説明

小物製品に対する音付与デザイン・設計システム

【課題】小物製品に所望する固有振動数と余韻の長さを付与できるデザイン及び設計システムの提供を目的とする。
【解決手段】小物製品に音を付与するためのデザイン及び設計システムであって、当該小物製品に外径又は内径Smmの凹部を形成し、当該凹部の深さをDmm、肉厚をTmmとすると、0.4S≦D≦0.7Sの範囲に設定する手段と、一次モード振動数f(Hz)=−αS+βT+K、余韻長さf(t)=γS+Kなる関係式(α、β、γは材質、形状にて定まる係数、K、Kは定数)を用いてD及びTの値を設定する手段を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身に付けるアクセサリー、身の廻りに置く小物製品等、日常生活において使用する小物製品に音の価値を付加出来るデザイン及び設計システム(手法)に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人にとって、「音」はとても重要な文化的意味を持っていると言える。
例えば季節を「音」で感じたり、風の音を聴いて天気を予測したり、虫の鳴く音を聴けばその虫の声で去り行く季節を感じたり、鳥の鳴く声でやってくる春を感じたりする。
しかし、現代において日本人は人工音に囲まれて生活をし、いわば雑音に慣れきった生活をしているために「音」の有する価値に気づかなくなってしまいました。
そこで本発明者は、身の廻りの小物製品に音の価値を付加できれば現代生活を豊かに出来るのではないかと考え、「音」と「技術」の融合をはからんとした。
本発明者の調査によれば、これまでに製品の形状と音の関係を体系的に追求した例は見当たらなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、小物製品に所望する固有振動数と余韻の長さを付与できるデザイン及び設計システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る音付与デザイン・設計システムは、小物製品に音を付与するためのデザイン及び設計システムであって、当該小物製品に外径又は内径Smmの凹部を形成し、当該凹部の深さをDmm、凹部側壁の肉厚をTmmとすると、0.4S≦D≦0.7Sの範囲に設定する手段と、一次モード振動数f(Hz)=−αS+βT+K、余韻長さf(t)=γS+Kなる関係式(α、β、γは材質、形状にて定まる係数、K、Kは定数)を用いてD及びTの値を設定する手段を有することを特徴とする。
【0005】
本発明者は、形状、凹部深さ及び凹部側壁の肉厚の異なる製品形状のサンプルを多く試作し、超小型電磁サーボを用いて一定の力でその試作品を叩き、音の変化を計測及び評価した。
その詳細方法及び結果については後述することにし、ここでは概要を述べる。
小物製品を棒状にするよりも小物製品全体あるいは一部を凹形状にし、その凹部形状の外径又は内径の大きさSmmに対してその凹部形状の深さDmmを0.4×S≦D≦0.7×Sの範囲に設定すれば音の響きに強さがあり、長い余韻が残ることが明らかになった。
さらに一次モード振動数(基本モード振動数)f(Hz)は凹部の外径又は内径Sの大きさが大きくなるのに比例して小さくなり、肉厚Tの厚みに比例して逆に大きくなることが明らかになり、一方余韻の長さf(t)は凹部の外径又は内径Sの大きさに比例することが明らかになった。
この関係は凹部の外径又は内径Sが3mm〜100mmの範囲で適用できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る音付与デザイン・設計システム(音付与方法)は、小物製品の種類や使用者のニーズに合せて最適な製品形状を導き出すのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】製品形状S〜Sの計測した音の周波数分布を示す。
【図2】製品形状S〜Sの計測した音の周波数分布を示す。
【図3】製品の外形サイズS11〜S13の計測した音の周波数分布を示す。
【図4】製品の外径Sの大きさと一次モード振動数の関係をグラフに示す。
【図5】製品の外径Sの大きさと余韻の長さの関係をグラフに示す。
【図6】製品の肉厚tの厚みと一次モード振動数の関係をグラフに示す。
【図7】本発明にて評価に用いた製品の肉厚Tと一次モード振動数を表したグラフに周囲の音の範囲を重ねて表示した例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明者が実施した実験結果について説明する。
図1及び図2に示すように金属素材として黄銅材を用いて、おわん型、有底筒状の小型の鐘状の小物製品を製作し、一定の力で叩いて発生した音の周波数及び余韻の長さを計測した。
その結果、製品の形状S、S、S、S、Sは強い響きと余韻があったのに対して、深さの浅いS、S、Sは音の発生が弱かった。
このことから鐘の外径Sに対して深さDは0.4×S≦D≦0.7×Sの範囲に設定すれば、径が3〜4mm程度の小さいものでも強い音が出ることが明らかになった。
【0009】
次に、図3に示すような円筒側壁部と傾斜底部を有する外径サイズSの異なる鐘を試作し、音の周波数を計測した。
その計測データに基づいて、図4のグラフは横軸外径S(mm)に対する縦軸一次モード振動数f(Hz)の値をプロットし、図5のグラフは縦軸に余韻の長さf(t)としてプロットしたものである。
このグラフを見ると明らかなように負の比例関係を示し、一次モード振動数f(Hz)に対してf(Hz)=−αS+K(α:係数、K:定数)の関係が成立する。
余韻の長さf(t)に対しては正の比例関係を有し、f(t)=γS+K(γ:係数、K:定数)の関係が成立する。
【0010】
次に、図6に外径S:25mm、深さD:12.5mmの鐘を用いてその側壁部の肉厚T(mm)のみを変化させて計測した音の周波数のグラフを示す。
この結果、一次モード振動数f(Hz)はf(Hz)=βT(β:係数)の関係式を有していることが分かる。
【0011】
以上のことから一次モード振動数f(Hz)「単位Hz」及び余韻の長さf(t)「単位sec」に対して外径又は内径のサイズS(mm)、深さD(mm)、肉厚T(mm)との関係は、
f(Hz)=−αS+βT+K
f(t)=γS+Kの関係が成り立つ。(但し、α、β、γは素材の材質や形状により定まる係数、K及びKは定数)。
従って、小物製品の素材の材質に応じて予め図4〜図6のデータをとり、それに基づいて係数α、β、γ及び定数K、Kを求めておくことで使用者のニーズに合せてサイズS、深さD、肉厚Tを設定することができる。
【0012】
図7は参考として、図6のグラフに周囲の音の分布を重ねて表示したものである。
自然界や周囲の音の分布を参考にして音の付加方法を定めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小物製品に音を付与するためのデザイン及び設計システムであって、
当該小物製品に外径又は内径Smmの凹部を形成し、当該凹部の深さをDmm、肉厚をTmmとすると、0.4S≦D≦0.7Sの範囲に設定する手段と、一次モード振動数f(Hz)=−αS+βT+K
余韻長さf(t)=γS+Kなる関係式(α、β、γは材質、形状にて定まる係数、K、Kは定数)を用いてD及びTの値を設定する手段を有することを特徴とする音付与デザイン・設計システム。
【請求項2】
前記凹部の外径又は内径Sが3mm以上で100mm以下の小物製品であることを特徴とする請求項1記載の音付与デザイン・設計システム。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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