説明

履物用ソール構造

【課題】より効果的な通気作用を有し、空気の導入口から履物内部に雨水などが入り込む虞の少ない履物用ソール構造を提供する。
【解決手段】ベンチュリ効果によって誘発される通気システムを備えた履物用のソールSと、ソールSの上に重ねられるインソール14とを有する履物用ソール構造であって、ソールSの通気システムは、履物の前方側面に配置された導入開口部10と、履物の後方側面に配置された排出開口部12とを備える空気通路4を有し、導入開口部10は流入空気量を調節するためのスライド式シャッタ11を備え、排出開口部12は流出空気量を調節するためのスライド式シャッタ13を備え、且つ、インソール14に、ソールSから履物の内部への空気の流入と流出を行うための複数の空気導入孔15が形成されている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベンチュリ効果によって誘発される通気性を備えた履物用のソールに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は特に、但し非限定的に、履物の分野、及び靴の構造を構成する部材の分野に適用される。
【0003】
これらの部材の主要な用途は、特に、モーターサイクリングで使用される衣類を扱うテクニカルスポーツ分野にある。
【0004】
ソール(靴底)は、履物における基本的な構成要素である。これは、地面と直接接触する部分であるため、その下面は多くの場合、下方の地面に対する履物の密着性を高めることを主な目的とした多数の突起と溝とによって特徴付けられている。
【0005】
従来技術として知られている履物のソールは、その履物のタイプがクラシックなものか、カジュアルなものか、そしてテクニカルなものか等によって、互いに形状、構造、及び、解決手段が異なっている。
【0006】
特にモーターサイクリング用のブーツには良好な内部通気性が要求される。このような要求の理由は、特に夏季において、気温が高いため、また、この種の履物のアッパー部は、一般に、レザー、レザークロス、或いは、磨耗抵抗や摩擦抵抗が高い金属やプラスチック材からなる機能部分がレザーと組み合わさった素材で形成されるため、そして、単純に気候条件や足の自然発汗のためであり、特に最後に記した要素は内部通気性の欠如によって一定のレベルに達してしまう。この欠点を回避する目的で幾つかの解決手段が提案されているが、それらの解決手段は本質的に、通路確保機能を有するエアダクトを設けるという手法、すなわち、車両が走行している際に履物の外側で生じる強い空気流を適切な形で履物の内部に導くというものである。
【0007】
空気流ダクトを適用した例は、スポーツ用履物及びクラシックな履物にも見られ、例えば、CH653533(Favini)の例では、ソールの長手方向に沿って延びた一連の互いに平行な複数の通路が設けられており、履物のヒール部の後方には、ユーザの歩行中にソールにかかる圧力の変化によって生み出される吸引作用によって作動する複数の通気孔が縦方向に配設されている。
【0008】
GB512046(Roselli)にも、やはり歩行中にソールにかかる足の圧力によって作り出される吸引作用によって作動する一連の平行な外気通気用の通路がアッパー部の側方外側に設けられたスポーツ用履物のための内部通気システムが記載されている。
【0009】
従来技術の中には、ブーツのブーツトップに空気流入開口部を設け、そこから縦通路によって、履物の内部に流入した空気を案内する技術的解決思想も存在する。
【0010】
実際のところ、US4587749(Berlese)は、ブーツトップの上部に二つの外気取り入れダクトを備えるテクニカルなモーターサイクリング用のブーツを記載している。このブーツに設けられた水平な空気入口は、ブーツトップ全体に沿って縦方向に延出し、それらの内部空気導入ポイントの内の1つはブーツの後方部の通気のためにヒール近くに設けられ、別の1つはブーツの前方部の通気のためにブーツの中間位置に設けられている。
【0011】
本発明の課題に最も類似する従来技術としてUS4640027(Berlese)に記載されたものがある。この文献に記載されているテクニカルモーターサイクリング用衣料としてのブーツに備えられた解決構造は、ブーツトップの上部に配置された二つの水平空気入口を含み、これらの水平空気入口によって導かれる空気流は、単一の縦ダクトによってブーツ内を入口に向かって流れ、ソールの高さでソールの上面に沿って延出する中央通路に出会う。ブーツの最前端部では、前記通路は、履物の側方エッジに沿って設けられた2つの戻り通路へと分岐し、これらの戻り通路は、上述した縦入口ダクトの近傍に位置する別の2つの縦通路として終端している。ソールの上方に位置する上述した通路の水平部分には内部通気孔が設けられている。すなわち、空気導入用の中央の孔と、内部空気を吸引して、引き続き前記戻り通路から追い出すために側方に設けられた2つの孔である。この文献の筆者は、前記空気入口で発生するベンチュリ効果によって、空気の排出作用をより有利にできると記載している。
【0012】
以上の考察から次のように結論付けられる。
1.一連の内部空気通路と孔とを含む通気システムを備えた履物用ソールは公知である。
2.歩行中に足からソールにかかる圧力の変化によって外気を吸引する一連の通路と、内部分散及び拡散用の通気孔とを有する通気システムを備える履物の内部構造は公知である。
3.履物の外面の空気流を内部に導入する一連の第1通路と、前記第1通路と連通し、空気の導入通路の入口で発生するベンチュリ効果によって内部の空気を排出するための第2通路とを備える空気回路で構成された通気システムを有する履物用ソールは公知である。
【0013】
空気分配用の通路と孔を備えた内部通気用のシステムを有する履物用ソールとして既に知られている幾つかの履物製品は、基本的に良好な解決手段を提供可能であることが判っている。しかし、特にモーターサイクリングの分野における公知の解決構造は、ブーツの外周を流れる自然空気流を完全に最適化し、履物の内側で内部通気を得ることの利点を達成することに成功していない。
【0014】
CH653533(Favini)及びGB512046(Roselli)に記載されている技術は、歩行中に足から履物のソールにかかる交互の圧力、すなわち、ソール内部やアッパー部の側方に位置する通路を介して外気の吸引を生み出す作用によって動作する内部通気システムを提供している。
【0015】
これに対して、US4587749(Berlese)に記載されているブーツでは、空気を履物内部に取り込むダクトが2つの局在箇所にしかなく、さらに、外気取り入れ通路が、十分な外気流の作用を受ける最適位置に設けられていないので、部分的な内部通気しか得ることができない。
【0016】
同様に、US4640027(Berlese)も、同文献に記された全ての通路の断面積は互いに等しく、したがって狭隘構造が示されていないために、ベンチュリ効果はブーツの使用中に部分的にしか実現されないので、効率的な通気システムを提供するとは考えられない。同文献に記載されたベンチュリ効果は、空気取り入れ通路の入口近くで発生し、従って、回路における空気循環と、その後のブーツからの排気とを容易にする筈であるが、ブーツの内部に設けられる取り入れ孔が履物全体の面積に対して数が少なく、しかも中央にのみ設けられているので、内部通気効果は限られたものに留まると予測される。
【0017】
最後に、前述した全ての解決構造には、空気導入口から履物内部に雨水が入り込む虞があるという欠点がある。
【0018】
【特許文献1】CH653533号公報(Favini)
【特許文献2】GB512046号公報(Roselli)
【特許文献3】US4587749号公報(Berlese)
【特許文献4】US4640027号公報(Berlese)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、上に例示した従来技術による解決構造に対して、上述した機能を全て兼ね備えつつ、さらに効果的な通気作用を有する代替解決構造を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、前述した従来技術に見られる欠点を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題及びその他の課題は、請求項に記載されている本発明の特徴構成によって達成される。
すなわち、前記欠点を解決するために、本発明による履物用ソール構造は、
ベンチュリ効果によって誘発される通気システムを備えた履物用のソールと、前記ソールの上に重ねられるインソールとを有する履物用ソール構造であって、
前記ソールの前記通気システムは、前記履物の前方側面に配置された少なくとも1つの導入開口部と、前記履物の後方側面に配置された少なくとも1つの排出開口部とを備える空気流路を有し、前記導入開口部は流入空気量を調節するためのスライド式シャッタを備え、前記排出開口部は流出空気量を調節するためのスライド式シャッタを備え、且つ、
前記インソールに、前記ソールから前記履物の内部への空気の流入と流出を行うための複数の空気導入孔が形成されている、ことを特徴とする。
【0021】
このようにして、著しい技術的進歩を伴いつつ鋭意なされた創意工夫の効果により、幾つかの目的の達成と利点とが得られた。
【0022】
第1の目的は、外気流によって生じるベンチュリ効果を完全に利用可能な適切な断面と長手方向の配置位置とを通気用の通路に与えることによって、履物自身の前方部に衝突する強い気流を、(特にテクニカルなモーターサイクリング用履物の)内部に送り込むことが可能な、優れた内部通気効果を有する履物用のソールを得ることにある。
【0023】
第2の目的は、ベンチュリ効果によって得られた空気がその速度を余り失わず、かつ、履物の内部に分散し易くすることで、履物の内部と履物自身の大半部分において十分な通気と分布とが確保されるように、内部通気ダクトの長さを可能な限り制限することにある。
【0024】
更に別の目的は、履物自身に備えられた空気開口部から水や泥、泥水などが不用意に通路に進入する可能性が回避又は減少された履物用のソールを得ることにある。
【0025】
最後に、非常に重要な目的は、少ない部品数によって経済的に構成することが可能で、且つ、通気システムの全体がソールの内部に含まれるために工業的スケールでの生産が可能な製品を得ることにある。
【0026】
結論として、ベンチュリ効果を用いることで履物内部における効率的で一定した通気性を保証する通路のシステムを含む、一体的でコンパクトな通気システムを備えた履物用のテクニカルなソール、そして、水が通気開口部から不用意に進入することを許さず、しかも経済的に構成可能な履物用のソールを得ることが可能となった。
【0027】
これらの利点及びその他の利点は、添付図面を参照しながら、好適実施例についての以下の詳細説明を読むことによって明らかになるであろう。尚、本発明は、図示されたこれら実施例詳細によって限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に説明するソール及び履物用ソール構造は、特に、テクニカルスポーツ用衣料品の分野で使用及び適用される。
図1に示す履物用のソールSは、実質的に、特定の外部輪郭を備えるプラスチック製の構造から成り、この構造の内部には空気流を得るための溝状の通路4が形成されている。
ソールSのトー部(爪先)に設けられた外部側面の輪郭形状は、履物の前部と前端部とに沿って生じる強い気流201が、前方側面部1に衝突した時に高圧流領域Aを形成し、同時に、その空気流201の一部が、ソールSの前方側面部1の前面に鏡面対称(specular)状に2つ設けられた導入開口部10の内部に向かう進入気流部分202へと分流されるように構成されている。残りの気流部分203は、ソールSの側面に沿って速度を増しながら流れ、その結果、公知のベンチュリ効果によって、ソールSの側方領域に対応して低圧流領域Bを形成する。
尚、ソールSの前方側面部1とは、ソールSの下面の略全面が接地した状態で、ソールSの外周に沿って縦に延びた側面のうち、前方に面した面を指す。
【0029】
導入開口部10には、解除機構(release)の操作によってスライド可能となり、かつ、必要に応じてユーザの手動操作によって部分開放又は閉鎖が可能な簡易シャッタ11が設けてあるので、雨天の場合などに水が浸入することを回避できる。
【0030】
導入開口部10から進入して通路4に沿って流れる空気流部分202は、先ず流入領域401と出会い、引き続き、接続領域402、横通路406の両端部へと流れ、次に、空気流は接続領域402から直線部403と出会い、その後、ソールSの後方側面部6に位置する排出開口部12に近い排出領域405の近傍に位置する曲線部404へと流れる。この場合、各排出開口部12は、ヒール領域の隣接近傍位置にあるソールSの後方側面部6に対応して、他方の排出開口部12に対して鏡面対称状に形成されている。
【0031】
通路4を通過する空気は、これら通路4のコースに沿って延出する仮想線に沿ってインソール14に形成された複数の孔15を介してインソール14を自然に通過し、靴の内部に流入し、所望の通気作用を実行する。ソールSは、このインソール14と協働して本発明による履物用ソール構造を構成している。
【0032】
気流205が排出される排出開口部12にも、解除機構(release)の操作によって作動し、例えば、雨天の場合などに、必要に応じて、ユーザの手動操作によって部分開放又は閉鎖することが可能な簡易シャッタ13が設けてある。
【0033】
横通路406は、軸芯方向の中心と爪先との中間付近の位置をソールSの軸芯方向と略直交するように延びることで、2本の通路4どうしを滑らかに接続する溝状の補助通路である。したがって、例えば右側の導入開口部10から進入して通路4に沿って流れる空気流部分202の一部または全体が、横通路406を通って左側の通路4に沿って流れるという流れの形態、或いは、逆に、左側の導入開口部10から進入して通路4に沿って流れる空気流部分202の一部または全体が、横通路406を通って右側の通路4に沿って流れるという流れの形態が可能となる。これらの空気流部分202がどのようなルートを経てどの後方側面部6から排出されるかは、走行中の進行方向に対する履物の角度や簡易シャッタ11,13の開閉度合いによって変化し得る。
【0034】
圧力差によって導入開口部10から吸引された高圧の空気は、やはりインソールに形成された孔15を通過して、靴の内部に向かって流れることができる。
【0035】
特に、排出開口部12の簡易シャッタを導入開口部10に比して小さめの開口面積で開放させた状態で使った場合は、導入開口部10から吸引された空気を、孔15から靴の内部に向かって積極的に取り入れることができる。
【0036】
履物の内部通気作用は、履物の前方で、前方側面部1に沿った高圧領域、及び、履物自身の後方側面部6の近傍に形成される低圧領域という、互いに明確に画定された2つの領域の間の圧力差によって誘発される。これら高圧領域と低圧領域の間に存在する圧力差が新鮮な空気の導入作用をもたらし、その後、ソールSの内部において、この空気は自然な通過のためにインソール14に形成された孔15によって履物の内部へと送られる。
【0037】
同時に、高温となった履物の内部の空気がインソール14に形成された孔15から流出することができる。このようにして、履物の内部には、新鮮な空気の流入と高温空気の流出とを含む連続した空気流が形成される。
【0038】
導入開口部10や排出開口部12の開口面積を調節したり、閉鎖したりするための開閉手段としては、上述のスライド式の簡易シャッタに限らず、嵌め込み栓式シャッタ、面ファスナを用いたシャッタ、揺動式シャッタなどの多数の開閉手段から選択されたものを適用することが可能である。
【0039】
インソール14には、通路4のコースに沿って延出する前記仮想線に沿って設けられた孔15の他に、前記仮想線に隣接した領域や前記仮想線から離れた領域に通気孔が設けられていても良く、さらに、インソール14の全面に多数の孔15が形成されていて、その一部が前記仮想線に沿って設けられた形態を呈しても良い。
【0040】
第2の実施例として、空気通路4の全体が直線コース形状に形成されたものを適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明によるソールの平面図
【図2】本発明によるソール及びインソールを示す分解斜視図
【図3】図2の部分拡大図
【符号の説明】
【0042】
A 高圧流領域
B 低圧流領域
S ソール
1 前方側面部
4 通路
6 後方側面部
10 導入開口部
11 簡易シャッタ
12 排出開口部
13 簡易シャッタ
14 インソール
15 複数の孔
201 空気流
202 進入気流部分
203 気流部分
401 流入領域
402 接続領域
403 直線部
404 曲線部
405 排出領域
406 横通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンチュリ効果によって誘発される通気システムを備えた履物用のソールと、前記ソールの上に重ねられるインソールとを有する履物用ソール構造であって、
前記ソールの前記通気システムは、前記履物の前方側面に配置された少なくとも1つの導入開口部と、前記履物の後方側面に配置された少なくとも1つの排出開口部とを備える空気流路を有し、前記導入開口部は流入空気量を調節するためのスライド式シャッタを備え、前記排出開口部は流出空気量を調節するためのスライド式シャッタを備え、且つ、
前記インソールに、前記ソールから前記履物の内部への空気の流入と流出を行うための複数の空気導入孔が形成されている、ことを特徴とする履物用ソール構造。
【請求項2】
前記ソールの前記各導入開口部は前記履物の外側に形成される高圧流領域の近傍に配置されており、前記各排出開口部は前記履物の外側に形成される低圧流領域の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の履物用ソール構造。
【請求項3】
複数の前記導入開口部どうしは前記ソールの長手軸心に関して鏡面対称に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の履物用ソール構造。
【請求項4】
複数の前記排出開口部どうしは前記ソールの長手軸心に関して鏡面対称に配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の履物用ソール構造。
【請求項5】
前記インソールの前記空気導入孔は、前記ソールの前記空気流路に沿って延びた仮想線に沿って配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の履物用ソール構造。
【請求項6】
前記通気システムは、前記導入開口部と前記排出開口部とを連通させる一対の通路、及び、前記一対の通路どうしを接続領域で連通させる横断通路を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の履物用ソール構造。
【請求項7】
前記通気システムの全体が前記ソールの内部に収納されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の履物用ソール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−307387(P2007−307387A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134563(P2007−134563)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(507165637)
【氏名又は名称原語表記】MALENOTTI, FRANCO
【住所又は居所原語表記】VIA BREGOLINI, 40, 30033 NOALE (VE), ITALY
【Fターム(参考)】