説明

尿素化合物、尿素化合物の自己集合体及び自己集合体を含有するオルガノゲル並びにオルガノゲルの製造方法

【課題】理論的な分子設計ができ、広範な種類の有機溶剤を少ない添加量でも自己集合体を形成しゲル化できる尿素化合物、前記尿素化合物を含有するオルガノゲルとその製造方法及びオルガノゲルに各種機能を付与できる自己集合体。
【解決手段】例えば、フロログルシンを出発原料とし1、3、5位にニトロフェノールを導入してニトロ体を合成し(第一工程)、次いで、該ニトロ体のニトロ基を水素化反応によりアミノ基としたアミン体を合成し(第二工程)、シアン酸(CHNO)、アルキルイソシアネート又はアリールイソシアネート(以下、総じてイソシアネートということがある)との反応によりウレア基を導入(第三工程)することで製造された尿素化合物が例示できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は尿素化合物、尿素化合物の自己集合体及び自己集合体を含有するオルガノゲル並びにオルガノゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルとは、ゲル形成能力を有する物質(ゲル化剤)により形成された三次元網目構造中に有機溶剤や水等の流体が含まれている構造体をいい、流体が有機溶剤である場合をオルガノゲル、水である場合をハイドロゲルという。オルガノゲルは、化粧品、医薬品、農薬、食品、接着剤、塗料、樹脂等の分野において、化粧品や塗料の流動性の調整に利用されている。また、例えば、廃油をゲル化して固形物として水質汚染を防止したりする等、環境保全の分野においても幅広く利用されている。
【0003】
ゲル化剤についての研究は、主に高分子化合物について行われてきたが、近年では、高分子化合物に比べて、多様な機能の導入が容易な低分子化合物についての研究開発が進められている。上述したように、オルガノゲルは幅広い分野での利用がされており、今後も利用分野の拡大が期待されている。このため、低分子化合物のゲル化剤(以下、低分子ゲル化剤ということがある)には、オルガノゲルの用途拡大に当たり、広範な種類の有機溶剤に対するゲル形成能力が求められている。こうした課題に対し、これまでにも、種々の有機溶剤に対して少量の添加量で安定性に優れるゲルを形成できる低分子ゲル化剤として、尿素化合物が開示されている(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
従来の低分子ゲル化剤は、特許文献1、2に記載の尿素化合物のように長鎖のアルキル基を有している。加えて、対称性が低い構造である。このため、誘導体の合成が容易でなく、低分子ゲル化剤の機能の予測性が低いものあった。これに対し、ベンゼン環を母環とし、長鎖のアルキル基を有せず、対称性が高い尿素化合物が開発されている(例えば、特許文献3)。特許文献3の尿素化合物は、対称性が高いため、理論的な分子設計が可能となる。
【特許文献1】特開2000−256303号公報
【特許文献2】特開2004−359643号公報
【特許文献3】特開2008−189559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3の低分子ゲル化剤は、比較的極性の高い有機溶剤(アセトン、エタノール等)では自己集合化し自己集合体を形成してゲル化するものの、トルエン等の非極性有機溶剤や、ジクロロメタン等の極性の低い有機溶剤のゲル化には適さないという問題があった。加えて、ゲル化剤には、オルガノゲル形成に当たって、より少ない添加量でゲル化することが要求されている。さらに、オルガノゲルには、新たな機能が求められている。
多彩な機能付加を施行した場合、特許文献3の低分子ゲル化剤では、無機塩との相互作用が弱く、そのためゲルを構成する自己集合体の形状を目的に応じて制御することはできず、すべての自己集合体はファイバー状に自己集合化してしまう。自己集合体の形状制御を含めて目的用途に応じたゲル製造としては、課題を残していた。
そこで本発明は、理論的な分子設計ができ、広範な種類の有機溶剤を少ない添加量でも自己集合体を形成しゲル化できる尿素化合物、前記尿素化合物を含有するオルガノゲルとその製造方法及びオルガノゲルに各種機能を付与できる自己集合体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明で見い出された尿素化合物は、無機塩又は無機イオンを添加することによりその自己集合化が促進される。本発明者は、本発明の尿素化合物の自己集合化について鋭意研究した結果、添加する無機塩又は無機イオンの種類により、尿素化合物の自己集合体の形状を制御できることを見い出し、以下の発明に至った。
【0007】
請求項1にかかる発明は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする尿素化合物である。
【0008】
【化1】

【0009】
[X、X、Xはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基である。前記アリール基は、ハロゲン基、アルキル基及びアルコキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を有していてもよい。]
【0010】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、X、X、Xはそれぞれ独立に、水素又は炭素数1〜22の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基であることを特徴とする。
【0011】
請求項3にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、X、X、Xはそれぞれ独立に、炭素数8〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることを特徴とする。
【0012】
請求項4にかかる発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物が自己集合化により形成したことを特徴とする自己集合体である。
【0013】
請求項5にかかる発明は、請求項4に記載の発明において、無機塩又は無機イオンを含有することを特徴とする。
【0014】
請求項6にかかる発明は、請求項5に記載の発明において、無機塩は、イットリウム塩、セシウム塩、ランタン塩、銅塩、マグネシウム塩及びイッテルビウム塩からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする。
【0015】
請求項7にかかる発明は、請求項5に記載の発明において、前記無機イオンは、イットリウムイオン、セシウムイオン、ランタンイオン、銅イオン、マグネシウムイオン及びイッテルビウムイオンからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項8にかかる発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物と、イットリウム塩、セシウム塩、イットリウムイオン又はセシウムイオンとを混合して形成したことを特徴とする粒子状の自己集合体である。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物と、銅塩、ランタン塩、マグネシウム塩、イッテルビウム塩、銅イオン、ランタンイオン、マグネシウムイオン又はイッテルビウムイオンとを混合して形成したファイバー状の自己集合体。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物及び有機溶剤を含有することを特徴とするオルガノゲルである。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の自己集合体及び有機溶剤を含有することを特徴とするオルガノゲルである。
【0020】
請求項12に記載の発明は、請求項8に記載の粒子状の自己集合体及び有機溶剤を含有することを特徴とするオルガノゲルである。
【0021】
請求項13に記載の発明は、請求項9に記載のファイバー状の自己集合体及び有機溶剤を含有するオルガノゲルであることを特徴とする。
【0022】
請求項14に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物及び有機溶剤の混合物を得る混合工程と、前記混合物に超音波を照射する照射工程とを有することを特徴とするオルガノゲルの製造方法である。
【0023】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の発明において、前記混合工程は、さらに無機塩又は無機イオンを混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の尿素化合物は、理論的な分子設計ができ、広範な種類の有機溶剤を少ない添加量で自己集合体を形成しゲル化できる。さらに本発明の自己集合体は、オルガノゲルに各種機能を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[尿素化合物]
(構成)
本発明の尿素化合物は、下記一般式(1)で表される尿素化合物(以下、尿素化合物(1)という)である。式(1)中、X、X、Xはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基である。前記アリール基は、ハロゲン基、アルキル基及びアルコキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を有していてもよい。
、X、Xは、例えば、所望する自己集合体の形状や、オルガノゲルを構成する有機溶剤の種類に応じて選択することができる。
【0026】
【化2】

【0027】
、X、Xのアルキル基の炭素数は特に限定されず、オルガノゲルを構成する有機溶剤の種類に応じて決定することができ、例えば、炭素数1〜22の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が好ましく、広範な種類の有機溶剤をゲル化させる観点から、炭素数8〜16の直鎖状のアルキル基がより好ましい。該アルキル基の炭素数が多いと、極性の低い有機溶剤との親和性が高い傾向になり、前記アルキル基の炭素数が少ないと、極性の高い有機溶剤との親和性が高くなる傾向にある。X、X、Xのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0028】
、X、Xのアリール基としては特に限定されず、例えば、その水素原子の一部または全部がハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。X、X、Xのアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。
前記アリール基の水素原子が置換されていてもよいハロゲン基は特に限定されず、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
前記アリール基の水素原子が置換されていてもよいアルキル基又はアルコキシ基は特に限定されず、オルガノゲルを構成する有機溶剤の種類に応じて決定することができる。前記アリール基の水素原子が置換されていてもよいアルキル基又はアルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜22のアルキル基又はアルコキシ基が挙げられる。
【0029】
(製造方法)
尿素化合物(1)は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、フロログルシンを出発原料とし1、3、5位にニトロフェノールを導入してニトロ体を合成し(第一工程)、次いで、該ニトロ体のニトロ基を水素化反応によりアミノ基としたアミン体を合成し(第二工程)、シアン酸(CHNO)、アルキルイソシアネート又はアリールイソシアネート(以下、総じてイソシアネートということがある)との反応によりウレア基を導入(第三工程)することで製造できる。
【0030】
第一工程は、例えば、出発原料であるフロログルシンと、アルカリ触媒と、4−フルオロニトロベンゼンとを第一分散媒に懸濁して第一分散液とし、フルオログルシンの水酸基をニトロフェノールに置換する反応を行う。その後、該第一分散液を濾過してアルカリ触媒を除去し、第一反応媒を減圧留去する。減圧留去後の残渣を回収媒に溶解して回収する。そして、水系溶媒で洗浄(洗浄処理)した後、再度、回収媒を減圧留去して固体の粗ニトロ体を得る。得られた粗ニトロ体を精製処理してニトロ体を得る。
【0031】
第一工程におけるアルカリ触媒は特に限定されず、例えば、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)を挙げることができる。第一分散媒としては種々の有機液体を使用でき、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。回収媒としては、第一工程で得られるニトロ体を溶解できればよく、種々の有機液体が使用でき、例えば、ジクロロメタンを挙げることができる。
【0032】
フロログルシンの第一分散液中の濃度は特に限定されないが、例えば、10〜200mmol/Lの範囲で決定することが好ましい。4−フルオロニトロベンゼンの第一分散液中の濃度は、フロログルシンの濃度に応じて決定することができ、例えば、30〜800mmol/Lの範囲が好ましい。アルカリ触媒の第一分散液中の濃度は、フロログルシンへのニトロフェノールの導入に十分な濃度であればよく、例えば、100〜4000mmol/Lの範囲で決定することが好ましい。
【0033】
第一工程における反応の方法は、例えば、第一分散液を攪拌しながら加熱して行う。加熱温度は特に限定されないが、例えば、80〜120℃の範囲で行うことが好ましい。温度が低すぎると反応が不十分となり、温度が高すぎると副生物が生成するおそれがあるためである。反応時間は、反応温度を勘案して決定することができ、例えば、12〜36時間の範囲で決定することが好ましい。
【0034】
水系溶媒による洗浄処理は公知の手法をとることができる。例えば、回収媒に溶解して回収した残渣と水を分液ロートに入れて震盪した後に水相を除去し、次いで、飽和食塩水を分液ロートに加えて震盪した後、水相を除去する方法が挙げられる。
【0035】
精製処理の方法は特に限定されず、例えば、シリカゲルクロマトグラフィ、活性白土もしくはアルミナ等による不純物の吸着、有機液体による再結晶等が挙げられる。
【0036】
第二工程は、例えば、第一工程で得られたニトロ体及び水素化触媒を第二分散媒に懸濁した第二分散液を水素雰囲気下で攪拌し、ニトロ基を水素化してアミノ基とする。その後、前記第二分散液を濾過して水素化触媒を取り除く。次いで、濾液を濃縮して粗アミン体とし、該粗アミン体を精製処理してアミン体を得る。
【0037】
第二分散媒は、第一工程で得られたニトロ体の溶解性を勘案して選択できる。例えば、エタノールやメタノール等のアルコール類、酢酸エチル(EtOAc)等が挙げられ、中でも、EtOAcを用いることが好ましい。
【0038】
水素化触媒は、第一工程で得られたニトロ体のニトロ基を水素化反応により、アミノ基にできるものであればよい。例えば、金属パラジウム(Pd)、白金(Pt)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム炭素(Pd/C)等が挙げられる。
【0039】
ニトロ体の第二分散液中の濃度は特に限定されないが、例えば、10〜200mmol/Lの範囲で決定することが好ましい。水素化触媒の第二分散液中の添加量はニトロ基の水素化反応に十分な量であればよく、例えば、ニトロ体の質量に対して1〜30質量%の範囲で決定することが好ましい。
【0040】
水素化反応の時間は、短すぎるとニトロ基の水素化反応が不十分となり、長すぎると水素化反応が飽和し、製造に要する時間が長大化して好ましくない。従って、第二工程の反応時間は、例えば5〜30時間の範囲で決定することが好ましい。
【0041】
第三工程は、例えば、第二工程で得られたアミン体及びイソシアネートを第三反応媒に溶解して第三分散液とし、該第三分散液を攪拌しながら任意の時間反応させ、析出した固体を濾過し、さらに該固体を洗浄媒で洗浄し、尿素化合物(1)を得ることができる。
【0042】
イソシアネートは、尿素化合物(1)の前記(1)式におけるX、X、Xに導入する基の種類に応じて選択することができる。例えば、X、X、Xに水素原子を導入する場合にはシアン酸を選択し、アルキル基を導入する場合にはアルキルイソシアネートを選択し、アリール基を導入する場合にはアリールイソシアネートを選択できる。アルキルイソシアネートとしては、イソシアン酸メチル、イソシアン酸エチル、イソシアン酸プロピル、イソシアン酸ブチル、イソシアン酸ペンチル、イソシアン酸ヘプチル、イソシアン酸オクチル、イソシアン酸ノニル、イソシアン酸デシル等が挙げられる。アリールイソシアネートとしては、イソシアン酸フェニル、イソシアン酸トリル、イソシアン酸ナフチル等が挙げられる。
【0043】
なお、第三工程は、上述したイソシアネートの代わりに、アミン類とトリホスゲンとを第三反応媒に添加して反応させ、ウレア基を導入することができる。
【0044】
アミン体の第三分散液中の濃度は特に限定されず、例えば、10〜200mmol/Lの範囲で決定することが好ましい。イソシアネートの第三分散液中の濃度はアミン体の濃度に応じて決定でき、例えば、30〜800mmol/Lの範囲で決定することが好ましい。
【0045】
第三反応媒はアミン体及びイソシアネートの溶解性と反応温度とを勘案して決定することが好ましく、例えば、沸点が比較的高い1,2−ジクロロエタンが挙げられる。洗浄媒は、尿素化合物(1)が溶解しにくく、かつ、未反応のアミン体やイソシアネートが溶解し易いものである。例えば、ヘキサン、ジクロロメタン等、比較的極性の低い有機液体が挙げられる。
【0046】
第三工程における反応の方法は、アミン体とイソシアネートとの反応性を勘案して選択することができ、例えば、攪拌混合、加熱還流又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。
第三工程の反応温度は、添加するイソシアネートの種類を勘案して決定することができ、例えば、室温〜80℃の範囲で決定することが好ましい。上述の範囲であれば、アミン体へのウレア基の導入が十分に行われ、尿素化合物(1)の収率を上げられるためである。第三工程の反応時間は反応温度を勘案して決定することができ、例えば、5〜40時間の範囲で決定することが好ましい。加えて、上記反応後に、第三分散液を冷却し、固体を析出させてもよい。
【0047】
[自己集合体]
(構成)
本発明における自己集合体とは、尿素化合物(1)が分子間の相互作用によって自己集合化し、ファイバー状の自己集合体、粒子状の自己集合体、チューブ状の自己集合体等の様々な高次構造が形成されたものである。
【0048】
本発明の自己集合体は、ウレア基の水素原子と酸素原子が、他のウレア基の水素原子又は酸素原子と水素結合することにより、例えばファイバー状の自己集合体を形成していると考えられる。さらに、無機塩又は無機イオンを含有することにより、尿素化合物(1)は無機イオンがウレア基同士の結合に介在し、ファイバー状の自己集合体、粒子状の自己集合体、チューブ状の自己集合体等の様々な高次構造を形成するものと推測できる。
【0049】
自己集合体には、尿素化合物(1)の他、無機塩又は無機イオンを含有することができる。無機塩又は無機イオンは、所望する自己集合体の形状と、有機溶剤の種類とを勘案して選択することが好ましい。無機イオンとしては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、ランタン、イッテルビウム等のランタノイドイオン、イットリウム等のアクチノイドイオン、銅イオン、亜鉛イオン等が挙げられる。
無機塩としては、前記無機イオンからなる陽性成分と、例えば、塩素、臭素等のハロゲンイオン、硫酸、硝酸等の無機酸、蟻酸、酢酸等の有機酸等の陰性成分と、からなる無機塩を挙げることができる。具体的には、塩化ビスマス(BiCl)、塩化銅(CuCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化亜鉛(ZnCl)、塩化ランタン(LaCl)、臭化マグネシウム(MgBr)、臭化銅(I)(CuBr)、臭化銅(II)(CuBr)、臭化セシウム(CsBr)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、硝酸イットリウム(Y(NO)、イッテルビウムトリフルオロメタンスルホナート(Yb(Otf))、ランタントリフルオロメタンスルホナート(La(Otf))等が挙げられる。このような無機塩や無機イオンを添加することで、自己集合体の構造を制御することができる。
【0050】
例えば、ファイバー状の自己集合体を得るには、銅イオン、ランタンイオン、マグネシウムイオン、イッテルビウムイオン又はこれらの塩等を用いることが好ましい。また例えば、粒子状の自己集合体を得るには、セシウムイオン、イットリウムイオン又はこれらの塩等を用いることが好ましい。
なお、無機塩又は無機イオンは、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0051】
(製造方法)
自己集合体は、例えば、尿素化合物(1)及び有機溶剤の混合物を得、前記混合物に超音波を照射し、ゲル化あるいはゾル化することにより形成される。
【0052】
有機溶剤は、物質を溶解させるのに用いられる液体又は比較的融点の低い固体状の有機化合物をいう。有機溶剤のうち、固体状の有機化合物の融点は、一義的に定まるものではないが40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることが好ましい。
【0053】
有機溶剤は特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等の芳香族化合物類、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、ジクロロエタン、ジクロロメタン等のハロゲン物質類、アセトニトリル等の高極性化合物、ガソリン、灯油、軽油、重油等の鉱物油、大豆油、オリーブ油、綿実油、菜種油、コーン油等の植物油、魚油等及びこれらの混合物が挙げられる。
【0054】
前記混合物中における有機溶剤に対する尿素化合物(1)の割合は、有機溶剤の種類に応じて決定することができ、例えば、前記混合物中の尿素化合物(1)の濃度を0.5〜30mmol/Lの範囲とすることが好ましく、1〜15mmol/Lの範囲とすることがより好ましい。上記範囲内であれば、自己集合体を良好に形成できるためである。
【0055】
前記混合物には、さらに無機塩又は無機イオンを混合することができる。無機塩又は無機イオンの前記混合物中の割合は、尿素化合物(1)の濃度に応じて決定することができ、例えば、前記混合物中の尿素化合物(1)に対して、0.5〜5倍モル当量が好ましく、0.8〜1.2倍モル当量がより好ましい。上記範囲であれば、自己集合体の形状を良好に制御できるためである。なお、モル当量とは、無機塩又は無機イオンのモル数を尿素化合物(1)のモル数で除した値である。
【0056】
超音波照射の条件としては、尿素化合物(1)を自己集合化させるだけの十分な超音波の強度と処理時間があればよい。例えば、超音波発振機における定格出力が超音波発振機の単位面積あたり0.2〜0.5W/cmが好ましく、より好ましくは0.3〜0.4W/cmの範囲であり、発振周波数は30〜100kHzが好ましく、より好ましくは40〜60kHzの範囲で行うのが良い。又、処理の時間は1分〜24時間が好ましく、より好ましくは1時間〜12時間である。
【0057】
[オルガノゲル]
(構成)
本発明のオルガノゲルは、尿素化合物(1)及び有機溶剤を含有するものである。
オルガノゲルを構成する有機溶剤は自己集合体の製造に用いる有機溶剤と同様である。
【0058】
本発明のオルガノゲルは、自己集合体及び有機溶剤を含有するものであってもよい。上述したように、本発明の自己集合体は、各種無機塩又は無機イオンを添加することにより、その形状を制御することができる。このため、オルガノゲルが各種形状に制御された自己集合体を含有することにより、オルガノゲルに各種機能を付与できるためである。
【0059】
(製造方法)
オルガノゲルの製造は、尿素化合物(1)及び有機溶剤の混合物を得る混合工程と、前記混合物に超音波を照射する照射工程とを有するものである。
混合工程は有機溶剤に尿素化合物(1)を混合する工程である。前記混合物中における有機溶剤に対する尿素化合物(1)の割合は、有機溶剤の種類に応じて決定することができ、例えば、前記混合物中の尿素化合物(1)の濃度を0.5〜30mmol/Lの範囲とすることが好ましく、1〜15mmol/Lの範囲とすることがより好ましい。上記範囲内であれば、オルガノゲルを良好に形成できるためである。
【0060】
混合工程は、さらに無機塩又は無機イオンを混合することができる。オルガノゲルの製造に用いる無機塩又は無機イオンは、自己集合体が含有する無機塩又は無機イオンと同様である。無機塩又は無機イオンの前記混合物中の割合は、尿素化合物(1)の濃度に応じて決定することができ、例えば、前記混合物中の尿素化合物(1)に対して、0.5〜5倍モル当量が好ましく、0.8〜1.2倍モル当量がより好ましい。上記範囲で無機塩又は無機イオンを混合することで、各種有機溶剤をゲル化するのに必要な最少の濃度(最少ゲル化濃度)を低下させたり、自己集合体の形状を制御することができる。さらに、尿素化合物(1)が有機溶剤に対して不溶の場合であっても、上記範囲で無機塩又は無機イオンを混合することで、オルガノゲルを良好に形成することができる。なお、モル当量とは、無機塩又は無機イオンのモル数を尿素化合物(1)のモル数で除した値である。
【0061】
混合の方法は、有機溶剤に尿素化合物(1)を溶解し、又は、有機溶剤に尿素化合物(1)を均一に分散できる方法であればよく、公知の混合方法を用いることができる。
【0062】
照射工程は、前記混合物に超音波を照射し、前記混合物をゲル化する工程である。
超音波照射の条件としては、前記混合物をゲル化させるだけの十分な超音波の強度と処理時間があればよい。例えば、超音波発振機における定格出力が超音波発振機の単位面積あたり0.2〜0.5W/cmが好ましく、より好ましくは0.3〜0.4W/cmの範囲であり、発振周波数は30〜100kHzが好ましく、より好ましくは40〜60kHzの範囲で行うのが良い。又、処理の時間は1分〜24時間が好ましく、より好ましくは1時間〜12時間である。
【0063】
上述の通り、尿素化合物(1)は対称性が高いため、一般式(1)中のX、X、Xの基による予測性の高い設計ができる。加えて、尿素化合物(1)は広範な種類の有機溶剤を低い濃度でゲル化し、オルガノゲルを形成することができる。さらに、無機塩又は無機イオンを添加することで、尿素化合物(1)の最少ゲル化濃度を低下でき、より低濃度でのオルガノゲル形成が図れる。
【0064】
本発明の尿素化合物(1)は、無機塩又は無機イオンを添加することにより、この無機塩又は無機イオンと混合され自己集合化して、自己集合体を形成する。添加する無機塩又は無機イオンを選択することによる自己集合体の形状と大きさとを制御し、任意の自己集合体を選択的に得ることができる。このため、三次元の網目状のマトリックス構造を必要とする場合と球状の表面積の増大を期待する場合とで、自己集合体を制御し、オルガノゲルの機能を調整できる。
【0065】
尿素化合物(1)を用いたオルガノゲルにおいては、ウレア基の水素原子と酸素原子が、他のウレア基の水素原子又は酸素原子と水素結合することにより、例えば、ファイバー状の自己集合体を形成し、さらにこれらが三次元の網目構造を形成していると考えられる。そして、無機塩又は無機イオンを添加することにより、尿素化合物(1)は無機塩又は無機イオンの添加により最少ゲル化濃度が低下することから、無機イオンがウレア基同士の結合に介在しているものと推測できる。加えて、上述したように添加する無機塩又は無機イオンは、有機溶剤の種類との組み合わせによりその効果が異なる。このような無機塩又は無機イオンへの応答性を有する尿素化合物(1)を用いることで、自己集合体の構造を予測性高く制御し、形成されるオルガノゲルに各種機能を付与できる。
【0066】
多くの場合、熱や紫外線等の外部刺激によりゲルが形成されるのに対し、尿素化合物(1)を用いることで、超音波照射によりオルガノゲルを容易に形成できる。このため、従来、冷却や紫外線照射が適当でない用途において、尿素化合物(1)を用いたオルガノゲルの形成が行える。
【0067】
本発明の尿素化合物は、香粧品、医薬品、農業分野の基剤、製剤として、又、塗料、インク、潤滑油、充填剤等に利用できる。特に香粧品、医薬品、農業用製剤の基剤に用いる場合には、生理活性物等の含有成分の徐放性基剤として、創傷被覆剤や保湿剤といった香粧品や医薬品の外用基剤として有用である。
【0068】
また、本発明の尿素化合物は、周辺の無機塩又は無機イオンによりゾル−ゲル変換することから、土木建築に使用する充填剤や、例えば金属や金属イオンを捕捉させる環境浄化や廃水処理、金属や金属イオンの存在を検知するセンサー等に有用である。そして、自己集合体に混合した無機塩や無機イオンを活用して、ゲル内を反応場として使用する有機反応剤として有用である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
(合成例1)尿素化合物Aの合成
下記一般式(5)の尿素化合物Aは、下記一般式(2)のフロログルシンの1、3、5位にニトロフェノールを導入して、下記一般式(3)のニトロ体Aを合成し(第一工程)、次いで、該ニトロ体Aのニトロ基を水素化反応によりアミノ基として、下記一般式(4)のアミン体Aを合成し(第二工程)、次いで、イソシアネートとの反応によりウレア基を導入(第三工程)して合成した。
【0070】
【化3】

【0071】
前記一般式(2)のフロログルシン(東京化成工業株式会社製)3.0g(23.8mmol)、及び、アルカリ触媒としてKCO65.8g(476mmol)を第一分散媒であるDMF240mLに懸濁し、懸濁液を調製した。該懸濁液に10mL(94mmol)の4−フルオロニトロベンゼン(東京化成工業株式会社製)を加え、第一分散液とし、該第一分散液を100℃で2日間攪拌した。その後、室温まで冷却し、濾過することでKCOを除去し、第一分散媒を減圧留去した。得られた残渣を回収媒であるジクロロメタンに溶解して回収し、分液ロートを用いて水で洗浄した。洗浄後、水相を除去し、飽和食塩水を加えて、分液ロートを用いて、再度洗浄した。飽和食塩水での洗浄後、水相を除去し、回収媒を減圧留去して得られた粗ニトロ体をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:EtOAc=40:1(体積比))にて精製し、黄色固体のニトロ体A(7.74g)を得た(第一工程)。
【0072】
得られたニトロ体AのNMRでの分析結果は、以下の通りであった。
H−NMR(600MHz、CDCl、25℃):δ6.65(s,3H),7.13(d,J=8.9Hz,6H),8.26(d,J=8.9Hz,6H)。
13C−NMR(150MHz、CDCl、25℃):δ108.0,118.6,126.5,144.0,158.2,161.7。
上記の結果より、ニトロ体Aは、前記一般式(3)の1,3,5−トリス(p−ニトロフェノキシ)ベンゼンであることが確認された。そして、ニトロ体Aの収率は67%であった。収率は、得られたニトロ体Aのモル数をフロログルシンのモル数で除して得られる百分率である。
【0073】
7.0g(14.3mmol)のニトロ体A、及び、水素化触媒として700mgのPd/Cを第二分散媒であるEtOAc(140mL)に懸濁し第二分散液とした。該第二分散液を水素雰囲気下、室温で16時間撹拌した。攪拌後、第二分散液を濾過してPd/Cを除き、濾液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、粗アミン体Aを得た。得られた粗アミン体をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(EtOAc)で精製し、茶色固体のアミン体A(5.43g)を得た(第二工程)。
【0074】
得られたアミン体AのNMRでの分析結果は、以下の通りであった。
H−NMR(600MHz、CDCl、25℃):δ6.15(s,3H),6.64(t,J=8.2Hz,6H),6.84(d,J=8.2Hz,6H)。
13C−NMR(600MHz、CDCl、25℃):δ100.3,116.5,121.5,143.2,148.1,161.1。
上記の結果より、アミン体Aは、前記一般式(4)の1,3,5−トリス(p−アミノフェノキシ)ベンゼンであることが確認された。そして、アミン体Aの収率は95%であった。収率は、得られたアミン体Aのモル数をニトロ体Aのモル数で除して得られる百分率である。
【0075】
1.0g(2.50mmol)のアミン体Aを1,2−ジクロロエタン(50mL)に溶解し、さらに、イソシアネートとして2.0mL(11.3mmol)のイソシアン酸オクチル(和光純薬工業株式会社製)を加えて第三分散液Aとした。該第三分散液Aを室温で1時間撹拌した後、83℃で21時間加熱還流した。加熱還流後、第三分散液Aを室温まで放冷した後、析出した固体を吸引濾過にて分離し、分離した固体をヘキサン、ジクロロメタンで洗浄して肌色固体の尿素化合物A(7.87g)を得た(第三工程)。
【0076】
得られた尿素化合物AのNMRでの分析結果は、以下の通りであった。
H−NMR(600MHz、DMSO−d、25℃):δ0.84(t,J=6.9Hz,9H),1.26−1.41(m,36H),3.05(dt,J=2.5,6.5Hz,6H),6.06−6.08(m,6H),6.94(d,J=8.9Hz,6H),7.37(d,J=8.9Hz,6H),8.42(s,3H)。
13C−NMR(600MHz、DMSO−d、25℃):δ13.9,22.1,26.4,28.7,28.8,28.8,29.7,31.2,99.9,119.0,120.2,137.3,148.6,155.2,160.1。
上記の結果より、尿素化合物Aは、前記一般式(5)で表される尿素化合物であることが確認された。そして、尿素化合物Aの収率は86%であった。収率は、得られた尿素化合物Aのモル数をアミン体Aのモル数で除して得られる百分率である。
【0077】
(合成例2)尿素化合物Bの合成
<第一工程>
実施例1で得られたアミン体A200mg(0.5mmol)を第三分散媒である1,2−ジクロロエタン(10mL)に溶解し、さらに、イソシアネートとして0.18mL(1.66mmol)のイソシアン酸フェニル(東京化成工業株式会社製)を加えて第三分散液Bとした。該第三分散液Bを室温で10時間撹拌し、析出した固体を吸引濾過にて分離し、分離した固体をヘキサンで洗浄して白色固体の尿素化合物B(388mg)を得た(第三工程)。
【0078】
得られた尿素化合物BのNMRでの分析結果は、以下の通りであった。
H−NMR(600MHz、DMSO−d、25℃):δ6.95(t,J=7.6Hz,3H),7.03(d,J=8.9Hz,6H),7.26(t,J=7.9Hz,6H),7.43(d,J=8.2Hz,6H),7.46(d,J=8.9Hz,6H),8.64(s,3H),8.70(s,3H)。
13C−NMR(600MHz、DMSO−d、25℃):δ100.4,118.2,119.8,120.3,121.8,128.8,136.3,139.7,149.5,152.6,160.0。
上記の結果より、尿素化合物Bは、下記一般式(6)で表される尿素化合物であることが確認された。そして、尿素化合物Bの収率は89%であった。収率は、得られた尿素化合物Bのモル数をアミン体Aのモル数で除して得られる百分率である。
【0079】
【化4】

【0080】
合成例1、2に示すように、フロログルシンを出発原料として、第一〜第三工程により、目的とする尿素化合物が得られることが判った。
【0081】
(実施例1、8、13、20)
表1に示す有機溶剤1mLをスクリュー管に入れ、合成例1で得た尿素化合物Aを3mmol/L、4mmol/L、5mmol/L、10mmol/L、15mmol/L、25mmol/Lとなるように添加し、超音波洗浄機(B2510J−DTH Branson社製)を用い、周波数:42kHz、出力:0.39W/cmで超音波を照射した。超音波照射後、スクリュー管内を肉眼で観察し、ゲル化の可否を判定した。判定は、スクリュー管を逆さにした際に、有機溶剤が流下しないものをゲル化「可」とし、沈殿の発生や液層の分離が見られるものをゲル化「否」と判定した。こうして、ゲル化「可」と判定したものについて、各種有機溶剤に対する尿素化合物Aの最少ゲル化濃度を求め、その結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2〜7、9〜12、14〜19、21〜24)
表1に示す無機塩を尿素化合物Aと等モル添加した以外は実施例1と同様にして、各種有機溶剤をゲル化するのに必要な尿素化合物Aの最少ゲル濃度を求め、その結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1の結果の通り、尿素化合物Aは、メタノール、アセトン、クロロホルム、酢酸エチルに対して、ゲル化できることが判った。加えて、実施例1、8、13、20の結果から、尿素化合物Aの最少ゲル化濃度は、0.55〜1.44質量%という、低濃度であることが判った。
有機溶剤にメタノールを用いた場合、無機塩を添加しない実施例1では、尿素化合物Aの最少ゲル化濃度は5mmol/Lであったのに対し、無機塩を添加した実施例2〜7では、最少ゲル化濃度の低下が見られた。有機溶剤にクロロホルムを用いた場合、無機塩を添加しない実施例13では、尿素化合物Aの最少ゲル化濃度は15mmol/Lであった。これに対し、無機塩を添加した実施例14〜19では、尿素化合物Aの最少ゲル化濃度は、3〜10mmol/Lとなった。特に、無機塩としてCuBrを添加した実施例14では、尿素化合物Aの最少ゲル化濃度は3mmol/L(0.17質量%)であり、Y(NOを添加した実施例18では、尿素化合物Aの最少ゲル化濃度は5mmol/L(0.29質量%)であり、顕著な最少ゲル化濃度の低下が見られた。有機溶剤に酢酸エチルを用いた場合、無機塩を添加しない実施例20における尿素化合物Aの最少ゲル化濃度は15mmol/Lであった。無機塩を添加した実施例21における尿素化合物Aの最少ゲル化濃度は5mmol/L(0.48質量%)であり、無機塩の添加により、最少ゲル化濃度の大幅な低下が見られた。
【0085】
有機溶剤としてジクロロメタンを用いた場合、無機塩を添加しない場合には、尿素化合物Aはジクロロメタンに不溶で、超音波を照射してもゲル化しなかった。しかし、実施例22〜24のように無機塩を添加し超音波を照射することで、ゲル化することが判った。
【0086】
以上のように、尿素化合物Aは、広範な種類の有機溶剤に対してゲル化することが判った。加えて、有機溶剤に適した無機塩を選択することで、尿素化合物Aの最少ゲル化濃度が低下することが判った。そして、適切な無機塩を選択することにより、0.5質量%以下という、極めて低い濃度でゲル化できることが判った。さらに、適切な無機塩を加えることで、より広範な種類の有機溶剤をゲル化できることが判った。
【0087】
(実施例25)
有機溶剤としてクロロホルム0.5mLをスクリュー管に入れ、合成例1で得た尿素化合物Aを15mmol/Lとなるように添加し、超音波洗浄機(B2510J−DTH Branson社製)を用い、周波数:42kHz、出力:0.39W/cmで4時間超音波を照射し、ゲル化させた。該ゲルについて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、ゲルを形成する自己集合体を観察した(倍率:×2700)。SEMの画像を図1に示す。
【0088】
(実施例26)
尿素化合物Aの濃度を5mmol/Lとし、5mmol/LのCuClを添加した以外は、実施例25と同様にしてゲルを形成させ、SEM観察(倍率:×6000)を行った。SEMの画像を図2に示す。
【0089】
(実施例27)
尿素化合物Aの濃度を10mmol/Lとし、10mmol/LのCsBrを添加した以外は、実施例25と同様にしてゲルを形成させ、SEM観察(倍率:×7500)を行った。SEMの画像を図3に示す。
【0090】
(実施例28)
尿素化合物Aの濃度を10mmol/Lとし、10mmol/LのY(NOを添加した以外は、実施例25と同様にして部分ゲルを形成させ、SEM観察(倍率:×4500)を行った。SEMの画像を図4に示す。
【0091】
実施例25では、図1のように、一般的なゲルの構造の特徴である、ファイバー状の自己集合体が見られた。実施例26においても、ゲルの構造の特徴であるファイバー状の自己集合体が見られた。これに対し、実施例27は、図3に示すように粒子状の集合体が凝集した自己集合体が見られ、実施例28は、図4に示すように粒子状の自己集合体となっていた。これらの観察結果から、有機溶剤の種類、尿素化合物Aの濃度、無機塩の種類とその濃度を組み合わせることにより、自己集合体を所望の形状に制御できることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例25で得られたゲルのSEM画像である。
【図2】実施例26で得られたゲルのSEM画像である。
【図3】実施例27で得られたゲルのSEM画像である。
【図4】実施例28で得られたゲルのSEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される尿素化合物。
【化1】

[X、X、Xはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基である。前記アリール基は、ハロゲン基、アルキル基及びアルコキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を有していてもよい。]
【請求項2】
、X、Xはそれぞれ独立に、水素又は炭素数1〜22の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基である、請求項1に記載の尿素化合物。
【請求項3】
、X、Xはそれぞれ独立に、炭素数8〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である、請求項1に記載の尿素化合物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物が自己集合化により形成した自己集合体。
【請求項5】
無機塩又は無機イオンを含有する、請求項4に記載の自己集合体。
【請求項6】
前記無機塩は、イットリウム塩、セシウム塩、ランタン塩、銅塩、マグネシウム塩及びイッテルビウム塩からなる群から選択される1種以上である、請求項5に記載の自己集合体。
【請求項7】
前記無機イオンは、イットリウムイオン、セシウムイオン、ランタンイオン、銅イオン、マグネシウムイオン及びイッテルビウムイオンからなる群から選択される1種以上である、請求項5に記載の自己集合体。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物と、イットリウム塩、セシウム塩、イットリウムイオン又はセシウムイオンとを混合して形成した粒子状の自己集合体。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物と、銅塩、ランタン塩、マグネシウム塩、イッテルビウム塩、銅イオン、ランタンイオン、マグネシウムイオン又はイッテルビウムイオンとを混合して形成したファイバー状の自己集合体。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物及び有機溶剤を含有するオルガノゲル。
【請求項11】
請求項4乃至7のいずれか1項に記載の自己集合体及び有機溶剤を含有するオルガノゲル。
【請求項12】
請求項8に記載の粒子状の自己集合体及び有機溶剤を含有するオルガノゲル。
【請求項13】
請求項9に記載のファイバー状の自己集合体及び有機溶剤を含有するオルガノゲル。
【請求項14】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の尿素化合物及び有機溶剤の混合物を得る混合工程と、前記混合物に超音波を照射する照射工程とを有する、オルガノゲルの製造方法。
【請求項15】
前記混合工程は、さらに無機塩又は無機イオンを混合する、請求項14に記載のオルガノゲルの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−77037(P2010−77037A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244520(P2008−244520)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】