説明

展着材およびその製造方法

【課題】美術品や文化財の表面装飾上に直接塗布又は噴霧して使用することができ、平衡水分状態において高い接着性を長期間にわたって維持され、さらに、被修復対象上にできた染みや汚れを除去することができ、しかも、最終的に生分解されて被修復対象中から消失する展着材を提供する。
【解決手段】牛膠と水からなる第1膠液12bに淡水魚又は海水魚を自然発酵させて製造される微生物種9を添加して自然発酵させた発酵液15dと、牛膠と水からなる第2の膠液12cとを混合して成形し乾燥させたことを特徴とする展着材17b。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美術品や文化財の修復に適した展着材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、顔料を用いて色彩を施したり、金箔等の箔を貼り付けて装飾する場合、木材や紙から成る支持材上に彩色を施したり、金箔を貼り付けるという方法がとられている。
この場合、支持材に表面装飾を付着させる目的で展着材を用いる必要があり、このような展着材としては動物性膠、植物性膠、合成膠が知られている。
その一方で、このような展着材を用いた表面装飾は、保存状態にもよるが、時間の経過とともに損傷が起こるため、修復が必要となる。
通常、美術品や文化財の損傷は、展着材である膠の接着力が低下して、表面装飾が支持材から浮き上がったり、剥落するという形で起こる。
この場合、新たな展着材として、例えば、アクリル樹脂や、牛を主原料とする牛膠用いて支持材に表面装飾を再度接着している。
【0003】
アクリル樹脂を新たな展着材として用いて修復を行う場合、乾燥時にアクリル樹脂の変形収縮等の不具合は生じないものの、アクリル樹脂は経時変化に伴って確実に劣化する。
また、アクリル樹脂を用いて表面装飾の修復を行った場合、その後、修復に用いられたアクリル樹脂が劣化して再度修復が必要になった場合に、被修復対象である表面装飾から劣化したアクリル樹脂を除去することができず、再修復ができなくなってしまうという課題があった。
【0004】
また、牛膠を新たな展着材として用いて修復を行う場合、特にその取扱いには特に注意を要していた。
通常、牛膠は牛の皮や骨から抽出されるコラーゲンから作られるゼラチンであり、このようなゼラチンはタンパク質の巨大分子がその内部に水分子を抱え込むことでゾル化している。
そして、支持材から浮き上がった表面装飾を再度支持材に接着しようとしてゾル化した牛膠を水で希釈して、表面装飾の表面に塗布又は噴霧すると、水分の蒸発に伴って牛膠が変形収縮し、被修復対象の損傷をさらに悪化させたり、最悪の場合、表面装飾が剥落する恐れがあった。
このため、美術品や文化財を修復する際には、支持材から浮き上がった表面装飾の隙間の部分に1箇所ずつにシリンジ等を用いてゾル化した牛膠を注入して、表面装飾を支持材に再接着してやる必要があった。
このような課題を解決する目的で、いくつかの発明が開示されている。
【0005】
特許文献1には「接着剤組成物およびその用途」という名称でコラーゲン加水分解物を主成分とする接着剤組成物およびその用途に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明は、コラーゲン加水分解物を主成分とする接着剤組成物であって、保水剤として少なくとも乳酸ナトリウムを含有することを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に記載の発明によれば、良好な柔軟性を長期にわたり維持することができ、かつ、平衡水分状態においても優れた粘着性を発揮することができるので、これを用いて、例えば、長期間にわたり「割れ」や「バリ音」が生じることのない製本背糊用接着剤、平衡水分状態においても優れた粘着性を発揮する水溶性粘着剤、および粘着性と保型性とを兼ね備えたシート状パック材を提供することができるという効果を有する。
【0006】
特許文献2には「天然素材からなる耐候性ある接着剤」という名称で、膠を使用した天然素材からなる耐候性ある接着剤に関する発明が開示されている。
特許文献2記載の発明は、膠と水と水溶性の糖類と桐油からなるものであり、膠と水が重量比率で35:65〜55:45の割合で含まれ、糖類と桐油はそれぞれ、膠と水の合計量の3〜18重量%の割合で添加されていることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献2に開示される発明によれば、天然素材のみを使用しているため、環境及び人体に優しい接着剤であり、自然に還るため、廃材処理も容易である。また、後の実施例に示す通り、従来の接着剤に比して、耐候性に優れるため、屋外においても接合面が剥離し難く、安定して接着が保たれた。また、竹酢液や木酢液を使用した場合、膠のゲル化を抑制し、作業性よく使用できるだけでなく、かびの繁殖を抑制できるという効果を有する。
【0007】
特許文献3には「天然樹脂接着剤」という名称で、再々加熱することにより剥離可能な多目的に使用することのできる天然樹脂接着剤に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示される発明は、ニカワ(ゼラチン)水溶液とグリセリン、固形油脂、澱粉質の粉末を攪拌加熱し、溶融重合したことを特徴とするものである。
上記構成の特許文献3記載の発明によれば、水分が蒸発した後も若干の弾力性を保持するため、殆んどの物を接着、または密着固定することが出来、加熱剥離することが可能であることから修理、修復に便利であり、多目的に使用できるうえ安全無害であるという効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−238934号公報
【特許文献2】特開2007−39514号公報
【特許文献3】特開平7−126602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示される発明においては、長期間にわたり柔軟性を維持することができるので、美術品や文化財の表面装飾の修復に利用可能であると考えられるものの、その主成分が分子量の大きいコラーゲン加水分解物(ゼラチン)であるため、濃度を十分に薄めたとしても被修復対象に塗布又は噴霧する方法による利用は難しかった。
また、被修復対象の表面にできた染みや汚れの除去効果については期待できなかった。
【0010】
特許文献2に開示される発明によれば、長期間にわたり接着性が保持されるとともに、カビの繁殖も抑制できると考えられるものの、やはりその主成分が分子量の大きいゼラチンであるため、濃度を十分に薄めたとしても被修復対象に塗布又は噴霧する方法による利用は難しかった。
また、特許文献2に開示される接着剤は、桐油を含んでいるので、水性顔料のための展着材としては適さないという課題があった。
また、被修復対象の表面にできた染みや汚れの除去効果については期待できなかった。
【0011】
特許文献3に開示される発明においても、高い接着性が期待できると考えられるものの、やはりその主成分が分子量の大きいゼラチンであるため、濃度を十分に薄めたとしても被修復対象に塗布又は噴霧する方法による利用は難しかった。
また、被修復対象の表面にできた染みや汚れの除去効果については期待できなかった。
【0012】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、美術品や文化財の表面装飾上に直接塗布又は噴霧して使用することができるとともに、時間の経過とともに微生物に分解されて表面装飾中から消失し、さらに、被修復対象上にできた染みや汚れを除去することができる展着材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため請求項1記載の展着材は、牛膠と水からなる第1の膠液に淡水魚又は海水魚を自然発酵させて製造される微生物種を添加して自然発酵させた発酵液と、牛膠と水からなる第2の膠液とを混合して成形し乾燥させたことを特徴とするものである。
上記構成の発明において、微生物種を淡水魚又は海水魚から製造することで、より具体的には、微生物種を淡水魚又は海水魚のアラ、切り身、内臓を用いて製造することで、請求項1に記載の展着材はナトリウム(Na)、リン(P)、カリウム(K)等の不純物を多く含むことになる。そして、これらの不純物は、微生物種を用いて発酵液を製造する際に、新たに微生物が増殖するための必須な栄養素として用いられるとともに、最終製品である請求項1に記載の展着材の吸湿性を高め、被修復対象に塗布または噴霧された際に大気中の水分を吸着して接着成分であるタンパク質の粘稠性を高め、その接着力を持続させるという作用を有する。
また、微生物種は醗酵液の製造時に、第1の膠液中に生きた微生物を供給するという作用を有する。そして、微生物種を添加した第1の膠液を自然発酵させることで、請求項1記載の展着材を水溶液にして被修復対象に塗布又は噴霧した際の被修復対象内部への浸透性を高めるという作用を有する。
また、このとき発酵液中には、酵素又は微生物の活動に伴う代謝産物(例えば、酸、アルコール等)が生成され、これらは被修復対象にできた染みや汚れを分解除去するという作用を有する。
また、第2の膠液を、約40〜70℃の温度領域の熱で予め加熱処理することで、第2の膠液を構成するタンパク質の変性を抑制して、展着材として使用した際の接着性が低下するのを抑制するとともに、第2の膠液中の水分の一部を蒸発させて濃縮するという作用を有する。
さらに、濃縮された第2の膠液に、発酵液を添加することで、発酵液中に含まれる酵素により第2の膠液中に含まれるゼラチン(タンパク質)を分解することで成形後の乾燥させる際に請求項1記載の展着材が変形収縮するのを妨げるという作用を有する。
一般に、微生物は70℃以下の温度では完全に死滅することはなく、また、自然な乾燥状態においても微生物は完全に死滅しない。このため、加熱処理済みの第2の膠液に、醗酵液を添加して成形し、自然乾燥することで、請求項1記載の展着材中に、微生物を生きた状態で存在させるという作用を有する。この結果、被修復対象を請求項1に記載の展着材を用いて修復することで、被修復対象の表面には微生物が付着することになり、これにより、平衡水分条件下において被修復対象を汚損するようなカビ等が被修復対象上において優勢に繁殖するのを妨げるという作用を有する。
そして、請求項1記載の展着材の主成分はタンパク質であるため、被修復対象である表面装飾に供給された後、時間の経過とともに生分解されて被修復対象中から消失するという作用を有する。これにより、被修復対象に再びタンパク質を主成分とする展着材により修復可能にするという作用を有する。
【0014】
請求項2記載の発明である展着材は、請求項1に記載の展着材であって、微生物種の製造時に、鮫の生肉を添加することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1記載の発明と同じ作用に加え、鮫の生肉は、微生物の繁殖源である栄養分として作用する。
また、鮫の生肉は、脂質の含有量の少ないタンパク質であるため、請求項2記載の展着材中に油分が混入するのを抑制するとともに、タンパク質の分解能を有する微生物(例えば、乳酸菌)優勢に繁殖させるという作用も有する。
この結果、微生物種中のタンパク質を分解する微生物の濃度を高めると同時に、タンパク質を分解する酵素や微生物の代謝産物の濃度を上昇させるという作用を有する。
【0015】
請求項3記載の発明である展着材の製造方法は、淡水魚1kg又は海水魚1kgに対して水200ccを加えて弱火で加熱処理したものを陶製の容器に入れ、この容器内において発生したガスが外に逃げられるように容器の開口を封した後、直射日光の当たらない地表面上に載置して少なくとも2年間自然発酵させて液体の微生物種を得る第1の工程と、この第1の工程の後に、400ccの水に牛膠1kgを浸して膨潤させたものを加熱してゾル化した第1の膠液を製造し、この第1の膠液5kgに対して微生物種を400〜500ccを添加して第1の混合液とし、この第1の混合液を陶製の容器に入れ、この容器内において発生したガスが外に逃げられるようにこの容器の開口に封をした後、直射日光の当たらない地表面上に載置して2年間自然発酵させて第1の発酵液を得る第2の工程と、この第2の工程の後に、陶製の容器に収容される第1の発酵液の全量に対して牛膠150〜200gを添加して、この容器内において発生したガスが外に逃げられるように容器の開口に封をした後、直射日光の当たらない地表面上に載置して1年間自然発酵させて第2の発酵液を得る第3の工程と、この第3の工程の後に、400ccの水に牛膠1kgを浸して膨潤させたものを加熱してゾル化した第2の膠液を製造し、この第2の膠液の全量に対して第2の発酵液を400〜500ccを添加して攪拌して第2の混合液とし、この第2の混合液を空冷して成形し、さらに自然乾燥させて固形状にすることを特徴とするものである。
上記構成の発明において、第1の工程は、淡水魚又は海水魚と水と自然界にいる微生物から微生物種を製造するという作用を有する。このとき、容器の開口を容器内において発生したガスが外に逃げられるように封をすることで、容器内を半嫌気状態に保つという作用を有する。
また、淡水魚又は海水魚を一旦加熱処理しておくことで、自然発酵時に原料が腐敗するのを抑制して、タンパク質を分解する微生物の繁殖を促進するという作用を有する。
さらに、微生物種の原料として、淡水魚又は海水魚を用いることで、より具体的には、淡水魚又は海水魚のアラ、切り身、内臓を用いることで、微生物種中のナトリウム(Na)、リン(P)、カリウム(K)等の不純物の濃度を上昇させるという作用を有する。そして、これらの不純物は、続く第2,第3の工程において、微生物の繁殖に必須な栄養素として作用するとともに、請求項3に記載の方法により製造される展着材中に含有されることでその吸湿性を高めるという作用を有する。
そして、第1の工程により製造された微生物種は、請求項1に記載の発明における微生物種と同じ作用を有する。
続く第2の工程においては、第1の膠液と微生物種からなる第1の混合液を半嫌気条件下において自然発酵させることで、微生物種中に含まれる微生物を第1の混合液中において優勢に繁殖させて、タンパク質を分解する酵素の濃度を上昇させるとともに、接着物質として作用する微生物由来のタンパク質の濃度を高めるという作用も有する。また、この時に生成される酵素や微生物の代謝産物は、被修復対象にできた染みや汚れを分解除去するという作用を有する。
そして、その後の第3の工程においては、第2の工程の作用を促進するという作用を有する。
つまり、第2の工程において製造された第1の発酵液に固形状の牛膠を追加して再度自然発酵させることで、タンパク質を分解する酵素の濃度をさらに上昇させると同時に、被修復対象にできた染みや汚れを分解除去する酵素や物質の濃度をさらに上昇させるという作用を有する。
最後の第4の工程においては、タンパク質が変性しない温度領域の熱で加熱処理してゾル化した第2の膠液を製造することで、より具体的には、400ccの水で膨潤させた牛膠を湯煎により約2時間加熱して第2の膠液とすることで、過熱により製造された展着材の接着性が低下するのを抑制するとともに、第2の膠液中の水分の一部を蒸発させて、濃縮させるという作用を有する。
このとき、第2の膠液中の水分の一部を蒸発させておくことで、空冷しても単独ではゲル化しない第2の醗酵液を添加した第2の混合液を確実にゲル化させるという作用を有する。
さらに、濃縮された第2の膠液に第2の発酵液を添加することで、第2の発酵液中に含まれる微生物由来のタンパク質分解酵素により膠由来のゼラチン(タンパク質)を分解するという作用を有する。
上述のような第1乃至第4の工程を経て製造された展着材は、請求項1に記載の展着材と同じ作用を有する。
【0016】
請求項4記載の発明である展着材の製造方法は、請求項3記載の展着材の製造方法であって、第1の工程の自然発酵時に、鮫の生肉を添加することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項2記載の発明を方法の発明として捉えたものであり、請求項2及び請求項3に記載のそれぞれの発明の作用を組み合せた作用を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1記載の発明によれば、接着物質を膠や魚を自然発酵させものを用いることで被修復対象の表面に塗布又は噴霧した際に、接着成分をその内部にスムースに浸透させることができるという効果を有する。
この結果、請求項1記載の発明を、水を用いてゾル化したものを、被修復対象に単に塗布または噴霧するだけで被修復対象を修復することができる。つまり、請求項1記載の展着材を用いることで、従来の牛膠を使う場合に比べて、修復作業にかかる時間を大幅に短縮することができる。
さらに、請求項1記載の展着材は、被修復対象に供給された後、時間の経過とともに生分解されて最終的には被修復対象である表面装飾中から完全に消失するので、請求項1記載の展着材を用いた表面装飾の再修復が可能になる。
この結果、請求項1記載の展着材を用いた修復を繰り返すことで、美術品や文化財の表面装飾を恒久的に保存することができるという効果を有する。
また、請求項1記載の展着材には、吸湿性を有する不純物であるナトリウム(Na)、リン(P)、カリウム(K)が通常の牛膠よりも高い濃度で含有されるため、この展着材を用いて修復された被修復対象は、修復完了後に大気から継続的に水分を取り込むことができる。この結果、接着成分であるタンパク質に水分が供給され続けることでその粘稠性が維持され、長期間にわたり請求項1記載の展着材の接着力を維持することができる。
また、請求項1記載の展着材には、微生物による自然発酵時に生成された酵素や代謝産物であるアルコールや酸が含有されている。このため、請求項1記載の展着材をゾル化して塗布又は噴霧した場合に、これらの物質の作用により、例えば、木のヤニや雨水に伴う染みや汚れを分解除去することができるという効果を有する。
また、請求項1記載の展着材には、微生物が生きた状態で含まれている。このため、被修復対象に請求項1記載の展着材を、被修復対象に塗布又は噴霧した場合に、被修復対象に微生物を生きた状態で供給することができるという効果を有する。
そして、被修復対象に展着材由来の微生物を付着させることで、被修復対象を汚損するカビ等が優勢に繁殖するの抑制することができるという効果を有する。また、このような被修復対象を保護する微生物は、大気中に含まれる水分を利用して細々と生存し続けることができるので、自然な湿度条件下において修復済みの美術品や文化財の保護効果を持続させることができるという効果も有する。
また、上記効果以外にも、その詳細な機構は分かっていないが、木製の支持材上に貼り付けられた金箔が浮き上がり、さらに、その金箔上にホコリが降り積もった状態の被修復対象に、請求項1に記載の展着材を塗布又は噴霧することで、被修復対象の支持材に金箔を再接着させると同時に、ホコリを除去することができるという効果も有する。
【0018】
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同じ効果に加え、微生物種の製造時に、鮫の切り身を添加することで、タンパク質を分解する微生物の繁殖を促進することができる。
この結果、第1の膠液を用いて第1,第2の発酵液を製造することで、それぞれの発酵液中におけるタンパク質分解酵素や微生物の代謝産物の濃度を上昇させることができるという効果を有する。
従って、請求項2記載の展着材の被修復対象への浸透性を向上するとともに、被修復対象のクリーニング効果を高めることができる。
【0019】
本発明の請求項3載の発明は、請求項1記載の発明を方法の発明として捉えたものであり、請求項3記載の方法により製造された展着材は請求項1記載の発明と同じ効果を有する。
【0020】
本発明の請求項4載の発明は、請求項2記載の発明を方法の発明として捉えたものであり、請求項4記載の方法により製造された展着材は請求項2記載の発明と同じ効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る展着材の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】(a)〜(c)はいずれも本発明の実施の形態に係る微生物種製造工程を示す概念図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る発酵液製造工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係る混合・成形・乾燥工程を示すフローチャートである。
【図5】(a)は本実施の形態に係る固形混合液の裁断の様子を示す概念図であり、(b)は本実施の形態に係る展着材の完成品の外形を示す概念図である。
【図6】(a),(b)は本実施の形態に係る展着材を用いて被修復対象の修復を行う様子を示す概念図である。
【図7】(a)は市販品の牛膠の外観を示す写真であり、(b),(c)はいずれも本実施の形態に係る展着材の外観を示す写真である。
【図8】(a)は牛膠(市販品水)溶液を滴下した桧材の様子を示す写真であり、(b),(c)はいずれも本実施の形態に係る展着材水溶液を滴下した桧材の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
古来、人はタンパク質が粘着性を有することを見出し、膠として接着材または表面装飾をする際の展着材として用いてきた。
従来、美術品や文化財の表面装飾が浮き上がったり、剥落するなどの損傷がおきた場合、牛膠やアクリル樹脂を用いて修復していた。
しかしながら、特に牛膠は牛から高純度に抽出されたコラーゲンを原料として製造されるゼラチンであり、このようなゼラチンは分子量が大きいため、被修復対象の表面に塗布又は噴霧すると、接着成分であるゼラチンが被修復対象の内部に浸透しないばかりか、乾燥時に被修復対象の表面において変形収縮して表面装飾の損傷をより深刻化させてしまうという課題があった。
このため、従来、牛膠を用いて修復する場合、浮き上がった表面装飾とその支持材の隙間の一箇所ずつにシリンジ等を用いてゾル化した牛膠を注入して修復を行っているが、この方法は作業性が極めて悪く煩雑であった。
【0023】
そこで発明者は、古くからの美術や建築に関する技法の中に微生物由来のタンパク質を利用して接着力を持続させているものがあるという事実に注目し、鋭意研究の結果、接着成分の被修復対象の表面から内部への浸透性の高く、最終的には生分解されて被修復対象中から消失する展着材及びその製造方法を見出した。
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る展着材およびその製造方法について図1乃至図4を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の実施の形態に係る展着材の製造方法を示すフローチャートである。
本実施の形態に係る展着材の製造方法1は、大まかに説明すると図1に示すように、魚から微生物種9を製造する微生物種製造工程(ステップS1)と、ステップS1において製造された微生物種9と、牛膠を水でゾル化させた膠液12bから発酵液15dを製造する発酵液製造工程(ステップS2)と、ステップS2において製造された発酵液15dと、牛膠を水でゾル化させた膠液12bに熱処理を加えて濃縮させた濃縮膠液12cから最終的な展着材17bを製造する混合・成形・乾燥工程(ステップS3)により構成されている。
以下に、ステップS1〜S3について図2乃至4を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図2(a)〜(c)はいずれ本発明の実施の形態に係る微生物種製造工程を示す概念図である。なお、図1に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施の形態に係る微生物種製造工程(ステップS1)においては、まず、図2(a)に示すように、鍋2に淡水性又は海水性の魚3の全て(アラ、切り身、内蔵)1kgに対して水4;200ccを加えて、弱火で約15分間加熱して加熱処理済原料7を得る。このように、魚3に予め加熱処理を施しておくことで、腐敗菌の繁殖を抑制することができる。
【0026】
続いて、図2(b)に示すように、加熱処理済原料7を陶製の陶製容器5に収容し、その開口部5aに和紙、又は、布等の緩通気性を有する材質で封6をして、直射日光が当たらない通風のある地表面8上に、例えば、和風建築建物の1階の床下、土間、倉などに載置して、少なくとも2年間自然発酵させる。以下に示す他の工程においても、「直射日光が当たらない通風のある地表面8」と記載される場合は、例えば、和風建築建物の1階の床下、土間、倉などを指し示している。
なお、本実施の形態においては、好気条件下における微生物の望ましくない作用を「腐敗」と呼び、嫌気条件下又は半嫌気条件下において微生物が増殖し、かつ、目的とする有用な代謝産物や酵素を生産する作用を「発酵」と呼んで区別している。
【0027】
この場合、封6として、緩通気性を有する和紙や布を用いることで、陶製容器5内への積極的な空気の交換を妨げながら、発酵が進んだ際に、陶製容器5内で発生したガスを外部に緩やかに放出することができる。
この結果、陶製容器5内は半嫌気状態となり、タンパク質を栄養源として繁殖する微生物(例えば、乳酸菌)を優勢に繁殖させることができる。
なお、本実施の形態においていう微生物とは、自然界に普通に生息する酵母、カビ、細菌等を指し示しており、ステップ1において陶製容器5内で繁殖する微生物は必ずしも1種類であるとは限らない。
また、淡水性又は海水性の魚3の全てを原料として微生物種9を製造することで、微生物種9中にナトリウム(Na),リン(P),カリ(K)等を多く含有させるという作用を有する。
【0028】
そして、図2(b)に示す2年間の自然発酵時に、1年に2回の頻度で、魚3;1kg、水4;200ccからなる加熱処理済原料7の全量に対して、鮫切り身10(皮付きのものでよい。)を200g程度添加して微生物種9を得る。(図2(c)を参照。)
一般に、鮫の身は、高タンパク質であるため、このような鮫切り身10を自然発酵中の加熱処理済原料7に添加することで、陶製容器5内に生息する微生物のなかでも、特にタンパク質を栄養源として繁殖する微生物の繁殖を促進することができるという効果を有する。
このことはすなわち、微生物によるタンパク質分解酵素の生成を促進するという作用を有する。
また、鮫切り身10に含まれる脂質は魚類の中では低いので、微生物の栄養源として鮫切り身10を用いることで、微生物種製造工程(ステップS1)において微生物種9中に脂質(油)が混入するのを最小限度にすることができるという効果を有する。
この結果、微生物種9を用いて展着材17bを製造した際に、油分により水性顔料との親和性が損なわれるのを防止することができる。
【0029】
なお、加熱処理済原料7の総量に対して添加される鮫切り身10の総量が大幅に変動しなければ、より小さな鮫切り身10を1年に2回以上の頻度で陶製容器5に添加してもよい。ただし、この場合、季節によっては雑菌による腐敗がおこる恐れがあるため注意が必要である。
また、鮫切り身10を1年に2回、200gずつ添加し続けることで、陶製容器5内の微生物は継代培養されることになり、特定の微生物の活性が維持されるので、2年以上自然発酵させた微生物種9も展着材17bの製造に支障なく用いることができる。
上述のような工程で製造される微生物種9は、次の発酵液製造工程(ステップS2)のための生きた微生物を供給するとともに、微生物の繁殖に必須の栄養源であるナトリウム(Na),リン(P),カリ(K)等を供給するという作用を有する。
【0030】
また、加熱処理済原料7を製造しそれを陶製容器5に詰めて封6をする作業は、加熱処理済原料7の腐敗を防止するために、外気温の平均が−1〜3℃程度の寒い時期に、より具体的には暦における大寒の時期に行うことが望ましい。以下に示す発酵液製造工程(ステップS2)及び混合・成形・乾燥工程(ステップS3)を実施する時期に関しても同様である。
さらに、水4は塩素やカルキの入っていない井戸水や湧水を用いることが望ましい。これは、水道水に含有される成分は微生物の繁殖に好ましくない上、最終的には本実施の形態に係る展着材17bに含有されて被修復対象の顔料に悪影響を及ぼす恐れがあるためである。以下に示す発酵液製造工程(ステップS2)及び混合・成形・乾燥工程(ステップS3)においても同様である。
なお、魚の体を構成するタンパク質は、海水魚と淡水魚の間に顕著な差は認められない。強いて言えば、回遊魚の体を構成するタンパク質はその他の魚の体を構成するタンパク質と比較して若干の差異が認められるようである。(林 晃成、野田 麻衣による「タンパク質の電気泳動を利用した魚類の系統解析」を参照。)
このため、本実施の形態に係る微生物種製造工程(ステップS1)において加熱処理済原料7を作るのに用いる魚3は、淡水魚であっても海水魚であってもよい。より望ましくは、淡水魚又は海水魚から回遊魚(サケ、マグロ等)を除いたものであることが望ましい。回遊魚の体内にはその餌であるプランクトンに由来する色素が多く含まれており、最終的に本実施の形態に係る展着材17bに含有された際に、被修復対象に影響を及ぼす恐れがあるからである。
【0031】
次に、微生物種9を用いて発酵液15dを製造する工程について図3を参照しながら詳細に説明する。
図3は本発明の実施の形態に係る発酵液製造工程を示すフローチャートである。なお、図1又は図2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施の形態に係る発酵液製造工程(ステップS2)においては、図3に示すように、まず、牛膠12;1kgに対して水4;400ccを計量してから、容器11にこれらを入れて水4により牛膠12を膨潤させる(ステップS21)。
このステップS21の後に、膨潤した牛膠12を残った水4とともに容器11ごと弱火で湯煎してゾル化させて(ステップS22)膠液12bを得る。
次に、膠液12b;5kg(=A)に対して、先のステップS1において製造した微生物種9を400〜500cc添加してよく撹拌し、混合液15aを得る(ステップS23)。なお、ここで得られる混合液15aの全重量は、膠液12bの全重量Aに微生物種9が加えられたBとなる。
そして、混合液15a(全重量=B)を陶製容器(瓶)に収容し、その開口部を和紙や布等の緩通気性を有する材質で封6をして、直射日光が当たらない通風のある地表面8上に、載置して、2年間自然発酵させ発酵液15bを得る(ステップS24)。ここで得られる発酵液15bの全重量は、混合液15a(全重量=B)から自然蒸発した水分の重量と、微生物の代謝産物として大気中に放出されたガスの重量を差し引いたB1となる。
このステップS23の後に、発酵液15bの全重量B1に対して、固形状の牛膠12を150〜200g乾燥状態のまま添加して混合液15cとし、すなわち、発酵液15bを収容する陶製容器を一端開封して、そこに牛膠12;150〜200g乾燥した状態のまま投入して、陶製容器の開口部を、和紙や布等の緩通気性を有する材質で封をし、再度、直射日光が当たらない通風のある地表面8上に載置して1年間自然発酵させると発酵液15dとなる(ステップS25)。
このような、発酵液15dは酸味を帯びた臭気を有する液体となることから、乳酸菌が優勢に繁殖していると考えられる。
この時、混合液15cの全重量は、発酵液15bの全量B1に牛膠12の重量が加わってCとなる。また、発酵液15dの全重量は、混合液15cの全重量Cから自然蒸発した水分の重量と、微生物の代謝産物として大気中に放出されたガスの重量を差し引いたC1となる。
【0032】
上述の発酵液製造工程(ステップS2)においては、牛膠12を、微生物種9を用いて自然発酵させることで、発酵液15d中に接着成分として機能する微生物由来のタンパク質を生成させるとともに、その過程において酵素や、微生物の活動に伴う代謝産物(例えば、アルコールや酸等)を生成させることができるという効果を有する。
また、発酵液15d中の微生物は、活性が低下してくると、最終的には自ら合成したタンパク質分解酵素や、アルコールによって分解されて死滅してしまう。
さらに、このように死滅した微生物の残骸(微生物由来のタンパク質)は、別の微生物に利用されて再び微生物の体を構成する。
そして、発酵液内においては上述のような工程が繰り返されながら、被修復対象中にスムースに浸透する接着成分が生成され、蓄積されることになる。
すなわち、このステップS2は、ゼラチンを微生物の作用により、被修復対象中にスムースに浸透する接着成分に置換するとともに、タンパク質分解酵素や、微生物による代謝産物を生成させる工程である。
この結果、本実施の形態に係る展着材17bの被修復対象中への浸透性を高めるとともに、展着材17bをゾル化させたものを被修復対象に塗布又は噴霧した際に中に、修復対象の表面にできた、木のヤニ等でできたシミや汚れを分解除去することができる。
【0033】
また、発酵液製造工程(ステップS2)において用いられる牛膠12は、抗生物質等の薬剤を使用しないで育てたもので、かつ、その際に農薬等を使用しないで栽培した飼料を与えた牛を原料として用いることが望ましい。
これは、牛に投与又は接種された化学物質は牛体内に蓄積され、細心の注意を払ったとしても膠を製造する際にその原料中に混入する。
そして、このような牛膠を発酵液製造工程(ステップS2)において微生物を繁殖させるための栄養源として用いた場合、牛膠に混入した化学物質は微生物の体内に間接的に取り込まれることになり、本実施の形態に係る展着材17b中に混入し、最終的に被修復対象に供給されることになる。
このような化学物質は、発酵液製造工程(ステップS2)における微生物の繁殖に悪影響を及ぼす恐れがあるだけでなく、被修復対象の表面装飾を構成する顔料が化合物や金属である場合、これらと、抗生剤や農薬由来の化学物質が化学反応を起こして、表面装飾の本来の色彩や美観を損なう恐れがあるので望ましくないのである。
さらに、牛膠12は、膠に加工されてから10年以上寝かせたものであることが望ましい。
【0034】
また、ステップS22における牛膠12の膨潤に要する時間は、外気温が−1〜3℃の場合に15時間程度が適している。これよりも牛膠12の浸漬時間が短いと、ゾル化した場合に固形分が残ってしまう恐れがあり、15時間以上牛膠12を浸漬しておくと牛膠12の腐敗が始まってしまいその後の自然発酵工程(ステップS24)において微生物種9由来の微生物の活性を低下させる恐れがあるためである。
【0035】
さらに、ステップS23においては、火力を弱火にして湯煎により膨潤した牛膠12をゾル化する場合を例に挙げて説明しているが、必ずしも湯煎で行う必要はなく、40〜70℃の温度に設定できる加温設備を用いて膠液12bを製造してもよい。
この場合、温度を70℃以上に設定するとゼラチンを構成するタンパク質が変性して粘着性が低下又は消失してしまう恐れがある。また、温度が40℃よりも低いとゾル化が起こり難くなる。さらに、温度が40℃以上であっても温度が低いとゾル化に時間がかってしまい、牛膠12が腐敗する恐れが高まるため望ましくない。
つまり、牛膠12をゾル化する際には、タンパク質が変性しない程度のなるべく高い温度で手早く作業を行う必要がある。
【0036】
また、ステップS2により製造された発酵液15b(全重量=C1)に対して1年に1回の頻度で、固形の牛膠12を150〜200g添加し続ければ、1年間以上発酵液15bの発酵を継続させたものであっても、本実施の形態に係る展着材17bの製造に支障なく用いることができる。
すなわち、定期的に発酵液15d中に一定量の牛膠12を供給し続けることで、発酵液15d中の微生物が継代培養され、このような発酵液15bを用いることで展着材17b中に、タンパク質分解酵素や、微生物の体に由来する接着性タンパク質及び、その他の酵素や代謝産物を供給することができる。
なお、タンパク質分解酵素や微生物の代謝産物の濃度が一定以上になると、発酵液15b中に微生物自体が生存できなくなるので、このような状態に陥る前に発酵液15bを使い切ることが望ましい。
【0037】
続いて、発酵液15dを用いて固形状の展着材17bを製造する工程について図4を参照しながら詳細に説明する。
図4は本発明の実施の形態に係る混合・成形・乾燥工程を示すフローチャートである。また、図5(a)は本実施の形態に係る固形混合液の裁断の様子を示す概念図であり、(b)は本実施の形態に係る展着材の完成品の外形を示す概念図である。なお、図1乃至図4に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図4に示すように、混合・成形・乾燥工程(ステップS3)においては、まず、牛膠12;1kgを400ccの水4に15時間程度浸漬して十分に膨潤させ(ステップS31)てから、温度を70℃程度に保って約2時間加熱処理を行って(ステップS32)濃縮膠液12cを得る。このステップS32において蒸発させる水分量の目安は50〜100cc程度である。
そして、ステップS32で得られた濃縮膠液12cの全重量Dに対して発酵液15dを400〜500cc加えて混合液17を得る。
なお、発酵液15dの添加時に濃縮膠液12cがゲル化して混合ムラとならないよう、発酵液15dの添加はタンパク質が変性しない70℃よりも低い温度で加熱しながらおこなうとよい。
【0038】
次いで、混合液17を例えば、バット等の底の浅い容器に移して空冷して(ステップS33)固形混合液17aを形成した後、容器から固形混合液17aを取り出して、例えば、押し切り等の切断具を用いて平板状に成形された固形混合液17aを図5(a)に示すように棒状に裁断して(ステップS34)、およそ10日外気に曝して自然乾燥させると固形状の展着材17bが得られる(ステップS35)。
固形状の展着材17bは、図5(b)に示すように、乾燥時に変形収縮しないので成形したときの形状がそのまま縮小した棒状体である。
また、乾燥前の固形混合液17aを細い棒状に裁断することで、固形混合液17aの表面積が増え、迅速にかつ均等に乾燥させることができるという効果を有する。
【0039】
なお、上述のステップS32においては、濃縮膠液12cに発酵液15dを混合することで、発酵液15d中に含まれるタンパク質分解酵素により、濃縮膠液12c中のゼラチンが分解される。
この結果、本実施の形態に係る展着材17bの乾燥時に変形収縮するのを防止することができる。つまり、展着材17bを用いて修復作業を行った際に展着材17bは乾燥による変形収縮を起こさないので、被修復対象上に塗布又は噴霧して使用することができるのである。
【0040】
先に述べた発酵液製造工程(ステップS2)において製造される発酵液15dは、微生物由来のタンパク質を含有しており、微生物由来のタンパクは接着材(展着材)として機能する。(特開昭48−067481号公報を参照。)
しかも、古来の美術や建築の技法に照らしてみれば、このような微生物に由来するタンパク質は、接着力の持続性の点において特に優れていると考えられる。
例えば、和風建築物において土壁を形成する場合、リサイクルした土壁用の土に稲藁を混ぜ込み、時々水を加えながら発酵・熟成させたものを用いて土壁を形成するという技法があるが、この技法を用いた場合、単に水でこねた土で形成した壁よりも強度と、耐久性に優れていることが知られている。
また、日本画を描く際に、展着材である膠を溶く器を使用した後、洗浄することなくその器を保管し、カビが生えた器を次の描画の際にそのまま使用するという技法もある。この場合、膠を溶く器を衛生的に管理して描いたものよりも膠の展着効果の持続性が高いことが知られている。
【0041】
一般に、物が接着される際には、被接着対象と接着対象の表面に形成される凹凸部分に、接着成分が入り込み、被接着対象と接着対象とを結びつけるように作用することでこれらが接着されることが知られている。
そして、接着成分の分子量が小さいほど被接着対象や接着対象の内部への浸透性が高まるものの、被接着対象や接着対象の表面に形成される凹凸部分に接着成分が十分に充填されなければ接着作用が生じない。
他方、接着成分の分子量が大きすぎると、被接着対象や接着対象の内部に接着成分が浸透しないので、被接着対象や接着対象の接合部分において接着成分が接着材として機能することができない。
従って、本願発明の展着材では、微生物により膠液12bに含まれるゼラチンを栄養源として微生物を増殖させて、展着材中に微生物由来のタンパク質を生成させることができており、また、濃縮膠液12cに発酵液15dを添加することで、濃縮膠液12c中に含まれる微生物由来のタンパク質分解酵素により膠由来のゼラチン(タンパク質)をより分子量の小さいタンパク質に分解するという作用が発揮できているものと推定される。
そして、この作用により、分子量の小さいタンパク質は、被接着対象中に浸透して接着物質として作用するものと考えられる。
【0042】
通常、微生物の体を形成するタンパク質は分子量も大きくその構造も複雑である。
ところが、このような微生物が死に至ると、その体はその体内で合成された自らのタンパク質分解酵素やアルコールにより分解されて接着成分となる。
そしてこのような、タンパク質は、木材や紙の繊維による凹凸の内や、表面装飾の接合面に形成される凹凸に入り込んでこれらを結びつけ、接着材として機能すると考えられる。
このように、古くから人は微生物由来のタンパク質を接着剤として巧みに利用してきたのである。
【0043】
他方、ステップS2において製造される発酵液15dは、酵素や微生物の代謝産物を多く含有しており、温度を低下させてもゲル化しないのでそれ自体を固形の膠に加工することができない。
また、水分含有量が高く、発酵液15dをそのまま接着材(展着材)として用いても十分な接着効果は期待できない。
そこで発明者は、この発酵液15dを、濃縮膠液12c中に混ぜ込むことで、微生物由来のタンパク質をふんだんに含有する発酵液15dのゲル化を可能にし、固形状の膠に加工することに成功した。この結果、微生物由来のタンパク質から水分が十分に除去されて、接着材(展着材)として利用できるようになるのである。また、その運搬や保管も容易にすることができ、必要に応じていつでも使用することができる。
濃縮膠液12c中のタンパク質は、発酵液15d中に含まれる微生物の由来のタンパク質分解酵素や代謝産物により適宜分解されるので、発酵液15dが添加された濃縮膠液12cをゲル化して乾燥させる際に変形収縮は起こらない。
また、本実施の形態に係る展着材17bを用いて表面装飾の修復を行った場合、接着成分であるタンパク質は時間の経過とともに徐々に生分解されて、最終的には被修復対象中から消失してその接着効果も失われる。
この場合、被修復対象を本実施の形態に係る展着材17bを用いて再度修復することで、再び支持材に表面装飾を展着させることが可能になる。
その一方で、被修復対象の修復を、例えば、アクリル樹脂を用いて行った場合、アクリル樹脂が劣化して再修復が必要になった場合に、被修復対象中から劣化したアクリル樹脂を除去することができず、再修復することが極めて困難になる場合もあった。
これに比べて、本実施の形態に係る展着材17bを用いることによれば、繰り返し修復することが可能になるので、被修復対象の修復効果を持続させることができるという効果を有する。この結果、文化財や美術品を恒久的に保存することができるという優れた効果が期待できる。
なお、上述のように本実施の形態に係る展着材17bを用いて修復を行う場合、一定期間ごとに修復作業を繰り返す必要があるので、展着材17b中に生分解できない化学物質等が含まれないことが望ましいのである。
【0044】
しかも、このような微生物由来のタンパク質を含む本実施の形態に係る展着材17bは、図5(b)に示すように、一般に市販される牛膠12と比較して乾燥に伴う変形収縮がおこっていない以外は牛膠12とほぼ同じ様態であり、ゾル化させる際の取扱いも牛膠12と同じである。このため、修復作業のための展着材17b水溶液の調整や、固形状の展着材17bの保存が極めて容易である。
なお、上記混合・成形・乾燥工程(ステップS3)において製造された展着材17bは製造後直ちに使用することができるが、長期間保存した場合も問題なく使用することができる。
本実施の形態に係る展着材17bは、例えば、段ボール箱に稲藁を敷きつめ、その上に乾燥済みの展着材17bを載置し、さらにその上に再び稲藁を敷きつめて冷暗所で保管すればよい(ステップS36)。この場合、2年に1度の頻度で、展着材17bを収容する段ボール内の稲藁を新しいものに交換することが望ましい。
上述のように保存・熟成させた展着材17bは、概ね10年程度経過すると、稲藁に付着している微生物の作用により強い臭気が分解されてさらに取扱いが容易になる。
【0045】
さらに、本実施の形態に係る展着材17bは、その製造工程において魚3のアラ、切り身、内蔵の全てを原料として製造される微生物種9が添加されている。
このような微生物種9中には、ナトリウム(Na),リン(P)、カリウム(K)といった吸湿性を有する不純物が多く含まれている。そして、このような不純物は吸湿性を有しており、空気中の水分を吸着して取り込むという作用を有する。
通常、工業的に生産される牛膠12は、ゼラチンのもととなるコラーゲンを牛の皮や骨から抽出して高純度に精製したものであり、ナトリウム(Na),リン(P)、カリウム(K)といった不純物の含有量は少ない。
しかしながら、このような不純物を意図的に本実施の形態に係る展着材17b中に含ませることで、被修復対象を展着材17bを用いて修復した場合、修復作業を完了後に、被修復対象に分散された不純物により大気中の水分を被修復対象中に随時取り込むことができる。
つまり、展着材であるタンパク質に大気をから絶えず水分が供給されるので、その粘稠性が保たれ、この結果、平行水分状態において本実施の形態に係る展着材17bの粘着力を好適に持続させることができるのである。
【0046】
また、発酵液15d中の微生物は、本実施の形態に係る混合・成形・乾燥工程を経た場合であっても完全に死滅することはない。
このため、完成品である展着材17b中にもやはり微生物が生きたまま存在しており、さらに、この展着材17bを修復作業に用いるために熱を加えてゾル化した場合でも微生物が完全に死滅することがない。
これは、微生物の体を形成するタンパク質が牛膠12や展着材17bをゾル化させる温度領域では完全に変性しないためである。
従って、本実施の形態に係る展着材17bを用いて被修復対象を修復した場合、被修復対象には微生物が生きた状態で供給されることになる。
例えば、人体の表面にも目には見えないが微生物が付着して共生している。このような、微生物はバリアのような働きをしており、人に有害な微生物に人が感染して感染症を患うのを予防している。
これと同じように、被修復対象に予め生きた微生物を付着させておくことで、例えば、黒カビ等の被修復対象を汚損するような菌や微生物が被修復対象上で繁殖するのを抑制することができる。
また、このような被修復対象を保護する微生物は、空気中の水分を利用して細々と生きながらえることができるので、上述の不純物の吸湿作用により、被修復対象の保護効果も持続させることができる。
【0047】
上記以外の本実施の形態に係る展着材17bを用いた場合の効果として、その詳細な機構は分かっていないが、例えば、木製の支持材上に貼り付けられた金箔が浮き上がり、さらに、その金箔上にホコリが降り積もった状態の被修復対象を簡単に修復することができる。より具体的には、上述のような損傷が認められる被修復対象上に、水を用いてゾル化した本実施の形態に係る展着材17bを塗布又は噴霧することで、被修復対象の支持材に金箔を再接着させると同時に、ホコリを除去することができるという効果を有する。
また、展着材17bを用いた場合の効果として、やはりその詳細な機構は分かっていないが、アクリル樹脂により一旦修復され、その後、アクリル樹脂の劣化に伴って再修復が必要となった被修復対象の表面に薄手のロール紙を被覆し、その上から展着材17bをゾル化した展着材水溶液を塗布して、さらにその上に、コピー用紙程度の厚みの紙を2枚程度重ねて、その上から手の平で擦る程度の軽い押圧力をかけた場合に(以下に示す図6を用いた説明を参照。)、被修復対象の内部に展着材17bからなる展着材水溶液を浸透させるとともに、被修復対象中に存在する劣化したアクリル樹脂を、被修復対象の表面を被覆する薄手のロール紙に吸い取らせることができるという効果も有する。
以上述べたように、本実施の形態に係る展着材17bによれば、修復作業の作業効率を高めると同時に、展着材17bが生分解性を有するよう構成することで、展着材17bを用いて一定期間ごとに繰り返し修復作業を行うことにより文化財や美術品を恒久的に保存することができるという効果を有する。
【0048】
ここで、本実施の形態に係る展着材17bを用いた被修復対象の修復方法について図6を参照しながら説明する。
図6(a),(b)は本実施の形態に係る展着材を用いて被修復対象の修復を行う様子を示す概念図である。なお、図1乃至図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
まず、修復作業に先立って、水;1000ccに対して図5(b)に示す展着材17b;5〜10gを、先に述べたステップS21、S22の要領でゾル化させて展着液水溶液23を調整しておく。
被修復対象24は、図6(a)に示すように、支持材18の表面に表面装飾19が浮き上がった状態となっている。
従来の修復方法では、支持材18と表面装飾19の隙間25に、シリンジ等を用いてゾル化した牛膠12を一箇所ずつ注入して修復していた。
【0049】
本実施の形態に係る展着材17bを用いる場合は、まず、支持材18上に浮き上がった状態となっている表面装飾19の表面を、図6(a)に示すように、薄いロール紙20で被覆し、その上から刷毛又は筆26で展着材水溶液23を塗布し、その後、A4版の程度の大きさの普通紙21を2枚重ねて載置し、その上から手22の平で軽く被修復対象24を擦ればよい。
この時、ロール紙20上に塗布された展着材水溶液23が、ロール紙20上から表面装飾19及び支持材18の内部にまで速やかに浸透して展着材水溶液23中のタンパク質により表面装飾19が支持材18に再び接着される。
この後、被修復対象24から2枚の普通紙21及びロール紙20を静かに剥離して修復作業は完了する。
このように、被修復対象24に被覆したロール紙20上に展着材水溶液23を塗布又は噴霧することで、刷毛又は筆26の動作による表面装飾19を構成する顔料が溶けて色彩の混ざりが生じるのを防止することができる。
この方法によれば、修復を要する範囲が広くても迅速にかつ確実に修復作業を行うことができるので、修復作業の作業性を大幅に向上することができる。
【0050】
また、他の修復方法としては、例えば、被修復対象が壁画や立体的なものである場合は、展着材水溶液23を噴霧器等を用いてその表面上に直接ふきつけたり、刷毛又は筆26を用いて直接塗布してもよい。この場合も、展着材水溶液23が表面装飾19からその下の支持材18にまで速やかに浸透して、表面装飾19と支持材18とを再接着することができる。
さらに、表面装飾19が剥落してしまっている場合には、展着材17bを濃いめに調整した展着材水溶液23を支持材18上に塗布又は噴霧しておき、その上に剥落した表面装飾19を貼り付けても良い。
なお、展着材水溶液23の濃度は、上述のものに限定されることなく目的に応じて適宜調整してよい。
また、展着材水溶液23は濁った飴色をしているが、被修復対象24に塗布した後その色素成分は微生物の作用により分解されてなくなるため、表面装飾19を構成する顔料本来の色を損なう恐れは極めて低い。
【0051】
ここで、図7を参照しながら本実施の形態に係る展着材17bについて説明する。
図7(a)は市販品の牛膠の外観を示す写真であり、(b),(c)はいずれも本実施の形態に係る展着材の外観を示す写真である。なお、図1乃至図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図7(a)に示すように、一般に市販されている牛膠は、牛の骨等から精製抽出したゼラチンをゲル化して図5(a)に示すような細長い角柱状に成形したものを十分に乾燥したものであり、飴色を呈している。通常市販される牛膠の乾燥品は著しく変形してしまっている。
図7(b)に示すように、本実施の形態に係る展着材17bは、図5(a)に示す細長い角柱状の固形混合液17aが乾燥されたものであるが、固形混合液17aとほぼ同じ形状が維持されており、乾燥によって収縮してはいるものの、図7(a)に示す市販品の牛膠のような顕著な変形は起こっていない。また、図7(b)に示す展着材17bは、濃い琥珀色を呈している。
図7(c)に示す展着材17bは、図7(b)に示す本実施の形態に係る展着材17bを、稲藁を敷きつめた箱に収容して10年以上熟成させたものであり、図7(b)に示すものよりもさらに乾燥が進み、透明感のある茶褐色を呈している。乾燥が一層進むため、図7(b)に示す展着材17bと比較して、さらに細くなっているが、図7(a)に示す市販品の牛膠のような顕著な変形は認められない。
【0052】
次に、図7の(a)〜(c)に示す牛膠(市販品)及び本実施の形態に係る展着材17bを100ccの水にそれぞれ10gずつ添加して膨潤させた後、湯煎にかけてゾル化させたものを、漆が塗られた古い桧材の上に滴下した場合の様子について図8を参照しながら説明する。なお、ここで用いられる水溶液の濃度は通常、美術品や文化財の修復に用いる水溶液の10〜20倍の濃度である。
図8(a)は牛膠(市販品水)溶液を滴下した桧材の様子を示す写真であり、(b),(c)はいずれも本実施の形態に係る展着材水溶液を滴下した桧材の様子を示す写真である。なお、図1乃至図7に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図8(a)に示すように、牛膠(市販品)水溶液を滴下した場合、桧材の表面には光沢のある凸状体が形成されているのが目視で確認できる。このことから、牛膠(市販品)水溶液は桧材の内部にほとんど浸透していないと考えられる。
また、本実施の形態に係る展着材17bをゾル化した展着材水溶液23を桧材の表面に滴下した場合には、図8(b)に示すように、滴下部分の中央部の桧材の表面の様子が周囲の桧材と似たような状体となり、光沢が低下していることから、この部分の展着材水溶液23は桧材の内部に浸透していると考えられる。
さらに、稲藁の間に収容して10年以上熟成させた展着材17bをゾル化した展着材水溶液23を滴下した場合には、図8(c)に示すように、桧材の表面に輪ジミのようなものができ、滴下部分の中央部の桧材の表面の様子は、周囲の桧材とほぼ同じ状体になり、光沢も大幅に低下している。このため、展着材水溶液23は桧材の内部に確実に浸透していると考えられる。なお、図8(c)においては、展着材水溶液23を滴下した痕跡がほとんど確認できない箇所もあった。
従って、本実施の形態に係る展着材水溶液23は、市販される牛膠の水溶液よりも被修復対象に対する高い浸透性を有する上、展着材17bは、製造後の熟成期間が長いほどその水溶液の浸透性が高くなると言える。
【0053】
さらに、本実施の形態に係る展着材水溶液23の被修復対象への浸透性を立証する目的で、図7(a),(b)に示す牛膠(市販品)及び本実施の形態に係る展着材17bの5wt%水溶液又は10wt%水溶液を調整し、ガラス板及びテフロン(登録商標)板の表面に滴下してその接触角を接触角計により計測し、以下の表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
上記表1に示すように、ガラス板,金箔,塗装木(桧の表面に漆を塗った古いもの。)のそれぞれに滴下した場合には、本実施の形態に係る展着材水溶液23の接触角が小さくなる傾向が認められた。また、撥水性を有するテフロン(登録商標)板に滴下した場合には牛膠(市販品)水溶液の接触角が小さくなる傾向が認められた。
この結果、本実施の形態に係る展着材17bをゾル化した展着材水溶液23は、牛膠(市販品)水溶液よりも高い浸透性を有していると言える。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、美術品や文化財の表面装飾上に直接塗布又は噴霧して使用することができ、平衡水分状態において接着性を好適に持続させることができ、さらに、被修復対象上にできた染みや汚れを除去することができ、しかも、最終的に生分解されて被修復対象中から消失する展着材及びその製造方法に関するものであり、美術品や文化財の修復に関する分野、芸術的な創作に関する分野、建築に関する分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…展着材の製造方法 2…鍋 3…魚(アラ、内蔵、切り身) 4…水 5…陶製容器(瓶) 5a…開口部 6…封 7…加熱処理済原料 8…地表面 9…微生物種(液体) 10…鮫切り身 11…容器 12…牛膠 12a…膨潤した牛膠 12b…膠液(ゾル化膠液) 12c…濃縮膠液(ゾル化膠液) 13…容器 14…陶製容器(瓶) 14a…開口部 15a…混合液 15b…発酵液 15c…発酵液 15d…発酵液 16…容器 17…混合液 17a…固形混合液 17b…展着材(発酵液混合膠) 18…支持材 19…表面装飾 20…ロール紙 21…普通紙 22…手 23…展着材水溶液 24…被修復対象 25…隙間 26…刷毛又は筆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛膠と水からなる第1の膠液に淡水魚又は海水魚を自然発酵させて製造される微生物種を添加して自然発酵させた発酵液と、牛膠と水からなる第2の膠液とを混合して成形し乾燥させたことを特徴とする展着材。
【請求項2】
前記微生物種の製造時に、鮫の生肉を添加することを特徴とする請求項1に記載の展着材。
【請求項3】
淡水魚1kg又は海水魚1kgに対して水200ccを加えて弱火で加熱処理したものを陶製の容器に入れ、この容器内において発生したガスが外に逃げられるように前記容器の開口を封した後、直射日光の当たらない地表面上に載置して少なくとも2年間自然発酵させて液体の微生物種を得る第1の工程と、
この第1の工程の後に、400ccの水に牛膠1kgを浸して膨潤させたものを加熱してゾル化した第1の膠液を製造し、この第1の膠液5kgに対して前記微生物種を400〜500ccを添加して第1の混合液とし、この第1の混合液を陶製の容器に入れ、この容器内において発生したガスが外に逃げられるように前記容器の開口を封した後、直射日光の当たらない地表面上に載置して2年間自然発酵させて第1の発酵液を得る第2の工程と、
この第2の工程の後に、前記陶製の容器に収容される前記第1の発酵液の全量に対して牛膠150〜200gを添加して、この容器内において発生したガスが外に逃げられるように前記容器の開口を封した後、直射日光の当たらない地表面上に載置して1年間自然発酵させて第2の発酵液を得る第3の工程と、
この第3の工程の後に、400ccの水に牛膠1kgを浸して膨潤させたものを加熱してゾル化した第2の膠液を製造し、この第2の膠液の全量に対して前記第2の発酵液を400〜500ccを添加して攪拌して第2の混合液とし、この第2の混合液を空冷して成形し、さらに自然乾燥させて固形状にすることを特徴とする展着材の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程の自然発酵時に、鮫の生肉を添加することを特徴とする請求項3記載の展着材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−168571(P2010−168571A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291787(P2009−291787)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(509004022)
【Fターム(参考)】