説明

導電用高耐熱性アルミニウム合金線の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、導電性並びに耐熱性に優れ、而して電力ケーブルの導電体として好適なアルミニウム合金線の製造方法に関する。
【0002】耐熱アルミニウム合金線として、従来より60TAl (60%導電率耐熱アルミ合金)やUTAl( 耐熱アルミ合金) などが実用化されてきているが、60TAl では短時間許容温度が180 ℃と低い問題がある。一方、UTAlは短時間許容温度が 230℃と充分高温度であるものの、導電率が 58%と低い問題がある。
【0003】これに対して、近年の電力需要の増大に供ってケーブル送電容量アップの必要性が高まってきており、このために送電許容温度が高く且つ導電率の高いアルミニウム合金線が求められている。
【0004】耐熱アルミ合金としては Al-Zr系合金が一般的である。しかし従来の60TAl やUTAl 等の合金においては、Zrの添加量を多くすればZrの固溶によって耐熱性が高くなる反面、導電率の低下をも伴う。従って実際的にはZrは0.1 重量%程度しか添加できず、ために耐熱性の向上にも限界があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記に鑑みて60%以上の導電率280℃以上の高い短時間許容温度並びに高機械的強度を有するアルミニウム合金線を鋳造欠陥の発生を抑えて高歩留りにて製造し得る方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、特定の合金系を用い、且つ当該合金系から連続鋳造によって得たワイヤーロッドに特定の熱処理と加工処理とを施すことりより、たとえ多量のZrが含有した状態下においても高導電率を維持し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】即ち本発明は、Zr0.25〜0.45重量%、Si0.03〜0.3 重量%、Fe 0.1〜0.3 重量%、Ti0.01〜0.05重量%、残部Alおよび通常の不純物からなる合金を連続鋳造によってワイヤーロッドとし、これを 350〜500 ℃の温度で20〜100 時間熱処理した後、断面積減少率65%以上の冷間加工を加え、さらにこれに 150〜300 ℃の温度で 1〜20時間熱処理を施すことを特徴とする導電用高耐熱性アルミニウム合金線の製造方法である。
【0008】
【発明の作用】Zr0.25〜0.45重量%、Si0.03〜0.3 重量%、Fe 0.1〜0.3 重量%、Ti0.01〜0.05重量%、残部Alおよび通常の不純物からなる特定の合金系につき連続鋳造することにより、ZrをAlマトリックスに過飽和に固溶し、次いで熱処理によりAl3 Zrの析出粒子としてマトリックスに微細に析出せしめる。この微細析出物によって加工組織を安定化し、かくして導電率を低下せしめることなく高耐熱性とすることができる。したがって本発明は、Zrを固溶させて耐熱性を向上させている従来の合金とは耐熱性向上のメカニズムにおいて従来技術と本質的に異なる。またTiの添加は、連続鋳造によって得られるワイヤーロッドにおける結晶粒を微細化して高Zr合金における一般的欠点の1つである鋳造欠陥の発生を抑える効果があり、これにより製造歩留りが大幅に向上する。
【0009】本発明にて用いられる合金系において、Zrを0.25〜0.45%(重量%、以下同様)としたのは、0.25%未満では導電率を60%以上に向上させた際に強度が不足し、一方0.45%より多い場合では導電率を向上せしめるための熱処理に長時間を要するためである。而してZrの好ましい添加量は、0.30〜0.40%である。
【0010】Siを0.03〜0.3 %としたのは、Siの添加によるAl3 Zrの析出促進の効果が0.03%未満では充分でなく、一方0.35%より多い場合では連続鋳造において鋳造欠陥を生じてワイヤーロッドの製造が困難となる。したがって、Siの好ましい添加量は、0.05〜0.20%である。
【0011】Feを 0.1〜0.35%としたのは、Fe添加による強度向上の効果が 0.1%未満では不充分であり、一方0.35%より多い場合では耐熱性と導電率が低下する傾向がある。而してFeの好ましい添加量は、0.01〜0.25%である。
【0012】Tiを0.01〜0.05%としたのは、0.01%未満では前記した鋳造欠陥の発生を抑える効果が低く、0.05%より多い場合は導電率が低下する。而してTiの好ましい添加量は、0.01〜0.03%である。
【0013】本発明においては、Alに通常含まれるその他の不純物を通常レベル含むことは許容されるが、V のようにZrと結合して有効Zr量を低下するような元素の少ない地金を用いることが望ましい。
【0014】本発明においては、上記したアルミニウム合金素材につき連続鋳造によりワイヤーロッドを得る。連続鋳造法としては、プロペルチ法、ヘズレー法、SCR 法などの周知の方法であってよい。連続鋳造法によりたとえば8〜13mmφのワイヤーロッドを得るが、その際の鋳造開始時の溶湯温度は750 〜850 ℃とし、得られた鋳造バーを 200℃以下の温度になる間に減面率80%以上で圧延することが好ましい。
【0015】以上のようにして得たワイヤーロッドは、次いで 350〜450 ℃の温度で20〜100 時間の熱処理が施される。この処理により、鋳造時に強制固溶したZrを微細なAL3 Zr粒子として析出させることができる。この結果、熱処理されたワイヤーロッドは加工硬化して良好な強度を持つに到り、また析出粒子はさらに微細に粉砕され、後記する冷間加工後での熱処理による耐熱性組織の形成の素地を用意する。なお、350 ℃未満の熱処理温度では、析出速度が遅く、一方 450℃より高い温度では析出粒子の粗大化のために耐熱性が低下する。また処理時間が20時間未満ではZrの析出が充分でなく、一方100 時間より長いと工業的に意味を持たなくなる。而して、400 〜450 ℃の温度で30〜60時間の熱処理が好ましい。
【0016】熱処理されたワイヤーロッドは、次いで断面積減少率が65%以上となる冷間加工に付される。この際の断面積減少率が65%未満では、加工硬化が充分でないだけでなく、続く熱処理によっても高い耐熱性を得ることができない。一方、過度の冷間加工は導電率の低下、耐熱性の低下等の問題が生じる傾向があるので本発明においては、断面積減少率が70〜95%の範囲となる冷間加工を施すことが好ましい。
【0017】冷間加工された合金線は、次ぎに 150〜300 ℃の温度で 1〜20時間の熱処理を施される。この熱処理により冷間加工によって導入された加工組織は安定化され、高い耐熱性が得られる。但し、150 ℃未満、あるいは1時間未満の処理ではこの効果が充分でなく、一方300℃より高く、あるいは20時間より長時間の処理では析出物の粗大化や加工組織の回復が生じて耐熱性と強度が低下する。而して、180 〜250 ℃の温度で 2〜10時間の熱処理が好ましい。
【0018】
【発明の効果】本発明によれば、60%以上の導電率でしかも硬アルミニウム線と同等以上の高機械的強度を有し、更に280 ℃以上の高短時間許容温度を有するアルミニウム合金線を製造することができる。またTiの添加により鋳造欠陥の発生を抑えることができ、これにより高品質のアルミニウム合金線を高歩留りで製造することができる。
【0019】
【実施例】以下、実施例及び比較例により本発明を一層詳細に説明する。実施例1〜10、比較例1〜15表1に示す組成(残部はアルミニウム)の実施例及び比較例の合金をプロペルチ法により連続鋳造し、圧延して外径 9.5mmのワイヤーロッドを得た。該ワイヤーロッドにつき所定の熱処理を施して後、断面積減少率84%の冷間加工を加えて外径 3.8mmの素線を得た。得られた素線につき最後に所定の熱処理を施して目的とする導電用アルミニウム合金線を得た。
【0020】各実施例並びに比較例で得た合金線につき、導電率、引張り強さ、及び耐熱性を評価した。耐熱性は、1時間の加熱で引張り強さが加熱前の値の90%になる温度とした。表1には合金組成、連続鋳造時における注湯温度、ワイヤーロッドを得るための圧延工程における圧延開始及び終了温度を示す。また表2には、ワイヤーロッド(WR)熱処理の温度及び時間、素線熱処理の温度及び時間、並びに導電用アルミニウム合金線の特性を示す。なお、比較例6、12、15の各場合には鋳造割れが発生した。
【0021】
【表1】


【0022】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 Zr0.25〜0.45重量%、Si0.03〜0.3 重量%、Fe 0.1〜0.3 重量%、Ti0.01〜0.05重量%、残部Alおよび通常の不純物からなる合金を連続鋳造によってワイヤーロッドとし、これを 350〜500 ℃の温度で20〜100 時間熱処理した後、断面積減少率65%以上の冷間加工を加え、さらにこれに 150〜300 ℃の温度で 1〜20時間熱処理を施すことを特徴とする導電用高耐熱性アルミニウム合金線の製造方法。

【特許番号】第2628235号
【登録日】平成9年(1997)4月18日
【発行日】平成9年(1997)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−104623
【出願日】平成3年(1991)4月9日
【公開番号】特開平4−311549
【公開日】平成4年(1992)11月4日
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【参考文献】
【文献】特開 昭56−146864(JP,A)
【文献】特公 昭60−7703(JP,B2)
【文献】特公 昭51−2049(JP,B2)