説明

層状リン酸ジルコニウムの製造方法

【課題】
本発明の目的は、様々な用途に利用可能な結晶質層状リン酸ジルコニウムを、高収率で得られる製造方法を提供することである。
【解決手段】
本発明者は、湿式合成法によって層状リン酸ジルコニウムを合成する際に、酸解離定数が0以下である無機酸を併用すると、沈殿として得られる層状リン酸ジルコニウムの収率が向上するために、原料の利用効率が向上し、得られる層状リン酸ジルコニウムは、無機酸を併用しないものと遜色ないことを見出して本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性や耐薬品性に優れ、電子材料の不純物イオントラップ剤、抗菌剤原料、消臭剤、変色防止剤、防錆剤、インターカレーション用の原料などとして利用可能なイオン交換体である、層状リン酸ジルコニウムを、高収率で得られる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リン酸ジルコニウム系無機イオン交換体はその特徴を活かし、様々な用途に利用されている。
リン酸ジルコニウム系無機イオン交換体には、非晶質、2次元層状構造および3次元網目状構造をとる結晶質のものがある。これらのなかでも2次元層状構造をとる層状リン酸ジルコニウムであるZr2(HPO42・nH2Oは、イオン交換性能、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性などに優れており、電子材料の不純物イオントラップ剤、放射性廃棄物の固定化、固体電解質、ガス吸着・分離剤、防錆剤、触媒、インターカレーション担持体および抗菌剤原料などに応用されている。
【0003】
これまでに様々な層状リン酸塩が知られており、様々な合成方法が知られている。例えば、Zr(HPO42・H2O、Zr(HPO42・2H2O、Ti(HPO4)・H2O、Ti(HPO42・2H2O、Hf(HPO42・H2O、Sn(HPO42・2H2O(例えば、特許文献1参照)、M(IV)(HPO4x・nH2O、M(IV)は4価の金属(例えば、特許文献2参照)、などがある。
なかでも層状リン酸ジルコニウムは合成のし易さ、性能等に優れているため、様々な製造方法が提案されている。例えば、特許文献3〜5などがある。層状リン酸ジルコニウムの合成法には、水中または水を含有した状態で原料を混合後、加圧加温して合成する水熱法、原料を水中で混合後、常圧下で加熱して合成する湿式合成法が挙げられる。
【0004】
特許文献6には、Hfを含んでもよい層状リン酸ジルコニウムが、特に電子材料分野において、優れた性能を発揮することが開示されており、その製造方法として、ジルコニウム化合物を含有する水溶液とリン酸および/またはその塩を含有する水溶液とを混合して沈殿物を生じさせ、熟成することにより、上記の層状リン酸ジルコニウムが合成できる、いわゆる湿式合成法や、合成時にシュウ酸を添加すると、原料の利用効率が向上することも開示されているが、溶液からの沈殿工程を有するために、100%の回収率を達成することは難しく、さらなる原料の利用効率向上が求められていた。
【0005】
酸解離定数は、酸の強さを表す概念で、pKaの値で示され、pKaの値が大きいほど水中で解離しにくい弱い酸であり、pKaの値が小さいほど水中で解離しやすい強い酸であり、特に強い酸はpKaが0以下の値を示すことは当業者の技術常識であり、シュウ酸やリン酸は最小のpKa値がいずれも1を超える値であることも知られていた。また、弱酸と強酸とを混合したときは、それらの酸解離定数の違いにより、弱酸の解離は抑えられるからpHへの影響力は減少し、はなはだしい場合は、強酸を混合したときに弱酸が析出してきてしまう現象も良く知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03−150214号公報
【特許文献2】特開昭59−102808号公報
【特許文献3】特開昭60−103008号公報
【特許文献4】特開昭62−226807号公報
【特許文献5】特開昭61−270204号公報
【特許文献6】WO2008/053694国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性や耐薬品性に優れ、様々な用途に利用可能な結晶質層状リン酸ジルコニウムを、高収率で得られる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の製造方法においては、湿式合成法によって層状リン酸ジルコニウムを合成する際に、酸解離定数が0以下である無機酸を併用すると、沈殿として得られる層状リン酸ジルコニウムの収率が向上するために、原料の利用効率が向上することを見出して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、湿式合成法による層状リン酸ジルコニウムの製造の際に、層状リン酸ジルコニウムの沈殿を、従来よりも高収率で得ることができ、原料に対する製品収率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られた層状リン酸ジルコニウムの粉末X線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、特に断りのない%は、質量%である。
本発明の製造方法によって製造できるのは、下記一般式〔1〕で示される層状リン酸ジルコニウムである。
Zr1-xHfxa(PO4b・nH2O 〔1〕
(式(1)において、aおよびbは3b−a=4を満たす正数であり、bは1.9<b≦2.3であり、xは0≦x<1の正数であり、nは0≦n≦2の正数である。)
本発明において、式〔1〕の組成においてリン酸が多くなるほどイオン交換性能は上がるが、リン酸イオンが溶出しやすくなるなど他の物性が低下するので、式〔1〕における添え字bは1.9<b≦2.3の正数であり、好ましくは1.95≦b≦2.1であり、より好ましくは2.00≦b≦2.06である。
【0012】
本発明において、式〔1〕のxは0≦x<1の正数である。即ち、本発明の層状リン酸ジルコニウムには、式〔1〕のxが0のものとxが0<x<1のものとがある。本発明において、式〔1〕のxが0<x<1のものでは、好ましくは0<x≦0.2であり、より好ましくは0.005≦x≦0.1であり、更に好ましくは0.005≦x<0.03である。本発明において、ハフニウムの含有量が多くなるとイオン交換性能は向上するが、ハフニウムには放射性の同位体が存在するので、電子部品に使用する場合は、多すぎると悪影響を及ぼす可能性がある。
【0013】
本発明において、式〔1〕のnは、0≦n≦2の正数である。すなわち、nは0又は2以下の正数であることを意味する。nは1未満が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5であり、0.03〜0.3の範囲が更に好ましい。nが2を超える場合、層状リン酸ジルコニウムに含まれる水分の絶対量が多く、加工時等に発泡や加水分解などを生じる恐れがある。
【0014】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの製造方法は、少なくとも反応工程を含み、合成方法は、各種原料を水溶液中で反応させる湿式合成法である。そして反応工程は、ジルコニウム化合物を含有する水溶液と、リン酸および/またはその塩を含有する水溶液とを混合して沈殿物を生じさせる反応工程と、沈殿を含む反応液を加熱熟成させる熟成工程とをこの順に含むものであることが好ましい。本発明の製造方法においては、酸解離定数が0以下である無機酸を加えることが必須である。反応工程の後、分離工程によって、粉末固体状の層状リン酸ジルコニウムを得ることができ、分離工程には洗浄工程が含まれていても良い。
【0015】
反応工程は、原料を投入した際の反応液組成の均一性を保った方が、粒径が安定するので、撹拌しながら一定速度で原料を投入するのが好ましい。反応温度は何℃でもよいが、10℃〜60℃の間で一定の温度に保つことが好ましい。
【0016】
熟成工程は、常温で行っても良いが、熟成を早くするために90℃以上の湿式常圧で行うことが好ましく、常圧よりも高い圧力雰囲気で100℃を超える条件を水熱条件と呼ぶが、水熱条件で合成を行っても良い。水熱条件で本発明の層状リン酸ジルコニウムを合成する場合は、130℃以下で合成することが製造コストの面から好ましい。好ましい熟成時間は温度により異なるが少なくとも1時間以上24時間以下が好ましく、さらに好ましくは4時間以上18時間以下である。例えば、90℃での熟成では、4時間以上が好ましい。
【0017】
<作用>
本発明の層状リン酸ジルコニウムの製造方法における熟成工程では、反応工程でいったん析出したリン酸ジルコニウムの沈殿が、再溶解と析出を繰り返しながら結晶性を高める作用がある。結晶性が低く、層状結晶構造に乱れのある粒子は再溶解しやすく、適正な層状リン酸ジルコニウム結晶となった粒子は再溶解しにくくなるからである。本発明においては、無機酸を添加することにより再溶解と析出のバランスが変化する結果、層状リン酸ジルコニウムの収率が向上するという効果が得られるものと考えられる。
【0018】
また、熟成工程においては、微細な粒子は再溶解しやすく、一方で再結晶は粒子個数の多いメジアン径付近の粒子上で起きる確率が高いことから、粒径分布を均一にする効果もある。
【0019】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるリン酸またはリン酸塩としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびリン酸アンモニウムなどが例示され、リン酸が好ましく、より好ましくは75wt%〜85wt%程度の高濃度のリン酸である
【0020】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるジルコニウム化合物としては、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、およびオキシ塩化ジルコニウムなどが例示され、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、およびオキシ塩化ジルコニウムが好ましく、反応性や経済性などを考慮すると、より好ましくはオキシ塩化ジルコニウムである。
【0021】
本発明で用いる合成方法において、必須となる無機酸としては、酸解離定数(pKa)が0以下である無機酸であり、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過マンガン酸、チオシアン酸、過塩素酸、過臭素酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸などが挙げられる。このうち好ましいのは、工業的に得やすい塩酸、硫酸、硝酸であり、酸化性がない点で安全であり、難溶性塩を生じにくい点で、塩酸が特に好ましい。
【0022】
本発明で用いる合成方法においては、有機酸を併用することが好ましい。有機酸として好ましいのは脂肪族カルボン酸であり、さらに好ましくは脂肪族二塩基酸のカルボン酸であり、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸等が例示できる。より好ましいのはシュウ酸である。これらの有機酸は塩であってもよく、塩であるときの好ましい対イオンはアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンの中から選択される。具体的には、シュウ酸2水和物、シュウ酸アンモニウム、およびシュウ酸水素アンモニウムなどが例示され、特に好ましくはシュウ酸2水和物である。有機酸は、ジルコニウム原料に配位結合して溶解性を高める作用があると考えられるので、あらかじめジルコニウム化合物の水溶液に混合しておくことが好ましい。
【0023】
合成後の層状リン酸ジルコニウムは、さらに濾別し、よく水洗後、乾燥、粉砕することで白色の微粒子の層状リン酸ジルコニウムとして得られる。
【0024】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの各種合成原料の配合割合を以下に述べる。
リン酸またはリン酸塩の配合割合は、ジルコニウム化合物に対する仕込みのモル比率で、1.9超えであり、好ましくは1.95以上であり、より好ましくは2.0以上である。リン酸またはリン酸塩の配合割合は、ジルコニウム化合物に対して大過剰でも良いが、上清の電導度を考えると、上記モル比率で、3以下であり、2.9以下が好ましく、2.6以下がより好ましい。上記の範囲であると本発明の層状リン酸ジルコニウムを製造することができ好ましい。
【0025】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの反応工程で用いる、解離定数が0以下である無機酸の配合割合は、ジルコニウム化合物に対するモル比率で、0.1〜20.0が好ましく、さらに好ましくは0.5〜10.0であり、より好ましくは1.0〜5.0である。有機酸が含まれないときでも、無機酸を用いることによって本発明を実施できるが、有機酸が含まれるときには、無機酸の配合割合が大きいほど、沈殿の収率が高くなるという効果が顕著に表れるので好ましい。このような顕著な効果が表れるためには、有機酸がジルコニウム化合物に対するモル比率で、0.1〜10.0含まれることが好ましい。
【0026】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの反応工程で有機酸を用いるときの有機酸の配合割合は、ジルコニウム化合物に対するモル比率で、0.1〜10.0であり、より好ましく0.5〜6.0であり、さらに好ましくは1.5〜3.5である。本発明において、この比であると本発明の層状リン酸ジルコニウムの合成が容易となるので好ましい。
【0027】
さらに、本発明の層状リン酸ジルコニウムの製造方法において、有機酸を併用する場合においては、有機酸/無機酸の比率には限定はないが、好ましくは無機酸の1モルに対して、有機酸の量が0.01〜100モルの範囲であり、さらに好ましくは0.1〜10.0、より好ましくは0.3〜2.5である。
【0028】
本発明の製造方法において、酸解離定数が0以下である無機酸は必須であり、層状リン酸ジルコニウムの収率を高める効果があるが、無機酸濃度が高くなるに伴い、生成する層状リン酸ジルコニウム粒子の粒径が大きくなる傾向がある。また、有機酸を併用することもできるが、有機酸の濃度も生成する層状リン酸ジルコニウム粒子の粒径に影響する。例えばメジアン径で1μm以下となるような微粒子の粒子を得たいときには有機酸と無機酸の併用でなおかつその比率を一定範囲にすることが有効であり、高収率でなおかつ微粒子の層状リン酸ジルコニウム粒子が得られる効果が生じる。
【0029】
本発明の層状リン酸ジルコニウムを合成するときの反応スラリー中の固形分濃度は、3wt%以上が望ましく、経済性など効率を考慮すると7%〜20%が好ましい。本発明において、この濃度であると本発明の層状リン酸ジルコニウムの合成が容易となるので好ましい。
【0030】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの好ましい具体例として、以下のものがある。
ZrH1.97(PO41.99・0.10H2
ZrH2.03(PO42.01・0.11H2
ZrH2.06(PO42.02・0.05H2
ZrH2.12(PO42.04・0.05H2
ZrH2.24(PO42.08・0.05H2
Zr0.98Hf0.021.97(PO41.99・0.04H2
Zr0.98Hf0.022.00(PO42.00・0.14H2
Zr0.99Hf0.012.03(PO42.01・0.15H2
Zr0.99Hf0.012.06(PO42.02・0.12H2
Zr0.99Hf0.012.12(PO42.04・0.08H2
Zr0.99Hf0.012.24(PO42.08・0.05H2
Zr0.98Hf0.022.03(PO42.01・0.05H2
Zr0.98Hf0.022.06(PO42.02・0.05H2
Zr0.98Hf0.022.12(PO42.04・0.05H2
Zr0.98Hf0.022.24(PO42.08・0.05H2
Zr0.97Hf0.032.03(PO42.01・0.05H2
Zr0.94Hf0.062.03(PO42.01・0.05H2
Zr0.9Hf0.12.03(PO42.01・0.05H2
【0031】
○メジアン径
本発明におけるメジアン径とは、層状リン酸ジルコニウムを水に分散させて、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定し、体積基準で解析した値である。
電子材料用途では、軽薄短小な部材に対応するため、比較的微細な粒子が使用されるが、あまり細かすぎると、組成物の粘度上昇などを招いて扱いにくくなるため、本発明における層状リン酸ジルコニウムの好ましいメジアン径は、0.1〜5μmであり、0.2〜2.0μmがさらに好ましく、0.3〜1.5μmがより好ましい。また、加工性を考慮すれば、メジアン径のみでなく、最大粒径および散布度も重要であり、最大粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0032】
本発明の層状リン酸ジルコニウムは、粉末であるので、このまま使用しても、これを加工して使用することもできる。例えば、懸濁状態、粒状体、抄紙体、ペレット体、シート、フィルム等の成型体、スプレー、多孔質体、繊維体の形態とすることができる。さらにそれらを塗料、不織布、発泡シート、紙、プラスチック、無機質板などに加工することもできる。
【0033】
本発明の層状リン酸ジルコニウムは、イオン交換性能、耐熱性、耐薬品性、放射線耐性などに優れており、水処理用の金属捕捉剤、電子材料用のイオン捕捉剤、放射性廃棄物の固定化、固体電解質、ガス吸着・分離剤、消臭剤、変色防止剤、防錆剤、触媒、インターカレーション担持体および抗菌剤原料などに応用することが可能であり、物理・化学的に安定な白色微粒子でもあることから顔料、アンチブロッキング剤などにも応用できる。
【0034】
本発明の層状リン酸ジルコニウムは、無機系陰イオン交換体を配合して用いることで、イオン交換性能が向上することが可能である。無機系陰イオン交換体としては、ハイドロタルサイト類およびその焼成物、アルミニウム化合物、酸化亜鉛およびその水和物、酸化ビスマスおよびその水和物、酸化イットリウムおよびその水和物、酸化セリウムおよびその水和物、酸化ランタンおよびその水和物、酸化ジルコニウムおよびその水和物などが例示される。
【0035】
本発明の層状リン酸ジルコニウムを樹脂組成物に配合して、例えば電子部品封止用樹脂組成物として用いることができる。樹脂組成物に用いる樹脂は、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂であっても、ポリエチレン、ポリスチレン、塩化ビニル、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂であってもよいが、好ましくは、柔軟性を有し、フレキシブル配線板等に用いられる接着剤組成物として好適に用いることのできるものであり、熱可塑性の樹脂としてはポリアミド系、ポリエステル系、アイオノマー系、エチレン−酢ビコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー、エチレン−メタクリル酸コポリマー、エチレン−アクリル酸エチルコポリマー等のポリオレフィン系、各種合成ゴム系のもの、さらにはこれらの変性物、複合物などが例示され、熱硬化性の樹脂としてはエポキシ樹脂系、ウレタン系、アクリル系、シリコーン系、クロロプレン系、ニトリル系などの合成ゴム類またはこれらの混合物が例示できる。
【0036】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの好ましい配合割合は、電子部品封止用樹脂組成物100重量部当たり0.05〜10重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部であり、樹脂中の陽イオンを捕捉することにより、樹脂と接触する金属配線のマイグレーションを防止することができる。
【0037】
○ワニスへの配合について
本発明の層状リン酸ジルコニウムを含有したワニスを用いて電気製品、プリント配線板、または電子部品等を作製することができる。このワニスとしては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とするものが例示できる。この樹脂固形分100重量部に対し0.1〜5重量部の本発明の層状リン酸ジルコニウムを添加することが好ましい。ここに無機陰イオン交換体を含有させても良い。
【0038】
○ペーストへの配合について
銀粉等を含有させたペーストに本発明の層状リン酸ジルコニウムを添加することができる。ペーストとは、ハンダ付け等の補助剤として接続金属同士の接着を良くするために用いられるものである。このことにより、ペーストから発生する腐食性物の発生を抑制することができる。このペースト中の樹脂固形分100重量部に対し0.1〜5重量部の本発明の層状リン酸ジルコニウムを添加することが好ましい。ここに無機陰イオン交換体を含有させても良い。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、%は質量%であり、部は質量部である。得られた層状リン酸ジルコニウムの粒径は、脱イオン水に超音波分散してレーザー回折式粒度分布計によって測定したもので、体積基準で解析したメジアン径を代表値として用いた。粉末X線回折は、理学電機製RINT2400V型X線回折装置で、CuKα線を用いて40kV/150mAの測定条件で、測定してX線回折図を得た。
【0040】
<実施例1>
還流冷却管を備えた2L反応器中で、脱イオン水850mlにオキシ塩化ジルコニウム8水和物0.22モルを溶解後、シュウ酸2水和物0.62モル溶解させた。液温は25℃であった。この溶液を攪拌しながら、5分間かけて、リン酸0.46モルを加えた。ついで、35%塩酸を0.46モル投入し、撹拌を続けながら反応器を加熱したところ、70分後に反応液が還流を始めた。反応器の内温は98℃であった。この後10時間攪拌還流を続けて熟成を行った。熟成終了後、ジャケットに冷却水を流して反応液を冷却し、反応液を孔径0.47μmのメンブランフィルターでろ過した。得られた沈殿物に脱イオン水を流し、電導度計で測定した洗浄水の電導度が30μS/cm以下となるまでよく水洗浄した後、沈殿物を電気乾燥機中で、150℃で16時間乾燥することにより、リン酸ジルコニウム粒子を得た。この得られたリン酸ジルコニウムについて粉末X線回折で測定した結果、層状のリン酸ジルコニウムであることを確認した。粉末X線回折の回折図を図1に示す。
【0041】
この層状リン酸ジルコニウムの組成の測定は、これをフッ酸添加硝酸で煮沸溶解し、ICPにより測定して算出した。この結果、組成式は、
ZrH2.03(PO42.01・0.05H2
であった。この組成式に基づき、仕込みのオキシ塩化ジルコニウム8水和物に対して得られた層状のリン酸ジルコニウムの収率を、ジルコニウム元素基準で82%と算出した。
また層状リン酸ジルコニウムのメジアン径(レーザー回折式粒度分布計・堀場製LA−700)を測定した結果は、0.92μmであった。
【0042】
<実施例2>
35%塩酸を0.77モル用いた他は実施例1と同じにして層状リン酸ジルコニウムを得た。収率は89%で、層状リン酸ジルコニウムのメジアン径は0.97μmだった。
【0043】
<実施例3>
シュウ酸2水和物を0.44モル、35%塩酸を0.77モル用いた他は実施例1と同じにして層状リン酸ジルコニウムを得た。収率は90%で、層状リン酸ジルコニウムのメジアン径は0.84μmだった。
【0044】
<実施例4>
シュウ酸2水和物を0.22モル、35%塩酸を0.46モル用いた他は実施例1と同じにして層状リン酸ジルコニウムを得た。収率は81%で、層状リン酸ジルコニウムのメジアン径は0.83μmだった。
【0045】
<比較例1>
塩酸を用いず、シュウ酸2水和物を0.62モル用いた他は実施例1と同じにして層状リン酸ジルコニウムを得た。収率は76%で、層状リン酸ジルコニウムのメジアン径は0.82μmだった。
【0046】
<比較例2>
塩酸もシュウ酸も用いなかった他は実施例1と同じにして合成した結果、結晶化が十分進行せず、層状リン酸ジルコニウム中に多量の非晶質ゲルが混在したまま残った。
【0047】
【表1】

(−は測定しなかったことを示す。)
【0048】
表1において、塩酸(モル比)とは、原料のジルコニウム化合物に対する添加塩酸量のモル比を意味し、シュウ酸(モル比)とは、原料のジルコニウム化合物に対する添加シュウ酸量のモル比を意味し、収率(wt%)とは、原料のジルコニウム化合物から得られるはずの層状リン酸ジルコニウムの計算値に対して、実際に得られた層状リン酸ジルコニウムの量を重量百分率で表したものである。メジアン径とは、レーザー回折式粒度分布計で測定された体積基準のメジアン径を示す。表1から明らかなように、塩酸を添加する本発明の層状リン酸ジルコニウムの製造方法は、塩酸を添加しない他は同条件の従来の製造方法に比べて、収率が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の層状リン酸ジルコニウムの製造方法は、従来よりも収率が優れており、効率よく層状リン酸ジルコニウムを製造できる。本発明により得られた層状リン酸ジルコニウムは、電子部品または電気部品の封止、被覆、および絶縁、抗菌剤原料、消臭剤、変色防止剤、防錆剤などの様々な用途に使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
図1の横軸はX線回折角度2θ(単位 °)、縦軸は回折強度(単位 cps)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸と、酸解離定数が0以下である無機酸とを用いた湿式合成法による、下記一般式〔1〕で示される層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
Zr1-xHfxa(PO4b・nH2O 〔1〕
(式(1)において、aおよびbは3b−a=4を満たす正数であり、bは1.9<b≦2.3であり、xは0≦x<1の正数であり、nは0≦n≦2の正数である。)
【請求項2】
前記一般式〔1〕が下記一般式〔2〕で示される請求項1に記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
ZrHa(PO4b・nH2O 〔2〕
(式〔2〕において、aおよびbは3b−a=4を満たす正数であり、bは1.9<b≦2.3であり、nは0≦n≦2の正数である。)
【請求項3】
無機酸が塩酸、硝酸、硫酸の中から1つ以上選択される、請求項1または2に記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項4】
無機酸の添加量がジルコニウム原料の1モルに対して0.1〜20.0モルの範囲である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項5】
無機酸と共に有機酸を用いる、請求項1〜4のいずれか1つに記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項6】
有機酸の添加量がジルコニウム原料の1モルに対して0.1〜10.0モルの範囲である、請求項5に記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項7】
有機酸の添加量が、無機酸の1モルに対して0.01〜100モルの範囲である、請求項5または6に記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項8】
層状リン酸ジルコニウムの、レーザー回折式粒度分布計による体積基準のメジアン径が0.1〜5μmである、請求項1〜7のいずれか1つに記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。
【請求項9】
ジルコニウム原料とリン酸とを混合する反応工程と、熟成工程とをこの順に含む、請求項1〜8のいずれかに記載の層状リン酸ジルコニウムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224518(P2012−224518A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94407(P2011−94407)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)