説明

少量排気スプレー塗装室

【課題】塗装室に吸引されて外部へ排気される空調空気量を削減し小排気量による省エネルギーの塗装室を得る。塗装室前面の開口部を小さくすることによる室内後部の噴霧塗料ミストのこもりを解消し、被塗装物への再付着を防止する。
【解決手段】一部を開口させた塗装室5の前面壁8の裏側に吸込み口12を開口する吸気通路Bを形成し、塗装室のミスト吸引用排気装置6の吸い込み側と接続する。室内周壁面を二重壁面として吸気通路を設け、吸気通路の前部は前壁面と側面の隅部11に開口させ、後部は塗装室内に開口して室内の排気流とともに吸引排気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に塗装ロボット等により自動的に塗装を行う場合に、スプレーによる飛散塗料ミストの捕集を行う塗装室の排気量を減少させ、環境維持に必要なエネルギーの削減を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装室、特にスプレー用塗装室は、噴霧に伴って被塗装物に付着されなかった塗料ミストを吸引捕集し、被塗装物等への不要な再付着を避けるため、また塗料ミストを含む周囲環境に悪影響を及ぼす有害物質の排気を削減するため必要不可欠な設備である。この塗装室は多くが工場建屋内と連通しており、その室内の空気を常に吸引し、排気する構造となっている。したがって排気のために塗装室につながる作業室内の空調した空気までもが排気されることになり、膨大なエネルギー損失になっている。
【0003】
通常塗装域の気流は毎秒20cmから1mの速度で流され、仮に10平方メートルの間口がある場合、1分間あたり数百立方メートルの空調空気が外部へ排出されることになり、大きな問題として現存している。これらの対応としてミスト処理後の空気を循環導入して実質的な排気を削減する方法、塗装室への導入空気を空調された室内空気とは別の新鮮空気、主には外部の空気をフィルターにより清浄化した空気、を強制給気して空調空気の損失を削減する方法が主として用いられている。
【0004】
塗装室の空調は作業者がいる場合はもちろん健康面での環境維持の上で避けることができない問題であり、完全に自動化された場合であっても塗料や被塗装物の条件は生活環境に近い条件で設定されていることがほとんどであり、むしろ塗装品質の安定化を図り、塗装不良を出さないためには常に一定の温湿度環境の維持が必要条件となるのは明らかである。特に近年の電子情報機器に代表される精密機器の塗装にとって塗装条件の安定化は絶対条件であり、その基本的な条件が室内空調と言うことができる。
【0005】
排気の循環再利用による方法は、排気空気の処理を十分に行って給気する必要があり、設備的にきわめて大規模な設備が必要となる。すなわち通常の排気であれば許容されるものが、希薄な臭気レベル以下にまで処理し、再び塗装室に戻しても人体や塗装に影響を及ぼさないよう正常化する必要があり、その処理コストが大きな負担となり、十分な対策とはなっていないのが現状である。外気の新鮮空気供給は言うまでもなく温湿度等の変動が大きく、前記塗装条件の管理を考慮すると温湿度調整のされていない給気は、安定した塗装品質の塗装、精密塗装工業には採用しがたいものとなっている。
【0006】
一方排気される空気の量を削減する方法として、塗装室の間口を小さくすることが考えられるが、被塗装物に対する間口の大きさは作業のしやすさを考えれば余裕を持たせる必要があり、特に精密かつ複雑な塗装等複雑に入り組んだ形状、内部、奥部あるいは隅部にまで均一な塗装が要求されるような場合、スプレーは種々の方向からの吹き付けが必要であり、これに伴って塗装室に向かって吹き付ける範囲が広く要求されるため局部的な間口では対応できなくなる。被塗装物の大きさによってこの間口もしくは室内の広さを可変として被塗装物にあった無駄のない給気、排気で運転を行う装置も考えられてはいるが室内全体に気流を流すことにおいて必ずしも十分とはいえない。
さらには室内の気流の分布を給気側にパターン化された給気口を配置できるように工夫された装置も考えられているが、これらは前記大型の設備で大きな被塗装物を部分的に塗装する場合等に必要箇所だけに必要な風速を与えようとするもので、汎用的な塗装室として比較的小さい被塗装物を塗装するための塗装室としては採用しがたい構成となっている。
【0007】
また塗装室内への必要な給気を、ダクトを通して供給制限した設備も見られるが、これらは天井面の一部より広い室内に給気し床面より吸引するものが代表的で、システム化された設備の一部として採用されている。しかしこの場合室内の気流は、たとえば自動車等の大型の被塗装物を設置して塗装する場合であれば被塗装物の周辺に適当な気流が生成されるが、これらに影響されない小型の被塗装物の場合は一部に集中するため周辺部はスプレーミストの吸引が不十分になる。したがってこのような場合は、天井部に整流手段を設け全体に均一な必要流速の気流ができるように構成しているのが一般的となっている。
【0008】
更に飛散塗料ミストを効果的に処理する手段として、一部に局所排気装置を設ける技術も提案されている(特公昭54−22461号公報)。しかしこの場合は排気装置の吸引部を分割したものであり、被塗装物が置かれる塗装室の間口は変わらず、全体の排気量が低減する構成にはなっていない。
【0009】
一般的に前面が開口された塗装室で室内に置かれた被塗装物を塗装する場合、作業者は正面より塗装室の後部に設置された排気口に向けて吹き付けを行うのが自然である。したがって被塗装物の側面や後面を塗装する場合は、被塗装物を回転させて正面側に向けて行い、更に凹凸面がある場合は斜め方向から吹き付けることになる。これは上下面であっても同様で、これらの吹き付け操作は溝部などをもつ複雑な形状であるほど均一な塗膜を施すために必要となっている。
【0010】
現在では作業者の環境や作業性、生産性などの理由から塗装をロボットに代表される自動塗装装置で行うことが広く行われるようになってきているが、前述の基本的操作は同じであり、被塗装物の前方周囲から吹き付けが行われる。そして斜め方向から吹き付けた場合、被塗装物に付着しなかったいわゆるオーバースプレーは塗装室の壁面に向かい付着する結果となる。したがって塗装室は十分に広く、壁面に到達する前に排気流により吸引されるよう被塗装物と壁面との距離が長いことが望ましいが塗装室は大型となり設備的には大きな負担となる。
【0011】
塗装室が狭く壁面と被塗装物との間が少ない場合、壁面には次第に付着塗料が重なり汚れとなって周囲や被塗装物への悪影響を与えることになる。特に天井面に付着した塗料は落下等によって被塗装物の塗装不良を引き起こす為、定期的な清掃作業が避けられず、生産性の低下や作業者の負担になっている。
【0012】
このため塗装室自体は対象となる被塗装物の範囲を考慮して、対象となるいずれの被塗装物にも可能な大きさが設置されるのが通常であって、被塗装物によっては大きな無駄が生じながらも使用することになる。すなわち必要以上に塗装室全体にわたって排気処理の気流が流されたまま、作業を継続することがしばしば行われている。
【特許文献1】特公昭54−22461号公報
【特許文献2】特開平6−320079号公報
【特許文献3】特開平8−266988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
塗装作業において被塗装物が複雑になるほどスプレーガンの操作は多くの方向からの吹き付けが必要になり、この場合塗装室自体も十分な大きさが要求される。そのため適切に空調された空気を排気することによるエネルギーの損失のみならず、大量の排気によって希薄にされたミスト含有空気のミスト処理においても効率が低下し困難性が増加する問題がある。本発明は、より少ない排気量で前記したエネルギー損失や塗料付着からくる塗装室の汚れ防止等の問題点を解決し、結果として省エネルギーで塗装環境を維持して品質の高いかつ安定した塗装を可能とする排気量の少量化を目的とした塗装室を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の問題点を解決するため、塗装室前面の開口部に壁面を設けてその一部を開口し、そこから吸引した空気流によって塗料ミストを処理して排気させることで排気量を低減し、さらに塗装室は前面壁の後方に吸引口を開口する吸込み通路を形成し、塗装室のミスト吸引用排気装置の吸込み側と接続する。また前面壁の塗装室内部側における開口部の周囲隅部に吸引口を開口する吸込み通路を形成し、該吸込み通路はミスト処理用の排気装置の吸込み部と連通させ排気させる。この吸込み通路内に塗装室後部に備えた排気装置とは別置きの第二の排気装置を備えて塗料ミストを積極的に排気してもよい。
さらに室内周壁面を二重壁面として内部通路を設け、内部通路の前部は前壁面と側面の隅部に開口させ、後部は塗装室内に開口して室内の排気流とともに吸引排気することによって、塗装室内の隅部に生ずる塗料ミストのこもりが解消し、被塗装物への再付着防止、室内の汚れ防止が図れ、安定した塗装作業を維持することができる。また二重壁面とした内部通路に塗装室後部に備えた排気装置とは別置きの第二の排気装置を備えてもよい。さらに塗装室の内側壁面は前面開口部側から後部排気側にかけて次第に断面積を縮小した形状とすることで、塗料ミストの吸引に必要な流速を維持しながら集中して排気装置に送りこむことができる。

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば塗装室の広さを変えず必要な作業領域を維持した状態で前面開口部のみを縮小しているため、排気装置に吸引される気流は限定された範囲より流入し、必要な流速で被塗装物の周囲に飛散する塗料ミストを吸引して処理装置へと流れていく。吹き付け塗装はなるべく前記の限定された気流にのるように吹き付けられることで高い効果が得られるため、複雑な形状であってもスプレーガンの吹き付け方向を従来に比較し、より狭く集中した範囲に向けて塗装することができるので、塗装室に対するオーバースプレーの方向性を限定できることになる。
【0016】
また、塗装室を広くして全体から吸込み空気を取り込む必要がなくなり、開口部を狭くすることが可能になるため排気量そのものを少なくすることになり、前述のように作業室内の空調された空気の排出が押さえられてエネルギーの大幅な低減が図れることになる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施する場合の詳細について図面を用いて説明する。図1は、実施の一形態を示した塗装室で行なう場合の概略構成を示している。スプレーガン1は自動スプレーガンで圧縮エアによって自動的に吹きつけが行われ、通常、制御装置からの信号により操作される電磁弁からの圧縮空気によって吹き付けが制御される。このスプレーガン1は自動塗装機である塗装ロボット2に搭載され吹き付けの位置、方向等を制御操作され被塗装物3への塗装を行う。通常塗装ロボット2はロボットアーム4によって上下、左右、前後の動きに加え、スプレーガン1取付け部の角度変化や回転操作によってスプレーガン1の自由な吹き付け操作が可能であり、教え込んだプログラムによって図示されていない制御装置からの信号により繰り返し作動が行われる。
【0018】
塗装室5は被塗装物3を中に置き、その周囲が十分にあるよう大きさが選択され、後部に排気装置6が備えられている。排気装置6は塗装室5の被塗装物3に吹き付けられた塗料のオーバースプレーミストを吸引し、これを処理して清浄な空気として排気する手段を備えている。
【0019】
塗装室5の前面は前面壁8により開口が制限され、一部に開口部7を設けて、そこから塗装作業が行われる。通常塗装室は被塗装物3が置かれた状態で周囲の壁面まで1メートル程度の余裕が必要とされ、側面や上下の方向から必要な吹きつけ作業を行う場合に支障がないようにすることと、これらの場合に吹き付けによるオーバースプレーミストが塗装室5の壁面9に到達する前に、前面より室内の全断面にわたって流れる吸引空気で排気装置6側に吸引できるようにして塗装室内壁面への塗料付着を防止することを前提としている。
【0020】
しかし塗装条件によっては、塗装室前面を開放して全面に渡って吸引しなくても塗料ミスト誘引の目的は達成することができ、実施例では被塗装物の置かれた位置に対して塗装操作に支障がない範囲での開口部7を設け、その他の前面部分は前面壁8として遮断する構成としている。
塗装室内部は前後面を除き、二重の壁面9を構成して、その間に吸気通路Bを形成している。壁面9は前端が前面壁8との間隙を維持して終端とし、吸気通路Bは前面壁8と側壁10との隅部11に吸込み口12を開口する構成になっている。また後端13は排気装置6の流入部61に開口して、排気装置の吸い込みによって吸引される構造とする。図の例では吸込み部分が絞り込まれているため壁面9の後部が曲げられている。尚、この二重の壁面9は、塗装仕様に応じて例えば天井のみに設置するもよし、左右のみの設置としてもよく、特に限定はしていない。
【0021】
内部の形状は前方より後方に向け断面積が縮小するように形成し、塗料ミストを含んだ気流が集中して排気装置6に送りこまれるように形成されている。開口部7の大きさは被塗装物や塗装装置等の条件によって異なり、必要な大きさに設定されるが、塗装装置による吹き付けの方向性を後部の排気装置に集約するようにすればそれだけ小さい開口にすることができる。
【0022】
本来汎用性を求めた塗装室は種々の被塗装物や塗装条件のため開口部は大きな間口が一般的であるが、そのために前記したごときエネルギー損失等の大きな問題点があり、使用条件を限定し本発明の構成を採用することによって、これらの問題の解決を図ることができる。すなわち従来の塗装作業においても被塗装物に近い周辺からの吹付けに限定され、前面開口の全ての周辺隅部から塗装機、スプレーガンで吹付けを行うことはほとんど無く、塗装機、スプレーガンの操作上からは無駄な開口スペースとなっていたが、本発明の採用で開口部を必要範囲にとどめ排気量の減少を図ることができるものである。
【0023】
実施例のごとく塗装室5の前面を前面壁8とし、一部に開口部7を設けることで、気流は被塗装物3の周辺から排気装置6側に向けて形成されるが、同時に前面壁8の後部面は流れが渦流を伴って停滞し、吹付け塗料のミストがこもり、被塗装物3への再付着を起こすことがある。図1の実施例によれば塗装室内の隅部11に吸込み口12を望ませた二重壁状の吸気通路Bを設けているため、排気装置6の運転による吸引でその部分の余剰ミストを吸引処理することができる。
【0024】
また吸気通路Bの後部は塗装室内より排気装置6に流入する速度が速い位置、すなわち通路が絞り込まれた位置に開口しており、排気流の吸引力によって効果的に吸い込まれることになる。塗装室内の気流と吸気通路の気流は塗装時の条件によって効果的に処理するためのバランスが異なるが、被塗装物に吹付けられた塗料の余剰ミストが効果的に吸引処理されることを優先して設定される。もし必要であれば前記の吸込み口12もしくは排気装置流入部61の面積を可変調節できるようにすることによって適した条件での選択も可能となる。
【0025】
更に、吸込み口12は塗料ミストの被塗装物への再付着防止が最大の目的であり、被塗装物3の近くに開口する構成とすることができる。例えば図2に示した様に、二重壁状の吸気通路Bを設けず、被塗装物3の近くから塗料ミストを横引きしても良い。
【0026】
また塗装室内部は、スプレーガン1による吹付け方向が限定される範囲で、対向することの無い方向、例えば被塗装物より手前に位置する壁面等を狭くして気流の流れを円滑にするように構成してもよい。図3に示す例では開口部7より後部に向かって広がる形状の壁面15が形成され、被塗装物の位置で十分な広さが確保できる構成としている。この形状によればミストのこもりの減少が図れ、吸込み口12Bは、被塗装物により近い位置に配置することができ、不要なミストを早期に処理することができる。
【0027】
また図4の様に吸気通路B内に、塗装室後部に備えた排気装置6とは別に、第二の排気装置16、17を付設し、塗料ミストを積極的に排気する構成をとっても良い。

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を実施する場合の塗装室の態様を主な構成で示す説明図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す概略構成図で、上部より見た図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1 スプレーガン
2 塗装ロボット
3 被塗装物
4 ロボットアーム
5 塗装室
6 排気装置
7 開口部
8 前面壁
9 壁面
10 側壁
11 隅部
12、12B 吸込み口
13 後端
15 壁面
16、17 排気装置
18、19 排気装置
61 流入部
B 吸気通路





【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被塗装物を置いて塗装を行う塗装室において、塗装機が配置される前面側は一部に開口部を形成した壁面を設け、後部にはミスト処理手段を有する排気装置を備え、前記開口部より塗装領域を経て塗料ミストを含有した気流を吸引処理するよう構成した塗装室。
【請求項2】
前面壁の塗装室内部側における前記開口部の周囲隅部に開口する吸込み通路を形成し、該吸込み通路はミスト処理用の排気装置の吸込み部と連通させた請求項1記載の少量排気スプレー塗装室。
【請求項3】
前面壁の塗装室内部側における前記開口部の周囲隅部に開口する吸込み通路を形成し、該吸込み通路に第二の排気装置を備えた請求項1記載の少量排気スプレー塗装室。
【請求項4】
室内壁面を二重壁面としてその間隙を内部通路とし、該内部通路の後端は塗装室内に開口して室内の排気流とともに吸引排気される請求項2記載の少量排気スプレー塗装室。
【請求項5】
室内壁面を二重壁面としてその間隙を内部通路とし、該内部通路に第二の排気装置を備えた請求項4記載の少量排気スプレー塗装室。
【請求項6】
塗装室の内側壁面は前面開口部側から後部排気側にかけて次第に断面積を縮小した形状とした請求項1乃至5記載の少量排気スプレー塗装室。






















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−29839(P2007−29839A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215690(P2005−215690)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】