説明

嵩高性撥水ポリエステル混繊糸

【課題】布帛化後に撥水加工処理を施さなくても高耐久撥水性を有する撥水性嵩高性ポリエステル混繊糸を提供する。
【解決手段】自然延伸比の異なる2種以上のポリエステル未延伸糸を引き揃え、該自然延伸比の最大値未満、最小値以上の延伸倍率で延伸したポリエステル混繊糸において、下記の要件を満足する嵩高性撥水性ポリエステル混繊糸とする。
a)最も高い自然延伸比のポリエステル未延伸糸が、特定のエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維であること。
b)該エステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維が、液量500ピコリットルの純水を繊維表面に乗せたとき、単繊維と水滴との接触角が110度以上であること。
c)該エステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維がエステル反応性シリコーンをポリマー100重量部に対し2〜20重量部含有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたヌメリ感と触感と風合いを有し、長期間にわたる使用においても撥水性の低下が小さいポリエステル混繊糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、機械的強度、耐薬品性、耐熱性などに優れ、衣料用途で広く用いられている。近年、市場ニーズが多様化してきており、かかるポリエステル繊維、特にポリエステル長繊維で、高級ウールのような風合が出せないかといった要求が高くなっている。高級ウールは、選りすぐられた細い繊度の繊維からなりソフトで繊細な凹凸や滑らかなタッチを有するだけでなく、ウール本来のもつ捲縮が優れた嵩高性を出している。
【0003】
こうした嵩高性をポリエステル繊維に付与する方法として、例えば2種以上のポリエステル長繊維を組み合わせた複合糸により嵩高性を向上させることが提案されている。例えば特開昭56−140130号公報、特開2002−266181号公報に示されるように、自然延伸比の異なる2種またはそれ以上の未延伸糸を同時に延伸することにより嵩高糸を得る方法が提案されている。こうした方法により嵩高性でウールライクなポリエステル織物が開発されてきたが、近年スポーツ用、カジュアル用に用いる場合高撥水機能やよりウールタッチに近いヌメリ感の付与など、更なる高機能化、風合いの改良が求められている。
【0004】
混繊糸及びそれからなる布帛等に撥水性を付与する方法として、例えば特開平5−106171号公報等に示されるように、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する撥水性樹脂分散液等で処理して表面にこれらの樹脂を付着せしめて、撥水処理を施すことは広く行われている。しかしながら、これらの加工処理で得られた繊維、糸、布帛等には撥水性はあるものの、耐久性が低く、使用に伴って処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失い易いという欠点を有している。又十分な撥水耐久性を付与する程の量を処理すると混繊糸内部に入り込み高反発性が失われたり、布帛の風合いが硬くなるという問題点があった。そのためにポリエステル繊維のスポーツウェア分野等撥水耐久性と風合いが共に要求される分野への応用が大きく制限されていた。
こうした現状に鑑み、後撥水処理を施さずとも高撥水性でその性能が耐久性のあり、且つヌメリ感や触感に優れるポリエステル混繊糸の開発が大いに望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭56−140130号公報
【特許文献2】特開2002−266181号公報
【特許文献3】特開平5−106171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自然延伸比の異なる2種以上のポリエステル未延伸糸を引き揃え、該自然延伸比の最大値未満、最小値以上の延伸倍率で延伸、収縮することにより得られる芯鞘構造ポリエステル混繊糸であって、布帛等の繊維構造物化後に撥水加工処理を施さなくても優れた高洗濯撥水耐久性を有し、且つ優れたヌメリ感を有する嵩高性撥水性ポリエステル混繊糸を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
自然延伸比の異なる2種以上のポリエステル未延伸糸からなる芯鞘構造混繊糸であって、下記要件を満足する嵩高性撥水性ポリエステル混繊糸とする。
a)ポリエステル未延伸糸Aが、特定のエステル反応性シリコーンをポリエステル100重量部に対して2〜20重量部含有すること。
b)ポリエステル未延伸糸Aの撥水性が、液量500ピコリットルの純水を繊維表面に乗せたとき、単繊維と水滴との接触角が110度以上であること。
【0008】
さらにポリエステル未延伸糸Aの含有するエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
自然延伸比の異なる2種以上のポリエステル未延伸糸を引き揃え交絡後、最も高い自然延伸比を有するポリエステル未延伸糸Aの最大延伸値未満、最も低い自然延伸比を有するポリエステル未延伸糸Bの最小値以上の延伸倍率で延伸、収縮して得られる芯鞘構造ポリエステル混繊糸であって、最も高い自然延伸比を有するポリエステル未延伸糸Aに特定のエステル反応性シリコーンを含有させることにより、長期間にわたる使用においても撥水性の低下の小さい耐久撥水性であり、しかも良好なヌメリ感を有するポリエステル混繊糸とすることが出来、更にそれを用いた嵩高性撥水性布帛とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の本発明の混繊糸の自然延伸比の最も大なるポリエステル未延伸糸Aについて詳述する。
本発明においては、混繊糸の一成分である自然延伸比の最も大なるポリエステル未延伸糸Aに用いるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらを主体としたポリエステルに特定のエステル反応性シリコーンを含有するポリエステルであることが必要である。
【0011】
ここでエステル反応性シリコーンとしてはポリエステル成分の酸成分とエステルを形成する官能基を有するものを指し、ポリマーに共重合する上で2官能性エステル反応性シリコーンが好ましく、具体的には下記式(1)で示されるエステル反応性シリコーンが好ましく挙げられる。
【0012】
【化1】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]
【0013】
更に、エステル反応性シリコーンを含有するポリエステルとは、エステル反応性シリコーンがポリエステルに対して化学結合により分子鎖に取り込まれて共重合されている状態であっても、ポリエステルとは化学結合せずブレンド状態で存在する状態、又両方の状態であっても良い。共重合していない成分はブレンド状態でポリエステル組成物中に安定に存在し、繊維化での悪影響を及ぼさない。これはエステル反応性シリコーン共重合ポリエステルが未反応のエステル反応性シリコーン部分を安定化するのではないかと推定している。
【0014】
上述のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルを得る方法としては、公知の任意の方法で合成すればよい。例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸の場合、テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させる方法と、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応や又はテレフタル酸とアルキレンオキサイドを反応させる方法によってテレフタル酸のグリコールエステルを生成させる第一段の反応を行い、引続いて重合触媒の存在下に減圧加熱して所望の重合度になるまで重縮合させる第二段の反応によって製造する方法があるが、どちらの方法でも可能である。エステル反応性シリコーン化合物の添加時期は、共重合の割合を満足させる観点から、このポリエステルの重縮合反応の前から重縮合反応の終了以前に行なうのが好ましく、複数回に分けて添加しても良い。そして、この添加時期や添加量によって上記共重合しているエステル反応性シリコーン化合物の割合を調整することができる。
【0015】
ここで該エステル反応性シリコーン成分は2〜20重量%含有する必要がある。2重量%未満では、十分な撥水性が得られず、20重量%を超える場合には、繊維としての強度が低下するために長期間の製糸ランニング時に安定した生産が困難になる。
【0016】
更にエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲であることが好ましい。20%未満ではブレンド状態のエステル反応性シリコーンのポリエステル中への分散性が悪化し好ましくなく、50%を超える場合はポリエステル繊維の強度が低下し紡糸性が好ましくない。好ましくはポリエステルと共重合しているものの比率がエステル反応性シリコーンの全重量に対して25〜40%重量である。
【0017】
反応の途中若しくは反応終了後のいずれかにおいて安定剤を添加することも好ましい。その安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート等の酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、若しくはポリリン酸等のリン化合物、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましい。
【0018】
得られたポリエステルは公知の方法により製糸する。例えば、得られたエステル反応性シリコーン含有ポリエステルを溶融状態で繊維状に押出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、熱処理する方法、1000〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸する方法、5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法などが好ましく挙げられる。
得られたエステル反応性シリコーン含有ポリエステル未延伸糸Aは液量500ピコリットルの純水に対する単繊維の接触角が110度以上好ましくは115度以上である。110度未満の場合では、布帛にした場合に十分な撥水性が得られない。
【0019】
また、エステル反応性シリコーンを含有させることにより繊維に様々な撥水性とともに他の特性を付与できる。特に式(1)で表されるエステル反応性シリコーンを含有させることにより、繊維化後に独特のヌメリタッチを付与することが出来る他に、エステル反応性シリコーン共重合により、繊維形成時にポリエステルの非晶部分の配向を乱す効果が大きく、濃染化が可能になる。これらの効果は片末端にエステル反応性基があるためポリエステルに共重合したときポリオルガノシロキサン部分はポリマー主鎖からペンダント状に分岐して存在することにより、より大きくなるものと推定している。
【0020】
また、エステル反応性シリコーン含有ポリエステルに微細孔形成剤を導入したポリマーとして、事後のアルカリ減量によりフィラメント表面にミクロボイドを形成させて、表面凹凸による単繊維の接触角向上、更には染色での濃色、深色化効果も発現させることも好ましく用いられる。
【0021】
ポリエステル未延伸糸Aの断面形状は、用途等に応じて任意の形状とすることができ、例えば円形の他、三角、偏平、星型、V型、楔型 等の異形断面またはそれらの中空断面が例示できる。
ポリエステル未延伸糸Aの単繊維繊度は6dtex以下が好ましい。6dtexを超える場合には、嵩高性や反発性は良好であるがソフト性や繊細な風合いが得られず好ましくない。一方、単繊維繊度の下限については特に制限はないが、実用的に繊維形成可能で、かつ布帛の耐摩耗性を著しく損なわないという観点から、0.1dtex以上が好ましい。
【0022】
次に、本発明の混繊糸について詳述する。
本発明の混繊糸は、自然延伸比の異なる2種又はそれ以上のポリエステル未延伸糸を同時に、最も低い自然延伸比を有する未延伸糸Bの自然延伸比以上、最も高い自然延伸比を有する未延伸糸Aの自然延伸比以下の延伸倍率で延伸されたものである。このように延伸して得られる混繊糸は、その最も低い自然延伸比を有する未延伸糸Bは引き伸ばし後の弾性回復で最も大きく収縮し、一方最も高い自然延伸比を有する未延伸糸Aは引き伸ばし後の弾性回復による収縮は最も小さく、その結果、最も高い自然延伸比を有する未延伸糸Aが最も低い自然延伸比を有する未延伸糸Bの周囲に張出して大きな嵩高性を呈することになる。また、得られた混繊糸を熱処理すると、その最も低い自然延伸比を有する延伸糸Bがより大きく収縮するため、自然延伸比の高い未延伸糸Aの撥水性繊維がさらに張出すことになり、嵩高性、撥水性は一層向上することとなる。
【0023】
なお、未延伸糸Bの自然延伸比は1.1〜1.7倍、好ましくは1.3〜1.5倍の範囲が適当であり、未延伸糸Aの自然延伸比は2.0〜6.0倍が好ましく、且つ未延伸糸Bの自然延伸比の1.5倍以上、好ましくは1.7倍以上であることが適当である。また、本発明の目的を阻害しない範囲内であれば、中間の自然延伸比を有するポリエステル未延伸糸を1種以上併用してもよいが、あまりに多くなりすぎると、前記最も低い自然延伸比を有する未延伸糸又は最も高い自然延伸比を有する未延伸糸の割合が少なくなって本発明の効果が低下しやすいので、混繊糸を基準として50重量%以下にとどめるのが好ましい。
未延伸糸A,B等の自然延伸比は、溶融紡糸における紡速、ポリマー種、繊度、断面形状等を調整することにより調整することができるが紡速を調整することが好ましい。
【0024】
次に、本発明においては、自然延伸比の異なる2種又はそれ以上の未延伸糸は引き揃えられ、延伸前に空気噴射ノズルを通して空気交絡処理が施されることが好ましい。空気の噴射方法としては、走行糸と直角方向に当てる方法、走行糸の進行方向に沿って当てる方法等いずれの方法も採用できるが、前者によれば比較的光沢に優れた製品、後者によれば比較的ソフトな風合いの製品が得られるので、目的に応じて適宜選択すればよい。しかしながら、該交絡処理において、あまりにオーバーフィード率を大きくしすぎるとループが多数発生して布帛製造時の工程安定性が損なわれるようになるので、オーバーフィード率は10%以下とするのが望ましい。また、自然延伸糸の異なる未延伸糸間にオーバーフィード率差を設けてもよいが、この場合、あまりに差を付けすぎるとループが多数発生するようになるので、通常は同一のオーバーフィード率が採用される。
【0025】
次に、自然延伸比の異なる未延伸糸の割合は、目的に応じて適宜選択設定することができるが、最も低い自然延伸比を有する未延伸糸B及び最も高い自然延伸比を有する未延伸糸Aの割合は、夫々が20%以上であることが好ましい。特に自然延伸比の高い方の割合が多い方が好ましく、(最も低い自然延伸比を有する未延伸糸B)/(最も高い自然延伸比を有する未延伸糸A)の割合でいうと30/70〜45/55の範囲が適当である。
【0026】
なお、本発明の混繊糸においては、自然延伸比が前述の割合の範囲内にある未延伸糸を併用してもよく、また、本発明の目的を損なわない範囲内で他の繊維、例えば金属メッキ繊維やカーボン粒子混入繊維を複合して導電性を付与してもよいが、他の繊維を併用する場合にはその割合は全体の30%以下にしないと、嵩高性が低下する傾向にある。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
測定方法は下記の通り行った。
(1)強度
20℃、65%RHの雰囲気下で引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強度を測定した。測定数は10とし、その平均をそれぞれの強度とした。
【0028】
(2)接触角
1本の繊維上に500pLの蒸留水を滴下したときの繊維と水滴とのなす角度を測定した。
【0029】
(3)ヌメリ感
熟練した5人のパネラーによる官能評価で、全員が極めて良好と判定したものを(優)、3人以上が良好と判断したものを(可)、3人以上が不良と判定したものを(不良)と、三段階にランク付けした。
【0030】
(4)嵩高性の評価
以下の測定方法にしたがった。すなわち、混繊糸を検尺器(周長1.125m)にて120回転分とって綛を作り、これを2つ折りにしたサンプルの一端に、その綛の重量の3倍の荷重を吊るして乾熱195℃で5分間熱処理した後冷却した。次いで該糸条をボックス(高さ2.5cm、幅1.0cm、長さ10cm、底面0.5cmの曲率半径)に充填し、蓋(綛の3倍の重量)を荷重させ、その時の体積(Vcm)と綛(混繊糸条)の重量(Wg)とから以下の式により算出した。
嵩高性(cm/g)=V/W
この値が50以上のとき嵩高性「良」とし、50未満のとき「不良」とした。
【0031】
(5)含有シリコーン化合物量:
H−NMR法にてポリエステル組成物中に含有している変性シリコーン量を定量した。更にポリエステル試料を適切な溶媒に溶解させて貧溶媒を加えて再沈殿操作を行い、濾過により得られた固形物についてもH−NMR測定を行った。後者の再沈殿操作後の測定結果の値からポリエステル中に共重合している変性シリコーン化合物の量を定量し、前者の再沈殿前の測定結果の値と、後者の測定結果の値との差からブレンドしているシリコーン化合物量を定量した。また変性シリコーン化合物の化学構造においてはブレンドしている成分については再沈殿操作の溶媒中の成分を回収成分を、共重合されている成分については再沈殿後のポリエステルを加水分解後の残渣成分を測定することにより行うことができる。
【0032】
(6)紡糸性:
紡糸工程における紡糸性について、以下の4段階評価で表した。
◎:毛羽発生・糸切れが無く、非常に良好。
○:やや毛羽の発生があるものの糸切れが無く良好。
△:やや毛羽の発生があり、糸切れが発生(1〜2回/hr)
×:毛羽が発生・糸切れが多発(3回/hr以上)
これらの評価の中で○以上が実用的に使用可能な評価結果である。
【0033】
(7)撥水性:
各実施例および比較例で得られたポリエステル繊維を経糸及び緯糸に使用して、平織物を製織し、この布帛を常法により精錬、乾燥したのち、180℃でヒートセットした。また、その一部を常法により減量率が30重量%となるようにアルカリ減量した。このようにして得られたアルカリ減量後の布帛を、JIS−L−1092(スプレー法)(1992)により測定した。その測定後の布帛の状態から該JIS規格に記載の以下の基準で0〜100点の点数で評価を行った。
100点:表面に湿潤や水滴の付着が無いもの。
90点:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの。
80点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
70点:表面の半分以上に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの。
50点:表面全体に湿潤を示すもの。
0点:表面及び裏面が全体に湿潤を示すもの。
【0034】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル反応性シリコーン化合物(一般式式(1)のRがエチル基、n=9である化合物チッソ株製 FM−DA11)10重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温して、生成するメタノールを系外に留出しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部及び重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応して得たポリエステルを溶融温度285℃で、公知の溶融紡糸法により紡糸速度1000m/分で捲取り、自然延伸比2.4、150dtex36フィラメントの未延伸糸Aを得た。エステル反応性シリコーンの含有量、共重合率、自然延伸率、強度、嵩高性、ヌメリ感、紡糸性は表1の通りである。
【0035】
一方、固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートを紡糸口金から溶融吐出し、該吐出糸条を冷却固化させた後に油剤を付与し、3300m/分の速度で引取って、自然延伸比が1.3、130デシテックス/36フィラメントの未延伸糸Bを得た。
得られた未延伸糸Aと未延伸糸Bとをそれぞれ解舒して引きそろえ、交絡用空気ノズルで混繊交絡し、次いで予熱ローラー温度120℃、熱セットヒーター(非接触式)温度230℃、延伸倍率1.67倍、延伸速度800m/分でワインダーに捲取り、168デシテックス/72フィラメントの糸条を得た。
この混繊糸から鞘糸のシリコーン含有繊維を抜き取り、単繊維の接触角を測定したところ、120°であった。
【0036】
得られた混繊糸を1,200T/Mに加撚した撚糸を経緯に用い、2/2の綾組織で、生機密度経42.2本/cm、緯21.9本/cmで製織した。この生機を100℃で20秒予備リラックスし、サーキュラーリラクサーでトップ温度120℃で40分リラックスし、風乾後プレセットで充分経糸、緯糸を収縮させてから、公知の方法により水酸化ナトリウム溶液で13重量%のアルカリ減量を行った。次いで、液流染色機で分Dianix Black HGFS(三菱化成工業製)15%owfで135℃、60分間染色を行い、水酸化ナトリウム1g/l及びハイドロサルファイト1g/lを含む水溶液で70℃20分還元洗浄して黒染布を得た。
得られた染色布には撥水性があり、また、L値9の黒発色性を有し、しかも好ましい張り腰、高反撥性、嵩性を兼備し、ウールに似たヌメリ感を呈する織物であった。
評価結果を表1に示す。
【0037】
[実施例2]
実施例1において自然延伸糸の低い未延伸糸もエステル反応性シリコーンを10重量%共重合したポリエステルとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。
【0038】
[実施例3]
実施例1において自然延伸糸の高い未延伸糸をエステル反応性シリコーンを2重量%添加したポリエステルとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。
【0039】
[実施例4]
実施例1において自然延伸糸の高い未延伸糸をエステル反応性シリコーンを20重量%添加したポリエステルとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。
【0040】
[実施例5]
実施例1において自然延伸糸の高い未延伸糸を72フィラメントとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。
【0041】
[比較例1]
実施例1において自然延伸糸の高い未延伸糸としてエステル反応性シリコーンを1重量%添加したポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。
【0042】
[比較例2]
実施例1において自然延伸糸の高い未延伸糸としてエステル反応性シリコーンを30重量%添加したポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。本例では、エステル反応性シリコーンの添加量が多すぎ、重合工程で安定にチップ化できない、製糸中に断糸が多い等の不具合があった。
【0043】
[比較例3]
実施例1において混繊糸を構成する糸のいずれにもエステル反応性シリコーンを添加しないポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は実施例1と同様にした。本例では、繊維中にシリコーンが存在しないことにより、撥水性・ヌメリ感に劣る織物となった。
【0044】
[比較例4]
実施例1において自然延伸糸の高い未延伸糸の自然延伸比を1.5としたこと以外は実施例1と同様にした。本例では、引き伸ばし後の弾性回復差が発現しないことにより、嵩高性に劣る織物となった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
嵩高性が良好で高耐久撥水性を有するポリエステル布帛として、スポーツ用、カジュアル用、紳士婦人スーツ等の衣料用として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然延伸比の異なる2種以上のポリエステル未延伸糸からなり、最も高い自然延伸比を有するポリエステル未延伸糸Aの最大延伸値未満、最も低い自然延伸比を有するポリエステル未延伸糸Bの最小値以上の延伸倍率で延伸、収縮して得られる芯鞘構造ポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足する嵩高性撥水性ポリエステル混繊糸。
a)ポリエステル未延伸糸Aが、下記一般式で表されるエステル反応性シリコーンをポリエステル100重量部に対して2〜20重量部含有すること。
b)ポリエステル未延伸糸Aの撥水性が、液量500ピコリットルの純水を繊維表面に乗せたとき、単繊維と水滴との接触角が110度以上であること。
c)ポリエステル未延伸糸Bの自然延伸比が1.1〜1.7倍の範囲であり、ポリエステル未延伸糸Aの自然延伸比が2.0〜6.0倍の範囲で且つポリエステル未延伸糸Bの自然延伸比の1.5倍以上であること。
【化1】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]
【請求項2】
該ポリエステル未延伸糸Aの含有するエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲である請求項1記載の嵩高性撥水性ポリエステル混繊糸。

【公開番号】特開2009−7684(P2009−7684A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167682(P2007−167682)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】