説明

履帯式走行車両の下転輪およびその製造方法

【課題】簡易な構成によって、転輪セグメントの溶接部分を保護して部品寿命を延長することが可能な履帯式走行車両の下転輪およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下転輪1は、シャフト2と、シャフト2に回転可能な状態で取り付けられるローラ組立て体3と、ローラ組立て体3をシャフト2に対して相対回転させる軸受け部16,17と、を備えている。そして、ローラ組立て体3は、第1・第2転輪セグメント11,12と、溶接部15と、リング部材4と、段差部3aと、を有している。第1・第2転輪セグメント11,12は、軸方向における端部11b,12b同士を接合することで、略円筒形状の部品となる。リング部材4は、第1・第2転輪セグメント11,12によって構成される略円筒形状の部品の外周面に形成された段差部3aの部分を覆うように、所定の隙間Sを介して取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械のような履帯式走行部を備えた履帯式走行車両に設けられた下転輪およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、不整地での作業等に使用される車両として、油圧ショベルやブルドーザ等のような履帯式走行車両が用いられている。
履帯式走行車両は、走行体の左右両側の前後位置に遊動輪と駆動輪とが配置され、この駆動輪と遊動輪との間に無端状の履帯が巻き掛けられている。そして、履帯式走行車両では、履帯における非接地面側において駆動輪と遊動輪との間に、複数の転輪が配置されている。複数の転輪は、走行体の車体フレームに支持されており、複数の転輪が設けられていることで、走行時における接地力を確保することができ、また車体を安定支持することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、軸方向に2分割された第1・第2転輪セグメントを組み合わせた状態で、その分割部分の外周を覆うようにリング状の部材を圧入嵌合させることで、第1・第2転輪セグメントを互いに溶接することなく加工を容易化して製作の合理化を図った履帯式走行車両の転輪の構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の履帯式走行車両の下転輪では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示された履帯式走行車両の下転輪では、リング部材の圧入嵌合によって第1・第2転輪セグメントを固定している。このため、転輪の取付け状態において第1・第2転輪セグメントが傾いて、片辺りが発生する場合がある。この場合には、第1・第2転輪セグメントの一部に局所的に応力が生じるため、変形する等の問題が発生するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、簡易な構成によって、転輪セグメントの溶接部分を保護して部品寿命を延長することが可能な履帯式走行車両の下転輪およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る履帯式走行車両の下転輪は、履帯の非接地面側に設けられており、履帯式走行車両の車体フレームに支持される履帯式走行車両の下転輪であって、シャフトと、略円筒状のローラ組立て体と、軸受け部と、を備えている。シャフトは、車体フレームに支持される。ローラ組立て体は、シャフトに対して回転可能な状態で挿嵌される。軸受け部は、ローラ組立て体をシャフトに対して相対回転させる。また、ローラ組立て体は、第1・第2転輪セグメントと、溶接部と、略円筒状のリング部材と、段差部と、を有している。第1転輪セグメントは、車体フレーム側に配置されている。第2転輪セグメントは、車体フレームとは反対側に配置されている。溶接部は、第1・第2転輪セグメントを軸方向における端部同士を互いに溶接して形成される。リング部材は、ローラ組立て体の溶接部外周に、第1・第2転輪セグメントの外周面と所定の隙間を介して取り付けられている。段差部は、第1・第2転輪セグメントの外周面におけるリング部材が取り付けられた部分に、周方向に沿って形成されている。
【0007】
ここでは、軸方向に分割された第1・第2転輪セグメントを溶接した溶接部分を覆うように、略円筒状のリング部材を設けている。そして、このリング部材は、第1・第2転輪セグメントの溶接部付近に形成された段差部に嵌め込まれるようにして、第1・第2転輪セグメントの外周面と所定の隙間を介して取り付けられる。
ここで、上記リング部材は、例えば、略円筒状の部材を周方向に分割した複数の部材によって構成されており、第1・第2転輪セグメントを合わせた状態で形成される段差部の部分に嵌め込まれるようにして、互いに接合される。
これにより、第1・第2転輪セグメントの外周面には、軸方向における中央部分(リング部材)と両端(第1・第2転輪セグメントの一部)とに凸部が形成されるため、シングルフランジタイプの下転輪を、容易にダブルフランジタイプの下転輪に改造することができる。
【0008】
さらに、第1・第2転輪セグメントの外周面とリング部材の内周面との間には隙間が形成されており、リング部材がローラ組立て体に対して無用な負荷をかけることがないため、第1・第2転輪セグメントの溶接部をリング部材によって保護することができるとともに、取付け状態において第1・第2転輪セグメントが傾いて片当たりし応力が局所的に発生することで変形してしまうことを防止することができる。
以上により、簡易な構成により、部品寿命が長いダブルフランジタイプの下転輪を得ることができる。
【0009】
第2の発明に係る履帯式走行車両の下転輪は、第1の発明に係る履帯式走行車両の下転輪であって、溶接部は、ローラ組立て体の軸方向におけるほぼ中央部分に配置されている。
【0010】
ここでは、ローラ組立て体における軸方向中央部分付近に、第1・第2転輪セグメントの溶接部分を設けている。
これにより、ローラ組立て体の軸方向における中央部分付近に沿って、リング部材を配置することができる。この結果、リング部材によって、ローラ組立て体の軸方向中央部分付近に凸部を設けることができるため、ダブルフランジ型の下転輪を容易に構成することができる。
【0011】
第3の発明に係る履帯式走行車両の下転輪は、第1または第2の発明に係る履帯式走行車両の下転輪であって、段差部の段差は、所定の隙間の倍以上の大きさを有している。
ここでは、リング部材が嵌め込まれる段差部の高さが、第1・第2転輪セグメントの外周面とリング部材の内周面との間に形成される所定の隙間の大きさの倍以上になるように設定している。
これにより、リング部材が径方向に偏って位置した場合でも、リング部材が段差部から外れて軸方向に移動してしまうことを回避することができる。この結果、第1・第2転輪セグメントの溶接部を、リング部材によって確実に保護することができる。
【0012】
第4の発明に係る履帯式走行車両の下転輪は、第1から第3の発明のいずれか1つに係る履帯式走行車両の下転輪であって、リング部材は、第1・第2転輪セグメントの外周面に形成された段差部に対向する内周面側に、周方向に沿って形成された凹部を有している。
【0013】
ここでは、リング部材の内周面側、すなわちリング部材における第1・第2転輪セグメントと対向する面側に、周方向に沿って凹部を設けている。
これにより、リング部材が径方向に移動した場合でも、リング部材の内周面と第1・第2転輪セグメントの溶接部分とが接触することを回避することができる。この結果、溶接部分に負荷をかけることなく、リング部材によって溶接部分を保護することができる。
【0014】
第5の発明に係る履帯式走行車両の下転輪の製造方法は、履帯の非接地面側に設けられており履帯式走行車両の車体フレームに支持される履帯式走行車両の下転輪の製造方法であって、第1・第2のステップを備えている。第1のステップでは、車体フレーム側に配置された第1転輪セグメントと前記車体フレームとは反対側に配置された第2転輪セグメントとを、軸方向における端部において互いに溶接する。第2のステップでは、第1・第2転輪セグメントを接合した状態においてその外周面における軸方向ほぼ中央部分に設けられた段差部に嵌め込まれるように、周方向に分割された第1リング部と第2リング部とを溶接する。
【0015】
ここでは、軸方向に分割された第1・第2転輪セグメントを溶接した後、この溶接部分周辺の段差部に嵌め込まれるように第1リング部と第2リング部とを溶接する。
これにより、第1・第2転輪セグメントの外周面には、軸方向における中央部分(リング部材)と両端(第1・第2転輪セグメントの一部)とに凸部が形成されるため、シングルフランジタイプの下転輪を、容易にダブルフランジタイプの下転輪に改造することができる。
【0016】
さらに、第1・第2転輪セグメントの外周面と第1・第2リング部の内周面との間には隙間が形成されており、第1・第2リング部が第1・第2転輪セグメントの外周面に対して無用な負荷をかけることがないため、第1・第2転輪セグメントの溶接部分を第1・第2リング部によって保護することができるとともに、取付け状態において第1・第2転輪セグメントが傾いて片当たりし応力が局所的に発生することで変形してしまうことを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る履帯式走行車両の下転輪によれば、簡易な構成により、部品寿命が長いダブルフランジタイプの下転輪を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る履帯式走行車両の下転輪の構成を示す断面図。
【図2】図1のX部分の拡大図。
【図3】図1の下転輪に含まれるローラ組立て体の構成を示す斜視図。
【図4】図1の下転輪の製造時の流れを示すフローチャート。
【図5】(a),(b)は、図3のローラ組立て体を組み立てる際の手順を示す断面図。
【図6】(a),(b)は、図1の下転輪を組み立てる際の手順を示す斜視図。
【図7】図1の下転輪において、履帯が傾いた際の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る履帯式走行車両の下転輪1およびその製造方法について、図1〜図7を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、以下の説明では、軸方向、周方向、および径方向という方向を用いて説明しているが、これは略円筒状の第1・第2転輪セグメント11,12の軸方向、周方向、および径方向を基準とする方向を意味している。
【0020】
本実施形態に係る下転輪1は、図1に示すように、履帯30の接地面30aとは反対側の非接地面30b側に配置されており、無端状の履帯30の非接地面30b側に設けられたリンク31と接触しながら回転する。また、下転輪1は、主として、シャフト2と、ローラ組立て体3と、第1・第2カラー13,14と、軸受け部16,17と、を備えている。
【0021】
<シャフト2>
シャフト2は、図示しない履帯式走行車両の車体フレームに取り付けられており、略円柱状の形状を有し、略円筒状のローラ組立て体3の中心に挿入されてローラ組立て体3の回転中心となる。また、シャフト2の両端には、ローラ組立て体3を挟み込むように、第1カラー13と第2カラー14とが取り付けられている。
【0022】
<第1・第2カラー13,14>
第1・第2カラー13,14は、略円筒状の形状を有しており、その中心部分にシャフト2が挿入された状態で取り付けられている。なお、第2カラー14は、ピン18によってシャフト2に対して固定されている。
<軸受け部16,17>
軸受け部16,17は、第1・第2カラー13,14の軸方向におけるローラ組立て体3と対向する側にそれぞれ設けられている。また、軸受け部16,17は、シャフト2および第1・第2カラー13,14に対して、ローラ組立て体3を相対的に回転させるために設けられている。
【0023】
<ローラ組立て体3>
ローラ組立て体3は、図1に示すように、第1転輪セグメント11と、第2転輪セグメント12と、溶接部15と、段差部3a(図2参照)と、リング部材4と、を有している。
第1転輪セグメント11は、中央孔にシャフト2が挿入される略円筒状の部材であって、図示しない車体フレーム側に配置されている。また、第1転輪セグメント11は、ローラ組立て体3における軸方向端部に相当する位置に、凸部11aを有している。凸部11aは、履帯30に固定されたリンク31が、ローラ組立て体3の軸方向にずれて外れないように、径方向に突出している。
【0024】
第2転輪セグメント12は、中央孔にシャフト2が挿入され第1転輪セグメント11とほぼ対称な略円筒状の部材であって、第1転輪セグメント11よりも車体フレーム外側に配置されている。また、第2転輪セグメント12は、ローラ組立て体3における軸方向端部に相当する位置に、凸部12aを有している。凸部12aは、履帯30に固定されたリンク31が、ローラ組立て体3の軸方向にずれて外れないように、径方向に突出している。
【0025】
溶接部15は、ローラ組立て体3の軸方向において第1・第2転輪セグメント11,12を溶接して形成される溶接ビードの部分であって、図3に示すように、互いに接合された第1・第2転輪セグメント11,12の連結部分を周方向に沿って溶接されて形成されている。
段差部3aは、図2に示すように、第1・第2転輪セグメント11,12の外周面における接合側の端部にそれぞれ形成された径小部である。よって、段差部3aは、図3に示す第1・第2転輪セグメント11,12を接合した状態では、そのほぼ中央部分に溶接部15が形成される。また、段差部3aは、図2に示すように、第1・第2転輪セグメント11,12の外周面から高さhだけ凹んだ状態となっている。
【0026】
リング部材4は、後述する第1・第2リング部21,22(図6(a)参照)を接合して形成される略円筒状の部材である。このリング部材4は、シングルフランジタイプからダブルフランジタイプの下転輪1に改造するために、互いに接合された第1・第2転輪セグメント11,12の外周面における軸方向ほぼ中央部分に形成された段差部3aに、嵌め込まれるようにして取り付けられている。これにより、リング部材4を追加するだけの簡易な構成によって、容易にダブルフランジタイプの下転輪1を得ることができる。
【0027】
なお、ここで言うダブルフランジタイプの下転輪とは、図1に示すように、一対のリンクの凸部の内側および両外側に対応する位置に、それぞれ凸部を有する下転輪を意味している。本実施形態では、上記下転輪側の凸部としては、第1・第2転輪セグメント11,12の凸部11a,12aと、リング部材4とがこれに相当する。一方、シングルフランジタイプの下転輪とは、図1に示す下転輪1の構成からリング部材4を除いて、履帯30のリンク31に対して、両側にのみ凸部を有する構成をいい、ダブルフランジよりもリンク31が軸方向に外れやすいという欠点がある。
【0028】
また、リング部材4は、図2に示すように、第1・第2転輪セグメント11,12の外周面に対して所定の隙間Sを介して、段差部3a内に取り付けられている。なお、この隙間Sは、第1・第2転輪セグメント11,12の周方向に沿ってほぼ均等な隙間を形成した状態で幅dの大きさを有している。これにより、リング部材4は、第1・第2転輪セグメント11,12の外周面に対して圧力等の外力を付加することはない。このため、第1・第2転輪セグメント11,12に対して余計な負荷がかかることを防止することができる。
【0029】
ここで、本実施形態の下転輪1では、段差部3aの段差の大きさと隙間Sの大きさとの大小関係を、以下のように規定している。
段差部3aの高さh>隙間Sの幅d×2
つまり、段差部3aの大きさは、第1・第2転輪セグメント11,12の外周面とリング部材4の内周面との間の隙間Sの大きさの倍以上になるように設定されている。
【0030】
これにより、本実施形態の下転輪1では、第1・第2転輪セグメント11,12の外周面に対して隙間Sを介して取り付けられたリング部材4が、径方向において偏って位置した場合でも、リング部材4が段差部3aを乗り越えて軸方向に移動することはない。よって、ローラ組立て体3において、リング部材4を段差部3a内に常に留めておくことができる。この結果、第1・第2転輪セグメント11,12を接合する溶接部15を、リング部材4によって保護することで、下転輪1の部品寿命を延長することができる。
【0031】
さらに、リング部材4は、図2に示すように、第1・第2転輪セグメント11,12の外周面と対向する内周面側に、凹部4aを有している。凹部4aは、溶接部15の溶接ビードから離間する方向に凹んだ形状を有している。これにより、リング部材4が溶接部15に接触して、溶接部15に余計な負荷を掛けてしまうことを防止することができる。
リング部材4を構成する第1・第2リング部21,22は、略円筒状のリング部材4を周方向において2分割して形成された部品であって、第1・第2転輪セグメント11,12の段差部3aの部分を覆うように、互いに溶接接合される(図6(a)および図6(b)参照)。
【0032】
なお、第1・第2転輪セグメント11,12の接合、第1・第2リング部21,22の接合等を含む下転輪1の製造方法については、後段にて詳述する。
【0033】
<下転輪1の製造の流れ>
本実施形態では、以上のような構成を備えた下転輪1を、図4に示すフローチャートに沿って製造する。
具体的には、ステップS1において、図5(a)に示すように、第1・第2転輪セグメント11,12を、軸方向における端部11b,12b同士を合わせるようにして連結させる。このとき、第1転輪セグメント11の端部11bに形成された段部11cと、第2転輪セグメント12の端部12bに形成された段部12cとを嵌合させることで、第1転輪セグメント11と第2転輪セグメント12とは、径方向および軸方向において位置決めされる。
【0034】
次に、ステップS2において、図5(b)に示すように、第1・第2転輪セグメント11,12の連結部分を溶接して、第1・第2転輪セグメント11,12を接合する。なお、このとき、第1・第2転輪セグメント11,12の溶接部分には、溶接ビードを含む溶接部15が周方向に沿って形成される。
次に、ステップS3において、図6(a)に示すように、第1・第2転輪セグメント11,12の軸方向中央部分に形成された段差部3aに対して、第1・第2リング部21,22を嵌め込むように連結させる。このとき、第1・第2リング部21,22の内周面と段差部3aの面との間には、所定の隙間Sが形成されている。
【0035】
次に、ステップS4において、図6(b)に示すように、第1・第2リング部21,22の連結部分を突き合わせ溶接して、第1・第2リング部21,22を接合する。なお、このとき、第1・第2リング部21,22の溶接部分には、溶接ビードを含む溶接部25が周方向に沿って形成される。
次に、ステップS5において、ステップS1〜ステップS4の工程において構成された略円筒状のローラ組立て体3の中央孔部分に、シャフト2を挿入する。
【0036】
次に、ステップS6において、ローラ組立て体3に挿入された状態において軸方向に突出したシャフト2の両端に、それぞれ第1・第2カラー13,14を取り付けてピン18等を用いて固定する。
本実施形態の下転輪1は、以上のような製造工程を経て製造されることで、簡易な構成により、シングルフランジタイプからダブルフランジタイプの下転輪1に容易に改造することができる。
【0037】
<特徴>
本実施形態の下転輪1は、上述したように、シャフト2と、シャフト2に回転可能な状態で取り付けられるローラ組立て体3と、ローラ組立て体3をシャフト2に対して相対回転させる軸受け部16,17と、を備えている。そして、ローラ組立て体3は、第1・第2転輪セグメント11,12と、溶接部15と、リング部材4と、段差部3aと、を有している。第1・第2転輪セグメント11,12は、軸方向における端部11b,12b同士を接合することで、略円筒形状の部品となる。リング部材4は、第1・第2転輪セグメント11,12によって構成される略円筒形状の部品の外周面に形成された段差部3aの部分を覆うように、所定の隙間Sを介して取り付けられている。
【0038】
これにより、リング部材4を構成として追加したことで、シングルフランジタイプの下転輪をダブルフランジタイプの下転輪1に容易に改造することができる。この結果、例えば、履帯式走行車両が林業作業等を実施している際に、図7に示すように、下転輪1に対して履帯30がリンク31ごと斜めになった場合でも、リンク31が下転輪1から脱落して履帯30が外れてしまうことを回避することができる。
【0039】
また、ダブルフランジ化するために設けたリング部材4は、段差部3a内に保持されるように段差の大きさが設定されている。このため、リング部材4は、軸方向に移動することはなく、常時、第1・第2転輪セグメント11,12の接合部分(溶接部15)を覆う位置に保持させることができる。
さらに、リング部材4は、第1・第2転輪セグメント11,12の外周面に形成された段差部3aの面から所定の隙間Sを介して設けられている。つまり、リング部材4は、段差部3aの面に接触して押圧するようなことはない。これにより、段差部3aのほぼ中央部分に形成された溶接部15に対して、リング部材4が接触して余計な応力等を生じさせることはない。
【0040】
この結果、簡易な構成によってダブルフランジ化した下転輪1を得ることができるとともに、第1・第2転輪セグメント11,12の接合部分(溶接部15)を保護することで部品寿命を従来よりも延長することができる。
【0041】
〔他の実施形態〕
上記実施形態では、リング部材4として、周方向に2分割された第1・第2リング部21,22を用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、リング部材4としては、2分割されたものに限らず、3分割以上に分割された構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の履帯式走行車両の下転輪およびその製造方法は、簡易な構成により、部品寿命が長いダブルフランジタイプの下転輪を得ることができるという効果を奏することから、履帯式走行車両に取り付けられた各種転輪およびその製造方法に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 下転輪(履帯式走行車両の下転輪)
2 シャフト
3 ローラ組立て体
3a 段差部
4 リング部材
4a 凹部
11 第1転輪セグメント
11a 凸部
11b 端部
11c 段部
12 第2転輪セグメント
12a 凸部
12b 端部
12c 段部
13 第1カラー
14 第2カラー
15 溶接部
16,17 軸受け部
18 ピン
21 第1リング部
22 第2リング部
25 溶接部
30 履帯
30a 接地面
30b 非接地面
31 リンク
d 幅
h 高さ
S 隙間(所定の隙間)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】特開2004−149111号公報(平成16年5月27日公開)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履帯の非接地面側に設けられており、履帯式走行車両の車体フレームに支持される履帯式走行車両の下転輪であって、
前記車体フレームに支持されるシャフトと、
前記シャフトに対して回転可能な状態で挿嵌される略円筒状のローラ組立て体と、
前記ローラ組立て体を前記シャフトに対して相対回転させる軸受け部と、
を備え、
前記ローラ組立て体は、
前記車体フレーム側に配置された第1転輪セグメントと、
前記車体フレームとは反対側に配置された第2転輪セグメントと、
前記第1・第2転輪セグメントを軸方向における端部同士を互いに溶接して形成される溶接部と、
前記ローラ組立て体の前記溶接部外周に、前記第1・第2転輪セグメントの外周面と所定の隙間を介して取り付けられた略円筒状のリング部材と、
前記第1・第2転輪セグメントの外周面における前記リング部材が取り付けられた部分に、周方向に沿って形成された段差部と、
を有している履帯式走行車両の下転輪。
【請求項2】
前記溶接部は、前記ローラ組立て体の軸方向におけるほぼ中央部分に配置されている、
請求項1に記載の履帯式走行車両の下転輪。
【請求項3】
前記段差部の段差は、前記所定の隙間の倍以上の大きさを有している、
請求項1または2に記載の履帯式走行車両の下転輪。
【請求項4】
前記リング部材は、前記第1・第2転輪セグメントの外周面に形成された前記段差部に対向する内周面側に、周方向に沿って形成された凹部を有している、
請求項1から3のいずれか1項に記載の履帯式走行車両の下転輪。
【請求項5】
履帯の非接地面側に設けられており履帯式走行車両の車体フレームに支持される履帯式走行車両の下転輪の製造方法であって、
前記車体フレーム側に配置された第1転輪セグメントと前記車体フレームとは反対側に配置された第2転輪セグメントとを、軸方向における端部において互いに溶接する第1のステップと、
前記第1・第2転輪セグメントを接合した状態においてその外周面における軸方向ほぼ中央部分に設けられた段差部に嵌め込まれるように、周方向に分割された第1リング部と第2リング部とを溶接する第2のステップと、
を備えた履帯式走行車両の下転輪の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158204(P2012−158204A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17239(P2011−17239)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)