説明

岩塩型結晶構造を有する二酸化マンガン結晶

【課題】電池材料の高容量化を可能とする結晶構造を有し、リチウム電池材料、電子材料等として有用な、新規な結晶構造を有する二酸化マンガン結晶を提供する。
【解決手段】斜方晶系の結晶構造を有するリチウムマンガン酸化物LiMnOを出発原料として、酸又は酸化剤を使用する化学的酸化手法や、マイクロ電極システムを使用して電気化学的にリチウムイオンを脱離させることによって、岩塩型結晶構造を有する二酸化マンガン結晶を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池材料、電子材料等として有用な、新規な結晶構造を有する二酸化マンガン結晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化マンガンの結晶構造としては、α型(ホーランダイト型)、β型(ルチル型)、γ型、δ型、λ型(スピネル型)、及びラムスデライト型の結晶構造が知られており、主としてリチウム一次電池材料として使用されている。二酸化マンガンは、電池材料等として重要な化合物であり、結晶構造によりその特性に差異が生じるが、既存の結晶構造を有する二酸化マンガンにより電池をさらに高容量化することは限界レベルに達しており、新規な結晶構造を有する二酸化マンガンを開発することが求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明は、電池材料の高容量化を可能とする結晶構造を有し、リチウム電池材料、電子材料等として有用な、新規な結晶構造を有する二酸化マンガン結晶及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は鋭意検討した結果、MnOで表される組成を持ち、理想的な岩塩型の結晶構造を有する新規な二酸化マンガン結晶を開発することに成功し、本発明を完成したものである。
本発明において、岩塩型の結晶構造を有する二酸化マンガン結晶とは、図1の模式図に示すように、立方晶系、空間群Fm−3mに属し、マンガン原子が座標(0,0,0)に50%の確率で、酸素原子が座標(1/2,1/2,1/2)に100%占有した結晶構造を意味する。
【0005】
すなわち、本発明は、つぎのような構成を有するものである。
1.立方晶系、空間群Fm−3mに属する岩塩型結晶構造を有する二酸化マンガン結晶。
2.マンガン原子が座標(0,0,0)に50%の確率で、酸素原子が座標(1/2,1/2,1/2)に100%占有した結晶構造することを特徴とする1に記載の二酸化マンガン結晶。
3.二酸化マンガン結晶が単結晶であることを特徴とする1又は2に記載の二酸化マンガン結晶。
【発明の効果】
【0006】
本発明で得られる岩塩型結晶構造を有する二酸化マンガン結晶は、新規な結晶構造を有し、従来の結晶構造を有する二酸化マンガンに比較して、高い体積エネルギー密度を有する高容量の電池電極材料として使用できるものであり、実用的価値の高い材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の岩塩型結晶構造を有する二酸化マンガン結晶は、斜方晶系の結晶構造を有するリチウムマンガン酸化物LiMnOを出発原料として、化学的にリチウムイオンを脱離させることによって、化学式MnO、より正確な化学組成式の標記としてはLiMnO(0≦x<0.2)で示される化合物の岩塩型結晶として、得ることができる。
リチウムマンガン酸化物LiMnOからリチウムイオンを脱離させる方法としては、塩酸、硫酸等の酸や、I、Br 等の各種酸化剤を使用する化学的酸化手法、或いは、マイクロ電極システム等を使用して電気化学的に脱離させる方法が挙げられる。
【0008】
得られた二酸化マンガン結晶は、SEM−EDXによる形態観察、化学分析及びX線回折等により、その組成及び結晶構造を確認することができる。
本発明により得られる岩塩型結晶構造を有する二酸化マンガン結晶は、従来の結晶構造を有する二酸化マンガンに比較して、高い体積エネルギー密度を有する高容量の電池電極材料として使用できるものであり、実用的価値の高い材料である。
また、結晶構造中に残存するリチウム量で物性制御することが可能であり、電子材料或いは強相関電子系材料として有用である。
【実施例】
【0009】
(実施例1)
純度99.9%以上のLiMn粉末、純度99.9%以上の塩化リチウム(LiCl)粉末を、LiMn とLiClのモル比が1:10となるように秤量し、めのう乳鉢内で約5分間混合後、金るつぼに充填した。
次に、このるつぼをマッフル炉で、空気中で最高温度900℃まで加熱した後、毎時10〜30℃の冷却速度で冷却し、炉から取り出した後、生成物をよく水洗した。得られた化合物は、斜方晶LiMnO のほぼ単一相であり、長さ0.15mm、太さ0.02mm程度の微小な単結晶の集合体であった。
【0010】
この斜方晶LiMnO を出発物質として、顕微鏡下に電気化学測定セルを載せたシステムを用いて、選別した0.15×0.03×0.02mm角の単結晶表面にマイクロ電極を接触させて、リチウムイオンが完全に脱離可能な電位(例えば4.50V)まで0.1〜2mV/sの速度で電位掃引し、その後4.50Vで24時間以上電位を一定に保持することにより、電気化学的にリチウムイオンを脱離させた。
【0011】
得られた二酸化マンガン結晶は、出発物質とした斜方晶LiMnO の結晶形態を維持した黒色微結晶であった。この結晶について、SEM−EDX(日本電子製JSM−5400使用)による形態観察及び化学分析、単結晶X線回折(プリセッション写真法、理学電機製プリセッションカメラ使用、モリブデン封入管をX線源として使用、X線出力40kV、30mA)により、岩塩結晶構造を有し、ほぼ完全にリチウムイオンが脱離した、化学分析式Mn0.96(MnO)で示される単結晶であることが確認された。
【0012】
さらに、四軸X線回折装置(理学電機製AFC−5S使用)を用いて単結晶X線強度データを収集し、単結晶X線構造分析を行った結果、最終の信頼度因子(R値)6%で、立方晶系、空間群Fm−3mの岩塩型結晶構造を有することが確認された。2θ(Mo)=19.9〜28.5°の有意の強度を持つ25反射について四軸角を精密測定し、最小二乗法によって決定された格子定数は次の通りであった。
a=4.095±0.003(Å)
得られた岩塩型MnO単結晶の走査電子顕微鏡写真を図2に、また単結晶X線回折図形(プリセッション写真)を図3に示す。
【0013】
(実施例2)
実施例1で使用した斜方晶LiMnO の単結晶を、希塩酸(約2N)5ml中に約4時間浸漬して、化学的に酸化することによってリチウムイオンを脱離させ、実施例1と同様の結晶構造を有する岩塩型MnO単結晶を得た。希塩酸中での浸漬処理時間は、約3〜10時間の範囲で変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の岩塩型の結晶構造を有する二酸化マンガン結晶を説明するための模式図である。
【図2】実施例1で得られた岩塩型MnO単結晶の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で得られた岩塩型MnO単結晶の単結晶X線回折図形(プリセッション写真)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶系、空間群Fm−3mに属する岩塩型結晶構造を有する二酸化マンガン結晶。
【請求項2】
マンガン原子が座標(0,0,0)に50%の確率で、酸素原子が座標(1/2,1/2,1/2)に100%占有した結晶構造することを特徴とする請求項1に記載の二酸化マンガン結晶。
【請求項3】
二酸化マンガン結晶が単結晶であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化マンガン結晶。



















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−77018(P2007−77018A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300039(P2006−300039)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【分割の表示】特願2002−220845(P2002−220845)の分割
【原出願日】平成14年7月30日(2002.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年3月25日 社団法人電気化学会発行の「電気化学会第69回大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】