタレートやテトラメチレンナフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルが特に好ましい。そして、上記の中から選ばれるポリエステルを1種類単独で用いても良く、また本発明の目的を損ねない範囲において複数種併用しても良い。
【0046】
そして、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーには、本発明の目的を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良く、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。
【0047】
該ジカルボン酸化合物として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、エイコサン2酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0048】
また、ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0049】
また、ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0050】
また、低導電性組成物(B)として、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体であっても良く、これらヒドロキシカルボン酸からなる重合体としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、といったヒドロキシカルボン酸を主たる繰り返し構造単位とするポリエステルを挙げることができ、その他にも、これらヒドロキシカルボン酸としては、本発明の目的を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていても良い。
【0051】
本発明の繊維構造体を構成する導電性繊維において、繊維の鞘成分をなすCB含有PTTと、繊維の芯成分をなす低導電性組成物(B)以外に、本発明の目的を損ねない範囲において、他のポリマー成分を含有してもよい。
【0052】
該他のポリマー成分としては、例えば、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニル基の付加重合により合成される、例えばポリアクリロニトリル系ポリマーなどのビニル系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、芳香族あるいは脂肪族ケトン系ポリマー、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。
【0053】
より具体的には、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーやその他のビニル系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、などが挙げられるが、これらは例えばポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであっても良いし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであっても良く、例えばスチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、本発明の目的を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマーであっても良い。
【0054】
また、上記他のポリマー成分としては、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマーを挙げることができ、具体的にはナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7、ナイロン5,6およびナイロン5,10などが挙げられるほか、本発明の目的を損ねない範囲で他の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族、脂環族ジアミン成分が、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基を両方有したアミノカルボン酸化合物が単独で用いられていてもよく、あるいは第3、第4の共重合成分が共重合されているポリアミド系ポリマーであっても良い。
【0055】
上記以外の他のポリマー成分としては、アルコールと炭酸誘導体のエステル交換反応により形成されるポリカーボネート系ポリマー、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマー、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマーや、そのほかにもポリスルホン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルケトンケトン系ポリマー、脂肪族ポリケトンなどのポリマーの他、セルロース系ポリマーや、キチン、キトサンおよびそれらの誘導体など、天然高分子由来のポリマーなども挙げられる。
【0056】
本発明においてPTT系ポリエステルにカーボンブラック(CB)を含有せしめる方法としてはPTT系ポリエステルに添加する任意の方法が採用できる。具体的には、(a)不活性気体の雰囲気下、PTT系ポリエステルを溶融したのち、CBを添加し、エクストルダーや静止混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(b)不活性気体の雰囲気下、PTT系ポリエステルとCBとをあらかじめ所定の割合でドライブレンドしたのち、好ましくはPTT系ポリエステルが粉体もしくは粒体となされたものとCBとをドライブレンドしたのち溶融し、エクストルダーや静止混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(c)通常のPTT系ポリエステルの重合反応において、重合反応が停止する以前の任意の段階でCBを含有せしめて混練する方法、などが挙げられるが、簡便に混練が達成できかつCBとPTT系ポリエステル成分とがより微細に混練されることから、好ましくは(a)あるいは(b)の方法が採用される。
【0057】
特にエクストルダーに関しては1軸あるいは2軸以上の多軸エクストルダーを好適に用いることができるものの、PTT系ポリエステル成分とCBとを混練した際にCBが微細混練するという点で、2軸以上の多軸エクストルダーを採用することが好ましい。そしてエクストルダーの軸の長さ(L)および軸の太さ(D)の比L/Dについては、混練性向上の点でL/Dは10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることがさらにより好ましい。また該L/Dは大きい値をとるほどより混練にかかる時間が長くなり混練性が向上して好ましいものの、過度にL/Dが大きいと滞留時間が大きくなりすぎて、PTT系ポリエステルが劣化することもあり得るので、該L/Dは100以下であることが好ましい。またCBの添加は、前述の通りエクストルダーに供給する以前の段階でドライブレンドしておいても良く、あるいはエクストルダーに配設したサイドフィーダーを用いて溶融PTT系ポリエステルとエクストルダー中にて混合しても良い。
【0058】
また特に静止混練子に関しては、例えば溶融したPTT系ポリエステルの流路を2つあるいはそれ以上の複数に分割して再度合一するという作業(この分割から合一までの作業1回を1段とする)がなされる静置型の混練素子であれば、より混練性が優れるという点で該静止混練子の段数は5段以上であることが好ましく、10段以上であることがさらにより好ましい。また流路の必要長さにも依るものの過度に長い場合には工程に組み込めない場合もあることから、上限としては50段以下であることが好ましい。
【0059】
本発明の導電性繊維構造体で好ましいとするPTT系ポリエステル、あるいは前述したポリエステルや他のポリマー成分は、通常、合成繊維に供する粘度のポリマーを使用することができる。例えば、PET系ポリエステルであれば、固有粘度(IV)が0.4〜1.5であることが好ましく、0.5〜1.3であることがより好ましい。また、PTT系ポリエステルであれば、固有粘度(IV)が0.7〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.8であることがより好ましい。あるいは、PBT系ポリエステルであれば、固有粘度(IV)が0.6〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.4であることがより好ましい。
【0060】
また、PTT系ポリエステルの溶融粘度は、添加するCBの添加量や繊維の構成により適宜設定すれば良いが、CBを含有した状態での該ポリエステルの溶融粘度は、溶融紡糸温度(240〜280℃)の範囲で、剪断速度が12.16[1/秒]の剪断粘度が100〜100000[Pa・秒]のポリエステルが通常用いられ、好ましくは500〜10000[Pa・秒]である。
【0061】
さらに、CB含有PTTを鞘成分とし、低導電性組成物(B)を芯成分とし、溶融紡糸温度(240〜280℃の範囲)において(剪断速度1216[1/秒]時)芯成分(core)と鞘成分(sheath)の溶融粘度差(=log[ηcore]−log[ηsheath])が0を超えることが好ましい。これは、繊維構造体を構成する導電性繊維において、芯成分の溶融粘度を高くすることで芯成分に繊維形成能を担わせることある。このように芯成分が溶融紡糸における紡糸応力を受け持つことで、さらに鞘成分に大きな応力がかからず、CB含有PTTのカーボンブラックストラクチャーを維持したまま、または、大きく破壊せず溶融紡糸が可能となり、高い導電性能のほか、繊維長手方向の導電斑が小さくなり、安定した導電性能を発揮できるのである。該溶融粘度差が0未満であれば鞘成分に大きな応力がかかり、CB含有PTTのカーボンブラックストラクチャーが破壊され、導電性能が低下するほか、繊維長手方向の導電斑が大きくなる。また、該溶融粘度差が大きければ大きいほど鞘成分にかかる応力が小さくなり好ましいが、大きすぎる場合には芯鞘複合形成時の口金内での粘度バランスの関係が悪くなり、複合異常が生じたり、断糸、太さ斑により製糸が困難となることもあるため、好ましくは前述の溶融粘度差は1以下であり、さらに好ましくは0.5以下である。
【0062】
本発明の導電性繊維構造体は、使用時の環境によっては高温に曝される場合もあることから、耐熱性に優れるという点で、160℃大気中で15分間保持した際の収縮率(乾熱収縮率)が20%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましい。低いほど好ましく0〜10%までのものが好適に用いられる。
【0063】
以下、本発明の導電性繊維構造体を構成する導電性繊維の好ましい製造方法を例示する。
【0064】
本発明では、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸、あるいは乾湿式紡糸などの溶液紡糸など、種々の合成繊維の紡糸方法を採用して製造できるものの、繊維中に配設されたPTT系ポリエステルにCBを高濃度で含有せしめることが容易かつ可能であり、また繊維形状を精密に制御可能であることから溶融紡糸により製造されることが好ましい。そしてCB含有PTTを鞘成分とし、CB0〜10重量%含有の低導電性組成物(B)を芯成分として複合紡糸することで繊維を得る。図1に本発明の導電性繊維構造体に用いる好ましい繊維断面形状を示す。図中1は導電性成分で、2は低導電性成分である。
【0065】
溶融吐出された繊維は繊維を形成するポリマー成分(CB含有PTTと低導電成分)のうち低い方のガラス転移温度(Tg)以下の温度に冷却され、油剤を付着せしめた後、100〜7000m/分の引取速度で、好ましくは4000m/分以下、より好ましくは3000m/分以下、更により好ましくは2500m/分以下の引取速度で引き取る。また生産性を考慮すると500m/分以上、好ましくは1000m/分以上の引取速度で引き取る。本発明で用いるPTT系ポリエステルは過度に高い引取速度で引き取った場合に、工程安定性に劣る場合もあることから、最も好ましいのが1200m/分〜2500m/分の範囲である。
【0066】
また、本発明の導電性繊維構造体に、本発明の目的を損ねない範囲で油剤を付与することが好ましい。該油剤の付与は、工程通過維持の擦過紡糸や糸条(フィラメントの束)が割れてバラバラとなることを防止する意味でも好ましい。上記油剤には少なくとも平滑性を付与する変性シリコーンと前述成分の相溶性を上げ、摩擦挙動を安定させるR−COOHで示されるカルボキシル基を有する化合物が含まれていることが好ましい。変性シリコーンの例としては、フェニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、脂肪酸変性シリコーンなどが挙げられるが、中でもオルガノシロキサンにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの両者を付加させて水溶性となしたポリエーテル変性シリコーンが好ましい。また、R−COOHで示されるカルボキシル基を有する化合物としては、Rは炭素数8〜25のアルキル基、アリール基、アルキルアリール基を示しこれらの基の末端または炭素中に水酸基、アミノ基またはエステル結合、エーテル結合およびアミド結合を含むものなどかある。R−COOHで示されるカルボキシル基を有する化合物の配合比は3wt%以上が好ましい。また、その他の油剤成分として例えば、平滑剤、乳化剤、帯電防止剤などを含むものを付与する。
【0067】
具体的には、流動パラフィン等の鉱物油、オクチルパルミテート、ラウリルオレエート、イソトリデシルステアレート等の脂肪酸エステル、ジオレイルアジペート、ジオクチルセバケート等の2塩基酸ジエステル、トリメチロールプロパントリラウレート、ヤシ油等の多価アルコールエステル、ラウリルチオジプロピオネート等の脂肪族含硫黄エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、トリメチロールプロパントリラウレート等のノニオン界面活性剤、アルキルスルホネート、アルキルホスフェート等の金属塩あるいはアミン塩等のアニオン界面活性剤、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、アルカンスルホネートナトリウム塩等テトラメチレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、プロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、非イオン系界面活性剤、等を油剤に含有せしめる成分として挙げることができ、前述の高次工程の各工程の工程通過性を向上させるために、あるいは着色剤の脱離容易性を制御しうる適切な油剤付着処方を採用する。必要に応じて、さらに防錆剤、抗菌剤、酸化防止剤、浸透剤、表面張力低下剤、転相粘度低下剤、摩耗防止剤、その他の改質剤等を併用して油剤に含有せしめてもよい。そして該油剤には、前述の様々な成分を1種選択して含有せしめてもよく、必要に応じてかつ本発明の目的を損ねない範囲において複数種を選択して併用してもよい。なお該油剤成分を1〜20重量%含有する水系エマルジョンとして糸条に付与することが好ましい。該油剤の付着量は、繊維重量を基準として純分付着量が0.3〜3.0重量%であることが好ましい。
【0068】
ここで、口金孔から吐出される繊維一束の本数(糸条の繊維本数)は目的とする使用方法あるいは用途に応じて適宜選択すればよく、1本のモノフィラメントの状態であっても、3000本以下の複数糸条からなるマルチフィラメントでも良いものの、諸物性の安定した繊維が得られ、各種用途に好適に採用されるという点で、2〜500本が好ましく、3〜400本が特に好ましい。また、前述したように油剤を付着せしめる場合は繊維の摩擦特性を制御する以外にも繊維の様々な用途に応じて適宜用いることができる。
【0069】
前述で繊維を引き取った後巻き取ることなくもしくは一旦巻き取った後、繊維を構成するポリマー成分(CB含有PTTと低導電成分)のうち、低い方のガラス転移温度(Tg)+100℃以下の温度に加熱して、より好ましくはガラス転移温度が低い方のガラス転移温度Tg−20℃〜ガラス転移温度が高い方のTg+80℃の温度範囲に加熱して、延伸糸の残留伸度が5〜60%となる倍率で、好ましくは延伸糸の残留伸度が30〜50%となる倍率、すなわち1.1〜3.0倍の範囲の延伸倍率で1段目の延伸を施す。ここで一旦延伸したのち(すなわち1段目の延伸を終えた後)、さらに1倍以上2倍以下の倍率で2段目の延伸を施してもよい。
【0070】
延伸したのち、繊維は最終延伸温度以上融点(Tm)以下の温度で熱処理することが好ましい。延伸後に高温で熱処理を施すことで、繊維の耐熱性向上および導電性能の制御が可能となる。
【0071】
この前記熱処理は、本発明の導電性繊維構造体の導電性能を担っている、CBの導電性能を決定するカーボンブラックストラクチャー構造(以下、ストラクチャーと記載する)の形成と関係があると考えられる。すなわちポリマー中でのCBはポリマー分子鎖の間隙をぬってCBの粒子がストラクチャー(連鎖構造)を形成していると推測されるが、この時、導電性繊維構造体に電圧をかけると、前記ストラクチャーの炭素表面のπ電子がストラクチャーを伝わって移動することによって電気が流れることが一般に知られている。ここで、本発明の導電性繊維構造体に前記熱処理を施すことによりポリマーの結晶化が促進され、結晶部からCBが排除されることにより、ストラクチャーの局在化、緻密化が起こることにより、より高い導電性を示すことになると推測される。従って、単糸繊維間での導電性の斑が小さく優れた繊維となすことができるのである。
【0072】
上記延伸方法あるいは延伸後の熱処理方法としては特に制限されるものではなく、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バス、あるいは加熱気体、加熱蒸気、電磁波などを用いた非接触式加熱媒体などを採用することが可能であるものの、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バスなどは装置が簡便で加熱効率が高いことから好ましく、加熱されたローラー状物が特に好ましい。また、巻き取ったパッケージやボビンの状態でオーブンなどの熱処理加熱装置にて熱処理を施してもよい。
【実施例】
【0073】
A.繊度[dtex]および単糸繊度[dtex]の測定
マルチフィラメントを長さ100mカセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値の100倍とし、同様に測定して得た3回の値の平均値を繊度とした。単糸繊度は、前述の繊度をマルチフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単糸繊度[dtex]とした。
【0074】
紡績糸の単糸繊度は、JISL1015:1999(化学繊維ステープル試験方法)8.5.1の正量繊度(B法)に示される条件で測定した。
【0075】
B.繊維の破断伸度、破断強度、初期引張抵抗度の測定
試料をオリエンテック(株)社製TENSILON UCT−100でJIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に示される定速伸長形でつかみ間隔20cmの条件で測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。また、初期引張抵抗度は8.10に示されるとおりに測定した。
【0076】
C.平均抵抗率P[Ω/cm]および平均抵抗率CVの測定
中温中湿度(23℃相対湿度55%)で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させる際に、ローラー間に、東亜DKK(株)製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに走行糸が接するように設置した装置で、棒の太さφ2mm、棒端子間で接する糸の距離2.0cm、印可電圧100V、送糸速度1m/分、ローラー間の糸張力0.5cN/dtex、絶縁抵抗系でのサンプリングレート1秒で10mの長さ分、抵抗値を測定して、得られた抵抗値の平均[Ω]を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P[Ω/cm]とした。また同時に得られた全ての抵抗値の標準偏差Qを算出したのち、PとQとの比から平均抵抗率CV(CV=Q/P)を算出した。
【0077】
D.比抵抗値の測定方法
測定は前記中温中湿度で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。測定物が長さ100mm以上の繊維状のものである場合には、繊維束を1000dtexの束にして50mmの長さに切断し(この時、繊維端面は斜めにカットする)、端面に導電性ペーストを塗布してから電極を取り付けて500Vで測定した。また測定物が長さ100mm未満の繊維状物あるいは粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、10MPaの圧力で充填して密封したのち500Vで測定して、単位体積当たりの比抵抗値[Ω・cm]に換算して求めた。ガット状のものについては、1回の測定において、直径D(0.2〜0.3cmの範囲の直径のもの)で長さ12cmのガットについて、テスターを用いてテスターの2本の端子を任意の10cmの間隔でガットに押しつけ、その抵抗値R[Ω]を測定し、(比抵抗値)=R×(D/2)×π/10の式から該ガットの比抵抗値を求めた。そして5本の異なるガットについて各々1回ずつ比抵抗値を測定し、5回の平均値をそのガットの比抵抗値とした。
【0078】
E.表面抵抗率の測定方法
水平な場所に、厚み2mmのテフロンシートを敷き、その上に繊維構造体を100mm角で切り出したものを置き、その上にMEISEI社製、SURFACE RESISTIVITY CHECKER(以下、測定器とする)を静かに載せて測定を行った。この時の押圧は、測定器のみの重さである。
【0079】
F.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、キャピラリー長10mm,キャピラリー内径1mmで、剪断速度12.16[1/秒]で測定した。測定温度は各々のポリマーの溶融紡糸温度(特に断り書きのない限り、PET系ポリエステルであれば290℃、PTT系ポリエステルであれば260℃)で測定した。そして5回測定した値の平均値を溶融粘度の測定値とした。なお測定時間については、試料の劣化を防ぐため5回の測定を30分以内で完了した。溶融粘度差については前述の剪断速度を1216[1/秒]として測定した。
【0080】
G.乾熱収縮率の算出
JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.18.2の乾熱収縮率(A法)に示される条件で測定した。この時の処理温度は160℃とした。
【0081】
H.ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−7)を用いて試料10mgで、昇温速度16℃/分で測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、約(Tm+20)℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
【0082】
I.カーボンブラック(CB)の平均粒径の確認
繊維または樹脂をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて切削して60nm〜100nmの厚さの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製 H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。該写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において黒で見えるCBを画像解析することによって平均粒径について確認した。平均粒径については写真上に存在する全てのCBの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算したCBの直径の平均値によって算出した。
【0083】
J.固有粘度(IV)
オルソクロロフェノール(以下OCP)10ml中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下記式により求め、IVを算出した。25℃で測定した(固有粘度(IV))。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
IV=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマーの溶液の粘度、η0:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm)、t0:OCPの落下時間(秒)、d0:OCPの密度(g/cm)。
【0084】
K.導電層の平均厚さ、導電層の複合比率、繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率
繊維をエポキシ樹脂中に包埋したブロックを作製し、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくる。これを光学顕微鏡200倍で透過光にて観察・撮影し、得られた繊維横断面写真を、前述の三谷商事株式会社製WinROOFにて画像解析することで、導電層の厚さを求めた。なお、導電層の平均厚さは任意の5点について計測し、その平均値を求めた。また、繊維横断面における導電層の面積から比率を算出した。繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率は、繊維横断面における周長と導電層の露出長を計測して比率を算出した。なお、導電層の露出長の比率は、任意の5つの繊維横断面について計測し、その平均値を求めた。
【0085】
L.導電層中における導電性カーボンブラックの含有量
前述K.項で求めた導電層の割合から、導電層中におけるCBの含有量を算出した。溶媒に溶けないもしくは溶けにくい場合は、1Nの水酸化ナトリウム水溶液30℃で24時間撹拌して、遠心分離したのち、CBの量を秤量して求めた。
【0086】
M.CBのDBP吸収量の測定
JIS K6217−4:2001の「DBP吸収量の求め方」に準じ、アブソープトメータを用いて測定した。
【0087】
N.CBの比表面積の測定
JIS K6217−2:2001の「比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」に準じて、自動比表面積測定装置を用いて測定した。
【0088】
O.繊維構造体厚みの測定
ノギスを用いて任意の場所を3箇所測定し、その平均を繊維構造体の厚みとした。
【0089】
P.繊維構造体密度の測定
繊維構造体を100mm角で切り出し、重さを計測し、各辺の長さをノギスで測定し、面積を求め、上記で測定した厚みから体積を算出し、重さを体積で除して、繊維構造体密度を算出した。
【0090】
Q.紡糸性
総巻取量40kgにおいての紡糸性を、以下に示す基準で3段階評価した。
【0091】
○:1回以下、△:2〜4回、×:5回以上
R.画像評価方法
導電性繊維構造体を後述する実施例1に示すとおりにブレード加工し、清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷を行った。2万枚印刷後の画像評価を以下に示す基準で3段階評価した。
【0092】
○:鮮明で均一な画像、△:少々異常放電跡や斑有り、×:画像が不鮮明、スジ斑多
S.ドラム表面評価方法
前述「R.画像評価方法」にて評価を行った後、ドラム表面を目視で観察し、以下に示す基準で3段階の官能評価をした。
(1)「汚れ」
○:汚れが無い、△:問題ないが少々汚れ有り、×:糸屑、削れカス、トナー拭き取り斑など多数の汚れが存在
(2)「キズ」
○:キズが無い、△:問題ないが少々キズ有り、×:回転方向に無数のキズが存在
合成例1(ポリエチレンテレフタレートの製法の一例)
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.67、溶融粘度181[Pa・秒](測定温度290℃、10[1/秒])のポリエチレンテレフタレート(以下、PET)のペレットを得る。
【0093】
合成例2(ポリトリメチレンテレフタレートの製法の一例)
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)、酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得た低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.15、溶融粘度493[Pa・秒](測定温度260℃、10[1/秒])のポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTT)ペレットを得た。
【0094】
合成例3(フルオレン系ジオール成分共重合ポリエステルの製法の一例)
テレフタル酸(TPA)1.2mol%、エチレングリコール(EG)0.3mol%、9,9−ビス{4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル}フルオレン(BPEF)0.7mol%を原料とし通常の溶融重合で9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する芳香族ポリエステル樹脂組成物(以下、PFT)を得る。
【0095】
実施例1
固有粘度(IV)1.15、溶融粘度800(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))、融点(Tm)229℃のポリトリメチレンテレフタレートペレットを150℃、10時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とし、カーボンブラックとしてエボニック・デグサ・ジャパン社製ファーネスブラック「“Printex” L SQ」(比抵抗値0.06Ω・cm、平均粒径23nm、比表面積150m/g、DBP吸収量116cm/100g、以下「FCB1」と記載)を窒素雰囲気下で粉体同士を混合した。続いて東芝機械(株)製2軸エクストルダーTEM35B(軸径D:37mm、L/D:38.9)にて軸回転数:300rpm、混練温度:250℃、吐出量:15kg/hr、ベント:約2Torrにて溶融混練した。
【0096】
ここで、FCB1の濃度は混練終了後に得られるPTT/FCB1混練物に対して25重量%となるように調製した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の水道水で冷却したのちカッターで切断して導電層用のペレット(以下、「PTT−CB」と記載)を得た。該ペレットの溶融粘度を測定したところ、2010(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))であった。ペレタイズ前のガットの平均比抵抗値を測定したところ101.4(Ω・cm)であった。
【0097】
上記PTT−CB(融点228℃)を鞘成分とし、イソフタル酸を7モル%、2,2ビス(4−2(ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパンを4モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(融点228℃)を芯成分として、2軸エクストルダー(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルダー型複合溶融紡糸機を用いて、それぞれ別々に溶融し、紡糸温度265℃で芯鞘複合紡糸用口金(吐出孔直径0.5mm/孔深度1.0mm)を用い、芯鞘複合比(芯/鞘:重量%)60/40で吐出した。この時の芯成分と鞘成分の溶融粘度差は0.06であった。
【0098】
吐出後の糸条は冷却チムニーによって0.5m/sの冷却風で冷却・固化され、口金下2mの位置で給油装置にて集束させながら油剤を付与し、交絡ノズルにて流体として圧縮空気を用い作動圧0.1MPaで予備交絡を施し、周速度1500m/分の第1ゴデットロール(GD)、および第2GDにて引き取り、505dtex、48フィラメントの芯鞘複合構造の未延伸糸を2kg巻いたチーズパッケージとした。なお、巻取機の周速度は1482m/分とした。また、油剤としては平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、ポリエーテル変性シリコーンを2重量%、オレイルザルコシン酸を3重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を5重量%調整し、さらにこの油剤を濃度15重量%になるように水系エマルジョンとして調整し、純油分として繊維に約1.5重量%付着させた。紡糸性は良好であり、未延伸糸40kgのサンプリングで糸切れは発生しなかった。得られた未延伸糸の断面は図1に示すとおりであった。
【0099】
そして得られたマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度341m/分、第1ローラーは80℃で送糸速度341m/分、第2ローラーは140℃で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、熱処理を施し、リラックス状態にて冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下に冷却した後に巻き取った。延伸中に断糸やローラーへの単糸巻き付きの問題は発生せず、巻き上がったボビン表面上の毛羽も無く、延伸性は優れていた。
【0100】
得られた延伸糸は、単糸繊度4.5dtexで、破断強度は3.6cN/dtexであり、破断伸度41%、初期引張抵抗度56cN/dtex、乾熱収縮率9.1%、平均抵抗率105.6Ω/cm、平均抵抗率CV0.02であった。
【0101】
ここで得られた延伸糸を約26万dtexに引き揃え、クリンパーにて捲縮を付与した後、102mmにカットし、SF原綿とし、このSF原綿を用いて、カード、ニードルパンチを行い、導電性繊維構造体を得た。
【0102】
さらに、上記で得られた導電性繊維構造体を加熱プレスにて0.5MPaの圧力で、160℃×2分間の処理を行った。この加熱プレス後の導電性繊維構造体密度は0.34g/cmで、厚みが1.8mm、表面抵抗率10Ω/□であった。
【0103】
実施例2〜3および、比較例1〜2
実施例1において、表1のとおり単糸繊度(実施例2:0.6dtex、実施例3:15.9dtex、比較例1:0.05dtex、比較例2:25.0dtex)を変更した以外は実施例1と同様に紡糸、延伸、繊維構造体形成、評価を行った。実施例2および3は何ら問題が無く、鮮明で均一な画像が得られた。しかし、比較例1では、不均一な画像となり、比較例2はキズの影響からくる斑が発生し、使用に耐えがたいものとなった。
【0104】
実施例4〜5および、比較例3〜4
実施例1において、加熱プレス圧を変更して、表1のとおり導電性繊維構造体密度を変更した以外は実施例1と同様に紡糸、延伸、繊維構造体形成、評価を行った。実施例4および5は何ら問題が無く、鮮明で均一な画像が得られた。しかし、比較例3は、評価中に導電性繊維構造体の一部が脱落して評価が行えなくなり、比較例4ではキズの影響からくる斑が発生し、使用に耐えがたいものとなった。また、比較例4の導電性繊維構造体は硬く、賦型性に乏しいものであった。
【0105】
実施例6〜7
実施例1において、表1のとおりカーボンブラックの種類を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸、延伸、繊維構造体形成、評価を行った。実施例6のカーボンブラックはエボニック・デグサ・ジャパン社製ファーネスブラック「“Printex” L6 SQ」(比抵抗値0.06Ω・cm、平均粒径18nm、比表面積250m/g、DBP吸収量123cm/100g、以下「FCB2」と記載)、実施例7では、電気化学工業株式会社製デンカブラック「特殊プレス品HS−100」(比抵抗値0.14(Ω・cm)、平均粒径48nm、比表面積39m/g、DBP吸収量140cm/100g、(以下「ACB1」と記載)とした。
【0106】
カーボンブラックの種類をFCB2、ACB1いずれに変更しても平均抵抗率や平均抵抗率変動係数、表面抵抗率も優れた値を示し、画像評価においても何ら問題がなかった。
【0107】
実施例8〜9、比較例5
実施例1において、表1のとおりカーボンブラックの含有量を変更した以外は実施例1と同様に紡糸、延伸、繊維構造体形成、評価を行った。実施例8、9はいずれも画像評価、ドラム表面評価においても何ら問題がなかった。比較例5は、表面抵抗率が高いためか、画像評価では不鮮明な画像であり、ドラム表面評価は、汚れが多く使用に耐えがたいものであった。
【0108】
実施例10 (エイコサン2酸を共重合したポリブチレンテレフタレートの製法、カーボンブラックを含有したエイコサン2酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
テレフタル酸ジメチル912部(80モル部)、1,4−ブタンジオール1100部、およびチタンテトラブトキシド0.4部を仕込んで、メタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。得られた低重合体に、エイコサン2酸を402部(20モル部)、およびチタンテトラブトキシド0.6部を添加した後、1,4−ブタンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のIV1.39、溶融粘度289[Pa・秒](測定温度230℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)187℃のエイコサン2酸共重合ポリブチレンテレフタレート(以下、PBT/Eとする。)ペレットを得た。
【0109】
このPBT/Eペレットを、130℃の温度で24時間真空乾燥した後、実施例1と同様の混練において、240℃の温度で混練したこと以外は、実施例1と同様にして、溶融粘度1014[Pa・秒](測定温度230℃、12.16[1/秒])の、PBT/Eとカーボンブラックとの樹脂組成物(以下、PBT/E−CBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかったポリエステル樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、102.03[Ω・cm]であった。
【0110】
それ以外は実施例1と同様に紡糸、延伸、繊維構造体形成、評価を行った。いずれも画像評価、ドラム表面評価においても何ら問題がなかった。
実施例11
固有粘度(IV)0.68、溶融粘度1600(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))、ガラス転移点(Tg)145℃の9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオール成分を70mol%共重合した芳香族ポリエステル樹脂組成物(以下PFT)を100℃、10時間真空乾燥した後、混練操作をした以外は、実施例1と同様に紡糸、延伸、繊維構造体形成、評価を行った。いずれも画像評価、ドラム表面評価においても何ら問題がなかった。
【0111】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の導電性繊維構造体を構成する導電性繊維の好ましい繊維横断面図である。
【符号の説明】
【0113】
1:導電性成分
2:低導電性成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルにカーボンブラックを含有した樹脂組成物からなる導電性繊維構造体であり、表面抵抗率が10〜10Ω/□であり、繊維構造体密度が0.2〜1.0g/cmであり、繊維構造体を構成する導電性繊維の単糸繊度が0.1〜20dtexであることを特徴とする導電性繊維構造体。
【請求項2】
カーボンブラックが式1に示す導電指標が60〜220、ジブチルフタレート吸収量が50〜180[cm/100g]であるカーボンブラックであることを特徴とする請求項1に記載の導電性繊維構造体。
式1 導電指標(無次元)=√{(比表面積[m/g])×(ジブチルフタレート吸収量[cm/100g])}
【請求項3】
芳香族ポリエステルにカーボンブラックを含有した樹脂組成物おけるカーボンブラックの含有量が10〜50wt%であることを特徴とする請求項1〜2に記載の導電性繊維構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−100971(P2010−100971A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274118(P2008−274118)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】