説明

尿素化合物およびチオ尿素化合物ならびにこれを用いたオルガノゲル

【課題】従来にない化学構造を有し、優れたゲル化特性を発現する化合物、および当該化合物を用いた可逆的ゾルゲル転移が可能なオルガノゲルを提供する。
【解決手段】例えば1,3,5−トリス[4−(N´−フェニルウレイド)−フェノキシメチル]−2,4,6−トリエチルベンゼン又はチオウレイド化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素化合物およびチオ尿素化合物ならびにこれを用いたオルガノゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルは、塗料、樹脂等の分野において塗料等に添加し流動性を調整したり、あるいは廃油をゲル化して固形物とし水質汚染を防止したりする等、食品、環境保全の分野において幅広く利用されている。ゲルとは化学物質により形成された三次元網目構造中に水や有機溶剤などの流体が含まれている構造体をいい、流体が有機溶剤である場合をオルガノゲル、水である場合をハイドロゲルという。
【0003】
近年、尿素基を有する低分子化合物が有機溶剤のゲル化剤として用いられることが報告されている(例えば特許文献1)。このような低分子ゲル化剤の例として、特許文献1には式(1)で表される化合物が、特許文献2には式(2)で表される化合物が開示されている。
【0004】
【化1】

(式(1)において、
は炭素原子数が7〜21の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、
は炭素原子数が1〜22の直鎖若しくは分岐及び/又は環状を有するアルキル基若しくはアルケニル基、
は炭素原子数が8〜22の直鎖若しくは分岐及び/又は環状を有するアルキル基若しくはアルケニル基、
nは2〜4の整数を示す。)
【0005】
【化2】

(式(2)において、
、RおよびRは、同一または異なって、アルキルを表す。)
【0006】
また、非特許文献1には式(3)で表される化合物が開示されている。
【化3】

(式(3)において、
Rは、C12H25または、以下の式(3a)で表される基である。)
【0007】
【化4】

【0008】
さらに、非特許文献2には、式(4)で表される化合物が開示されている。
【化5】

【0009】
また、ゲルに外部刺激を与えるとゾルに転移することが知られている。ゲル−ゾル転移を容易に起こす材料は刺激応答性材料としてドラッグデリバリーシステムなどへの応用も検討されている。外部刺激としてもっとも一般的なのは温度であり、例えば特許文献3には、温度を変化させることによりゲル−ゾル−ゲルへの可逆的転移(可逆的ゾルゲル転移)が可能なオルガノゲル、および当該ゲルを形成する低分子ゲル化剤が開示されている。さらに、特許文献4には紫外光を外部刺激として、特許文献5にはpHを外部刺激として可逆的ゾルゲル転移が可能なオルガノゲルおよびそれを形成する低分子ゲル化剤が開示されている。
【特許文献1】特開2000−256303号公報
【特許文献2】特開2004−359643号公報
【特許文献3】特開2000−229992号公報
【特許文献4】特開平5−247084号公報
【特許文献5】特開2000−126585号公報
【非特許文献1】日本化学会編、「現代界面コロイド化学の基礎」、第2版、丸善株式会社、2002年5月、p.117
【非特許文献2】Jan H.van Eschand Ben L.Feringa, AngewandteChemie International Edition, (ドイツ), 2000, vol.39, No.13, p.2263
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ゲルは化合物同士が結合してファイバー状構造を形成し、さらにはこれらが三次元網目構造を形成することによってその基礎ができる。化合物同士の結合の根元は主として尿素基等による水素結合と考えられている。当該三次元網目構造に有機溶剤などの流体が含まれることによりゲルが形成されることは前述のとおりである。
さて従来のゲル化特性を有する尿素化合物はいずれも長鎖アルキル基を有している。詳細は明らかでないものの、低分子ゲル化剤の経験則としてこの長鎖アルキル基がゲル化能力を高めるように働いていると考えられている。しかし、長鎖アルキル基を持たない構造でかつゲル化能力を有する尿素化合物は報告されてこなかった。従って従来にない化学構造を有する、有機溶剤等のゲル化能力に優れた新規化合物が望まれていた。
【0011】
また、従来の可逆的ゾルゲル転移性を有するオルガノゲルは、温度、紫外線、pHを外部刺激とするものであるが、これ以外の外部刺激により可逆的ゾルゲル転移性を有するオルガノゲルが望まれていた。特に、紫外線、pHを外部刺激とするオルガノゲルの可逆的ゾルゲル転移性は、ゲル化剤の化学構造に大きく依存すると推察されるため、従来にない化学構造の化合物をデザインし、これを用いてなる可逆的ゾルゲル転移性を有するオルガノゲルが望まれていた。
すなわち本発明は、従来にない化学構造を有し、優れたゲル化特性を発現する化合物、および当該化合物を用いた可逆的ゾルゲル転移が可能なオルガノゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は鋭意検討した結果、ベンゼン環を母核とし対称性の良い位置に尿素基またはチオ尿素基が導入された化合物が前記目的を達成することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、前記課題は以下に示す本発明の尿素化合物またはチオ尿素化合物により解決される。
[1]後述の式(5)で表される尿素化合物またはチオ尿素化合物。
[2]前記[1]に記載の尿素化合物またはチオ尿素化合物、および極性基を有する有機溶剤を含むオルガノゲル。
[3]前記[1]に記載の尿素化合物またはチオ尿素化合物、極性基を有する有機溶剤、および陰イオン、を含むオルガノゾル。
【0013】
また、前記課題は以下に示す本発明の尿素化合物またはチオ尿素化合物を用いたオルガノゲルまたはオルガノゾルの製造方法により解決される。
[4]前記[1]に記載の尿素化合物またはチオ尿素化合物、および極性基を有する有機溶剤を混合する工程、
前記混合物に超音波を照射する工程、
を含むオルガノゲルの製造方法。
[5]前記[2]に記載のオルガノゲルを準備する工程、前記オルガノゲルに陰イオンを混合する工程、を含むオルガノゾルの製造方法。
[6]前記[3]に記載のオルガノゾルを準備する工程、前記オルガノゾルに臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を混合する工程、を含むオルガノゲルの製造方法。
[7]
A)[2]に記載のオルガノゲルを準備する工程
B)当該オルガノゲルに陰イオンを混合してオルガノゾルに転移させる工程
C)当該ゲルに臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を混合して、再びオルガノゲルに転移させる工程
D)さらに、B)またはB)およびC)工程
を含む、ゾル−ゲル転移方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来にない化学構造を有し、優れたゲル化特性を発現する化合物、および当該化合物を用いた可逆的ゾルゲル転移が可能なオルガノゲルが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.本発明の尿素、チオ尿素化合物について
1)構造
本発明の尿素、チオ尿素化合物は、式(5)で表される。なお以下、本発明の尿素、チオ尿素化合物を「(チオ)尿素化合物」という。
【化6】

【0016】
式(5)において、Xは酸素原子または硫黄原子である。原料入手の容易性から酸素原子であることが好ましい。
【0017】
式(5)において、Yはアリール基であり、置換基を有していても良い。アリール基とは芳香族炭化水素の核から水素原子を1つ除いた残基をいい、その例にはフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基またはこれらに置換基が導入されたものが含まれる。後述するように、極性基を有する有機溶剤をゲル化する能力(ゲル化能力)に優れるため、Yはフェニル基であることが好ましい。あるいは、アルキルフェニル基であってもよい。その場合は、炭素数が1〜3のアルキル基がオルト位またはメタ位に置換したアルキルフェニル基が好ましく、特にメタ位にメチル基が導入されたm−トルイル基であることが好ましい。
【0018】
式(5)において、Zはアリーレン基である。アリーレン基とは芳香族炭化水素の核から水素原子を2つ除いた残基をいい、その例にはフェレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基またはこれらに置換基が導入されたものが含まれる。Zは、前記ゲル化能力に優れるためフェニレン基であることが好ましい。中でも、ベンゼン環の酸素原子が結合している部位に対して、オルト位またはメタ位に尿素基の窒素原子が結合している構造(m−フェニレン基またはo−フェニレン基であること)がより好ましい。中でもm−フェニレン基であることがさらに好ましい。
【0019】
式(5)において、Rは水素原子またはアルキル基である。アルキル基としては、前記ゲル化能力に優れるため、炭素数が1〜3のアルキル基であることがより好ましく、エチル基であることがさらに好ましい。
【0020】
2)製造方法
本発明の(チオ)尿素化合物はベンゼン誘導体を原料として三段階で合成できる。以下に合成方法の一例を示す。
【0021】
【化7】

第一工程:アルゴン雰囲気下、メタニトロフェノール(9.4g:67mmol)、炭酸カリウム(9.3g:67mmol)のアセトン懸濁液(130ml)を氷浴にて冷却し、上記(6)の化合物である1,3,5−トリス(ブロモメチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン(9.9g:22mmol)を加える。反応懸濁液を室温にまで昇温し、17時間程度反応させる。次に反応液をロータリーエバポレーターにて濃縮したのち、クロロホルムを加え、ろ過し、不溶の炭酸カリウムを除去する。ろ液を濃縮した後、得られた残渣を塩化メチレン、ノルマルヘキサンの混合溶媒を用いて再沈殿する。続いて、当該結晶を濾過により得て、真空加熱乾燥することで、純粋なニトロ体(7)が白色固体として得られる。収量は11.8g(86%)程度である。
ここでは例として1,3,5−トリス(ブロモメチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンを示したが、臭素以外のハロゲン原子を有するものでもよい。また、メタニトロフェノールを例示したが、パラ体、オルト体でもよい。
【0022】
第二工程:アルゴン雰囲気下、ニトロ体(7)(500mg:0.8mmol)、二塩化スズ二水和物(2.8g:12mmol)の1,4−ジオキサン溶液(5ml)を、室温にて2時間攪拌し、50℃に加温しさらに3時間反応させる。次に当該反応液を氷冷し、水を加え反応を停止させる。当該反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、反応液を中和した後、セライトろ過により不溶の固体を除き、固体を酢酸エチルにて洗浄する。ろ液を分液ロートにて有機層と水層に分離し、水層から酢酸エチルにて目的化合物の抽出を行う。抽出に用いた酢酸エチルとろ液から分離した有機層を混合し、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ液をロータリーエバポレーターにて濃縮する。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO、Hexane/EtOAc=1/1)により精製することによりアミン体(8)が白色固体として得られる。収量は365mg(86%)程度である。
【0023】
第三工程:アルゴン雰囲気下、アミン体(8)(1.8g:3.4mmol)の塩化メチレン溶液(25ml)を氷浴にて冷却し、フェニルイソシアネート(1.2ml:11mmol)を加える。反応懸濁液を室温にまで昇温し、2日間反応させる。反応液にノルマルヘキサンを加え、固体をろ取する。この固体を、アセトン、ノルマルヘキサンの混合溶媒を用いて洗浄した後、真空加熱乾燥することで、純粋なウレア体(5)が白色固体として得られる。収量は2.4g(80%)程度である。
【0024】
3)用途等
本発明の(チオ)尿素化合物は、官能基である尿素基、チオ尿素基を有するため、医薬品、医薬中間体、ポリマー原料、高分子添加剤等様々な用途へ用いることができるが、中でも、極性基を有する有機溶剤のゲル化剤として好適に用いられる。すなわち本発明の化合物は極性基を有する有機溶剤とともにオルガノゲルを形成する。当該オルガノゲルの詳細については後述する。
【0025】
2.本発明のオルガノゲルについて
本発明のオルガノゲル(以下単に「ゲル」という。)は、a)本発明の(チオ)尿素化合物およびb)極性基を有する有機溶剤を主成分とする。
【0026】
1)組成
本発明のオルガノゲルは、a)本発明の(チオ)尿素化合物と、b)極性基を有する有機溶剤を含む。その比率は、ゲルを形成できる比率であれば特に限定されないが、a)とb)の合計に対して、a)化合物は1〜10質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましい。効率よくゲルを形成できるからである。
【0027】
有機溶剤とは物質を溶解させるのに用いられる液体または比較的融点の低い固体状の有機化合物をいう。本発明における有機溶剤は、分子内に極性基を有することが必要である。本発明の(チオ)尿素化合物によりゲル化され易いためである。極性基とは、酸素、窒素、硫黄、ハロゲン原子を含む基のことであり、このような有機溶剤の例には、アセトン等のケトン系溶剤、メタノール等のアルコール系溶剤、フタル酸ジエチル等のエステル系溶剤、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤が含まれる。ゲル化させる際の作業性に優れるという観点からは、本発明における有機溶剤は室温で液状のものが好ましいが、本発明の(チオ)尿素化合物は室温で固体である溶剤にも好適に用いられる。
【0028】
上記ゲルの構造は特に限定されないが、例えば以下の構造であり得る。
まず、(チオ)尿素化合物分子中の水素原子とX原子(酸素または硫黄原子)が、他の(チオ)尿素化合物分子の水素原子、X原子と水素結合することにより、一次元方向に重なり合ってファイバー状構造物を形成し、さらにこれらが三次元網目構造を形成する。その際に、(チオ)尿素化合物におけるYの芳香環に存在するπ電子が、他の(チオ)尿素化合物分子のYのπ電子と相互作用(πスタッキング)することで(チオ)尿素化合物同士の結合(重なり合い)をより強固にしていると考えられる。
そしてこのようにして形成された三次元網目構造の空洞部分に、前記有機溶剤が存在し、上記ゲルを形成している。
【0029】
また、本発明のa)、b)からなるゲルは、c)陰イオンが混合されると崩壊しオルガノゾル(以下単に「ゾル」という。)となる。ゾルとは有機溶剤を分散媒とし固体を分散粒子とするコロイドである。コロイドとは、物質が光学顕微鏡レベルでは認められないが原子あるいは低分子よりは大きい粒子として存在している状態をいう。ゾルへの転移は(チオ)尿素化合物同士を重なり合わせている前記水素結合がc)により阻害され、三次元網目構造が破壊されることによると推察される。
【0030】
ここで、陰イオンとは負の電荷を有する原子(団)または分子をいう。陰イオンの例には、ハロゲン化物イオン、アセテートイオン、四フッ化ホウ素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン等が含まれる。陰イオンは、ゲルへの添加し易さから塩として用いることが好ましい。これらの塩の例には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の無機塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等の有機塩が含まれる。中でもゲルへの溶解性に優れることから有機塩が好ましく、さらにはゾルへの転移を起こしやすいことからテトラブチルアンモニウム塩が好ましい。
【0031】
さらに上記ゾルにd)臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を混合すると、再びゲルが形成される。これは、c)の陰イオンがd)にトラップされ、前記水素結合が再生されるためと考えられる。臭化亜鉛とは、亜鉛原子と臭素原子が1:2で化合してできる化合物(ZnBr)であり、三フッ化ホウ素とは、ホウ素原子とフッ素原子が3:1で化合してできる化合物(BF)である。三フッ化ホウ素は、取り扱い性からそのジエチルエーテル錯体(BF・OEt)として用いることが好ましい。以下、d)成分について、「臭化亜鉛等」と表記することがある。
【0032】
従って本発明のオルガノゲルは、前記a)、b)に、さらにc)陰イオン、およびd)臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を含んでいてもよい。ただし、ゲルであるためにはc)とd)が特定の比率であることが重要である。すなわち、前記水素結合を阻害すると推察されるc)をトラップできる量のd)を有している必要がある。当該比率についてはゲルの製法に因るところが大きいため、製法の項で説明する。
またc)とd)には好ましい組み合わせも存在する。d)として臭化亜鉛を用いる場合は、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、アセテートイオンあるいはリン酸イオンが好ましく、三フッ化ホウ素を用いた場合は、フッ化物イオン、アセテートイオンあるいはリン酸イオンが好ましい。なおd)成分の臭化亜鉛、三フッ化ホウ素は単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。
【0033】
上記ゲルは、上記した成分の他に、ゲルの性質を損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加物の例には、ゲルを生体材料に適合するときに有用と思われるアミノ酸や、工業材料として用いる際に有効と思われるトリフェニルホスフィン等の中性の物質が含まれる。
【0034】
2)製造方法
上記ゲルは、a)本発明の化合物と、b)極性基を有する有機溶剤を混合することにより得られる。混合方法は特に限定されないが、b)有機溶剤中にa)化合物を添加し、ガラス棒等で攪拌した後、超音波照射等により外部エネルギーを与えることが好ましい。超音波を照射する時間は、a)、b)の混合系の量にもよるが、系全体が1〜10mlである場合、5〜10分間照射することが好ましい。
本製造方法で得られたゲルを「バージンゲル」という。
【0035】
また、本発明のゲルが、a)、b)に、さらにc)陰イオンおよびd)臭化亜鉛等を含む場合には以下の方法で得ることができる。
(i)成分a)〜d)を混合する方法
混合は既に述べたとおりの条件で超音波を照射することが好ましい。
【0036】
(ii)成分a)〜c)を含むオルガノゾル(以下単に「ゾル」という。)を準備し、これにd)を混合する方法
混合は既に述べたとおりの条件で超音波を照射することが好ましい。この際のd)の混合量は、c)に対し、0.8モル当量以上であることが好ましく、1〜2モル当量であることがより好ましい。モル当量とは、該当する成分のモル数を基準とした化合物のモル数で除した値である。
上記ゾルを準備する工程は特に限定されないが、a)〜c)を混合して得てよい。
【0037】
(iii)バージンゲルを再生する方法
バージンゲルに、c)を混合しゾル化させ、さらにd)を混合しゲルを再生して得てもよい。この場合の再生ゲルを「1回再生ゲル」という。この際に混合されるc)の量は、バージンゲル中の(チオ)尿素化合物に対して、0.8〜5モル当量が好ましく、さらには1.1〜3モル当量であることが好ましい。
さらに混合されるd)の量は、既に述べたとおりc)に対し0.8モル当量以上であることが好ましく、1〜2モル当量であることがより好ましい。
【0038】
1回再生ゲルに、さらにc)およびd)を同様に混合して、複数回再生ゲルとして得てもよい。再生回数は特に限定されないが、各成分のゲルに対する溶解性から1〜4回が好適である。この場合のゲルの各成分の好ましい比率は、次の通りとなる。
1回再生ゲルの場合は、
a)はa)とb)の合計に対し、1〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%
c)はa)に対し0.8〜5モル当量、より好ましくは1.1〜3モル当量
d)はc)に対し0.8モル当量以上、より好ましくは1〜2当量、である。
また4回再生ゲルの場合は、
c)は1回再生ゲルの4倍量となるため、a)に対し3.2〜20モル当量、より好ましくは4.4〜12モル当量
d)も1回再生ゲルの4倍量となるため、c)に対し3.2モル当量以上、より好ましくは4〜8モル当量である。
【0039】
以上から、a)〜d)を含むゲルの各成分の好ましい比率は、
a):a)とb)の合計に対し、1〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%
c):a)に対し、0.8〜20モル当量、より好ましくは1.1〜12モル当量
d):c)に対し、0.8モル当量以上、より好ましくは1〜8モル当量
となる。
【0040】
3)用途等
本発明で得られるゲルは、強固かつ安定なゲルであり、塗料・樹脂等の流動調整剤等に好適である。さらに、再生できることから、刺激応答ゲルとしてドラッグデリバリーシステム等への応用も可能である。
【0041】
また上記ゲルは、キセロゲルとして用いてよい。キセロゲルとは化合物により形成された三次元網目構造中に気体(空気)が含まれている構造体をいう。上記のオルガノゲルから有機溶剤を除去すること等により調製できる。有機溶剤を除去する方法の例には、乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等が含まれる。
【0042】
3.本発明のオルガノゾルについて
本発明のオルガノゾル(ゾル)は、a)本発明の化合物、b)極性基を有する有機溶剤、およびc)陰イオンを主成分とする。
【0043】
1)組成
上記ゾルはa)本発明の化合物、b)極性基を有する有機溶剤、およびc)陰イオンを含む。その比率は、ゾルを形成できる比率であれば特に限定されないが以下に好ましい比率を示す。
a):a)とb)の合計に対し、1〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%
c):a)に対し、0.8〜5モル当量、より好ましくは1.1〜3モル当量
【0044】
既に述べたとおり、a)およびb)からなるゲルは、c)陰イオンを混合することによりゾルになり、さらにd)臭化亜鉛等を混合すると再びゲルになる。従って、本発明のゾルは、a)、b)およびc)に、さらにd)臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を含んでいてもよい。ただし、ゾルであるためにはc)とd)が特定の比率であることが重要である。すなわち、(チオ)尿素化合物同士を重ね合わせている水素結合を阻害すると推察されるc)の一部がd)にトラップされていたとしても、前記阻害活性を発現できる量のc)が残存している必要がある。当該比率についてはゾルの製法に因るところが大きいため、製法の項で説明する。
またc)とd)には好ましい組み合わせも存在し、その組み合わせは2.1)で述べたとおりである。なお、d)成分の臭化亜鉛または三フッ化ホウ素は単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。
【0045】
上記ゾルは、a)〜c)の他に、ゾルの性質を損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加物の例には、アミノ酸やトリフェニルホスフィンが含まれる。
【0046】
2)製造方法
本発明のゾルは、a)およびb)を混合して得たゲルに、c)を混合してゾルに転移させることにより得られる。混合は上述の方法を用いることが好ましく、混合に際しては同様に、超音波を照射することが好ましい。超音波を照射する時間は、系(化合物、極性基を有する有機溶剤の混合系)の量にもよるが、系全体が1〜10mlである場合、5〜10分間照射することが好ましい。
本製造方法で得られたゾルを「バージンゾル」という。
【0047】
また本発明のゾルは、a)〜c)を混合することにより得てもよい。混合方法は特に限定されないが、既に述べた方法で行うことが好ましい。
【0048】
また本発明のゾルが、a)〜c)にさらにd)を含む場合には以下の方法で得ることができる。
(i)成分a)〜d)を含むゲルを準備し、さらにこれにc)を混合する方法
混合は既に述べたとおりの条件で超音波を照射することが好ましい。c)の混合量は、前述の通りa)に対し0.8〜5モル当量、より好ましくは1.1〜3モル当量である。
上記のa)〜d)からなるゲルを準備する工程は特に限定されないが、前節で述べた方法で準備することが好適である。
【0049】
(ii)バージンゾルを再生する方法
本発明のゾルは、前記バージンゾルにd)を混合してゲルに転移させ、さらにc)を混合し、ゾルを再生して得ることができる。この場合を「1回再生ゾル」という。この際に混合されるd)の量は既に述べたとおり、バージンゾル中のc)陰イオンに対して、0.8モル当量以上が好ましく、1〜2モル当量であることがより好ましい。さらに混合されるc)の量は、既に述べたとおりである。
【0050】
1回再生ゾルに、さらにd)およびc)を同様に混合して、複数回再生ゾルとして得てもよい。再生回数は特に限定されないが、各成分のゲルに対する溶解性から1〜3回が好適である。この場合のゾルの各成分の好ましい比率は、次の通りとなる。
1回再生ゾルの場合は、
a)はa)とb)の合計に対し、1〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%
c)はa)に対し0.8〜5モル当量、より好ましくは1.1〜3モル当量
d)はc)に対し0.8モル当量以上、より好ましくは1〜2当量、である。
また3回再生ゲルの場合は、
c)は1回再生ゾルの4倍量となるので、a)に対し3.2〜20モル当量、より好ましくは4.4〜12モル当量
d)は1回再生ゾルの3倍量となるので、c)2.4モル当量以上、より好ましくは3〜6モル当量である。
【0051】
以上から、a)〜d)を含むゾルの各成分の好ましい比率は、
a):a)とb)の合計に対し、1〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%
c):a)に対し、0.8〜20モル当量、より好ましくは1.1〜12モル当量
d):b)に対し、0.8モル当量以上、より好ましくは3〜6モル当量
である。
【0052】
3)用途等
本発明で得られるゾルは、d)臭化亜鉛等を混合することによりゲルに転移できることから、刺激応答ゾルとしてドラッグデリバリーシステム等への応用が可能である。
【0053】
4.ゾル−ゲル転移方法について
本発明のゲルは、上記c)陰イオンおよびd)臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を添加することによりゾル−ゲル転移させることができる。すなわち、
A)工程:a)本発明の化合物およびb)極性基を有する有機溶剤を含むゲルを準備し
B)工程:当該ゲルにc)陰イオンを混合してゾルに転移させ
C)工程:当該ゲルにd)臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を混合して、再びゲルに転移させ
D)工程:さらに、B)またはB)およびC)を施し、ゾル−ゲル転移を行うことができる。
【0054】
すなわち、A)工程(ゲル)→B)工程(ゾル)→C)工程(ゲル)→B)工程(ゾル)→C)工程(ゲル)→B)工程(ゾル)…、と繰り返すことによりゾル−ゲル転移させることができる。本転移反応の各工程におけるc)およびd)の混合量は、既に述べた量とすることが好適である。また、混合方法も既に述べた方法を用いることが好ましい。
このようなゲルおよびゾルは、刺激応答材料(インテリジェンス材料)としてドラッグデリバリーシステム等への応用が期待できる。
【実施例】
【0055】
[実施例1:化合物Aの合成]
1)アルゴン雰囲気下、メタニトロフェノール(東京化成工業株式会社製、9.4g:67mmol)、炭酸カリウム(関東化学株式会社製、9.3g:67mmol)のアセトン懸濁液(130ml)を氷浴にて冷却し、1,3,5−トリス(ブロモメチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン(9.9g:22mmol)を加えた。反応懸濁液を室温まで昇温し、17時間反応させ、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて原料の消失を確認した。
反応液をロータリーエバポレーターにて濃縮したのち、クロロホルムを加えた懸濁液をろ過し、不要の炭酸カリウムを除いた。ろ液を濃縮し得られた残渣を、塩化メチレンとノルマルヘキサンの混合溶媒(1:5)を用いて再沈殿した。ろ取して得られた固体を、真空加熱乾燥し、純粋なニトロ体を白色固体として得た。収量は11.8g(収率86%)であった。
なお、1,3,5−トリス(ブロモメチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンはJournal of the American Chemical Society 2004年、126巻、16456-16465に記載された方法で合成した。
【0056】
得られたニトロ体は、NMRを用いて以下のとおり構造を確認した。
H−NMR Brucker AC300、(300MHz、CDCl、25℃)
d 1.27 (t、J=7.5Hz、9H)、2.84(q、J=7.5Hz、6H)、5.18(s、6H)、7.34(dd、J=1.4、8.4Hz、3H)、7.49(t、J=8.5Hz、3H)、7.89〜7.91(m、6H)
【0057】
13C−NMR Brucker AC300、(75MHz、CDCl、25℃)
d16.64、23.27、64.97、108.60、116.43、122.16、130.34、130.52、146.86、149.49、159.39
【0058】
2)アルゴン雰囲気下、前工程で得られたニトロ体(500mg:0.8mmol)、二塩化スズ二水和物(アルドリッチ社製、2.8g:12mmol)の1,4−ジオキサン溶液(5ml)を室温にて2時間攪拌した後、50℃に加温しさらに3時間攪拌し、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて原料の消失を確認した。次に当該反応液を氷冷し、水を加え反応を停止した。続いて当該反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、反応液を中和した後、セライトろ過により不溶の固体を除いた。固体は酢酸エチルにて洗浄した。
分液ロートにてろ液を有機層と水層を分離し、さらに水層に酢酸エチルで抽出操作を施した。抽出液とろ液から分離した有機層を混合し、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ液をロータリーエバポレーターにて濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO,Hexane/EtOAc=1/1)により精製し、アミン体を白色固体として得た。収量は365mg(収率86%)であった。
【0059】
得られたアミン体は、NMRを用いて以下のとおり構造を確認した。
H−NMR Brucker AC300 (300 MHz、 CDCl、25℃)
d 1.23(t、J=7.5Hz、9H)、2.82(q、J=7.5Hz、6H)、3.70(s、6H)、5.03(s、6H)、6.32〜6.36(m、6H)、6.46(d、J=8.8Hz、3H)、7.11(t、J=8.0Hz、3H)
【0060】
13C−NMR Brucker AC300 (75 MHz、 CDCl、25℃)
d16.62、23.07、64.04、101.84、104.68、108.26、130.30、131.24、146.26、147.93、160.28
【0061】
3)アルゴン雰囲気下、前記工程で得られたアミン体(1.8g:3.4mmol)の塩化メチレン溶液(25ml)を氷浴にて冷却し、フェニルイソシアネート(東京化成工業株式会社製、1.2mL:11mmol)を加えた。
反応懸濁液を室温にまで昇温し、2日間反応させ、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて原料の消失を確認した。反応液にノルマルヘキサンを加え、固体をろ取した。この固体を、アセトンとノルマルヘキサンの混合溶媒(1:5)を用いて洗浄した。得られた固体を、真空加熱乾燥することで、純粋なウレア体(化合物A)を白色固体として得た。収量は2.4g(収率80%)であった。
【0062】
得られた化合物Aは、NMRを用いて以下のとおり構造を確認した。
H−NMR Brucker AC300 (300 MHz、 DMSO−d、25℃)
d 1.19(t、J=6.7Hz、9H)、2.77(q、J=6.7Hz、6H)、5.07(s、6H)、6.74(d、J=8.1Hz、3H)、6.95(t、J=7.1Hz、3H)、7.03(d、J=8.0Hz、3H)、7.20〜7.29(m、12H)、7.44(d、J=8.1Hz、3H)、8.66(s、3H)、8.69(s、3H)
【0063】
13C−NMR Brucker AC300 (75 MHz、 DMSO−d、25℃)
d16.29、22.50、63.97、104.56、107.76、110.97、118.24、121.87、129.79、130.90、139.64、141.03、145.48、152.49、159.09
【0064】
【化8】

【0065】
[実施例2:化合物Bの合成]
アルゴン雰囲気下、実施例1で得られたアミン体(100mg:0.19mmol)のジクロロエタン溶液(5ml)を氷浴にて冷却し、メタトリルイソシアネート(東京化成工業株式会社製、80il:0.63mmol)を加えた。反応懸濁液を室温まで昇温し、2日間反応させ、その後8時間加熱還流を行い、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて原料の消失を確認した。
反応液にノルマルヘキサンを加え、固体をろ取した。この固体を、アセトンとノルマルヘキサンの混合溶媒(1:5)を用いて洗浄した。得られた固体を、真空加熱乾燥することで、純粋な尿素体(化合物B)を白色固体として141mg(収率79%)得た。
【0066】
得られた化合物Bは、NMRを用いて以下のとおり構造を確認した。
H−NMR Brucker AC300 (300 MHz、DMSO−d、25℃)
d 1.20(t、J=7.4Hz、9H)、2.27(s、9H)、2.77(q、J=7.4Hz、6H)、5.08(s、6H)、6.74(dd、J=1.9、8.1Hz、3H)、6.78(d、J=7.5Hz、3H)、7.04(t、J =8.1Hz、3H)、7.15(t、J=7.5Hz、3H)、7.20〜7.28(m、12H)、8.58(s、3H)、8.68(s、3H)
【0067】
13C−NMR Brucker AC300 (75 MHz、 DMSO−d、25℃)
d16.27、21.21、23.94、63.95、104.46、107.76、110.70、115.41、116.72、122.60、128.61、129.72、130.68、137.93、139.53、141.05、145.45、152.43、159.08
【0068】
【化9】

【0069】
[比較例1:比較用化合物Cの合成]
アルゴン雰囲気下、実施例1で得られたアミン体(200mg:0.38mmol)の塩化メチレン溶液(8ml)を氷浴にて冷却し、シクロヘキシルイソシアネート(東京化成工業株式会社製、0.16ml:1.25mmol)を加えた。
反応懸濁液を室温まで昇温し、7日間反応させ、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて原料の消失を確認した。反応液にノルマルヘキサンを加え、固体をろ取した。この固体を、アセトンとノルマルヘキサンの混合溶媒(1:5)を用いて洗浄した。得られた固体を、真空加熱乾燥することで、純粋な尿素化合物(化合物C)を白色固体として得た。収量は257mg(収率75%)であった。
【0070】
得られた化合物CはNMRを用いて以下のとおり構造を確認した。
H−NMR Brucker AC300 (300 MHz、 DMSO−d、25℃)
d 1.16〜1.18(m、15H)、1.23〜1.31(m、6H)、1.52(br、6H)、1.62(br、6H)、1.78(br、6H)、2.73(q、J=6.2Hz、9H)、3.45(br、3H)、5.02(s、6H)、6.05(d、J=7.8Hz、3H)、6.63(d、J=8.1Hz、3H)、6.90(d、J=7.8Hz、3H)、7.14(t、J=8.1Hz、3H)、7.21(s、3H)、8.32(s、3H)
【0071】
13C−NMR Brucker AC300 (75 MHz、 DMSO−d、25℃)
d16.29、22.50、63.97、104.56、107.76、110.97、118.24、121.87、129.79、130.90、139.64、141.03、145.48、152.49、159.09
【0072】
【化10】

【0073】
[比較例2:前記式(4)の化合物の合成]
本比較化合物は、Chemistry--A European Journal 1999年, 5巻, 937-950に記載の方法で合成した。具体的には以下のとおりに合成した。
1S,2S-1,2-シクロヘキサンジアミン(和光純薬工業株式会社製、571mg、5mmol)のトルエン(関東化学社製、85mL)溶液にドデシルイソシアン酸(アルドリッチ社製、2.6mL、11mmol)を加え、室温で2日間攪拌した後、100℃で2時間攪拌した。反応液を室温に冷却した後で、吸引濾過により固体を得た。得られた固体に塩化メチレン(関東化学社製、100mL)を加え懸濁液とし、室温で12時間攪拌した後、固体を吸引濾過した。得られた固体にジエチルエーテル(関東化学社製、100mL)を加え懸濁液とし、室温で12時間攪拌した後、固体を吸引濾過した。得られた固体を真空加熱乾燥し、純粋な尿素化合物を白色固体として得た。収量は2.5g(収率94%)であった。
【0074】
[実施例3]
表1に示す極性基を有する有機溶剤1mlをスクリュー管に注入し、さらに合成例で得た化合物Aを添加し、超音波(超音波洗浄機 B2510J−DTH Branson社製、周波数 42 kHz、125W)を5分間照射することにより混合し、ゲル化試験を行った。具体的には、各種溶剤に対し、種々の量の前記化合物を混合した際のゲル化の有無を判断することで、ゲル化させるのに必要な最小の濃度(最小ゲル化濃度:質量%)を求めた。ゲル化は、スクリュー管を逆さにした際に溶剤が流れ落ちるかどうかで判断し、流れ落ちない状態になった点をゲル化と判断した。
化合物Bについても同様にしてゲル化試験を行った。
【0075】
表1に各種溶剤に対する最小ゲル化濃度(質量%)を示す。本発明の化合物は種々の溶媒に対して少量混合することで、効率よくゲル化できることが確認された。
さらに、得られたゲルを数ヶ月保存したところ、いずれもその形状に変化は見られなかった。
【0076】
【表1】

【0077】
[実施例4]
表2に示す各種陰イオンのテトラブチルアンモニウム塩を、実施例1で得たアセトンを溶剤として用いたゲル(アセトンゲル)565mg(アセトン554ml、化合物A 11.3mg)に添加し、超音波を5分間照射し、ゾル化試験を行った。具体的には、アセトンゲルに対し、種々の量の前記塩を混合し、ゾル化させるのに必要な最小の濃度(最小ゾル化濃度)を求めた。ゾル化は、ゲルが固体を含まない完全に均一な溶液となった状態を以て判断した。それに準じる状態になった点を準ゾル化と判断した。
最小ゾル化濃度は、ゾル化に用いた陰イオンのモル数をアセトンゲル中の化合物のモル数で除した値(化合物に対するモル当量)で示した。アセトンゲル中の化合物Aは11.3mg(12.8μmol)であるので、例えば、テトラブチルアンモニウムフロライド(BuNF)は、3.3mgが1モル当量に相当する。
表2に各種陰イオンを用いた際の最小ゾル化濃度(モル当量)を示した。陰イオンの添加によりオルガノゲルがオルガノゾルに転移することが確認された。
【0078】
【表2】

【0079】
[実施例5]
三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・OEt)(関東化学社製)を、実施例4で得たBuNFを含むアセトンゾル569mgに対し、BuNFの1モル当量となるように添加し、超音波を5分間照射し混合して、再ゲル化試験を行った。アセトンゲル中のBuNFは3.6mg(14μmol)であるため、2.0mg(14μmol)の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を用いた。その結果、再ゲル化が確認された。
同様にして、BF・OEtの代わりに臭化亜鉛(東京化成工業株式会社製)をアセトンゲル中のBuNFに対し1モル当量となるように添加し(臭化亜鉛として3.2mg)、再ゲル化試験を行ったところ、再ゲル化が確認された。
【0080】
[実施例6]
以下の工程で、ゾル−ゲル転移試験を行った。
第1工程:実施例1で得たアセトンゲル565mg(アセトン554ml、化合物A 11.3mg)に、テトラアンモニウムフルオライド(BuNF)を3.6mg(14μmol:アセトンゲル中の化合物Aに対し1.1モル当量)を加え、超音波を5分間照射しゾル化した。次に当該ゾルにBF・OEtを2.0mg(14μmol:アセトンゲル中のBuNFに対し1.1モル当量)加え、超音波を5分間照射し、再ゲル化を行った。
第2工程:さらに、BuNF 3.6mgを同様に加え、続いてBF 2.0mgを同様にして加えた。
第3工程:さらに、BuNF 3.6mgを同様に加え、続いてBF 2.0mgを同様にして加えた。
第4工程:さらに、BuNF 3.6mgを同様に加え、続いてBF 2.0mgを同様にして加えた。
表3に示されるとおり、ゾル−ゲル転移が繰り返し起こることを確認した。
【0081】
【表3】

【0082】
[比較例3]
式(4)の化合物5mgを、アセトン1mlと混合し、超音波を照射したがゲルは得られなかった。また同様に混合したものを60℃に加温した後、冷却したがゲルは得られなかった。
【0083】
[比較例4]
式(4)の化合物5mgを、DMSO 1mlと混合し120℃に加温した後冷却してゲルを調製した。続いて、DMSOゲルを用い、実施例4と同様の方法でゾル化試験を行ったが、ゾル化は起こらなかった。
【0084】
[比較例5]
比較化合物Cとアセトンを混合し、実施例1と同様の条件でゲル化を試みたが、ゲル化しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の(チオ)尿素化合物は、官能基である尿素基またはチオ尿素基を複数有しているため、医薬品、医薬中間体、ポリマー原料、高分子添加剤等様々な用途において有用である。特に、極性基を有する有機溶剤のゲル化剤として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される尿素化合物またはチオ尿素化合物。
【化1】

(式(1)において、
Xは酸素原子または硫黄原子、
Yはアリール基、
Zはアリーレン基、
Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の尿素化合物またはチオ尿素化合物、および極性基を有する有機溶剤を含むオルガノゲル。
【請求項3】
請求項1に記載の尿素化合物またはチオ尿素化合物、極性基を有する有機溶剤、および陰イオンを含むオルガノゾル。
【請求項4】
請求項1に記載の尿素化合物またはチオ尿素化合物、および極性基を有する有機溶剤を混合する工程、
前記混合物に超音波を照射する工程、
を含むオルガノゲルの製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載のオルガノゲルを準備する工程、
前記オルガノゲルに陰イオンを混合する工程、
を含むオルガノゾルの製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載のオルガノゾルを準備する工程、
前記オルガノゾルに臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を混合する工程、
を含むオルガノゲルの製造方法。
【請求項7】
A)請求項2に記載のオルガノゲルを準備する工程
B)当該オルガノゲルに陰イオンを混合してオルガノゾルに転移させる工程
C)当該ゲルに臭化亜鉛または三フッ化ホウ素を混合して、再びオルガノゲルに転移させる工程
D)さらに、B)または、B)およびC)工程
を含む、ゾル−ゲル転移方法。

【公開番号】特開2008−189559(P2008−189559A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22729(P2007−22729)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】