説明

屈折率整合シート一体型SPR計測用チップ

【課題】本発明は、SPR光学系において、マッチングオイルを使用せずに、金属薄膜を形成した安価な透明基板を使用でき、容易に基板を交換できるSPR計測用チップを提供することを目的とする。
【解決手段】SPR光学系310で使用されるSPR計測用チップ200であって、SPR計測用の金属薄膜203を有する透明基板202と、透明基板202の金属薄膜203とは反対側の面に、透明な弾性粘着シート201をさらに備え、透明な弾性粘着シート201は、透明基板202に直接形成され、プリズム303および透明基板202の屈折率と同じであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系を使用して被測定溶液中の特定物質を定量あるいは定性的に測定する表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)現象を利用した測定に使用するSPR計測用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴計測のために通常、金属薄膜を形成したプリズムが必要である。しかし、計測のたびに金属薄膜は汚れ、洗浄作業が必要であるとともに、検査などにSPR計測を適用しようとした場合には、洗浄が完全に行われないと、検査結果の信用性も損なわれる。そこで、通常はプリズム上に屈折率整合液を滴下し、金属薄膜を形成した透明基板(ガラス板やプラスチック板)を張り合わせ、測定毎にガラス板やプラスチック板を交換する手法がとられている。
【0003】
上述した、従来のSPR光学系の構成例の断面図を図1に示す。
図1において、SPR光学系100は、光源101と、レンズ102と、プリズム103と、受光素子104と、マッチングオイル105と、金属薄膜を有する透明基板106とを備える。SPR光学系110は、透明基板106をプリズム103にマッチングオイル105を介して張り合わせた状態を示す。
【0004】
SPRをセンサとして応用する場合、ガラス基板は高価であり、プラスチック基板を採用することが望ましい。しかしながら、屈折率整合オイル105がプラスチック基板を溶かしてしまう恐れがあり、さらには測定毎にプリズム103上に残った屈折率整合オイル105を洗浄することは煩雑であり、センサとしての実用性に乏しい。
【0005】
特許文献1には、屈折率整合オイルの代わりに屈折率整合透明フィルムを利用し、ガラス基板の交換時にプリズム上の洗浄の必要がないシステムが紹介されている。しかしながら、屈折率整合透明フィルムをガラス基板とプリズムの間に設置しなければならないことや、その際に気泡が入りやすいことなどの問題があった。さらには、この材料は特にプラスチックを溶かす成分が含まれているために、プラスチックの透明基板上に直接成型できないという欠点がある。
【0006】
また、特許文献2には、プリズムと計測用チップの間に光学インターフェースプレートを設置する発明が記載されているが、部品点数が増えるばかりでなく、その形状が複雑であるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特許第3356212号公報
【特許文献2】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、SPR光学系において、マッチングオイルを使用せずに、金属薄膜を形成した安価な透明基板を使用でき、容易に基板を交換できるSPR計測用チップを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の表面プラズモン共鳴計測用チップは、表面プラズモン共鳴計測用の金属薄膜を有する透明基板と、上記透明基板の上記金属薄膜とは反対側の面に、透明な弾性粘着シートをさらに備え、上記透明な弾性粘着シートは、上記透明基板に直接形成され、プリズムおよび上記透明基板の屈折率と同じであることを特徴とする。
【0010】
また、上記透明な弾性粘着シートは、上記透明基板を侵食しない自己硬化型材料であってもよい。
【0011】
また、上記透明基板の上記透明な弾性粘着シート以外の部分に、上記プリズムと上記透明基板の距離を規定するスペーサを設けてもよい。
【0012】
また、上記透明な弾性粘着シートには、使用前に保護剥離シートが装着されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、SPR光学系において、マッチングオイルを使用せずに、金属薄膜を形成した安価な透明基板を使用でき、容易に基板を交換できるSPR計測用チップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図2に、本発明の屈折率整合シート一体型SPR計測用チップの最も簡単な構成例の概略図を示す。
図2において、SPR計測用チップ200は、金属薄膜201を形成した透明基板202に屈折率整合シート203を備えている。この屈折率整合シート203は、プリズム側に形成されてもよいが、プリズム側に形成された場合、SPR計測用チップ200を何回か着脱を繰り返すと、表面に不整が発生する可能性があり、屈折率整合シート203を作製し直す必要が生じるという問題がある。さらに、屈折率整合シート203を透明基板202に直接形成する場合には、屈折率整合シート203を単独で作製し、計測時にプリズムとSPR計測用チップ200とで挟み込む場合より密着時に気泡が入り込む余地を少なくできるという利点がある。
【0015】
このため、透明基板202に金属薄膜203を形成した後に、金属薄膜203の反対側に直接、屈折率整合シート201の原材料を塗布し作製している。直接塗布することによって、SPR計測用チップ200の表面の凹凸などを屈折率整合シート201の材料で埋めることによって、光学的にキャンセルできるという特徴を有する。屈折率整合シート201は、プリズムおよび透明基板202の屈折率に整合したシリコン系のゴムまたはゲルの透明シートであり透明基板202にシートを形成する際に透明基板202を浸さない。さらにシリコンゴムの特性により、弾性と、プリズムに対してある程度の粘着性を備えており、上からの圧力によって効率よくプリズムに圧着できる。
【0016】
塗布する方法としては材料を単純に滴下した後、硬化する方法や、滴下後ドクターブレード法で均一な膜厚に塗布する方法や、スピンコートで膜厚を制御して硬化する方法などがある。また、場合によっては材料と透明基板202の密着性をあげるために、表面処理を行う。
【0017】
次に、図3に、本発明の屈折率整合シート一体型SPR計測用チップを利用したSPR光学系の概念図を示す。
図3において、屈折率整合シート一体型SPR計測用チップ200は、プリズム303上に圧着されることによって、SPR光学系として機能する。LED301から出射された光はレンズ302を介して、透明基板202上で焦点もしくは焦線を結ぶように集光され、反射された光は受光素子304で検出される。このとき、プリズム303、屈折率整合シート201、透明基板202の屈折率は一致していることが望ましい。
【0018】
屈折率整合シート201は、光路の部分をカバーしていればよく、図の様に光を楔形に集光するタイプでは入射角度と、透明基板202及び屈折率整合シート201の厚みに依存する。
【0019】
また、本発明の屈折率整合シート201は、プリズム303との密着性を考慮し、透明シリコンゴムを採用しているが、圧着によって、屈折率整合シートの厚みが変化してしまう可能性がある。これは、圧着力を制御したり、図4に示すSPR計測用チップ400のように透明基板402の4角に、圧着時のシリコンゴム404の厚みを制御する、スペーサ403を設置することにより解決できる。
【0020】
なお、本発明によるSPR計測用チップは、計測前に屈折率整合シート201、404に傷などが付くことを防止して、使用前にはシート状の保護テープが貼られ、使用直前に保護テープを剥がすことにより、常に正常で傷のないシートをプリズム303に圧着することができる。
【実施例1】
【0021】
SPR光学系においてプリズム材質をBK7(屈折率=1.51)ガラスとし、透明基板には16×16×0.5mmのBK7ガラスを採用した。透明基板の一方の面には蒸着にてチタンを接着層(2〜3nm)として金薄膜(47nm)を形成した。
【0022】
金薄膜とは反対側の面に、2液混合タイプで硬化後の屈折率が1.52の透明シリコンゴムをピペットでスポットし、全体に延ばした。この屈折率整合シートの硬化後の厚みは0.5mmとなるように樹脂量を調整した。
【0023】
シリコン樹脂塗布後の基板を室温放置もしくは加熱によって硬化させ、屈折率整合シート一体型SPR計測用チップを作製した。作製した屈折率整合シート一体型SPR計測用チップを図5に示すようなSPR光学系に設置、上から加重をかけることによって、プリズムに密着させ、SPRを計測した。
【0024】
図5において、SPR光学系500は、光源501と、球面レンズA502と、円筒形レンズA503と、プリズム504と、円筒形レンズB505と、偏光子506と、球面レンズB507と、光検出器508と、屈折率整合シート509と、透明基板510と、金属薄膜511とを備える。
【0025】
上述の条件によるSPR計測を確認する画像を図6に示す。金薄膜上にはサンプルとして水を滴下した。図6において、横軸はSPR角度方向に相当し、縦方向はチップ上の焦線方向に相当する。SPR現象による反射光の減衰により、画像左側に暗線が確認でき、良好な計測が行えることが分かる。
【実施例2】
【0026】
プリズム材質をBK7とし、透明基板に16×16×1mmのBK7ガラスを採用した。透明基板の一方の面にはスパッタにてチタンを接着層(2〜3nm)として金薄膜(47nm)を形成した。
【0027】
金薄膜とは反対側の面に、硬化後の屈折率が1.51の透明シリコンゴムをスピンコートにて膜厚が0.1mmになるように塗布した。その後、加熱によって硬化させ、屈折率整合シートを作製した。
【0028】
作製した屈折率整合シート一体型SPR計測用チップを実施例1と同じSPR光学系により計測した。この条件で水のSPRを計測した画像を図7に示す。図7から、屈折率整合オイルを使用した場合と遜色なく、本発明の屈折率整合シート一体型SPR計測用チップが利用できることがわかる。
【実施例3】
【0029】
プリズム材質をBK7とし、透明基板を厚さ1mmの環状ポリオレフィンを材料としたプラスチックを採用した。透明基板の一方の面には蒸着にてチタンを接着層(2〜3nm)として金薄膜(47nm)を形成した。
【0030】
金薄膜とは反対側の面に、2液混合タイプで硬化後の屈折率が1.53の透明シリコンゴムをピペットでスポットし、全体に延ばした。この屈折率整合シートの硬化後の厚みは0.1mmとなるように樹脂量を調整した。
【0031】
上記で作製したSPR計測用チップを実施例1と同じ光学系に設置し、SPRの確認を行った画像を図8に示す。図8から、屈折率整合オイルを使用した場合と遜色なく、本発明の屈折率整合シート一体型SPR計測用チップが利用できることがわかる。
【実施例4】
【0032】
プリズム材質をBK7とし、透明基板を厚さ1mmの環状ポリオレフィンを材料としたプラスチックを採用した。透明基板の一方の面には蒸着にてチタンを接着層(2〜3nm)として金薄膜(47nm)を形成した。
【0033】
金薄膜とは反対側の面に、2液混合タイプで硬化後の屈折率が1.53の透明シリコンゴムを滴下し、ドクターブレード法にて均一な厚みで延ばした。この屈折率整合シートの硬化後の厚みは0.1mmとなるようにブレードの高さを調整した。
【0034】
作製した屈折率整合シート一体型SPR計測用チップを実施例1に示したのと同じSPR光学系で計測した。図9は、水のSPRを計測した画像である。図9から、屈折率整合オイルを使用した場合と遜色なく、本発明の屈折率整合シート一体型SPR計測用チップが利用できることがわかる。
【0035】
また、以上の構成によりSPR計測でよく行われる抗原抗体反応の確認を行った。作製された屈折率整合シート一体型SPR計測用チップに2つのチャンネルを設け、片方にAnti−IgGを固定化・BSAブロッキングし、もう片方には参照チャネルとして、BSAブロッキングのみを行った。そのチップをSPR光学系に設置し、サンプルとして様々な濃度のIgG溶液を流した。測定開始後、8900〜9400secで、50ng/ml、10150〜10650secで500ng/ml、11150〜11650で5ug/mlのIgG溶液を流し、その間の応答を見た図を図10に示す。その結果、IgGの濃度に応じた、シグナルの上昇を確認することができ、抗原抗体反応に適用可能であることが確認された。
【0036】
本発明により、マッチングオイルを使用している上では避けることができなった、チップを交換するたびにプリズムを洗浄するという操作が必要なくなり、さらには、チップと屈折率整合シートを別にした場合に比較して、界面での気泡の発生を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】従来のSPR光学系の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるSPR計測用チップの断面を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態によるSPR計測用チップを使用したSPR光学系の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態によるスペーサを使用したSPR計測用チップの断面を示す図である。
【図5】本発明の実施例1に係るSPR計測用チップを使用したSPR光学系の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例1に係るSPR計測用チップを使用したSPR計測を確認する画像を示す図である。
【図7】本発明の実施例2に係るSPR計測用チップを使用したSPR計測を確認する画像を示す図である。
【図8】本発明の実施例3に係るSPR計測用チップを使用したSPR計測を確認するグラフを示す図である。
【図9】本発明の実施例4に係るSPR計測用チップを使用したSPR計測を確認する画像を示す図である。
【図10】本発明の実施例4に係るSPR計測用チップを使用した抗体抗原反応を確認するグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0038】
200 SPR計測用チップ
201,404,509 屈折率整合シート
202,402,510 透明基板
203,401,511 金属薄膜
301,501 光源
302 レンズ
303,504 プリズム
304,508 受光素子
403 スペーサ
502 球面レンズA
503 円筒形レンズA
505 円筒形レンズB
506 偏光子
507 球面レンズB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴計測用の金属薄膜を有する透明基板と、
前記透明基板の前記金属薄膜とは反対側の面に、透明な弾性粘着シートをさらに備え、
前記透明な弾性粘着シートは、前記透明基板に直接形成され、プリズムおよび前記透明基板の屈折率と同じであることを特徴とする表面プラズモン共鳴計測用チップ。
【請求項2】
前記透明な弾性粘着シートは、前記透明基板を侵食しない自己硬化型材料であることを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモン共鳴計測用チップ。
【請求項3】
前記透明基板の前記透明な弾性粘着シート以外の部分に、前記プリズムと前記透明基板の距離を規定するスペーサを設けることを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモン共鳴計測用チップ。
【請求項4】
前記透明な弾性粘着シートには、使用前に保護剥離シートが装着されていることを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモン共鳴計測用チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−101645(P2010−101645A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271100(P2008−271100)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】