説明

小口径配管の残留応力改善方法

【課題】
配管の外面冷却により配管を拡管して残留応力を改善させる方法において氷栓の耐圧性を向上させて氷栓形成用冷媒容器を小型化すること、配管の内外面に温度差を付与して残留応力を改善させる方法において肉厚が薄いため十分な温度差が得られ難い小口径配管に対する残留応力改善方法を提供することにより、製品の信頼性を向上させること。
【解決手段】
配管の外面冷却により配管を拡管して残留応力を改善させる方法において、冷媒容器中央部を部分的に断熱することにより氷栓形成時の冷却速度を冷媒容器中央部で低下させ、これにより氷栓中央部を最後に凝固させる。また、配管の内外面に温度差を付与して残留応力を改善させる方法において、内外面の温度差を付与する際に、軸方向の引張荷重を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力腐食割れを生じる可能性があるニッケル基合金やオーステナイト系ステンレス鋼製の小口径配管溶接部に対する応力腐食割れ進展性および発生感受性改善のための残留応力改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配管溶接部内面に作用する残留応力を緩和して、応力腐食割れの発生感受性を改善させる方法については、配管の外面冷却により配管を拡管して残留応力を改善させる例が、特許文献1に開示されている。
【0003】
この公報では、配管突合せ溶接部の上流および下流に氷栓作成用の冷媒容器を設置し、配管外面を冷却して氷栓を形成させた後に、氷栓間の外面冷却により内部の水を凝固させ、凝固時の体積膨張により溶接部近傍を拡管させて、配管内面に圧縮残留応力を付与している。
【0004】
また、配管の内外面に温度差を付与して残留応力を改善させる例が、特許文献2に開示されている。
【0005】
この公報では、配管外面を加熱するとともに内面を冷却することで、配管の内外面に大きな温度差を与え、温度差により生じる熱膨張差を利用して配管外面に圧縮降伏、内面に引張降伏を与え、配管内面に圧縮残留応力を付与している。
【0006】
【特許文献1】特開2006−334596号公報
【特許文献2】特開昭54−060694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ニッケル基合金やオーステナイト系ステンレス鋼は、引張残留応力が負荷された状態で高温純水中に長時間曝されることにより、応力腐食割れが発生する可能性がある。
【0008】
原子力発電プラントを構成する配管にはニッケル基合金やオーステナイト系ステンレス鋼製の配管があり、溶接により配管内面の残留応力が引張状態となっている溶接部近傍では、応力腐食割れ発生感受性および進展性を改善するために、残留応力を低減、さらには、圧縮化することが望まれている。
【0009】
前述した配管の外面冷却により配管を拡管して残留応力を改善させる場合、拡管時に氷栓間が高圧になるため、安定した施工を行うには、氷栓の軸長を大きくしなければならない。
【0010】
また、前述した配管の内外面に温度差を付与して残留応力を改善させる場合、小口径配管では肉厚が薄く、内外面に塑性変形を付与できるほどの温度差を設けることは難しい。
【0011】
本発明は上記課題を鑑みなされたものであり、その目的は、配管の外面冷却により配管を拡管して残留応力を改善させる方法において氷栓の耐圧性を向上させて氷栓形成用冷媒容器を小型化すること、配管の内外面に温度差を付与して残留応力を改善させる方法において肉厚が薄いため十分な温度差が得られ難い小口径配管に対する残留応力改善方法を提供することにより、製品の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はかかる課題を解決するために、配管の外面冷却により配管を拡管して残留応力を改善させる方法において、冷媒容器中央部を部分的に断熱することにより氷栓形成時の冷却速度を冷媒容器中央部で低下させ、これにより氷栓中央部を最後に凝固させる。また、配管の内外面に温度差を付与して残留応力を改善させる方法において、内外面の温度差を付与する際に、軸方向の引張荷重を付与する。
【0013】
つまり、本発明の小口径配管の残留応力改善方法は、配管突合せ溶接部の上流および下流の配管に氷栓作成用の冷媒容器を設置するとともに、前記冷媒容器の中央付近に位置する配管の外面全周に断熱材を敷設した状態で冷媒容器内の配管外面を冷却して配管内部に耐圧性に優れた氷栓を作成した後、氷栓間の配管外面を冷却し、内部の水を凝固させ、凝固時の体積膨張により溶接部近傍を拡管させて、配管内面に圧縮残留応力を付与することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の小口径配管の残留応力改善方法は、内部が水で満たされた配管系の突合せ溶接部に対して、溶接部が冷媒容器の中央に位置する様に冷媒容器を設置するとともに、溶接部と冷媒容器中央付近に位置する配管の外面全周を断熱材で覆い、冷媒容器内の配管外面を冷却することにより、1つの冷媒容器で溶接部近傍を拡管させて、配管内面に圧縮残留応力を付与することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の冷媒容器は、予め冷媒容器中央付近に断熱材を設置していることを特徴とし、耐圧性に優れた氷栓を作成する。
【0016】
また、本発明の配管の残留応力改善方法は、施工対象の溶接部およびその近傍に軸方向の引張荷重を付与した状態で、溶接部およびその近傍の内圧を上昇させて拡管し、配管内面に圧縮残留応力を付与することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の配管の残留応力改善方法は、施工対象の溶接部およびその近傍に軸方向の引張荷重を付与した状態で、溶接部およびその近傍の外面を加熱するとともに内面を冷却することで、内外面に温度差を与え、温度差により生じる熱膨張差と軸方向の引張荷重から生じる引張応力を利用して配管内面に引張降伏を与え、配管内面に圧縮残留応力を付与することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の軸方向引張荷重の付与方法は、溶接部の上流と下流に、配管を外面から挟んで固定する配管固定治具を設置し、2つの配管固定治具を介して軸方向の引張荷重を溶接部に付与することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の残留応力改善方法は、残留応力を付与したい方向に引張方向もしくは圧縮方向の外荷重を付与した状態で、温度分布や変形により生じる分布応力を与えることで、外荷重を付与した方向に圧縮残留応力を選択的に付与することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の耐圧性に優れた氷栓の作製方法は、内部が水で満たされた配管に冷媒容器を設置するとともに、前記冷媒容器の中央付近に位置する配管の外面全周に断熱材を敷設した状態で、前記冷媒容器内の配管外面を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、配管の外面冷却により配管を拡管して残留応力を改善させる方法において、氷栓中央部の膨張に伴う配管内面との接触圧の増加により接触面における摩擦力が増加するため、氷栓の耐圧性が向上する。また、配管の内外面に温度差を付与して残留応力を改善させる方法において、肉厚が薄く大きな温度勾配が取れない小口径配管であっても、軸方向の引張荷重により重畳される引張応力により内面に塑性ひずみを発生させることが可能となり、圧縮残留応力を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0023】
耐圧性に優れた氷栓の作成方法について図1を用いて説明する。図1は内部が水で満たされた配管に冷媒容器を設置するとともに冷媒容器中央付近に位置する配管の外面全周に断熱材を敷設した状態で、冷媒容器内の配管外面を冷却することで氷栓の耐圧性を向上させた実施例を示すものである。
【0024】
まず、配管3に冷媒容器14を取付けるとともに、冷媒容器14の中央付近に位置する配管3の外面全周に断熱材11を敷設する。この状態で冷媒容器14にエタノール10とドライアイス9を投入すると、冷媒容器14内部で断熱材11が敷設されていない配管3の内表面から水4が冷却され始め、氷6が形成し始める(ステップ1)。
【0025】
その後、時間の経過とともに断熱材11の敷設部でも氷6が形成し始めるが、冷却能力の差により断熱材11の敷設部に比べて冷媒容器14の両端近傍の凝固速度が速くなり、氷6の厚さに差が生じ始める(ステップ2)。
【0026】
さらに、時間が経過すると、凝固速度が速い冷媒容器14の両端近傍が氷6により閉塞し、断熱材11敷設部に水4が取り残され、凝固が進むにつれて当該部の内圧が上昇し始める(ステップ3)。
【0027】
断熱材11の敷設部に取り残された水4の凝固が全て完了すると断熱材11敷設部が局所的に膨張した形状の氷栓となる。これにより、当該部における配管内壁との接触圧が上昇することにより氷栓の摩擦力が上昇するため、断熱材11を敷設しない場合に比べて耐圧性が向上する(ステップ4)。
【0028】
なお、図中13は、ドレン弁である。
【0029】
さらに、本発明の耐圧性に優れた氷栓を活用して溶接部近傍を拡管させて、配管内面に圧縮残留応力を付与する方法について、図2を用いて説明する。
【0030】
図2は、耐圧性に優れた氷栓を作成した後、氷栓間の水の凝固により溶接部近傍を拡管させて、配管内面に圧縮残留応力を付与する方法の実施例を示すものである。
【0031】
溶接部1の上流および下流の配管3に氷栓作成用の外側冷媒容器7を設置するとともに外側冷媒容器7の中央付近に位置する配管3の外面全周に断熱材11を敷設した状態で外側冷媒容器7内の配管3外面を冷却して配管3内部に耐圧性に優れた氷栓5を作成した後、氷栓5間の配管3外面を冷却し、内部の水4を凝固させ、凝固時の体積膨張により溶接部1近傍の開先加工部2を拡管させて、配管3内面に圧縮残留応力を付与する。
【0032】
耐圧性に優れた氷栓を採用することにより耐圧性が向上するため、外側冷媒容器7の寸法を小型化することが可能となる。これにより、発電プラント内で狭隘かつ複雑な経路になることが多い小口径配管への施工性が大幅に向上する。
【0033】
冷媒容器中央付近に位置する溶接部と配管の外面全周を断熱材で覆うことにより、冷媒容器1つで溶接部を拡管して溶接部近傍の内面に圧縮残留応力を付与する方法について、図3を用いて説明する。
【0034】
図3は冷媒容器1つで溶接部を拡管して溶接部近傍の内面に圧縮残留応力を付与する方法の実施例を示すものである。
【0035】
まず、内部が水4で満たされた配管3に溶接部1が冷媒容器14の中央となる様に冷媒容器14を設置する。次に、冷媒容器14の中央付近に位置する溶接部1と配管3の外面全周に断熱材11を敷設する。なお、断熱材11の寸法は配管の外径と板厚毎に、溶接部1近傍の開先加工部2に発生する周方向ひずみが0.4%以上になる厚さと軸長に調節して敷設する。この状態で冷媒容器14にエタノール10とドライアイス9を投入すると、冷媒容器14内部で断熱材11が敷設されていない溶接部1近傍の開先加工部2の内表面から水4が冷却され始め、氷6が形成し始める(ステップ1)。
【0036】
その後、時間の経過とともに断熱材11敷設部でも氷6が形成し始めるが、冷却能力の差により断熱材11敷設部に比べて冷媒容器14の両端近傍の凝固速度が速くなり、氷6の厚さに差が生じ始める(ステップ2)。
【0037】
さらに時間が経過すると、凝固速度が速い冷媒容器14の両端近傍が氷6により閉塞し、断熱材11敷設部に水4が取り残され、凝固が進むにつれて当該部の内圧が上昇し始める(ステップ3)。
【0038】
断熱材11敷設部に取り残された水4の凝固が全て完了すると断熱材11敷設部が局所的に膨張した形状の氷6となる。これにより、溶接部1近傍の開先加工部2を拡管させて、配管3内面に圧縮残留応力を付与する(ステップ4)。
【0039】
従来方法では少なくとも3つ以上の冷媒容器が必要であったのに対し、本形態の方法では1つの冷媒容器で施工が可能となるため、発電プラント内で狭隘かつ複雑な経路になりがちな小口径配管への施工性が大幅に向上する。
【0040】
耐圧性に優れた氷栓を作成するために予め冷媒容器中央付近に断熱材を設置した冷媒容器について、図4と図5を用いて説明する。
【0041】
図4は冷媒容器中央部に予め断熱材が取付けられた水平配管に対する冷媒容器の実施例を示すものである。
【0042】
水平配管に耐圧性を向上させた氷栓を作成するための冷媒容器34は、冷媒容器上蓋31と冷媒容器下蓋32により配管3をパッキン15と断熱材11を介して挟み、ボルト17とナット18により固定する構造をしている。
【0043】
なお、冷媒容器上蓋31と冷媒容器下蓋32には容器中央に断熱材設置具16が取付けられている。さらに、冷媒容器上蓋31と冷媒容器下蓋32の固定構造としては、冷媒容器上蓋31と冷媒容器下蓋32の1辺を蝶つがいで接続するとともに蝶つがいの対辺にバックルを取付け、配管3への脱着をバックルの解除と固定により行う構造を採用することも可能である。
【0044】
図5は冷媒容器中央部に予め断熱材が取付けられた垂直配管に対する冷媒容器の実施例を示すものである。
【0045】
垂直配管に耐圧性を向上させた氷栓を作成するための冷媒容器35は、冷媒容器側蓋(ドレン弁あり)36と冷媒容器側蓋(ドレン弁なし)37により配管3をパッキン15と断熱材11を介して挟み、ボルト17とナット18により固定する構造をしている。なお、冷媒容器側蓋(ドレン弁あり)36と冷媒容器側蓋(ドレン弁なし)37には容器中央に断熱材設置具16が取付けられている。さらに、冷媒容器側蓋(ドレン弁あり)36と冷媒容器側蓋(ドレン弁なし)37の固定構造としては、冷媒容器側蓋(ドレン弁あり)36と冷媒容器側蓋(ドレン弁なし)37の1辺を蝶つがいで接続するとともに蝶つがいの対辺にバックルを取付け、配管3への脱着をバックルの解除と固定により行う構造を採用することも可能である。
【0046】
軸方向の引張荷重を付与した状態で溶接部およびその近傍を拡管することで配管内面に圧縮残留応力を付与する方法について、図6を用いて説明する。
【0047】
図6は溶接部およびその近傍を弾性変形の範囲内で拡管した状態に軸方向の引張荷重を付与した場合の応力分布を示したものである。
【0048】
小口径配管溶接部近傍における溶接後の残留応力分布、即ち、施工前の残留応力分布19では、配管内面の残留応力は引張となっている。これを弾性変形の範囲内で拡管した場合、施工中の応力分布(内圧による拡管のみ)20は、降伏応力σyを超過する領域が無いため、施工後の残留応力分布(内圧による拡管のみ)21は施工前の残留応力分布19と同じ残留応力分布になる。
【0049】
これに対し、弾性変形の範囲内で拡管した状態に軸方向の引張荷重を付与した場合、施工中の応力分布(内圧による拡管+軸方向引張荷重付与)22は、配管内面において降伏応力σyを超過するため塑性ひずみが生じ、施工後の残留応力分布(内圧による拡管+軸方向引張荷重付与)23は内面が圧縮の残留応力となる。
【0050】
なお、本発明の残留応力改善方法の施工では、拡管のための内圧と軸方向引張荷重が同時期に付与されている状態が必要であるが、施工の順序はどちらが先でも構わない。
【0051】
さらに、本発明の残留応力改善方法の施工には内面に作用する残留応力を増強する効果があるため、内圧による拡管だけでは十分な残留応力改善効果が得られ難い外径60mm以上の溶接部に対する施工に適用することで、内面の残留応力を圧縮化することが可能となる。
【0052】
また、本発明のような残留応力改善方法やエルボ溶接部の拡管と組合せることで、内面への圧縮残留応力付与効果を増強することが可能となる。
【0053】
軸方向の引張荷重を付与した状態で溶接部およびその近傍の内外面に温度差を与えることで配管内面に圧縮残留応力を付与する方法について、図7を用いて説明する。
【0054】
図7は溶接部およびその近傍の内外面に熱膨張による変形が弾性変形の範囲内となる温度差を与えた状態に軸方向の引張荷重を付与した場合の応力分布を示したものである。
【0055】
小口径配管溶接部近傍における溶接後の残留応力分布、即ち、施工前の残留応力分布19では、配管内面の残留応力は引張となっている。これに熱膨張による変形が弾性変形の範囲内となる温度差を与えた場合、施工中の応力分布(温度勾配のみ)24は、降伏応力σyを超過する領域が無いため、施工後の残留応力分布(温度勾配のみ)25は施工前の残留応力分布19と同じ残留応力分布になる。
【0056】
これに対し、熱膨張による変形が弾性変形の範囲内となる温度差を与えた状態に軸方向の引張荷重を付与した場合、施工中の応力分布(温度勾配+軸方向引張荷重付与)26は、配管内面において降伏応力σyを超過するため塑性ひずみが生じ、施工後の残留応力分布(温度勾配+軸方向引張荷重付与)27は内面が圧縮の残留応力となる。
【0057】
なお、本発明の残留応力改善方法の施工では、内外面の温度差と軸方向引張荷重が同時期に付与されている状態が必要であるが、施工の順序はどちらが先でも構わない。
【0058】
さらに、本発明の残留応力改善方法では、板厚が薄く内外面に大きな温度差を付与できないため、熱膨張により生じる変形が小さく弾性変形範囲内となる小口径配管に対しても、軸方向の引張荷重付与により内面に塑性ひずみを生じさせ、施工後の内面の残留応力を圧縮化することが可能となる。
【0059】
溶接部およびその近傍の配管に軸方向の引張荷重を付与する方法について、図8を用いて説明する。
【0060】
図8は軸方向の引張荷重を配管に付与する方法の実施例を示すものである。溶接部1の上流と下流に、配管3を外面から挟んでボルト17とナット18により固定する配管固定治具28を設置する。配管3への引張荷重は2つの配管固定治具28の間に取付けられた油圧もしくは水圧シリンダ29が軸方向に伸びることで付与される。
【0061】
残留応力を付与したい方向に引張方向もしくは圧縮方向の外荷重を付与した状態で、温度分布や変形により生じる分布応力を与えることで、外荷重を付与した方向に圧縮残留応力を選択的に付与する方法について、図9と図10を用いて説明する。
【0062】
図9は実施例の1つとして、平板に温度分布と外荷重を付与することで外荷重付与方向の平板表面における残留応力を圧縮化する例を示すものである。
【0063】
本実施例では平板38を冷却水40の中に浸漬させた状態で引張方向の外荷重41をy方向に付与するとともに、高周波加熱器42により平板38を加熱する。これにより、平板38が発熱するとともに冷却水40と接する面(1)と面(2)が冷却されるため、平板38の温度分布は外表面が低温、内部が高温の状態となる。温度差により熱膨張差が生じるため施工中の平板内応力分布43は、外面が引張、内面が圧縮の応力分布となる。平板の板厚が薄く降伏応力σyを超過する領域がない点線の応力分布となった場合、残留応力改善効果が期待できないが、引張方向の外荷重41を重畳させることにより外表面近傍の領域が降伏応力σyを超過するため、施工後の平板内残留応力分布44は外表面近傍の領域で圧縮状態となる。
【0064】
図10は実施例の1つとして、中実円筒を高温に加熱するとともに軸方向の長さを治具により拘束した状態で冷却水内に浸漬させることで、中実円筒内に温度分布を付与すると同時に軸方向の長さの拘束により引張方向の外荷重を付与することで表面に圧縮残留応力を付与する例を示すものである。
【0065】
まず、室温と同じ温度の中実円筒45を高温環境47内で高温に加熱する。その後、高温になった中実円筒45を軸方向長さの拘束治具48(室温)に取付け、軸方向長さを一定に保つ。高温の中実円筒45を軸方向長さの拘束治具48に取付けた状態で冷却水40中に浸漬させると円筒の温度分布は外表面が低温、内表面が高温の状態となる。
【0066】
さらに、温度の低下により中実円筒45は収縮するため、軸方向長さの拘束治具48による拘束により、軸方向には引張応力が生じる。この様に、温度差により生じる外面が引張、内面が圧縮の応力分布に拘束により負荷される引張方向の応力49が重畳されるため、外表面近傍において降伏応力σyを超過する領域が増加する。これにより、施工後の残留応力分布50は温度差のみで施工した場合に比べて高い圧縮残留応力となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は応力腐食割れの発生が懸念される種々の材質および使用環境の組み合わせに対して適用することが可能であり、特にニッケル基合金やオーステナイト系ステンレス製の溶接構造物の応力腐食割れ抑制に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】冷媒容器中央付近の配管外面全周に断熱材を敷設して冷却することにより耐圧性に優れた氷栓ができることを説明する図。
【図2】耐圧性に優れた氷栓を作成した後、氷栓間の水の凝固により溶接部近傍を拡管させて、配管内面に圧縮残留応力を付与する方法を説明する図。
【図3】冷媒容器1つで溶接部を拡管して、溶接部近傍の内面に圧縮残留応力を付与する方法を説明する図。
【図4】冷媒容器中央部に予め断熱材が取付けられた水平配管に耐圧性を向上させた氷栓を作成するための冷媒容器を説明する図。
【図5】冷媒容器中央部に予め断熱材が取付けられた垂直配管に耐圧性を向上させた氷栓を作成するための冷媒容器を説明する図。
【図6】軸方向の引張荷重を付与した状態で、溶接部およびその近傍を拡管することで、配管内面に圧縮残留応力を付与できることを説明する図。
【図7】軸方向の引張荷重を付与した状態で、溶接部およびその近傍の内外面に温度差を与えることで、配管内面に圧縮残留応力を付与できることを説明する図。
【図8】軸方向の引張荷重を配管に付与する方法の具体例を説明する図。
【図9】平板に温度分布と外荷重を付与することで外荷重付与方向の平板表面における残留応力を圧縮化する例を説明する図。
【図10】中実円筒を高温に加熱するとともに軸方向の長さを治具により拘束した状態で冷却水内に浸漬させることで、表面の残留応力を圧縮化する例を説明する図。
【符号の説明】
【0069】
1 溶接部
2 開先加工部
3 配管
4 水
5 氷栓
6 氷
7 外側冷媒容器
8 内側冷媒容器
9 ドライアイス
10 エタノール
11 断熱材
12 ひずみゲージ
13 ドレン弁
14 冷媒容器
15 パッキン
16 断熱材設置具
17 ボルト
18 ナット
19 施工前の残留応力分布
20 施工中の応力分布(内圧による拡管のみ)
21 施工後の残留応力分布(内圧による拡管のみ)
22 施工中の応力分布(内圧による拡管+軸方向引張荷重付与)
23 施工後の残留応力分布(内圧による拡管+軸方向引張荷重付与)
24 施工中の応力分布(温度勾配のみ)
25 施工後の残留応力分布(温度勾配のみ)
26 施工中の応力分布(温度勾配+軸方向引張荷重付与)
27 施工後の残留応力分布(温度勾配+軸方向引張荷重付与)
28 配管固定治具
29 油圧もしくは水圧シリンダ
30 シリンダの伸び方向
31 冷媒容器上蓋
32 冷媒容器下蓋
33 ひずみ計測器
34 水平配管に耐圧性を向上させた氷栓を作成するための冷媒容器
35 垂直配管に耐圧性を向上させた氷栓を作成するための冷媒容器
36 冷媒容器側蓋(ドレン弁あり)
37 冷媒容器側蓋(ドレン弁なし)
38 平板
39 平板内の初期残留応力分布
40 冷却水
41 引張方向の外荷重
42 高周波加熱器
43 施工中の平板内応力分布
44 施工後の平板内残留応力分布
45 中実円筒
46 初期残留応力分布
47 高温環境
48 軸方向長さの拘束治具
49 拘束により負荷される引張方向の応力
50 施工後の残留応力分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が水で満たされた配管に冷媒容器を設置するとともに、前記冷媒容器の中央付近に位置する配管の外面全周に断熱材を敷設した状態で、前記冷媒容器内の配管外面を冷却することを特徴とする耐圧性に優れた氷栓の作成方法。
【請求項2】
配管突合せ溶接部の上流および下流の配管に氷栓作成用の冷媒容器を設置するとともに、前記冷媒容器の中央付近に位置する配管の外面全周に断熱材を敷設した状態で冷媒容器内の配管外面を冷却して配管内部に耐圧性に優れた氷栓を作成した後、氷栓間の配管外面を冷却し、内部の水を凝固させ、凝固時の体積膨張により溶接部近傍を拡管させて、配管内面に圧縮残留応力を付与することを特徴とする小口径配管の残留応力改善方法。
【請求項3】
内部が水で満たされた配管系の突合せ溶接部に対して、溶接部が冷媒容器の中央に位置する様に冷媒容器を設置するとともに、溶接部と冷媒容器中央付近に位置する配管の外面全周を断熱材で覆い、冷媒容器内の配管外面を冷却することにより、1つの冷媒容器で溶接部近傍を拡管させて、配管内面に圧縮残留応力を付与することを特徴とする小口径配管の残留応力改善方法。
【請求項4】
予め冷媒容器中央付近に断熱材を設置していることを特徴とする耐圧性に優れた氷栓を作成するための冷媒容器。
【請求項5】
施工対象の溶接部およびその近傍に軸方向の引張荷重を付与した状態で、溶接部およびその近傍の内圧を上昇させて拡管し、配管内面に圧縮残留応力を付与することを特徴とする配管の残留応力改善方法。
【請求項6】
施工対象の溶接部およびその近傍に軸方向の引張荷重を付与した状態で、溶接部およびその近傍の外面を加熱するとともに内面を冷却することで、内外面に温度差を与え、温度差により生じる熱膨張差と軸方向の引張荷重から生じる引張応力を利用して配管内面に引張降伏を与え、配管内面に圧縮残留応力を付与することを特徴とする配管の残留応力改善方法。
【請求項7】
溶接部の上流と下流に、配管を外面から挟んで固定する配管固定治具を設置し、2つの配管固定治具を介して軸方向の引張荷重を溶接部に付与することを特徴とする軸方向引張荷重の付与方法。
【請求項8】
残留応力を付与したい方向に引張方向もしくは圧縮方向の外荷重を付与した状態で、温度分布や変形により生じる分布応力を与えることで、外荷重を付与した方向に圧縮残留応力を選択的に付与することを特徴とする残留応力改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−50906(P2009−50906A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221987(P2007−221987)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)