説明

導電性高分子製造用酸化剤とそれを用いた固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】導電性が高く、耐熱性に優れた導電性高分子を製造するための導電性高分子製造用酸化剤を提供することであり、また、該導電性高分子を用いて製造された等価直列抵抗(ESR)と耐熱性に優れた固体電解コンデンサとその製造方法を提供すること。
【解決手段】下式一般式(1)、
【化1】


式中、Xq+は遷移金属カチオン、Rはハロゲン原子を示し、nは1〜3、mは2〜7、pは1〜3、qは2〜7の整数を示す。ただし、n×m=p×qを満たす。)
で示されるハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩を含有する導電性高分子製造用酸化剤。また、該酸化剤を用いて作製した導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサ及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子単量体を化学酸化重合させるための導電性高分子製造用酸化剤と該酸化剤を用いて作製した導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、π共役系導電性高分子は、多岐分野にわたって研究されており、有機素材の軽量性と、高い導電性を生かして、様々な電子デバイス素子が実用化され、例えば、アルミニウム固体電解コンデンサやタンタル固体電解コンデンサ用の固体電解質として使用されている。
【0003】
上記導電性高分子は、導電性高分子単量体であるモノマー、例えば、ピロール、チオフェン、アニリン及びそれらの誘導体を、化学酸化重合させて製造することができる。特許文献1に開示されているように、この化学酸化重合用酸化剤としては、導電性高分子のドーパントとなる有機スルホン酸と、酸化作用を有する遷移金属カチオンとからなる塩が提案されているが、これらの中でもp−トルエンスルホン酸の第二鉄塩が最も一般的に用いられている。
【0004】
しかしながら、p−トルエンスルホン酸塩は、導電性高分子モノマーの酸化剤として適用した場合、得られた導電性高分子内に取り込まれるドーパント量が不足し、十分な電導度が得られず、また、高温度下にさらされると、コンデンサ容量の低下やコンデンサ抵抗損失の増大を発生しやすいという欠点があった。
【0005】
特許文献2に開示されているように、ベンゼンスルホン酸遷移金属塩又はアルキルベンゼンスルホン酸遷移金属塩の中から少なくとも1種と、アルキルナフタレンスルホン酸遷移金属塩又はアントラキノンスルホン酸遷移金属塩の中から少なくとも1種とからなる酸化剤が提案されている。
【0006】
上記方法によれば、耐熱性に優れたコンデンサを得ることができるが、ナフタレンやアントラセン骨格を有する有機スルホン酸は、分子骨格が大きく導電性高分子内にドーパントとして導入され難く、充分な等価直列抵抗(ESR)、耐熱性が得られないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−313521号公報
【特許文献2】特開平11−312626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ESRと耐熱性に優れた固体電解コンデンサとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討をした結果、ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩が含有した酸化剤を用いて固体電解コンデンサを作製したところ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0011】
第一の発明は、下記一般式(1)で示されるハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩が溶媒に溶解されてなることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤である。
【0012】
【化1】

(式中、Xq+は遷移金属カチオン、Rはハロゲン原子を示し、nは1〜3、mは2〜7、pは1〜3、qは2〜7の整数を示す。ただし、n×m=p×qを満たす。)
【0013】
第二の発明は、ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩が、フルオロベンゼンスルホン酸塩又はフルオロベンゼンジスルホン酸塩であることを特徴とする第一の発明に記載の導電性高分子製造用酸化剤である。
【0014】
第三の発明は、Xq+が鉄イオン(III)であることを特徴とする第一又は第二の発明に記載の導電性高分子製造用酸化剤である。
【0015】
第四の発明は、ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩が、溶媒に40〜70質量%溶解されてなることを特徴とする第一から第三の発明のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤である。
【0016】
第五の発明は、導電性高分子単量体を導電性高分子製造用酸化剤によって化学酸化重合した導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサにおいて、
第一から第四の発明のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤を用いることを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0017】
第六の発明は、導電性高分子単量体と導電性高分子製造用酸化剤との混合液をコンデンサ素子に含浸させることにより、又は導電性高分子単量体溶液と導電性高分子製造用酸化剤とをコンデンサ素子に含浸させることにより、導電性高分子単量体と導電性高分子製造用酸化剤を化学酸化重合反応させて導電性高分子層をコンデンサ素子に形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、
第一から第四の発明のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤を用いることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のコンデンサと比較して著しく優れたESR特性、高い耐熱性を示す固体電解コンデンサとその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の酸化剤としては、ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩が用いられ、ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩としては下記一般式(1)で示されるものである。
【0020】
【化2】

【0021】
上記一般式中、Xq+は遷移金属カチオン、Rはハロゲン原子を示し、nは1〜3、mは2〜7、pは1〜3、qは2〜7の整数を示す。ただし、n×m=p×qを満たす。
【0022】
上記一般式(1)中のハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体は、導電性高分子中にドーパントとして取り込まれることによって高導電性の導電性高分子を与え、かつ該ドーパントを有する導電性高分子は該ドーパントの脱離が生じにくく、極めて耐熱性に優れたものとなる。
【0023】
上記一般式(1)中のハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体の具体例としては、好ましくは、4−クロロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸、2−クロロベンゼンスルホン酸、4−フルオロベンゼンスルホン酸、3−フルオロベンゼンスルホン酸、2−フルオロベンゼンスルホン酸、4−ブロモベンゼンスルホン酸、3−ブロモベンゼンスルホン酸、2−ブロモベンゼンスルホン酸、クロロベンゼンジスルホン酸、フルオロベンゼンジスルホン酸、ブロモベンゼンジスルホン酸、クロロベンゼントリスルホン酸、フルオロベンゼントリスルホン酸、ブロモベンゼントリスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも高溶解性、高電導度、高耐熱性を有する面から3−フルオロベンゼンスルホン酸、4−フルオロベンゼンスルホン酸、フルオロベンゼンジスルホン酸がより好ましく挙げられる。
【0024】
上記一般式(1)中のXq+は遷移金属カチオンであり、具体的には、鉄イオン(III)、銅イオン(II)、クロムイオン(VI)、セリウムイオン(IV)、マンガンイオン(IV)、マンガンイオン(VII)、ルテニウムイオン(III)、亜鉛イオン(II)が挙げられる。これらの中でも適切な酸化力を有する面から鉄(III)イオン、銅(II)イオンが好ましく挙げられ、鉄(III)イオンが特に好ましく挙げられる。
【0025】
従って、上記一般式(1)により表される化合物の具体例として、例えば、4−フルオロベンゼンスルホン酸第二鉄、4−フルオロベンゼンスルホン酸第二銅、3−フルオロベンゼンスルホン酸第二鉄、3−フルオロベンゼンスルホン酸第二銅、2−フルオロベンゼンスルホン酸第二鉄、2−フルオロベンゼンスルホン酸第二銅、フルオロベンゼンジスルホン酸第二鉄、フルオロベンゼンジスルホン酸第二銅、4−クロロベンゼンスルホン酸第二鉄、4−クロロベンゼンスルホン酸第二銅、3−クロロベンゼンスルホン酸第二鉄、3−クロロベンゼンスルホン酸第二銅、2−クロロベンゼンスルホン酸第二鉄、2−クロロベンゼンスルホン酸第二銅、クロロベンゼンジスルホン酸第二鉄、クロロベンゼンジスルホン酸第二銅等が挙げられる。
【0026】
これらの中でも3−フルオロベンゼンスルホン酸第二鉄、3−フルオロベンゼンスルホン酸第二銅、4−フルオロベンゼンスルホン酸第二鉄、4−フルオロベンゼンスルホン酸第二銅は導電性高分子単量体に対して適度な酸化力を有し、また、該酸化剤を用いて得られる固体電解コンデンサはESR、耐熱性に優れるので好ましい。
上記一般式(1)により表される化合物は、1種類又は2種類以上を使用することができる。
【0027】
次に、本発明の酸化剤の製造方法について、第二鉄塩を例に挙げて説明する。
【0028】
塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄などの三価の鉄塩に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などのアルカリを添加し、遠心分離、フィルターろ過操作により不純物を除去した後、乾燥させて水酸化鉄(Fe(OH))の褐色固体を得る。
【0029】
得られた水酸化鉄に、ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸を添加、中和して、目的とするハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸第二鉄を得る。同様の製造方法により、ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸第二銅を得ることができる。
【0030】
本発明に用いられる導電性高分子単量体としては、ピロール、チオフェン又はそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0031】
導電性高分子単量体の具体例としては、例えば、ピロール、チオフェン、1−アルキル−3−アルキルピロール、3−アルキルチオフェン、1−アルキル−3,4−アルキレンジオキシピロール、3,4−アルキレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。これらの中でも、得られる導電性高分子の強靭性、導電性及び耐久性の面から、3,4−アルキレンジオキシチオフェン、ピロールが好ましく挙げられる。
前記導電性高分子単量体は一種又は二種以上を同時に含有することができる。
【0032】
導電性高分子は、液相中又は気相中において、上記導電性高分子単量体をハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩を含有する酸化剤で化学酸化重合させて製造することができる。
【0033】
液相中で化学酸化重合させるには、上記ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩を水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどの溶媒に溶解して酸化剤溶液を得、該酸化剤溶液と導電性高分子単量体とを水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1-ブタノールなどの溶媒中で一定時間混合して重合させた後、洗浄、乾燥させて本発明の導電性高分子を得る。エタノール、1−ブタノールの単一溶媒、若しくはエタノール/ブタノール混合溶媒が好ましく挙げられる。
【0034】
前記溶媒に溶解させる酸化剤の濃度は30〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。30質量%未満ではポリマーに取り込まれるドーパント量が少ないため、高い電導度が得られなく、80質量%より大きいと完全に溶媒に溶解しない欠点がある。
【0035】
また、気相中で化学酸化重合させるには、導電性付与を目的とする基材表面上に、上記酸化剤を塗布した後、該基材を導電性高分子単量体の蒸気雰囲気中に保持することにより、基材表面に導電性高分子被膜を形成させることができる。
【0036】
本発明に用いられるハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩を含有した酸化剤を用いて化学酸化重合させた導電性高分子は、ドーパントであるハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸が十分に導入され、電導度が高く、耐熱性に優れている。特に3−フルオロベンゼンスルホン酸、4−フルオロベンゼンスルホン酸塩、フルオロベンゼンジスルホン酸塩はエタノール溶媒に対する溶解度が優れ、ESRが低下する特徴を有する。
【0037】
次に、本発明の固体電解コンデンサとその製造方法について、以下に説明する。
【0038】
液相中で化学酸化重合をさせる場合、まず、酸化被膜を形成させたアルミニウム、タンタル及びニオブなどの弁作用金属表面に、本発明に用いられる酸化剤溶液を塗布し、導電性高分子単量体の溶液内に浸漬するか、該溶液を塗布し、該酸化剤溶液に浸漬するか、又は該酸化剤溶液と該単量体を混合して1液とした溶液に浸漬して、導電性高分子被膜を形成させる。この導電性高分子被膜は、固体電解コンデンサの固体電解質となる。
【0039】
ついで、導電性高分子被膜上に、カーボンペースト、銀ペーストを塗布、乾燥させて、陰極層を形成し、コンデンサ素子を得、該コンデンサ素子の弁作用金属を陽極端子に、また、陰極層を陰極端子に接続後、樹脂により外装を施して本発明の固体電解コンデンサを得る。
【0040】
気相中で化学酸化重合させる場合、まず、酸化皮膜を形成させたアルミニウム、タンタル又はニオブなどの弁作用金属表面に本発明に用いられる酸化剤溶液を塗布し、導電性高分子単量体の蒸気雰囲気中に保持して、導電性高分子被膜を形成させる。この導電性高分子被膜は、固体電解コンデンサの固体電解質となる。
【0041】
ついで、導電性高分子被膜上に、カーボンペースト、銀ペーストを塗布、乾燥させて、陰極層を形成し、コンデンサ素子を得、該コンデンサ素子の弁作用金属を陽極端子に、また、陰極層を陰極端子に接続後、樹脂により外装を施して本発明の固体電解コンデンサを得る。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明は本実施例によりなんら限定されない。実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0043】
(導電性高分子の評価)
(実施例1)
室温下、純水50mlに硫酸第二鉄12.0g(0.03mol)を溶解した溶液と、純水50mlに水酸化ナトリウム7.2g(0.18mol)を溶解した溶液とを、攪拌しながら混合し、生成した水酸化鉄の沈殿物を濾過した。
【0044】
得られた沈殿物を、純水500ml中に分散させて洗浄し、遠心分離により上澄み液を除去した後、沈殿物を濾過後、純水で3回洗浄し、一晩減圧乾燥させて、褐色固体の水酸化鉄を得た。
【0045】
得られた水酸化鉄6.4gを、100gのエタノール溶媒に懸濁させ、該液に4−フルオロベンゼンスルホン酸31.7g(0.18mol)をエタノール溶媒200gに溶解させた溶液を加え、攪拌しながら混合し、温度70℃で24時間反応させた後、濃縮して、濃度50%4−フルオロベンゼンスルホン酸第二鉄(以下、「4−FBS−Fe」と略記する。)のエタノール溶液を調製し、酸化剤溶液とした。
【0046】
上記酸化剤溶液18.6gに、3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、「EDOT」と略記する。)2.0gを添加し、2時間攪拌してポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を生成した。得られたポリマーをエタノール、水で洗浄後、減圧乾燥させて、4−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)1.4gを得た。
【0047】
(実施例2)
実施例1の4−フルオロベンゼンスルホン酸を3−フルオロベンゼンスルホン酸に代えた以外は、実施例1と同様の方法で3−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を得た。
【0048】
(実施例3)
酸化第二銅7.2g(0.09mol)を100gの水溶媒に懸濁させ、該液に4−フルオロベンゼンスルホン酸31.7g(0.18mol)を水溶媒200gに溶解させた溶液を加え、攪拌しながら混合し、温度100℃で24時間反応させた後、濃縮して、濃度50%4−フルオロベンゼンスルホン酸第二銅(以下、「4−FBS−Cu」と略記する。)の水溶液を調製し、酸化剤溶液とした。
【0049】
上記の4−フルオロベンゼンスルホン酸第二銅水溶液を濃縮して、濃縮液にエタノールを加えて脱水とともに濃縮を行い、濃度50%4−フルオロベンゼンスルホン酸第二銅のエタノール溶液を調製し、酸化剤溶液とした。
【0050】
上記酸化剤12.9gを用い、EDOT2.0gを添加し、2時間攪拌してポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を生成した。得られたポリマーをエタノール、水で洗浄後、減圧乾燥させて、4−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)1.6gを得た。
【0051】
(実施例4)
実施例3の4−フルオロベンゼンスルホン酸を3−フルオロベンゼンスルホン酸に代えた以外は、実施例3と同様の方法で3−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を得た。
【0052】
(実施例5)
実施例1の4−フルオロベンゼンスルホン酸を4−クロロベンゼンスルホン酸に代えた以外は、実施例1と同様の方法で4−クロロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を得た。
【0053】
(実施例6)
実施例1の4−フルオロベンゼンスルホン酸を3−クロロベンゼンスルホン酸に代えた以外は、実施例1と同様の方法で3−クロロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を得た。
【0054】
(実施例7)
実施例1の4−フルオロベンゼンスルホン酸をフルオロベンゼンジスルホン酸(以下、「FBDS」と略記する。)に代えた以外は、実施例1と同様の方法でフルオロベンゼンジスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を得た。
【0055】
(比較例1)
実施例1の4−フルオロベンゼンスルホン酸に代えて、p−トルエンスルホン酸一水和物0.81gを用いた以外は、実施例1と同様にして、濃度50%p−トルエンスルホン酸第二鉄(以下、「PTS−Fe」と略記する。)のエタノール溶液を調製して、酸化剤溶液とし、また、該酸化剤溶液16.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして、p−トルエンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)1.2gを得た。
【0056】
(比較例2)
実施例1の4−フルオロベンゼンスルホン酸に代えて、ドデシルベンゼンスルホン酸1.38gを用いた以外は、実施例1と同様にして、濃度50%ドデシルベンゼンスルホン酸第二鉄(以下、「DBS−Fe」と略記する。)のエタノール溶液を調製して、酸化剤溶液とし、また、該酸化剤溶液29.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして、p−トルエンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)1.0gを得た。
【0057】
実施例1〜7及び比較例1、2より得られたポリマーを圧縮成形し、温度125℃の恒温槽中にて100時間保存する耐熱性試験を行い、初期の電導度と耐熱性試験後の電導度について評価した。なお、電導度は電導度測定器(三菱化学社製ロレスタGP)を用いて、4端子4探針法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例8)
実施例1のEDOTをピロール(以下、「Py」と略記する。)0.9gを用いた以外は、実施例1と同様にして、4−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.8gを得た。
【0060】
(実施例9)
実施例2のEDOTに代えてPy0.9gを用いた以外は、実施例2と同様にして、3−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.8gを得た。
【0061】
(実施例10)
実施例3のEDOTに代えてPy0.9gを用いた以外は、実施例3と同様にして、4−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.6gを得た。
【0062】
(実施例11)
実施例4のEDOTに代えてPy0.9gを用いた以外は、実施例4と同様にして、3−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.7gを得た。
【0063】
(実施例12)
実施例5のEDOTに代えてPy0.9gを用いた以外は、実施例5と同様にして、4−クロロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.8gを得た。
【0064】
(実施例13)
実施例6のEDOTに代えてPy0.9gを用いた以外は、実施例6と同様にして、3−クロロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.8gを得た。
【0065】
(実施例14)
実施例7のEDOTに代えてPy0.9gを用いた以外は、実施例7と同様にして、4−フルオロベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.6gを得た。
【0066】
(比較例3)
比較例1のEDOTに代えてPy0.9gを用いた以外は、比較例1と同様にして、p−トルエンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.7gを得た。
【0067】
(比較例4)
比較例2のEDOTに代えてPy0.9gを用いた以外は、比較例2と同様にして、ドデシルベンゼンスルホン酸がドーパントとして導入されたポリピロール0.7gを得た。
【0068】
実施例8〜14及び比較例3、4より得られたポリマーを圧縮成形し、温度125℃の恒温槽中にて100時間保存する耐熱性試験を行い、初期の電導度と耐熱性試験後の電導度について評価した。なお、電導度は、電導度測定器(三菱化学社製ロレスタGP)を用いて、4端子4探針法により測定した。測定結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表1、2に示すように、本発明の実施例1〜14の導電性高分子は、比較例1〜4の導電性高分子に比べ、電導度が高く、かつ、高温保存後においても高い電導度を維持し、耐熱性に優れていることがわかる。
特にFBS塩、FBDS塩を酸化剤として用いた導電性高分子は電導度に優れていることがわかった。
【0071】
(固体電解コンデンサの評価)
(実施例15)
陽極リードを備えたタンタル焼結体素子に、リン酸水溶液中、5Vの電圧を印加させて化成処理を施し、誘電体酸化皮膜を形成させた。該素子の硫酸水溶液中における静電容量は229μFであった。
【0072】
次に、実施例1に記載の酸化剤溶液であるエタノールを溶媒として50%の濃度に調製した4−FBS−Fe及び導電性高分子モノマーEDOTをモル比で1:1になるように混合し、1液の化学酸化重合液として容器に準備した。
【0073】
タンタル焼結体素子を、上記の化学酸化重合液に室温で5分間浸漬させて、素子を引上げて50℃で1時間熱処理し化学酸化重合を進行させて、素子表面に導電性高分子層を形成させた。
【0074】
ついで、上記素子の陰極層に、カーボンペースト及び銀ペーストを塗布して導電性塗膜を形成し、その一部から対極を取り出した後、エポキシ樹脂でモールドさせ、その後、4Vの電圧を印加させてエージングを行い、定格電圧2V、定格静電容量220μFの固体電解コンデンサを完成させた。
【0075】
(実施例16)
実施例15の4−FBS−Feの50%エタノール溶液を3−FBS−Feの50%エタノール溶液に代えた以外は実施例15と同様に行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0076】
(実施例17)
実施例15の4−FBS−Feの50%エタノール溶液を4−ClBS−Feの50%エタノール溶液に代えた以外は実施例15と同様に行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0077】
(実施例18)
実施例15の4−FBS−Feの50%エタノール溶液を3−ClBS−Feの50%エタノール溶液に代えた以外は実施例15と同様に行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0078】
(実施例19)
実施例15の4−FBS−Feの50%エタノール溶液をFBDS−Feの50%エタノール溶液に代えた以外は実施例15と同様に行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0079】
(比較例5)
実施例15の4−FBS−Feの50%エタノール溶液をPTS−Feの50%エタノール溶液に代えた以外は実施例15と同様に行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0080】
(比較例6)
実施例15の4−FBS−Feの50%エタノール溶液をDBS−Feの50%エタノール溶液に代えた以外は実施例15と同様に行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0081】
実施例15〜19及び比較例5、6より得られた固体電解コンデンサについて、120Hzでの静電容量(Csと略記する。)、120Hzでの誘電損失(tanσと略記する。)、100Hzでの等価直列抵抗(ESRと略記する。)を測定した。また、耐熱性試験(温度260℃の雰囲気に3分保持)を実施した。測定結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3に示すように本発明の実施例15〜19の固体電解コンデンサは、比較例5、6の固体電解コンデンサに比べ、初期ESRが低く、かつ、耐熱性試験後においても初期と同様に電気特性を維持し、耐熱性に優れていることがわかる。特にFBS−Fe、FBDS−Feを酸化剤として用いた固体電解コンデンサが優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の導電性高分子は、高い導電性と高い耐熱性を示すことから、コンデンサ用の固体電解質のほか、二次電池用電極をはじめ様々な分子エレクトロニクス材料、光学材料などの用途に有用である。
【0085】
また、本発明の導電性高分子を固体電解質として用いてなる固体電解コンデンサは、等価直列抵抗が低く、優れた電気特性を有し、かつ、高い耐熱性を示し、高周波数のデジタル機器等に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩が溶媒に溶解されてなることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤。
【化1】

(式中、Xq+は遷移金属カチオン、Rはハロゲン原子を示し、nは1〜3、mは2〜7、pは1〜3、qは2〜7の整数を示す。ただし、n×m=p×qを満たす。)
【請求項2】
ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩が、フルオロベンゼンスルホン酸塩又はフルオロベンゼンジスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子製造用酸化剤。
【請求項3】
q+が、鉄イオン(III)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性高分子製造用酸化剤。
【請求項4】
ハロゲン原子が置換したベンゼンスルホン酸誘導体塩が、溶媒に40〜70質量%溶解されてなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤。
【請求項5】
導電性高分子単量体を導電性高分子製造用酸化剤によって化学酸化重合した導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサにおいて、
請求項1から4のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤を用いることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項6】
導電性高分子単量体と導電性高分子製造用酸化剤との混合液をコンデンサ素子に含浸させることにより、又は導電性高分子単量体溶液と導電性高分子製造用酸化剤とをコンデンサ素子に含浸させることにより、導電性高分子単量体と導電性高分子製造用酸化剤を化学酸化重合反応させて導電性高分子層をコンデンサ素子に形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、
請求項1から4のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤を用いることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2011−9617(P2011−9617A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153558(P2009−153558)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)