説明

屋外固定物の固定方法およびその方法に用いられる固定具

【課題】屋外固定物を固定するためのボルトの腐蝕部分に従来の固定部材と同様の長さの固定部材を容易にかつ充分強固に係合させて屋外固定物を固定できるようにすることにある。
【解決手段】屋外固定物5を固定するための、ボルト2を用いた固定方法において、前記ボルトの腐食前の雄ねじ2aに螺合する寸法の雌ねじを形成した固定部材7であって、前記雌ねじの一部が周方向に少なくとも部分的に元の寸法より縮径している固定部材7を、前記雌ねじの縮径していない端部側から前記ボルト2の腐食した部分の雄ねじ2aにねじ込み、前記ボルトの腐食した部分の雄ねじに前記雌ねじの縮径している部分を螺合させることで、前記ボルト2に前記固定部材7を係合させて前記屋外固定物5を固定することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や倉庫・店舗等の屋根葺に用いられているスレート屋根材を補修するための金属製折曲げ屋根材等の屋外固定物を固定する際に用いられる固定方法および、その方法に用いられる、フックボルト等のボルトとそのボルトに係合する固定部材とを具える固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、老朽化したスレート葺屋根の補修を行う場合、先ず古くなったスレート屋根材を取り外し、次いで新たなスレート屋根材等を取付けて新しい屋根を葺上げる方法が一般的であるが、この工法では、特に工場等の場合、その葺替工事の間、作業を長期間に亘って休止しなければならないという問題があった。また、取り外したスレート屋根材はその多くがセメントの他に10〜20mass%程度の石綿をも含むものであるため、近年は、この大量に発生する廃棄物の処理が環境汚染になるという問題があった。さらに、葺替工事中は屋根がなくなるため、風雨を凌ぐための養生を行うことが必要になり、しかも骨組だけになるため危険が伴い、かつ室内足場などを必要とするという問題もあった。
【0003】
そこで、従来、老朽化したスレート葺屋根を取り壊すことなく、その上を金属製折曲げ屋根材にて覆うことによりスレート葺屋根を補修する方法が、例えば特許文献1,2により開示されて知られている。
【0004】
即ち、特許文献1では、既設の波形スレート葺屋根を固定しているフックボルトに、固定金具としてのサドル部材を、その中央に設けられた通孔を介して挿通すると共に、該通孔から突出したフックボルトに、固定部材としての新規の長ナットを螺合させて締付け固定し、次にそのサドル部材上に、前記長ナットを跨ぐ高さで断面凸状に折曲成形された垂木部材を載置し、該垂木部材上に設けた金属製折曲げ屋根材の山部(凸部)から垂木部材に至るまで止着部材を挿通させることにより、金属製折曲げ屋根材を垂木部材上に支持固定する二重葺き屋根構造を提案している。
【0005】
また、特許文献2では、既存の波形スレート板を固定しているフックボルトに、そのスレート板の略1山分に跨る固定金具としての支持金具を、その中央に設けられた挿入孔から挿通すると共に、フックボルトに弾性的に嵌着される固定部材としての止め板によって上側から押さえて固定し、次にその支持金具上に、新規の外装下地材を載置して固定具によって固着した後、該外装下地材上に新規の金属製折曲げ屋根材(外装材)を載置し、その金属製折曲げ屋根材の凸部上方から外装下地材に至るまでドリルビスを打入させることにより、金属製折曲げ屋根材を外装下地材上に支持固定する外装材葺替え構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3484630号公報
【特許文献2】特開2003−184228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1および特許文献2で開示された従来技術は、屋外固定物としての補修用金属製折曲げ屋根材およびその固定のための垂木部材や下地材を固定するために、既設の波形スレート葺屋根を固定しているフックボルトの、固定金具を貫通した部分に固定部材としての長ナットや止め板を係合させて、それらフックボルトと、長ナットや止め板とで固定具を構成している。
【0008】
しかしながら、上記固定具において、既設の波形スレート葺屋根を固定しているフックボルトは、屋外環境に長期間晒されていたため腐食により雄ねじのねじ山が損耗している場合が多く、かかるフックボルトの腐食部分の、ねじ山が損耗した雄ねじでは、長ナットや止め板をしっかりと係合させることが困難な場合がある。そして長ナットや止め板の係合が不充分な場合には、フックボルトへの補修用金属製折曲げ屋根材の強固な固定ができず、補修用金属製折曲げ屋根材が強風時に外れて飛散する可能性が必ずしも否定できない。
【0009】
このため、例えば上記特許文献1記載の構成では、フックボルトの腐蝕がひどい場合は長ナットをさらに長くして係合長さを稼ぐことも考えられるが、長ナットをさらに長くすると下地の高さに収容される範囲に長ナットが収まらず、二重葺き屋根構造の構成に支障が生じてしまう。
【0010】
そこで、本発明は、屋外固定物を固定する際に固定具のボルトの腐蝕部分に従来の固定部材と同様の軸線方向長さの固定部材を容易にかつ充分強固に係合させる固定方法および、その方法に用いられる、フックボルト等のボルトとそのボルトに係合する固定部材とを具える固定具とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明の屋外固定物の固定方法は、屋外固定物を固定するための、ボルトを用いた固定方法において、前記ボルトの腐食前の雄ねじに螺合する寸法の雌ねじを形成した固定部材であって、前記雌ねじの一部が周方向に少なくとも部分的に元の寸法より縮径している固定部材を、前記雌ねじの縮径していない端部側から前記ボルトの腐食した部分の雄ねじにねじ込み、前記ボルトの腐食した部分の雄ねじに前記雌ねじの縮径している部分を螺合させることで、前記ボルトに前記固定部材を係合させて前記屋外固定物を固定することを特徴とするものである。
【0012】
また、上記課題を有利に解決する本発明の屋外固定物の固定具は、屋外固定物を固定するための、ボルトと、そのボルトに係合する固定部材とを具える固定具であって、前記固定方法に用いられる固定具において、前記固定部材が、前記ボルトの腐食前の雄ねじに螺合する寸法の雌ねじを形成され、前記固定部材の、前記雌ねじの一部が、周方向に少なくとも部分的に元の寸法より縮径していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明の屋外固定物の固定方法および固定具によれば、固定部材をその固定部材の雌ねじの、ボルトの腐食前の雄ねじに螺合する寸法を持つ、縮径していない端部側から、屋外固定物を固定するためのボルトの腐食した部分の雄ねじにねじ込むと、そのボルトの腐食した部分の雄ねじに、その雄ねじへの前記雌ねじの縮径していない端部の螺合による案内下で、前記雌ねじの一部の縮径した部分が、腐蝕損耗したボルトのねじ山に圧力が加わるように密着し、縮径によって通常のねじより高い摩擦力で螺合するので、前記固定部材が従来の固定部材と同様の軸線方向長さのものでも、その固定部材を容易にかつ充分強固にボルトに係合させて屋外固定物を固定することができる。
【0014】
なお、本発明の屋外固定物の固定方法においては、前記固定部材の前記雌ねじの一部が、前記ボルトの腐食した部分の腐食の程度が大きい(例えば表面からの腐蝕深さが深い)程、雌ねじの内径が周方向に少なくとも部分的に小さくなるよう縮径していることができ、このようにすれば、ボルトの腐蝕部分の内部の腐蝕していない部分にまで雌ねじを確実に螺合させて固定部材を充分強固に係合させることができるので好ましい。
【0015】
また、本発明の屋外固定物の固定方法においては、前記固定部材の、前記雌ねじの一部を形成する部分をその雌ねじの半径方向内方へ向けて加締め加工することにより、前記雌ねじの一部を、周方向に少なくとも部分的に縮径させることができ、このようにすれば、固定部材に先に通常の雌ねじを形成してから加締め加工で固定部材を半径方向内方へ向けて潰して縮径させるので、容易に縮径部分を形成することができる。
【0016】
そして、本発明の屋外固定物の固定方法においては、前記屋外固定物は、既設スレート葺屋根上に被覆配設して固定する補修用金属製折曲げ屋根材であることができ、このようにすれば、既設スレート葺屋根上に被覆配設した補修用金属製折曲げ屋根材を強固に固定し得て、補修用金属製折曲げ屋根材が強風時に外れて飛散するのを有効に防止することができる。
【0017】
一方、本発明の屋外固定物の固定具においては、前記固定部材の前記雌ねじの一部が、前記ボルトの腐食した部分の腐食の程度が大きい(例えば表面からの腐蝕深さが深い)程、雌ねじの有効径が周方向に少なくとも部分的に小さくなるよう縮径していることができ、このようにすれば、腐蝕損耗したボルトのねじ山に圧力が加わるように密着し、縮径によって通常のねじより高い摩擦力で螺合することから、固定部材を充分強固に係合させることができるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の屋外固定物の固定方法の一実施形態にかかるスレート葺屋根補修構造を示す断面図である。
【図2】(a),(b)および(c)は、本発明の屋外固定物の固定具の一実施形態で固定するクランプ金具を示す斜視図、底面図および側面図である。
【図3】本発明の屋外固定物の固定方法の他の一実施形態にかかる太陽電池パネル取り付け構造を示す側面図である。
【図4】(a)および(b)は、図3中のA部を拡大して図3と同方向およびそれと直角な方向からそれぞれ示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示す、本発明の屋外固定物の固定方法の一実施形態にかかるスレート葺屋根補修構造は、溝型鋼材などで構成される母屋1上にフックボルト2を介して固定されたスレート屋根材3の丸形凸部3aのうちの、上記フックボルト2の設置部分に屋根材固定用のクランプ金具4を配置し、このクランプ金具4を介してその上に、屋外固定物としてのカバールーフである金属製折曲げ屋根材5を固定して、老朽化したスレート葺屋根をその上から金属製折曲げ屋根材5で覆うことにより、該スレート葺屋根の補修を行った様子を示している。
【0020】
図2(a)〜(c)は、上記クランプ金具4の一例を示しており、図示のようにこのクランプ金具4は、矩形状の金属製板材を樋状に折曲することで、中央に上面部4cを設けるとともに、その上面部4cの左右側縁に対し左右傾斜部4a,4bを設け、さらにそれら左右傾斜部4a,4bの側縁に対しスレート屋根材3の丸形凸部3aの傾斜面に沿うように傾斜した左右鍔片4d,4eを設けたものである。このクランプ金具4の上面部4cの長手方向の中央部には凹部6が形成され、この凹部6の底壁には上記フックボルト2を挿通するために、幅方向に長い長円状のボルト挿通孔6aが形成されている。
【0021】
また、このクランプ金具4の左右傾斜部4a,4bには、それら左右傾斜部4a,4bをエンボス加工することで内向きに窪んだ窪み部8,9が設けられており、これら窪み部8,9は、クランプ金具4をスレート屋根材3の丸形凸部3a上に載置した際に、クランプ金具4の荷重が左右鍔片4d,4eからスレート屋根材3の丸形凸部3aの傾斜面に集中して加わるのを防ぐためのものである。すなわち、これらくぼみ部8,9は左右傾斜部4a,4bの内面側では凸部を形成し、それらの凸部の下端面が左右鍔片4d,4eの下面に連なっているので、クランプ金具4の荷重は丸形凸部3aの頂部付近にも分散されることになり、例えば施工中に作業員がクランプ金具4を踏む等して荷重がかかった場合にも、スレート屋根材3が局部的に破損するおそれがなくなる。
【0022】
さらに、このクランプ金具4の左右傾斜部4a,4bには、凹部6の長円状ボルト挿通孔6aに隣接する部分に、この部分を球殻状に外側に膨らませて膨出部10a,10bが設けられており、これら膨出部10a,10bは、フックボルト2の締め付け用のナット11や座金12が、芯ズレしている場合に、左右傾斜部4a,4bと干渉することがないようにするためのものである。すなわち、スレート屋根材固定用のフックボルト2が、スレート屋根材3の丸形凸部3aの頂点に対し芯ズレしていて、長円状ボルト挿通孔6aの中央でなく端部を貫通するような場合でも、該フックボルト2を締め付けているナット11や座金12が、これら膨出部10a,10b内に逃げて、左右傾斜部4a,4bと干渉することがないので、クランプ金具4をスレート屋根3上にしっかりと固定することができる。
【0023】
ところで、このクランプ金具4は、上述のようにスレート屋根材3の所定位置の丸形凸部3aの、フックボルト2の設置部分上に載置されると共に、図1,2に示す如く、上記ボルト挿通孔6aに挿通されたフックボルト2と、そのフックボルト2の雄ねじ2aにその上端からねじ込まれた固定部材7との係合によって該ストレート屋根材3上に強固に固定されて、その上面部4cに固定ねじ13等で固着された金属製折曲げ屋根材5を母屋1に固定する。すなわち、フックボルト2と固定部材7とは、本発明の屋外固定物の固定具の一実施形態を構成し、クランプ金具4を介して金属製折曲げ屋根材5を母屋1に固定する機能を果たすものである。
【0024】
スレート屋根材3を長期間固定しているフックボルト2の雄ねじ2aは、少なくともナット11よりも先端側の部分で、屋外の風雨等に晒されて表面が腐食して、その雄ねじ寸法が細くなっている場合が多い。それゆえここにおける固定部材7は、フックボルト2のそのように腐蝕した部分でもしっかりと確実に螺合するように、例えば特殊形状のナットからなるものとする。すなわち、この固定部材7は、例えば鍔付きのナットの形状をなすとともに、フックボルト2の腐食前の正規の雄ねじ寸法(例えば呼び径6mmのメートル並み目ねじあるいは呼び径1/4インチ(2分)のウイットねじ)に螺合する正規の雌ねじ寸法の雌ねじ7aを有し、その雌ねじ7aの一端部(図では上端部)のみが周方向に等間隔に三箇所、部分的に元の寸法より縮径している。この縮径の程度は、フックボルト2の腐食した部分の腐食の程度が大きい(例えば表面からの腐蝕深さが深い)程、雌ねじ7aの内径が周方向に部分的に小さくなる(例えば表面からの腐蝕深さに0.1mm〜0.5mm程度の所定食い込み深さを加えた分半径が小さくなる)よう設定されている。
【0025】
かかる固定部材7をこの実施形態の固定方法では、図2(a)に示すように、その雌ねじ7aの、フックボルト2の腐食前の雄ねじ寸法に対応する寸法を持つ他端部(図では下端部)側から、フックボルト2の腐食した部分の雄ねじ2aにねじ込み、フックボルト2に固定部材7を係合させてクランプ金具4を固定し、これにより、金属製折曲げ屋根材5を母屋1に固定する。
【0026】
そしてそのねじ込みの際には、フックボルト2の雄ねじ2aへの、固定部材7の雌ねじ7aの正規寸法の上記他端部の螺合による案内下で、そのフックボルト2の腐食した部分の雄ねじ2aの谷に、固定部材7の雌ねじ7aの上記一端部の縮径している部分の山が密着し、縮径によって通常のねじより高い摩擦力で、そのフックボルト2の腐食した部分の雄ねじ2aに固定部材7の雌ねじ7aが螺合する。
【0027】
従って、この実施形態の固定方法によれば、フックボルト2の腐食した部分に、従来のナット11等の固定部材と同様の軸線方向長さ(高さ)の上記固定部材7を容易にかつ充分強固に係合させて、屋外固定物としての金属製折曲げ屋根材5を母屋1に強固に固定することができるので、補修用の金属製折曲げ屋根材5が強風時に外れて飛散するのを有効に防止することができる。
【0028】
しかも、この実施形態の固定方法によれば、固定部材7の雌ねじ7aの一端部が、フックボルト2の腐食した部分の腐食の程度が大きい程、雌ねじ7aの内径が周方向に部分的に小さくなるよう縮径しているので、フックボルト2の上記先端側の腐蝕部分に雌ねじ7aの縮径部分を密着させて、高い摩擦力で、固定部材7を充分強固に係合させることができる。
【0029】
ここで、固定部材7の雌ねじ7aの一端部の上述の如き部分的な縮径形状は、例えばNC旋盤で削り出すこともできるが、固定部材7の、先に形成した正規形状の雌ねじ7aの上記一端部を形成する端部を、その雌ねじ7aの半径方向の内方へ向けて例えばプレス金型で加締め加工することにより、容易にかつ正確に形成することができる。
【0030】
なお、このように一端部が周方向に部分的に縮径した雌ねじ7aを持つ固定部材7としては、フックボルト2の腐食程度に対して縮径程度が上記縮径部分の食い込みを可能にするものであれば、例えば紀州ファスナー株式会社が市販している商品名「スリーロックナット(フランジ付)」を用いることができる。なお、上記固定部材7の説明として、一端部のみが縮径している特殊形状のナット(鍔付き)の例を用いて説明したが、縮径している箇所は一端部に限定されず、ナットの軸線方向の中央部でも構わない。また、鍔がなくてもかまわない。
【0031】
一方、クランプ金具4の凹部6は、図1に示すように、深さが固定部材7の高さと同等もしくはそれ以上となるように形成されている。このように構成することにより、固定部材7をフックボルト2に締結してクランプ金具4を既設のスレート屋根3上に固定した際に、固定部材7の上端が該クランプ金具4の上面部4cを越えないので、固定部材7がクランプ金具4から突出することがない。またクランプ金具4を固定部材7によってフックボルト2に固定した後は、フックボルト2の先端部を、クランプ金具4の上面部4cの高さ以下まで切断する。これにより、フックボルト2も固定金具4の凹部6内に収まるようになる。
【0032】
従って、この実施形態の固定具によれば、新設の金属製折曲げ屋根材5をクランプ金具4上に載置する際に、固定部材7およびフックボルト2が金属製折曲げ屋根材5に当接することがないので、クランプ金具4の高さ程度まで金属製折曲げ屋根材5の山部高さを下げることができ、これにより、金属製折曲げ屋根板5をクランプ金具4に、その上面部4cへの固定ねじ13のねじ込み等によって直接固着することができるとともに、金属製折曲げ屋根材5に、一般に普及している屋根材(914mm幅)を使用して、補修屋根構造を全体に低く(フラットに)仕上げることができるので、葺き上げた補修屋根を安定したものとすることができる。
【0033】
このような葺屋根施工によって、老朽化したスレート葺屋根は、カバールーフである新しい金属製折曲げ屋根材5によってその全面が覆われ、スレート屋根材3等の既設屋根設備を全く解体することなく補修することができるようになる。
【実施例】
【0034】
上述した実施形態の固定方法および固定具の一実施例について、強度試験を実施した結果は以下の通りである。すなわち、既存の建物のスレート葺屋根を構成する複数枚のスレート屋根材3を全体的に固定している36本の、呼び径6mmのフックボルト2について、それぞれ腐蝕した雌ねじ7aから元のナットを外し、代わりにその腐蝕した雌ねじ7aに固定部材7を係合させて、その固定部材7に専用引き抜き試験機の金具を係合させ、その金具を介して専用引き抜き試験機の手動式ねじ機構で固定部材7に引き抜き力を加えながら引き抜き荷重を測定する引き抜き強度試験を実施したところ、引き抜き荷重352kgf〜213kgf(213kgfは一本のみ)で、全てフックボルト2の基部のU字状に曲がった引っ掛け部が伸び、固定部材7の外れやフックボルト2の真直ぐな軸部の切断はなかった。
【0035】
ところで、スレート屋根材3を固定しているフックボルト2は各固定部(1m)で三本ずつ組になっているので、ある固定部で最小引き抜き荷重の213kgfのフックボルト2が三本組になっていると仮定するとその固定部の破壊荷重は639kgf/mとなり、一方、風速32m、高さ7mの固定部での局部風荷重は144kgf/mとなるから、局部風荷重に対する安全係数は最低でも4.4倍となり、この点からも、上述した金属製折曲げ屋根板5による補修屋根が強風に対して充分な強度を有していることは明らかである。
【0036】
図3は、本発明の屋外固定物の固定方法の他の一実施形態にかかる太陽電池パネル取り付け構造を示す側面図であり、この実施形態の固定方法は、既存のスレート葺屋根のスレート屋根材3を母屋1上に固定しているフックボルト2に、溝型形状の固定金具14と、それと同様の溝型形状の長尺の下地材15とを介して太陽電池パネル16を固定するものである。なお、ここで用いる固定具は、先の実施形態の固定具と同様のものである。
【0037】
この実施形態の固定方法では、図4(a),(b)に拡大して示すように、開口側を上向きにした固定金具14の底部に設けたボルト挿通孔14aに、フックボルト2の、ナット11よりも先端側の腐食した部分を挿通して、その腐食した部分の雄ねじ2aに先の実施形態の固定具におけると同様、固定部材7をその雌ねじ7aの、フックボルト2の腐食前の雄ねじに螺合する寸法を持つ他端部(図では下端部)側からねじ込み、フックボルト2に固定部材7を係合させて固定金具14をフックボルト2に固定する。
【0038】
次いでここでは、固定金具14の開口部に開口部を対向させて固定金具14上に下地材15を配置し、固定金具14と下地材15とのフランジ同士を例えば固定ねじ13のねじ込み等によって固着させ、そしてその下地材15上に太陽電池パネル16を載置して、その下地材15に太陽電池パネル16を例えば固定ねじ13のねじ込み等によって固着させ、これにより、太陽電池パネル16を母屋1に固定する。
【0039】
そしてそのねじ込みの際には、フックボルト2の雄ねじ2aへの、固定部材7の雌ねじ7aの正規寸法の上記他端部の螺合による案内下で、そのフックボルト2の腐食した部分の雄ねじ2aの谷に、固定部材7の雌ねじ7aの上記一端部の縮径している部分の山が密着し、高い摩擦力で、そのフックボルト2の腐食した部分の雄ねじ2aに固定部材7の雌ねじ7aが螺合する。なお、フックボルト2の雄ねじ2aの、固定部材7を螺合させた位置よりも先端側の余長部は、固定部材7のねじ込みの前または後に、必要に応じて切断する。
【0040】
従って、この実施形態の固定方法によれば、フックボルト2の腐食した部分に、上記固定部材7を容易にかつ充分強固に係合させて、屋外固定物としての太陽電池パネル16を母屋1に強固に固定することができるので、太陽電池パネル16が強風時に外れて飛散するのを有効に防止することができる。
【0041】
以上、図示の実施形態に基づき説明したが、この発明の固定方法および固定具は、上述の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更することができるものであり、例えば、固定部材7の雌ねじ7aの軸線方向一部は、周方向の二箇所だけまたは四箇所以上縮径していても良く、あるいは周方向の全周に亘って環状に縮径していても良い。
【0042】
また、ボルトを用いた固定具で固定される屋外固定物は、上述した補修工法で用いる金属製折曲げ屋根材5や、新設あるいは交換した太陽電池パネル16に限られず、例えば、屋根上に設置するものでは、太陽電池パネル以外の太陽電池機器や、空調機器のクーリングタワー、アンテナ、ベンチレーター、雪止め器具等であっても良く、また建物側部に設置する壁材であっても良い。さらに、固定具のボルトは、屋根建材製品としての、金属屋根材の大波、小波や、塩化ビニール樹脂屋根材、ポリカーボネート屋根材、FRP屋根材等を固定するフックボルトであっても良い。そして、固定具のボルトは、フックボルトに限られず、部材に係合する頭部を持つ通常のボルトや、部材にねじ込み固定されるアンカーボルト等であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
かくして本発明の屋外固定物の固定方法および固定具によれば、固定部材をその固定部材の雌ねじの、ボルトの腐食前の雄ねじに螺合する寸法を持つ他端部側から、屋外固定物を固定するためのボルトの腐食した部分の雄ねじにねじ込むと、そのボルトの腐食した部分の雄ねじに、その雄ねじへの前記雌ねじの他端部の螺合による案内下で、前記雌ねじの一部の縮径した部分が螺合するので、前記固定部材が従来の固定部材と同様の軸線方向長さのものでも、その固定部材を容易にかつ充分強固にボルトに係合させて屋外固定物を固定することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 母屋
2 フックボルト
2a 雄ねじ
3 スレート屋根材
3a スレート屋根材の丸形凸部
4 クランプ金具
4a 左傾斜部
4b 右傾斜部
4c 上面部
4d 左鍔片
4e 右鍔片
5 金属製折曲げ屋根材
6 凹部
6a ボルト挿入孔
7 固定部材
7a 雌ねじ
8,9 窪み部
10a,10b 膨出部
11 ナット
12 座金
13 固定ねじ
14 固定金具
14a ボルト挿通孔
15 下地材
16 太陽電池パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外固定物を固定するための、ボルトを用いた固定方法において、
前記ボルトの腐食前の雄ねじに螺合する寸法の雌ねじを形成した固定部材であって、前記雌ねじの一部が周方向に少なくとも部分的に元の寸法より縮径している固定部材を、前記雌ねじの縮径していない端部側から前記ボルトの腐食した部分の雄ねじにねじ込み、
前記ボルトの腐食した部分の雄ねじに前記雌ねじの縮径している部分を螺合させることで、前記ボルトに前記固定部材を係合させて前記屋外固定物を固定することを特徴とする、屋外固定物の固定方法。
【請求項2】
前記固定部材の前記雌ねじの一部が、前記ボルトの腐食した部分の腐食の程度が大きい程、雌ねじの内径が周方向に少なくとも部分的に小さくなるよう縮径していることを特徴とする、請求項1に記載の屋外固定物の固定方法。
【請求項3】
前記固定部材の、前記雌ねじの一部を形成する部分をその雌ねじの半径方向内方へ向けて加締め加工することにより、前記雌ねじの一部を、周方向に少なくとも部分的に縮径させることを特徴とする、請求項1または2に記載の屋外固定物の固定方法。
【請求項4】
前記屋外固定物は、既設スレート葺屋根上に被覆配設して固定する補修用金属製折曲げ屋根材であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の屋外固定物の固定方法。
【請求項5】
屋外固定物を固定するための、ボルトと、そのボルトに係合する固定部材とを具える固定具であって、請求項1から4までの何れか1項記載の固定方法に用いられる固定具において、
前記固定部材が、前記ボルトの腐食前の雄ねじに螺合する寸法の雌ねじを形成され、
前記固定部材の、前記雌ねじの一部が、周方向に少なくとも部分的に元の寸法より縮径していることを特徴とする、屋外固定物の固定具。
【請求項6】
前記固定部材の前記雌ねじの一部が、前記ボルトの腐食した部分の腐食の程度が大きい程、雌ねじの有効径が周方向に少なくとも部分的に小さくなるよう縮径していることを特徴とする、請求項5に記載の屋外固定物の固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−248845(P2010−248845A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101572(P2009−101572)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】