説明

小型電動車両

【課題】歩行者と介助者の双方が運転可能な電動車両を提供すること。
【解決手段】運転者が着座するシート63の前側に、走行方向及び前後進を切り替え操作するための前部操作部50を備えた小型電動車両10において、シート63のシートバック68又はその近傍の部位にも、走行方向及び前後進を切り替え操作するための後部操作部70を備えている。
【効果】シートに着座した運転者は前部操作部を操作することで小型電動車両を運転することができる。シートの後方に立った介助者(後部運転者)は後部操作部を操作することで小型電動車両を運転することができる。すなわち、シートに着座した運転者だけではなく、シートの後方に立った介助者も操作することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行が困難な高齢者や身体障害者等の、いわゆる歩行困難者の移動手段として利用が可能な電動車いす等の小型電動車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型電動車両のなかには、歩行困難者でも乗車して容易に操作が可能なものが知られている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
この特許文献1に開示された小型電動車両は、車体に左右の前輪及び左右の後輪が取り付けられた四輪車である。車体には、シートが設けられている。シートの前部下方には、歩行困難者(運転者)がシートに着座した状態で足を揃えておくことができるフロアステップが設けられている。シートの上面より高い位置に且つシートの前方に、前輪を操舵するハンドル等の操作部が設けられる。
【0004】
小型電動車両は、低速走行に制限されている。運転者はゆっくりと運転をすることができる。運転者は、この状態でハンドルを握ることができるので、楽な姿勢のまま容易に小型電動車両の操作を行うことができる。
【0005】
しかし、歩行困難者のなかには、歩行だけではなく、手も不自由な人もいる。このような人は、自分で電動車両を運転することができないので不便である。また、このような電動車両では、歩行困難者を乗せたままで、介助者が運転することはできない。やむを得ず、歩行困難者が運転するための電動車両と、介助者が運転するための車両とを、必要に応じて使い分けなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−89758公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、歩行者と介助者の双方が運転可能な電動車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、運転者が着座するシートの前側に、走行方向及び前後進を切り替え操作するための前部操作部を備えた小型電動車両において、前記シートのシートバック又はその近傍の部位にも、走行方向及び前後進を切り替え操作するための後部操作部を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、後部操作部は、小型電動車両の後ろから歩行しながら操舵するための後部操舵ハンドルの握り部に配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、シートの前側には、前部操作部の操作信号と後部操作部の操作信号とを切り替え操作するための、操作信号切り替え部が配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、操作信号切り替え部は、前部操作部に着脱可能な移動端末によって構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明では、小型電動車両の前部には、電力を発生して移動端末に供給するための太陽電池が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、操作信号切り替え部によって、前部操作部の操作信号から後部操作部の操作信号へ切り替えられている場合に、この後部操作部の操作信号に従って前部操作部を連動制御するための制御部を、更に備えていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、少なくとも車体前部及び後部操舵ハンドルが、前後に折り畳み可能であり、後部操舵ハンドルが起立状態から前方へ折り畳まれる範囲は、この後部操舵ハンドルが車両前側へ折り畳まれた状態で、車両前側から握り部を持ち上げて後部操作部を操作することが可能な範囲に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、小型電動車両は、シートの前側に、走行方向及び前後進を切り替え操作するための前部操作部を備え、シートのシートバック又はその近傍の部位にも、走行方向及び前後進を切り替え操作するための後部操作部を備えた。シートに着座した運転者は前部操作部を操作することで小型電動車両を運転することができる。シートの後方に立った介助者(後部運転者)は後部操作部を操作することで小型電動車両を運転することができる。すなわち、シートに着座した運転者だけではなく、シートの後方に立った介助者も操作することができる。加えて、運転者は、小型電動車両から降りて、シートの後方に立った状態で後部操作部により小型電動車両の操作を行うことができる。すなわち、運転者は遠隔操作を行うことができる。結果、シートに買い物かごを置くことができ、小型電動車両を操作しつつ高い位置や低い位置にも手が届く。これにより、小型電動車両は、電動車いすの機能とカートの機能とを兼ね備える。
【0016】
請求項2に係る発明では、後部操作部は、小型電動車両の後ろから歩行しながら操舵するための後部操舵ハンドルの握り部に配置されている。握り部に後部操作部が配置されているので、運転者は小型電動車両を押しながら容易に操作を行うことができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、シートの前側には、前部操作部の操作信号と後部操作部の操作信号とを切り替え操作するための、操作信号切り替え部が配置されている。シートの前側に操作信号切り換え部が配置されているので、シートに着座した運転者が、前部操作部と後部操作部の切り換えを行うことができる。結果、前部操作部に切り換えた場合は、シートに着座した運転者が操作できる。後部操作部に切り換えた場合、運転者が降りて小型電動車両の後方に移動して電動カートとして使用することができる。さらに後部操作部に切り換えた場合、運転者はシートに着座したままで、小型電動車両の後方から介助者等に操作してもらうことができ、電動車いすとして使用することもできる。
【0018】
請求項4に係る発明では、操作信号切り替え部は、前部操作部に着脱可能な移動端末によって構成されている。操作信号切り替え部は、携帯可能な移動端末(スマートフォンを含む)であるので、運転者は乗車した状態で、走行に有意義なデータ、走行経路の情報、目的地の情報等、様々な情報を閲覧することができて便利である。ナビゲーション機能も持たせることができる。加えて、移動端末にインストールするソフトウェアの変更が可能であるので、移動端末の表示画面に操作ボタン等の表示を容易に変更できる。さらに、小型電動車両のスタートキーとして使用することができる。
【0019】
請求項5に係る発明では、小型電動車両の前部には、電力を発生して移動端末に供給するための太陽電池が設けられている。太陽電池を併用するので、メインのバッテリの消費電力を低減させることができる。
【0020】
請求項6に係る発明では、後部操作部の操作信号へ切り替えられている場合に、この後部操作部の操作信号に従って前部操作部を連動制御するための制御部を、更に備えている。前部操作部を連動制御するので、小型電動車両の後方から後部操作部を操作している状態であっても、前部操作部のハンドルの操舵量を確認することができ、後部操作部からの操作が容易になる。
【0021】
請求項7に係る発明では、後部操舵ハンドルが起立状態から前方へ折り畳まれる範囲は、この後部操舵ハンドルが車両前側へ折り畳まれた状態で、車両前側から握り部を持ち上げて後部操作部を操作することが可能な範囲に設定されている。後部操舵ハンドルが折り畳まれた状態で後部操作部を操作できるので、小型電動車両の収納スペースを小さくできるとともに小型電動車両の搬送が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る小型電動車両の左前方斜視図である。
【図2】図1に示される小型電動車両の左後方斜視図である。
【図3】図1に示される小型電動車両の前部斜視図である。
【図4】図1に示される小型電動車両の要部斜視図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】図4に示される小型電動車両の前部操作部の斜視図である。
【図7】図6に示される移動端末の平面図の側面図である。
【図8】図1に示される小型電動車両のブロック図である。
【図9】図1に示される小型電動車両の作用図である。
【図10】図1に示される小型電動車両の側面図である。
【図11】図10に示される小型電動車両の後部操舵ハンドル折り畳み機構の作用図である。
【図12】図11(a)の12−12線断面図である。
【図13】図10に示される小型電動車両の車体前部折り畳み機構の作用図である。
【図14】図13(a)の14−14線断面図である。
【図15】図10に示される小型電動車両の車体前部の折り畳み機構の分解斜視図である。
【図16】図10に示される小型電動車両のシート移動機構の斜視図である。
【図17】図16の17−17線断面図である。
【図18】図10に示される小型電動車両の折り畳み状態の側面図である。
【図19】図18に示される小型電動車両の作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0024】
先ず、本発明に係る小型電動車両を図1〜 図8に基づいて説明する。図1〜図2は、本発明に係る小型電動車両の全体構成を説明する図である。
【0025】
図1〜図2に示される小型電動車両10は、車体11と、左右の前輪12、12と、左右の後輪13、13と、走行用電動モータ14と、からなる。車体11は、車体11の中央に位置する車体本体部20と、この車体本体部20の前部に折り畳み可能に設けられた車体前部40と、車体本体部20の後部に折り畳み可能に設けられた後部操舵ハンドル60とからなる。
【0026】
車体本体部20は、前下部21に設けられているフロアライト22と、前下部21の側方に設けられている左右のフロントフェンダ23、23と、前下部21の後方に設けられているフロアステップ24と、このフロアステップ24の下方に設けられているバッテリ25と、フロアステップ24の後端部に設けられている傾斜部26と、この傾斜部26の後端部に設けられている荷台27とを有する。
【0027】
フロアライト22は車体前下方を照らすものであり、左右のフロントフェンダ23、23は左右の前輪12、12の後上部をそれぞれ覆うものであり、フロアステップ24は運転者15が足を載せるものである。また、バッテリ25は走行用電動モータ14等に給電するものであり、傾斜部26はフロアステップ24の後端部から後上がり傾斜するものであり、荷台27はフロアステップ24よりも高い位置に形成されるものである。
【0028】
さらに、車体本体部20は、ステップフロア24の側部下方から傾斜部26の側部にかけて配意されている左右の残量表示部28と、荷台27の後部左右に配置されている方向指示器31と、荷台27の下方に配置されている制御部32とを備える。
【0029】
残量表示部28はバッテリ25の残容量を表示するものであり、方向指示器31は方向を指示するものであり、制御部32は後部操舵ハンドル60等からの入力情報を制御するものである。
【0030】
車体前部40は、前下部21から立ち上がっており、前上部41が車両後方に反り返っている。前上部41の上面42は、運転者15が視認できるように運転者15に対向している。
【0031】
車体前部40は、前上部41に設けられている左右のバックミラー43、43と、前上部41のバックミラー43、43の後方に設けられている前部操作部50と、前上部41に設けられている太陽電池44と、前上部41の下方に設けられている収納カゴ45とを備えている。なお、収納カゴ45は、車体前部40に一体化されたフレーム45aに柔軟な材料で形成された網45bを設けたものである。
【0032】
左右のバックミラー43、43は運転者15が後方を確認するためのものであり、前部操作部50は走行方向及び前後進を切り替え操作するためのものであり、太陽電池44は電力を発生してスマートフォン等の移動端末80(詳細後述)に供給するためのものであり、収納カゴ45は荷物を収納するものである。なお、収納カゴ45は、車体前部40に一体化されたフレーム45aに柔軟な材料で形成された網45bを設けたものである。
【0033】
左右のバックミラー43、43は、左右のミラーハウジング46、46と、左右のミラーハウジング46、46内方に設けられている左右のミラー本体47、47と、左右のミラーハウジング46、46の前側に設けられている左右のヘッドライト48、48と、上前部41車両前後方向に移動可能に設けられている左右のミラーステー49、49とからなる。
【0034】
左右のミラー本体47、47は後方の状況を写し出すものであり、左右のヘッドライト48、48は車体11の前方を照らすためのものであり、左右のミラーステー49、49は左右のミラーハウジング46、46を支持するものである。
【0035】
左右のバックミラー46、46にヘッドライト48、48を一体的に設けたので、ヘッドライト48、48用のステーを設けることなく、車体11の上部にて車幅方向に広げて配置することができる。結果、前方からの視認性を向上させることができるとともに、部品コストを抑えることができる。
【0036】
左右のバックミラー43、43は、矢印aのように車両後方に折り畳むことができる。左右のバックミラー43、43を折り畳むことで、車幅方向の幅を小さくすることができる。
【0037】
前部操作部50は、前上部41に設けられている左右の前部操舵ハンドル51、51と、左右の前部操舵ハンドル51、51の端部に設けられている方向指示器52、52と、左右の前部操舵ハンドル51、51の近傍に設けられている左右の走行レバー53、53と、上面42に設けられている操作信号切り替え部54とからなる。
【0038】
左右の前部操舵ハンドル51、51は前輪12を操舵するものであり、左右の方向指示器52、52は方向を指示するものであり、左右の走行レバー53、53は走行のONとOFFを切り替えるものであり、操作信号切り替え部54は前部操作部50の操作信号を切り替える等の操作ボタンの役割を有するものである。
【0039】
左右の前部操舵ハンドル51、51は、基端部を軸にして下方に折り畳むができ、走行時は左右の前部操舵ハンドル51、51を横方向に広げた状態でロックされている。ロックを外すことで、左右の前部操舵ハンドル51、51を、矢印bのように下方に折り畳むことができる。
【0040】
後部操舵ハンドル60は、車体本体部11の傾斜部26から前上がりに延ばされた支持フレーム33、33に設けられている。後部操舵ハンドル60は、支持フレーム33、33の上端部に設けられて車両側面視三角形状を呈するシートレール支持部材34、34と、シートレール支持部材34、34に支持されて後上がりに傾斜する左右のシートレール61、61と、これらの左右のシートレール61、61の上部に設けられて小型電動車両10の後方に立った介助者等が握る握り部62と、左右のシートレール61、61に掛け渡されて運転者15が着座するシート63とからなる。
【0041】
シート63は、左右のシートレール61、61の下部に着脱自在に掛け渡されている下部クロスパイプ64と、左右のシートレール61、61の上部に掛け渡されている上部クロスパイプ65と、この上部クロスパイプ65と下部クロスパイプ64との間に渡されて運転者15が着座する布部66とからなる。布部66は、シートクッション67と、シートバック68とからなる。
【0042】
次にフロントフェンダについて説明する。
図3に示すように、フロントフェンダ23、23は、透明又は半透明の材料により構成されている。そのため、フロントフェンダ23、23を透かして前輪12、12の位置を確認することができる。前部操舵ハンドル51、51を矢印cのように動かすと、前輪12、12は矢印dのように移動する。図1に示す運転者15は、フロントフェンダ23、23を透かして図1の目線の矢印のように、前輪12、12や前輪12、12付近の段差等を目視できるので、運転性の向上を図ることができる。
【0043】
次に後部操作部について説明する。
図4に示すように、後部操舵ハンドル60の握り部62に、走行方向及び前後進を切り替え操作するための後部操作部70が設けられている。後部操作部70は、握り部62の車幅方向中央に配置されている前進ボタン71と、前進ボタン71の下方に配置されている後進ボタン72と、前進ボタン71の左方に配置されている左折ボタン73と、前進ボタン71の右方に配置されている右折ボタン74とからなる。
【0044】
前進ボタン71は押すことで小型電動車両10を前進させるものであり、後進ボタン72は押すことで小型電動車両10を後進させるものであり、左折ボタン73は押すことで前輪12を左に向けるものであり、右折ボタン74は押すことで前輪12を右に向けるものである。
【0045】
前進ボタン71は、横長で且つ下側が開いた略コの字の形状を呈している。前進ボタン71は横長であるため、右手16でも左(不図示)ででも前進ボタン71を容易に押すことができる。例えば右手16で前進ボタン71の右側部分を押し、左手で左折ボタンを押すことが容易に行える。また、後進ボタン72は、前進ボタン71よりも車幅方向に小さく面積が小さい。
【0046】
前進ボタン71を押すと小型電動車両10は前進し、前進ボタン71を離すと小型電動車両10にブレーキが掛かる。後進進ボタン72を押すと小型電動車両10は後進し、後進ボタン72を離すと小型電動車両10にブレーキが掛かる。
左ボタン73を押すと、前部操作部50の左右の前部操舵ハンドル51が左に切られる。右ボタン74を押すと、前部操作部50の左右の前部操舵ハンドル51が右に切られる。左ボタン73及び右ボタン74を押すことで、前部操舵ハンドル51、51を矢印eのように連動して動かされる。すなわち、後部操作部70を操作することで、前部操作部50を遠隔操作することができる。介助者又はシートから降りた運転者15が、小型電動車両10の後方に立って後部操作部70を操作する場合でも、前部操舵ハンドル51、51の転舵量を目視することができ、運転性の向上を図ることができる。
【0047】
次に握り部とシートの位置関係について説明する。
図5に示すように、握り部62は、後部操舵ハンドル60の後端に設けられている。上部クロスパイプ65は、握り部62より車両前方側で後部操舵ハンドル60に設けられている。握り部62と上部クロスパイプ65との隙間75の距離は、Lである。距離Lは、右手16を容易に入れることができる距離である。
【0048】
次に操作信号切り換え部について説明する。
図6に示すように、車体前部40の前上部41には、凹部81が設けられている。凹部81の上端には、透明又は半透明のシート82が設けられている。凹部81に、想像線で示す携帯可能な移動端末80(高機能携帯端末、スマートフォン等を含む。)を出し入れすることができる。凹部81に嵌め込まれた移動端末80は、シート82の表面からも操作することができる。移動端末80は、小型電動車両10のパーキングキーの役割も兼ねている。移動端末80を凹部81に入れることで、小型電動車両10のパーキング状態(駐車状態)が解除する。
【0049】
次に携帯可能な移動端末の操作パネルについて説明する。
図7に示すように、携帯可能な移動端末80は、スマートフォンである。スマートフォン80の操作パネル83は、例えば、上部に受信感度表示部84及び時刻表示部85を有し、中央部にバッテリ25(図1参照。)のバッテリ残量表示部86を有し、下部にメインスイッチ87、前後操作部切り替えスイッチ88、前進後進切り替えスイッチ91、速度設定操作部92及び方向指示スイッチ93、93を有する。
【0050】
次に小型電動車両のブロック図について説明する。
図8に示すように、操作パネル83のメインスイッチ87、前後操作部切り替えスイッチ88、前進後進切り替えスイッチ91、速度設定操作部92及び方向指示スイッチ93の操作信号は制御部に送られる。
【0051】
前後操作部切り替えスイッチ88で後部操作部70を選択する。後部操作部70の前進ボタン71の操作信号、後進ボタン72の操作信号、左折ボタン73の操作信号及び右折ボタン74の操作信号は、制御部32に送られる。
【0052】
左折ボタン73の操作信号及び右折ボタン74の操作信号は、ハンドル用モータ101、ハンドル用クラッチ102及びステアリング用モータ103に送られる。ハンドル用モータ101が駆動し、ハンドル用クラッチ102がONになることで、左右の前部操舵ハンドル51、51はハンドル軸104を中心にして転舵する。ステアリング用モータ104が駆動し、前輪12、12は左折ボタン73の操作信号又は右折ボタン74の操作信号に応じて方向を変えられる。制御部32に送られた左折ボタン73の操作信号及び右折ボタン74の操作信号は、方向指示器52に送られ、方向指示器52は左折ボタン73の操作信号又は右折ボタン74の操作信号に応じて点滅する。
【0053】
前進ボタン71の操作信号及び後進ボタン72の操作信号は、走行用電動モータ14に送られる。走行用電動駆動モータ14が駆動し、小型電動車両10は前進又は後進する。また、バッテリ25から走行用電動駆動モータ14に給電される。バッテリ25の残容量は、残量表示部28に表示される。
【0054】
前後操作部切り替えスイッチ88で前部操作部50を選択する。左右の走行レバー53、53を引く(握る)と走行スイッチ105、105がONになり、左右の走行レバー53、53を戻す(離す)と走行スイッチ105、105がOFFになる。左右の走行スイッチ105、105の操作信号は、制御部32に送られる。制御部32に送られた左右の操作スイッチ105、105の操作信号は、走行用電動モータ14に送られる。走行用電動駆動モータ14が駆動し、小型電動車両10は前進又は後進する。なお、小型電動車両10の前後進の切り替えは、前進後進切り替えスイッチ91により選択される。
【0055】
前後操作部切り替えスイッチ88で前部操作部50を選択すると、ハンドル用くラッチ102がOFFになる。前輪12、12の方向は、運転者15(図1参照)が左右の前部操舵ハンドル51、51を操作することで変えられる。
【0056】
次に以上に述べた小型電動車両の作用について説明する。
図9(a)は電動車いすとして使用する場合の説明図であり、非介助者17はシート63に着座している。小型電動車両10の後方に立っている介助者18(後部運転者18)は、後部操舵ハンドル60を握り、後部操作部70により小型電動車両10を運転する。このように、小型電動車両10を電動車いすとして使用することができる。
【0057】
図9(b)は電動押し車として使用する場合の説明図であり、運転者15(図1参照)は小型電動車両10をおりて、後部運転者18として車両後方に立つ。後部運転者18は、後部操舵ハンドル60を握り、後部操作部70により小型電動車両10を運転する。このように、小型電動車両10を電動押し車として使用することができる。
【0058】
図9(c)は電動カートとして使用する場合の説明図であり、(b)と同様にして、後部運転者18は、後部操舵ハンドル60を握り、後部操作部70により小型電動車両10を運転する。例えば、スーパーマーケット等では、シート60に買い物かご111を載せることができる。後部運転者18は、小型電動車両10を操作しつつ、高い位置にある品物112を手に取ることができる。このように、小型電動車両10を電動カートとして使用することができる。
【0059】
次に車体前部及び後部操舵ハンドルの折り畳みについて説明する。
図10に示すように、車体前部40の下部に、車体前部折り畳み機構120が設けられている。車体前部40は、車体前部折り畳み機構120部分から、矢印fのように折り畳むことができる。
【0060】
後部操舵ハンドル60の下部に、後部操舵ハンドル折り畳み機構130が設けられている。後部操舵ハンドル60は、後部操舵ハンドル折り畳み機構130部分から、矢印gのように折り畳むことができる。
【0061】
次に後部操舵ハンドル折り畳み機構130について説明する。
図11(a)は車両側面視における要部拡大図であり、支持フレーム33の上部に図奥から手前に延びて断面が正四角形を呈する四角柱ピン131が溶接されている。シートレール支持部材34には、四角柱ピン131をガイドする略L字状のL字状貫通穴132が設けられる。L字状貫通穴132は、縦長穴部133と、この縦長穴部133に直角に交わる横長穴部134と、この横長穴部134と縦長穴部133との交差部に設けられる丸穴部135とからなる。縦長穴部134の幅及び横長穴部134の幅は、四角柱ピン131の断面の一辺の長さをほぼ同じである。四角柱ピン131はL字状貫通穴132をスライドするこができる。
【0062】
次に後部操舵ハンドル折り畳み機構を断面図に基づいて説明する。
図12に示すように、四角柱ピン131は、支持フレーム33を貫通するようにして支持フレーム33に溶接される。四角柱ピン131の図下側は、シートレール支持部材34の厚みより若干小さく支持フレーム33から突出している。四角柱ピン131の端部からは雄ねじ部136が突出しており、この雄ねじ部136に対応する雌ねじ部137を有するノブ138を締め付けることで、シートレール支持部材34は支持フレーム33に固定される。また、ノブ138を緩めることで、支持フレーム33に対してシートレール支持部材34をスライドさせることができる。
【0063】
図11(a)に戻って、ノブ138を緩め、シートレール支持部材34を矢印hのように移動させる。次に(b)に示すように、四角柱ピン131が丸穴部135に達したところで、シートレール支持部材34を矢印iのように移動させる。次に(c)に示すように、シートレール支持部材34を矢印jのように移動させる。次に(d)に示すように、四角柱ピン131が、横長穴部134の端部に突き当たった位置でノブ138を締め付ける。このようにして、図10に示す後部操舵ハンドル60を折り畳むことができる。
【0064】
次に車体前部折り畳み機構について説明する。
図13(a)に示すように、車両側面視における要部拡大図であり、前下部21の上部の膨出部121に図奥から手前に延びて断面が正四角形を呈する四角柱ピン122が設けられている。車体前部40には四角柱ピン122をガイドするガイド穴123が設けられる。ガイド穴123の図下端部に丸穴部124が連続して設けられている。ガイド穴123の幅は、四角柱ピン122の断面の一辺の長さをほぼ同じである。四角柱ピン122はガイド穴123をスライドするこができる。
【0065】
次に車体前部折り畳み機構を断面図に基づいて説明する。
図14に示すように、四角柱ピン122は、車体前部40に一体化したフレーム45aを貫通するようにして膨出部121に溶接される。四角柱ピン122の長さは、フレーム45aの厚みより若干短く設定されている。四角柱ピン122の図下端部からは雄ねじ部125が突出しており、この雄ねじ部125に対応する雌ねじ部126を有するノブ127を締め付けることで、車体前部40は車体本体部20の膨出部121に固定される。また、ノブ127を緩めることで、車体本体部20に対して車体前部40をスライドさせることができる。
【0066】
図13(a)に戻って、ノブ127を緩め、車体前部40を矢印kのように移動させる。次に(b)に示すように、四角柱ピン122が丸穴部124に達したところで、車体前部40を矢印mのように倒す。次に(c)に示すように、車体前部40を矢印nのように移動させる。四角柱ピン122が、ガイド穴123の端部に突き当たった位置でノブ127を締め付ける。このようにして、図10に示す車体前部40を折り畳むことができる。なお、図2に示す左右のバックミラー43、43及び左右の前部操舵ハンドル51を折り畳むので、車体前部40の車幅方向の幅が小さくなる。これにより、車体前部40をシートレール61、61の間に通すことができる。
【0067】
次に車体前部折り畳み機構を分解斜視図に基づいて説明する。
図15に示すように、車体本体部20の膨出部121に、車幅方向に突出するようにして四角柱ピン122が設けられる。四角柱ピン122の先端部からさらに雄ねじ部125が突出している。この雄ねじ部125及び四角柱ピン122を、ガイド穴123又は丸穴部124に通し、外方からノブ127を締め付ける。
【0068】
次にシートについて説明する。
図16に示すように、シート63の下部クロスパイプ64に、下部クロスパイプ64を後部操舵ハンドル60に着脱するためのシート着脱機構140が設けられている。下部クロスパイプ64の一端には固定ピン141が設けられ、下部クロスパイプ64の他端には移動ピン142が設けられている。
【0069】
次にシート着脱機構140について説明する。
図17に示すように、下部クロスパイプ64の一端に固定ピン141が設けられている。下部クロスパイプ64の内部に移動ピン142が移動自在に設けられている。下部クロスパイプ64の内部にスプリング143を固定する固定部144が設けられている。スプリング143により移動ピン142は外方に付勢される。下部クロスパイプ64の移動ピン142近傍に、長穴145が下部クロスパイプ64の軸に沿って設けられている。この長穴145につまみ146が通され、移動ピン142に取り付けられている。つまみ146を矢印pのように移動させることで、移動ピン142を下部クロスパイプ64の内部に移動させることができる。
【0070】
固定ピン141は第1固定穴147に挿入されており、移動ピン142は第2固定穴148に挿入されている。このようにして下部クロスパイプ64を後部操舵ハンドル60に取り付けることができる。そして、つまみ146を矢印pのように移動させることで、下部クロスパイプ64を後部操舵ハンドル60から外すことができる。
【0071】
次に車体前部及び後部操舵ハンドルが折り畳まれた状態について説明する。
図18に示すように、バックミラー43及び前部操舵ハンドル51は折り畳まれている。さらに車体前部40は車両後方に折り畳まれている。車体前部40の上に後部操舵ハンドル60が折り畳まれている。下部クロスパイプ64は、シート着脱機構140により一旦外されてから、上部クロスパイプ65の近傍に取り付けられている。
【0072】
後部操舵ハンドル60が起立状態から前方へ折り畳まれる範囲Rは、後部操舵ハンドル60が車両前方へ折り畳まれた状態で、車両前側から握り部62を持ち上げることができる範囲である。さらに、範囲Rは、握り部62を持ち上げた状態で、後部操作部70を操作することが可能な範囲である。
【0073】
次に車体前部及び後部操舵ハンドルが折り畳まれた状態での小型電動車両の作用を説明する。
図19に示すように、小型電動車両10を降りた運転者15は、握り部62を持ち上げた状態で、後部操作部70を操作する。このような状態で小型自動二輪車10を収納場所等に移動させることが可能である。
【0074】
本発明に係る小型電動車両の説明をまとめると、次の通りである。
図2に示すように、運転者15(図1参照)が着座するシート63の前側に、走行方向及び前後進を切り替え操作するための前部操作部50を備えた小型電動車両10において、シート63のシートバック68又はその近傍の部位にも、走行方向及び前後進を切り替え操作するための後部操作部70を備えている。この構成により、シート63に着座した運転者15は前部操作部50を操作することで小型電動車両10を運転することができる。シート63の後方に立った介助者18(後部運転者18)(図9参照)は後部操作部70を操作することで小型電動車両10を運転することができる。すなわち、シート63に着座した運転者15だけではなく、シートの後方に立った介助者18も操作することができる。加えて、運転者15は、小型電動車両10から降りて、シート63の後方に立った状態で後部操作部70により小型電動車両10の操作を行うことができる。すなわち、運転者15は遠隔操作を行うことができる。結果、シート63に買い物かご111(図9参照)を置くことができ、小型電動車両10を操作しつつ高い位置や低い位置にも手が届く。これにより、小型電動車両10は、電動車いすの機能とカートの機能とを兼ね備える。
【0075】
図4に示すように、後部操作部70は、小型電動車両10の後ろから歩行しながら操舵するための後部操舵ハンドル60の握り部62に配置されている。この構成により、握り部62に後部操作部70が配置されているので、運転者15は小型電動車両10を押しながら容易に操作を行うことができる。
【0076】
図4に示すように、シート63の前側には、前部操作部50の操作信号と後部操作部70の操作信号とを切り替え操作するための、操作信号切り替え部54が配置されている。この構成により、シート63の前側に操作信号切り換え部54が配置されているので、シート63に着座した運転者15(図1参照)が、前部操作部50と後部操作部70の切り換えを行うことができる。結果、前部操作部50に切り換えた場合は、シート63に着座した運転者15が操作できる。後部操作部70に切り換えた場合、運転者15が降りて小型電動車両10の後方に移動して電動カートとして使用することができる。さらに後部操作部70に切り換えた場合、運転者15はシート63に着座したままで、小型電動車両10の後方から介助者18(図9参照)等に操作してもらうことができ、電動車いすとして使用することもできる。
【0077】
図6に示すように、操作信号切り替え部54は、前部操作部50に着脱可能な移動端末80(スマートフォン等を含む。)によって構成されている。この構成により、操作信号切り替え部54は、携帯可能な移動端末80(スマートフォンを含む)であるので、運転者15は乗車した状態で、走行に有意義なデータ、走行経路の情報、目的地の情報等、様々な情報を閲覧することができて便利である。ナビゲーション機能も持たせることができる。加えて、移動端末80にインストールするソフトウェアの変更が可能であるので、移動端末の表示画面に操作ボタン等の表示を容易に変更できる。さらに、小型電動車両10のスタートキーとして使用することができる。
【0078】
図1に示すように、小型電動車両10の前部には、電力を発生して移動端末80に供給するための太陽電池44が設けられている。この構成により、太陽電池44を併用するので、メインのバッテリ25の消費電力を低減させることができる。
【0079】
図1及び図8に示すように、操作信号切り替え部54によって、前部操作部50の操作信号から後部操作部70の操作信号へ切り替えられている場合に、この後部操作部70の操作信号に従って前部操作部50を連動制御するための制御部32を、更に備えている。この構成により、前部操作部50を連動制御するので、小型電動車両10の後方から後部操作部70を操作している状態であっても、前部操作部50のハンドル51の操舵量を確認することができ、後部操作部70からの操作が容易になる。
【0080】
図18及び図19に示すように、少なくとも車体前部40及び後部操舵ハンドル60が、前後に折り畳み可能であり、後部操舵ハンドル60が起立状態から前方へ折り畳まれる範囲Rは、この後部操舵ハンドル60が車両前側へ折り畳まれた状態で、車両前側から握り部62を持ち上げて後部操作部70を操作することが可能な範囲に設定されている。この構成により、後部操舵ハンドル60が折り畳まれた状態で後部操作部70を操作できるので、小型電動車両10の収納スペースを小さくできるとともに小型電動車両10の搬送が容易にできる。
【0081】
尚、実施例では、車体前部折り畳み機構120を図11に示す構造にしたが、これに限定されず、車体前部40を車両後方側に折り畳むことができれば、他の構造であっても差し支えない。同様にして、後部操舵ハンドル折り畳み機構130を図13に示す構造にしたが、これに限定されず、後部操舵ハンドル60を折り畳むことができれば、他の構造であっても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の小型電動車両は、歩道を走行することが可能であり、足腰の弱い者等の移動手段として利用が可能な電動車いす等に好適である。
【符号の説明】
【0083】
10…小型電動車両、15…運転者、32…制御部、40…車体前部、44…太陽電池、50…前部操作部、54…操作信号切り替え部、60…後部操舵ハンドル、62…握り部、63…シート、68…シートバック、70…後部操作部、80…携帯可能な移動端末(スマートフォン)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が着座するシートの前側に、走行方向及び前後進を切り替え操作するための前部操作部を備えた小型電動車両において、前記シートのシートバック又はその近傍の部位にも、走行方向及び前後進を切り替え操作するための後部操作部を備えていることを特徴とした小型電動車両。
【請求項2】
前記後部操作部は、前記小型電動車両の後ろから歩行しながら操舵するための後部操舵ハンドルの握り部に配置されていることを特徴とした請求項1記載の小型電動車両。
【請求項3】
前記シートの前側には、前記前部操作部の操作信号と前記後部操作部の操作信号とを切り替え操作するための、操作信号切り替え部が配置されていることを特徴とした請求項1又は請求項2記載の小型電動車両。
【請求項4】
前記操作信号切り替え部は、前記前部操作部に着脱可能な移動端末によって構成されていることを特徴とした請求項3記載の小型電動車両。
【請求項5】
前記小型電動車両の前部には、電力を発生して前記移動端末に供給するための太陽電池が設けられていることを特徴とした請求項4記載の小型電動車両。
【請求項6】
前記操作信号切り替え部によって、前記前部操作部の操作信号から前記後部操作部の操作信号へ切り替えられている場合に、この後部操作部の操作信号に従って前記前部操作部を連動制御するための制御部を、更に備えていることを特徴とした請求項3から請求項5までのいずれか1項記載の小型電動車両。
【請求項7】
少なくとも車体前部及び前記後部操舵ハンドルが、前後に折り畳み可能であり、
前記後部操舵ハンドルが起立状態から前方へ折り畳まれる範囲は、この後部操舵ハンドルが車両前側へ折り畳まれた状態で、車両前側から前記握り部を持ち上げて前記後部操作部を操作することが可能な範囲に設定されていることを特徴とした請求項2から請求項6までのいずれか1項記載の小型電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−107581(P2013−107581A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256153(P2011−256153)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】