説明

層間化合物の製造方法

【課題】層間化合物の製造工程を簡略化することのできる層間化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】層間化合物は、無機層状物質の層間に有機化合物が挿入されているものである。層間化合物の製造方法は、無機層状物質の層間に有機化合物を挿入する挿入工程を備え、この挿入工程では、無機層状物質と有機化合物とを固体状態で衝突させることにより、無機層状物質の層間に対する有機化合物の挿入を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機層状物質の層間に有機化合物が挿入されている層間化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層間化合物としては、無機層状物質の層間に陽イオン性有機化合物が挿入されたものが知られている(例えば特許文献1参照)。この種の層間化合物は、無機層状物質の層間に存在する金属陽イオンと、陽イオン性有機化合物とをイオン交換することによって得られる。このような無機層状物質の層間に対する化学種の挿入は、一般にインターカレーションと呼ばれている。例えば特許文献1の珪酸トリアジン塩複合体は、膨潤性層状珪酸塩の層間にトリアジン系化合物誘導体が挿入されているものである。このトリアジン系化合物誘導体は、正電荷を有する基を少なくとも1つ有するトリアジン系化合物であって、トリアジン系化合物に対してルイス酸化合物を酸・塩基反応させることによって得られる。そして、珪酸トリアジン塩複合体は、膨潤性層状珪酸塩の層間に存在する金属陽イオンと、トリアジン系化合物誘導体とをイオン交換することによって得られる。
【特許文献1】特開平10−81510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来技術では、層間化合物を製造するに際して、無機層状物質の層間に存在するイオンと、有機化合物のイオンとのイオン交換を利用して、無機層状物質の層間に有機化合物を挿入している。すなわち、従来の層間化合物の製造方法では、無機層状物質の分散媒である液体と層間化合物とを分離する工程、分離した層間化合物を乾燥する工程等が必要である。
【0004】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、層間化合物の製造工程を簡略化することのできる層間化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の層間化合物の製造方法は、無機層状物質の層間に有機化合物を挿入する挿入工程を備え、前記無機層状物質の層間に有機化合物が挿入されている層間化合物の製造方法であって、前記挿入工程では、前記無機層状物質と前記有機化合物とを固体状態で衝突させることにより、前記挿入を実施することを要旨とする。
【0006】
この方法によれば、無機層状物質と有機化合物との衝突によって生じる衝突のエネルギー、その衝突のエネルギーが変換された熱エネルギー等が、無機層状物質の層間に対する有機化合物の挿入における推進力になると推測される。そして、無機層状物質の有するイオンとイオン化した有機化合物とのイオン交換を利用せずに、無機層状物質の層間に対する有機化合物の挿入が実施されることで、層間化合物を製造することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の層間化合物の製造方法において、前記挿入工程が、前記無機層状物質と前記有機化合物とを気流により流動させるとともに前記気流中にて前記無機層状物質と前記有機化合物とを衝突させる工程であることを要旨とする。
【0008】
この方法によれば、衝突のエネルギーを高めることが容易であるため、挿入工程において無機層状物質の層間に有機化合物をより効率的に挿入することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、層間化合物の製造工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態における層間化合物は、無機層状物質の層間に有機化合物が挿入されているものである。この層間化合物の製造方法は、無機層状物質の層間に有機化合物を挿入する挿入工程を備えている。この挿入工程では、無機層状物質と有機化合物とを固体状態で衝突させることにより、無機層状物質の層間に対する有機化合物の挿入を実施する。このようにして得られた層間化合物は、例えば高分子材料と複合化されることで物性の高められた複合材料を得ることができる。
【0011】
<無機層状物質>
無機層状物質は、層間に交換性のイオンが介在している無機物質であって、陽イオン交換性無機物質及び陰イオン交換性無機物質から選ばれる少なくとも一種である。
【0012】
陽イオン交換性化合物は、層間に交換性の陽イオンが存在している無機物質であって、例えば膨潤性雲母(膨潤性マイカ)、スメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト族粘土鉱物、ゼオライト、セピオライト等が挙げられる。
【0013】
膨潤性雲母としては、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等が挙げられる。スメクタイト族粘土鉱物としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトナイト、スティブンサイト等が挙げられる。バーミキュライト族粘土鉱物としては、3八面体型バーミキュライト、2八面体型バーミキュライト等が挙げられる。
【0014】
また、陽イオン交換性無機物質としては、例えば下記一般式(1)で示される膨潤性層状珪酸塩を挙げることもできる。
〔A(X)(Si4−dAl)O10(OH2−e)〕 ・・・(1)
一般式(1)中におけるaの値は0.2≦a≦1.0、bの値は0≦b≦3、cの値は0≦c≦2、dの値は0≦d≦4、及びeの値は0≦e≦2である。
【0015】
一般式(1)中のAは、交換性陽イオンを示し、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選ばれる少なくとも1個の陽イオンである。Aで示される交換性金属イオンの金属原子としては、例えばLi、Na等が挙げられる。
【0016】
一般式(1)中におけるX及びYは、膨潤性層状珪酸塩の構造内における八面体シートに入る陽イオンであって、XはMg、Fe、Mn、Ni、Zn及びLiから選ばれる少なくとも一つの金属原子が構成する陽イオンであり、YはAl、Fe、Mn及びCrから選ばれる少なくとも一つの金属原子が構成する陽イオンである。
【0017】
陰イオン交換性無機物質は、層間に陰イオンが存在している無機物質であって、例えばハイドロタルサイト、及びハイドロタルサイト状化合物を含むハイドロタルサイト類が挙げられる。ハイドロタルサイト類は、層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide:LDH)の一種であって、例えば下記一般式(2)で示される。
【0018】
〔M2+1−x3+(OH)x+〔An−x/n・yHO〕x− ・・・(2)
一般式(2)中におけるM2+は二価の金属原子、M3+は三価の金属原子、An−はn価の交換性の金属イオン、x=0.2〜0.33、yは環境湿度によって変化するため特に限定されないが、例えば0<y<1である。M2+としては、例えばMg2+、Mn2+、Ni2+、Zn2+等が挙げられる。M3+としては、例えばAl3+、Cr3+、Fe3+、Co3+等が挙げられる。An−としては、例えばOH、Cl、NO、SO、CO2−等が挙げられる。なお、ハイドロタルサイトはMgAl(OH)16CO・4HOで示される。
【0019】
無機層状物質の層間に存在する交換性のイオンのイオン量は、例えばカラム浸透法(「粘土ハンドブック」第二版 日本粘土学会編、第576〜577項、技法堂出版)やメチレンブルー吸着法(日本ベントナイト工業会標準試験法、JBAS−107−91)等の方法によって、イオン交換容量として示される。このイオン交換容量は、陽イオン交換性無機物質の場合には、陽イオン交換容量(Cation−Exchange Capacity,CEC)と呼ばれ、陰イオン交換性無機物質の場合には、陰イオン交換容量(Anion−Exchange Capacity,AEC)と呼ばれる。
【0020】
本実施形態で示すイオン交換容量は、平衡法によって測定した値をいう。この平衡法は、以下の(手順1)〜(手順4)による方法である。
(手順1)所定量のイオン交換性無機物質を塩溶液で飽和させた後、イオン交換性無機物質と上澄みとを分離する。
【0021】
(手順2)飽和処理したイオン交換性無機物質を(手順1)と同じ種類、かつ低濃度の塩溶液によって洗浄し、この濃度でイオン交換性無機物質を平衡にする。
(手順3)次いで、イオン交換性無機物質を純水で洗浄した後、乾燥及び粉砕する。
【0022】
(手順4)層間に存在する元素を蛍光X線分析によって定量し、この定量値からイオン交換容量を求める。
無機層状物質のイオン交換容量は、好ましくは25〜195ミリグラム当量/100g、より好ましくは50〜150ミリグラム当量/100gである。このイオン交換容量が25〜195ミリグラム当量/100gである場合、こうした無機層状物質から得られる層間化合物では層間剥離が生じ易くなるため、高分子材料と層間化合物とを複合化してなる複合材料の物性をより高めることができる。
【0023】
無機層状物質の電荷密度は、好ましくは70×10〜250×10[nm/charge]、より好ましくは70×10〜200×10[nm/charge]である。この電荷密度が70×10〜250×10[nm/charge]である場合、こうした無機層状物質から得られる層間化合物の層間剥離が生じ易くなるため、高分子材料と層間化合物とを複合化してなる複合材料の物性をより高めることができる。この電荷密度は、透過型電子顕微鏡観察による構造解析の結果、又は粉末X線回折のリーベルト法による構造解析の結果から格子定数を決定し、その格子定数及び上記イオン交換容量から単位格子当りに存在するイオンの電荷を示している。
【0024】
<有機化合物>
有機化合物は、上述した無機層状物質の層間に挿入されることで、無機層状物質の層間を改質する。こうした有機化合物としては、複合化する高分子材料に対して機能性を付与することができるという観点から、高分子材料の添加剤であることが好適である。本実施形態の有機化合物として使用可能な添加剤としては、例えば難燃剤、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、減衰性付与剤等が挙げられる。
【0025】
有機化合物の具体例としては、トリアジン系化合物、リン化合物、及びα−アミノ酸類から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。また、トリアジン系化合物又はリン化合物は、高分子材料の難燃剤であるため、高分子材料と層間化合物とを複合化してなる複合材料の難燃性を高めることも可能であるという観点から好適である。
【0026】
トリアジン系化合物としては、メラミン化合物、シアヌル酸化合物等が挙げられる。メラミン化合物としては、メラミン、N−エチレンメラミン、N,N′,N″−トリフェニルメラミン、硫酸メラミン、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、メラミンシアヌレート等が挙げられる。シアヌル酸化合物としては、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリメチルシアヌレート、トリスメチルイソシアヌレート、トリエチルシアヌレート、トリスエチルイソシアヌレート、トリ(n−プロピル)シアヌレート、トリス(n−プロピル)イソシアヌレート、ジエチルシアヌレート、N,N′−ジエチルイソシアヌレート、メチルシアヌレート、メチルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0027】
リン化合物としては、芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類、ハロゲンリン酸エステル類、ハロゲン縮合リン酸エステル類、赤リン等が挙げられる。芳香族リン酸エステル類としては、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(i−プロピル化フェニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等が挙げられる。芳香族縮合リン酸エステル類としては、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。ハロゲンリン酸エステル類としては、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート等が挙げられる。ハロゲン縮合リン酸エステル類としては、2,2−ビス(クロロメチル)トリメチレンビス(ビス(2−クロロエチル)ホスフェート)、ポリオキシアルキレンビスジクロロアルキルホスフェート等が挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、テトラブロモビスフェノールA(TBA)、デカブロモジフェニルオキサイド(DBDPO)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、トリブロモフェノール(TBP)、エチレンビステトラブロモフタルイミド、TBAポリカーボネートオリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBAエポキシオリゴマー、エチレンビスペンタブロモジフェニル等の臭素系化合物、塩素化パラフィン等の塩素系化合物等が挙げられる。
【0028】
α−アミノ酸類は、α−アミノ酸又はα−アミノ酸塩を含む。α−アミノ酸は、分子内にアミノ基(−NH)とカルボキシル基(−COOH)とを有し、カルボキシル基及びアミノ基が同一の炭素原子に結合しているアミノ酸である。α−アミノ酸としては、例えばアラニン、アルギニン、グリシン、システイン、セリン、チロシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、メチオニン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、リシン、及びフェニルアラニンが挙げられる。α−アミノ酸塩は、例えばα−アミノ酸のカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0029】
<層間化合物>
層間化合物は、無機層状物質の層間に有機化合物が挿入されている化合物であり、挿入工程によって製造される。この挿入工程では、無機層状物質と有機化合物との衝突によって生じる衝突のエネルギー、その衝突のエネルギーが変換された熱エネルギーが推進力となって、無機層状物質の層間に有機化合物が挿入されると推測される。
【0030】
挿入工程に供される有機化合物は、無機層状物質の層間に効率よく挿入することができるという観点から、粉体状であることが好ましい。なお、この挿入工程では、有機化合物の粉砕を同時に行うことも可能である。
【0031】
この挿入工程では、無機層状物質と有機化合物とを気流により流動させるとともに、気流中にて無機層状物質と有機化合物とを衝突させる工程であることが好ましい。そうした気流により、無機層状物質の粒子及び有機化合物の粒子が容易に加速されるため、無機層状物質と有機化合物との衝突によって生じる衝突のエネルギー、その衝突のエネルギーが変換されて発生する熱エネルギーを容易に高めることができる。このため、挿入工程において無機層状物質の層間に有機化合物を効率的に挿入することができる。こうした挿入工程における気流は、空気による気流の他に、窒素ガス等の不活性ガスによる気流を用いてもよい。また気流は、無機層状物質の層間に有機化合物を効率よく挿入することができるという観点から、高速気流であることが好適である。高速気流とは、流れの速さが流体中の音波の速さと同程度であるか、又はその音波の速さ以上である流れをいう。
【0032】
この挿入工程では、固体状態の無機層状物質に対して固体状態の有機化合物を衝突させるため、無機層状物質の層間にイオン化しない状態の有機化合物が挿入される。すなわち、層間化合物を構成する無機層状物質の層間には、非イオン化状態で挿入された有機化合物が介在しており、そうした非イオン化状態の有機化合物によって無機層状物質の層間が改質されている。この挿入工程に用いることのできる装置は、特に限定されず、例えばハイブリダイゼーションシステム(登録商標)((株)奈良機械製作所製)、ジェットミル等が好適である。図1(a)及び図1(b)には、ハイブリダイゼーションシステム(登録商標)における要部であるハイブリダイザー(登録商標)の概要を示している。同図に示すように、基台11に支持されているケーシング12の内側には、円筒状のステータ13が備えられている。図1(b)に示すようにステータ13の前端開口部及び後端開口部には、前壁14及び後壁15が備えられ、ステータ13、前壁14及び後壁15に囲まれた衝突処理室16が形成されている。図1(a)及び図1(b)に示すように衝突処理室16内には、円板状のロータ17が回転可能に軸支され、このロータ17は図示しないモータにより、回転駆動されるように構成されている。このロータ17には複数のブレード18が備えられ、ロータ17の回転駆動に伴って衝突処理室16内には複数のブレード18による高速気流が発生するように構成されている。
【0033】
衝突処理室16には原料輸送管19が接続され、この原料輸送管19を通じて無機層状物質と有機化合物との混合物が衝突処理室16内に投入されるように構成されている。ステータ13の内部に投入された混合物は気流により加速され、無機層状物質と有機化合物との衝突が繰り返される。また、ステータ13の上端部には、混合物を循環する循環用輸送管20の一端が接続され、さらに循環用輸送管20の他端は原料輸送管19に接続されている。そして、衝突処理室16内において、混合物は気流によってステータ13の内壁に沿って流動し、ステータ13の上部から循環用輸送管20内に移送され、さらに循環用輸送管20を通じて原料輸送管19へ移送される。そして、原料輸送管19に移送された混合物は衝突処理室16内へ再投入され、衝突処理室16内において無機層状物質と有機化合物との衝突が再度実施される。なお、図1(a)に示すようにステータ13は冷却通路21を有しており、その冷却通路21を通じる冷媒によってステータ13の冷却が行われるように構成されている。さらに、ステータ13の下部には排出弁22が設けられ、衝突処理室16内から層間化合物の排出が行われるように構成されている。
【0034】
原料として用いる無機層状物質に対する有機化合物の配合量は、無機層状物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.1〜70質量部、さらに好ましくは0.1〜50質量部である。この配合量が0.1質量部未満の場合、有機化合物の層間挿入量を十分に確保することが困難となるおそれがある。一方、100質量部を超えて配合した場合、層間挿入量の向上率の低下を招くため、不経済となるおそれがある。
【0035】
層間化合物における有機化合物の層間挿入量は、好ましくは1ミリグラム当量/100g以上、より好ましくは5ミリグラム当量/100g以上、さらに好ましくは10ミリグラム当量/100g以上である。有機化合物の層間挿入量が1ミリグラム当量/100g未満の場合、無機層状物質の層間が十分に改質されないおそれがある。一方、有機化合物の層間挿入量の上限は特に限定されないが、例えば200ミリグラム当量/100g以下である。
【0036】
本実施形態の層間化合物では、上述した挿入工程によって有機化合物を挿入しているため、層間化合物を構成する無機層状物質においても、原料として用いた無機層状物質の有する交換性のイオン量が保持されている。このため、本実施形態の層間化合物では、原料として用いた無機層状物質が本来有している特性が十分に発揮されると推測される。原料として用いた無機層状物質の有するイオン交換容量と、層間化合物を構成する無機層状物質の有するイオン交換容量との差は、例えば10ミリグラム当量/100g未満であることが好適である。
【0037】
また、挿入工程を実施する前工程において、原料として用いる無機層状物質を電子供与性の有機溶媒に接触させる処理が実施されることにより、無機層状物質の層間に有機化合物が挿入され易くなり、有機化合物の層間挿入量を高めることが可能である。すなわち、電子供与性の有機溶媒によって、原料として用いる無機層状物質の外表面や層間内面が活性化され、無機層状物質と、層間に挿入する有機化合物との親和性が高められると推測される。こうした電子供与性の有機溶媒としては、例えばアルコール類、フェノール類、アルデヒド類、ケトン類、有機酸エステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類、カルボン酸類、有機酸ハライド類、炭化水素類、アンモニア類、アミン類、ニトリル類等に分類される他に、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等の各種界面活性剤、水等が挙げられる。
【0038】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、ドデカノール、オクタデシルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、クミルアルコール、イソプロピルアルコール、イソプロピルベンジルアルコール等が挙げられる。
【0039】
フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ノニルフェノール、クミルフェノール、ナフトール等が挙げられる。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0040】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾキノン、ラクトン、ピロリドン等が挙げられる。有機酸エステル類としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、クロル酢酸メチル、ジクロル酸エチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸シクロヘキシル、安息香酸フェニル、安息香酸ベンジル、トルイル酸メチル、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、クマリン、フタリド、炭酸エチル等が挙げられる。
【0041】
エーテル類としては、メチルエーテル、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、アミルエーテル等の脂肪族エーテル、アニソール等の芳香族エーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテルが挙げられる。酸アミド類としては、ジフェニル酸N,N−ジメチルアミド等が挙げられる。酸無水物類としては、無水酢酸、無水フタル酸、無水安息香酸等が挙げられる。カルボン酸類としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0042】
有機酸ハライド類としては、アセチルクロライド、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、吉草酸クロライド、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド、安息香酸クロライド、トルイル酸クロライド、アニス酸クロライド、コハク酸クロライド、マロン酸クロライド、マレイン酸クロライド、イタコン酸クロライド、フタル酸クロライド等を挙げることができる。炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、キシレン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。
【0043】
アンモニア類としては、アンモニア、水酸化アンモニウム等が挙げられる。アミン類としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。ニトリル類としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリニトリル等が挙げられる。
【0044】
電子供与体は単独で配合してもよいし、複数種を組み合わせて配合してもよい。電子供与体の中でも、無機層状物質の層間を効率的に活性化するという観点から、好ましくはエーテル類又はアルコール類、より好ましくはテトラヒドロフラン、ジオキサン及びメタノールから選ばれる少なくとも一種である。
【0045】
電子供与体を接触する処理には、上述した挿入工程に用いることのできる装置の他に、ボールミル、ハンマーミル、ニーダー等を用いることができる。
無機層状物質に対する電子供与体の配合量は、無機層状物質100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.05〜15質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部である。この配合量が0.01質量部未満であると、無機層状物質の層間を効率的に活性化することが困難となるおそれがある。一方、20質量部を超えると、かえって活性化を妨げるおそれがある。
【0046】
こうして得られた層間化合物と、母材としての高分子材料とを複合化することにより、複合材料を得ることができる。そして、複合材料は、各種成形品として例えば電気・電子分野、自動車分野、建築分野等において使用することができる。この複合材料から成形された成形品では、層間化合物の複合化に基づいて向上された物性を発揮させることができる。高分子材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びゴム類が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン・アクリロニトリル系樹脂の他、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。オレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、各種ポリエステル系エラストマー等が挙げられる。ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、非晶性ポリアミド、ポリメタクリルイミド等が挙げられる。スチレン・アクリロニトリル系樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0047】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
ゴム類としては、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリルゴム、天然ゴム等が挙げられる。
【0048】
これらの高分子材料は、単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせたポリマーアロイやブロック共重合体として使用してもよい。
複合材料中における層間化合物の配合量は、高分子材料100質量部に対して、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは0.5〜100質量部、さらに好ましくは1〜60質量部である。この配合量が0.1質量部未満の場合、複合材料の物性が顕著に向上され難くなるおそれがある。一方、200質量部を超えて配合した場合、複合材料の成形性が十分に得られないおそれがある。
【0049】
この複合材料には、層間化合物以外の成分として充填剤、難燃剤、腐食防止剤、着色剤、制電剤、湿潤剤等を必要に応じて含有させることもできる。
高分子材料と層間化合物との複合化は、例えば高分子材料に層間化合物を配合し、高分子材料と層間化合物とを混合することによって行うことができる。また例えば、単量体に層間化合物を配合し、その単量体を重合することによって行うこともできる。なお、複合材料は、高分子材料と層間化合物とを複合化したマスターバッチとして構成し、そのマスターバッチを高分子材料で希釈して使用してもよい。
【0050】
高分子材料と層間化合物とを複合化する際には、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、グレンミル、ニーダー等の公知の混合機の他に、ディゾルバー、各種押出機を使用することが可能である。また複合化は、必要に応じて加熱して行うことができる。
【0051】
こうした複合化では、層間化合物の一部又は全体が層間剥離することで、層間化合物の一部又は全体が微粒子となり、こうした微粒子が高分子材料中にナノオーダーレベルで分散(ナノ分散)した複合材料を得ることができる。
【0052】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 従来、無機層状物質の層間に存在するイオンと、イオン化した有機化合物とをイオン交換することによって、無機層状物質の層間に有機化合物を挿入していた。本実施形態の挿入工程では、無機層状物質と有機化合物とを固体状態で衝突させることにより、無機層状物質の層間に対する有機化合物の挿入を実施している。こうした挿入工程では、無機層状物質と有機化合物との衝突によって生じる衝突のエネルギー、その衝突のエネルギーが変換された熱エネルギー等が、無機層状物質の層間に対する有機化合物の挿入における推進力になると推測される。そしてこの挿入工程によれば、無機層状物質の有するイオンとイオン化した有機化合物とのイオン交換を利用せずに、無機層状物質の層間に対する有機化合物の挿入が実施されることで、層間化合物を製造することができる。従って、無機層状物質の分散媒である液体と層間化合物とを分離する工程、分離した層間化合物を乾燥する工程、上記液体を後処理する工程等を省略することができる。よって、層間化合物の製造工程を簡略化することができる。
【0053】
(2) 挿入工程は、無機層状物質と有機化合物とを気流により流動させるとともに気流中にて無機層状物質と有機化合物とを衝突させる工程であることが好ましい。この場合、衝突のエネルギーを高めることが容易であるため、挿入工程において無機層状物質の層間に有機化合物をより効率的に挿入することができる。
【0054】
(3) 従来では、無機層状物質の分散媒は、その無機層状物質の層間に挿入される有機化合物の溶媒としての機能を兼ね備える必要があり、その有機化合物は無機層状物質の分散液中において、イオン化する必要がある。仮に、層間に挿入しようとする有機化合物が特定の分散媒中においてイオン化したとしても、その分散媒に対する有機化合物の溶解度が低ければ、無機層状物質と接触する有機化合物の量は少なくなる。このように従来では、無機層状物質の層間に効率的に挿入することができる有機化合物の種類は限られるという問題があった。本実施形態の層間化合物の製造方法によれば、無機層状物質が有するイオンとイオン化した有機化合物とのイオン交換を利用せずに、無機層状物質の層間に有機化合物を挿入することができるため、種々の有機化合物を無機層状物質の層間に挿入することができる。
【0055】
(4) 本実施形態の層間化合物では、その層間に交換性のイオンが存在するとともに有機化合物が非イオン化状態で挿入されている。この層間化合物は層間剥離し易く、例えば高分子材料と複合化した際には、その高分子材料中において、層間化合物の層間剥離によって形成された微粒子の分散性が改善されると推測される。また、従来のイオン交換によって得られた層間化合物とは、層間に存在する有機化合物の状態が異なるため、高分子材料と複合化した際に、層間化合物と高分子材料との界面状態が異なると推測される。従って、本実施形態の層間化合物を高分子材料と複合化して使用することで、新たな複合材料を提供することができる。
【0056】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記挿入工程に供される有機化合物は粉体状である層間化合物の製造方法。
・ 前記無機層状物質が、膨潤性雲母(膨潤性マイカ)、スメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト族粘土鉱物、ゼオライト、セピオライト、及びハイドロタルサイト類から選ばれる少なくとも一種である層間化合物の製造方法。
【0057】
・ 前記有機化合物が、高分子材料用の添加剤である層間化合物の製造方法。
・ 前記有機化合物が、トリアジン系化合物又はリン化合物である層間化合物の製造方法。
【0058】
・ 前記層間化合物の製造方法によって得られた層間化合物であって、無機層状物質に対する有機化合物の層間挿入量が1ミリグラム当量/100g以上である層間化合物。
・ 前記層間化合物を高分子材料と複合化して使用する層間化合物の使用方法。
【0059】
・ 前記高分子材料が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びゴム類から選ばれる少なくとも一種である層間化合物の使用方法。
【実施例】
【0060】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
無機層状物質として合成マイカ[Na型テトラシリシックフッ素雲母:ソマシフ(商品名)ME−100、コープケミカル(株)製]に対して有機化合物としてのメラミンを800ミリグラム当量数/100g配合した原料30gを、ハイブリダイゼーションシステム(登録商標)NHS−0型((株)奈良機械製作所)を用いて挿入工程を行うことにより、層間化合物を調製した。ハイブリダイゼーションシステム(登録商標)NHS−0型の条件は、ロータの回転数5000rpm、処理時間5分とした。
【0061】
(実施例2)
ハイブリダイゼーションシステム(登録商標)NHS−0型のロータの回転数を10000rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして層間化合物を調製した。
【0062】
(層間挿入量の測定)
各実施例の層間化合物について、有機化合物の層間挿入量を以下の手順で測定した。その測定結果を表1に示す。
【0063】
層間化合物及び混合物について、THFを洗浄液として用いて洗浄を行った。まず、無機層状物質100質量部に対してTHF100mlの割合で使用する洗浄を、3回繰り返し、予備洗浄とした。次いで、層間化合物及び混合物をアスピレータで吸引しながら無機層状物質100質量部に対してTHF100mlの割合で使用する洗浄を3回繰り返し、本洗浄とした。その後、層間化合物及び混合物を真空乾燥し、層間挿入量測定用の試料とした。その試料を熱重量測定装置(SSC5200、セイコーインスツルメンツ(株)製)にて、室温から10℃/分の昇温速度にて600℃まで加熱した際の重量変化を測定し、有機化合物の層間挿入量を算出した。なお、ブランク試験として、合成マイカ[Na型テトラシリシックフッ素雲母:ソマシフ(商品名)ME−100、コープケミカル(株)製]に対してメラミンを800ミリグラム当量数/100g配合した原料30gを、円筒型容器(外径100mm、全長120mm、内径90mm、内寸80mm)を用いて混合することにより、合成マイカとメラミンとの混合物を調製した。このブランク試験では、円筒型容器の長さ方向が水平になるようにして、その容器の周方向に回転数174rpmにて165分間回転させた。ブランク試験にて得られた混合物について、各実施例と同様にして層間挿入量を測定した結果を表1に併記する。
【0064】
【表1】

表1の結果から明らかなように、各実施例の層間化合物では、無機層状物質の層間に有機化合物が挿入されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は挿入工程で用いられる装置の一例を示し、その装置の要部を正面から見たときの概略断面図、(b)はその装置の要部を側面から見たときの概略断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機層状物質の層間に有機化合物を挿入する挿入工程を備え、前記無機層状物質の層間に有機化合物が挿入されている層間化合物の製造方法であって、
前記挿入工程では、前記無機層状物質と前記有機化合物とを固体状態で衝突させることにより、前記挿入を実施することを特徴とする層間化合物の製造方法。
【請求項2】
前記挿入工程が、前記無機層状物質と前記有機化合物とを気流により流動させるとともに前記気流中にて前記無機層状物質と前記有機化合物とを衝突させる工程であることを特徴とする請求項1に記載の層間化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−308315(P2007−308315A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136947(P2006−136947)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】