説明

尿酸ホメオスタシスのコントロール

本発明は、尿酸に応答して遺伝子発現をスイッチオンまたはスイッチオフするために有用なシステムにおけるベクターおよび哺乳動物細胞に関する。本発明は、特定の実施態様において、有害な過剰の尿酸の検出および/または分解に有用な哺乳動物細胞であって、(a)トランス活性化ドメインまたはトランスリプレッサードメインに融合したDeinococcus radiodurans R1由来ウリカーゼセンサー−レギュレーターHucRのための遺伝暗号を含むベクター;および(b)該細菌性尿酸センサー−レギュレーターHucRと特異的に結合するDeinococcus radiodurans R1由来の対応するオペレーター配列hucO、プロモーター、および内因性または外因性タンパク質、例えば尿酸と相互作用するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む細胞に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、尿酸に応答して遺伝子発現をスイッチオンまたはスイッチオフするために有用なシステムにおけるベクターおよび哺乳動物細胞に関する。
【0002】
発明の背景
尿酸ホメオスタシスはヒトに不可欠であるが、それは、この代謝物がガン、パーキンソン病および多発性硬化症の発生を減少させる重要なラジカルスカベンジャーおよび酸化ストレス保護剤であるからである。しかしながらヒトは、進化の途中に尿酸オキシダーゼが欠如したせいで高尿酸血症の素因を有し、高尿酸血症は、腎症、腫瘍溶解症候群および痛風に関連する尿酸塩結晶沈着物の形成に有利に働く。
【0003】
痛風は、先進工業国の人口の1%超を冒す最も一般的な炎症性関節炎であり、その有病率は、増え続ける糖質消費が肥満および過インスリン症(それはプリン代謝の最終産物である尿酸の腎クリアランスを低下させる)を促進するので、世界的に上昇傾向にある。尿酸をさらに可溶性のアラントインに変換する尿酸オキシダーゼの進化上の欠如が原因で、血中尿酸レベルはヒトにおいて特に高く、そのことは、酸化ストレス耐性を向上させ、どんどん複雑になる神経回路網への酸化的損傷を防止したことによって、ヒト科の脳進化に不可欠であった可能性がある。腎臓中の尿酸トランスポーターが血流中の尿酸レベルをレギュレーションするので、高い生理学的尿酸レベルは、典型的にはヒトによる忍容性が良好である。しかしながら、尿酸ホメオスタシスの不均衡は、高尿酸血症ならびに関節、腎臓および皮下組織における尿酸一ナトリウムの病的結晶沈着物の形成へと導く可能性があり、それが高血圧、心血管疾患、尿酸腎結石症および痛風などの尿酸関連病態をトリガーする。
【0004】
地球上で最も放射線耐性の生物であるDeinococcus radiodurans R1は、紫外線および酸化ストレスを含めた、他の起源のDNA損傷に耐える驚くべき能力も進化させている(Daly, M.J., Nat. Rev. Microbiol. 7, 237-245 (2009))。近年、仮説上ウリカーゼレギュレーター(HucR)がD. radioduransから同定されたが、それは、酸化ストレスに対する細胞応答に重大な役割を果たすことが示唆された。D. radioduransは、哺乳動物に類似して、尿酸のラジカルスカベンジング活性を利用すると思われるが、それでも結晶化を阻止するためにそのレベルをコントロールする必要がある。HucRは、異なる方向で転写されるhucRと推定上ウリカーゼとの遺伝子間領域における二分子対称(dyad-symmetrical)オペレーター部位(hucO)に結合することが示され、それは、過剰な尿酸レベルがhucOからHucRの解離をトリガーし、ウリカーゼの発現を誘導するものの、両遺伝子が、デフォルトではHucRによって共抑制されることを示唆している(Wilkinson, S.P. & Grove, A., J. Biol. Chem. 279, 51442-51450 (2004); J. Mol. Biol. 350, 617-630 (2005))。
【0005】
発明の概要
本発明は、有害な過剰の尿酸の検出および/または分解に有用な哺乳動物細胞であって、以下を含む細胞に関する。
(a)トランス活性化ドメインまたはトランスリプレッサードメインに融合した細菌性尿酸センサー−レギュレーターのための遺伝暗号を含むベクター;および
(b)該細菌性尿酸センサー−レギュレーターと特異的に結合するオペレーター配列、プロモーター、および内因性または外因性タンパク質、例えば尿酸と相互作用するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【0006】
同様に本発明は、トランス活性化ドメインまたはトランスリプレッサードメインに融合した細菌性尿酸センサー−レギュレーターのための遺伝暗号を含むベクターそのもの、ならびに該細菌性尿酸センサー−レギュレーターと特異的に結合するオペレーター配列、プロモーター、および内因性または外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターそのものに関する。
【0007】
特に本発明は、細菌性尿酸センサー−レギュレーターが、Deinococcus radiodurans R1由来ウリカーゼセンサー−レギュレーターHucRであって、オペレーター配列がDeinococcus radiodurans R1由来の対応するオペレーター配列hucOである、その種の哺乳動物細胞およびその種のベクターに関する。
【0008】
さらに本発明は、ナノコンテナまたはマイクロコンテナ中の前記哺乳動物細胞、ヒト以外の哺乳動物(場合によりナノコンテナまたはマイクロコンテナ中にその種の哺乳動物細胞を含む)、およびそのような哺乳動物細胞を使用して、尿酸の過剰または欠如によって起こる疾患を処置する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】尿酸応答性哺乳動物センサーの合成回路を示す図である。(a)尿酸応答性導入遺伝子発現(UREX)のための発現ベクター(略語については表1参照)。(b)作動中のUREXを示す図。尿酸の不在下(−UA)でmUTS(KRAB−HucR)はhucOに結合し、SEAP生成を抑制する。尿酸の存在下(+UA)で、mUTSはhucOから解離し、PUREX8が抑制解除され、PSV40駆動性SEAP発現が生じる。(c)異なるヒト細胞系におけるPUREX8のmUTS介在性抑制。HeLa、HEK−293およびHT−1080にpCK9(PUREX8−SEAP−pA)およびpCK25(PhEF1α−mUTS−pA)を共トランスフェクションし、48時間培養してからSEAPの発現を定量した。(d)UREXセンサー回路の機能的評価。4×10個のHeLa細胞にUREX発現ベクターpCK9およびpCK25を共トランスフェクションし(図1a参照)、5mM尿酸の存在下または不在下で48時間培養してから、細胞培養上清中のSEAPを定量した。(e〜g)ヒト尿酸トランスポーターURAT1の存在下および不在下におけるUREXの尿酸依存性用量反応特性を示す図である。3×10個のHeLa(e)、HEK−293(f)またはHT−1080細胞(g)にUREXセンサープラスミドpCK9およびpCK25と(図1a参照)、pURAT1(PhCMV−URAT1−pA)または同質遺伝子対照ベクターpcDNA3.1のいずれかとを共トランスフェクションした。異なる濃度の尿酸を補充した培地中で、トランスフェクション後の集団を培養し、結果として得られたSEAPレベルを48時間後にプロファイリングした。(S)SEAP生成;(U)尿酸濃度;(mUTS)哺乳動物尿酸トランスサイレンサー。
【図2】尿酸オキシダーゼ欠損マウスおよびトランスジェニックHEK−293における、UREXコントロール性SEAP発現の検証を示す図である。(a)UREXコントロール性SEAP発現のために操作されたHeLaURAT1細胞を密着性アルギン酸−ポリL−リシン−アルギン酸マイクロカプセルにマイクロ封入し、(i)病的尿酸レベルを示す未処置uox−/−マウスまたは(ii)尿酸レベルを低下させるために飲料水から150μg/mL(w/v)の高尿酸血症治療薬アロプリノールを摂取したuox−/−マウスに腹腔内注射した(2×10個細胞/マウス、200個細胞/カプセル)(UREX)。対照埋込み物は、SEAPの構成的発現のために遺伝子導入された細胞を含有した(対照)。細胞移植の72時間後に、動物の血清中のSEAPレベルをプロファイリングした。(b)UREXコントロール性SEAP発現およびURAT1構成的発現ために安定的に操作されたトリプルトランスジェニックHEK−293UREX15細胞系の尿酸ベースの用量反応プロファイル。5×10個のHEK−293UREX15を異なる濃度の尿酸の存在下で培養し、72時間後に培養上清中のSEAPレベルを定量した。(c)UREXベースの尿酸センサー回路の可逆性。72時間毎(矢印)に尿酸濃度を0から5mMに交互に変化させながら、2×10個のHEK−293UREX15細胞を10日間培養した。(C)対照;(S)SEAP生成;(U)尿酸濃度;(+A)+アロプリノール(低尿酸);(−A)−アロプリノール(高尿酸);(t)時間。
【図3】哺乳動物のAsperguillus flavus由来の操作された尿酸オキシダーゼの機能的特徴付けを示す図である。(a)細胞内尿酸オキシダーゼ変異体(mUox)または分泌操作された尿酸オキシダーゼ変異体(smUox)の構成的発現またはUREXコントロール性発現によって仲介される尿酸減少のプロファイリング。2×10個のHeLaURAT1細胞に、(i)pCK65(PUREX8−smUox−pA)および同質遺伝子対照ベクターpcDNA3.1、(ii)pCK65(PUREX8−smUox−pA)およびpCK25(PhEF1α−mUTS−pA)、(iii)pCK67(PUREX8−mUox−pA)およびpcDNA3.1、または(iv)pCK67(PUREX8−mUox−pA)およびpCK25(PhEF1α−mUTS−pA)のいずれかを共トランスフェクションした。細胞を0.5mM尿酸と共に72時間培養してから、培養上清中の尿酸レベルを決定した。(b)尿酸分解はUREXコントロール性smUox発現をプロファイリングする。構成的smUox発現(点線)またはUREXコントロール性smUox発現(破線)のために操作された2×10個のHeLaURAT1細胞(実線)を、出発尿酸濃度0.5mMを含有する培地中で培養し、尿酸減少動態を120時間プロファイリングした。(c,d)マウスにおける病的尿酸レベルのUREXコントロール性smUox介在性減少。UREXコントロール性smUox発現のために操作されたHeLaURAT1細胞をマイクロ封入したものを、病的尿酸レベルを示す未処置uox−/−マウスまたは飲料水から150μg/mL(w/v)の高尿酸血症治療薬アロプリノールを摂取したuox−/−マウスに腹腔内埋込みした(マウス1匹あたり2×10個細胞)(UREX−smUox)。対照埋込み物は、親HeLaURAT1を含有した(対照)。細胞埋込みから72時間後の動物の血清(c)および尿(24時間採集)(d)中の尿酸レベルをプロファイリングした。(e〜g)(e)150μg/mL(w/v)アロプリノールを摂取したuox−/−マウス(陽性対照)、(f)uox−/−マウス(陰性対照)および(g)UREXコントロール性smUox発現のために操作されたHeLaURAT1を埋め込まれたuox−/−マウスの腎臓中の尿酸一ナトリウムの異方性結晶沈着物(矢印)を示す組織切片。(C)対照;(U)尿酸濃度;(SU)血清中尿酸;(UU)尿中尿酸;(+A)+アロプリノール(低尿酸);(−A)−アロプリノール(高尿酸);(t)時間。スケールバーは100μM。
【0010】
発明の詳細な説明
本明細書において記載される「UREX」システムは、尿酸ホメオスタシスを自己充足的に自動コントロールするためのバイオセンサーである。このシステムは、尿酸の検出および尿酸に応答するための全般的バイオセンサーとしてin vitroおよびin vivoで適用することができる。UREXシステムは、哺乳動物細胞中の尿酸に応答して、遺伝子発現の(i)スイッチオンまたは(ii)スイッチオフのいずれかを行うために使用することができる。
【0011】
尿酸は、式
【0012】
【化1】

【0013】
で示される7,9−ジヒドロ−3H−プリン−2,6,8−トリオンであり、いくつかの互変異性型で存在する。本明細書に使用されるような尿酸には、尿酸の全ての互変異性型および「尿酸塩」と呼ばれるそれらの塩が含まれる。塩は、例えば尿酸一ナトリウムまたは尿酸一カリウムまたは尿酸二カリウムである。
【0014】
本発明は、有害な過剰の尿酸の検出および/または分解に有用な哺乳動物細胞であって、以下:
(a)トランス活性化ドメインまたはトランスリプレッサードメインに融合した細菌性尿酸センサー−レギュレーターのための遺伝暗号を含むベクター;および
(b)該細菌性尿酸センサー−レギュレーターと特異的に結合するオペレーター配列、プロモーター、および内因性または外因性タンパク質、例えば尿酸と相互作用するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター
を含む細胞に関する。
【0015】
同様に本発明は、トランス活性化ドメインまたはトランスリプレッサードメインに融合した細菌性尿酸センサー−レギュレーターのための遺伝暗号を含むベクターそのもの、ならびに該細菌性尿酸センサー−レギュレーターに特異的に結合するオペレーター配列、プロモーター、および内因性または外因性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターそのものに関する。
【0016】
細菌性尿酸センサー−レギュレーターは、本発明の目的のために、DeinococcaceaeまたはPseudomonadaceaeによって生成されるHucRタンパク質などの天然尿酸センサー−レギュレーターに由来または関係する。細菌性尿酸センサー−レギュレーターは、例えば、Deinococcus radiodurans R1由来転写レギュレーターHucR(DR_1159)、Deinococcus geothermalis DSM 11300由来MarR型転写レギュレーターDgeo_2531、Pseudomonas mendocina ypm由来MarR型転写レギュレーター、Deinococcus deserti VCD115由来MarR型転写レギュレーターDeide_3p00280、およびこれら前記の天然センサー−レギュレーター由来のセンサー−レギュレーターである。この文脈で、DeinococcaceaeまたはPseudomonadaceaeによって生成されるHucRタンパク質のような天然尿酸センサー−レギュレーター「由来の」は、アミノ酸配列が天然センサー−レギュレーターと同一であるか、または保存的アミノ置換のみを有し、アミノ酸レベルで少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%同一を維持することを意味する。本発明の目的のために、DeinococcaceaeまたはPseudomonadaceaeによって生成されるHucRタンパク質などの天然尿酸センサー−レギュレーターに「関係する」は、アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列が、少なくとも低ストリンジェンシー条件で、さらに好ましくは中ストリンジェンシー条件で、最も好ましくは高ストリンジェンシー条件で天然尿酸センサー−レギュレーターにハイブリダイゼーションし、天然尿酸センサー−レギュレーター認識配列に結合することを意味する。保存的置換は、当技術分野において公知であり、とりわけDayhof, M.D., 1978, Nat. Biomed. Res. Found., Washington, D.C., Vol. 5, Sup. 3に記載されている。遺伝的にコードされるアミノ酸は、一般に4群に分類される:(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リシン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非荷電極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、また、合同で芳香族アミノ酸として分類される。特定群の一つのアミノ酸を同じ群の別のアミノ酸に置換することは、一般に保存的置換と見なされる。本発明の目的のために、「由来する」および「関係する」には、同じアミノ酸をコードするが、目的のホスト細胞、例えば哺乳動物細胞に特に適合されたトリプレットコドンを含む、ポリヌクレオチドレベルでの化合物も含まれることが了解されている。特に哺乳動物細胞に適合されたこの種のポリヌクレオチドが、特に好ましい。
【0017】
該細菌性尿酸センサー−レギュレーターに特異的に結合する対応するオペレーター配列は、HucRによって認識されるタンデムリピート含有オペレーター部位hucOである。考慮される他のオペレーター配列は、DeinococcaceaeまたはPseudomonadaceaeによって生成される前記センサー−レギュレーターに特異的に結合するこれらのオペレーター配列、および前記オペレーター配列に「由来」および「関係」するオペレーター配列である。本発明の目的のために、「由来する」は、センサー−レギュレーターとの目的の相互作用を減らさずに、一つまたは複数のヌクレオチド、特に1、2、3、4または5個などの1〜12個のヌクレオチドを他のヌクレオチドに置換することができることであると了解されている。本発明による、「関係する」オペレーター配列は、少なくとも低ストリンジェンシー条件で、より好ましくは中ストリンジェンシー条件で、最も好ましくは高ストリンジェンシー条件で天然オペレーター配列とハイブリダイズし、天然尿酸センサー−レギュレーターに結合する。考慮される特定のオペレーター配列は、例えば2から100の間の、特に5から20の間のリピートを含む、天然オペレーター配列またはそれら由来の配列のタンデムリピートである。
【0018】
トランス活性化ドメインは、例えば、単純ヘルペスウイルスのvp16トランス活性化ドメイン、p65トランス活性化ドメイン、ヒトe2f4トランス活性化ドメイン、ならびにGAL4、CTF/NF1、AP2、ITF1、Oct1およびSpIに由来または関係するトランス活性化ドメイン、ならびにまた、米国特許第6,287,813号に挙げられたものである。
【0019】
トランスリプレッサードメインは、例えばヒト−クルッペル関連ボックスタンパク質のkrabトランス抑制ドメインである。考慮される他のトランスリプレッサードメインは、例えばv−erbAガン遺伝子産物、甲状腺ホルモンレセプター、Ssn6/Tup1タンパク質複合体、SIRIタンパク質、NeP1、TSF3、SF1、WT1、Oct−2.1、E4BP4、ZF5、PhDブロモドメインを含有する任意の転写レギュレーター、およびまた、米国特許第6,287,813号に挙げられたものに由来または関係するドメインである。
【0020】
考慮されるプロモーターは、例えば、構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)、ヒトサイトメガロウイルス最小最初期プロモーター(PhCMVmin)、構成的ヒトサイトメガロウイルスプロモーター(PhCMV)、ヒト伸長因子1αプロモーター(PhEF1α)、ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PPGK)、ヒト−ユビキチンプロモーター(PhUBC)およびβアクチンプロモーターである。
【0021】
本発明のベクターおよび哺乳動物細胞の文脈で考慮される内因性または外因性タンパク質は、例えば、尿酸を代謝するタンパク質、例えば尿酸およびその塩をアラントインに変換するウリカーゼ(尿酸オキシダーゼ)、または尿酸およびその塩を輸送するタンパク質、例えば哺乳動物尿酸トランスポータータンパク質、特にヒト尿酸トランスポータータンパク質1(URAT1)、または尿酸の定量を可能にする、容易に検出可能なタンパク質などの、尿酸と相互作用するタンパク質である。
【0022】
容易に検出可能なタンパク質は、例えば分泌型ヒト胎盤性アルカリホスファターゼ(SEAP)、蛍光タンパク質または強化蛍光タンパク質(例えばGFP、RFP、YFPなど)、分泌型α−アミラーゼ(SAMY)、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、およびグルクロニダーゼである。
【0023】
特に本発明は、細菌性尿酸センサー−レギュレーターがDeinococcus radiodurans R1由来のウリカーゼセンサー−レギュレーターHucRであって、オペレーター配列がDeinococcus radiodurans R1由来の対応するオペレーター配列hucOである、この種の哺乳動物細胞およびこの種のベクターに関する。
【0024】
例えば尿酸と相互作用するタンパク質が、Fasturec(登録商標)の商品名で販売されている治療応用可能なAspergillus flavus由来ラスブリカーゼなどの尿酸オキシダーゼ(「ウリカーゼ」)である場合、本明細書下記の対応する特定の哺乳動物細胞は、尿酸オキシダーゼ欠損マウス(痛風性関節炎および腫瘍溶解症候群のようなヒト高尿酸血症疾患のための承認された疾患モデルを意味する)において、病的尿酸レベルに応答し、非病的で酸化ストレス防御性の尿酸レベルでは導入遺伝子の発現をスイッチオフする遺伝子自動レベルコントロールシステムを意味する。
【0025】
全身の尿酸は、強力なラジカルスカベンジャーであって、ラジカルの解毒によって身体を酸化ストレスから防御する。尿酸塩は、高く上昇したレベルの場合にだけ関節、腎臓および皮下組織中で結晶化し、痛みのある炎症ならびに高尿酸血症、腎結石および痛風性関節炎のような疾患を引き起こす。対照的に、尿酸オキシダーゼの構成的発現によって身体から尿酸を完全に除去すると、ラジカルベースの細胞および組織損傷、特に神経細胞の損傷の増加が生じるおそれがある。これは、アルツハイマー病およびパーキンソン病のような神経変性疾患についての尿酸の防御性によっても示される。したがって、代謝物を病的レベルよりも下に維持することは、新規な遺伝子治療応用に向けた重要なステップである。
【0026】
本明細書下記の特定の哺乳動物尿酸ホメオスタシスの合成コントロールネットワークは、用量依存性の尿酸オキシダーゼベースの治療応答を招く。ヒトに似た症状の高尿酸血症を発症している尿酸オキシダーゼ欠損マウスにおいて、デザイナー回路は、血中尿酸濃度を病的レベルよりも下の安定レベルに低下させ、処置された動物の腎臓中の尿酸塩結晶沈着物を減少させる。この治療ネットワークは、酸化ストレスを防御するために尿酸の基礎レベルを保ちながら尿酸の重大な蓄積を阻止することによって、尿酸ホメオスタシスの自己充足的な自動コントロールを提供する。
【0027】
本明細書下記の哺乳動物UREXシステムは、また、バイオリアクターを適用したタンパク質治療薬の製造にも使用することができる。例えばオキシダーゼ/レダクターゼの酵素クラスのメンバーのようなトランスジェニック酵素の製造によって、培地中の細胞の維持および成長のために使用される化合物が酵素ベースで触媒変換され、ラジカルの放出が起こる可能性がある。誘導された酸化ストレスは、細胞の成長を阻害または生成物の安定性を抑制することによって、生成物の連続形成をかく乱するおそれがある。UREXシステムでこの種の酵素の発現をコントロールすると、生成物の形成は外因性尿酸の添加によって誘導され、その尿酸は、酵素発現の誘導因子として機能すると同時に、発生したラジカルと結合し、解毒することによって細胞を工程媒介性酸化ストレスから防御する。
【0028】
本発明は、さらに、上記ベクターを安定的または一過性のいずれかでトランスフェクションされた前記ベクターを含む哺乳動物細胞、およびナノコンテナまたはマイクロコンテナ中の、例えば封入された形態のこの種の哺乳動物細胞に関する。ナノコンテナは、ウイルス、好ましくは弱毒化ウイルス、特にウイルスキャプシド、例えば哺乳動物細胞を組み入れるのに適した形状の球体またはチューブなどの合成または半合成のナノパーティクルまたはミクロパーティクル、および哺乳動物細胞を例えばアルギン酸−ポリ−L−リシンで封入することによってin situで形成されるナノコンテナまたはマイクロコンテナでありうる。適切なナノコンテナまたはマイクロコンテナの特定の例は、CELLMAX(登録商標)の商品名で製造された中空糸である。
【0029】
本発明は、さらに、前記哺乳動物細胞、特にナノコンテナまたはマイクロコンテナ中の哺乳動物細胞を含む、ヒト以外の哺乳動物に関する。
【0030】
本発明は、さらに、この種の哺乳動物細胞を使用して、尿酸の過剰または尿酸の欠如によって起こる疾患を処置する方法に関する。考慮される疾患は、尿酸の過剰によって起こるもの、例えば高尿酸血症、痛風、レッシュ−ナイハン症候群、腎症、および腫瘍溶解症候群、ならびに不十分なレベルの尿酸によって起こる疾患、例えばアルツハイマー、パーキンソン、および対応するガンである。特に、本発明は、尿酸の過剰または欠如によって起こる疾患を患う患者の処置方法であって、本明細書記載のナノコンテナまたはマイクロコンテナ中の哺乳動物細胞が、それを必要とする患者に埋め込まれる方法に関する。
【0031】
好ましい態様
本発明の特に例示的な態様では、Deinococcus radiodurans R1における酸化ストレス応答を調和させるHucRとhucOとの間の尿酸応答性相互作用を利用して、哺乳動物細胞を尿酸に感知および応答可能にする特定の合成回路が構築される(Wilkinson, S.P. & Grove, A.、上記引用文中)。
【0032】
本発明のこの好ましい態様は、以下の通りである:尿酸応答性発現ネットワーク(UREX)が、(i)哺乳動物細胞で最大発現させるためのHucR開始コドンの改変(GTG→ATG)およびコザックコンセンサス配列との融合(mHucR)、(ii)クルッペル関連ボックスタンパク質ドメインにmHucRのN−末端を融合(Bellefroid, E.J., Poncelet, D.A., Lecocq, P.J., Revelant, O. & Martial, J.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 3608-3612 (1991))させて、キメラ哺乳動物尿酸依存性トランスサイレンサーを生成させること(mUTS、KRAB−mHucR)、および(iii)サルウイルス40プロモーター(PSV40)下流に8個のタンデムのhucOモジュールを置くことによって集合された合成プロモーター(PUREX8、PSV40−hucO)を含む多段階操作戦略によって構築される(図1a)。尿酸の不在下で、mUTSは、hucOに結合し、PUREX8からの転写をサイレンシングする(図1b)。しかしながら、mUTSは、尿酸の存在下でhucOから解離することによってSEAP(分泌型ヒト胎盤性アルカリホスファターゼ)の発現を誘導する。無尿酸培地中で成長したヒト子宮頚部腺ガン細胞(HeLa)、ヒト胎児腎臓細胞(HEK−293)およびヒト線維肉腫細胞(HT−1080)に、pCK9(PUREX8−SEAP−pA)と共に、構成的ヒト伸長因子1αプロモーター(PhEF1α□□)に推進されるmUTS発現ベクターpCK25(PhEF1α−mUTS−pA)を共トランスフェクションすることにより、mUTSがPUREX8に結合し、それに推進されるSEAPの発現を最大98%サイレンシングできることを示した(図1c)。トランスフェクションされた培養物への5mM尿酸の添加は、hucOからのmUTSの解離をトリガーし、SEAPの発現を抑制解除する(図1d)。
【0033】
特に本発明は、細菌性尿酸センサー−レギュレーターがDeinococcus radiodurans R1由来のウリカーゼセンサー−レギュレーターHucRであって、オペレーター配列が、Deinococcus radiodurans R1由来の対応するオペレーター配列hucOである、哺乳動物細胞およびベクターに関する。さらに好ましい態様は、ウリカーゼセンサー−レギュレーターHucRがコザック−コンセンサス配列に融合しており、クルッペル関連ボックスタンパク質ドメインのN−末端が、ウリカーゼセンサー−レギュレーターHucRに融合している態様である。他の好ましい態様は、プロモーターがサルウイルス40プロモーターであって、Deinococcus radiodurans R1由来の好ましいオペレーター配列hucOを含むベクターが、hucOを数個のコピーで、例えば5から50個コピーの間で、好ましくは5から20個のコピーの間で含む態様である。最も好ましいのは、ベクターpCK25およびpCK9、ならびにpCK9中のSEAPについてのコドンが、別の検出可能なタンパク質、例えば上に挙げた容易に検出可能なタンパク質についてのコドンに置換されたベクターである。
【0034】
ヒトは、突然変異サイレンシングによって肝ウリカーゼを進化的に欠如しているせいで、効果的な腎尿酸クリアランスおよび尿酸ホメオスタシスの維持を尿酸陰イオントランスポーターURAT1に依存している(Enomoto, A. et al., Nature 417, 447-452 (2002))。そのトランスポーターの尿酸取り込み能のせいで、URAT1の異所性発現は、細胞内尿酸レベルを増加させ、結果としてUREXの感度を増幅する可能性がある。UREXコントロール性のSEAP発現のために操作され、構成的URAT1発現ベクター(pURAT1)をトランスフェクションされたHeLa、HEK−293およびHT−1080は、無URAT1細胞よりも有意に高いSEAPレベルに達し、典型的にはヒト血液中にみられる尿酸範囲内(200〜400μM)で特に高感度である(図1e〜g)。実際に、URAT1およびUREXコントロール性SEAP発現のために操作された、マイクロ封入されたHeLaをヒト痛風性関節炎の樹立マウスモデルである尿酸オキシダーゼ欠損(uox−/−)マウスに腹腔内埋込みした72時間後に(Wu, X. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 742-746 (1994))、合成尿酸センサー回路は、高尿酸血症および尿酸腎症を発症しているマウス(高尿酸レベル;0.35±0.15U/L SEAP)と、認可を受けている尿酸低下性関節炎治療薬アロプリノールを飲料水から摂取した動物(低尿酸レベル;0.02±0.10U/L SEAP)とを識別するために十分な感度であった(図2a)。SEAPを構成的生成している細胞で処置された対照マウスは、アロプリノールの存在下(低尿酸レベル;0.85±0.10U/L SEAP)または不在下(高尿酸レベル;0.90±0.15U/L SEAP)で不変のSEAP発現を示す。
【0035】
哺乳動物尿酸センサーシステムの調整能力および長期可逆性を特徴づけるために、UREXコントロール性のSEAPおよびURAT1発現のための安定なトリプルトランスジェニック−ヒト細胞系HEK−293UREX15を構築する。HEK−293UREX15のSEAP発現は、正確に調整することができ、尿酸濃度の上昇に応答して漸増を示す(図2b)。UREXコントロール性SEAP生成の可逆性は、尿酸濃度を0mMから5mMに72時間毎に交互に変化させながらHEK−293UREX15を10日間培養することによって評価する。UREXのコントロールは、完全に可逆的であり、SEAP生成に全く発現記憶効果を示さずにいつでもリセットすることができる(図2c)。
【0036】
UREXは、正確で頑健な尿酸センサーとして、病的レベルのこの代謝物を治療的にコントロールするために適する。尿酸レベルを自律的で自己充足的にフィードバックコントロールにより減少させるために、尿酸センサー回路は、尿酸をより可溶性で、腎臓で分泌可能なアラントインに変換するウリカーゼ/尿酸オキシダーゼ(Uox)の発現と連結される必要がある(Legoux, R. et al., J. Biol. Chem. 267, 8565-8570 (1992))。補因子非依存性Aspergillus flavusウリカーゼは、哺乳動物細胞での発現のためにコドン最適化されている(mUox)。mUoxは、構成的発現するか(pCK67、PUREX8−mUox−pA)、またはmUTSによってコントロールされると(pCK67がpCK25と共発現、PUREX8−mUox−pA、PhEF1α−mUTS−pA)、培地中の尿酸を減少させる(0.5mM)。免疫グロブリン由来分泌シグナルとフレーム内融合させることによってmUoxを哺乳動物細胞ベースで分泌させるように操作したときの方が、尿酸の減少は効率的である(Fluri, D. et al., J. Control. Release 131, 211-219 (2008), smUox;SSIgk−mUox;pCK65、PUREX8−SSIgk−mUox−pA)(図3a)。
【0037】
構成的mUTS発現およびPUREX8推進性smUox発現のために操作されたHeLaURAT1を120時間培養する間にUREXコントロール性尿酸代謝の動態をプロファイリングする(図3b)。構成的smUox発現のために遺伝子導入された同質遺伝子HeLaURAT1対照細胞(mUTSの共発現なし)は、培地から尿酸を浄化するが、UREX−smUoxコントロール合成回路を内部に有する細胞培養物の尿酸レベルは、0.1mM(生理学的な状況で酸化ストレス防御を提供することが公知の濃度)で横ばいになり、これは、尿酸レベルが、UREXコントロールを誘導してさらなる尿酸酸化をトリガーすることがもはやできない閾値濃度未満に下落したことを示している。これらのデータは、UREX−smUoxによる尿酸レベルの自己充足的フィードバックコントロールを確認するものであり、この合成回路が病的尿酸レベルを自動コントロール的に酸化ストレス防御範囲内まで減少させることを示している。
【0038】
アロプリノールの不在下でヒト様尿酸腎症および痛風性関節炎症状を伴う高尿酸血症を発症しているuox−/−マウスが、UREXにコントロールされてsmUoxを発現している細胞埋込み物で処置された場合、血清および尿中のそれらの尿酸レベルは、標準的なアロプリノール療法によって達成された濃度まで降下し、一方で対照動物(HeLaURAT1細胞埋込み物、アロプリノールなし)は、尿酸を蓄積し、急性痛風性関節炎症状を発症する(図3c、d)。すべての処置群からのヘマトキシリン/エオシン染色腎切片の組織分析から、UREX−smUoxベースの治療用細胞埋込み物が近位尿細管中の結晶状の腎尿酸沈着物を減少させ、腎症の組織状態をほぼ完全に反転させることが確認される(図3e〜g)。
【0039】
痛風性関節炎は、最も痛みのあるリウマチ疾患である。尿酸オキシダーゼ欠乏のせいで、ヒトの血中尿酸レベルは、他の哺乳動物の最大50倍であり、このことが高尿酸血症疾患を発症するリスクを増大させる。尿酸が、ガン、パーキンソン病および多発性硬化症の発生を防止するために重要な不可欠なフリーラジカルスカベンジャーであり、酸化ストレス保護因子であるという事実は、尿酸結晶性沈着物の形成を防止する一方で十分な酸化ストレス防御を提供するように尿酸レベルを正確に調整する必要があるという理由で、痛風性関節炎の処置を特に困難にしている。尿酸媒介疾患を処置するための、臨床的に使用されている二つの主要な治療戦略がある:(i)プリン代謝を遮断して内因性尿酸生成を防止するアロプリノールのようなキサンチンオキシダーゼ阻害剤の投与、または(ii)血流からの尿酸クリアランスを促進するリコンビナントAspergillus flavusウリカーゼ(例えばRasburicase(登録商標))の静脈内注射。Rasburicase(登録商標)は、主にハイリスクなガン患者における腫瘍溶解症候群を予防するために使用されるが、40年よりも長く販売されているアロプリノールは、重大な副作用を有し、痛風の急性発作の間に服用することができず、高尿酸血症誘導腎症が進行状態に達した場合に中止しなければならない。別のキサンチンオキシダーゼ阻害剤であるフェブキソスタット(Uloric(登録商標))は、慢性高尿酸血症の処置のために米国食品医薬品局(FDA)によって最近認可された。
【0040】
ヒト尿酸トランスポーターと、操作されたD. radiodurans由来哺乳動物尿酸センサーおよびセンサーによってコントロールされ分泌操作されたA. flavus尿酸オキシダーゼとの機能的接続によって、マウスにおける尿酸レベルの自己充足的自動コントロールを提供する合成回路を設計する。このネットワークの独特な尿酸自動レベルコントロールの動態は、(i)血中尿酸レベルの継続モニタリング、(ii)病的尿酸レベルでのコアセンサーユニットの自動誘導、(iii)臨床的に認可された尿酸オキシダーゼのセンサーコントロールされた発現による尿酸の迅速な減少、および(iv)酸化ストレス防御に必要な生理学的尿酸基礎レベルに達したときの自然シャットダウンを可能にする。ヒト痛風性関節炎のマウスモデルにおける尿酸レベルのUREXベースのコントロールは、合成回路が予想通りに、そして最も重要なことには臨床的に関連する濃度範囲内で作動することを示す。ヒトにおいて、尿酸一ナトリウム結晶に起因する痛い炎症は、6.8mg/dlよりも大きい血中尿酸レベルで生じる(Terkeltaub, R., Bushinsky, D.A. & Becker, M.A., Arthritis Res. Ther. 8, S4 (2006))。UREXセンサーは、この種の病的レベルを捕捉し、分泌型ウリカーゼの用量依存性発現をトリガーすることができ、結果的にそのことは、処置された動物の血流中の尿酸を約80%、5mg/dlまで減少させる。6mg/dlよりも少ない循環レベルで、尿酸塩結晶沈着物は溶解することが知られ、患者は痛風性関節炎の臨床徴候を全く有さない。したがって、血流中の尿酸レベルを自己充足的に自動レベルコントロールするための、UREXベースのネットワークを内部に有する細胞埋込み物は、高尿酸血症性疾患における定期的小分子投与の代替となる予防戦略または治療的介入を意味する。
【0041】
実験の部
ベクターの構築
全てのプラスミドおよびオリゴヌクレオチドの設計の詳細を表1に提供する。
【0042】
【表1】

【0043】
オリゴヌクレオチド配列中の制限エンドヌクレアーゼ特異的部位に下線を引く。オリゴヌクレオチド配列に含まれる、アニーリングする塩基対を大文字で示す。
【0044】
略語:ET4、マクロライド依存性トランスサイレンサー;ETR8、MphR(A)に特異的な八量体のオペレーターモジュール;hucO、HucR特異的オペレーター;hucO、HucRに特異的な八量体のオペレーターモジュール;KRAB、クルッペル関連ボックスタンパク質;mHucR、哺乳動物細胞における発現のためにコドン最適化されたDeinococcus radiodurans尿酸依存性リプレッサー;MphR(A)、Escherichia coliマクロライド依存性リプレッサー;mUox、哺乳動物細胞における発現のためにコドン最適化された、Aspergillus flavus由来の尿酸オキシダーゼ細胞内変異体;pA、SV40由来後期ポリアデニル化部位;PhCMV、ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター;PhEF1α、ヒト伸長因子1αプロモーター;PSV40、サルウイルス40プロモーター;PUREX8、hucOを含有する尿酸誘導性プロモーター(PSV40−hucO);SEAP、分泌型ヒト胎盤性アルカリホスファターゼ;SSIgk、マウスIgκ鎖V−12−C領域由来分泌シグナル;smUox、哺乳動物細胞による分泌のために操作されたmUox;URAT1、ヒト有機陰イオン/尿酸トランスポーターSLC22A12(溶質担体ファミリー22メンバー12)。
【0045】
細胞培養およびトランスフェクション
ヒト子宮頚部腺ガン細胞(HeLa、ATCC CCL−2)、ヒト胎児腎細胞(HEK−293、ATCC CRL−1573)およびヒト線維肉腫細胞(HT−1080、ATCC CCL−121)を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FCS、PAN Biotech GmbH, Aidenbach, Germany, Cat. No. 3302, Lot No. P251110)および1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(P/S、PAN Biotech GmbH, Cat. No. P06-07100)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Invitrogen, Basel, Switzerland, Cat. No. 52100-39)中で培養する。全種類の細胞を、5% COを含有する37℃の加湿雰囲気中で培養する。標準的なCaPOベースのプロトコールを用いてHEK−293をトランスフェクションする(Weber, W. et al., Nucleic Acids Res. 31, e71 (2003))。HeLaも、この標準的なCaPOベースのプロトコールに従ってトランスフェクションしたが、但し、DNAの沈殿を細胞と共に12時間インキュベーションしてから培地を交換する。供給業者の手順に従ってHT−1080にFuGENE6(Roche Diagnostics AG, Basel, Switzerland, Cat. No. 11814443001)をトランスフェクションする。トランスフェクションされた細胞を、10%(v/v)ノックアウト代用血清(KOSR、Invitrogen, Basel, Switzerland, Cat. No. 10828-028)、1% P/Sおよび場合により尿酸(Acros Organics, Geel, Belgium, Cat. No. 171290250)を補充したDMEM(標準培地)中で培養する。尿酸依存性用量反応特性を確立するために、6ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific, Roskilde, Denmark)のウェル1個あたり3×10個の細胞を蒔き、上記のようにトランスフェクションする。細胞をトリプシン処理し(200μlトリプシン[PAN Biotech GmbH, Cat. No. P10-023500]、5分間、37℃)、遠心分離によって収集し(2分間、120×g)、1.5mlの標準培地中に再懸濁する。この細胞懸濁液100μlを、異なる濃度の尿酸を補充した96ウェルプレートの個別のウェルに移植し、48時間培養してから、培養上清中のレポーター遺伝子発現をプロファイリングする。
【0046】
安定なトランスジェニック細胞系の構築
ヒト腎臓尿酸陰イオン交換体(URAT1)の構成的発現のために遺伝子導入されたHeLa由来HeLaURAT1細胞は、pURAT1(PhCMV−URAT1−pA;ImaGenes, Berlin, Germany, IMAGE ID: 5183650)およびpZeoSV2(ゼオシン耐性を付与;[InvivoGEN, San Diego, USA, Cat. No. ant-zn-5])を10:1の比で共トランスフェクション(3μgの総DNA)することによって構築する。200μg/ml(w/v)ゼオシンを使用した14日の選択期間後に、細胞のクローンをエクスパンションさせ、個別のクローンを、qRT−PCRを用いてURAT1の発現についてプロファイリングする。さらなる実験のために細胞系HeLaURAT1を選択する。尿酸によって誘導されうるSEAPの発現を容易にする、HEK−293由来のトリプルトランスジェニックHEK−293UREX15細胞系は、(i)pCK9(PUREX8−SEAP−pA)およびpCK25(PhEF1α−KRAB−mHucR−pA、ブラストサイジン耐性を付与する構成的発現カセットも有する)(1:1の比、10% FCSおよび20μg/ml(w/v)ブラストサイジン[InvivoGen, San Diego, USA, Cat. No. ant-bl-1]を含有するDMEM中で14日間の選択)ならびに(ii)pURAT1(PhCMV−URAT1−pA)およびpZeoSV2(ゼオシン耐性を付与)(10:1の比[(3μgの総DNA]、10% FCS、20μg/ml(w/v)ブラストサイジンおよび200μg/ml(w/v)ゼオシン(InvivoGen, San Diego, CA, USA, Cat. No. ant-zn-5)を含有するDMEM中で14日間選択)の連続共トランスフェクションおよびクローン選択によって構築する。個別のHEK−293UREXクローンをランダムに釣り上げ、尿酸でトリガーされたSEAPの発現について評価する。さらなる研究のためにHEK−293UREX15を選択する。
【0047】
分析アッセイ
標準的なp−ニトロフェニルホスフェートベースの光吸収の経時変化を利用して、細胞培養上清およびマウス血清中のSEAPレベルを定量する(Berger, J., Hauber, J., Hauber, R., Geiger, R. & Cullen, B.R., Gene 66, 1-10 (1988))。Amplex(登録商標)Red尿酸/ウリカーゼアッセイキット(Invitrogen, Basel, Switzerland, Cat. No. A22181)を製造業者のプロトコールに従って使用して、細胞培養上清、マウス血清または尿中の尿酸レベルを評価する。尿酸含有試料を反応緩衝液で希釈する。ウリカーゼの添加は、尿酸からアラントイン、COおよびHへの酵素変換をトリガーし、Hは、ホースラディッシュペルオキシダーゼの存在下でAmplex Red試薬と化学量論的に反応し、赤色蛍光酸化産物であるレゾルフィンを発生し、レゾルフィンは585nmで定量することができる。
【0048】
in vivo方法
ヒト様痛風性関節炎症状を有する高尿酸血症を発症している尿酸オキシダーゼ欠損マウス(uox−/−)(Wu, X. et al.、上記引用文中)を使用して、UREXベースの尿酸コントロールの合成ネットワークをin vivo検証する(Charles River Laboratories, France、マウス株:JAKS2223)。uox−/−マウスは生後4週齢以内に死亡することから、繁殖および長期維持は、飲料水への150μg/mL(w/v)アロプリノール(Sigma, Cat. No. A8003)の添加を必要とする。UREXトランスジェニック細胞の埋込みの2週間前に、尿酸オキシダーゼ欠損マウスのアロプリノール処置を継続または中止して、血流中にそれぞれ低尿酸レベルまたは病的な高尿酸レベルを有する動物群を作出する。構成的URAT1発現のために遺伝子導入されたHeLaURAT1に、pCK25(PhEF1α−mUTS−pA)と、pCK9(PUREX8−SEAP−pA)、pSEAP2対照(PSV40−SEAP−pA)またはpCK65(PUREX8−smUox−pA)のいずれかとを一過性共トランスフェクションし、次に、製造業者のプロトコールに従って、以下の設定を適用してInotech Encapsulator Research IE 50R(EncapBioSystems Inc., Greifensee, Switzerland)を使用して200μmアルギン酸−(ポリ−L−リシン)−アルギン酸カプセルにマイクロ封入する(200個の細胞/カプセル):200μm単一ノズル、撹拌子スピードコントロールを5ユニットに設定、20mlシリンジで流速410ユニット、ノズル振動周波数1024Hz、カプセル分散のための電圧900V。2×10個の封入細胞を含有する700μl PBS(10個のカプセル/マウス)を尿酸オキシダーゼ欠損マウスに腹腔内注射する。対照マウスに、マイクロ封入された親HeLaURAT1を埋め込む。埋込みの48時間後にマウスを清潔なケージに移動させ、各処置群の尿を24時間採取する。埋込みの72時間後にマウスを屠殺し、それらの血液を収集し、製造業者のプロトコールに従って血清をマイクロテイナーSSTチューブ(Beckton Dickinson, Plymouth, UK)中に単離する。動物を必要とする全ての実験は、欧州共同体の理事会指令(86/609/EEC)に従って行う。
【0049】
組織検査
構成的URAT1発現およびUREXコントロール性smUox発現のために遺伝子導入された細胞をマイクロ封入したものを埋め込まれたuox−/−マウスの腎臓中の尿酸沈着物を顕微鏡分析するために、処置された動物を、上記飲料水から150μg/mL(w/v)アロプリノールを摂取している処置群およびアロプリノールを摂取していない処置群に分ける。埋込みの7日後に、マウスを屠殺し、その腎臓をPBSに溶かした4%(w/v)パラホルムアルデヒド(Sigma, Cat. No. P6148)中に外植し4時間固定する。その腎臓を、PBSに溶かした10%(w/v)スクロース(Sigma, Cat. No. S1888)中で90分間洗浄し、トリミングし、脱水し、パラフィン包埋する。Ultracut装置(Zeiss, Feldbach, Switzerland)を使用して製造した3μm組織切片をゼラチン化マイクロスライドに移し、37℃で一晩風乾する。キシレン中に浸すことによってパラフィンを除去した後に(3×10min)、段々低いエタノール濃度(90%、80%、70%)中で連続的にインキュベーション(10分間)することによって組織を再水和させ、TBS(トリス緩衝食塩水;50mM Tris/HCl[pH7.4]、100mM塩化ナトリウム)中で2回すすぎ、ヘマトキシリン/エオシン溶液で染色する。偏光下で試料を可視化し、Leica DMRBE顕微鏡を用いて異方性を評価する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス活性化ドメインまたはトランスリプレッサードメインに融合した細菌性尿酸センサー−レギュレーターのための遺伝暗号を含むベクター。
【請求項2】
細菌性尿酸センサー−レギュレーターが、Deinococcus radiodurans R1由来ウリカーゼセンサー−レギュレーターHucR、Deinococcus geothermalis DSM 11300由来MarR型転写レギュレーターDgeo_2531、Pseudomonas mendocina ypm由来MarR型転写レギュレーター、Deinococcus deserti VCD115由来MarR型転写レギュレーターDeide_3p00280、またはそれらに由来するセンサー−レギュレーターである、請求項1記載のベクター。
【請求項3】
細菌性尿酸センサー−レギュレーターが、Deinococcus radiodurans R1由来ウリカーゼセンサー−レギュレーターHucRである、請求項1記載のベクター。
【請求項4】
トランス活性化ドメインが、単純ヘルペスウイルスのvp16トランス活性化ドメイン、p65トランス活性化ドメイン、ヒトe2f4トランス活性化ドメイン、ならびにGAL4、CTF/NF1、AP2、ITF1、Oct1およびSpIに由来または関係するトランス活性化ドメインから成る群より選択される、請求項1、2または3記載のベクター。
【請求項5】
トランスリプレッサードメインが、ヒト−クルッペル関連ボックスタンパク質のkrabトランス抑制ドメイン、ならびにv−erbAガン遺伝子生成物、甲状腺ホルモンレセプター、Ssn6/Tup1タンパク質複合体、SIRIタンパク質、NeP1、TSF3、SF1、WT1、Oct−2.1、E4BP4、およびZF5に由来または関係するトランスリプレッサードメインから成る群より選択される、請求項1、2または3記載のベクター。
【請求項6】
細菌性尿酸センサー−レギュレーターと特異的に結合するオペレーター配列、プロモーター、およびタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項7】
オペレーター配列が、Deinococcus radiodurans R1由来センサー−レギュレーターHucR、Deinococcus geothermalis DSM 11300由来Dgeo_2531、Pseudomonas mendocina ypm由来MarR型転写レギュレーター、もしくはDeinococcus deserti VCD115由来Deide_3p00280に特異的に結合するDeinococcaceaeまたはPseudomonadaceaeによって生成されるオペレーター配列、またはそれらに由来するオペレーター配列である、請求項6記載のベクター。
【請求項8】
オペレーター配列が、Deinococcus radiodurans R1由来オペレーター配列hucOである、請求項6記載のベクター。
【請求項9】
プロモーターが、構成的サルウイルス40プロモーター(PSV40)、最小ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(PhCMVmin)、構成的ヒトサイトメガロウイルスプロモーター(PhCMV)、ヒト伸長因子1αプロモーター(PhEF1α)、ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PPGK)、ヒト−ユビキチンプロモーター(PhUBC)およびβアクチンプロモーターから成る群より選択される、請求項6、7または8記載のベクター。
【請求項10】
タンパク質が、ウリカーゼまたは尿酸トランスポータータンパク質である、請求項6〜9のいずれか記載のベクター。
【請求項11】
タンパク質が、分泌型ヒト胎盤性アルカリホスファターゼである、請求項6〜9のいずれか記載のベクター。
【請求項12】
有害な過剰の尿酸の検出および/または分解に有用な哺乳動物細胞であって、以下を含む細胞:
(a)請求項1〜5のいずれか記載のベクター;および
(b)請求項6〜11のいずれか記載のベクター。
【請求項13】
請求項12記載の哺乳動物細胞を含むナノコンテナまたはマイクロコンテナ。
【請求項14】
請求項12記載の哺乳動物細胞を含む、ヒト以外の哺乳動物。
【請求項15】
請求項12記載の哺乳動物細胞を使用して、尿酸の過剰または欠如によって起こる疾患を処置する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−527219(P2012−527219A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511166(P2012−511166)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002783
【国際公開番号】WO2010/133298
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(508139000)
【氏名又は名称原語表記】ETH Zurich
【Fターム(参考)】