説明

層状リン酸ジルコニウムの製造方法

【課題】
本発明の目的は、様々な用途に利用可能な結晶質層状リン酸ジルコニウムを、高収率で得られる製造方法を提供することである。
【解決手段】
本発明者は、リン酸と、ジルコニウム原料を用いる湿式合成法の回収ろ液と、リン酸およびジルコニウム原料の少なくとも一方と有機酸とを含む反応液から、新品原料を用いた場合と同等の層状リン酸ジルコニウムを製造することができ、回収ろ液に含まれる原料の利用効率を飛躍的に向上させ、廃棄物を減少させることを見出して本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性や耐薬品性に優れ、電子材料の不純物イオントラップ剤、抗菌剤原料、消臭剤、変色防止剤、防錆剤、インターカレーション用の原料などとして利用可能なイオン交換体である、層状リン酸ジルコニウムを、高収率で得られる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リン酸ジルコニウム系無機イオン交換体はその特徴を活かし、様々な用途に利用されている。
リン酸ジルコニウム系無機イオン交換体には、非晶質、2次元層状構造および3次元網目状構造をとる結晶質のものがある。これらのなかでも2次元層状構造をとる層状リン酸ジルコニウムであるZr2(HPO42・nH2Oは、イオン交換性能、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性などに優れており、電子材料の不純物イオントラップ剤、放射性廃棄物の固定化、固体電解質、ガス吸着・分離剤、防錆剤、触媒、インターカレーション担持体および抗菌剤原料などに応用されている。
【0003】
これまでに様々な層状リン酸塩が知られており、様々な合成方法が知られている。例えば、Zr(HPO42・H2O、Zr(HPO42・2H2O、Ti(HPO4)・H2O、Ti(HPO42・2H2O、Hf(HPO42・H2O、Sn(HPO42・2H2O(例えば、特許文献1参照)、M(IV)(HPO4x・nH2O、M(IV)は4価の金属(例えば、特許文献2参照)、などがある。
なかでも層状リン酸ジルコニウムは合成のし易さ、性能等に優れているため、様々な製造方法が提案されている。例えば、特許文献3〜5などがある。層状リン酸ジルコニウムの合成法には、水中または水を含有した状態で原料を混合後、加圧加温して合成する水熱法、原料を水中で混合後、常圧下で加熱して合成する湿式合成法が挙げられる。
【0004】
特許文献6には、Hfを含んでもよい層状リン酸ジルコニウムが、特に電子材料分野において、優れた性能を発揮することが開示されており、その製造方法として、ジルコニウム化合物を含有する水溶液とリン酸および/またはその塩を含有する水溶液とを混合して沈殿物を生じさせ、熟成することにより、上記の層状リン酸ジルコニウムが合成できる、いわゆる湿式合成法や、合成時にシュウ酸を添加すると、原料の利用効率が向上することも開示されているが、溶液からの沈殿工程を有するために、100%の回収率を達成することは難しく、さらなる原料の利用効率向上が求められていた。
【0005】
酸解離定数は、酸の強さを表す概念で、pKaの値で示され、pKaの値が大きいほど水中で解離しにくい弱い酸であり、pKaの値が小さいほど水中で解離しやすい強い酸であり、特に強い酸はpKaが0以下の値を示すことは当業者の技術常識であり、シュウ酸やリン酸は最小のpKa値がいずれも1を超える値であることも知られていた。また、弱酸と強酸とを混合したときは、それらの酸解離定数の違いにより、弱酸の解離は抑えられるからpHへの影響力は減少し、はなはだしい場合は、強酸を混合したときに弱酸が析出してきてしまう現象も良く知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03−150214号公報
【特許文献2】特開昭59−102808号公報
【特許文献3】特開昭60−103008号公報
【特許文献4】特開昭62−226807号公報
【特許文献5】特開昭61−270204号公報
【特許文献6】WO2008/053694国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性や耐薬品性に優れ、様々な用途に利用可能な結晶質層状リン酸ジルコニウムの製造に関して、原料利用効率を高めて高収率で得られ、廃棄物排出量を著しく低減する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の製造方法においては、湿式合成法によって層状リン酸ジルコニウムを合成する際に、層状リン酸ジルコニウムの沈殿を分離した後の回収ろ液を、湿式合成法の反応液の少なくとも一部として用い、有機酸の存在下に、リン酸およびジルコニウム原料の少なくとも一方を含ませることにより、さらに層状リン酸ジルコニウムの沈殿を得て、母液中に残る原料成分の利用率を高めることができる。
さらに本願発明の一形態として、反応液に酸解離定数が0以下である無機酸を存在させることにより、沈殿として得られる層状リン酸ジルコニウムの収率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、湿式合成法による層状リン酸ジルコニウムの製造の際に、従来よりも高収率で得ることができ、原料に対する製品収率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】参考例1で得られた、新品原料を用いて製造した層状リン酸ジルコニウムの粉末X線回折図である。
【図2】実施例1で得られた、回収ろ液を用いて製造した層状リン酸ジルコニウムの粉末X線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、特に断りのない%は、質量%である。
本発明の製造方法によって製造できるのは、下記一般式〔1〕で示される層状リン酸ジルコニウムである。
Zr1-xHfxa(PO4b・nH2O 〔1〕
(式(1)において、aおよびbは3b−a=4を満たす正数であり、bは1.9<b≦2.3であり、xは0≦x<1の正数であり、nは0≦n≦2の正数である。)
本発明において、式〔1〕の組成においてリン酸が多くなるほどイオン交換性能は上がるが、リン酸イオンが溶出しやすくなるなど他の物性が低下するので、式〔1〕における添え字bは1.9<b≦2.3の正数であり、好ましくは1.95≦b≦2.1であり、より好ましくは2.00≦b≦2.06である。
【0012】
本発明において、式〔1〕のxは0≦x<1の正数である。即ち、本発明の層状リン酸ジルコニウムには、式〔1〕のxが0のものとxが0<x<1のものとがある。本発明において、式〔1〕のxが0<x<1のものでは、好ましくは0<x≦0.2であり、より好ましくは0.005≦x≦0.1であり、更に好ましくは0.005≦x<0.03である。本発明において、ハフニウムの含有量が多くなるとイオン交換性能は向上するが、ハフニウムには放射性の同位体が存在するので、電子部品に使用する場合は、多すぎると悪影響を及ぼす可能性がある。
【0013】
本発明において、式〔1〕のnは、0≦n≦2の正数であり、nは1未満が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5であり、0.03〜0.3の範囲が更に好ましい。nが2を超える場合、層状リン酸ジルコニウムに含まれる水分の絶対量が多く、加工時等に発泡や加水分解などを生じる恐れがある。
【0014】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるリン酸またはリン酸塩としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびリン酸アンモニウムなどが例示され、リン酸が好ましく、より好ましくは75%〜85%程度の高濃度のリン酸である
【0015】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるジルコニウム化合物としては、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、およびオキシ塩化ジルコニウムなどが例示され、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、およびオキシ塩化ジルコニウムが好ましく、反応性や経済性などを考慮すると、より好ましくはオキシ塩化ジルコニウムである。
【0016】
本発明で用いる合成方法において、好ましく用いられる無機酸としては、酸解離定数(pKa)が0以下である無機酸であり、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過マンガン酸、チオシアン酸、過塩素酸、過臭素酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸などが挙げられる。このうち好ましいのは、工業的に得やすい塩酸、硫酸、硝酸であり、酸化性がない点で安全であり、難溶性塩を生じにくい点で、塩酸が特に好ましい。
【0017】
本発明で用いる合成方法においては、有機酸を併用することが必須である。有機酸として好ましいのは脂肪族カルボン酸であり、さらに好ましくは脂肪族二塩基酸のカルボン酸であり、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸等が例示できる。より好ましいのはシュウ酸である。これらの有機酸は塩であってもよく、塩であるときの好ましい対イオンはアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンの中から選択される。具体的には、シュウ酸2水和物、シュウ酸アンモニウム、およびシュウ酸水素アンモニウムなどが例示され、特に好ましくはシュウ酸2水和物である。有機酸は、ジルコニウム原料に配位結合して溶解性を高める作用があると考えられるので、あらかじめジルコニウム化合物の水溶液に混合しておくことが好ましい。
【0018】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの製造方法は、リン酸と、ジルコニウム原料を用いる湿式合成法の回収ろ液を用いることを必須とするが、この湿式合成法とは、公知の層状リン酸ジルコニウムの湿式合成法による製造方法のいずれでもよく、水熱法と呼ばれる加圧高温条件の反応も範疇に含むし、ジルコニウム原料やリン酸原料がいずれのものであっても良い。また、上記の湿式合成法においては有機酸の併用は必須ではない。しかし、回収ろ液を用いる本発明の製造方法においては有機酸の存在が必須であるので、回収ろ液に有機酸が含まれない場合や、設計条件値よりも少ない場合には、反応液に有機酸を添加することが必要である。反応液中の有機酸の濃度は、イオンクロマトなどの分析方法で測定することができる。
【0019】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの反応工程における有機酸の配合割合は、反応液中のジルコニウム化合物に対するモル比率で、0.1〜10.0であり、好ましくは0.5〜6.0であり、さらに好ましくは1.5〜3.5であると本発明の層状リン酸ジルコニウムの合成が容易となるので好ましい。
【0020】
反応液には、回収ろ液と共に、リン酸およびジルコニウム原料の少なくとも一方を添加することが必須である。回収ろ液を生じた先の反応は、リン酸およびジルコニウム原料から層状リン酸ジルコニウムの沈殿を生じる反応であるが、原料のリン酸とジルコニウムとのどちらかが過剰の条件であれば、沈殿を除去した後の回収ろ液には、過剰の成分がより多く残っていることになるので、不足分の原料を加えるだけでも新たな沈殿を生じることは可能である。しかし、好ましいのは、回収ろ液を用いた反応液が、設定した反応液組成になるように、ろ液の使用量を調整し、不足する原料を添加する、回分操作を繰り返すことで、反応液の全入れ替えやそれに伴う残液の排出を伴うことなく、一定の品質の層状リン酸ジルコニウムを繰り返し得ることができる。さらに、この操作は回分操作には限定されず、例えばマイクロリアクターなどのフロー型反応装置を用いて、連続操作とすることも可能である。
【0021】
ろ液の使用量を調整する実施形態とは、具体的には、当初のリン酸と、ジルコニウム原料を用いる湿式合成法が1Lの反応液で行われ、そこから0.9Lの回収ろ液が得られたとして、本発明の、回収ろ液を用いる製造方法において、全量の回収ろ液を用いることは必須ではなく、反発明の製造方法を、反応液が1Lで実施するとして、そのうちの回収ろ液は0Lより大きく1L以下であればいずれでもよい。回収ろ液の使用率が高くなるほど原料の利用率が高まるので好ましい一方で、例えば回収ろ液の特定成分が実施したい反応液の設定濃度に対して高すぎる場合は新液で希釈する必要があるので、回収ろ液の使用率は低い方が反応液組成の設定の自由度が高くなり好ましい。本発明で用いる反応液において好ましい回収ろ液の使用率(体積含有率%)は1%以上99%以下、さらに好ましくは40%以上98%以下、より好ましくは60%以上97%以下である
【0022】
回収ろ液を用いた反応液が、設定した反応液組成になるように、ろ液の使用量を調整し、不足する原料を添加するためには、回収ろ液の組成を知る必要がある。回収ろ液の組成は、先の反応の仕込み組成と沈殿の回収量から推定して算出することもできるが、回収ろ液や反応液を分析して、組成を決定する方が好ましい。ジルコニウムやリン酸の量はICP発光分光分析等の方法で簡便に測定することができ、有機酸や無機酸の量はイオンクロマト法を用いて決定することができる。層状リン酸ジルコニウムの沈殿を分離した後の回収ろ液の組成を分析し、追加する原料の追加量を算出して原料を追加することにより、好みの組成の反応液を実現することができる。追加する原料は、添加時の反応液の容量変化が少なく混合が早い点から、できるだけ濃度の高い水溶液とすることが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法は、回収ろ液と、リン酸およびジルコニウム原料の少なくとも一方と有機酸とを含む反応液から、層状リン酸ジルコニウムの沈殿を得る方法であるが、反応液の構成物質を混合して沈殿物を生じさせる反応工程と、沈殿を含む反応液を加熱熟成させる熟成工程とをこの順に含むものであることが好ましい。そして、本発明の製造方法においては、酸解離定数が0以下である無機酸を加えることが好ましい。反応工程の後、分離工程によって、粉末固体状の層状リン酸ジルコニウムを得ることができ、分離工程には洗浄工程が含まれていても良い。
【0024】
反応工程は、原料を投入する際の反応液組成の均一性を保った方が、粒径が安定するので、撹拌しながら一定速度で追加する原料を投入するのが好ましい。反応温度は何℃でもよいが、10℃〜60℃の間で一定の温度に保つことが好ましい。
【0025】
熟成工程は、常温で行っても良いが、熟成を早くするために90℃以上の湿式常圧で行うことが好ましく、常圧よりも高い圧力雰囲気で100℃を超える条件を水熱条件と呼ぶが、水熱条件で合成を行っても良い。水熱条件で本発明の層状リン酸ジルコニウムを合成する場合は、130℃以下で合成することが製造コストの面から好ましい。好ましい熟成時間は温度により異なるが少なくとも1時間以上24時間以下が好ましく、さらに好ましくは4時間以上18時間以下である。例えば、90℃での熟成では、4時間以上が好ましい。
【0026】
<作用>
本発明の層状リン酸ジルコニウムの製造方法における熟成工程では、反応工程でいったん析出したリン酸ジルコニウムの沈殿が、再溶解と析出を繰り返しながら結晶性を高める作用がある。結晶性が低く、層状結晶構造に乱れのある粒子は再溶解しやすく、適正な層状リン酸ジルコニウム結晶となった粒子は再溶解しにくくなるからである。本発明においては、有機酸を添加することにより再溶解と析出のバランスが変化する結果、層状リン酸ジルコニウムの収率が向上するという効果が得られるものと考えられる。
【0027】
また、熟成工程においては、微細な粒子は再溶解しやすく、一方で再結晶は粒子個数の多いメジアン径付近の粒子上で起きる確率が高いことから、粒径分布を均一にする効果もある。
【0028】
合成後の層状リン酸ジルコニウムは、さらに濾別し、よく水洗後、乾燥、粉砕することで白色の微粒子の層状リン酸ジルコニウムとして得られる。
【0029】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの各種合成原料の配合割合を以下に述べる。
リン酸またはリン酸塩の配合割合は、ジルコニウム化合物に対する仕込みのモル比率で、1.9超えであり、好ましくは1.95以上であり、より好ましくは2.0以上である。リン酸またはリン酸塩の配合割合は、ジルコニウム化合物に対して大過剰でも良いが、上清の電導度を考えると、上記モル比率で、3以下であり、2.9以下が好ましく、2.6以下がより好ましい。上記の範囲であると本発明の層状リン酸ジルコニウムを製造することができ好ましい。
【0030】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの反応工程で用いることができる、解離定数が0以下である無機酸は、無機酸の配合割合が大きいほど、沈殿の収率が高くなるという効果が顕著に表れるので好ましい。本発明で、反応液中に解離定数が0以下である無機酸が共存するときの含有割合は、ジルコニウム化合物に対するモル比率で、0.1〜20.0が好ましく、さらに好ましくは0.5〜10.0であり、より好ましくは1.0〜5.0である。
【0031】
本発明の製造方法において、有機酸を用いることは必須であり、有機酸の濃度は生成する層状リン酸ジルコニウム粒子の粒径に影響する。また、酸解離定数が0以下である無機酸が共存すると、層状リン酸ジルコニウムの収率を高める効果があるが、無機酸濃度が高くなるに伴い、生成する層状リン酸ジルコニウム粒子の粒径が大きくなる傾向がある。例えばメジアン径で1μm以下となるような微粒子の粒子を得たいときには有機酸と無機酸の併用でなおかつその比率を一定範囲にすることが有効であり、高収率でなおかつ微粒子の層状リン酸ジルコニウム粒子が得られる効果が生じる。
【0032】
有機酸と上記の無機酸とが共存するときの比率には限定はないが、好ましくは有機酸の1モルに対して、無機酸の量が0.01〜30.0モルの範囲であり、さらに好ましくは0.1〜10.0、より好ましくは0.4〜3.0である。
【0033】
本発明の層状リン酸ジルコニウムを合成するときの反応スラリー中の固形分濃度は、3wt%以上が望ましく、経済性など効率を考慮すると7%〜20%が好ましい。本発明において、この濃度であると本発明の層状リン酸ジルコニウムの合成が容易となるので好ましい。
【0034】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの好ましい具体例として、以下のものがある。
ZrH1.97(PO41.99・0.10H2
ZrH2.03(PO42.01・0.11H2
ZrH2.06(PO42.02・0.05H2
ZrH2.12(PO42.04・0.05H2
ZrH2.24(PO42.08・0.05H2
Zr0.98Hf0.021.97(PO41.99・0.04H2
Zr0.98Hf0.022.00(PO42.00・0.14H2
Zr0.99Hf0.012.03(PO42.01・0.15H2
Zr0.99Hf0.012.06(PO42.02・0.12H2
Zr0.99Hf0.012.12(PO42.04・0.08H2
Zr0.99Hf0.012.24(PO42.08・0.05H2
Zr0.98Hf0.022.03(PO42.01・0.05H2
Zr0.98Hf0.022.06(PO42.02・0.05H2
Zr0.98Hf0.022.12(PO42.04・0.05H2
Zr0.98Hf0.022.24(PO42.08・0.05H2
Zr0.97Hf0.032.03(PO42.01・0.05H2
Zr0.94Hf0.062.03(PO42.01・0.05H2
Zr0.9Hf0.12.03(PO42.01・0.05H2
【0035】
○メジアン径
本発明におけるメジアン径とは、層状リン酸ジルコニウムを水に分散させて、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定し、体積基準で解析した値である。
電子材料用途では、軽薄短小な部材に対応するため、比較的微細な粒子が使用されるが、あまり細かすぎると、組成物の粘度上昇などを招いて扱いにくくなるため、本発明における層状リン酸ジルコニウムの好ましいメジアン径は、0.1〜5μmであり、0.2〜2.0μmがさらに好ましく、0.3〜1.5μmがより好ましい。また、加工性を考慮すれば、メジアン径のみでなく、最大粒径および散布度も重要であり、最大粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0036】
本発明の層状リン酸ジルコニウムは、粉末であるので、このまま使用しても、これを加工して使用することもできる。例えば、懸濁状態、粒状体、抄紙体、ペレット体、シート、フィルム等の成型体、スプレー、多孔質体、繊維体の形態とすることができる。さらにそれらを塗料、不織布、発泡シート、紙、プラスチック、無機質板などに加工することもできる。
【0037】
本発明の層状リン酸ジルコニウムは、イオン交換性能、耐熱性、耐薬品性、放射線耐性などに優れており、水処理用の金属捕捉剤、電子材料用のイオン捕捉剤、放射性廃棄物の固定化、固体電解質、ガス吸着・分離剤、消臭剤、変色防止剤、防錆剤、触媒、インターカレーション担持体および抗菌剤原料などに応用することが可能であり、物理・化学的に安定な白色微粒子でもあることから顔料、アンチブロッキング剤などにも応用できる。
【0038】
本発明の層状リン酸ジルコニウムは、無機系陰イオン交換体を配合して用いることで、イオン交換性能が向上することが可能である。無機系陰イオン交換体としては、ハイドロタルサイト類およびその焼成物、アルミニウム化合物、酸化亜鉛およびその水和物、酸化ビスマスおよびその水和物、酸化イットリウムおよびその水和物、酸化セリウムおよびその水和物、酸化ランタンおよびその水和物、酸化ジルコニウムおよびその水和物などが例示される。
【0039】
本発明の層状リン酸ジルコニウムを樹脂組成物に配合して、例えば電子部品封止用樹脂組成物として用いることができる。樹脂組成物に用いる樹脂は、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂であっても、ポリエチレン、ポリスチレン、塩化ビニル、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂であってもよいが、好ましくは、柔軟性を有し、フレキシブル配線板等に用いられる接着剤組成物として好適に用いることのできるものであり、熱可塑性の樹脂としてはポリアミド系、ポリエステル系、アイオノマー系、エチレン−酢ビコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー、エチレン−メタクリル酸コポリマー、エチレン−アクリル酸エチルコポリマー等のポリオレフィン系、各種合成ゴム系のもの、さらにはこれらの変性物、複合物などが例示され、熱硬化性の樹脂としてはエポキシ樹脂系、ウレタン系、アクリル系、シリコーン系、クロロプレン系、ニトリル系などの合成ゴム類またはこれらの混合物が例示できる。
【0040】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの好ましい配合割合は、電子部品封止用樹脂組成物100重量部当たり0.05〜10重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部であり、樹脂中の陽イオンを捕捉することにより、樹脂と接触する金属配線のマイグレーションを防止することができる。
【0041】
○ワニスへの配合について
本発明の層状リン酸ジルコニウムを含有したワニスを用いて電気製品、プリント配線板、または電子部品等を作製することができる。このワニスとしては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とするものが例示できる。この樹脂固形分100重量部に対し0.1〜5重量部の本発明の層状リン酸ジルコニウムを添加することが好ましい。ここに無機陰イオン交換体を含有させても良い。
【0042】
○ペーストへの配合について
銀粉等を含有させたペーストに本発明の層状リン酸ジルコニウムを添加することができる。ペーストとは、ハンダ付け等の補助剤として接続金属同士の接着を良くするために用いられるものである。このことにより、ペーストから発生する腐食性物の発生を抑制することができる。このペースト中の樹脂固形分100重量部に対し0.1〜5重量部の本発明の層状リン酸ジルコニウムを添加することが好ましい。ここに無機陰イオン交換体を含有させても良い。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、%は質量%であり、部は質量部である。得られた層状リン酸ジルコニウムの粒径は、脱イオン水に超音波分散してレーザー回折式粒度分布計によって測定したもので、体積基準で解析したメジアン径を代表値として用いた。粉末X線回折は、理学電機製RINT2400V型X線回折装置で、CuKα線を用いて40kV/150mAの測定条件で、測定してX線回折図を得た。
【0044】
<参考例1>
還流冷却管を備えた2L反応器中で、脱イオン水850mlにオキシ塩化ジルコニウム8水和物0.22モルを溶解後、シュウ酸2水和物0.63モル溶解させた。液温は25℃であった。この溶液を攪拌しながら、5分間かけて、75%リン酸0.46モルを加え、撹拌を続けながら反応器を加熱したところ、70分後に反応液が還流を始めた。反応器の内温は98℃であった。この後10時間攪拌還流を続けて熟成を行った。熟成終了後、ジャケットに冷却水を流して反応液を冷却し、反応液を孔径0.47μmのメンブランフィルターでろ過したところ、器壁やフィルターに残った分を除き、回収ろ液が972g得られた。
【0045】
このろ液を分析したところ、回収ろ液972g中にオキシ塩化ジルコニウムとして0.05モル、シュウ酸として0.57モル、リン酸として0.13モルに加え、副生塩酸が0.29モル含まれていた。
【0046】
なお、最初に得られた沈殿物に脱イオン水を流し、電導度計で測定した洗浄水の電導度が30μS/cm以下となるまでよく水洗浄した後、沈殿物を電気乾燥機中で、150℃で16時間乾燥することにより、リン酸ジルコニウム粉末を得た。この得られたリン酸ジルコニウムについて粉末X線回折で測定した結果、層状のリン酸ジルコニウムであることを確認した。粉末X線回折の回折図を図1に示す。
【0047】
この層状リン酸ジルコニウムの組成式の測定は、これをフッ酸添加硝酸で煮沸溶解し、ICPにより測定して算出した。この結果、組成式は、
ZrH2.03(PO42.01・0.05H2
であった。この組成式に基づき、仕込みのオキシ塩化ジルコニウム8水和物に対して得られた層状のリン酸ジルコニウムの収率を、ジルコニウム元素基準で74%と算出された。
また層状リン酸ジルコニウムのメジアン径(レーザー回折式粒度分布計・堀場製LA−700)を測定した結果は、0.82μmであった。
【0048】
<実施例1>
参考例1で得られた回収ろ液974gに、脱イオン水10gを加え、オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.16モルを溶解し、シュウ酸2水和物0.02モルを加えた。液温は25℃であった。この溶液を攪拌しながら、5分間かけて、75%リン酸0.33モルを加え、撹拌を続けながら反応器を加熱したところ、70分後に反応液が還流を始めた。反応器の内温は98℃であった。この後10時間攪拌還流を続けて熟成を行った。熟成終了後、ジャケットに冷却水を流して反応液を冷却し、反応液を孔径0.47μmのメンブランフィルターでろ過したところ、沈殿物が得られたので、脱イオン水を流し、電導度計で測定した洗浄水の電導度が30μS/cm以下となるまでよく水洗浄した後、沈殿物を電気乾燥機中で、150℃で16時間乾燥することにより、リン酸ジルコニウム粉末を得た。この得られたリン酸ジルコニウムについて粉末X線回折で測定した結果、層状のリン酸ジルコニウムであることを確認した。粉末X線回折の回折図を図2に示す。図2と図1のX線回折図はほとんど差がなく、参考例1と実施例1とでは同様な層状のリン酸ジルコニウム結晶が得られていることが分かった。
【0049】
この層状リン酸ジルコニウムの組成の測定は、これをフッ酸添加硝酸で煮沸溶解し、ICPにより測定して算出した。この結果、組成式は、
ZrH2.03(PO42.01・0.05H2
であった。この組成式に基づき、仕込みのオキシ塩化ジルコニウム8水和物に対して得られた層状のリン酸ジルコニウムの収率を、反応液中のジルコニウム元素基準で75%と算出された。仮に回収ろ液に含まれていた原料を計算から除外してみると、追加した新品原料に対して得られた層状リン酸ジルコニウムの収率は100%となり、バッチ毎に反応液を新品の原料のみで構成する場合に比べて、原料の利用効率が飛躍的に向上したことが明らかである。また層状リン酸ジルコニウムのメジアン径(レーザー回折式粒度分布計・堀場製LA−700)を測定した結果は、0.85μmであり、参考例1と同等の粒径が得られた。
【0050】
実施例1の回収ろ液は、器壁やフィルターに残った分を除き、983g得られた。このろ液を分析したところ、回収ろ液983g中にオキシ塩化ジルコニウムとして0.05モル、シュウ酸として0.61モル、リン酸として0.13モルに加え、副生塩酸が0.62モル含まれていた。
【0051】
<実施例2>
実施例1で得られた回収ろ液983gに、オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.17モルを溶解し、シュウ酸2水和物0.02モルを加えた。液温は25℃であった。この溶液を攪拌しながら、5分間かけて、75%リン酸0.34モルを加え、撹拌を続けながら反応器を加熱したところ、70分後に反応液が還流を始めた。反応器の内温は98℃であった。この後10時間攪拌還流を続けて熟成を行った。熟成終了後、ジャケットに冷却水を流して反応液を冷却し、反応液を孔径0.47μmのメンブランフィルターでろ過したところ、沈殿物が得られたので、脱イオン水を流し、電導度計で測定した洗浄水の電導度が30μS/cm以下となるまでよく水洗浄した後、沈殿物を電気乾燥機中で、150℃で16時間乾燥することにより、リン酸ジルコニウム粉末を得た。この得られたリン酸ジルコニウムについて粉末X線回折で測定した結果、層状のリン酸ジルコニウムであることを確認した。
【0052】
この層状リン酸ジルコニウムの組成の測定は、これをフッ酸添加硝酸で煮沸溶解し、ICPにより測定して算出した。この結果、組成式は、
ZrH2.03(PO42.01・0.05H2
であった。この組成式に基づき、仕込みのオキシ塩化ジルコニウム8水和物に対して得られた層状のリン酸ジルコニウムの収率は111%と算出された。また層状リン酸ジルコニウムのメジアン径(レーザー回折式粒度分布計・堀場製LA−700)を測定した結果は、0.94μmであった。
【0053】
<実施例3>
実施例2で得られた回収ろ液617gに、オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.20モルを溶解し、シュウ酸2水和物0.13モルを加えた。液温は25℃であった。この溶液を攪拌しながら、5分間かけて、75%リン酸0.41モルを加え、撹拌を続けながら反応器を加熱したところ、70分後に反応液が還流を始めた。反応器の内温は98℃であった。この後10時間攪拌還流を続けて熟成を行った。熟成終了後、ジャケットに冷却水を流して反応液を冷却し、反応液を孔径0.47μmのメンブランフィルターでろ過したところ、沈殿物が得られたので、脱イオン水を流し、電導度計で測定した洗浄水の電導度が30μS/cm以下となるまでよく水洗浄した後、沈殿物を電気乾燥機中で、150℃で16時間乾燥することにより、リン酸ジルコニウム粉末を得た。この得られたリン酸ジルコニウムについて粉末X線回折で測定した結果、層状のリン酸ジルコニウムであることを確認した。
【0054】
この層状リン酸ジルコニウムの組成の測定は、これをフッ酸添加硝酸で煮沸溶解し、ICPにより測定して算出した。この結果、組成式は、
ZrH2.03(PO42.01・0.05H2
であった。この組成式に基づき、仕込みのオキシ塩化ジルコニウム8水和物に対して得られた層状のリン酸ジルコニウムの収率は92%と算出された。また層状リン酸ジルコニウムのメジアン径(レーザー回折式粒度分布計・堀場製LA−700)を測定した結果は、0.85μmであった。
【0055】
【表1】

表1において、メジアン径とは、得られた層状リン酸ジルコニウムの、レーザー回折式粒度分布計で測定された体積基準のメジアン径を示し、新品原料に対する収率(wt%)とは、追加したジルコニウム化合物原料の量から得られるはずの層状リン酸ジルコニウムの計算量に対して、実際に得られた層状リン酸ジルコニウムの量を重量百分率で表したものであり、回収ろ液中に残留していた原料が有効利用された場合には100%を超えることもあり得る。表1から明らかなように、新品原料のみを用いた参考例に比べて、本願発明の実施例ではいずれも使用した追加原料に対する層状リン酸ジルコニウムの収率が著しく優れており、一方で得られた層状リン酸ジルコニウムは、新品原料のみから得られたものと同じ物性を保っていた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの製造方法は、新品原料のみを用いる従来法と同等の層状リン酸ジルコニウムを得ることができ、従来よりも原料の利用効率が飛躍的に向上するから、低コストで層状リン酸ジルコニウムを製造できる。本発明により得られた層状リン酸ジルコニウムは、電子部品または電気部品の封止、被覆、および絶縁、抗菌剤原料、消臭剤、変色防止剤、防錆剤などの様々な用途に使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
図1、図2の横軸はX線回折角度2θ(単位 °)、縦軸は回折強度(単位 cps)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸と、ジルコニウム原料を用いる湿式合成法の回収ろ液と、リン酸およびジルコニウム原料の少なくとも一方と有機酸とを含む反応液を用いる、下記一般式〔1〕で示される層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
Zr1-xHfxa(PO4b・nH2O 〔1〕
(式(1)において、aおよびbは3b−a=4を満たす正数であり、bは1.9<b≦2.3であり、xは0≦x<1の正数であり、nは0≦n≦2の正数である。)
【請求項2】
有機酸が脂肪族二塩基酸のカルボン酸である、請求項1に記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項3】
反応液に含まれるジルコニウム化合物の1モルに対して、有機酸の配合割合が0.1〜10.0モルの範囲である、請求項1または2に記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項4】
反応液に、酸解離定数が0以下である無機酸を、ジルコニウム原料の1モルに対して0.1〜20.0モルの範囲で存在させる、請求項1〜3のいずれかに記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項5】
無機酸が塩酸、硝酸、硫酸の中から1つ以上選択される、請求項4に記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項6】
反応液中の無機酸の量が、有機酸の1モルに対して0.01〜30モルの範囲である、請求項4または5に記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項7】
層状リン酸ジルコニウムの、レーザー回折式粒度分布計による体積基準のメジアン径が0.1〜5μmである、請求項1〜6のいずれか1つに記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項8】
ジルコニウム原料とリン酸とを混合する反応工程と、熟成工程とをこの順に含む、請求項1〜7のいずれかに記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−224517(P2012−224517A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94406(P2011−94406)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)