説明

導電性銅ペースト

【課題】 導電性フィラーの主要部分として、銅粒子を利用した上で、優れた導電性を示す導電性接着層の作製が可能で、形成される導電性接着層は、優れた導電性を長期間にわたり維持することも可能な導電性銅ペーストの提供。
【解決手段】 銅粒子に対して、低融点合金粒子を少量併用し、バインダー樹脂の熱硬化可能なフェノール樹脂に、フラックス剤、微量のフラックス活性抑制剤、キレート剤を添加し、導電性銅ペーストを構成することで、バインダー樹脂の硬化前に、低い融点を有する低融点合金が熔融し、銅粒子相互の隙間を満たすことで金属結合が形成され、その後、温度を上昇し、樹脂の熱硬化を行う際、フラックス活性抑制剤とフラックス活性成分が反応してフラックスの活性が失われ、高い導電性と、耐酸化性に優れた導電性接着層作製用導電性銅ペーストが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性媒体として、銅粒子を利用する導電性銅ペーストに関する。具体的には、導電性媒体として利用する、銅粒子に加えて、低融点合金粒子を少量添加することで、加熱処理を施して、形成される導電性接着層の低抵抗化と、その導電特性の長期にわたる信頼性が優れる導電性接着層の形成に好適に利用可能な導電性銅ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性接着剤として利用される導電性銀ペーストでは、配合される導電性フィラーとしては、銀粒子が広く利用されてきた。銀自体、熱伝導性、電気伝導性に優れた金属であり、また、銀粒子の表面に形成される酸化被膜層の伸長も進み難いという利点を具えている。加えて、延性、展性に優れており、導電性接着剤のバインダー樹脂により、銀粒子相互を接触させ、凝集させた際、その銀粒子相互の接触部面積の拡大が容易に進むため、良好な導電性を示す導電性接着層が形成される。
【0003】
一方、銀の有する、延性、展性に優れるという性質は、大きな電流密度が流れる部位では、金属原子のマイグレーションが生じ易いという欠点の要因ともなっている。また、例えば、導電性接着層全体に反復的に加熱・冷却が加わると、含有される金属フィラーの変形が起こり、金属フィラー相互の接触不良が発生する結果、導電特性が経時的に変化するという不具合の遠因ともなっている。すなわち、耐マイクレーション性に難を有する、あるいは、長期間の信頼性も必ずしも高くないという本質的な課題を残している。
【0004】
また、導電性銀ペーストにおいて、導電性フィラーとして、フレイク形状の銀粒子を用いる際、得られる導電性接着層中において、フレイク形状の銀粒子の配向は、面内方向と、厚さ方向とで差異を示す状態となり易い。そのため、電気伝導性も、面内方向と、厚さ方向とで差異を示すため、等方的な導電性接着層とならない場合もある。等方的な導電性接着層の形成を目的として、エポキシ系熱硬化性樹脂組成物中に、導電性フィラーとして、フレイク形状の銀粒子に加えて、低融点合金製の粒子を添加し、加熱処理を施し、バインダー樹脂成分の熱硬化と同時に、フレイク形状の銀粒子相互の接触点を、熔融した低融点合金で充填して、その後、冷却することで、等方的な導電性接着層を形成する手法が報告されている(非特許文献1)。
【0005】
それとは別に、銀は、貴金属の中では、最も産出量も多く、価格も安いものではあるが、広範な利用を進める上では、その価格は、その利用拡大を阻害する経済的なファクターとなっている。
【0006】
貴金属以外で、銀に次ぐ、優れた熱伝導性、電気伝導性を示し、同時に、良好な延性、展性を有する金属は、銅である。銅は、耐マイグレーション性は銀よりも格段に優れており、大きな電流密度が想定される配線材料として、広い利用がなされている。一方、銅は、酸化を受けやすく、また、表面の酸化被膜の伸長も進み易いという欠点を持つ。特に、銅粒子表面に形成される酸化被膜の膜厚は、銀粒子の表面に生成する酸化被膜の膜厚と比較すると、有意に厚い。そのため、導電性接着剤では、配合される導電性フィラーとして、銅粒子を利用した際には、銅粒子相互の接触点に、相対的に厚い酸化被膜が残留する状態となり、この接触点の抵抗が大きく、導電性接着層自体の導電性を制限する、主な要因となっている。
【非特許文献1】IEEE Transaction on Electronics Packaging Manufacturing, Vol.23, No.3, p.185-190 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上で紹介した、エポキシ系熱硬化性樹脂組成物中に、導電性フィラーとして、フレイク形状の銀粒子に加えて、低融点合金製の粒子を添加した導電性銀ペーストは、等方的な導電性接着層の形成目的に適するものである。但し、導電性フィラーの主要部分として、フレイク形状の銀粒子を利用しており、コスト面では、従来の銀粒子を利用する導電性銀ペーストと同様に、広い分野での利用を図る上で障害となっている。
【0008】
従って、導電性フィラーの主要部分として、銀粒子に代えて、銅粒子を利用して、上述の導電性銀ペーストで作製される導電性接着層と遜色のない優れた導電性を示す導電性接着層の作製を可能とする導電性銅ペーストの提供が望まれている。特には、導電性フィラーの主要部分として、銅粒子を利用する際、利用するバインダー樹脂が吸水性を有すると、作製される導電性接着層中に浸入する水分により、銅粒子表面に酸化被膜層が形成され、また、時間経過ととも、かかる酸化被膜層の膜厚が増す。金属フィラー相互の導通が、金属粒子相互の接触点における物理的な接触による場合、時間経過とともに、かかる酸化被膜層の膜厚が増すと、接触抵抗が急速に上昇する結果、長期信頼性に難点を示すものとなっていた。特に、はんだ接合を利用する導電性接合の形成の代替が可能な導電性接着層の作製を行う上では、かかる導電性接着層部分の接合抵抗は、長期にわたり上昇が抑制される、長期信頼性に優れていることが要求される。
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するものであり、本発明の目的は、導電性フィラーの主要部分として、銅粒子を利用した上で、上述の導電性銀ペーストで作製される導電性接着層と遜色のない優れた導電性を示す導電性接着層の作製を可能とし、同時に、形成される導電性接着剤が有する、優れた導電性を長期間にわたり維持することも可能な、高い長期信頼性をも有する、新規な構成の導電性銅ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を進めた。その結果、バインダー樹脂として、熱硬化可能なフェノール樹脂を利用し、導電性フィラーとして、銅粒子に対して、少量の低融点合金粒子を配合したものを採用し、かかる低融点合金粒子を熔融する際、その銅粒子表面の酸化物被膜層を除去する機能を有するフラックス剤を適量配合する構成の導電性銅ペーストを利用すると、加熱処理に際して、銅粒子相互が接触する部位においては、前記フラックス剤の機能によって、その表面の酸化物被膜層が除去され、熔融した低融点合金がその接触部位の狭い間隙を濡らすように充填さる状態となることを見出した。すなわち、前記フラックス剤の機能によって、その表面の酸化物被膜層が除去されると、銅粒子に対して、均一に配合されている少量の低融点合金粒子が熔融することで生成する、合金の熔融体は、銅粒子表面を濡らしつつ、銅粒子相互が接触する部位の狭い間隙を満たす状態となる。銅粒子表面との濡れ性によって、この接触部位に存在する狭い間隙に合金の熔融体が浸入することに伴って、当初、物理的な接触のみであった、銅粒子相互の接触部位では、表面酸化被膜の除去が進行し、清浄化された銅表面と合金の熔融体とが直接接する状態となる。その後、冷却すると、銅粒子相互の接触部位は、低融点合金との金属接合を介して、電気的な導通経路が構成された状態が達成される。また、かかる低融点合金で充填された銅粒子相互の接触部位に対しては、例えば、バインダー樹脂の吸水性によって、微量の水分が浸入しても、この水分と直接接することはない。すなわち、バインダー樹脂によって、直接被覆されている銅粒子表面は、侵入した水分と直接接触するため、表面に酸化被膜が再形成されるが、銅粒子相互の接触部位では、銅粒子表面は、充填された低融点合金との金属接合が形成され、バインダー樹脂と直接接触することはないため、その部分では、表面に対する酸化被膜の再形成は進行しない状態となる。
【0011】
同様に、導電性接着層と、基板上面の金属層、あるいは、接合される対象部品の裏面の金属層との間でも、これら金属層の平坦な表面に対して、銅粒子が接する部位の狭い間隙に対しても、フラックス剤の機能によって、表面の酸化物被膜層が除去され、金属表面との濡れ性によって、合金の熔融体がその狭い間隙を濡らすように充填さる状態となる。その結果、これら金属層の平坦な表面に対して、当初、銅粒子は物理的な接触のみであったが、かかる狭い間隙を充填する低融点合金との金属接合が形成され、電気的な導通経路が構成された状態が達成される。その際、かかる金属層の平坦な表面と銅粒子表面とは、ともに、充填された低融点合金との金属接合が形成され、バインダー樹脂と直接接触することはないため、その部分では、表面に対する酸化被膜の再形成は進行しない状態となる。
【0012】
但し、表面の酸化物被膜層を除去する機能を有するフラックス剤は、塩基化合物として機能する金属酸化物に対して、プロトンを供給することで、かかる金属酸化物を各種のキレート剤による複合体として遊離させる過程を促進する、プロトン供与能を具えた各種の有機酸、アミン化合物の酸付加塩が利用される。その際、処理される金属表面を覆う酸化被膜層を構成する金属酸化物の量に対して、過剰量のフラックス剤を配合するため、フラックス処理において消費された後、なお相当量のフラックス剤が残余する状態となる。フラックス剤として利用される、プロトン供与能を具えた各種の有機酸や、アミン化合物の酸付加塩が残余すると、その後、例えば、バインダー樹脂中に水分が侵入すると、金属表面自体を、かかる有機酸や、アミン化合物の酸付加塩から分離する酸が侵食する不具合の要因ともなる。この不具合を回避する上では、熱硬化性樹脂組成物中に、フラックス剤に対して、反応性を有し、その反応に伴って、かかるフラックス剤の活性が失われるような、フラックス活性抑制剤を適量添加し、フラックス処理において消費された後、なお残余する相当量のフラックス剤の失活を図ることが必要であることを見出した。また、フラックス処理に伴って、金属表面の金属酸化物の形態から、遊離される金属イオンは、バインダー樹脂中に、該金属イオンに対するキレート剤を利用して、キレート剤による複合体の形態として、溶解する状態とする。その際に利用される、金属イオンキレート剤を適量配合する形態とする。
【0013】
以上の一連の知見に基づき、本発明者らは、本発明の目的を達成する上で好適な導電性銅ペーストの構成を見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、本発明にかかる導電性銅ペーストは、
熱硬化性樹脂組成物中に、導電性媒体として、銅粒子と低融点合金粒子とを分散してなる導電性銅ペーストであって、
前記低融点合金粒子は、その融点が、90℃〜180℃の範囲に選択される鉛を含有していない合金で構成される、平均粒子径が0.5μm〜20μmの範囲に選択される球状粒子であり、
前記銅粒子は、平均粒子径が0.3μm〜15μmの範囲に選択される球状あるいはフレーク状の銅粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物は、
少なくとも、220℃以下の範囲であって、前記低融点合金の融点より高い温度に加熱した際、熱硬化可能なフェノール樹脂から選択される、熱硬化性樹脂と、
該低融点合金の融点を超える温度において、少なくとも、前記銅粒子に対して、その表面の酸化物被膜層を除去する機能を有するフラックス剤と、
該低融点合金の融点を超える温度において、前記フラックス剤のフッラクス活性を抑制する機能を示す、フラックス活性抑制剤と、
少なくとも、二価の銅イオンに対して、キレート剤として機能可能な金属イオンキレート剤とを含んでなる組成物であり、
該導電性銅ペースト中において、
前記低融点合金粒子の配合量は、前記銅粒子100質量部当たり、5質量部〜30質量部の範囲に選択され
前記熱硬化性樹脂組成物の総配合量は、前記銅粒子100質量部当たり、15質量部〜30質量部の範囲に選択され、
その際、前記熱硬化性樹脂組成物中の成分として配合される、フラックス剤、フラックス活性抑制剤、金属イオンキレート剤の配合比率は、それぞれ、
前記銅粒子100質量部当たりの該フラックス剤の配合量は、1質量部〜10質量部の範囲に選択され、
前記フラックス剤10質量部当たりの該フラックス活性抑制剤の配合量は、1質量部〜5質量部の範囲に選択され、
前記銅粒子100質量部当たりの該金属イオンキレート剤の配合量は、0.5質量部〜6質量部の範囲に選択され、
導電性媒体として配合される、前記銅粒子と低融点合金粒子とを、前記熱硬化性樹脂組成物中に混合してなるペースト状の分散物に対して、
必要に応じて、前記熱硬化性樹脂組成物の希釈溶媒として機能し、少なくとも、100℃〜300℃の範囲に選択される沸点を有する高沸点溶剤をさらに添加してなる、ペースト状分散組成物である
ことを特徴とする導電性銅ペーストである。
【0015】
また、本発明にかかる導電性銅ペーストにおいては、
前記熱硬化性樹脂組成物は、さらに、
前記低融点合金の融点を超える温度において、酸素分子による銅の酸化を防止する機能を示す、酸化防止剤を、前記銅粒子100質量部当たり、0.5質量部〜4質量部の範囲に選択される配合量で含むことが好ましい。
【0016】
加えて、前記熱硬化性樹脂組成物は、さらに、シランカップリング剤を、前記熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、0.3質量部〜5質量部の範囲に選択される配合量で含むことが好ましい。
【0017】
一方、本発明にかかる導電性銅ペーストで利用する、前記銅粒子は、平均粒子径が3μm〜10μmの範囲に選択される、球状の電解銅粉が好適に利用できる。
【0018】
前記低融点合金粒子を構成する鉛を含有していない合金は、錫とビスマスとを主要な成分として含有し、その融点は、90℃〜180℃の範囲に選択されている合金であることが望ましい。
【0019】
また、前記フラックス剤は、90℃〜170℃の範囲に選択される融点を有し、その沸点は、少なくとも200℃を超える、有機カルボン酸化合物から選択されることが望ましい。
【0020】
加えて、前記フラックス剤は、90℃〜170℃の範囲に選択される融点を有し、その沸点は、少なくとも200℃を超える、有機アミン塩酸塩化合物であっても良い。
【0021】
例えば、前記酸化防止剤は、p−メトキシフェノール、ヒドロキノン類からなる、少なくとも、200℃を超えるの沸点を有し、還元性のヒドロキシル基を有する有機酸化防止剤の群から選択されることがより好ましい。
【0022】
なお、前記金属イオンキレート剤は、o−フェナントロリン、2,2−ビピビジル構造を含むポリピリジン類からなる、少なくとも、200℃を超える沸点を有する無電荷の配位子の群から選択されることが好ましい。
【0023】
本発明にかかる導電性銅ペーストでは、
特に、前記熱硬化性樹脂として、200℃以下の範囲であって、前記低融点合金の融点より高い温度に加熱した際、熱硬化可能なレゾール型樹脂を選択すると好ましいものとなる。
【0024】
なお、前記フラックス活性抑制剤として、当該フラックス剤に対する反応性を有し、このフラックス剤活性抑制剤との反応の結果、当該フラックス剤の失活がなされる、フラックス剤の失活剤が選択されていることが好ましい。
【0025】
その他、必要に応じて添加される前記高沸点溶剤として、少なくとも、100℃〜300℃の範囲に選択される沸点を有するエチレングリコールモノアルキルエーテルまたはエチレングリコールのアルカン酸モノエステルが選択されている形態とすることが可能である。
【0026】
その際、該導電性銅ペーストの粘度は、50〜200Pa・sの範囲に調整されていると、マスク印刷に適するものとなる。
【0027】
加えて、本発明は、上述する構成を有する本発明にかかる導電性銅ペーストを利用して、導電性接着層の形成を行う方法の発明をも提供している。すなわち、本発明にかかる導電性銅ペーストを利用して、導電性接着層の形成を行う際には、以下のような工程を採用する。その導電性接着層の形成工程は、
下地基材表面に設ける金属膜層の表面上に、所定の平面形状、塗布膜厚を有する該導電性銅ペーストの塗布膜を形成する、導電性銅ペースト塗布工程と;
該導電性銅ペーストの塗布膜上に、接着対象部材の下面金属膜層を均一に当接するように、該接着対象部材を搭載する、接着対象部材の搭載工程と;
前記高沸点溶剤の添加量により必要に応じて設ける、前記下地基材の表面に、該導電性銅ペーストの塗布膜を介して、搭載される該接着対象部材全体を、前記低融点合金の融点よりも、少なくとも、30℃以上低いが、少なくとも、50℃よりも高い範囲に選択される、前記高沸点溶剤の蒸散が可能である第一の加熱温度に加熱し、所定の時間保持し、含有される前記高沸点溶剤の蒸散を図る、溶剤除去工程と;
引き続き、前記下地基材の表面に、前記高沸点溶剤の除去がなされた該導電性銅ペーストの塗布乾燥膜を介して、搭載される該接着対象部材全体を、前記低融点合金の融点よりも高く、前記熱硬化樹脂の熱硬化が可能な温度範囲に選択される、第二の加熱温度に加熱し、所定の時間保持し、前記低融点合金粒子の熔融と、前記熱硬化樹脂の熱硬化を図る、熱硬化処理工程とで構成される。
【0028】
その際、例えば、導電性銅ペースト中に配合されている、低融点合金粒子を構成する鉛を含有していない合金は、錫とビスマスとを主要な成分として含有し、その融点は、120℃〜160℃の範囲に選択されている合金である際、利用する熱硬化可能なフェノール樹脂として、その熱硬化可能な温度が、130℃〜180℃の範囲となるものを選択した上で、
前記溶剤除去工程に用いる、第一の加熱温度は、50℃〜90℃の範囲に選択し、
前記熱硬化処理工程に用いる、第二の加熱温度は、130℃〜190℃の範囲に選択することがより好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかる導電性銅ペーストでは、バインダー樹脂として、熱硬化可能なフェノール樹脂を採用し、また、導電性フィラーとして、主体となる銅粒子に対して、低融点合金粒子を少量併用することにより、加熱処理の際、かかる低融点合金粒子の熔融が進むと、主体となる銅粒子相互の接触点の狭い隙間に対して、低融点合金の熔融物が充填され、銅粒子相互の電気的導通は、低融点合金と銅粒子との金属結合を介したものとなり、高い導電性が達成される。また、銅粒子相互の接触点の狭い隙間に低融点合金が充填された状態となる結果、この部分では、銅粒子表面への酸化被膜形成が回避されるため、銅粒子相互の導通経路中に酸化被膜層が挿入されることに起因する、接触抵抗の増加、すなわち、全体の抵抗率の上昇も大幅に抑制される。従って、得られる導電性接着層は、高い導電性を有することに加えて、長期信頼性にも優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明に関して、より詳細に説明する。
【0031】
本発明にかかる導電性銅ペーストは、バインダー樹脂として、熱硬化性のフェノール樹脂を選択し、この熱硬化性樹脂を主成分として含む熱硬化性樹脂組成物を分散溶媒として、導電性媒体として、銅粒子と低融点合金粒子とを均一に分散させ、ペースト状の分散組成物としたものである。その際、熱硬化性のフェノール樹脂が熱硬化を起こす温度に対して、有意に低い融点を有する低融点合金で構成される低融点合金粒子を、そのフラックス剤とともに、銅粒子に対して少量配合する。加熱処理を施す際、熱硬化性のフェノール樹脂が、その熱硬化温度より若干低い温度に加熱され、流動性を保持している段階で、導電性フィラーの銅粒子相互が積層した構造中に混入している低融点合金粒子は熔融し、低融点合金の熔融物となる。同時に、表面の酸化被膜がフラックス剤の作用によって除去され、銅粒子表面に対して、良好な濡れ性を示す状態となり、銅粒子相互の接触点の狭い隙間に対して、低融点合金の熔融物が浸入することで、この低融点合金との金属結合を介して、接触している銅粒子相互の間に導通経路が形成される。
【0032】
また、本発明にかかる導電性銅ペーストを用いて作製される導電性接着層は、基板の配線層に対して電子部品を実装する際、汎用される導電性接合形成手段のハンダ付けの代替え手段を目標とするため、使用される導電性フィラーとしては、ハンダ合金と同様に鉛を含まないものを利用する。すなわち、銅粒子と併用される、低融点合金粒子には、鉛を含有していない低融点合金で構成される粒子を選択する。その際、バインダー樹脂として利用する、熱硬化性のフェノール樹脂の熱硬化が開始する温度よりも有意に低い融点を有する鉛を含有していない低融点合金、従って、その融点が、90℃〜180℃の範囲に選択される鉛を含有していない合金で構成される球状粒子を使用する。
【0033】
例えば、錫とビスマスとを主要な成分として含有し、その融点は、90℃〜180℃の範囲に選択されている鉛を含有していない合金として、
Sn/40Bi(40%Bi;融点175℃)や、Sn/57Bi(57%Bi;融点139℃)などの、Biの含有比率が15質量%〜65質量%のSn/Bi二元系合金;
Sn/51In(51%In;融点120℃)を初めとする、Inの含有比率が30質量%〜80質量%のSn/In二元系合金;さらには、
Sn/Biに、Inを1質量%〜30質量%を加えたSn/Bi/In三元系合金;
Sn/Biに、Agを0.1質量%〜4質量%添加したSn/Bi/Ag三元系合金;
Sn/Biに、Cuを0.1質量%〜1質量%添加したSn/Bi/Cu三元系合金;
Sn/Biに、Geを0.01質量%〜0.5質量%添加したSn/Bi/Ge三元系合金を挙げることができる。
【0034】
また、作製される導電性接着層は、その下面は、例えば、基板上の配線層を構成する金属層と、その上面は、接合対象物、例えば、電子部品の下面電極を構成する金属層と緻密な電気的な接触を達成可能な構成とするため、形成される導電性接着層の層厚を基準として、使用される導電性フィラーの平均粒子径を選択する。すなわち、形成される導電性接着層の層厚に対して、その1/3〜1/50程度の範囲に平均粒子径を有する導電性フィラーを使用することが好ましい。従って、本発明の導電性銅ペーストでは、銅粒子は、平均粒子径が0.3μm〜15μmの範囲、好ましくは、3μm〜15μmの範囲に選択される球状あるいはフレーク状の銅粒子を含むものを選択し、その際、低融点合金粒子も、平均粒子径が0.5μm〜20μmの範囲、好ましくは3μm〜15μmの範囲に選択される球状粒子を利用する。その結果、導電性銅ペーストを塗布し、含有される希釈溶剤を蒸散した段階では、銅粒子中に少量配合される低融点合金粒子は均一に混合された状態で、面内方向、ならびに、膜厚方向にこれら金属粒子が緻密な密度で積層された構造となる。当初、希釈溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物中に均一に分散されているこれら金属粒子は、希釈溶剤の蒸散に従って、熱硬化性樹脂組成物全体の体積が減少する結果、乾燥処理済み塗布層の下面、ならびに、上面には、二種の金属粒子が緻密な面密度で、接合対象の下地金属膜層の表面に接触する形態となる。同様に、乾燥処理済み塗布層の層内でも、これら金属粒子が積層され、金属粒子相互が接触し、その接触点を介して、電気的な導通経路が三次元的に構成可能な状態となる。
【0035】
本発明では、金属粒子(銅粒子と低融点合金粒子)が積層され、金属粒子相互が接触し、その接触点を介して、電気的な導通経路が三次元的に構成可能な状態となった後、その中に均一に混入されている低融点合金粒子を熔融させ、その低融点合金の熔融体が、周囲を囲む銅粒子表面へと濡れ拡がり、最終的には、銅粒子相互が接触する隙間部分に充填される形態とする。すなわち、銅粒子に対して、低融点合金粒子を少量加えることで、乾燥処理済み塗布層の層内に形成される、銅粒子相互の接触による三次元的なネットワーク状の電気的な導通経路を実質的に維持しつつ、その中に散在している低融点合金粒子から生成する、低融点合金の熔融体が銅粒子相互の接触部位の隙間を満たす状態とする。従って、銅粒子100質量部当たり、低融点合金粒子の配合量は、5質量部〜30質量部の範囲、好ましくは10質量部〜20質量部の範囲に選択する。換言するならば、銅粒子10個当たり、低融点合金粒子1個〜2個程度混入する状況とすることで、低融点合金粒子が熔融しても、残る銅粒子相互の接触による三次元的なネットワーク形状自体は実質的に保持される。同時に、銅粒子の大半は、その近傍に低融点合金粒子が配置されている状況となり、銅粒子相互が接触する隙間部分に対して、低融点合金の熔融体がより確実に達することが可能となっている。
【0036】
例えば、本発明にかかる導電性銅ペーストで利用する、銅粒子としては、平均粒子径が3μm〜10μmの範囲に選択される、球状の電解銅粉が好適に利用できる。また、低融点合金粒子を構成する鉛を含有していない合金は、錫とビスマスとを主要な成分として含有し、その融点は、130℃〜160℃の範囲に選択されている合金であることが望ましい。
【0037】
勿論、この希釈溶剤が蒸散状態の乾燥処理済み塗布層となる段階では、金属粒子相互が接触する部位を除き、金属粒子(銅粒子と低融点合金粒子)の周囲は、希釈溶剤が除去された熱硬化性樹脂組成物により取り囲まれた状態となる。その際、金属粒子(銅粒子と低融点合金粒子)に対する、熱硬化性樹脂組成物の体積比率は、金属粒子が最密充填している状態におけるその隙間の占める比率(空隙率)を超える必要があるが、熱硬化性樹脂組成物の占める体積比率が高くなり過ぎると、金属粒子相互の接触がなされない状態となる。従って、本発明の導電性銅ペーストにおいては、金属粒子(銅粒子と低融点合金粒子)に対する、熱硬化性樹脂組成物の体積比率は、2:1〜1:6の範囲、より好ましくは、1:1〜1:5の範囲に選択することが好ましい。
【0038】
従って、銅粒子100質量部当たり、希釈溶剤を除く、熱硬化性樹脂組成物の総配合量を、30質量部〜60質量部の範囲に選択する。より好ましくは、銅粒子100質量部当たり、希釈溶剤を除く、熱硬化性樹脂組成物の総配合量を、30質量部〜50質量部の範囲に選択する。
【0039】
一方、熱硬化性樹脂組成物には、バインダー樹脂として利用される、熱硬化可能なフェノール樹脂に加えて、
銅粒子表面に対する低融点合金の熔融体の良好な濡れ性を達成するため、この低融点合金の融点を超える温度において、金属表面の金属酸化物被膜層を除去する機能を有するフラックス剤;
また、このフラックス剤を用いたフラックス処理を行った際、消費されずに残余するフラックス剤の失活に利用されるフラックス活性抑制剤;ならびに、
そのフラックス処理に伴って、酸化銅の被膜層を除去する結果、熱硬化性樹脂組成物中に溶出される金属イオンの固定化を図るため、二価の銅イオンに対して、キレート剤として機能可能な金属イオンキレート剤を配合する。
【0040】
フラックス剤、フラックス活性抑制剤、金属イオンキレート剤は、導電性銅ペーストの調製段階では、希釈溶剤中に溶解されて、主成分の熱硬化可能なフェノール樹脂と均一に混和された状態とされる。乾燥処理済み塗布層中では、希釈溶剤が除去された熱硬化性樹脂組成物を加熱していくと、主成分の熱硬化可能なフェノール樹脂は、その熱硬化温度に達するまでの間、温度上昇とともに、流動性が増していく。その結果、希釈溶剤が除去された熱硬化性樹脂組成物中のフラックス剤は、流動性が増した熱硬化可能なフェノール樹脂中を拡散して、銅粒子表面に対して作用し、その表面の酸化銅被膜層を除去する。このフラックス剤の配合量は、除去すべき酸化銅被膜層の量に応じて、過剰量となる範囲で適宜選択すべきものであるが、本発明では、銅粒子100質量部当たりのフラックス剤の配合量は、1質量部〜10質量部の範囲、好ましくは、3質量部〜8質量部の範囲に選択することで、金属粒子相互が接触し、その接触点を介して、電気的な導通経路が三次元的に構成可能な状態となった際、その狭い隙間へも、所望の濃度でフラックス剤を作用させることができる。
【0041】
このフラックス剤は、希釈溶剤を蒸散させ、乾燥処理済み塗布層とする段階では、主成分の熱硬化可能なフェノール樹脂と均一に混和した状態を保つ必要がある。少なくとも、低融点合金の融点を超える温度に達し、低融点合金の熔融体が銅粒子表面を濡らす状態を達成するため、表面の酸化銅(CuO)に対して、プロトン(H+)を供与し、その溶出を可能とする、有機の酸化物を利用することができる。例えば、フラックス剤を、90℃〜170℃の範囲に選択される融点を有し、その沸点は、少なくとも200℃を超える、有機カルボン酸化合物から選択することができる。なお、フラックス剤として利用される有機カルボン酸化合物は、一塩基酸のモノカルボン酸であっても、二塩基酸以上のカルボン酸であってもよい。あるいは、フラックス剤として、90℃〜170℃の範囲に選択される融点を有し、その沸点は、少なくとも200℃を超える、有機アミン塩酸塩化合物を利用することも可能である。
【0042】
フラックス剤として好適に利用可能な、有機カルボン酸化合物の一例として、ジカルボン酸である、コハク酸(ブタン二酸;分子量118.09、融点180℃、沸点235℃)、アジピン酸(ヘキサン二酸;分子量146.14、融点153℃、沸点337.5℃)、セバシン酸(1,8−オクタンジカルボン酸;分子量202.25、融点134.5℃、沸点294.5℃(100mmHg))、ドデカン二酸(分子量230.25、融点130℃、沸点245℃)などの炭素数4〜14のアルカン二酸(HOOC−R−COOH)、ラセミ酒石酸一水和物(2,3−ジヒドロキシブタン二酸;分子量150.09、融点205℃、80℃で分解)、リンゴ酸(2−ヒドロキシブタン二酸;分子量134.09、L−体の融点100℃、沸点150℃)などのヒドロキシジカルボン酸や、モノカルボン酸である、安息香酸(ベンゼンカルボン酸;分子量122.12、融点122.4℃、沸点249.2℃)、o−ブロモ安息香酸(分子量201.02、融点150℃)などの芳香族モノカルボン酸、2−エチルヘキサン酸(分子量144.23;室温で液体、沸点228℃)などの炭素数3〜20のアルカン酸(R−COOH)を挙げることができる。また、フラックス剤として好適に利用可能な、有機アミン塩酸塩化合物の一例として、イソプロピルアミン塩酸塩(C39N・HCl 式量;59.11+36.46;融点139.5℃、熱分解温度223℃)、2−エチルヘキシルアミン塩酸塩(C819N・HCl 式量;129.2+36.46;融点164℃、熱分解温度215℃)などの、熱分解温度が100℃以上の、炭素数2〜8のアルキルアミン塩酸塩や、ピリジン塩酸塩(C55N・HCl 式量;79.10+36.46;融点145〜147℃、沸点:222〜224℃、熱分解温度220℃)を挙げることができる。
【0043】
このフラックス剤の作用による、金属表面の酸化被膜の除去に伴い、熱硬化性樹脂組成物中に溶出される金属イオンの固定化を図るため、二価の銅イオンに対して、キレート剤として機能可能な金属イオンキレート剤を配合し、キレート剤が配位した金属イオンに変換する。この金属イオンキレート剤も、希釈溶剤を蒸散させ、乾燥処理済み塗布層とする段階では、主成分の熱硬化可能なフェノール樹脂と均一に混和した状態を保つ必要がある。従って、金属イオンキレート剤は、少なくとも、200℃を超える沸点を有する無電荷の有機配位子の群から選択されることが好ましい。例えば、金属イオンキレート剤は、o−フェナントロリン(1,10−フェナントロリン 一水和物;式量198.22、融点98〜100℃、無水物の融点117℃)、2,2−ビピビジル構造を含むポリピリジン類からなる、少なくとも、200℃を超える沸点を有する無電荷の配位子の群から選択されることが好ましい。
【0044】
低融点合金粒子、ならびに、銅粒子表面から遊離される金属イオン、例えば、二価の銅イオン(Cu2+)などは、多くは、6配位を示し、その配位点を金属イオンキレート剤が占め、対となる陰イオン種とともに、塩化合物を形成して、熱硬化性樹脂中に固定化される。その際、この金属イオンキレート剤の配合量は、除去すべき酸化銅被膜層の量に応じて、また、金属イオンキレート剤の配位形態に基づき、過剰量となる範囲で適宜選択すべきものである。本発明では、銅粒子100質量部当たりの金属イオンキレート剤の配合量は、0.5質量部〜6質量部の範囲、より好ましくは、2質量部〜6質量部の範囲に選択する。
【0045】
フラックス剤の配合量は、過剰量となるように選択されているため、酸化被膜の除去に消費された後、なお、フラックス剤が残余している。この残余するフラックス剤は、作製される導電性接着層にそのまま残ると、バインダー樹脂中に浸入した水分の存在下では、金属自体を浸食する反応性を示すことも少なくない。そのため、フラックス活性抑制剤を配合しておき、フラックス処理を終えた後、残余するフラックス剤を失活させる。勿論、フラックス処理がなされる前にフラックス剤の失活が生じないように、低融点合金の融点を超える温度において、初めて、フラックス剤のフッラクス活性を抑制する機能を示す、フラックス活性抑制剤が利用される。すなわち、低融点合金の融点を超える温度に達すると、フラックス剤に利用される酸化合物とフラックス活性抑制剤との反応による反応産物は、フラックス剤に利用される酸化合物のようなプロトン供与体としての機能を失ったものとなる。
【0046】
フラックス活性抑制剤は、利用されるフラックス剤の種類に応じて、適宜その種類を選択する。また、フラックス活性抑制剤の配合量は、利用されるフラックス剤の配合量に対して、予想されるフラックス剤の残余量に応じて、適宜その配合量を選択する。本発明の導電性銅ペーストでは、フラックス剤10質量部当たりのフラックス活性抑制剤の配合量は、2質量部〜5質量部の範囲に選択される。なお、フラックス剤として利用される有機カルボン酸化合物に対して、そのカルボキシル基(−COOH)と反応するエポキシ基を有し、また、熱硬化性のフェノール樹脂との親和性をも有するエポキシ樹脂化合物、例えば、ゴム変性エポキシ樹脂(エポキシ当量300)などが好適に利用できる。フラックス剤として利用される有機アミン塩酸塩化合物に対しては、そのHClとの反応性を有するマレイン酸ジブチル(分子量200.18;室温(25℃)で液体、沸点280℃)、マレイン酸ジ2エチルヘキシル(分子量340.5;室温(25℃)で液体、沸点200℃)などが好適に利用できる。
【0047】
また、本発明にかかる導電性銅ペーストでは、作製される導電性接着層を長期使用する間に、含まれている銅粒子表面が再酸化されると、特には、銅粒子相互の接触部位に、酸化被膜が形成されると、全体の抵抗率の上昇を引き起こすため、その防止を目的として、酸化防止剤をさらに添加することが好ましい。特に、酸素分子による銅粒子表面の酸化は、温度が高いほど、その進行は促進され、例えば、銅粒子相互の接触部位を充填している低融点合金の融点を超える温度においても、酸素分子による銅の酸化を防止する機能を示す、酸化防止剤を利用すると好ましい。この酸化防止剤の配合量は、導電性銅ペーストに配合される銅粒子の量に応じて、適宜選択される。本発明にかかる導電性銅ペーストでは、酸化防止剤を、銅粒子100質量部当たり、0.5質量部〜4質量部の範囲、より好ましくは、1質量部〜4質量部の範囲に選択される配合量で含むことが好ましい。なお、導電性接着層を作製する加熱処理の際、酸化防止剤が蒸散すると、目的とする酸化防止効果は達成できないため、配合される酸化防止剤を、p−メトキシフェノール(分子量124.14、融点55〜56℃、沸点243℃)、ヒドロキノン(分子量110.11、融点173.8〜174.8℃、沸点285℃(730mmHg))、その誘導体である各種ヒドロキノン類からなる、少なくとも、200℃を超えるの沸点を有し、還元性のヒドロキシル基を有する有機酸化防止剤の群から選択すると好ましい。さらには、カルボノヒドラジド(NH2NHCONHNH2;分子量90.09;融点153〜154℃(分解))も酸化防止剤として利用可能である。
【0048】
その他、本発明にかかる導電性銅ペーストを利用して、作製される導電性接着層は、バインダー樹脂が示す接着性を主に利用して、接着対象表面に固着される。その固着特性を向上させる目的で、シランカップリング剤を添加することができ、通常、好ましい。その際、シランカップリング剤は、熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、0.3質量部〜5質量部の範囲、より好ましくは、2質量部〜5質量部の範囲に選択される配合量で含むことが好ましい。
【0049】
なお、本発明にかかる導電性銅ペーストで利用される、熱硬化性樹脂組成物は、バインダー樹脂として、熱硬化性のフェノール樹脂を選択し、この熱硬化性樹脂を主成分として含むものである。この熱硬化性のフェノール樹脂は、低融点合金粒子の熔融が起こる温度では、熱硬化は進行せず、少なくとも、200℃以下の範囲であって、前記低融点合金の融点より高い温度に加熱した際、熱硬化可能なフェノール樹脂から選択される。例えば、200℃以下の範囲であって、前記低融点合金の融点より高い温度に加熱した際、熱硬化可能なレゾール型樹脂を選択すると好ましい
また、本発明にかかる導電性銅ペーストでは、熱硬化性樹脂組成物中に配合される、熱硬化可能なフェノール樹脂に対して、フラックス剤、フラックス活性抑制剤、金属イオンキレート剤を均一に混和したペースト状の混合物中に、導電性フィラーを均一に分散させる。利用される熱硬化可能なフェノール樹脂、フラックス剤、フラックス活性抑制剤、金属イオンキレート剤を含め、樹脂成分の多くは、室温では、液状でないものが利用されるため、調製段階では、希釈溶剤を利用して、ペースト状の分散物とする。また、導電性銅ペーストを塗布する際、その粘度を適正化するため、必要に応じて、希釈溶剤をさらに加える。この希釈溶剤を含む状態で導電性銅ペーストの保管、塗布などを行うが、その間に希釈溶剤の蒸散が進むと、適正な粘度範囲を維持することが困難となる。従って、本発明にかかる導電性銅ペーストでは、少なくとも、100℃〜300℃の範囲に選択される沸点を有する高沸点溶剤を希釈溶剤として利用する。例えば、必要に応じて添加される高沸点溶剤として、少なくとも、100℃〜300℃の範囲に選択される沸点を有するエチレングリコールモノアルキルエーテルまたはエチレングリコールのアルカン酸モノエステルが選択されている形態とすると好ましい。その他、希釈溶剤として、シクロヘキサノン(沸点155℃)などの高沸点溶剤を利用することもできる。塗布膜厚が100μm以下の範囲では、マスク印刷法の利用が望ましく、その用途では、本発明の導電性銅ペーストの粘度は、50〜200Pa・sの範囲、より好ましくは、50〜100Pa・sの範囲に調整することが可能である。
【0050】
加えて、本発明は、上述する構成を有する本発明にかかる導電性銅ペーストを利用して、導電性接着層の形成を行う方法の発明をも提供しており、
すなわち、本発明にかかる導電性銅ペーストの使用方法は、
導電性接着層の形成に上述する構成を有する本発明にかかる導電性銅ペーストを使用する方法であって、
前記導電性接着層の形成工程は、
下地基材表面に設ける金属膜層の表面上に、所定の平面形状、塗布膜厚を有する該導電性銅ペーストの塗布膜を形成する、導電性銅ペースト塗布工程と;
該導電性銅ペーストの塗布膜上に、接着対象部材の下面金属膜層を均一に当接するように、該接着対象部材を搭載する、接着対象部材の搭載工程と;
前記下地基材の表面に、該導電性銅ペーストの塗布膜を介して、搭載される該接着対象部材全体を、前記低融点合金の融点よりも、少なくとも、30℃以上低いが、少なくとも、50℃よりも高い範囲に選択される、前記高沸点溶剤の蒸散が可能である第一の加熱温度に加熱し、所定の時間保持し、含有される前記高沸点溶剤の蒸散を図る、溶剤除去工程と;
引き続き、前記下地基材の表面に、前記高沸点溶剤の除去がなされた該導電性銅ペーストの塗布乾燥膜を介して、搭載される該接着対象部材全体を、前記低融点合金の融点よりも高く、前記熱硬化樹脂の熱硬化が可能な温度範囲に選択される、第二の加熱温度に加熱し、所定の時間保持し、前記低融点合金粒子の熔融と、前記熱硬化樹脂の熱硬化を図る、熱硬化処理工程と
を有する
ことを特徴とする導電性銅ペーストの使用方法である。
【0051】
その際、
該導電性銅ペースト中に配合されている、前記低融点合金粒子を構成する鉛を含有していない合金は、錫とビスマスとを主要な成分として含有し、その融点は、120℃〜160℃の範囲に選択されている合金である際、
前記溶剤除去工程に用いる、第一の加熱温度は、50℃〜90℃の範囲に選択し、
前記熱硬化処理工程に用いる、第二の加熱温度は、130℃〜180℃の範囲に選択することがより好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。下記の実施例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例であるが、本発明は、これらの実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0053】
後述する実施例ならびに比較例において、作製される導電性銅ペーストの評価として、該導電性銅ペーストを利用して、導電性接着層を形成し、その特性を評価した。なお、形成される導電性接着層の評価では、各評価項目について、下記する評価条件、基準を利用している。

導電性銅ペーストの特性評価法と「良否判定」基準
「体積抵抗率」:JIS−H−8646に記載の体積抵抗率試験法に準拠し、形成された導電性接着層の幅と長さ、および断面より厚みを実測し、4端子法にて測定抵抗値を測定し、体積抵抗率を算出する。体積抵抗率10-3Ωcm以下であれば、良品とした。
【0054】
「耐熱性試験」:100℃のオーブンに1000時間投入し、導電性接着層に熱処理を施す。前記熱処理の前後で測定される抵抗値を比較し、熱処理前の抵抗値に対する、熱処理後の抵抗値の上昇比率を算出する。抵抗値の上昇比率が、20%以下であれば良品とした。
【0055】
「接触抵抗」:厚さ100μmのメタルマスクにて導電性銅ペーストを、銅基板表面に印刷する。この塗布膜厚100μmの導電性銅ペースト膜上に、負荷荷重1Nの条件で、スズメッキ3216チップコンデンサーを搭載する。その後、溶剤蒸散;60℃、1時間、熱硬化;150℃、1時間の熱処理を施し、導電性銅ペースト層を硬化させる。
【0056】
硬化後、4端子法にて、チップコンデンサーと銅基板と間の抵抗値を測定し、導電性接着層部分の接触抵抗を算出する。算出される接触抵抗が、5mΩ以下である場合を良品とした。
【0057】
「接合強度」:厚さ100μmのメタルマスクにて導電性銅ペーストを、銅基板表面に印刷する。この塗布膜厚100μmの導電性銅ペースト膜上に、負荷荷重1Nの条件で、スズメッキ3216チップコンデンサーを搭載する。その後、溶剤蒸散;60℃、1時間、熱硬化;150℃、1時間の熱処理を施し、導電性銅ペースト層を硬化させる。
【0058】
硬化後、ダイシェア強度測定器を用い、1.8mm/分の速度で動くシェアツールにて、横方向からチップコンデンサーに負荷を印加する。その条件において、導電性接着層部において剥離が発生する、シェア強度が10N以上である場合を良品とした。

(合成例1)
フェノールとホルムアルデヒド(モル比1.0)に、アルカリ触媒をフェノールに対して0.1質量%添加し、80℃で反応させた。平均分子量 7,000のレゾール樹脂1を得た。なお、このレゾール樹脂1は、温度140℃〜180℃の範囲で加熱処理を施すと、30分間〜90時間程度で硬化する。
【0059】
【化1】

(実施例1)
フラックス剤として、二塩基酸のアジピン酸を配合した導電性銅ペーストを、下記の調製法で作製する。
【0060】
レゾール樹脂1を77質量部に対して、フラックス剤として、アジピン酸(ヘキサン二酸;分子量146.14、融点153℃、沸点337.5℃)を9質量部、フラックス剤の失活剤として、ゴム変性エポキシ樹脂(エポキシ当量300)3質量部、酸化防止剤として、p−メトキシフェノール(分子量124.14、融点55〜56℃、沸点243℃)を3質量部、金属イオンキレート剤として、o−フェナントロリン(1,10−フェナントロリン 一水和物;式量198.22、融点98〜100℃、無水物の融点117℃)を5質量部、さらに、シランカップリング剤KBM−403を3質量部を加え、適当量の希釈溶剤ブチルセロソルブ中に均一に混合し、合計100質量部の樹脂成分が、希釈溶剤中に含有されている樹脂組成物を調製する。
【0061】
調製される樹脂組成物の一部を分取し、この樹脂成分14.33質量部に対して、電解銅粉(粒径5μm)31.5質量部、低融点合金粒子Sn/57Bi粉(Bi成分57質量%、粒径10μmの球タイプ、融点139℃)4.3質量部を配合し、攪拌子の自転、公転による攪拌を、約5分間行って、ペースト状の分散物を調製する。粘度を50〜100Pa・sに調整するため、このペースト状の分散物に対して、希釈溶剤として、ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル、沸点231℃)をさらに適量添加し、導電性銅ペーストを調製する。
【0062】
本実施例1の導電性銅ペーストは、前記ペースト状の分散物に対して、希釈溶剤ブチルセロソルブをその20体積%に相当する量添加し、粘度82Pa・sに調整した。
【0063】
導電性銅ペーストは、厚さ40μmメタルマクスを使用して、ガラス基板に、厚さ40μm、1cm×5cmの短冊状に印刷し、60℃にて1時間で溶剤除去し、150℃1時間熱処理を施し、硬化させた。硬化被膜の平均膜厚さは、20μmであり、その体積抵抗率は、7.9×10-4Ωcmであった。
【0064】
また、耐熱性試験では、1000時間熱処理後の抵抗値の上昇率は、5%であった。「接触抵抗」評価において、導電性接着層部の接触抵抗は2.5mΩであり、「接合強度」評価における、接合強度は20Nであった。

(実施例2)
フラックス剤として、一塩基酸の安息香酸を配合した導電性銅ペーストを、下記の調製法で作製する。
【0065】
レゾール樹脂1を77質量部に対して、フラックス剤として、安息香酸(ベンゼンカルボン酸;分子量122.12、融点122.4℃、沸点249.2℃)を9質量部、フラックス剤の失活剤として、ゴム変性エポキシ樹脂(エポキシ当量300)3質量部、酸化防止剤として、p−メトキシフェノールを3質量部、金属イオンキレート剤として、o−フェナントロリン(1,10−フェナントロリン一水和物)を5質量部、さらに、シランカップリング剤KBM−403を3質量部を加え、適当量の希釈溶剤ブチルセロソルブ中に均一に混合し、合計100質量部の樹脂成分が、希釈溶剤中に含有されている樹脂組成物を調製する。
【0066】
調製される樹脂組成物の一部を分取し、この樹脂成分14.33質量部に対して、電解銅粉(粒径5μm)31.5質量部、低融点合金粒子Sn/57Bi粉(Bi成分57質量%、粒径10μmの球タイプ、融点139℃)4.3質量部を配合し、攪拌子の自転、公転による攪拌を、約5分間行って、ペースト状の分散物を調製する。粘度を50〜100Pa・sに調整するため、このペースト状の分散物に対して、希釈溶剤として、ブチルセロソルブをさらに適量添加し、導電性銅ペーストを調製する。
【0067】
本実施例2の導電性銅ペーストは、前記ペースト状の分散物に対して、希釈溶剤ブチルセロソルブをその18体積%に相当する量添加し、粘度52Pa・sに調整した。
【0068】
導電性銅ペーストは、厚さ40μmメタルマクスを使用して、ガラス基板に、厚さ40μm、1cm×5cmの短冊状に印刷し、60℃にて1時間で溶剤除去し、150℃1時間熱処理を施し、硬化させた。硬化被膜の平均膜厚さは、24μmであり、その体積抵抗率は、8.1×10-5Ωcmであった。
【0069】
また、耐熱性試験では、1000時間熱処理後の抵抗値の上昇率は、4%であった。「接触抵抗」評価において、導電性接着層部の接触抵抗は3.2mΩであり、「接合強度」評価における、接合強度は13Nであった。

(実施例3)
フラックス剤として、アルキルアミン塩酸塩のイソプロピルアミン塩酸塩を配合した導電性銅ペーストを、下記の調製法で作製する。
【0070】
レゾール樹脂1を81質量部に対して、フラックス剤として、イソプロピルアミン塩酸塩(式量;59.11+36.46;融点139.5℃、熱分解温度215℃)を5質量部、フラックス剤の失活剤として、マレイン酸ジブチル(分子量200.18;室温(25℃)で液体、沸点280℃)を3質量部、酸化防止剤として、p−メトキシフェノールを3質量部、金属イオンキレート剤として、o−フェナントロリン(1,10−フェナントロリン一水和物)を5質量部、さらに、シランカップリング剤KBM−403を3質量部を加え、適当量の希釈溶剤ブチルセロソルブ中に均一に混合し、合計100質量部の樹脂成分が、希釈溶剤中に含有されている樹脂組成物を調製する。
【0071】
調製される樹脂組成物の一部を分取し、この樹脂成分14.33質量部に対して、電解銅粉(粒径5μm)31.5質量部、低融点合金粒子Sn/57Bi粉(Bi成分57質量%、粒径10μmの球タイプ、融点139℃)4.3質量部を配合し、攪拌子の自転、公転による攪拌を、約5分間行って、ペースト状の分散物を調製する。粘度を50〜100Pa・sに調整するため、このペースト状の分散物に対して、希釈溶剤として、ブチルセロソルブをさらに適量添加し、導電性銅ペーストを調製する。
【0072】
本実施例3の導電性銅ペーストは、前記ペースト状の分散物に対して、希釈溶剤ブチルセロソルブをその20体積%に相当する量添加し、粘度86Pa・sに調整した。
【0073】
導電性銅ペーストは、厚さ40μmメタルマクスを使用して、ガラス基板に、厚さ40μm、1cm×5cmの短冊状に印刷し、60℃にて1時間で溶剤除去し、150℃1時間熱処理を施し、硬化させた。硬化被膜の平均膜厚さは、18μmであり、その体積抵抗率は、3.9×10-4Ωcmであった。
【0074】
また、耐熱性試験では、1000時間熱処理後の抵抗値の上昇率は、12%であった。「接触抵抗」評価において、導電性接着層部の接触抵抗は3.5mΩであり、「接合強度」評価における、接合強度は17Nであった。

(比較例1)
フラックス剤を配合していない導電性銅ペーストを、下記の調製法で作製する。
【0075】
レゾール樹脂1を81質量部に対して、酸化防止剤として、p−メトキシフェノールを3.5質量部、金属イオンキレート剤として、o−フェナントロリン(1,10−フェナントロリン 一水和物)を5.5質量部、さらに、シランカップリング剤KBM−403を3.5質量部を加え、適当量の希釈溶剤ブチルセロソルブ中に均一に混合し、合計100質量部の樹脂成分が、希釈溶剤中に含有されている樹脂組成物を調製する。
【0076】
調製される樹脂組成物の一部を分取し、この樹脂成分14.33質量部に対して、電解銅粉(粒径5μm)31.5質量部、低融点合金粒子Sn/57Bi粉(Bi成分57質量%、粒径10μmの球タイプ、融点139℃)4.3質量部を配合し、攪拌子の自転、公転による攪拌を、約5分間行って、ペースト状の分散物を調製する。粘度を50〜100Pa・sに調整するため、このペースト状の分散物に対して、希釈溶剤として、ブチルセロソルブをさらに適量添加し、導電性銅ペーストを調製する。
【0077】
比較例1の導電性銅ペーストは、前記ペースト状の分散物に対して、希釈溶剤ブチルセロソルブをその22体積%に相当する量添加し、粘度53Pa・sに調整した。
【0078】
導電性銅ペーストは、厚さ40μmメタルマクスを使用して、ガラス基板に、厚さ40μm、1cm×5cmの短冊状に印刷し、60℃にて1時間で溶剤除去し、150℃1時間熱処理を施し、硬化させた。硬化被膜の平均膜厚さは、26μmであり、その体積抵抗率は、9.5×10-5Ωcmであった。
【0079】
また、耐熱性試験では、1000時間熱処理後の抵抗値の上昇率は、24%であった。「接触抵抗」評価において、導電性接着層部の接触抵抗は5.6mΩであり、「接合強度」評価における、接合強度は8.5Nであった。

(比較例2)
フラックス剤、ならびに低融点合金粒子を配合していない導電性銅ペーストを、下記の調製法で作製する。
【0080】
レゾール樹脂1を81質量部に対して、酸化防止剤として、p−メトキシフェノールを3.5質量部、金属イオンキレート剤として、o−フェナントロリン(1,10−フェナントロリン 一水和物)を5.5質量部、さらに、シランカップリング剤KBM−403を3.5質量部を加え、適当量の希釈溶剤ブチルセロソルブ中に均一に混合し、合計100質量部の樹脂成分が、希釈溶剤中に含有されている樹脂組成物を調製する。
【0081】
調製される樹脂組成物の一部を分取し、この樹脂成分14.33質量部に対して、電解銅粉(粒径5μm)35.8質量部を配合し、攪拌子の自転、公転による攪拌を、約5分間行って、ペースト状の分散物を調製する。粘度を50〜100Pa・sに調整するため、このペースト状の分散物に対して、希釈溶剤として、ブチルセロソルブをさらに適量添加し、導電性銅ペーストを調製する。
【0082】
比較例2の導電性銅ペーストは、前記ペースト状の分散物に対して、希釈溶剤ブチルセロソルブをその21体積%に相当する量添加し、粘度53Pa・sに調整した。
【0083】
導電性銅ペーストは、厚さ40μmメタルマクスを使用して、ガラス基板に、厚さ40μm、1cm×5cmの短冊状に印刷し、60℃にて1時間で溶剤除去し、150℃1時間熱処理を施し、硬化させた。硬化被膜の平均膜厚さは、25μmであり、その体積抵抗率は、9.5×10-5Ωcmであった。
【0084】
また、耐熱性試験では、1000時間熱処理後の抵抗値の上昇率は、36%であった。「接触抵抗」評価において、導電性接着層部の接触抵抗は10.4mΩであり、「接合強度」評価における、接合強度は6.3Nであった。

(比較例3)
フラックス剤として機能するアジピン酸を、大過剰量配合した導電性銅ペーストを、下記の調製法で作製する。
【0085】
レゾール樹脂1を60質量部に対して、フラックス剤として、アジピン酸を30質量部、フラックス剤の失活剤として、ゴム変性エポキシ樹脂(エポキシ当量300)2.4質量部、酸化防止剤として、p−メトキシフェノールを2.4質量部、金属イオンキレート剤として、o−フェナントロリン(1,10−フェナントロリン一水和物)を3.8質量部、さらに、シランカップリング剤KBM−403を2.4質量部を加え、適当量の希釈溶剤ブチルセロソルブ中に均一に混合し、合計100質量部の樹脂成分が、希釈溶剤中に含有されている樹脂組成物を調製する。
【0086】
調製される樹脂組成物の一部を分取し、この樹脂成分14.33質量部に対して、電解銅粉(粒径5μm)31.5質量部、低融点合金粒子Sn/57Bi粉(Bi成分57質量%、粒径10μmの球タイプ、融点139℃)4.3質量部を配合し、攪拌子の自転、公転による攪拌を、約5分間行って、ペースト状の分散物を調製する。粘度を50〜100Pa・sに調整するため、このペースト状の分散物に対して、希釈溶剤として、ブチルセロソルブをさらに適量添加し、導電性銅ペーストを調製する。
【0087】
比較例3の導電性銅ペーストは、前記ペースト状の分散物に対して、希釈溶剤ブチルセロソルブをその18体積%に相当する量添加し、粘度109Pa・sに調整した。
【0088】
導電性銅ペーストは、厚さ40μmメタルマクスを使用して、ガラス基板に、厚さ40μm、1cm×5cmの短冊状に印刷し、60℃にて1時間で溶剤除去し、150℃1時間熱処理を施し、硬化させた。硬化被膜の平均膜厚さは、19μmであり、その体積抵抗率は、1.3×10-3Ωcmであった。
【0089】
また、耐熱性試験では、1000時間熱処理後の抵抗値の上昇率は、57%であった。「接触抵抗」評価において、導電性接着層部の接触抵抗は4.2mΩであり、「接合強度」評価における、接合強度は7.8Nであった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の導電性銅ペーストは、従来の導電性接着層の形成に利用されている導電性銀ペーストと比較して、使用している導電性フィラーの銅粒子は、銀粒子と比較すると格段に安価であり、また、良好な耐マイグレーション性を有しており、一方、銅粒子と低融点合金粒子とを併用することで、従前の導電性銅ペーストの課題であった、銅粒子表面の酸化に由来する抵抗率の上昇も回避され、高い導電性と長期信頼性に優れている導電性接着層の作製を可能としている。また、本発明の導電性銅ペーストを利用すると、低融点合金粒子の熔融、ならびに、バインダー樹脂の熱硬化を行う加熱処理温度は、汎用の導電性接合法であるハンダ付け、特に近年、主流になっている鉛フリーハンダによるハンダ付けの温度と比較すると、格段に低温条件で導電性接着層の形成が可能であることから、鉛フリーハンダの代替材料として、電子部品実装の用途に利用できる。特に、耐熱性に劣る部品の実装には極めて有用な手段となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物中に、導電性媒体として、銅粒子と低融点合金粒子とを分散してなる導電性銅ペーストであって、
前記低融点合金粒子は、その融点が、90℃〜180℃の範囲に選択される鉛を含有していない合金で構成される、平均粒子径が0.5μm〜20μmの範囲に選択される球状粒子であり、
前記銅粒子は、平均粒子径が0.3μm〜15μmの範囲に選択される球状あるいはフレーク状の銅粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物は、
少なくとも、220℃以下の範囲であって、前記低融点合金の融点より高い温度に加熱した際、熱硬化可能なフェノール樹脂から選択される、熱硬化性樹脂と、
該低融点合金の融点を超える温度において、少なくとも、前記銅粒子に対して、その表面の酸化物被膜層を除去する機能を有するフラックス剤と、
該低融点合金の融点を超える温度において、前記フラックス剤のフッラクス活性を抑制する機能を示す、フラックス活性抑制剤と、
少なくとも、二価の銅イオンに対して、キレート剤として機能可能な金属イオンキレート剤とを含んでなる組成物であり、
該導電性銅ペースト中において、
前記低融点合金粒子の配合量は、前記銅粒子100質量部当たり、5質量部〜30質量部の範囲に選択され
前記熱硬化性樹脂組成物の総配合量は、前記銅粒子100質量部当たり、15質量部〜30質量部の範囲に選択され、
その際、前記熱硬化性樹脂組成物中の成分として配合される、フラックス剤、フラックス活性抑制剤、金属イオンキレート剤の配合比率は、それぞれ、
前記銅粒子100質量部当たりの該フラックス剤の配合量は、1質量部〜10質量部の範囲に選択され、
前記フラックス剤10質量部当たりの該フラックス活性抑制剤の配合量は、1質量部〜5質量部の範囲に選択され、
前記銅粒子100質量部当たりの該金属イオンキレート剤の配合量は、0.5質量部〜6質量部の範囲に選択され、
導電性媒体として配合される、前記銅粒子と低融点合金粒子とを、前記熱硬化性樹脂組成物中に混合してなるペースト状の分散物に対して、
必要に応じて、前記熱硬化性樹脂組成物の希釈溶媒として機能し、100℃〜300℃の範囲に選択される沸点を有する高沸点溶剤をさらに添加してなる、ペースト状分散組成物である
ことを特徴とする導電性銅ペースト。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂組成物は、さらに、
前記低融点合金の融点を超える温度において、酸素分子による銅の酸化を防止する機能を示す、酸化防止剤を、前記銅粒子100質量部当たり、0.5質量部〜4質量部の範囲に選択される配合量で含む
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性銅ペースト。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂組成物は、さらに、シランカップリング剤を、前記熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、0.3質量部〜5質量部の範囲に選択される配合量で含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の導電性銅ペースト。
【請求項4】
前記銅粒子は、平均粒子径が3μm〜10μmの範囲に選択される、球状の電解銅粉である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項5】
前記低融点合金粒子を構成する鉛を含有していない合金は、錫とビスマスとを主要な成分として含有し、その融点は、90℃〜180℃の範囲に選択されている合金である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項6】
前記フラックス剤は、90℃〜170℃の範囲に選択される融点を有し、その沸点は、少なくとも200℃を超える、有機カルボン酸化合物から選択される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項7】
前記フラックス剤は、90℃〜170℃の範囲に選択される融点を有し、その沸点は、少なくとも200℃を超える、有機アミン塩酸塩化合物である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項8】
前記酸化防止剤は、p−メトキシフェノール、ヒドロキノン類からなる、少なくとも、200℃を超えるの沸点を有し、還元性のヒドロキシル基を有する有機酸化防止剤の群から選択される
ことを特徴とする請求項2に記載の導電性銅ペースト。
【請求項9】
前記金属イオンキレート剤は、o−フェナントロリン、2,2−ビピビジル構造を含むポリピリジン類からなる、少なくとも、200℃を超える沸点を有する無電荷の配位子の群から選択される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂として、200℃以下の範囲であって、前記低融点合金の融点より高い温度に加熱した際、熱硬化可能なレゾール型樹脂を選択する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項11】
前記フラックス活性抑制剤として、当該フラックス剤に対する反応性を有し、このフラックス剤活性抑制剤との反応の結果、当該フラックス剤の失活がなされる、フラックス剤の失活剤が選択されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項12】
必要に応じて添加される前記高沸点溶剤として、少なくとも、100℃〜300℃の範囲に選択される沸点を有するエチレングリコールモノアルキルエーテルまたはエチレングリコールのアルカン酸モノエステルが選択されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項13】
該導電性銅ペーストの粘度は、50〜200Pa・sの範囲に調整されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銅ペースト。
【請求項14】
導電性接着層の形成に請求項1〜13のいずれか一項に記載の導電性銅ペーストを使用する方法であって、
前記導電性接着層の形成工程は、
下地基材表面に設ける金属膜層の表面上に、所定の平面形状、塗布膜厚を有する該導電性銅ペーストの塗布膜を形成する、導電性銅ペースト塗布工程と;
該導電性銅ペーストの塗布膜上に、接着対象部材の下面金属膜層を均一に当接するように、該接着対象部材を搭載する、接着対象部材の搭載工程と;
前記高沸点溶剤の添加量により必要に応じて設ける、前記下地基材の表面に、該導電性銅ペーストの塗布膜を介して、搭載される該接着対象部材全体を、前記低融点合金の融点よりも、少なくとも、30℃以上低いが、少なくとも、50℃よりも高い範囲に選択される、前記高沸点溶剤の蒸散が可能である第一の加熱温度に加熱し、所定の時間保持し、含有される前記高沸点溶剤の蒸散を図る、溶剤除去工程と;
引き続き、前記下地基材の表面に、前記高沸点溶剤の除去がなされた該導電性銅ペーストの塗布乾燥膜を介して、搭載される該接着対象部材全体を、前記低融点合金の融点よりも高く、前記熱硬化樹脂の熱硬化が可能な温度範囲に選択される、第二の加熱温度に加熱し、所定の時間保持し、前記低融点合金粒子の熔融と、前記熱硬化樹脂の熱硬化を図る、熱硬化処理工程と
を有する
ことを特徴とする導電性銅ペーストの使用方法。
【請求項15】
該導電性銅ペースト中に配合されている、前記低融点合金粒子を構成する鉛を含有していない合金は、錫とビスマスとを主要な成分として含有し、その融点は、120℃〜180℃の範囲に選択されている合金である際、
前記溶剤除去工程に用いる、第一の加熱温度は、50℃〜90℃の範囲に選択し、
前記熱硬化処理工程に用いる、第二の加熱温度は、130℃〜190℃の範囲に選択する
ことを特徴とする請求項14に記載の導電性銅ペーストの使用方法。



【公開番号】特開2006−260951(P2006−260951A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77021(P2005−77021)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】