説明

小径バンド仮取付け装置

【課題】タイトな小径バンドであっても仮取付けが自動化できる仮取付技術を提供する。
【解決手段】小径バンド56が自在軸継手用ブーツの小径部47の真上にある。この状態から、ブーツ把持片31及びバンド把持片25は静止させたままで、バンド押し下げ部材21を下げると小径部47に小径バンド56が嵌められる。
【効果】押し力に耐えるようにブーツ46の境界部を内側から小径部支持部材53で支え、且つ偏平化しないように小径部47の内周面をブーツ把持片31で支えながら、小径バンド56を嵌めたので、仮取付け作業が、円滑に行える。従来は人手に委ねていた小径バンド仮取付け工程を、自動化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自在軸継手用ブーツの小径部に、小径バンドを仮取付けする小径バンド仮取付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は自在軸継手の断面図であり、軸101の端部にジョイント部102を介してカップ部103が取付けられ、このカップ部103から軸部104が延ばされたものを自在軸継手100と呼ぶ。軸101に対して軸部104を傾斜させることができるため、車両のドライブ軸に好んで使用される。自在軸継手のうち、軸101の回転速度と軸部104の回転速度が完全同一であるものを等速ジョイントと呼ぶ。すなわち、自在軸継手は等速ジョイント等の総称である。
【0003】
ジョイント部102に異物が入らぬように、軸101とカップ部103とに、ブーツ105が渡される。ブーツ105は、小径部106と、この小径部106より大径の大径部107と、大径部107と小径部106とを結ぶ円錐部108とからなる。円錐部108は、可撓性を付与するために蛇腹(じゃばら)構造を呈する。
【0004】
ブーツ105が軸101やカップ部103から外れないようにする必要がある。そこで、小径部106を小径バンド111で縮径して軸部101に強く結束し、大径部107を大径バンド112で縮径してカップ部103に強く結束する構造が採用される。
【0005】
従来から実施されてきた、小径バンド111の取付け手順は次の通りである。
ブーツ105単体にて、小径部106に小径バンド111を軽く嵌める(仮取付け工程)。この仮取付け工程は人手で行われてきた。
次に、小径部106を軸101に取付け、小径バンド111を強くかしめる(本取付け工程)。この本取付け工程はツールを用いた人手、又は機械で行なわれてきた。
【0006】
人手作業は生産性向上の点から機械化が望まれる。そこで、仮取付け工程や本取付け工程を自動化することができる技術が開発され実用に供されるようになってきた(例えば、特許文献1(図8)参照。)。
【0007】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図10は従来の技術の基本原理を説明する図であり、(a)において、小径部106又は大径部107に、ロボットハンドなどによりブーツバンド113を嵌める。このブーツバンド113は内径が、対象物の外径より十分に大きいため、簡単に嵌る。
【0008】
(b)が仮取付け工程終了姿であり、小径部106又は大径部107とブーツバンド113との間に、大きな隙間114、114が存在する。そして、折り曲げ片115が外方へ延びている。
(c)において、折り曲げ片115をロボットハンド等で引っ張り、約180°折り曲げる(本取付け工程)。結果、ブーツバンド113が縮径され、軸101又はカップ部103に強く結束される。
【0009】
折り曲げ片115を設けたので、(b)での大きな隙間114、114をゼロにすることができる。
しかし、回転体に折り曲げ片115が残ることは好ましくない。本取付け工程後に、折り曲げ片115を除去するには、折り曲げ片切除工程が必要となり、工程数が増す。
【0010】
一方、内径が、小径部106又は大径部107の外径とほぼ同じであるブーツバンドが注目される。縮径代が少なくて済むから折り曲げ片を設ける必要がなく、本取付工程が簡単になる、などの理由による。
【0011】
ただし、このようなブーツバンドでは、小径部106又は大径部107の外径との間に隙間が殆どないため、仮取付け工程を人手で行わざるを得ない。
しかし、生産性向上が求められる中、タイトなブーツバンドであっても仮取付け工程を自動化することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3175605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、タイトな小径バンドであっても仮取付けが自動化できる仮取付装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、小径部と、この小径部より大径の大径部と、この大径部と前記小径部を繋ぐ円錐部とからなる自在軸継手用ブーツを作業対象物とし、前記小径部に、小径バンドを仮取付けする小径バンド仮取付け装置であって、
軸が鉛直になるようにし且つ前記小径部が上になるようにして前記ブーツを支えるブーツ載せ台と、
前記ブーツ載せ台を貫通して鉛直方向に昇降し、前記小径部と前記円錐部との境界部を下から支える小径部支持部材と、
この小径部支持部材を貫通して鉛直方向に昇降し、前記小径部に嵌って前記ブーツの水平方向の位置を決めるブーツ位置決め部材と、
前記ブーツ載せ台に対して上下及び水平に移動する移動部材と、
この移動部材に昇降自在に設けられる昇降部材と、
この昇降部材に揺動自在に設けられ前記小径バンドの内側に挿入される複数個のバンド把持片と、
これらのバンド把持片を揺動させて前記小径バンドの内面に押圧させるバンド把持片揺動機構と、
前記昇降部材に揺動自在に設けられ前記小径部の内側及び前記小径部と前記円錐部との境界部に挿入される複数個のブーツ把持片と、
これらのブーツ把持片を揺動させて前記小径部の内周面に押圧させるブーツ把持片揺動機構と、
前記移動部材に設けられ前記バンドを押し下げるバンド押し下げ部材と、
前記ブーツ位置決め部材でブーツの水平方向の位置決めを実施し、前記ブーツ把持片で前記小径部の内周面を抑えつつ前記小径部支持部材で前記境界部を支え、この状態で小径バンドが小径部に嵌るまで前記バンド押し下げ部材を下げる制御をなす制御部とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、ブーツ把持片で小径部の内周面を抑えつつ小径部支持部材で境界部を支え、この状態でバンド押し下げ部材により小径バンドを小径部に嵌める。
小径部が変形することなく、小径バンドを円滑に嵌めることができる。
従来は人手に委ねていた小径バンド仮取付け工程を、本発明により、自動化が可能となった。結果、生産性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の小径バンド仮取付け装置を含む小径・大径バンド仮取付け設備の原理図である。
【図2】本発明の小径バンド仮取付け装置の要部拡大図である。
【図3】図2の3矢視図である。
【図4】ブーツ位置決め部材及び小径部支持部材の拡大図である。
【図5】小径バンドの構成図である。
【図6】小径バンドの搬入を説明する図である。
【図7】小径バンドの嵌合を説明する図である。
【図8】ブーツの搬出を説明する図である。
【図9】自在軸継手の断面図である。
【図10】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
先ず、本発明の小径バンド仮取付け装置を含む小径・大径バンド仮取付け設備を説明する。
図1に示すように、小径・大径バンド仮取付け設備10は、水平に敷設される基台11と、この基台11に立てられる小径バンド仮置き台12と、この小径バンド仮置き台12に隣接して設けられる本発明の小径バンド仮取付け装置20と、この小径バンド仮取付け装置20に隣接して設けられる大径バンド仮取付け装置60と、基台11に立てられる支柱13、13で支持され水平に延びるレール14と、このレール14に沿って小径バンド仮置き台12から小径バンド仮取付け装置20を経由して大径バンド仮取付け装置60まで水平に移動するスライダ15と、このスライダ15に昇降自在に取付けられ上下及び水平に移動する移動部材16と、この移動部材16を昇降するために移動部材16とスライダ15とに掛け渡した昇降シリンダ17と、構成要素を一括して制御する制御部18とからなる。
【0019】
本発明の小径バンド仮取付け装置20の構造を、図2〜図4に基づいて説明する。
図2に示すように、小径バンド仮取付け装置20は、移動部材16の下部から水平に張り出されるバンド押し下げ部材21と、このバンド押し下げ部材21上方位置にて移動部材16に昇降可能に取付けら昇降部材22と、この昇降部材22を昇降するために昇降部材22と移動部材16とに渡されるサブ昇降シリンダ(図1、符号23)と、昇降部材22に水平ピン24で揺動自在に止められ下方へ延びるバンド把持片25と、このバンド把持片25をバンドの拡径側へ揺動させるために昇降部材22の中心に下向きに配置した第1ドライバー26と、この第1ドライバー26を昇降させる第1シリンダ27と、バンド把持片25をバンドの縮径側へ揺動させるために昇降部材22とバンド把持片25に渡した第1圧縮ばね28と、昇降部材22に水平ピン29で揺動自在に止められ下方へ延びるブーツ把持片31と、このブーツ把持片31をブーツの拡径側へ揺動させるために昇降部材22の中心に下向きに配置した第2ドライバー32と、この第2ドライバー32を昇降させる第2シリンダ33と、ブーツ把持片31をブーツの縮径側へ揺動させるために昇降部材22とブーツ把持片31に渡した第2圧縮ばね34とを備える。
【0020】
この例では、第1ドライバー26と第1シリンダ27とでバンド把持片揺動機構35を構成した。第1ドライバー26を下げると先端の先尖り部36が、バンド把持片25側の突起部37を押すため、バンド把持片25は図面時計方向に揺動する。第1ドライバー26を上げると、第1圧縮ばね28の付勢作用により、バンド把持片25は図面反時計方向に揺動する。
【0021】
同様に、第2ドライバー32と第2シリンダ33とでブーツ把持片揺動機構38を構成した。第2ドライバー32を下げると先端のテーパー部39が、ブーツ把持片31側のローラー41を押すため、ブーツ把持片31は図面反時計方向に揺動する。第2ドライバー32を上げると、第2圧縮ばね34の付勢作用により、ブーツ把持片31は図面時計方向に揺動する。
【0022】
バンド押し下げ部材21には、図3に示すように、中央穴42と、この中央穴42から放射状に延びる長孔43と、この長穴43より幅広で中央穴42から放射状に延びる長孔44とが設けられている。狭い幅の長孔43にバンド把持片25が移動自在に収納され、広い幅の長孔44にブーツ把持片31が移動自在に収納されている。
中央穴42の径は、小径バンドの径より小さいため、V字部45で小径バンドを押すことができる。
【0023】
小径バンド仮取付け装置(図2、符号20)はさらに、図4(a)に示すように、軸(中心軸)が鉛直になるようにし且つブーツ46の小径部47が上になり、ブーツ46の大径部48が下になり、円錐部49がハ字状になる姿勢で、ブーツ46を支えるブーツ載せ台51と、図4(b)に示すように、ブーツ載せ台51を貫通して鉛直方向に昇降し、小径部47と円錐部49との境界部52を下から支える小径部支持部材53と、この小径部支持部材53を貫通して鉛直方向に昇降し、小径部47に嵌ってブーツ46の水平方向の位置を決めるブーツ位置決め部材54とを備える。
【0024】
図5(a)に示すように、小径バンド56は、1個のコ字状の耳部57を有する。(b)に示すように、耳部57を工具58でΩ状に塑性変形させると、内径Dbは小さくなる。
【0025】
(a)が仮取付け工程時の小径バンド56の形態を示し、内径Daは、ブーツの小径部の外径に近似する。仮取付け工程中は、内径Daは変化しない。
本取付け工程は、(a)で始まり(b)で終了する。すなわち、本取付け工程では、内径をDaからDbへ減少させることで、小径部を軸に強く締結する。Db=Da−2・Δdとなる。
本発明は仮取付けに係る装置を提供するため、(a)に示す小径バンド56のみを対象とする。
【0026】
以上の構成からなる小径バンド仮取付け装置の作用を次に説明する。
図6(a)に示すように、ブーツ載せ台51上のブーツ46を、ブーツ位置決め部材54で位置決めする。同時並行的にバンド把持片25(図では1個が見えるが、120°ピッチで3個配置されている。)で小径バンド56を把持しつつ、小径バンド仮置き台12からブーツ位置決め部材54の真上に臨ませる。そして、移動部材16を下げる。
【0027】
すると、(b)に示すように、小径バンド56が小径部47の直上に至る。同時に、ブーツ把持片31がブーツ位置決め部材54を押し下げつつ小径部47内に進入する。
【0028】
図7(a)はブーツ把持片31のみを示した図であり、小径部47の内周面47aに、ブーツ把持片31が当たる。また、ブーツ46の境界部52が小径部支持部材53で支えられている。
(b)はバンド把持片25のみを示した図であり、小径バンド56が小径部47の真上にある。(a)、(b)は同タイミングでの形態を示す。
【0029】
この状態から、ブーツ把持片31及びバンド把持片25は静止させたままで、バンド押し下げ部材21を下げる。すると、(c)に示すように、小径部47に小径バンド56が嵌められる。
【0030】
小径部47は、弾性に富むゴム又は軟質樹脂で造られる。いわゆる腰が弱いため、仮に、支えることなく小径部47にほぼ同径の小径バンド56を嵌めようとすると、小径部47が偏平化したり座屈(押し力で波打つこと)する。結果、小径バンド56を小径部47に嵌めることができない。
【0031】
その点、本発明では、図7(a)〜(c)に示すように、押し力に耐えるようにブーツ46の境界部52を小径部支持部材53で支え、且つ偏平化しないように小径部47の内周面をブーツ把持片31で支えながら、小径バンド56を嵌めたので、仮取付け作業が、円滑に行える。
【0032】
図8に示すように、仮取付け作業(仮取付け工程)が終わったブーツ46は、バンド把持片25で把持しつつ、持ち上げ、水平移動して大径バンド仮取付け装置(図1、符号60)へ移動する。
以上に説明した作用は、一括して、制御部(図1、符号18)で実施させるため、タイトな小径バンド56であっても仮取付けが自動化できた。
【0033】
尚、本発明は、車両用の自在軸継手に付属するブーツに好適であるが、一般機械用の自在軸継手に付属するブーツに適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、車両用の自在軸継手に付属するブーツに好適である。
【符号の説明】
【0035】
10…小径・大径バンド仮取付け設備、16…移動部材、18…制御部、20…小径バンド仮取付け装置、22…昇降部材、46…ブーツ、47…小径部、47a…小径部の内周面、48…大径部、49…円錐部、51…ブーツ載せ台、52…小径部と円錐部の境界部、53…小径部支持部材、54…ブーツ位置決め部材、56…小径バンド、57…耳部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小径部と、この小径部より大径の大径部と、この大径部と前記小径部を繋ぐ円錐部とからなる自在軸継手用ブーツを作業対象物とし、前記小径部に、小径バンドを仮取付けする小径バンド仮取付け装置であって、
軸が鉛直になるようにし且つ前記小径部が上になるようにして前記ブーツを支えるブーツ載せ台と、
前記ブーツ載せ台を貫通して鉛直方向に昇降し、前記小径部と前記円錐部との境界部を下から支える小径部支持部材と、
この小径部支持部材を貫通して鉛直方向に昇降し、前記小径部に嵌って前記ブーツの水平方向の位置を決めるブーツ位置決め部材と、
前記ブーツ載せ台に対して上下及び水平に移動する移動部材と、
この移動部材に昇降自在に設けられる昇降部材と、
この昇降部材に揺動自在に設けられ前記小径バンドの内側に挿入される複数個のバンド把持片と、
これらのバンド把持片を揺動させて前記小径バンドの内面に押圧させるバンド把持片揺動機構と、
前記昇降部材に揺動自在に設けられ前記小径部の内側及び前記小径部と前記円錐部との境界部に挿入される複数個のブーツ把持片と、
これらのブーツ把持片を揺動させて前記小径部の内周面に押圧させるブーツ把持片揺動機構と、
前記移動部材に設けられ前記バンドを押し下げるバンド押し下げ部材と、
前記ブーツ位置決め部材でブーツの水平方向の位置決めを実施し、前記ブーツ把持片で前記小径部の内周面を抑えつつ前記小径部支持部材で前記境界部を支え、この状態で小径バンドが小径部に嵌るまで前記バンド押し下げ部材を下げる制御をなす制御部とからなることを特徴とする小径バンド仮取付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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