説明

層間界面における付着力の測定法

一連のレーザ衝撃を直接的に層の1つ(1)の表面に加えることにより、2つの層(1、2)間の付着力の強度を評価する。2層(1、2)間の界面(3)の断裂を引き起こす衝撃を作り出すレーザ・パルス(L2)の波長(λ2)およびエネルギー(ε2)に基づいて付着強度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は付着力の測定法に関し、より詳細には、多層スタック内、特に複数材料スタック(multi−material stack)内の層間界面における付着強度の測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路を含む超小型電子デバイスは、複数層のスタックを備えることができる。2つの材料層間の付着強度を測定することが望ましい状況が多々ある。一般にこれは、前記超小型電子デバイスの製造工程中、製品の信頼性を試験する際に必須である。しばしば、2つの層は異なる材料から構成されるが、実質的に同一の材料でできた2層間に界面があることもある。
【0003】
集積回路を含むこのような超小型電子デバイスの製造中、ウエハ内の層間の付着強度を測定することが望ましく、特に薄膜として堆積させた層ではそうである。ウエハの表面全体にわたって様々な場所で測定を行うことが理想的である。曲率法などの応力測定技法またはX線測定を含む従来のウエハ試験技法は、J.H.Jeong等が著した2001年8月1日発行の「Intrinsic stress in chemical vapour deposited diamond films:An analytical model for the plastic deformation of the Si substrate」(Journal of Applied Physics、90(3)、1227〜1236ページ)という名称の刊行物に記載されている。しかし、これらの技法は、一般にウエハ内の残留応力に関する情報を提供するだけであり、ウエハ上の特定の場所におけるウエハ内の異層間の付着強度の測定は行えない。
【0004】
他の分野では、付着強度を求めることができる様々な測定技法が知られている。マイクロカンチレバーを使用する応力測定を含む試験は、M.Godin等によって著された2001年7月23日発行の「Quantitative surface stress measurement using a microcantilever」(Applied Physics Letters、79(4)、551〜553ページ)という名称の刊行物によって知られている。4点曲げ技法も含む方法は、Dauskardt等が著した1998年発行の「Adhesion and de−bonding of multi−layer thin film structure」(Eng.Fract.Mech、61、141〜162ページ)という名称の刊行物によって既知である。しかし、上記の諸試験は破壊的である。すなわち、それらはある程度の大きさの試料を使用することを必要とし、前記試料は、試験後には使用するのに適さなくなる。さらに、これらの既知の技法は、超小型電子デバイスで見られる種類の薄膜を含む複数材料スタックにも適さない。
【0005】
他の付着強度測定技法も知られており、それらの測定技法では、2つの材料間の界面にレーザからの出力が供給される。
【0006】
例えば、米国特許第4,972,720号は、界面を加熱し、熱剥離が起こる温度を求めることによって界面の付着強度を評価する技法を記載している。比較的長期間(例えば5秒)にわたってレーザ・エネルギーを印加することによって界面を加熱することができ、音響センサを使用することを含む様々な技法によって剥離を検出することができる。付着強度の低い界面は、より雑音の大きい剥離事象を発生させることを上記の米国特許第4972720号は教示している。
【0007】
米国特許第4972720号に記載されている方法には、様々な欠点がある。まず第1に、被験材料は、加熱されると特性に望ましくない変化が生じることがある。例えば、加熱された鋼鉄試料はマルテンサイト変態することがある。第2に、この既知の技法は、異なる熱膨張係数を有する2つの材料間の界面に使用したときにのみ機能する。
【0008】
米国特許第5,838,446号は、不透明な下塗り上に施された透明被覆の付着力の強度を求める技法を記載している。レーザ・エネルギーを使用して下塗りと透明被覆の間の界面で下塗りを融除するので、その結果ブリスタが形成される。ブリスタの大きさ、およびブリスタから割れが広がり始める臨界エネルギー値を含む様々なパラメータから付着強度を求める。幅50psの単一IR(λ=1053nm)レーザ・パルスを使用して、試料上の単一スポットへ照射し、次いでレーザのエネルギー値を変え、新しいスポットへ照射する。形成されるブリスタの半径を各スポットで測定する。臨界エネルギーの半径値を推定するために、一連のスポットからの半径値をグラフ上にプロットする。付着強度の算出は、この推定された半径値を使用する。
【0009】
米国特許第5838446号に記載されている方法には欠点もある。特に、材料の融除は塵を生じさせやすく、この塵は、多くの製造環境、例えば超小型電子産業において望ましくないであろう。その上、この技法は、(例えば、試料が超小型電子デバイスを製造するのに使用する半導体ウエハである場合に)望ましくないことがある試料のハンドリングが多少必要となる特定の試料幾何形状を使用することを必要とする。さらに、1つの付着強度値を算出するために、試料上のいくつかの場所で測定を実施し、その結果得られるデータを1つにまとめなければならず、それが過度の複雑さと比較的長い演算時間につながる。
【0010】
米国特許第5438402号は、基板と被覆の間の界面での引張強度を求めるレーザ破砕技法を記載している。このようなレーザ破砕技法では、基板および被覆に機械的衝撃を加える。機械的衝撃を基板/被覆に伝えるために、基板の自由表面(被覆から離れた表面)上にはエネルギー吸収被覆を、エネルギー吸収層上には閉じ込めプレートを形成することが必要である。この構成のエネルギー源としてレーザからのパルスを使用する。被覆の自由表面の運動に基づいて付着強度を算出する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、2層間、例えば複数材料スタック内の2つの異なる材料の層間の界面における付着強度を評価する新規な技法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の好ましい実施の態様は、これまで知られた方法よりも実施が簡単な付着強度評価法を提供する。より具体的には、これらの好ましい諸実施形態では、試料上の1組の場所に関連するデータを処理する必要や、複雑な閉じ込め構造を使用する必要なしに付着強度の値を算出することができる。
【0013】
本発明の好ましい実施の態様は、表面上の不連続な場所での付着強度の測定を可能にする。
【0014】
本発明は、2層間の界面での付着強度を測定する方法を提供する。この方法では、界面に衝撃波を発生させるようにレーザ・パルスによって前記2つの層の1つに直接的に衝撃を与え、センサが界面の断裂(剥離)を検出する。界面の断裂を生じさせるのに必要なレーザ・パルスのエネルギーおよび波長に基づいて、2層間の界面の付着強度を求める。
【0015】
この技法は実施することが極めて簡単である。単一ポイントでのレーザ衝撃に関連するパラメータに基づいて付着強度を算出することができ、したがって算出を単純化および高速化することができる。さらに、この技法は、ウエハまたはその他の複数材料試料を台の上に配置することだけを必要とする。すなわち、エネルギー吸収層または閉じ込めプレートに関連して試料を構成する必要がない。
【0016】
本発明は、試験される試料を全体にわたっては破壊せず、塵を発生させない形で付着強度を測定することを可能にする。試験を行う(複数の)ポイントで界面が破壊されるが、試料の残りの部分はなお使用可能である。したがって、本方法は、個別のデバイスへと切り分けられることになる半導体ウエハ上の層間付着強度を試験するのに適している。
【0017】
様々な型のセンサを使用して、試験を受けている2層間の界面の断裂を検出することができる。本発明の好ましい諸実施形態では、センサは、音響センサまたはX線反射装置である。
【0018】
本発明、および本発明を効果的にするために任意選択で用いることができる追加の特徴は、以下で説明する図面を参照することにより明白かつ明瞭となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
材料へ加えられるレーザ衝撃によって生じる応力は、衝撃を発生させるのに使用するレーザ・パルスの波長およびエネルギーに依存する。より具体的には、レーザ・パルスの波長およびエネルギーが増大するほど生じる応力も大きくなる。レーザ衝撃を受ける表面の振る舞いは、G.Tas等によって著された1994年6月1日発行の「Electron diffusion in metals studied by picosecond ultrasonics」(Physical Review B、46(21)、15046〜15055ページ)に、より詳細に説明されている。
【0020】
適当な波長およびエネルギーのレーザ・パルスは、材料の層上に直接的に衝撃を与えることにより、衝撃が与えられた層とその層が接着されているもう一方の層との間の界面で、それらの2層間の付着力に打ち勝つように十分な応力を作り出すことができる。2層間の界面のこの断裂は、例えば音響センサまたはX線反射装置を使用して検出することができる。したがって、2層間の付着強度は、波長および/またはエネルギーを増大させながらレーザ・パルスを直接的に被験試料に印加し、界面の断裂を引き起こすのにちょうど十分な応力を生じさせるレーザ・パルスの波長およびエネルギーを記録し、波長およびエネルギーのこれらの臨界値に基づいて付着強度の値を算出することよって求めることができる。
【0021】
レーザ衝撃は、2つの材料層間の界面に割れを入れるのに通常十分な、300MPa以上までの圧力を加えることができる。例えば、Ni層とSi層間の界面の付着強度は約100MPa、Al層とSi層間の界面の付着強度は約100MPa、Nb層とAl層間の界面の付着強度は約300MPaである。したがって、付着強度の測定に本発明の技法を効果的に利用することができる。
【0022】
次に図1を参照して、本発明による2層間の付着強度の測定法の好ましい実施の一形態を説明する。この例では、スタック内の2層間の界面で付着強度を測定する。このスタックは、それら2つの層だけで構成されている。しかし、被験界面は、3つ以上の層で構成されるスタック内の最も外側の2層間にあってもよく、あるいは界面の両層がどちらもスタックの表面にない、3つ以上の材料のスタック内の最も弱い界面に相当することもある。
【0023】
典型的には、この技法は、半導体ウエハ製品内の2つの層1、2間の付着強度の測定に利用されるであろう。典型的には、半導体ウエハ内の付着強度を測定する場合、層1は、TaNでできたバリヤ層2上に堆積させた銅の層に相当することがある。しかし、他にも多数の可能性がある。例えばTaNバリヤ層とそれの下にあるSiO層間、TaNとFSG間、Cuとその下のSiN間等の界面での付着強度を測定するのに本方法を使用することができる。
【0024】
本発明によれば、図1(a)に示すように、それらの間で付着強度の測定を行う2つの層の1つの自由表面に直接的に衝撃を与えるように、第1の波長λにあり、第1のエネルギーεを有するレーザ・パルスLを被験試料に当てる。パルス持続時間は、一般に数十ナノ秒〜数百ナノ秒であり、レーザ・パルスを発生させるのに使用するハードウェアに依存する。例としては、Nd:YAGレーザまたはエキシマ・レーザを使用することができる。しかし、様々な波長を出力できる色素レーザを使用することが好ましい。図示の例では、レーザ・パルスLによって層1に直接的に衝撃を与える。レーザ衝撃は、第1の層1を通って第2の層2との界面3の方へ衝撃波を伝播させる。図1(a)では、一連の白い楕円によって衝撃波の進行を示している。衝撃波は、界面3に達すると、図中の矢印によって示すように応力を生じさせる。
【0025】
図1(a)に示す場合では、レーザ・パルスの波長およびエネルギーは、第1および第2の層1、2の剥離を生じさせるには不十分である。したがって、第2の層2と接触して配置されている音響センサASは音を検出しない。
【0026】
レーザ・パルスの波長および/またはエネルギーを増大させ、層1の自由表面の同じ場所に第2のパルスを印加する。最終的には、第1および第2の層1、2を分離させるのに十分な、言い換えると界面3に割れが生じる応力をレーザ・パルスLが生じさせる、波長(λ)およびエネルギー(ε)の値に達する。この事象は音を作り出し、音波は第2の層2中を伝播し(図l(b)の黒い楕円で示すように)、例えば音響センサASを使用して検出することができ、音響センサASが信号Oを出力する。層1、2間の付着強度(σ1、2)は、波長およびエネルギーのこれらの値(λ、ε)の関数である。より具体的には、試料表面の圧力Pは、以下の式によって求めることができる。
P=0.622A7/16-9/16λ-1/4τ-1/8Ι3/4
ここで、Aは層1の原子量、Zはプラズマのイオン化度、λはレーザの波長、τはパルス持続時間、Ιはプラズマの最大電力密度である。(なお、被験界面に達する前にレーザ衝撃波が2つ以上の層を通り抜ける場合には、上記の式を通り抜ける各層に適用する)。
【0027】
色素レーザを使用する場合、試料の所与の場所へ第1のパルスを印加する前に、レーザ・パルスの波長を第1の値λに、パルス・エネルギーを第1の値εに設定することが好ましい。その結果得られるレーザ衝撃が界面3に剥離を生じさせるのに不十分な場合、パルス・エネルギーを増分Δεだけ増大させ、試料の同じポイントへ第2のパルスを印加する。界面3に剥離が起こる、またはレーザにとって可能な最大パルス・エネルギーに達するまで、徐々にレーザ・パルス・エネルギーを増大させ本方法を継続する。剥離が起こる前に最大パルス・エネルギーに達した場合、レーザの波長を増分だけ増加させ、パルス・エネルギーをレーザの最低値まで戻し、上記の工程を新しい波長で繰り返す。最終的には、剥離を生じさせるのに必要な波長(λ)およびエネルギー(ε)値に達することになる。
【0028】
単一波長レーザを使用する場合、試験工程が、試料に印加する第1のパルスのパルス・エネルギーを初期値ε’に設定し、次いでそれに続く各レーザ・パルスのエネルギー値を、剥離が検出されるまで増分Δε’だけ増大させていくことになっていることが好ましい。レーザ・センサLS(例えばフォトダイオード)を設けて、層1の自由表面から出るレーザ光線、すなわち層1の自由表面および層1と層2の間の界面から反射された光を検出することが好ましい。レーザ・センサLSによって検出される信号に基づいて第1の層の厚さを求めることができる。この目的のためにメタパルス技法を使用することが好ましい。
【0029】
従来型のデバイスを使用して本発明のこの好ましい実施形態で使用するこれらの構成要素を実施することができるので、レーザ光源、音響センサ、およびレーザ・センサの構造の更なる詳細はここでは提供しない。ただし、音響センサが能動型でも受動型でもよいことは述べておく。
【0030】
前述のように、表面の様々なポイントで層間の付着強度を測定するのに本発明の付着強度測定技法を使用することができる。換言すれば、ポイントAで層1、2の間に剥離が生じるまで、エネルギー/波長を増大させながら一連のレーザ・パルスをポイントAに印加し、次いで表面1上の衝撃ポイントを新しい場所、ポイントBに変更する。前述の実施形態では、これらのポイントの間隔を互いに約1センチメートル以上の距離だけ離すことができる。
【0031】
図面および前述したそれらの説明は、本発明を限定するものではなく例を示すものである。添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれる多数の代替物があることは明白であろう。例えば、前述の好ましい実施形態は、2つの層を備える試料における付着強度の測定を示していたが、本発明による方法は、3つ以上の層を備える試料の2層間の付着強度の測定に利用することもできる。このような場合では、レーザ衝撃は最も弱い界面で剥離を生じさせることとなる。
【0032】
さらに、本発明の好ましい一実施形態の前述の説明では、色素レーザを使用して試験ポイントに印加される連続したレーザ・パルスのエネルギーを、使用するレーザの初期最低値から最大値まで一定の大きさの増分だけ徐々に増大させた後で、ある低い値から次に高い値まで波長を増大させることも説明した。しかし、その他のパターンのパルス・エネルギー/波長の変動も可能である。例えば、被験試料の性質に応じて、最大近くになっているパルス・エネルギーおよび/またはレーザの最低波長ではない波長で始めることが好ましいことがある。さらに、エネルギーおよび/または波長における増分の大きさは、被験界面の(諸)材料の性質に応じて様々に設定することができる。
【0033】
特許請求の範囲のいかなる参照符号も、特許請求の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1A】本発明の方法の好ましい実施の一形態を実施するのに使用する装置の構成を表わす概略図であって、材料間の界面が完全な状態を保持する場合を示す。
【図1B】本発明の方法の好ましい実施の一形態を実施するのに使用する装置の構成を表わす概略図であって、界面に割れが入る場合を示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の層のスタック内の第1および第2の材料層間の付着強度測定法であって、前記第1および第2の層が界面で接触し、
波長および/またはエネルギーがそれぞれ異なる複数のレーザ・パルスによってこれらの層の前記スタックの自由表面に衝撃を与えることにより、複数のレーザ衝撃を直接的に前記自由表面に加えるステップと、
前記複数のレーザ・パルスの1つの印加による前記界面の割れを検出するステップと、
前記界面の割れを生じさせる前記被印加レーザ・パルスの波長およびエネルギーを決定するステップと、
前記決定された波長およびエネルギーの値に基づいて前記第1および第2の層の付着強度の値を算出するステップと、
を備える、付着強度測定法。
【請求項2】
前記レーザ衝撃を加えるステップは、前記界面の割れが検出されるまで、前記スタックの前記自由表面上の同じ場所で前記複数のレーザ・パルスを印加することを含む、請求項1に記載の付着強度測定法。
【請求項3】
前記検出するステップは、音響センサを使用して割れを検出することを含む、請求項1または2のいずれかに記載の付着強度測定法。
【請求項4】
前記第1および第2の層は半導体ウエハ製品の層である、請求項1乃至3のいずれかに記載の付着強度測定法。
【請求項5】
前記第1の層が前記スタックの一端にあり、前記第1の層の一表面が、前記レーザ・パルスが衝撃を与える前記スタックの前記自由表面を構成する、請求項1乃至4のいずれかに記載の付着強度測定法。

【公表番号】特表2006−505773(P2006−505773A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549468(P2004−549468)
【出願日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【国際出願番号】PCT/IB2003/004883
【国際公開番号】WO2004/042373
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】