説明

少なくとも2種の異なる分子マーカーを同時に測定することによって腫瘍およびそれらの前駆体段階を検出する場合に臨床的特異性を増強する方法

【課題】 病理学的に変性した細胞の改良された診断のための自動化方法の提供。
【解決手段】 細胞または組織サンプルの構成領域において、疾病に関連する遺伝子発現における変化を示す少なくとも2種の異なる分子マーカーを、抗体の組み合わせを使用し、そしてシグナル強度を認定する手段で、同時に染色することによるがん細胞の自動化可能な診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん疾患は、今なお、もっとも頻度の高い世界的な死亡原因の1つを構成している。がんおよび前がん段階の両早期認識および特異的検出に対する臨床上の要望が存在する。さらに、腫瘍のより詳細な特徴は、治療と予後に関して結論を下すために重要である。異なるがん腫サブタイプは適用される治療上の測定に対して異なって反応するので、このことは有用である。これについて、例えば、乳がんが疑われる場合、頼みの綱は、よりしばしば、分子マーカー、例えばサイトケラチン、エストロゲン受容体、her2/neu、Ki67もしくはp53の免疫組織化学的染色に対してとられる(例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。この染色は、乳房生検においてもっとも高頻度に行われるけれども、それはまた、針穿刺(FNA,ine eedle spirates)においてますます実施されつつある。また、分子マーカーは、腫瘍が、一次腫瘍か、または転移であるかを決定することに関しても使用される。例えば、罹病一次臓器に特異的であるマーカーの発現は、この同定を容易にする。
【0003】
近年、変異の結果として変性形態におけるそれらのタンパク質を発現し、そして結果的にがんの生成に役割を演じる多数の遺伝子が同定されている。対応するタンパク質は、両血清中および細胞レベルにおいて診断マーカーとして検出される。これらのタンパク質は、細胞における生理学的調節過程、例えば成長制御(増殖遺伝子。例えばKi67およびmcm−5;がん遺伝子および腫瘍サプレッサー遺伝子、例えばp16,EGFレセプター、her2/neuおよびmdm−2)、アポトーシス(自然細胞死、例えばp53およびbcl−2)、DNA修復(msh−1)および細胞接着(E−カドヘリン、β−カテニンおよびAPC)に関与している。これらのタンパク質に対する特異抗体を使用する免疫組織化学的および免疫細胞化学的検出方法(非特許文献4)は、例えば、検出のために適当である。
【0004】
単一のマーカーはある種の健全な細胞においても存在するので、それは病理学的に変性した細胞を認識することに関して十分な特異性を達成しないことが度々例証された。これは、これらのマーカーが健全な細胞において生理学的調節過程に関与しているタンパク質であり、それが、病理学的に変性した細胞の指標である過剰に高い発現において単に存在するという事実に基づいている。非特許文献5は、頸部塗抹(n=58)において試験された病巣/腫瘍28例を検出したが、28例の正常な塗抹標本のうち2例を誤った陽性型に染色するDNA複製マーカーmcm−5を記述している。非特許文献6は、マーカーp16が、15例の正常な頸部生検のうち3例を非特異的に染色することを報告している。HPVは、頸部のすべての病巣および腫瘍の事実上100%において検出できるけれども、それはまた、多くの正常な頸部上皮においても検出できる;すなわち、HPVを検出する試験は高度の感受性を示すけれども、それは低い度合いの特異性しか示さない(例えば、非特許文献7)。
【0005】
病理学において、生物サンプルにおける数種のマーカーを検出することに関心がますます高まっている。一方では、今では、より多くの情報が病理学的に変性した細胞もしくは組織領域を検出し、そして特徴付けるために利用可能であり;他方では、個々のマーカーの非特異的染色が何であるかを認識し、その結果不正確な結論を回避することが可能である。慣例的には、身体サンプルの得られた生検標本の連続切片または複数標本(例えば固定剤中の頸部塗抹標本)が、この目的のために調製され、各場合、特定のマーカーに関して染色される。この方法はいくつかの欠点、通常は限定される患者のサンプル材料および染色試薬の高い消費、必要な大量の時間および高コスト、そしてまた組織サンプルの細胞または特定領域において明瞭に2種以上のマーカーの場所を同時に示すことが不可能である:という欠点を有する。生物サンプルにおける2種以上の異なる生物学的マーカーの同時検出は、文献(非特許文献8)には既に記述されているけれども、その方法は、いかなる程度にも標準化されなかったので、それは、日常的診断においてはまだ使用されなかった。非特許文献9は、頸部病巣から採取された生検標本におけるp53およびKi67の2重染色を使用し、そしてHPV陽性およびHPV陰性の病巣由来の基底および副基底細胞において、ある場合は1つの細胞において両マーカーを検出できた。しかしながら、同時に、著者らは、このサンプルにおける腫瘍細胞の存在に関して確実な結論を引き出すべく、その結果を組み合わせることによって情報を使用していない。腫瘍領域の検出を自動化する点で染色情報を使用するいかなる試みも完全に欠如している。さらにまた、この1つの組み合わせとは別に、腫瘍領域の同定および特徴付けを容易にすることができるいかなる他のマーカーの組み合わせについての記述もない。
【0006】
肺の腫瘍生検標本において遂行されたさらなる二重染色が、非特許文献10および非特許文献11により記述されている。これらの引用文献に記述されている抗体組み合わせは、本発明が基づく組み合わせとは完全に異なる。さらにまた、両上記出版物は、診断をするために、生検の染色を検査する病理学者をさらに必要とする。このアプローチは、方法を自動化することと概念的に合致せず、したがって、全く考慮に入れられない。
【0007】
非特許文献12は、乳房から得られた針穿刺材料(FNA,ine eedle spirates)における種々の腫瘍関連マーカー(DNA含量、Gアクチンおよびp53)の多重染色を記述している。彼らは、数種のマーカーの使用が個々のマーカーを観察する場合に達成されるよりも高い臨床的特異性を達成し、結果として、乳がんの早期認識において重要な役割を演じることができるという効果に対して彼らの結果を説明している。著者らによって引用された多重染色は、乳房から得られた針穿刺材料に限定され、そして種々の材料の性質のために、他の生物材料(すなわち生検および頸部塗抹)に応用することができない。さらにまた、マーカーの組み合わせは、本発明において記述される組み合わせとは異なる。腫瘍領域の検出を自動化することに関して染色情報を使用する試みはない。
【0008】
現在の臨床的腫瘍診断におけるさらなる改良は、サンプルの調製および染色の自動化ならびに診断の確立を含む自動画像解析の両方からなる。時間の節約および必要なより少ない職員に加えて、このアプローチはまた、より客観的で、結果的に、より一様な診断をもたらす。蛍光によるかまたは発色染料を用いる腫瘍細胞またはそれらの前駆体における生物学的マーカーの染色は、シグナルを定量し、そして結果的に自動方式でそれらを読み取ることを可能にする。染色操作を自動方式で実施させる装置は既に存在している。しかしながら、画像解析は、自動診断を達成するために使用されてない非特許文献13。もっとも進歩した装置は、形態学的画像情報を使用する頸部塗抹標本における腫瘍細胞とそれらの前駆体の自動検出を伴う装置である非特許文献14;非特許文献15。
【0009】
PAPNETシステムを用いる頸部塗抹標本における異常細胞の自動形態学的検出に加えて、非特許文献16は、さらに、Ki67抗体を用いる増殖細胞の免疫組織学的染色を使用している。しかしながら、この1種の分子マーカーの使用は、良性の増殖細胞とがん原性細胞の間のいかなる明瞭な差異も可能にはさせない。しかしながら、これらの著者らは、異常細胞を同定するために少なくとも2種の分子マーカーの同時検出を使用することを全く論じていない。
【0010】
Boonらが著者である特許(特許文献1)は、免疫組織化学的マーカーによる染色がサンプル中の増殖(がん原性および非がん原性)細胞の自動検出を容易にする方法、そして半自動方法において、制御している病理学者/細胞学者が、染色された細胞が真にがん原性細胞であるか否かを決定する方法を記述している。しかしながら、異常または腫瘍細胞を自動方式での検出を可能にするいかなる特異抗体の組み合わせについての記述もない。
【0011】
著者がMcGlynnおよびAkkapeddiである特許文献2は、がん細胞を同定する目的を含む、身体サンプルにおける数種の蛍光標識マーカーを同時検出するための応用および方法を詳細に記述しているが、がん診断におけるいかなる特定の応用も論じていないし、また増強された特異性を保持する適当なマーカーの組み合わせも記述していない。
【0012】
非特許文献17が、会社自体の社内サンプル調製に加えて、また不特定の生物学的マーカーを検出する蛍光の使用も含む、頸部塗抹標本をスクリーニングするための新しいシステム(InPath)を開発しつつあることは知られている。
【0013】
【特許文献1】米国特許第5544650号
【特許文献2】米国特許第6005256号
【非特許文献1】Leek et al.,1994,Br.J.Cancer,69,135−139
【非特許文献2】Mokbel et al.,1999,Am.J.Surgery178,69−72
【非特許文献3】Reiner et al.,Cancer Res.,50,7057−7061
【非特許文献4】van Noorden,1986,Immunocytochemistry,Modern Methods abd Applications,2nd edition,Wright,Bristol,26−53
【非特許文献5】Williamsら(1998,PNAS,95,14932−14937)
【非特許文献6】Sanoら(Pathology Intl.,1998,48,580−585)
【非特許文献7】Cuzick,2000,JAMA,283,108−109
【非特許文献8】DAKO,Practical Guide for Immunoenzymatic Double Staining Methods;Gomez et al.,Eur.J.Histochem.,1997.41,255−259
【非特許文献9】Terhavautaら(Cytopathology,1994,5,282−293)
【非特許文献10】Kraeftら(Clin Cancer Res.2000,6,434−442)
【非特許文献11】Oshikaら(Mod Pathl,1998,11,1059−1063)
【非特許文献12】Raoら(1998,Cancer Epidemiology,Biomarkers and Evolution.7,1027−1033)
【非特許文献13】(LeNeel et al.,1998,Clin Chim Acta,278,185−192)
【非特許文献14】(Sawaya et al.,1999,Clinical Obsterics and Gynaecology,42,922−928
【非特許文献15】Stoler,2000 Mod,Pathol.,13,275−284)
【非特許文献16】Boonら(1995,Diagn.Cytopathol.,13,423−428)
【非特許文献17】Ampersand Medical Systems Group(www.ampersandmedical.com)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、定められたマーカー組み合わせを使用することによって、病理学的に変性した細胞、好ましくはがん細胞およびそれらの前駆体を決定するために使用できる自動化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、病理学的に変性した細胞、好ましくはがん腫細胞およびそれらの前駆体の検出の特異性が、細胞もしくは組織サンプルにおける少なくとも2種の特定の分子マーカー、すなわち遺伝子発現における疾病関連変化を同時に検出することによって増強され、そしてより特異的な検出およびその上自動化できる検出が、数種のマーカーを検出し、そしてシグナルを組み合わせ、かつ、認定することに基づいて可能にされるという本出願者らの発見に基づく。
【0016】
本発明は、分子マーカーが、病理学的に変性されていないある種の生物材料において、類似または異なる量においてまた存在するので、個々に検出される場合には、病理学的に変性した細胞もしくは組織を認識することに関して十分な特異性を達成しない分子マーカーに関する。これは、これらのマーカーが、健全な細胞においても同様に生理学的調節過程に関与しているタンパク質であるという事実に基づく。これに加えて、非特異的様式で交差反応する抗体のために、分子マーカーの検出は明瞭にはできず、そして分子マーカーを含有しない生物材料の粒子の染色においても表される。本発明者らは、細胞において、または生物材料の構成領域内で、例えば組織切片の狭い定められた領域内で、少なくとも2種のマーカーを同時に検出することによって、異常な細胞もしくは組織切片を検出する場合に単一マーカーの検出の不十分な特異性を補償して、より高度の特異性を確定できることを観察した。かくして、生物サンプルを診断する場合の数種のマーカーの組み合わせは、情報価値を単一マーカーを使用するよりも一層高くすることができる。
【0017】
マーカー組み合わせは、例えば、分子マーカー、her2/neu,p16,p53,Ki67,MN,mdm−2,bcl−2およびEGFレセプターの組み合わせによって示されるように、次の種類:がん遺伝子、腫瘍サプレッサー遺伝子、アポトーシス遺伝子、増殖遺伝子、修復遺伝子およびウイルス遺伝子の少なくとも1種に属する遺伝子の変化した発現の可視化を含む。好ましくは、次の組み合わせ、her2/neuとKi67、her2/neuとp53、her2/neuとbcl−2、her2/neuとp16、bcl−2とKi67、bcl−2とp53、bcl−2とp16、p16とp53、p16とKi67が意図される。
【0018】
本発明によれば、本出願者らの発見は、疾病関連細胞もしくは組織切片の早期診断の方法のために使用され、この方法は、自動方式においてがん腫およびそれらの前駆体、そしてまた適当であれば転移の起源を検出する目的による前記分子マーカーの組み合わせの検出を含む。腫瘍細胞の自動化された特異的検出は、次の方法、第1には、これらの2種のシグナルが、細胞または身体サンプルの限られた領域中に存在しなければならず、そして第2には、2種のマーカーによって与えられるシグナルが、各場合、個々に定められた強度または閾値を超えるかまたは以下でなければならない:方法によって達成することができる。これらの2つの基準が適用される場合、例えば、設定閾値を超えるマーカーを発現しているか、または各場合限られたシグナル強度以下である両マーカーを示す健全な細胞を除外することが可能である。
【0019】
表現「分子マーカー」は、細胞における分子変化、特に遺伝子発現における変化を含み、これらは、変性されているか、または病的である細胞構成と関連して観察された。分子マーカーを検出する方法は、好ましくはタンパク質レベルにおいて、マーカーの量または質を決定するいかなる方法も含む。
【0020】
後に、発色および/または蛍光検出を伴う細胞化学的または組織化学的同定を可能にする抗体または他の特異的結合タンパク質(例えば、抗クリン(anti−cullin))が、タンパク質レベルにおける検出のために適する。
【0021】
表現「少なくとも2種の特異的分子マーカーの同時検出」は、遺伝子発現が互いに関連して観察できるように、身体サンプル、特に同様の身体サンプルの単一標本において、少なくとも2種の遺伝子の発現を可視化する方法を含む。これに関連して、それは、少なくとも2種のシグナルの存在下のみならず、また1種以上のさらなるシグナルの存在または不在下にあり、可能な組み合わせの情報価値をもつ。腫瘍特異性に加えて、このさらなる情報は、転移の起源に関する結論を含む。これに関連して、検出されたマーカーが比較的空間を空けて接近して、特に1個の細胞またはサンプルの狭く定められた領域内で、例えば組織切片内で検出されることが重要である。
【0022】
表現「シグナルを組み合わせることおよび信認すること」は、身体サンプルにおける少なくとも2種のマーカーの連結を含む。その上、健全細胞は、マーカー強度に関する閾値を定めることによって罹病細胞から特異的に区別できる。
【0023】
表現「細胞もしくは組織サンプル」は、身体サンプル、例えば塗抹標本、唾液、臓器穿刺標本、生検標本、分泌物、脳脊髄液、胆汁、血液、リンパ液、尿および糞、または臓器、例えば乳房、肺、腸、皮膚、頸部、前立腺および胃から除去された組織から単離される細胞を含む。
【0024】
表現「病理学的に変性された細胞」は、がん腫およびそれらの前駆体、好ましくは呼吸器、生殖器および胃腸管のがん腫、そしてまた、皮膚、乳房および血管系の腫瘍、特に乳がんおよび頸部がん腫およびその前駆体、例えば頸部上皮内新生物(CIN I−III)およびまたインサイチューのがん腫を含む。
【0025】
表現「自動検出」は、完全に、または構成段階においてのみ、人の手作業を置換し、そして特に、検出方法の段階において、または続く文書もしくは情報処理において使用される方法を含む。これは、サンプル調製、サンプル染色、サンプル解析および情報処理の段階を含む。これに関連して、検出は、吸光測定、反射測定もしくは蛍光測定の手段によって実施できる。蛍光測定の方法は、蛍光顕微鏡もしくはFACS(流動細胞計)解析のようなすべての方法を含む。
【0026】
表現「診断専門システム」は、画像情報を提案される診断に変換するコンピューターソフトウエアを含む。ソフトウエア中に存在するパラメーターか、またはソフトウエアがアクセスできる外部情報に基づいて、この専門システムは、利用しうる完全な情報またはその一部を、提案される診断に統合することができる。さらなるパラメーターが、提案される診断を実証するために必要であれば、ソフトウエアは、これらのパラメーターが収集されるか、あるいはレフレックス(reflex)アルゴリズムの意味における適当な解析装置と結合させることによってこれを自動的に要求することを示唆できる。
【0027】
表現「増幅システム」は、分子マーカーを特異的に検出するために、より好ましいシグナル/ノイズ比率を生み出すように、シグナル強度を増強する生化学的方法を含む。これは、正常には、さらなる抗体および/または酵素的検出反応を用いることによって達成される。
【0028】
本発明は、病理学的に変性した細胞、例えばがん腫およびそれらの前駆体を特異的に検出し、そして転移の起源を決定するために使用することができる。また、本発明は、本発明による方法を実施するためのキットであって、次の成分:
(a)少なくとも2種の分子マーカーを検出するための試薬、すなわちher2/neu,p16,p53,Ki67,MN,mdm−2,bcl−2およびEGFレセプターに対する標識および/または非標識抗体、
(b)慣用の補助剤、例えばバッファー、担体(supports)、シグナル増幅物質、染色試薬など、
(c)サンプルを調製および染色し、そしてシグナルを検出するための自動化しうる方法、
(d)対照反応として細胞系を染色するための方法および試薬、
を含有するキットに関する。
【0029】
上記説明は、キットの個々の成分に適合する。また、キットの個々の成分、または数種の成分は改変形態で使用されてもよい。
【0030】
本発明は、病理学的に変性した細胞、例えばがん腫およびそれらの前駆体を、手動によるかまたは部分的もしくは完全に自動化される方法において検出するために使用することができる。本発明により達成され、そして少なくとも2種の分子マーカーを同時に検出することから得られる結果は、いかなる主観的検査も受けず、反対に、生物材料における病理学的変化の客観的な自動検出へと伝えられるので、形態学的発見は、また「レフレックス試験(reflex testing)」の形式において客観的パラメーターによって補足することができる。方法は急速に、そして自動方式において実施することができるので、それらは、費用および人員に関して経済的である大規模なスクリーニング方法に適している。これに加えて、2種以上のマーカーの組み合わせ染色は、病理学的変化を区別して診断し、そして転移の起源を決定することを可能にする。
【0031】
その結果、本発明は、疾病の近代的診断にとっての重要な貢献を構成する。
【実施例】
【0032】
上記本発明を実施するための方法は実施例によって以下に示される。これらの実施例は、本場合には、Ventana自動ステナー(stainer)NEXESを使用する結果として存在する正確な反応条件を指定する。これは、種々のパラメーター、例えばインキュベーションおよび洗浄温度、インキュベーションおよび洗浄時間、ならびに抗体および他の試薬の濃度は変えることができること、すなわち他の機器に合致できるという事実をいかなる点においても変えない。同様に、本明細書に記述されている増幅システムは、それぞれ抗体もしくはDNAプローブに応じて、省略されるかまたは新しいシステムが付加されてもよい。
【0033】
特異的抗体を使用し、そしてVentana製Nexes自動イムノステナーを用いて生検標本における2種の分子マーカーを同時に検出するための実験の記述
厚さ4−5μmのパラフィン切片(Leica製RM2155ミクロトーム)が、固定され、パラフィン中に包埋された生検組織から最初に調製され、そして切片は37℃で一夜乾燥される。続く染色に伴い切片の浮いて離れるのを避けるために、シランでコーティングされた顕微鏡スライドが使用される。染色では、パラフィン切片が、2x15分間キシロール中で脱パラフィンされ、続いて、連続的に低下する濃度のアルコール(100%,90%,70%,各場合2x5分間)を通過させて、キシロールを再度洗浄する。
【0034】
ホルマリンによる固定は、抗原をマスクするアルデヒド架橋の形成をもたらし、結果的にそれらを抗体に対して無反応にする。その結果、さらなる前処理が必要である。抗原は、10mMクエン酸バッファー、pH6中でマイクロ波の600Wにおいて30分間脱マスクされる。
【0035】
マイクロ波前処理後、次に、Nexes(Ventana Medical Systems)自動イムノステナーにおける免疫組織化学的染色が続く。1次抗体および血清を除くすべての試薬は、Ventana Medical Systemsから、個々に、またはキットの形で得られる。すべてのインキュベーションは37℃で実施される。自動ステナーは、下記の試薬により各インキュベーション後に自動的に洗浄する。
【0036】
まず第1に、内因性ペルオキシダーゼが、キットに含まれている「インヒビター」により4分間不活性化される。次いで、すべて可能性のある非特異的結合部位は、1.5%ヤギ血清(Vector製)を用いて10分間ブロックされる。次いで、切片が、主モノクローナル抗体(Oncogene Science/BAYER製のher2/neu(クローン3B5),Ventana抗体希釈バッファー中2.5μg/ml)とともにインキュベートされる。
【0037】
続いて、より強い染色結果を得るために、増強キットが使用される。このキットは、予め結合された主抗体と反応するウサギ抗マウス免疫グロブリン、および順に、前のウサギ抗マウス免疫グロブリンと結合するマウス抗ウサギ免疫グロブリンからなる。インキュベーション時間は各場合8分である。同様に8分間インキュベートされる次の試薬は、両マウスおよびウサギに対向され、そしてビオチンと共役される「MultiLink」抗体である。この抗体は、ここで、全3種の既にインキュベートされた抗体に結合し、そして主抗体の反応部位におけるビオチン量を大きく増加する。使用される次の試薬は、ストレプトアビジン−HRP(orse adish eroxidase)であり、これが8分間添加され、そしてビオチンに結合する。検出は、ペルオキシダーゼの基質としてDAB(ジアミノベンジジン)およびHを添加することによって実施されるが、この基質は褐色沈殿に転化される。
【0038】
第2のマーカーの検出は、上記操作に正確に対応し、1.5%ヤギ血清を用いるブロッキング、および第2の特異的主抗体(p53,Oncogene Science/BAYER製クローンD01,Ventana抗体希釈バッファー中30μg/ml)のインキュベーションにより始まる。終了時点で、ストレプトアビジン−ALP(アルカリホスファターゼ)共役体がストレプトアビジン−HRP共役体の代わりに使用される。このインキュベーション後、内因性アルカリホスファターゼがレバミソール+MgClによりブロックされる。ALP基質(Fast Redおよびナフトール)がまた同時に添加される。続いて、核がヘマトキシリンにより2分間対比染色され、その後、切片は「藍色剤(bluing reagent)」中で2分間染色される。最後に、顕微鏡スライドは、MoviolTM(Hoechst)により被覆される。
【0039】
細胞が2種の分子マーカーを同時に検出することによって染色された組織サンプルにおける異常細胞を自動的に検出するための実験の記述
少なくとも2種の分子マーカーが上記方法にしたがって抗体を用いて検出された生検標本は、顕微鏡スライド8枚までの可動クロスステージを備えた蛍光顕微鏡(2000−3 multicontrol−boxおよび「Module StageTM」analySISドライブソフトウエアをもつOlympus AX70)およびSoft Imaging Systems GmbH(SIS) analySIS 3.0ソフトウエアの改訂版を使用して解析されるが、これは、SIS「Grabbit Dual Pro」パッケージとして、付属モジュール、特にFFT(=「Fast Fourier Transformation」)モジュール、MIA(=「Multiple Image Alignment」)モジュールおよびCモジュールを含有する。高分解能黒白(MV2 Slow Scan Camera,12bit,SIS製)およびカラー(DXC−950P 3CCD Chip,Sony製)カメラが画像記録のために使用された。組み合わせにおいて、これらのシステムは、16−bit Grauton画像解析ならびに24−bit画像深度までのRGBおよびHIS色彩空間におけるカラー画像解析のために適当である。
【0040】
可動クロスステージ(analySIS module stage)を測定後、顕微鏡スライド8枚までのすべての、論理的ゼロ点に比較した位置が、「オートメーション」メニュー(analySIS module grains)において8連続ステージパスを決定することによって記録される。生物サンプルの全域は、サイズ158.7μmx119.6μmをもつ個々の領域に総合的に再分割されるが、これは、顕微鏡単位を用いて倍率40倍の写真の画像分野に対応する。各生物サンプルは、1ステージパスを通して解析される。各ステージパスは、それぞれの顕微鏡スライドの位置の生物サンプルの各領域が、1ステージパス位置によって、隣接しているが重複しない方式で検出されるように、一連のステージパス位置として、ゆっくり流れる方式で水平に描写される。対応する行数および列数が定められる。「オートメーション」メニューにおける8ステージパスの添加が、自動方式で解析されるべき作動ステージ上にすべての標本を置くことを可能にする。
【0041】
各ステージパス位置が、透過光において写真撮影され、そして画像情報が、「カラーマッチング」下で「oper」メニューにおいて「RGBにマッチ」される。これは、「オートメーション」メニューにおいて行われる続いての「測定」を可能にする。測定では、8種までの異なるカラー混合物についての閾値が、「カラー閾値を設定」し、そして「pixel values/new」を用いてpixel値を決定することによって「画像」メニューにおいて定められる。「測定」メニューにおける「相解析(phase analysis)」によって、それぞれのステージパス位置の個々の写真が、既に定められたカラー閾値を用いて測定され、そして特定のカラー混合物の領域が、Exelデータファイルにおいて面積として定量的に現わされる。2種のマーカーが同時に検出される場合、検出反応のカラー、すなわちサンプル領域における「褐色」(DAB)および「赤色」(FastRed)、そしてまたそれらの中間混合物(「赤色−褐色」)が特に関心がもたれる。その結果、Exel表が、特定のカラー混合物についての面積を表す各列とともに、各個々のステージパス(=サンプル)について得られる。Exel表の行は、単一サンプル領域の個々の写真(=ステージパス位置)に対応する。
【0042】
macroを使用して、行(=ステージパス位置)における個々の値(=カラー混合物の測定面積)が、各場合、それぞれの列またはカラー混合物について前決定された一定の閾値と比較される。次いで、行における1個以上の個々の値が、それぞれの列について一定のカラー混合物閾値を越えていれば、サンプルが罹病しているとして特徴付けられるように、macroは個々の値を信認する。
【0043】
対応する画像位置が保存でき、そしてそれらは続く肉眼的鑑定に利用することができる。「オートメーション」メニューにおける「プロトコール」記録カードを用いて、それぞれのステージパス位置に関する画像および他のデータを自動的に保存することができる。
【0044】
これらの段階は手動で行われてもよいが、また、それらは、「記録マクロス(record macros)」下で「extras」メニューにおいて生成されるマクロスによって自動方式で実施することもできる。最後に、面積値(=分子マーカーによる染色の結果として正確に定められた2次カラーを表す生物サンプルにおける面積)の形式における定量的検査が、特定のカラー混合物について得られる。このようにして、生物サンプルについての診断上の結論が、信認されたカラー混合物を定量的に解析することによって達成される。
【0045】
本発明の特徴および態様は以下のとおりである。
【0046】
1. 細胞もしくは組織サンプルにおける少なくとも2種のマーカーが同時に検出され、そしてシグナル強度が組み合わされ、かつ認定されることを特徴とする、がん細胞およびそれらの前駆体の自動化可能な同定方法。
【0047】
2. 自動情報処理が、画像情報を提案される診断に統合する診断専門システムに連結されることを特徴とする、第1項記載の方法。
【0048】
3. 分子マーカーが、単一染色に比較してさらなる情報を提供する少なくとも2種のマーカーを使用する場合、2次カラーまたは空間を空けて接近する個々のカラーによる、組織サンプルの構成領域における発色反応もしくは蛍光シグナルを解析することによって定量的に検出されることを特徴とする、第1〜2項記載の方法。
【0049】
4. 次のマーカー組み合わせ、:her2/neuとKi67、her2/neuとp53、her2/neuとbcl−2、her2/neuとMN、her2/neuとmdm−2、her2/neuとEGFレセプター、bcl−2とKi67、bcl−2とMN、bcl−2とmdm−2、bcl−2とEGFレセプター、her2/neuとbcl−2、p53とbcl−2、p53とMN、p53とmdm−2、p53とEGFレセプター、p16とp53、p16とMN、p16とmdm−2、p16とEGFレセプター、p16とKi67、p16とher2/neu、p16とbcl−2、MNとmdm−2、MNとEGFレセプター、mdm−2とEGFレセプターが検出されることを特徴とする、第1〜3項記載の方法。
【0050】
5. 乳腺、肺、頸部、結腸、皮膚および前立腺の腫瘍が検出されることを特徴とする、第1〜4項記載の方法。
【0051】
6. 方法がレフレックス試験を伴うことを特徴とする、第1〜5項記載の方法。
【0052】
7. すべての必要な試薬を含有する第1〜6項記載の方法を実施するためのキット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞サンプルもしくは組織サンプルにおけるがん細胞およびそれらの前駆体の自動化可能な同定方法であって、以下の工程、
a) 各マーカー単独での検出が細胞サンプルもしくは組織サンプルにおけるがん細胞およびそれらの前駆体の存在の信頼できる指標とはならない、がんの少なくとも2種の分子マーカーを選択すること、
b) 該細胞サンプルもしくは組織サンプルを、該少なくとも2種の分子マーカーと特異的に結合するシグナル試薬と接触させること、
c) 該細胞サンプルの単一細胞中の或いは該組織サンプルの切片の構成領域中のマーカーからのシグナル強度を同時に検出すること、
d) 検出された該シグナル強度を組み合わせおよび信認すること、および組み合わせられおよび信認されたシグナル強度と閾値を比較すること、
を含んでなり、
ここで閾値より上または下の組み合わせられおよび信認されたシグナル強度が、細胞サンプルもしくは組織サンプル中におけるがん細胞およびそれらの前駆体の存在を示す、
上記方法。
【請求項2】
シグナル強度を画像情報に自動的に処理し、連結された診断専門システムを用いてがんを検出することを、更に含んでなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
シグナル試薬が発色または蛍光を生成する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
少なくとも2種の分子マーカーが、
her2/neuとKi67、her2/neuとp53、her2/neuとbcl−2、her2/neuとMN、her2/neuとmdm−2、her2/neuとEGFレセプター、bcl−2とKi67、bcl−2とMN、bcl−2とmdm−2、bcl−2とEGFレセプター、her2/neuとbcl−2、p53とbcl−2、p53とMN、p53とmdm−2、p53とEGFレセプター、p16とp53、p16とMN、p16とmdm−2、p16とEGFレセプター、p16とKi67、p16とher2/neu、p16とbcl−2、MNとmdm−2、MNとEGFレセプター、mdm−2およびEGFレセプター、
からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
サンプルが、乳腺、肺、頸部、結腸、皮膚、および前立腺の腫瘍から得られる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
分子マーカーを検出するための試薬、補助剤、対照およびプロトコールを含んでなる、請求項1記載の方法を実行するための試験キット。
【請求項7】
少なくとも2種の分子マーカーが、her2/neu、p16、p53、Ki67、MN、mdm−2、bcl−2、およびEGFレセプター、からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
工程c)が、細胞中のマーカーからのシグナル強度を同時に検出することを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
工程c)が、組織サンプルの切片の構成領域中のマーカーからのシグナル強度を同時に検出することを含んでなる、請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2008−209419(P2008−209419A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120561(P2008−120561)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【分割の表示】特願2001−376995(P2001−376995)の分割
【原出願日】平成13年12月11日(2001.12.11)
【出願人】(591063187)バイエル アクチェンゲゼルシャフト (67)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−51368 Leverkusen,Germany
【Fターム(参考)】