説明

尿温測定装置

【課題】
被験者の排泄する尿の温度を非接触で計測する温度計測手段として多数の受光素子を持つ赤外線センサを備えた尿温測定装置において、検温対象である尿の温度を正確に測定することのできる尿温測定装置を提供する
【手段】
被験者の尿から放射される赤外線を受光し、その温度を計測する温度計測手段と、前記温度計測手段が計測する温度計測値に基づいて排泄された直後の尿の温度である尿温を算出する尿温算出部と、を備えた尿温測定装置において、前記温度計測手段は、第一の計測領域と、複数の受光素子が各々割付けられた複数の計測領域が前記第一の計測領域を囲むように配設された第二の計測領域と、を有し、前記第二の計測領域で計測される温度値が所定の条件を満足した場合に、尿温算出部は、第一の計測領域で計測される温度値で尿温の算出をすることを特徴とする尿温測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の排泄する尿の温度を非接触で計測する尿温測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、身体の健康状態を把握するために、身体内部の温度を忠実に反映しているものとして排泄された直後の尿の温度(以下、この排泄された直後の尿の温度を特に尿温と呼ぶ)を測定することが考えられきた。ところが、被験者が排泄する尿に温度計を直接触れさせて計る方法では、使用した温度計の洗浄等の手間がかかるため、被験者の排泄中に尿に直接触れることなく非接触で尿の温度を計測できる赤外線センサを備えた尿温測定装置が種々提案されている。
【0003】
一般に、赤外線センサにて物体の温度の計測を行なう場合、その赤外線センサが温度計測を行なう範囲である計測領域が、検温対象である当該物体の投影領域に包含されている状態(以下、視野欠けなしと呼ぶ)である必要がある。
【0004】
従って、尿温計測の場合では、検温対象である尿の投影面積よりも赤外線センサの計測領域を小さくすることが必要である。
【0005】
また、赤外線センサに組み込まれる通常の受光素子は、熱出力赤外線センサ自体が発生させる赤外線も同時に検知してその出力はばらつく。従って、より正確な計測を行なう方法の一つとして、受光素子の出力を所定回数以上取得して累積したものの平均値を算出する累積平均化処理した値を検温対象の温度計測値とする方法を採用することが考えられるが、この累積平均化処理に時間を要するため、受光素子の計測速度もそれ程早く出来ない。
【0006】
さらに、赤外線センサは、物体から発せられる赤外線を光学的に集光して受光素子に投影させて電気的出力に変換する原理であるため、その計測範囲と計測精度は相反する関係となる。従って、高精度に温度の計測を行なう場合はその計測範囲をある程度狭く設定せざるを得ない。
【0007】
このような赤外線センサを温度計測手段に備えた尿温測定装置として、例えば、特許文献1に開示されているものが挙げられる。
【0008】
この従来技術の尿温測定装置では、赤外線センサは、小便用便器の天井面に設けられており、その計測領域はボウル内に向けて固定して設置される例が示されている。
【0009】
一方、この従来技術の尿温測定装置では、立位で測定するため、実際の排尿において、検温対象となる被験者の放尿口から放出された尿は、通過する軌跡が一定ではなくバラつき、結果として、小便器ボウル面への落下位置もバラつくものとなる。
【0010】
従って、このように移動する尿を検温対象として、固定された計測領域を用いて計測する方式では、第3図に示されているように計測領域を広範囲に設定せざるを得なくなる。
【0011】
そうした場合、放尿された尿の軌跡は細いため、尿が計測領域の一部にしか包含されていない状態(以下、視野欠けありと呼ぶ)が常時発生することとなり、その結果、尿温測定装置は、被験者から排泄された尿温よりも低い温度値しか得られず、高精度に尿の温度を計測することが困難となる。
【0012】
また、先行文献1では、この視野欠けが発生する状態を少なくするため、計測領域を適度に保った赤外線センサを多数設ける方式も図11に示されている。しかし、この方法でも、放尿された尿の軌跡を検温対象とする点は変わらないため、前記同様、高精度に尿の温度を計測することは困難である。
【0013】
さらに、先行文献1では、尿の軌跡ではなく、ボウル面に衝突して広く展開した尿流域を検温対象として、赤外線透過板を介して背面側から赤外線センサで計測する構成となっている例が図4や図16に示されている。しかしながら、これらの方法では、赤外線透過板は限られた材質に限定されるため、清掃時に薬品を使用して清掃用具でブラッシングされる便器ボウル面などには、実際の適用が困難である。
【0014】
そこで、便器ボウル面の表面側からこの展開された尿流域を検温対象として検温対象領域を広げるとともに、赤外線センサの受光素子数を増やして計測領域を広げることによって、受光素子の視野欠けなく確実に尿の温度を高精度に計測する構成とすることが考えられる。
【0015】
ところが、前述したように、受光素子から正確な計測温度を得るためには、ある程度の時間が必要となるため、この方法のように受光素子数を増やすと確実に尿流を捕らえることは可能となるが、計測時間が長くなり放尿時間内に正確な計測が出来ないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平4−203128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明は、被験者の排泄する尿の温度を非接触で計測する温度計測手段として多数の受光素子を持つ赤外線センサを備えた尿温測定装置において、検温対象である尿の温度を正確に測定することのできる尿温測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、被験者の尿から放射される赤外線を受光し、その温度を計測する温度計測手段と、
前記温度計測手段が計測する温度計測値に基づいて排泄された直後の尿の温度である尿温を算出する尿温算出部と、を備えた尿温測定装置において、
前記温度計測手段は、第一の計測領域と、複数の受光素子が各々割付けられた複数の計測領域が前記第一の計測領域を囲むように配設された第二の計測領域と、を有し、
前記第二の計測領域で計測される温度値が所定の条件を満足した場合に、尿温算出部は、第一の計測領域で計測される温度値で尿温の算出をすることを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、所定の条件を、前記第二の計測領域を構成する各検温領域で計測される全ての温度値が、人体が通常取り得る最低体温以上であることを特徴とする。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記最低体温が、35.0℃以上であることを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいづれか1項に記載の発明において、前記第一の計測領域は、複数の受光素子が各々担当する互いに隣接した複数の検温領域からなり、前記尿温算出部は、前記検温領域にて計測される複数の温度値の最大値に基づいて前記尿温の算出をすることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4記載の発明において、前記第二の計測領域の少なくとも1つの検温領域が、所定の条件を満足しない場合には、計測不能の状態であることを被験者に報知する報知手段を有することを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4記載の発明において、前記報知手段は、前記第二の計測領域のそれぞれの検温領域に対応する位置情報を有しており、前記第二の計測領域の計測領域が所定温度以下になった場合に、対応する位置情報と共に、計測不能の状態であることを被験者に報知する位置情報報知手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載の発明によれば、尿温を計測は、計測領域の縁端部の第二の計測領域で計測される温度値で計測状態を判定し、計測領域の内部の第一の計測領域で計測される温度値で、尿温を算出している。これにより、計測状態が正常な状態で温度計測を実行することが出来るため、限られた時間内で尿温を高精度に計測することが可能となる。
【0025】
請求項2に記載の発明によれば、所定の条件を被験者が取り得る最低体温以上とすることで、視野欠けがないことを簡単な構成で明確に判断できる。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、所定の条件を通常の人体が取り得る最低体温の下限値35.0℃とすることで、被験者毎の最低体温を設定することなく尿温計測を行なうことが可能となる。
【0027】
請求項4に記載の発明によれば、複数の検温領域の温度値に基づいて尿温を算出することから、被験者による排尿位置の多少変動が発生し、計測領域内の尿温の温度分布が変動したとしても、尿温を高精度に計測することが可能となる。
【0028】
請求項5記載の発明によれば、被験者は、放尿位置が計測領域に対してどのような状態にあるのかを確認することが可能となる。これにより、排尿位置を調整することが出来るため、温度の計測を視野欠けなく実施することが可能となる。
【0029】
請求項6記載の発明によれば、被験者は、排尿位置情報に基づいて現在の放尿位置を確認することが出来るため、被験者は排尿位置を的確に調整することが可能となり、尿温の計測を高精度に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】尿温測定装置の全体構成を示す側面視断面図
【図2】尿温測定装置の各部の構成を示すブロック図
【図3】尿温測定装置のリモコン装置を示す斜視図
【図4】温度計測手段の構成を示すブロック図
【図5】温度計測手段の計測領域を示すボール部の拡大図
【図6】計測領域と展開尿流域との関係を示す説明図
【図7】一個の受光素子で検出される温度と尿温算出処理結果との関係を示す説明図
【図8】計測領域の種類を示す説明図
【図9】尿温測定装置の尿温測定動作全体の手順を示すフローチャート
【図10】尿温測定装置の尿温計測処理の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に関わる尿温測定装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0032】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る尿温測定装置の全体構成を示す側面視断面図であり、本実施形態における尿温測定装置1は、図に示すように、トイレブースに設置された洋式大便器に組み込まれた装置本体部10と、トイレブースの側壁面Wに取り付けられ、装置本体部10の各種機能の操作等を行うためのリモコン装置11と、を有している。
【0033】
そして、この尿温測定装置1は、被験者Pがリモコン装置11を操作することにより、装置本体部10に排泄された排泄物の排出や、排泄後の被験者Pの局部の洗浄や、局部の乾燥を行えるようにしており、また、装置本体部10にて被験者Pが排尿した尿の温度を計測し、リモコン装置11に備えられた表示部30にその測定結果を表示して、測定結果を被験者Pに知らせる機能を有している。
【0034】
さらに装置本体部10は、床面G上に配設した便器本体部12と、同便器本体部12の後部側の上面に載設したケーシング13と、同ケーシング13にそれぞれ回動自在に枢支した便座14及び便蓋15とで構成している。
【0035】
便器本体部12は、被験者Pが排尿や排便を行うためのボウル20を備えた洋式大便器であり、洗浄水をボウル20内へ吐出する被験者Pがボウル20内に排泄した排泄物を便器洗浄手段(図示せず)によって排水口16へ排出するようにしている。また、被験者Pの排泄後の局部の洗浄や乾燥を行なう衛生洗浄手段も備えている。
【0036】
ケーシング13の内部には、前述した便器洗浄手段や衛生洗浄手段からなる便器機能部19と、尿から発せられる赤外線を受光してその温度を計測する温度計測手段37及び温度計測手段37の設置角度や方向を変えてその計測領域を移動させる計測領域移動手段38からなる装置本体機構部39と、装置本体部10の動作全体を制御する装置本体制御部34とが収納されている。
【0037】
温度計測手段37は、ボウル20の表面の所定位置に設けられた計測領域の尿から放射される赤外線を受けてその温度情報を出力するものであり、後に詳述する。
【0038】
続いて、尿温測定装置1の各部の構成を、図2を用いて説明する。装置本体部10は、リモコン装置11との間で各種制御信号や尿温計測結果情報を送受信する通信部35と、温度計測手段37他の各機構からなる装置本体機構部39と、温度計測手段37から得られた温度情報を用いて尿温値の算出、通信部32の制御、衛生洗浄装置部の制御など、尿温測定装置1全体の動作を制御する装置本体制御部34と、で構成されている。
【0039】
また、リモコン装置11は、尿温測定装置1を操作するための各種操作ボタンを備えた操作部31と、尿温測定装置1の制御内容や尿温測定結果を表示するための表示部30と、装置本体部10との間で各種制御信号や尿温測定結果情報を送受信する通信部32と、装置本体部10からの尿温測定結果情報等を記録、表示部30の制御、通信部32の制御等、リモコン装置11全体の動作を制御するリモコン制御部33とで構成されている。
【0040】
次に、リモコン装置11の構成の詳細について、図3を用いて説明する。操作部31は、装置本体部10における尿温計測を開始する際に被験者Pが操作する個人別スイッチ50と、尿温計測を終了する際に被験者Pが操作する計測終了スイッチ51と、尿温計測を実施の途中に計測領域移動手段38を駆動させ計測領域の位置の移動を行なう位置調整スイッチ52と、便器部12を洗浄する際に被験者Pが操作する便器洗浄スイッチ53と、衛生洗浄手段により肛門又は尿道口の洗浄や洗浄後の肛門又は尿道口の乾燥を行なう際の動作の開始および停止を指示する衛生洗浄スイッチ54と、を備えている
【0041】
この個人別スイッチ50は、前述したように尿温測定装置1の計測動作開始を指示する動作開始指示手段として機能するものであるが、装置本体制御部34内の記憶部には、各ボタン毎に専用の記憶領域が割り当てられており、尿温測定装置1はそこに予め記憶されている情報に基づいて決められた動作を行なうようになっている。即ち、複数の被験者に対する個人識別手段としても機能できるようにしている。
【0042】
図3に示すリモコン装置11では、個人家庭での使用を想定して4つのスイッチを備えており、例えば、「1」のボタンを押して尿温計測を行った場合、予め「1」のボタンに割り付けて設定した計測領域になるよう計測領域移動手段38を駆動させる情報を装置本体部10に送信し、計測領域移動手段38により、計測領域を移動させる。これにより、個人に応じて登録されている最適な位置へ、計測開始と同時に計測領域を設定することが可能となる。
【0043】
続いて、表示部30の表示内容について説明する。表示部30には、尿温計測結果を表示する結果表示部55と、計測位置に対する排尿位置を示した排尿位置表示部56と、尿温計測が適切に実施されたかを表示する計測状態表示部57と、を備えている。なお、計測状態表示部57の機能については、後に詳述する。
【0044】
(放射温度分布計測手段の具体的構成について)
次に、ケーシング13内部に設けられた温度計測手段37の具体的な構成について、各構成をブロックで表した図4を参照しながら具体的に説明する。
【0045】
温度計測手段37は、図4に示すように、尿の温度に応じて生じる熱起電力を温度信号として出力する温度検出素子62と、温度検出素子62の前方に配置され、温度検出素子62から生成される計測領域64に存在する検温対象から放射される赤外線を温度検出素子62に集光させる集光光学系66と、温度検出素子62に近接配置された接触計測型の基準温度素子60と、温度検出素子62や基準温度素子60の温度信号出力など温度計測手段37全体の動作を制御する温度計測制御部68と、を備えている。
【0046】
さらに温度計測制御部68は、所定のタイミングで各受光素子62aのアドレス信号を出力するアドレス信号出力手段67と、複数の受光素子62aからの各検出信号をアドレス信号出力手段67から入力されるアドレス信号に基づいて選択するスキャン手段63と、スキャン手段63により選択された受光素子62aからの検出信号や基準温度素子60からの検出信号を増幅する増幅手段61と、増幅手段61からの検出信号をデジタル信号に変換して装置本体制御部34に送信するA/D変換手段65と、A/D変換手段65によって得られたデジタル値を所定の換算式も用いて温度値に換算し計測温度を算出する計測温度算出手段69と、を備えている。
【0047】
温度検出素子62として本実施例では、多数の熱電対を接続して赤外線の受光によって生じる熱起電力を検出信号として出力するサーモパイル素子を受光素子62aとして複数個まとめて一体にパッケージしたサーモパイル素子アレイを採用している。
【0048】
このサーモパイル素子アレイは、図4に示すように、シリコン基板(図示せず)に8行×8列のマトリクス状に64個のサーモパイル素子が受光素子62aとして隣接配置され、外観視で略平板状をなす受光素子群を構成している。
【0049】
(検温領域の設定について)
次に、温度計測手段37によって形成される計測領域64の設定方法に関して図5及び図6を参照しながら具体的に説明する
【0050】
図5は温度計測手段37の計測領域を示す図であり、(a)は、図1に示した尿温測定装置の使用状態の排尿の挙動を示すボウル部の側面視断面図の拡大図であり、(b)は、同じく上面視したボウル部の拡大図である。また、図6はいずれも便器ボウル面に当たった後、ボウル表面上で展開して膜状となった尿と計測領域の関係を示したもので図であり、(a)は、計測領域64と尿展開尿流域75とが合致している状態を、(b)は、計測領域64の一部が尿展開尿流域75から外ずれた状態を、夫々示すものである。
【0051】
図5(a)、(b)に示すように、被験者Pが排尿口70から排出した尿は、空中を通過し排尿軌跡71を描きながらボウル20の尿落下位置72に落下して衝突する。そしてボウル20に衝突した尿は、尿落下位置72に展開しながら溜水に向けて流下していく。図中、ボウル20上の尿落下位置72の周りに広がった太い破線で示される領域は、尿流がボウル20に衝突して展開した領域である尿展開領域75を示す。
【0052】
被験者の排尿口70から放出されてボウル20内の空中を通過している尿は、ボウル20内の空気(たとえば20℃の場合)との熱の授受が発生し、表面温度は低下している状態と考えられるが、我々の行なった予備試験により、展開尿流域75の表面温度は、排尿口70から放出された直後の尿温に可及的に近似した温度を維持していることが確認できた。
【0053】
この展開尿流域75では、それまでの尿流経路では内部にあって外気により冷却を受けていない尿が衝突によって表面に次から次へと現れ、かつ、衝突直後のためボウル20への熱伝導による放冷等の影響も極く少ない表面温度状態を形成しているためと考えられる。
【0054】
また、更なる予備試験により、展開尿流域75の内部にも温度分布があることを確認している。ある例では、温度変化が±0.1℃以内の範囲が尿落下位置72から下方に約70mm、最大幅約47mmの楕円形状の領域となっていた。温度計測精度を±0.1℃とした場合には、検温する対象は、この楕円形状の領域であり、本実施例で採用する計測領域の大きさ(20mm×20mm)に対して、安定的に計測するための十分な大きさが得られることを確認している。
【0055】
ここで、被験者の排尿行為により決定される尿落下位置72は、絶えず、同一位置でないことから、尿温を算出する際には、計測した温度値の中から最大値を取得することが必要となる。
【0056】
被験者Pによる排尿状態により変化する尿落下位置72および展開尿流域と、計測領域64との位置関係は、図6(a)で示すように、計測領域64が、展開尿流域75に包含される場合と、図6(b)で示すように、計測領域64が展開尿流域75に包含されずボウル20も含まれる場合、の2種類の場合に分けられる。
【0057】
前者の場合には、温度計測手段37の温度検出素子62で検出する赤外線は尿から放射されるもののみとなり、その他の物体から発せられる赤外線による外乱なく高精度に尿温を計測することが可能であり、計測すべき状態である。一方、後者の場合、尿とボウル20から放射される赤外線を温度計測手段37の温度検出素子62で検出することになり、尿の温度の他にボウルの温度も検出され、高精度に温度計測を実施することができず、計測状態とすべきでない。
【0058】
図6(b)のように、計測領域64が展開尿流域75に包含されない場合には、計測領域64が展開尿流域75が包含されるよう、被験者Pの尿落下位置72の位置情報を得、計測領域移動手段38により、計測領域64を移動させても良い。
【0059】
次に、温度検出素子62で計測される温度を算出する処理について、図7を用いて具体的に説明する。
【0060】
本実施形態における温度検出素子62は前述したように赤外線を受けてそのエネルギーに比例した電気的出力を行なうものであるが、その構造上の理由により特有な特性を有しているため、その特性に対応した処理が必要となる。以下その点について説明する。
【0061】
図7(a)は本実施形態に用いた温度検出素子62の特定の受光素子62aで37.0℃一定に保たれた黒体を被検温体として連続して複数回計測した温度を時系列で示したものであり、(b)は、(a)で得られた温度を計測温度算出手段69にて平均化処理した後の計測温度を時系列で示したものである。なお、サーモパイルの制御仕様から、一回の計測に要する時間は1.5msである。
【0062】
ここで、尿の温度を計測する場合の計測精度としては、±0.1℃が必要とされている。これは、既存の脇下体温計の計測精度と同等であり、この精度であれば、被験者Pは、通常の体温に比べて高いかどうかという発熱状態の確認や、被験者Pが成人女性であれば、低温期および高温期の変動からなる月経周期の確認を行なうことが可能である。
【0063】
また、尿の温度の計測は、排尿時間以内に計測が終了することも必要となる。本願発明者による多数の被験者の排尿時間を計測したモニター試験によると、排尿時間は、被験者数250名で、平均14.0秒、最大43.9秒、最小5.0秒という結果を得ており、全ての被験者の尿温計測が出来る状態とするためには、排尿時間5.0秒以内に計測を完了する必要がある。
【0064】
つまり、尿温測定装置には、計測精度は±0.1℃、計測完了までの時間は5秒以内という要求仕様が求められている。
【0065】
図7(a)に示したサーモパイルの特定の受光素子で検出される温度の計測結果では、37.0℃の一定に保たれた被検温体を計測しているにも関わらず、このように必要な計測精度は±0.1℃に比べて無視出来ないほど計測値はばらつくため、短時間での計測では真の値を計測することは、困難である。
【0066】
従って、図7(b)に示すように、計測開始からの計測温度を累積していき、逐次平均値を算出する処理(以下、蓄積平均化処理と呼ぶ)を行なうことによって、計測精度を確保するという処理が考えられる。この蓄積平均化処理は例えば、計測回数50回の尿温は、計測回数1回から50回までの蓄積された計測温度の平均値を、計測回数100回の尿温は、計測回数1回から100回までの蓄積された計測温度の平均値、といったように、処理を行なうものである。なお、この処理は、図4で示した温度計測制御部68内の計測温度算出手段69にて実施するものである。
【0067】
図7(b)に示すように、計測回数を増やし、蓄積平均処理を実施することで、真値(本例の場合37.0℃)に漸近していくことが確認できる。尿温測定装置に求められている要求仕様は、計測精度は±0.1℃のため、その範囲を確認すると、この例では計測回数は130回以上必要になることが確認できる。
【0068】
従って、計測回数130回を取得するまでの時間は、130回×1.5ms=195msとなり、本実施例で用いている、8×8素子型のサーモパイルの場合、64素子の検温に要する時間は、12480msもの時間が必要となる。
【0069】
また、被験者Pの実際の排尿では、被験者の排尿動作に対応して、サーモパイルの受光素子に対応する全ての計測領域に尿が絶えず合致している状態ではなく、図6(b)に示すように、計測領域64が、展開尿流域75に包含されない場合もある。前述のように尿温の計測精度±0.1を達成するためには、絶えずボウルで飛散した尿と検温領域が合致した状態で、計測回数130回を要することなり、先に算出した時間は、実際の排尿動作を加味すると、1素子では195ms以上、64素子では12480ms以上を要することとになる。
【0070】
次に、本実施形態における尿温測定装置1において、尿の温度を計測し尿温を算出する処理について、図面を用いて具体的に説明する。
【0071】
図8は本実施形態における温度計測手段37の計測領域64を示す図であり、
(a)は本発明における第二の計測領域を示す図であり、(b)は同じく第一の計測領域を示す図であり、それぞれ、温度計測を実施する受光素子62aを黒塗りで示している。また、図9及び図10は、尿温測定動作の手順を示すフローチャートであり、図9は全体の動作を示し、図10は温度計測手段37の行なう温度計測動作の詳細を示したものである。
【0072】
本実施形態では図8(a)に示すように、温度検出素子62の計測領域64の外郭の4頂点に対応する各受光素子62aの検温領域64aの一群を、所定の温度計測動作を実施する第二の計測領域とする。また図8(b)に示すように、計測領域64の中央部の4点に対応する検温領域64aの一群を、別の所定の温度計測動作を実施する第一の計測領域とする。
【0073】
まず、尿温測定装置1の尿温計測処理の全体動作について、図9を用いて説明する。
【0074】
被験者Pは便座14に着座した状態でリモコン装置11の操作部31における個人別スイッチ50の自分に割り付けられたスイッチを選択して押圧操作して便器ボウル20に表示された標的をめがけて放尿を開始する(ステップS1)。なお、この標的は男女別に最適な位置に設定されるものであり、この標的位置は温度計測手段37の計測領域64を設定する際の基準となる位置でもある。
【0075】
この押圧操作に基づいて、リモコン装置11の制御部33は、温度計測手段37による計測を開始させるための起動信号を、通信部32を介して装置本体部10の装置本体制御部34へ送信する。
【0076】
通信部35を介して起動信号を受信すると、装置本体部10の装置本体制御部34は、温度計測手段37による温度計測処理を実行する(ステップS2)。この温度計測処理は、図10におけるステップS10〜S33までの処理であり、後で詳説する。
【0077】
温度計測手段37による温度計測処理が終わると、装置本体制御部34は温度計測手段37から送られてくる計測温度情報に基づいて、尿温を算出する尿温算出処理を行なう(ステップS3)。
【0078】
通信部32を介して算出された尿温測定値を含む情報を受信すると、リモコン装置11のリモコン制御部33は、表示部30に尿温測定結果を表示する(ステップS4)。
【0079】
その後、定装置本体部10の定装置本体制御部34、及びリモコン装置11のリモコン制御部33は、次回の尿温測定に必要な所定の測定準備動作を行い、一連の尿温測定が終了する(ステップS5)。
【0080】
以上が全体の一連の動作であるが、次に、前述した全体フローのステップS2における温度計測処理について、図10を参照して具体的に説明する。
【0081】
温度計測処理は、大きく3つの処理ブロックによって、その機能を分別している。第一の処理ブロックは、ステップS10からステップS14までであり、適切な計測状態で温度計測が行なわれているか否かを計測データから判断する処理ブロックである。
【0082】
具体的には、図6(a)で示したように計測領域64が展開尿流域75に包含されている状態、即ち、尿の正確な温度計測を行なうことが出来る適切な計測状態であるか、あるいは、図6(b)で示したように計測領域64が検温尿流域74に包含されていない状態、即ち、正確な温度計測を行なうことが出来ない不適切な計測状態であるかを判別している。つまり、この第一の処理ブロックは、計測データから被験者による排尿が所定の位置に設定された標的に当たった状態で行なわれているか否かを判断していることとなる。
【0083】
第二の処理ブロックは、ステップS20からステップS25までであり、第一の処理ブロックで温度計測が予め想定された適切な状態で行なわれていると判定された後、取得した温度値から尿温を算出する処理ブロックである。
【0084】
第三の処理ブロックは、ステップS30からステップS33までであり、第一の処理ブロックで温度計測が予め想定された適切な状態で行なわれていないと判定された後、被験者に放尿状態の改善を促すよう表示したり、また、排尿が終了したことを判定して第二の処理ブロックで算出した尿温を表示する処理ブロックである。
【0085】
続いて、第一の処理ブロックから詳細に説明を実施する。
【0086】
図10に示すように、温度計測手段37の温度計測制御部68は、アドレス信号出力手段67によって計測領域64の四隅に対応する各検温領域62aのアドレス信号を生成し、スキャン手段63にて4つの検温領域62a、つまり、第二の計測領域に対応する温度計測値を取得し、温度計測手段制御部68に記憶させる(ステップS10)。この一連の処理を繰り返し行なう回数をここでは巡回回数と呼ぶ。
【0087】
なお、このとき、1つの検温領域62aの温度計測値を取得する時間は、1.5msであるので、4つの検温領域では6msの時間を要する。つまり、第二の計測領域の温度値を取得する時間は6msとなる。
【0088】
次に、温度計測制御部68は、この巡回回数が所定のAに達したか否かを判断し(ステップS11)、巡回回数が予め設定された巡回回数Aに達していないと判断すると(ステップ11:No)、処理をステップS10に戻す。
【0089】
一方、温度計測制御部68は、巡回回数が予め設定された巡回回数Aに達したと判断すると(ステップ11:Yes)、第二の計測領域の、それぞれの検温領域に対するA個の温度値の平均値を算出する。(ステップS12)
【0090】
このとき、所定の巡回回数Aが10回の場合、1回の巡回に要する時間が6msであるので、10巡回に要する時間は60msとなる。なお、平均値を算出する処理などは、1つの検温領域を計測する時間に比べ十分に小さいため、時間の検討の際には、無視をすることとする。
【0091】
次に、温度計測制御部68は、算出された4個の平均値の中から、最小値を算出する。(ステップS13)
【0092】
次に、温度計測制御部68は、この最小値が規定温度以上であるかを判別し(ステップS14)、温度値が規定温度以上であると判断すると(ステップS14:Yes)、処理をステップS20へ移行する。また、温度値が規定温度以上でないと判断すると(ステップS14:No)、処理をステップS30へ移行する。
【0093】
例えば、規定温度が35.0℃に予め設定設定され、計測領域64の4つの頂点に対応する検温領域の10巡回分の平均値が、それぞれ、36.8℃、36.6℃、36.9℃、37.2℃の場合、最小値は、36.6℃となり、規定温度以上であるので、ステップS20へ移行する処理となる。
【0094】
従って、前記の例における計測状態は、計測領域64の4つの頂点すべてに尿の反応があると見なせる。つまり、図6(a)で示すような状態で、尿温測定に適した計測状態と見みなし、ステップS20からの尿温を算出する処理へと移行する。
【0095】
一方、計測領域の4つの頂点に対応する検温領域の10巡回分の平均値が、それぞれ24.0℃、25.1℃、36.9℃。37.4℃の場合は、最小値は、24.0℃となり、規定温度以下であるので、ステップS30へ移行する処理となる。この状態は、計測領域64の少なくとも1つの頂点に尿の反応がないと見なしている。つまり、図6(b)で示すような、ボウルの展開尿流域75に計測領域64がすべて包含されていない状態と見みなし、ステップS30からの処理へ移行する。
【0096】
このように計測領域の4つの頂点に対応する検温領域を計測することで、計測領域すべてを計測することなく、計測領域64すべてがボウルの展開尿流域75に包含しているかを見なし判断している。
【0097】
これは、同じ10回の巡回回数で比較すると、64ヶの検温領域全てを検温する場合は960ms(=1.5ms×64ヶ×10回)、4つの頂点に対応する検温領域のみ検温する場合は、60ms(=1.5ms×4ヶ×10回)となり、大幅に計測時間を削減することが可能である。また、巡回回数を10回とすることは、計測精度±0,1℃を満たす計測回数130回より大幅に少ない回数であるが、4つの頂点に対応する検温領域では、計測領域64が、すべて検温尿流域74に覆われているかを判断することが目的であるため問題とならない。
【0098】
ここで、この規定温度は得られる温度計測値が尿かそれ以外の物なのかを判断するためのものである。本実施形態においては計測領域64がボウル20内に設定されているため、前記のそれ以外の物として検温対象となる物は、ボウル20の表面やペーパー類のような、通常は尿の温度より低い物である。一方、この尿の温度は体温とも近似している。従って、このことを利用して、人体が取り得る最低体温を目安として規定温度を設定している。
【0099】
さらに、本実施形態においては、この規定温度を35.0℃としたが、この35.0℃は、通常の人体が取り得る最低体温として設定している。また、規定温度を被験者それぞれに対応する最低体温に設定すれば、尿とボール面を区別する閾値を、より的確に設定できることから、被験者毎にあった判断処理を実施することが可能である。
【0100】
続いて、温度計測値の最小値が規定温度以上の場合に行なう第二の処理ブロックについて詳細に説明を実施する。
【0101】
装置本体制御部34は、計測領域64がすべてボール面上の展開尿流域75に包含されているという判断により、尿温測定可能状態であることを、本体装置部10の通信部35を通じて送信する。リモコン装置11のリモコン制御部33は、通信部32を通じて、前述の情報を受信し、表示部30内の計測状態表示部57の表示を適切な排尿状態であることを示す”OK”と表示する(ステップS20)。これにより、被験者Pは、直接的に確認することができない放尿位置と計測領域の位置状態を、リモコン装置11の表示部30を通じて間接的に確認することができるため、安心して尿の温度の計測を行なうことが可能となる。
【0102】
次に、温度計測手段37の温度計測制御部68は、アドレス信号出力手段67が計測領域の中央部に対応する4つの検温領域の計測温度を取得できるようなアドレス信号を生成し、スキャン手段63にて中央部に対応する4つの検温領域、つまり、第一の計測領域に対応する温度値を取得し、温度計測制御部68に記憶する。(ステップS21)
【0103】
このとき、1つの検温領域の温度値を取得する時間は、1.5msであるので、4つの計測領域では6msの時間要する。つまり、第二の計測領域の温度値を取得する時間は6msとなる。
【0104】
次に、温度計測制御部68は、温度計測制御部68に記憶されたを計測領域の中央部に対応する4つの検温領域各々の蓄積平均を実施する。これらの各処理を所定回数繰り返して行なう。従って、例えば3回目の巡回であれば、そのときの蓄積平均値は、初回の記憶温度と2回目の記憶温度と3回目の記憶温度の平均となる。(ステップS22)
【0105】
次に、温度計測制御部68は、以上説明した第一の計測領域の計測が巡回回数Bに達したが否かを判断し(ステップS23)、巡回回数が予め設定された回数に達していないと判断すると(ステップ23:No)、処理をステップS21に戻す。即ち、これらの処理を巡回回数Bに達するまで繰り返す。
【0106】
例えば、所定の巡回回数Bが35回の場合、巡回回数が35回までは、計測領域の中央部の4つの検温領域を継続的に計測し、温度値の取得、蓄積平均処理を行うこととなる。
【0107】
一方、温度計測手段制御部68は、巡回回数が予め設定された回数に達したと判断すると(ステップ23:Yes)、ステップS24に処理を移行する。ステップS24では、ステップ22で算出した第一の計測領域の各々の検温領域に対応する蓄積平均値から、最大となる温度値を抽出する。これは、第一の処理ブロックで第一の計測領域が展開尿流域75に包含されていることを判断していても、展開尿流域75内には、外気への放熱に伴うある程度の温度変化があり、最も放熱量の低い状態、つまり最大の温度値を取得する必要があるためである。
【0108】
このとき、所定の巡回回数Bが35回の場合、1回の巡回に要する時間が6msであるので、35巡回に要する時間は210msとなる。
【0109】
このように、計測領域64の4つの頂点に対応する検温領域、つまり第二の計測領域の計測を10回実施し、計測領域64がすべてボウルの展開尿流域74に包含されているか判断し、その後、中央部に対応する4つの検温領域、つまり第一の計測領域の計測を35回集中的に検温し、計測回数を増やすといった処理を実施している。前述のように、4つの頂点に対応する検温領域の計測に要する時間は60ms、中央部に対応する4つの検温領域の計測に要する時間は210msとなり、尿がボウルに存在し続ける限り、この周期で、尿温を計測し続けることとなる。また、計測精度±0.1℃を満足するためには、計測回数を130回以上とすることが必要であるが、この処理にて、初めて130回を超えるのは、4周期分が終了し計測回数が140回となった時点であり、そのときの検温に要する時間は、1080msとなり、要求仕様としている5秒以内を十分に満たすものとなる。
【0110】
最後に、第三の処理ブロックについて詳細に説明を実施する。
【0111】
ステップS14でNoと判断した処理について述べる。ステップS14でNoと判断される状態は、図6(b)に示すように、計測領域64に被験者Pの排尿によるボウルの展開尿流域75が包含されなくなった場合と、被験者Pの排尿が終了して検温対象となる尿が存在しない場合が該当する。検温対象となる尿が存在しない場合、温度計測手段で計測される温度は、ボウルが外気への熱の授受により徐々に放熱して温度低下するものである。
【0112】
従って、温度計測制御部68は、ステップ14でNoと判断した場合には、計測領域64がボウルの展開尿流域75に包含されていないと判断し、高精度に尿温を計測できない状態であることを、本体装置部10の通信部35を通じて送信する。リモコン装置11のリモコン制御部33は、通信部32を通じて、前述の情報を受信し、表示部30内の計測状態表示部57に適切な計測状態でないことを示す”NG”と表示し、また、同時に、現在の排尿位置と計測領域64がボウルの展開尿流域75に包含される位置との関係を、表示部30内の排泄位置表示部56を用いて表示する。
【0113】
例えば、計測領域の4つの頂点に対応する検温領域の温度値が、左上が36.0℃、左下が24.2度、右下が36.7℃、右上が37.0℃であった場合には、排泄位置表示部56の右上に対応する表示部のみ点灯させることで、被験者Pの排尿位置を左下方向に誘導し、計測領域64がボウルの展開尿流域75に包含されるよう、被験者Pに報知するものである。
【0114】
これにより、被験者Pは、直接に確認することができない放尿位置と計測領域の位置状態を、リモコン装置11の表示部30を通じて確認することができるため、自然な排尿姿勢で高精度な計測状態となるよう排尿位置を調整することが可能となる。
【0115】
次に、温度計測手段制御部68は、第二の処理ブロックを1回でも実施したか(1サイクル以上であるか)を判断し(ステップ31)ている。1サイクル以上であると判断すると(ステップS31:Yes)ステップS32へ、1サイクルもないつまり1回も実施していないと判断すると(ステップS31:No)、処理をステップS10に戻す。この処理(ステップS31:No)は、被験者の排尿により尿温計測が開始されたか否かを判断するものであり、尿温測定装置1に着座し、個人別スイッチ50を押し、尿温計測を開始する行為を実施したが、尿を放尿が未だ行なわれていない場合には、ステップ31:Noとなり、計測を待機し続ける状態となる。
【0116】
次に、温度計測制御部68は、ステップ31までの処理が連続して所定巡回回数C以上に達したかを判断し(ステップS32)、巡回回数が予め設定された回数に達していないと判断すると(ステップ32:No)、処理をステップS10に戻す。
【0117】
前述の状態は、排尿が継続しているが、一時的に被験者Pによる排尿位置が変動し、図6(b)に示すように、計測領域に被験者Pの排尿によるボウルの展開尿流域75が包含されなくなった場合と判定しているものである。引き続いて、計測領域の4つの頂点に対応する検温領域の計測を行うことで、計測領域が全てボウルの展開尿流域75に包含さてているかの判断を続行する処理となる。
【0118】
一方、温度計測制御部68は、ステップ31までの処理が連続して予め設定された巡回回数Cに達した判断すると(ステップ32:Yes)、ステップ33へと移行する。
【0119】
前述の状態は、被験者Pの排尿が完了し、ボウルが徐々に温度低下している状態と判断される。
【0120】
所定の巡回回数Cは、正確な温度計測が完了するのに十分な回数を設定すれば良く、例えば10回程度が適当である。即ち、排尿が完了していなくても、尿温計測処理に必要な温度計測が行なわれたことを判断して測定終了処理へと導くものである。
【0121】
続いて、装置本体制御部34は、記憶部の最終となる累積平均値の最高温度を尿温とし、記憶部に測定結果として記憶する(ステップS33)。
【0122】
このように、計測領域64がボウルの展開尿流域75に包含しているかを判断することを参照するためことを目的とする第二の計測領域と、第二の計測領域を用いて計測領域がボウルの展開尿流域75に包含していることを判断した上で、計測領域の中央部という最小限度の第一の計測領域を複数回計測することで、視野欠けがない状態で、計測回数を増やし、結果、高精度な尿温計測を行なうことが可能である。
【0123】
また、図8(c)に第一の計測領域の別例を示す説明図を示す。図8(a)、図8(b)と同様に、温度計測を実施する受光素子を黒塗りで示す。この場合、スキャン手段により受光素子全体を一括にして処理する状態とし、結果、第一の計測領域は計測領域全体となる。
【0124】
一般に受光素子からの検出信号の出力強度は、受光素子の面積に比例するものであり、受光素子全体を一括として処理した検出信号の出力強度は、1つ1つの受光素子でスキャンしていた検出信号の出力強度より、著しく大きくすることが可能となる。従って、尿温を算出する処理においては、S/N比と呼ばれる信号レベル(尿からの赤外線に対応)とノイズレベル(例えば検出素子の熱雑音に対応)との比を大きくすることを可能とする。例えば、尿温が低い場合には、尿温が高い状態に比べ、尿から放射される赤外線のエネルギー量が低くなる。1つ1つの受光素子では、S/N比が低下し、高精度な尿温計測が行いにくい場合があるが、図8(c)のように受光素子を一括で処理し計測領域を全体とすることで、S/N比は向上し、高精度な尿温計測を行なうことが可能である。
【符号の説明】
【0125】
1 尿温測定装置
10 装置本体部
11 リモコン装置
12 便器部
13 ケーシング
14 便座
15 便蓋
16 排水口
17 溜水
18 トラップ管路
19 便器機能部
20 ボウル
30 表示部
31 操作部
32 通信部
33 リモコン制御部
34 装置本体制御部
35 通信部
37 温度計測手段
38 計測領域移動手段
39 装置本体機構部
50 個人別スイッチ
51 計測終了スイッチ
52 位置調整スイッチ
53 便器洗浄スイッチ
54 衛生洗浄スイッチ
55 尿温表示部
56 排尿位置表示部
57 計測状態表示部
60 基準温度素子
61 増幅手段
62 温度検出素子
62a 受光素子
63 スキャン手段
64 計測領域
64a 検温領域
65 A/D変換手段
66 集光光学系
67 アドレス信号出力手段
68 温度計測制御部
69 計測温度算出手段
70 排尿口
71 排尿軌跡
72 尿落下位置
75 展開尿流域G 床面
P 被験者
W 側壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の尿から放射される赤外線を受光し、その温度を計測する温度計測手段と、
前記温度計測手段が計測する温度計測値に基づいて排泄された直後の尿の温度である尿温を算出する尿温算出部と、を備えた尿温測定装置において、
前記温度計測手段は、第一の計測領域と、複数の受光素子が各々割付けられた複数の計測領域が前記第一の計測領域を囲むように配設された第二の計測領域と、を有し、
前記第二の計測領域で計測される温度値が所定の条件を満足した場合に、尿温算出部は、第一の計測領域で計測される温度値で尿温の算出をすることを特徴とする尿温測定装置。
【請求項2】
前記所定の条件は、前記第二の計測領域を構成する各検温領域で計測される全ての温度値が、人体が通常取り得る最低体温以上であることを特徴とする請求項1記載の非接触尿温測定装置。
【請求項3】
前記最低体温は、35.0℃以上であることを特徴とする請求項2記載の非接触尿温測定装置。
【請求項4】
前記第一の計測領域は、複数の受光素子が各々担当する互いに隣接した複数の検温領域からなり、前記尿温算出部は、前記検温領域にて計測される複数の温度値の最大値に基づいて前記尿温の算出をすることを特徴とする請求項1乃至3のいづれか1項に記載の非接触尿温測定装置。
【請求項5】
前記第二の計測領域の少なくとも1つの検温領域が、所定の条件を満足しない場合には、計測不能の状態であることを被験者に報知する報知手段を有することを特徴とする請求項1乃至4のいづれか1項に記載の非接触尿温測定装置。
【請求項6】
前記報知手段は、前記第二の計測領域のそれぞれの検温領域に対応する位置情報を有しており、前記第二の計測領域の計測領域が所定温度以下になった場合に、対応する位置情報と共に、計測不能の状態であることを被験者に報知する位置情報報知手段を有することを特徴とする請求項1乃至4のいづれか1項に記載の非接触尿温測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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