説明

屈曲型アクチュエータ

【課題】 本発明は効率の高い屈曲動作を実現する熱歪方式のアクチュエータを提供する。
【解決手段】 本発明は、互いに対向する第一の電極および第二の電極と、前記第一の電極と第二の電極との間に配置されている導電性部材と、を有し、
前記導電性部材が発熱することで屈曲するアクチュエータであって、
前記導電性部材の前記第一の電極側の熱膨張率と前記導電性部材の前記第二の電極側の熱膨張率とが異なることを特徴とするアクチュエータを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は屈曲型アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の診察器具や介護用の補助器具などへの適用に向けて、小型、軽量かつ柔軟性をもつ高分子アクチュエータの開発が行われている。高分子アクチュエータは電気信号の入力により材料自身が変形する構造となっており、駆動方式としてイオン交換膜中のイオンの移動により変形させる方式、電極間の誘電膜の静電引力による変形を利用する方式、導電性膜の熱による変形を利用する方式など様々な方式がある。
【0003】
これらの方式の中で熱による駆動方式は、構成が簡単で使用環境に制約が少ないといった利点がある。例えば、特許文献1には、絶縁性の下地層の上に導電性の伸縮層を設ける構造が記載されている。
【0004】
伸縮層内に電流を流すことでジュール熱を発生させ、下地層と伸縮層の熱膨張率の違いにより屈曲する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−146799号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のアクチュエータは屈曲するために下地層を有し、伸縮層が熱膨張することで屈曲する。しかし、熱量は伸縮層のみではなく、下地層にも供給されるので、屈曲の熱効率が低下していた。
【0007】
本発明は、導電性部材のみで屈曲が可能であり、下地層に熱量を奪われないため屈曲の熱効率が高いアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって本発明は、互いに対向する第一の電極および第二の電極と、前記第一の電極と第二の電極との間に配置されている導電性部材と、を有し、
前記導電性部材は通電することで発熱し、
前記導電性部材が発熱することで屈曲するアクチュエータであって、
前記導電性部材の前記第一の電極側の熱膨張率と前記導電性部材の前記第二の電極側の熱膨張率とが異なることを特徴とするアクチュエータを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性部材のみで屈曲が可能であり、下地層を必要とせず、下地層に熱量を奪われないため、屈曲の熱効率が高いアクチュエータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係るアクチュエータの構成概略図である。
【図2】アクチュエータの駆動評価のための固定化方法および評価方法を示す概略図である。
【図3】印加電圧に対するアクチュエータの温度変化の測定例である。
【図4】印加電圧に対する相対変位量の測定例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、互いに対向する第一の電極および第二の電極と、前記第一の電極と第二の電極との間に配置されている導電性部材と、を有し、
前記導電性部材が発熱することで屈曲するアクチュエータであって、
前記導電性部材の前記第一の電極側の熱膨張率と前記導電性部材の前記第二の電極側の熱膨張率とが異なることを特徴とするアクチュエータである。
【0012】
本実施形態に係るアクチュエータの動作原理は、熱膨張率の違いを利用した屈曲である。アクチュエータは、導電性部材の熱膨張率が低い面の方向に屈曲する。
【0013】
本実施形態に係るアクチュエータが有する導電性部材は、第一面または第二面は熱膨張率を変化させる処理をされているため、第一面と第二面とは互いに熱膨張率が異なる。
【0014】
本実施形態に係る導電性部材の熱膨張率を変化させる処理は、例えば電磁波や粒子線を照射する処理が挙げられる。電磁波や粒子線を照射した場合、導電性部材を構成しているエラストマーは、分子構造内の架橋構造が増加するため、熱膨張率が低くなる。
【0015】
なぜならば、エラストマーの熱膨張率は、エラストマーの分子構造の自由度に起因するので、分子内の架橋構造が増加すれば、分子構造の自由度が低くなるためである。
【0016】
本実施形態に係る導電性部材の熱膨張率を変化させる処理は、電磁波や粒子線を照射する処理に限られず、導電性部材の一面を加熱する方法や、添加物を導電性部材の一面に導入する方法であってもよい。
【0017】
図1は本実施形態に係るアクチュエータの一例の構成の概略(a)および駆動原理(b)を示す図である。
【0018】
本実施形態に係るアクチュエータは、導電性部材1と一対の電極2とを有し、導電性部材1は第一の面3から第二の面4に向かって、熱膨張率が高くなる。一対の電極とは、第一の電極および第二の電極である。
【0019】
本実施形態に係るアクチュエータが有する導電性部材に電流を流すと導電性部材が発熱することで、導電性部材が熱膨張する。
【0020】
本実施形態に係るアクチュエータは、導電性部材の第一面よりも第二面の方が、熱膨張率が高いので、図1(b)に示すように屈曲する。
【0021】
本実施形態に係るアクチュエータは、発熱した熱量をすべて導電性部材の熱膨張に利用することができるので、屈曲動作の熱効率が高い。すなわち、一対の電極の間に導電性部材のみを有する構成が最も熱効率が高い。
【0022】
本実施形態に係るアクチュエータは、一対の電極の間に導電性部材以外の層を有してもよい。この導電性部材以外の層は特に限定されないが、熱伝導率が低いものが好ましい。導電性部材の熱量を奪わないためである。
【0023】
本実施形態に係る導電性部材は、エラストマーと導電フィラーとを構成成分に有する。導電性部材の形状は、特に限定されないが、屈曲動作を阻害しないためにシート形状であることが望ましい。
【0024】
本実施形態において、シート形状とは、面と高さを有する立体であり、面が有する長手方向の辺の長さと高さとを比較した場合、長手方向の辺の長さの方が長い立体のことである。
【0025】
本実施形態に係る導電性部材を構成するエラストマーとしては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム、シリコーンゴムなどが挙げられ、これらのゴムの混合物であってもよい。
【0026】
本実施形態に係る導電性部材を構成する導電フィラーとしては、例えば、カーボンブラックなどの炭素粒子、カーボンナノチューブやカーボンナノコイルなどの炭素繊維、金粒子や銀粒子などの金属粒子が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係る導電性部材は、エラストマーの中に導電フィラー導入した構成が挙げられる。導電フィラーを導入する方法は、例えば、エラストマーとともに混練する方法が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係るアクチュエータの電極の材料としては金、白金、白金パラジウムなどの金属や導電性高分子などを用いることができる。
【0029】
電極の厚さは導電性部材の屈曲を阻害しないために薄い方が好ましい。特に金属を用いる場合は100nm以下が望ましい。
【0030】
電極は、公知の方法で形成することができる。例えば、スパッタリングや蒸着法等が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係るアクチュエータの電極はその最外層に保護層等の別層を有していてもよい。この場合、別層は、一対の電極の間に配置される層ではなく、電極の一部として電極が有するものである。
【0032】
本実施形態に係る導電性部材の熱膨張率が第一面と第二面とで異なることは、導電性部材の第一面と第二面との硬度を比較することで確認することができる。
【0033】
導電性部材の硬度の違いを評価する方法としては、JIS K 6253に開示されているデュロメーターを用いる方法や、走査型プローブ顕微鏡のフォースカーブの傾きから求める方法などがある。
【実施例】
【0034】
導電性部材は導電フィラーとしてカーボンブラック、エラストマー材料としてニトリルブタジエンゴムを用いた導電シートとした。
【0035】
カーボンブラックのニトリルブタジエンゴム中への入れ量は30部である。導電シートの厚さは100μmである。
【0036】
導電シートの第一面の熱膨張率を低くする方法は、紫外線を照射する方法を用いた。
【0037】
導電シートの第二の面をアルミ箔と密着させ紫外線が照射されないようにし、紫外線照射装置(Filgen社製UV253、紫外線強度:3.7mW/cm)に入れて15分間紫外線を第一の面に照射した。
【0038】
紫外線を照射した後、第一の面と第二の面の硬度の違いを走査型プローブ顕微鏡のフォースカーブの傾きの比から求めたところ、第二の面に対し第一の面の硬度は6.45倍となった。
【0039】
電極は、イオンスパッタ装置(日立製作所製E−1030)を用いて、白金パラジウム層を第1の面と第2の面の全面に6nmずつ形成した。
【0040】
電極形成後の導電シートを縦15mm横5mmの矩形に成形した。
【0041】
図2は実施例で作製したアクチュエータの駆動評価のための固定化方法および評価方法を示す概略図である。
【0042】
成形した導電シート101は電極102にリード線103を導電性テープで固定後、ガラス切片104で挟みガラス基板105上に接着剤で固定した。
【0043】
ガラス切片104から空間に出ている部分が駆動部となり、その長さLは1cmとした。
【0044】
駆動時には直流電源(KIKUSUI製、PMC160−0.4A)をリード線103につなぎ、0Vから160Vまで印加電圧を変えながら駆動させた。
【0045】
駆動評価は静態時の導電シート101の長さLに対する電圧印加時の端辺の移動量dの比d/Lを求め、相対変化量として評価した。
【0046】
図3は印加電圧に対する導電シートの温度変化の測定例である。導電シートの温度は、導電シートの表面に直径12.7μmのKタイプ熱電対を押し当てて測定した。印加電圧が大きくなるほど導電シートの温度は高くなった。
【0047】
図4は印加電圧に対する相対変位量の測定例である。印加電圧を0V,60V,120V,160Vと変えながら撮影を行い、静態時のLと移動量dを画像から求めた。印加電圧が大きくなるほど相対変位量が大きくなることが確認できた。
【0048】
この結果から、本発明に係る導電シートが熱歪方式の屈曲型アクチュエータとして駆動していることが確認できた。
【0049】
[比較例]
実施例に記載のニトリルブタジエンゴム中に30部のカーボンブラックを入れた導電シートに、紫外線を照射しないで、実施例1に記載の方法で電極を形成した。
【0050】
電極を付けた紫外線未照射の導電シートを、実施例に記載した方法で固定した。電極に電圧を印加したところ、発熱はしたが屈曲はしなかった。
【0051】
<実施例と比較例の比較>
導電シートの第1の面の硬度を第2の面の硬度よりも大きくすることで、屈曲型のアクチュエータとなることが示された。
【符号の説明】
【0052】
1 導電性部材
2 電極
3 第一の面
4 第二の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第一の電極および第二の電極と、前記第一の電極と第二の電極との間に配置されている導電性部材と、を有し、
前記導電性部材が発熱することで屈曲するアクチュエータであって、
前記導電性部材の前記第一の電極側の熱膨張率と前記導電性部材の前記第二の電極側の熱膨張率とが異なることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記導電性部材は、シート形状であることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記導電性部材は、エラストマーと導電フィラーとを有することを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記エラストマーは、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム、シリコーンゴムの少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記導電フィラーは炭素粒子、炭素繊維、金属粒子の少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項3または4に記載のアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−57296(P2013−57296A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196118(P2011−196118)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】