説明

尿分析方法

【課題】 医療関連従事者の関与無く特に食事に関する生活習慣改善情報を使用者に開示すると共に、起床時に排泄された尿のみを測定対象とすることで、推定に必要とするデータの採取のために、使用者の社会生活・家庭生活に弊害が生じないようにする。
【解決手段】 本発明では、ヒトが排泄する起床後一番尿中の特定成分濃度を測定し、就寝前の放尿から前記一番尿の放尿までの経過時間を取得し、この経過時間を予め設定されている規定時間との比に基づいて、前記一番尿の特定成分濃度を規定時間当量へ換算し、この換算された値に基づいて、ヒトが一日に排泄する特定成分量を推定算出することにより、生活習慣を変えることなく、生活習慣管理に有益な情報を得ることを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の生活習慣リズムと、食物に含まれる特定成分が尿によって体外に排出される量を知ることによってその摂取状況を推定することに係り、特に家庭で最も測定しやすい起床時尿に含まれる排泄成分量を利用して、摂取した成分量の妥当性を経時的に推定するに好適なアルゴリズムを示すと共に、生活習慣病予防に向けた食事に関する改善策や指針を使用者に簡便に報知する尿分析方法及びその装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の尿中の特定成分濃度測定において、濃度測定用試験片(試験紙)を用いる方法は、尿中に含まれる特定成分濃度測定値によって、患者の摂取量と代謝の状態を確認するためのものがある(例えば、特許文献1参照。)。
このような場合、摂取成分量の推定には医師の専門知識が必要であることと、摂取量の推定を尿中の特定成分濃度から行なうため、推定を行いたい観察期間に排泄された全ての尿の量を知ることが必要となり、そのためすべての尿を収集する必要がある。したがって、この方法は、実質的には病院に入院期間中のように食物の摂取と排泄が専門知識をもった医療機関従事者によって管理できる状態のときにだけしか摂取特定成分量の推定に使えないという問題があった。
【0003】
ここで、推定を行いたい期間に排泄された全ての尿を収集する代わりに、排尿のたびに排泄された尿の一定比率分だけを収集して全ての尿の量を推定して求めようとするものもある(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、このような場合、収集量をコンパクト化できるため、運搬性は良好になるものの、尿の一部を分取する作業は家庭外のトイレで行う一般的なトイレ行為としては異質のものであり、継続的な測定を促すことには難点があった。特に特定成分が塩分の場合は対象となる高血圧症の患者は高齢者が多く、そのような患者にとってその操作性は優れているとは言いがたいものである。
【0004】
また、特定成分が塩分の場合では、早朝一番尿に含まれる塩分濃度(以下、一番尿塩分濃度と呼ぶ)を利用して、前日の摂取塩分量を推定する方法もある(例えば、非特許文献1参照。)。
しかし、この場合も一番尿塩分濃度から推定する前日の摂取塩分量と実際に摂取された摂取塩分量との相関係数は0.5から0.7程度であり、塩分摂取量推定値の信頼性が医療関係者以外が認識する値としては高くないという課題がある。例えば日本国の厚生労働省はガイドラインとして1日当たりの塩分(塩化ナトリウム)摂取量について、健常者は10g以下、高血圧症患者は7g以下というガイドラインを提示しているが、前述程度の相関係数では、推定される塩分摂取量に誤差が大きく、実際の使用者である在宅患者が、特に食事に対して具体的にどのような改善を行っていけばよいかという指針が分からないという問題があった。
【特許文献1】特開昭60−177266
【特許文献2】特開2003−121434
【非特許文献1】柴田博著「食塩摂取量の推定法について(最新医学.第38巻.第4号)」株式会社最新医学社、1983年4月、第649−653頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、医療関連従事者の関与無く、特に食事に関する生活習慣改善情報を起床時に排泄された尿のみを測定対象とすることで、摂取された特定成分の排泄量を推定し、使用者に開示すると共に、必要とするデータの採取のために使用者の社会生活・家庭生活に弊害が生じないようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、ヒトが排泄する起床後一番尿の量と特定成分の濃度とを測定して前記起床後一番尿の特定成分排泄量を求めるとともに、就寝前の放尿から前記起床後一番尿の放尿までの経過時間を取得し、前記特定成分排泄量を前記経過時間と予め設定されている規定時間との比に基づいて規定時間当量へ換算し、この換算された前記規定時間当量に基づいて、ヒトが一日に排泄する特定成分排泄量を算出することにより、昼間は職場に行くような方であっても確実に在宅しているタイミングを利用して採尿を実施できることから、生活習慣を変えることなく、生活習慣管理に有益な情報を得ることを可能とした。睡眠時間は体が安静であることから日々の活動による撹乱要因の影響が発生しにくく、得られた特定成分排泄は変動要因の影響が小さく、あくまで食事に伴って摂取された量が排泄される状態を把握しやすく、そのトレンド変化を在宅患者はモニターすることにより、正しい食事管理を実施できているかを容易に把握することができる。
【0007】
上記目的を達成するために請求項2記載の発明によれば、前記特定成分は、ナトリウムおよびカリウムおよびカルシウムのいずれか1つ以上であることにより、高血圧症の悪化と改善の代替指標であるナトリウムとカリウム、および特に閉経後の女性で問題視されることの多い骨粗しょう症の在宅管理を可能とした。
【0008】
上記目的を達成するために請求項3記載の発明によれば、前記特定成分としてのナトリウムおよびカリウム各々の一日に排泄される特定成分排泄量を求め、前記ナトリウムの特定成分排泄量を塩化ナトリウムの排泄量に換算した塩化ナトリウム排泄量とカリウム排泄量によって、食生活の状況に関するアドバイスを開示することにより、高血圧症の指標である塩化ナトリウムとカリウムの摂取量に関する改善指標を使用者は得ることができることになる。
【0009】
上記目的を達成するために請求項4記載の発明によれば、前記塩化ナトリウム排泄量と前記カリウム排泄量との比率が5以上のときに、摂取塩分量の過大および/または摂取カリウムの不足を開示することにより、これらの成分の摂取量の過不足を使用者に報知することが出来る。
【0010】
上記目的を達成するために請求項5記載の発明によれば、前記塩化ナトリウム/カリウムの比率の経時変化傾向により、食生活の改善・悪化傾向を開示することにより、食生活の改善傾向が容易に判断できるため、食生活に関する気付き・見直しを促すことができるようになる。
【0011】
上記目的を達成するために請求項6記載の発明によれば、予め設定した就寝時刻帯と起床時刻帯に従い、排尿を検出した時刻より、就寝前の放尿から前記起床後一番尿の放尿までの経過時間を演算することにより、就寝時間を代替する前記経過時間を自動的に演算することができるため、都度就寝時間を入力するような手間が発生しない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、日々の生活習慣を崩さずに測定した生体情報によって、医療知識の無い一般人であっても生活習慣病の予防や管理に必要かつ具体的な生活習慣改善情報を得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態に関し、以下に図を用いて詳説する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の尿分析方法を組み込んだ生体情報測定装置全体の一つの実施例を示す斜視図である。
大便器ユニット1は、洋風大便器11、便座21と便ふた22を回動自在に係止した便座装置本体2、尿量測定部4と装置全体の動作を制御する制御部5と、排泄された尿中に含まれる特定成分の定性・定量測定を行なう尿成分測定部9とを内蔵する機構ユニットキャビネット3、および、前記洋風大便器11の上面であるリム面14に取り付けられる採尿装置6によって構成されている。洋風大便器11の内側には、使用者の排泄物を受ける溜水13を貯えるボール面12が構成されている。採尿装置6の上面には、便座21が当接している。溜水13はトラップ部15を介して図示しない下水配管と連通している。ボール面12の底部には、トラップ部15に吐水方向を向けているゼット吐水ノズル7が構成されている。ゼット吐水ノズル7からの吐水は、トラップ部15において負圧を発生させ、その負圧によって生じたサイホン現象によって、溜水13を使用者の排泄物と共に下水配管に送出するようになっている。
【0015】
またリム面14に配置された採尿装置6は、使用者の尿を採取する採尿器61、ボール面12内部を回動させる採尿アーム62、および、駆動動作を行う採尿ユニット60で構成されている。採尿装置6の内部には、特定成分の定性・定量測定を行なう尿成分測定部9に採尿した尿を送出したり、測定に伴って排出される廃液を溜水13に戻すための配管部材や、採尿アーム62を動作させる機構部の制御配線が内蔵されている。
【0016】
本例において尿成分測定部9は機構ユニットキャビネット5に内蔵されている例を示したが、項目の一部は採尿器61中で実施しても良く、尿温度や尿中に含まれる電解質濃度のような項目は直接に接尿する部材である採尿器6中に配置したセンシング手段で測定すると、高精度な測定が期待できる。
【0017】
尿成分測定部9は、バイオセンサーや電気化学センサーや物理量計測センサーをはじめとする各種生体情報センシング手段が組み込まれても良いし、他の大型臨床検査装置で測定すべく検体を採取して容器に所定量だけ備蓄するような方法であっても良い。なお採尿装置6の外郭は、排泄物や水との接触を配慮して、抗菌性のある材質を選定したり、撥水性のある処理を実施しておけば清掃性がより向上する。
【0018】
採尿装置6の外郭は、洋風大便器11の一部に切り欠きを設けて配置され、その上面はリム面14と面一にして設置されている。外郭サイズは洋風大便器11の外形シルエットと略同様の形状であるため、使用者の下肢裏側と干渉せず、採尿機能が組付けられた便器であっても用便行為自体を行う限りにおいて、一般便器との間で使い勝手面の支障が発生することがない。また配管・配線部材は洋風大便器11の内部の中空部に配置されているため、外観的なごてごて感が発生しない。合わせて尿成分測定部9がトイレの床面を占有していないため、清掃の度ごとに尿成分測定部9を移動させる必要もない。尿成分測定部9の存在がトイレとしてのスペースが狭めることがなく使い勝手がよいだけでなく、トイレの衛生性としても有用である。
【0019】
壁には遠隔操作装置50が設けられている。使用者の局部を衛生洗浄に関する機能は衛生洗浄装置リモコン51、および、使用者の尿成分測定に関する機能は尿成分測定部リモコン52で各々操作される。尿成分測定結果はプリンター53によって出力される。
【0020】
測定結果は、使用者が個人的な生体情報として管理するだけでなく、医療スタッフが医療行為に使用することもできる。
また、測定結果の出力先は、紙面だけでなく、情報伝送のための無線や有線の通信回線であったり、RFIDタグやIDカードや磁気カードや半導体メモリーなどの携帯性を持った外部記憶媒体であったり、装置内部で情報を記憶する半導体メモリーやハードディスクなどの内部記憶媒体であってもよい。
【0021】
図2は、本発明の尿分析方法を組み込んだ生体情報測定装置全体の実施例を示す断面図である。
洋風大便器11内部の溜水13は、トラップ部15で水封された後、排水ソケット16を介して図示しない下水につながっている。洋風大便器11の中空部に配置された配管・制御配線は機構ユニットキャビネット3に導かれ、各々、尿量測定部4や尿成分測定部9と制御部5につながっている。採尿装置6の上面には便座21が当接している。採尿装置6の便器内側はボール面12と面一となっている。
【0022】
便座21の開口から落下した使用者の排泄物は、ボール面12内部の溜水13に落下する。洋風大便器11と採尿装置6の間には、図示しないゴムパッキンやシール剤などによって排泄物飛沫の侵入が防止されている。壁には遠隔操作装置50が設けられるが、洋風大便器11の先端位置に合わせて取付けすると操作性が良好である。また採尿装置6の便座当接面は、中央に向けて3°程度の傾斜を設定すれば前述の撥水処理の効果も踏まえ飛沫が便器側に戻りやすく、トイレ床を汚しにくいことになる。
【0023】
図3は、本発明の尿分析方法を組み込んだ生体情報測定装置の第一の実施例の尿量測定の構成を示す尿量測定系システム図である。
便器部と、尿量測定部4は所定の接続部で連結されている。尿量測定部4中には尿量測定を実施するための、定量給水手段A、溜水水位測定手段B、および下水圧変動保護手段Cが構成されている。便器部と尿量測定部4は連結部分で分離できるようになっているため、水道工事業者が便器部分を施工した後、測定機の設置業者が尿量測定部4を設置したり、測定に必要なデータ入力や調整などの付帯作業を行うことができるようにも配慮されている。
【0024】
また、万一尿量測定機能部が故障した時には、定量給水手段Aの入水・出水をバイパス弁31によって短絡する接続を実施し、溜水水位測定手段Bと下水圧変動保護手段Cの管路閉止によって、便器部だけの通常の機能維持が図れるようにも配慮されている。
【0025】
また、汚物排出のための設備機器としての便器部と、生体情報測定装置としての機能部とは機能の想定寿命が違うことが想定されるが、機能部のみを交換することで全体システムとして長期間の機能維持を図ることも可能である。
【0026】
洋風大便器11の内側にはボール面12が形成され、底部に設けられたゼット吐水ノズル7はトラップ部15に吐水方向を向けている。ゼット吐水ノズル7からの吐水はトラップ部15に対して負圧を発生させ、発生したサイホン現象によって、溜水13を下水配管に送出するよう排水ソケット16と接続されている。ボール面12の上部にはリム吐水ノズル8が構成され、溜水を補給するようになっている。同じくボール面12の上方には、前述の便座と当接するリム面14が形成されている。ゼット吐水ノズル7とリム吐水ノズル8への給水は、水路切替手段10から供給されるようになっている。ボール面12には、溜水および/または尿混じりの溜水の水位ヘッドを測定すべく、導圧路42を介して圧力センサー43が取付けられている。溜水の水位ヘッドを測定する時には、開閉弁35が開放されるようになっている。
【0027】
水位Xはサイホン現象によって溜水13が排出された直後を示す最下点水位である。具体的には、水路切替手段10をゼット吐水ノズル7へ切替えて、このゼットノズル7から数秒程度勢いよく洗浄水を噴出してトラップ部15にサイホン現象を発生させ、このサイホン現象によって溜水13が吸引排出された後には、ゼットノズル7及びリム吐水ノズル8の何れからも洗浄水の供給を行わない。このように、通常の便器洗浄においてサイホン現象後に封水の為に供給され、リフィール水とも呼ばれる洗浄水が供給されないことによってこの水位Xが実現される。水位Yは尿量測定を開始するスタート水位であり、トラップ15の溢流水位Wより下である。水位Yは測定のたびごとの再現性が要求されることから、定量容器としてのスタータータンク18から、リム吐水ノズル8を経由してボール面12に導かれるようにしている。
【0028】
なおスタート水位の形成方法としては、水路切替手段10の開放時間と圧力センサー43の関係をモニターしながら、所定時間だけリム吐水ノズル8から給水する方式でもよい。
【0029】
水位Zは排尿後水位であり、水位Wと水位Yの間の水位である。スタータータンク18に給水して溢れた水は洗浄タンク19に貯えられることになるが、その水は導圧路42やゼット吐水ノズル7を介してボール面12に導かれることで、排泄物と接した測定系を清浄に保つようになっている。排水アダプタ17には下水管内で発生した負圧を逃がすための通気弁46と、下水配管内の圧力変動をモニターするための圧力センサー47が下水配管に連通して設けられている。通気弁の構造は一般的に下水配管経路の圧抜きに使用されるものであれば、特に限定を受けるものではない。通気弁46の近傍には点検口が設けられており、外部から動作状態を定期的に確認できるようにすることで、下水配管内で発生した異臭がトイレ内に流出したりすることを防止するように配慮されている。
【0030】
ここで、下水配管中に他の設備器具などに起因する排水流れによって圧力変動が発生した場合、下水配管に連続する溜水13の水位も変動する結果、圧力センサー43の測定値も影響を受けて変動することになる。その対策として、本実施例では測定時には圧力センサー47の値をモニターして、圧力センサー43の値を圧力変動が無い状態の水位測定値に換算して用いている。
【0031】
溜水水位と溜水量の関数関係は後述の方法によって施工時や定期点検時などに検証・入力されているため、排尿後の溜水水位によって生じる圧力値を測定して相当する尿混じりの溜水水量を換算によって求め、同様にして求められたスタート水位に相当する溜水水量を差し引けば、排泄された尿量が測定されることになる。
【0032】
単位時間当たりの溜水水量変化は、尿の排泄される速度で尿流速または尿流率と称されるものであるから、溜水量の時間変動挙動の微係数を演算することによって、尿流速または尿流率を演算してもよい。なお、尿流速または尿流率の演算は、単位圧力の増加に要する時間を計測することによっても行うことができる。
【0033】
また、これら尿流速または尿流率が最大値となるまでの排尿開始からの時間も記憶するようにして、結果として得られた、尿量,排尿時間、最大尿流速(最大尿流率)、最大尿流速(最大尿流率)に達するまでの時間といった情報と、予めデータベース化されて記憶されている評価テーブルとの比較に基づいて、使用者の泌尿器疾病の可能性の推定を行うこともできる。
【0034】
図4は、本発明の採尿手段の一つの実施例を示す斜視図である。
洋風大便器11の側部に、ボール面12と外部に連通する切り欠きが設けられ、前記穴部分に採尿ユニット60が配置されている。切り欠きはリム面14をカットしている。前記切り欠き形状は溜水13の水位高さより上方であり、組付け時のシール性が乏しい場合でも、外部に溜水13が漏れることを防止している。採尿ユニット60は、先端に使用者の尿を受ける採尿器61が構成され、ボール面12の内部を回動する採尿アーム62によって、使用者の尿を空中で採取するようになっている。採尿器61の内部には、所定の特定成分濃度を測定するためのセンシング手段が配置されている。特定成分が電解質の場合はセンシングの方法としては、導電率を測定して換算する方式やイオンセンサー方式など、通常用いられている各種センシング方式が採用可能である。
【0035】
図5は、本発明の採尿手段の実施例を示す平面図である。
洋風大便器11の側部に、ボール面12と外部に連通する切り欠きが設けられ、前記切り欠き部分に採尿ユニット60が配置されている。切り欠きはリム面14をカットしている。モーター63はリードスクリュー64を回転させ、その回転に沿ってカムブロック65を前後に駆動する。カムブロック65に係止されたキックスプリング66は、常に水平方向側に力が加わるようカム67に力をかけている。カム67はケース68の内側に設けられたカム面69に当接し、採尿器61の収納・格納状態を示す位置では、採尿面を水平方向、採尿状態を示す位置ではカム面69の傾斜によって、採尿器51をボール面12内で回動動作させて、採尿面を上方に向けるようにしている。
【0036】
図6は、本発明の採尿手段の実施例を示す断面図である。
図5の断面D−Dから見た状態を示すものであり、カム面69と当接するカム67がカムブロック65の前後移動によって傾斜し、カム67に接続された採尿アーム62がボール面12の内側を回動する状態を示している。
【0037】
図7は、本発明の尿分析方法の動作を示すフローチャートである。
S101からS103は測定とは別に実施される事前準備である。S101で月日と時刻を設定した後、S102で使用者の一般的な生活リズムとしての就寝時刻帯、S103で起床時刻帯が入力される。本フローチャートでは生活リズムの入力を1人のイメージで記載しているが、本発明の尿分析方法を組み込んだ生体情報測定装置を使用する複数の使用者に対して個別に設定・入力されることになる。就寝時刻帯と起床時刻帯は連続して設定されることで、判断ができない時刻帯が発生することを防止する。以降の説明の例として、就寝時刻帯は前日であるn−1日の20時から当日であるn日の1時、および、起床時刻帯を当日であるn日の1時から8時と仮定する。つまり使用当事者は、通常20時から1時に就寝し、同じく1時から8時に起床していることを生活リズムとして入力したことになる。
【0038】
S104以降が本発明の尿分析方法を組み込んだ生体情報測定装置の動作である。S104で生体情報測定装置は使用者の近接を検知する。検知方法としては赤外線を利用した測距センサーなどの利用が一般的である。使用者の近接をトリガーとして、生体情報測定装置は測定準備などの動作を実施してもよい。
【0039】
S105は使用者の個人認証を実施するステップである。本発明の尿分析方法は、使用者の特定成分摂取に伴って排泄される所定の特定成分排泄量の解析方法を示すものであるから、生体情報と個人情報は対として取り扱う。個人認証の方法としては、本発明を組み込んだ生体情報測定装置が家庭に設置されている場合は、使用者数が少ないため指定のスイッチ操作が簡便である。病院・医療機関・企業施設など使用者が多数の場合は、RFIDを利用したタグや、IDカードなどで個人認証を実施してもよい。
S106で使用者の尿を検知すると、S107で排尿時刻xを記憶する。
【0040】
S108は測定時刻が就寝時刻帯かどうかを確認するステップで、就寝時刻帯の排尿であった場合は、S109でこの排尿を就寝前と認識し、この時刻を就寝時刻xとして使用者と関連付けて記憶し、次の使用を待つことになる。なお就寝時刻帯で再び同じ使用者による排尿が合った場合は、S109で記憶されている就寝時刻xは新しい時刻に上書き更新されるようになっている。就寝時刻帯でなかった場合は以降のステップに入らず、判断ステップS201に移動する。
【0041】
S201は測定時刻が就寝時刻帯でなかったときの判断ステップであり、測定時刻が起床時刻帯であった場合はステップS202に移行し、それ以外は待機状態となり次の使用を待つことになる。S202では起床時刻帯であった場合に、起床時刻yを記憶する。
【0042】
次いでS203ではその尿に含まれる特定成分排泄量を記憶する。すなわち、前述の採尿ユニットに組み込まれたセンシング手段で特定成分濃度を測定し、便器部分の溜水水位変化で尿量を測定し、両者を乗じる演算によって尿中に含まれる特定成分の排泄量が演算されることになる。なお、特定成分としては、高血圧症の悪化と改善の代替指標であるナトリウムとカリウム、および、閉経後の女性で問題視されることの多い骨粗しょう症の指標であるカルシウムが、在宅で管理でき生活習慣に関連する指標として有益である。
【0043】
S204はS203で求められた特定成分排泄量を規定時間当量へ換算するステップである。以下にその詳細を述べる。身体が安静状態である就寝状態は、発汗状態や運動状態が均一であるため、日々の比較が実施しやすい状態である。しかし腎臓で血液をろ過して生成される尿の比率も均一であるため、就寝時間によって排泄量が変動することになる。本発明はこの身体の生理と、就寝前後で一般的に排尿動作を行うという生活リズムに着目したもので、実際に測定された排泄量をあらかじめ設定された規定時間の排泄量に換算した規定時間当量で比較しようとするものである。S204で実施される演算は、就寝時刻x(時)、起床時刻y(時)、起床後の排尿量R(mL)と尿中に含まれる特定成分濃度c(g/mL)、規定時間T(時間)、および規定時間当量c(g)とすると「式1」で規定時間当量が演算される。
【0044】
【数1】

例えば就寝時刻1時、起床時刻6時、起床後の排尿量500mL、特定成分としての塩化ナトリウム濃度0.005g/mL、規定時間をヒトの安静状態である睡眠の平均的な睡眠時間である8時間とすると、規定時間当量は「式2」により4gと演算されることになる。
【0045】
【数2】

ここで塩化ナトリウム濃度と呼んでいるものは、測定される特定成分の一つであるナトリウム濃度を通常の医療分野で普通に使われる塩化ナトリウム濃度に便宜上換算したものである。したがって、以下の説明中も測定に関係する個所で塩化ナトリウムとの表記のあるものは便宜上ナトリウム量から換算して使用しているものとする。
また、ここでは安静状態である平均的な睡眠時間である8時間を規定時間としているためヒトの活動による撹乱要因を取り除きやすく、結果として日々の変動傾向が生活習慣のみの影響として取り扱いやすくなることを可能とした。S205は経日的な測定結果を表またはグラフによって、使用者に開示するステップである。
【0046】
図8は、塩化ナトリウムに関して、多くの被験者について実際に測定された排泄量の8時間当量と24時間当量をプロットしたグラフである。直線は両者の相関をもとめた以下に述べる相関式である。規定時間を8時間とした時に、就寝前後の尿から得られた塩化ナトリウムの8時間当量をc(g)によって、塩化ナトリウムの24時間当たり排泄量はc24(g)が推定できることがわかる。その相関式は「式3」で表され、
【0047】
【数3】

となる。上述の例で塩化ナトリウムの8時間当量が4gであるとすると、24時間当たりの塩化ナトリウム排泄量は14gと推定されることになる。一般的に摂取された塩化ナトリウムのうち生体活動・生命活動に使用された使用された残りである摂取量の約80%が排出されるため、本例では17.5gの塩化ナトリウムを摂取したであろうことが推定される。厚生労働省の指針によれば摂取塩分量の指針は10g未満であり、本例の場合は塩分を摂取しすぎていることが分かる。
【0048】
図9は、カリウムに関する24時間当たりの排泄量を推定する関係を示すグラフである。規定時間を8時間とした時に、就寝前後の尿から得られたカリウムの8時間当量をc(g)によって、カリウムの24時間当たり排泄量はc24(g)が推定できることがわかる。その相関式は「式4」で表され、
【0049】
【数4】

となる。なお厚生労働省の指針によれば摂取カリウム量の指針は3.5g以上でる。一般的に摂取されたカリウムの尿中排泄量は約50%であるから、尿中排泄量が1.7gであった時に、摂取カリウム量は3.5gであったと推定できることになる。
【0050】
図10は、以上述べた排泄量を推定するに際して使用する就寝前排尿時刻と起床後排尿時刻の認定のやりかたを示したものである。
本発明は身体が安静状態で、かつ、ばらつきの少ない就寝中に腎臓で処理され尿中に排泄される特定成分生成量を規定時間当量に換算することにより、24時間の電解物質排泄量を高精度に推定できるようにする尿分析方法であるが、正しくは都度就寝していた時間を入力する必要がある。しかし日常生活の中で、毎日就寝時間を入力することは手間であり、その手間が測定を中断させることに繋がりかねない。したがって、本方法では、就寝時刻帯と就寝時刻帯を予め設定し、排尿検知した時刻が前記のどちらの時間帯であるかによって自動的にその排尿が就寝前排尿か起床後排尿かを判断し、さらにその認定された就寝前排尿から起床後排尿までの経過時間を求めて、前述の規定時間当量の換算に使用している。その際には、就寝時刻帯の最後の排尿を就寝前排尿と認識し、起床時刻帯の最初の排尿を起床後排尿と認識して経過時間の計算に使用している。すなわち、例えば、本図の例3で示したように、就寝途中に一旦起きて排尿し、再び就寝する場合も考えられるが、その場合は2度目に就寝する前の排尿を就寝前の排尿として認識している。また、就寝時刻帯と就寝時刻帯のいづれにも属さない時刻の排尿検知は無視される。このようにして、日々の生活リズムの中で使用者は排尿するだけで、自動的に就寝前排尿から起床後排尿までの経過時間が取得されることになる。
【0051】
以下に、本発明の食生活ガイド方法を説明する。
図11は、塩化ナトリウムとカリウムに関して、多くの被験者について実際に測定された排泄量をプロットしたグラフである。
前述のように厚生労働省は高血圧症予防のために、塩化ナトリウムとカリウムの摂取量について、各々10g未満、3.5g以上を健康維持のための推奨値としてガイドしている。一方、塩化ナトリウムは生体活動に利用されたり、大便に含まれて排泄されたりするため、摂取量の約80%が尿から排泄されることが臨床医学では言われている。したがって、尿からの排泄量としては1日当たり8g未満であることが推奨されていることになる。同様にカリウムは、摂取量の約50%が尿から排泄されるため、1日当たり1.7g以上排泄されることが推奨されていることになる。これらのことをグラフに当てはめてみると、領域アが適切な状態であり、領域イは摂取塩化ナトリウムが過大でかつカリウム量が不足、領域ウは摂取塩化ナトリウムのみ過大、領域エはカリウム量が不足ということになる。このように、塩化ナトリウムとカリウムの排泄量を測定することによって、上述の事項を摂取量に関する改善指標として開示できることになる。なお使用者に分かりやすくするために、「味付けが濃くありませんか?」や「野菜や果物などが不足していませんか?」のように分かりやすい表現で開示してもよい。
【0052】
また他の方法として、塩化ナトリウム/カリウムの比率を求めて改善指標として用いてもよい。現在、平均的な日本人の塩化ナトリウムとカリウムの摂取量は、各々13.5g、2.5gとされており、これを前述の通り尿排泄量に換算すると、各々11.5g、1.2gに相当し、その比は11.5/1.2=9.6である。一方、尿排泄量で換算した推奨値は8/1.7=4.7以下であることから、現状はこの値を大きく越えていることになる。以上のように、例えば塩化ナトリウム/カリウムの比率が5以上の場合、食生活での塩化ナトリウムとカリウムの摂取量に関する改善指標、つまり摂取塩分量が過大、または摂取野菜・果物類の不足などの食生活改善の必要性の有無を簡便に判断することができることになり、それを使用者に開示することも出来る。
【0053】
図12は、本発明の経日的な塩化ナトリウム/カリウムの比率の変動を示すグラフである。
その比率の値の変動が上昇傾向にあるのか下降傾向にあるのかで、食生活の改善傾向を判断することができる。したがって、塩化ナトリウムとカリウムの排泄量から推定した摂取量だけでは、個別のデータで一喜一憂するだけになるが、経日的な塩化ナトリウム/カリウムの比率の変化傾向によって食生活の改善傾向を判断して、食生活に関する注意や改善を促すことができるようになる。なお経日的な塩化ナトリウム/カリウムの比率を、3〜5日間程度毎の区間を設定した移動平均処理を実施すると、変化の傾向が上昇か下降かを簡便に使用者に示すこともできる。
【0054】
図13は、本発明の食生活ガイド方法を示すフローチャートである。
S101とS102で、24時間当たりの塩化ナトリウムとカリウムの排泄量を推定する。ここで、24時間当たりの排泄量は前述の起床後排尿の成分測定から得られる推定値であってもよいし、1日当たりの全尿を測定して積算した値でもよい。S103は24時間当たりの塩化ナトリウム排泄量を判定するステップで、8g以上であった場合はS104で摂取塩分量過多を表示する。S105は24時間当たりのカリウム排泄量を判定するステップで、1.2g以下であった場合はS106で摂取カリウム量不足を表示する。次いでS107で塩化ナトリウム/カリウムの比率を演算し、S108で塩化ナトリウム/カリウムの比率が5以上であると判断されると、S109で食生活改善の必要性を表示する。S110は経日的な変化傾向を確認するステップであり、上昇傾向があるときはS111で食生活が改善していないことを表示し、下降傾向があるときにはS112で食生活が改善していることを開示する。上昇か下降かを判断する方法としては回帰直線の傾きが正か負かで判断したり、3から5日の連続する日々の排泄量を平均した値の変化傾向で判断するなどの方法があるが、特にこれらに限定されるものではなく、その他の通常用いられる変化傾向を見る方法を採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の尿分析方法を組み込んだ生体情報測定装置全体の一つの実施例を示す斜視図である。
【図2】図1の実施例の断面図である。
【図3】図1の実施例の測定系システム図である。
【図4】本発明の採尿手段の一つの実施例を示す斜視図である。
【図5】図4の実施例の平面図である。
【図6】図4の実施例の断面図である。
【図7】本発明の尿分析方法の手順を示すフローチャートである。
【図8】多くの被験者で測定された塩化ナトリウムに関する8時間当たりの排泄量と24時間当たりの排泄量との関係と、本発明のこれら両者の関係を推定する関係式を示すグラフである。
【図9】多くの被験者で測定されたカリウムに関する8時間当たりの排泄量と24時間当たりの排泄量との関係と、それを推定する関係式を示すグラフである。
【図10】本発明の尿分析方法の就寝前と起床後の排尿の認識例を示したものである。
【図11】多くの被験者で測定された塩化ナトリウム/カリウムの比率と本発明の食生活ガイド方法との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の経日的な塩化ナトリウム/カリウムの比率の変化傾向を示すグ ラフである。
【図13】本発明の食生活ガイド方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1…大便器ユニット
2…便座装置本体
3…機構ユニットキャビネット
4…尿量測定部
5…制御部
6…採尿装置
7…ゼットノズル
8…リム吐水ノズル
9…尿成分測定部
10…水路切替手段
11…洋風大便器
12…ボール面
13…溜水
14…リム面
15…トラップ部
16…排水ソケット
17…排水アダプタ
18…スタータータンク
19…洗浄タンク
21…便座
22…便ふた
31…バイパス弁
35…開閉弁
42…導圧路
43…圧力センサー
46…通気弁
47…圧力センサー
50…遠隔操作装置
51…衛生洗浄装置リモコン
52…尿成分測定部リモコン
53…プリンター
60…採尿ユニット
61…採尿器
62…採尿アーム
63…モーター
64…リードスクリュー
65…カムブロック
66…キックスプリング
67…カム
68…ケース
69…カム面
A…定量給水手段
B…溜水水位測定手段
C…下水圧変動保護手段
c…特定成分濃度
…規定時間当量
…8時間当量
24…24時間当たり排泄量
T…規定時間
W…溢流水位
X…最下点水位
x…就寝時刻
Y…スタート水位
y…起床時刻
Z…排尿後水位


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトが排泄する起床後一番尿の量と特定成分の濃度とを測定して前記起床後一番尿の特定成分排泄量を求めるとともに、就寝前の放尿から前記起床後一番尿の放尿までの経過時間を取得し、前記特定成分排泄量を前記経過時間と予め設定されている規定時間との比に基づいて規定時間当量へ換算し、この換算された前記規定時間当量に基づいて、ヒトが一日に排泄する特定成分排泄量を算出することを特徴とする尿分析方法。
【請求項2】
前記特定成分は、ナトリウムおよびカリウムおよびカルシウムのいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の尿分析方法。
【請求項3】
前記特定成分としてのナトリウムおよびカリウム各々の一日に排泄される特定成分排泄量を求め、前記ナトリウムの特定成分排泄量を塩化ナトリウムの排泄量に換算した塩化ナトリウム排泄量とカリウム排泄量によって、食生活の状況に関するアドバイスを開示することを特徴とする請求項1に記載の尿分析方法。
【請求項4】
前記塩化ナトリウム排泄量と前記カリウム排泄量との比率が5以上のときに、摂取塩分量の過大および/または摂取カリウムの不足を開示することを特徴とする請求項3に記載の尿分析方法。
【請求項5】
前記塩化ナトリウム/カリウムの比率の経時変化傾向により、食生活の改善・悪化傾向を開示することを特徴とする請求項3に記載の尿分析方法。
【請求項6】
予め設定した就寝時刻帯と起床時刻帯に従い、排尿を検出した時刻より、就寝前の放尿から前記起床後一番尿の放尿までの経過時間を演算することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の尿分析方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−29819(P2006−29819A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205041(P2004−205041)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】