説明

工作機械における回転割出し装置

【課題】回転割出し装置で、割出し後の回転軸の保持を確実かつ安定したものとする。
【解決手段】ハウジング2内で回転自在に設けられ端部に円テーブル3が固定される回転軸4と、回転軸4を含む回転体5に対し回転軸4の半径方向へ押圧力を作用させて回転体5の割出し後の回転角度位置を保持するクランプ装置6とを含む、工作機械の回転割出し装置1において、クランプ装置6は、ハウジング2内で回転軸4の軸線の方向に変位可能に設けられ、側面にテーパ面8が形成されたピストン部材7と、回転体5とピストン部材7との間に介装され、ピストン部材7の変位に伴ってピストン部材7から回転軸4の回転軸線の方向への押圧力を受けると共に、その押圧力を回転軸4の半径方向に変換して回転体5へ作用させる押圧力変換手段9と、ピストン部材7を押圧力変換手段9により押圧力を発生させる方向へ付勢する付勢手段10とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械において、円テーブルを回転させ、円テーブルの上のワークを所定の回転角度に割出すための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ディスク型のクランプ装置を開示しており、また特許文献2は、スリーブ型のクランプ装置を開示している。
【0003】
一般に、ディスク型のクランプ装置は、回転軸に対しその半径方向に延びる様にして固定されたクランプディスクを有しており、クランプディスクの外周側端部をハウジングのクランプ面とピストン部材等とによって挟持(クランプ)することにより、回転軸の割り出された角度位置を保持する構成となっている。
【0004】
この種のディスク型のクランプ装置では、薄板状のクランプディスクの外周側端部をクランプして角度位置を保持するものであるため、ワークの加工時において、回転軸に対し回転方向の負荷が掛かることに伴い、クランプディスクの回転軸に対する固定位置とクランプ位置との間の部分に撓みが生じる場合がある。その結果、回転軸の割り出された角度位置にずれが生じ、加工精度の低下を招いてしまう。
【0005】
スリーブ型のクランプ装置は、外周部に溝を設けて薄肉部を形成したクランプスリーブをハウジングと回転体との間に設け、圧油等の作動流体の圧力によって薄肉部を縮径方向へ変形させることにより、回転体に対し回転軸の半径方向へ押圧力を作用させ、回転体の割り出された角度位置を保持する構成となっている。従って、クランプスリーブの薄肉部は回転軸の軸線方向へ延在するように設けられる。
【0006】
スリーブ型のクランプ装置では、ハウジングとクランプスリーブの溝とで形成される圧力室に供給される作動流体の圧力が、薄肉部だけでなく、ハウジングに対しても直接的に作用する。この圧力は、ハウジングに対し回転軸の半径方向へ向けて作用し、場合によってはハウジングに撓みが生じてしまう。そして、ハウジングに撓みが生じると、軸受等を介してハウジングに支持されている回転軸に傾きが生じ、加工精度が低下してしまうことになる。
【特許文献1】特開平10−220425号公報
【特許文献2】特開平2002−103181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、前述の工作機械用の回転割出し装置において、クランプ装置による回転軸の保持を確実かつ安定したものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題のもとに、本発明は、回転軸の周りに、変位可能な環状のピストン部材を配置し、ピストン部材のテーパ面に押圧力変換手段を接触させ、ピストン部材の動きを回転体に対する押圧力に変換し、この押圧力により回転体を確実かつ安定に保持するようにしている。
【0009】
具体的に記載すると、請求項1に係る発明は、ハウジング(2)内で回転自在に設けられると共に端部に回転駆動対象部材(3)が固定される回転軸(4)と、該回転軸(4)を含む回転体(5)に対し回転軸(4)の半径方向へ押圧力を作用させて回転体(5)の割り出された回転角度位置を保持するクランプ装置(6)とを含む、工作機械における回転割出し装置(1)を前提としている。
【0010】
ここで回転割出し装置(1)は、回転テーブル装置に限らず、ワークを加工するための工具が装着されるスピンドル(主軸)を回転駆動する装置(スピンドルユニット)を支持すると共にスピンドルユニットを旋回駆動する装置(主軸ヘッド)や、主軸ヘッドを工作機械のZ軸と平行な軸線周りに回転駆動する装置を含む。前者の場合は、スピンドルユニットが回転駆動対象部材に相当し、後者の場合は、主軸ヘッドが回転駆動対象部材に相当する。なお、前記回転体(5)は、回転駆動対象部材(3)、回転軸(4)の他、回転軸(4)と一体的に回転するすべての部分を含むものとする。
【0011】
そして、請求項1に係る発明は、前記の回転割出し装置(1)において、前記クランプ装置(6)は、前記ハウジング(2)内で前記回転軸(4)の回転軸線の方向に変位可能に設けられたピストン部材(7)であってそのクランプ位置側の側面にテーパ面(8)が形成されたピストン部材(7)と、前記回転体(5)と前記ピストン部材(7)との間に介装され、前記ピストン部材(7)の変位に伴って前記ピストン部材(7)から前記回転軸(4)の回転軸線の方向への押圧力を受けると共に、その押圧力を前記回転軸(4)の半径方向に変換して前記回転体(5)へ作用させる押圧力変換手段(9)と、前記押圧力変換手段(9)が前記回転軸(4)の半径方向へ押圧力を発生させる方向へ前記ピストン部材(7)を付勢する付勢手段(10)とを含む、ことを特徴とする。
【0012】
請求項2おいて、前記押圧力変換手段(9)は、前記ピストン部材(7)と前記回転体(5)との間において、前記回転軸(4)の円周方向に亘って複数設けられる押圧部材(11)を含む、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3において、前記押圧部材(11)は、前記回転軸(4)の軸線方向に延在するように設けられた梃子部材(12)であって、該梃子部材(12)は、一端部に形成された力点部(13)おいて前記ピストン部材(7)の前記テーパ面(8)に接触すると共に前記ハウジング(2)に対し回動可能に係止される支点部(15)および前記回転軸(4)と対向する作用点部(14)を有し、前記力点部(13)から前記支点部(15)までの距離が前記支点部(15)から前記作用点部(14)までの距離よりも長くなるように形成されている、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4において、前記クランプ装置(6)は、前記押圧力変換手段(9)と前記回転体(5)との間に、ハウジング(2)に対し相対回転不能に固定されたクランプ部材(16)であって前記回転体(5)の押圧力を受ける面と対向すると共に前記回転軸(4)の半径方向に変形可能なリング状の薄肉円筒部(17、50)を有するクランプ部材(16)を有する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項5において、前記ピストン部材(7)の前記テーパ面(8)の前記回転軸線に対する角度が45°よりも小さく形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る回転割出し装置(1)は、従来のディスク型のクランプ装置のように、回転軸の半径方向に延在するクランプディスクをその外周側端部でクランプするものではなく、また、スリーブ型のクランプ装置のように、ハウジングに対し回転軸の半径方向に作動流体の圧力が直接作用するものでもない。このため、請求項1に係る発明によると、割り出された角度位置のずれや回転軸(4)の傾き等が発生すること無く、加工精度の低下を防止することができる。特に、押圧力変換手段(9)がピストン部材(7)の変位に伴ってそのテーパ面(8)から押圧力を受け、この押圧力を回転軸(4)の半径方向へクランプ力として作用させるから、クランプに必要な充分なクランプ力が確保でき、割出し角度位置のずれのない状態で回転軸(4)が正確にクランプ状態とできる。
【0017】
請求項2によると、ピストン部材(7)と回転体(5)との間において、回転軸(4)の円周方向に亘って複数の押圧部材(11)が設けられるため、回転軸(4)の円周にクランプ力を均等に作用させることができる。
【0018】
請求項3によると、押圧部材(11)が梃子部材(12)によって構成され、力点部(13)から前記支点部(15)までの距離が前記支点部(15)から前記作用点部(14)までの距離よりも長くなるように形成されていおり、ピストン部材(7)から梃子部材(12)に作用する押圧力が増力されて回転体(5)へ作用するものとなるため、これにより、強固なクランプ力を得ることができる。
【0019】
請求項4によると、ハウジング(2)に対し相対回転不能に固定されたクランプ部材(16)が設けられ、押圧力変換手段(9)と回転体(5)との間に、クランプ部材(16)と一体で変形可能なリング状の薄肉円筒部(17)が介在しているから、回転体(5)の被押圧面に対しほぼ均等にクランプ力を作用させることができ、また薄肉円筒部(17)が回転体(5)の被押圧面に摩擦的に当接するから、押圧力変換手段(9)に回転軸(4)から回転方向の力が作用せず、クランプ動作が安定する。
【0020】
請求項5によると、ピストン部材(7)のテーパ面(8)の回転軸線に対する角度を45°よりも小さく形成することにより、ピストン部材(7)から梃子部材(12)に作用する押圧力が増力され、さらに強固なクランプ力を得ることができる。即ち、押圧力変換手段(9)をこれら2つの増力機構を組み合わせて構成されるものとすることにより、負荷の高い加工にも対応できる強固なクランプ力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1ないし図4は、本発明に係る工作機械における回転割出し装置1を回転テーブル装置に適用した代表的な例を示している。これらの図1ないし図4において、工作機械における回転割出し装置1は、ハウジング2内で回転自在に設けられる回転軸4と、この回転軸4を含む回転体5と、この回転体5に対し回転軸4の半径方向へ押圧力を作用させて、回転体5の割り出された回転角度位置を保持するクランプ装置6とを含む。
【0022】
回転軸4は、一例として中空体であり、ハウジング2の収容孔25の内部で回転自在に設けられ、その端部に回転駆動対象部材としての円テーブル3が相対回転不能に取付けられている。この円テーブル3は、ブロック状のハウジング2の1つの面に対して平行に配置されており、中央の孔の部分で回転軸4に嵌まり、回転体5の一部の軸受スリーブ18に複数の取付けボルト19により固定されている。
【0023】
ここで回転体5は、回転駆動対象部材としての円テーブル3、回転軸4、軸受スリーブ18、ウォームホイール20の他、回転軸4と一体的に回転するすべての部品を含むものとする。なお、軸受スリーブ18は、回転軸4の外周に嵌まり、回転軸4のボス部23に対し、軸受24の内輪をスペーサ36などとともに挟み込むようにして、複数の取付けボルト22によって取付けられている。このようにして、軸受24は、その内輪の部分で回転軸4に対してボス部23と軸受スリーブ18との間に保持されている。また、軸受24はハウジング2の収容孔25の内部に形成されている段部26に対し、必要に応じて設けられるスペーサ42などを介し、収容孔25の開口面に取付けボルト28によって取付けられたケース部材27によって押さえ付けられており、ハウジング2に対して動き止めされている。
【0024】
また、上記した回転軸4のボス部23には、ウォームホイール20が複数の取付けボルト29により取付けられている。このウォームホイール20は、ハウジング2の収容孔25の内部に収容され、ハウジング2に対し回転自在に支持されたウォーム21と噛み合っている。このウォーム21は、図示しないモータなどの回転駆動源よって回転駆動される。そして、ウォーム21が回転駆動されることに伴い、ウォームホイール20とウォーム21との間の大きい減速比によってウォーム21の回転が減速されてウォームホイール4に伝達され、それによって回転軸4が所定の方向に回転されて、回転体5、特に、円テーブル3が所定の回転角度位置に割り出される。
【0025】
このように、回転伝達経路は、入力側のウォーム21から出力側のウォームホイール20となっている。この回転伝達経路が逆方向になったとき、つまりウォームホイール20からウォーム21への回転は、ウォーム歯車機構(ウォームホイール20・ウォーム21)のセルフロック作用によって伝達されない。この自動止まり作用は、ウォームホイール20からウォーム21へと回転力を受けたときに自動的に発生するが、ウォームホイール20とウォーム21とのバックラッシなどの存在により、回転体5の割り出された回転角度位置を正確かつ確実に保持するものとはならない。このため、回転体5の割り出された回転角度位置を正確かつ確実に保持するために、回転割出し装置1にクランプ装置6が付設される。
【0026】
上記のように、回転体5、すなわち回転テーブル3、回転軸4、軸受スリーブ18、ウォームホイール20などは、ハウジング2の内部で収容され、ウォーム21により駆動されるようになっている。なお、ウォームホイール20側で、回転軸4の外周側と収容孔25の内周側の開口面は、ボルト31によりハウジング2に取付けられたリング状のカバー30により塞がれ、リング状のカバー30と回転軸4との間は、オイルシール32によって閉じられている。
【0027】
そして、クランプ装置6は、一例として常時アンクランプ式であり、ピストン部材7、押圧力変換手段9、クランプ部材16および付勢手段10を含む。ピストン部材7は、環状体であり、回転体5、特に軸受スリーブ18の周りを取り囲むように、ハウジング2と環状のケース部材27とで形成される圧力室33の内部で、回転軸4の回転軸線の方向にのみ変位可能に設けられる。
【0028】
なお、この例でピストン部材7は、上記の通り、環状体(リング状)であり、これに対応して圧力室33も環状(リング状)の空間となっているが、それらは、リング状のものに限定されない。ピストン部材7は、押圧部材11に対応する位置で、回転軸4の円周方向に独立して複数設けられたものでもよく、この独立のピストン部材7に対応して、圧力室33もピストン部材7ごとに独立して複数設けられる。ケース部材27は、ピストン部材7の内周位置にあって既述の通り取付けボルト28により収容孔25の段部に取付けられている。
【0029】
ピストン部材7は、圧力室33の内部に納まり、外周面で収容孔25の内壁にシール材を介在させて摺動自在となっており、また内周面でケース部材27の外壁に対してシール材を介在させて摺動自在となっている。ピストン部材7は、ピストン部材7と支え部材40との間に挿入した圧縮ばねなどのばね部材43によって常に後退方向、すなわち常時アンクランプ方向に付勢されており、付勢手段10からの作動流体34の付勢力により前進方向、すなわちクランプ方向へ変位する。
【0030】
図1において、付勢手段10の作動流体34は、流体ポート38、流体流路39を経て圧力室33の後退位置側の内部に供給される。また、支え部材40は、円テーブル3とハウジング2との間に位置し、ハウジング2に取付けボルト41によって取付けられ、円テーブル3の面に対してシール材などを押し当てて、ハウジング2と円テーブル3との隙間を塞ぐ蓋の役目もしている。
【0031】
なお、ケース部材27は、環状のクランプ部材16と一体となっている。また、クランプ部材16は、取付けボルト35によってハウジング2と一体のケース部材27に対し相対回転不能に固定されている。このクランプ部材16は、回転軸4の半径方向に変形可能なリング状のものとして一体的に形成されている薄肉円筒部17を有し、この薄肉円筒部17を軸受スリーブ18のフランジ部37の外周面に対して非接触の状態で対向させた配置となっている。軸受スリーブ18のフランジ部37の外周面は、薄肉円筒部17の変形時に、薄肉円筒部17に接し、回転体5をクランプ状態とするための押圧力(クランプ力)を受ける面となる。
【0032】
ピストン部材7は、クランプ位置側の側面(内周面)に、クランプ位置側の頂部(図面上側)を面取りするようなかたちでテーパ面8を形成している。なお、この例では、テーパ面8は、回転体5の回転軸線に対する角度が45°よりも小さくなるように形成されている。
【0033】
押圧力変換手段9は、軸受スリーブ18とピストン部材7との間に介装され、ピストン部材7の変位に伴って、ピストン部材7から回転軸4の回転軸線の方向への押圧力を受けると共に、その押圧力を回転軸4の半径方向の中心向きに変換して軸受スリーブ18に作用させ、回転軸4を回り止めして回転軸4をクランプ状態とする。
【0034】
この例において、押圧力変換手段9は、ピストン部材7と回転体5との間において、回転軸4の円周方向にわたって複数(回転軸4の円周でのバランスを考えて3以上)設けられる押圧部材11を含む。具体的には、図示の例では、押圧部材11は、回転軸4の軸線方向に延在するように配置された12個のレバー形の梃子部材12である。
【0035】
梃子部材12は、図3および図4に拡大表示するように、ピストン部材7のテーパ面8に接触するように一端部に形成された力点部13、ハウジング2と一体の支え部材40に対し回動可能に係止される支点部15、およびクランプ部材16の薄肉円筒部17に当接して間接的に回転体5(回転軸4)に対し押圧力(クランプ力)を作用させる作用点部14を有している。力点部13は、直接にテーパ面8に接触し、支点部15は、支え部材40のジャーナル状窪みに直接に係止されている。これに対して、作用点部14は、薄肉円筒部17の外周面にあたって、回転体5の一部としての軸受スリーブ18に間接的に当接し、回転体5(回転軸4)にクランプ力を作用させる。なお、薄肉円筒部17(クランプ部材16)は省略することができる。薄肉円筒部17が省略されているとき、作用点部14は、回転体5(回転軸4)にクランプ力を直接に作用させることになる。
【0036】
梃子部材12において、力点部13から支点部15までの距離aは、支点部15から作用点部14までの距離bよりも大きくなるように形成されている。従って、梃子の原理によって、ピストン部材7から力点部13に作用する押圧力は、a/b倍に増力されて作用点部14の位置で薄肉円筒部17を押圧するクランプ力となる。このように、梃子部材12は、クランプ動作時に、梃子の作用による増力手段として機能する。
【0037】
回転駆動源は、ウォーム21、ウォームホイール20を駆動して、回転体5を所定の割出し角度に割出す。このときの所定の角度の割出しは、回転駆動源の回転・回転量制御によって行われるが、この割出し角度の位置は、クランプ装置6によって保持される。詳しくは、回転体5の割出し後におけるクランプ装置6のクランプ動作のために、付勢手段10から作動流体34が流体ポート38、流体流路39を経て圧力室33の後退位置側の内部に供給されると、ピストン部材7は、後退位置からばね部材43に抗して前進(図4の上方へ変位)する。この前進時に、テーパ面8は、押圧部材11の挺子部材12の力点部13を回転軸4の中心の方向に変位させる。
【0038】
図4に示すように、ピストン部材7の前進に伴い、挺子部材12の力点部13は、ピストン部材7からテーパ面8の鉛直方向への押圧力を受ける。そして、それに伴い、挺子部材12の力点部13には、ピストン部材7の変位方向(軸線方向)の分力Flおよび半径方向の分力F2が作用する。しかし、挺子部材12は、支点部15で係止されていて軸線方向への変位が阻止されている。そのため、挺子部材12は、力点部13に対しピストン部材7による押圧力が作用することに伴い、分力F2よって支点部15を支点として回転軸4の半径方向(中心方向)へ変位する。このように、ピストン部材7がテーパ面8で挺子部材12と当接していることにより、ピストン部材7が挺子部材12を押圧することに伴って、挺子部材12に対し中心方向つまりクランプ方向への押圧する力F2が作用する。したがって、テーパ面8も、ピストン部材7からの押圧力の変換に関与しているから、押圧部材11としての梃子部材12とともに、押圧力変換手段9の一部を構成しているといえる。
【0039】
既述のように、図示の例では、テーパ面8は、回転軸4の軸線に対し45°よりも小さい角度で形成されている。この構成により、変位に伴ってピストン部材7が挺子部材12に対し作用させる軸線方向への押圧力Flに比べて大きいものとなる。すなわち、ピストン部材7の変位に伴って押圧部材11に対し作用する軸線方向の押圧力が増力されてクランプ方向へ作用する。従って、上記のような回転軸4の軸線に対し45°よりも小さい角度のテーパ面8を介してピストン部材7と押圧部材11(梃子部材12)とが当接する構成は、一種の増力機構を形成していることになる。
【0040】
梃子部材12の力点部13がピストン部材7のテーパ面8からクランプ方向の押圧力を受けたとき、梃子部材12は、支え部材40により係止される支点部15を支点として作用点部14を薄肉円筒部17の外周面に押し当て、押圧力を発生させる。このときの押圧力は、力点部13から支点部15までの距離aと支点部15から作用点部14までの距離bとの比によって、前記のように、梃子の原理によりa/b倍に増大されて薄肉円筒部17の外周面に作用する。
【0041】
薄肉円筒部17は、割出し時に、クランプ部材16のフランジ部37からわずかに離れいて非接触となっているが、作用点部14から回転軸4の半径方向へ大きな押圧力を受けると、内径を縮小方向に変形させ、軸受スリーブ18のフランジ部37の外周面に押接される。その結果、薄肉円筒部17の内周面とフランジ部37の外周面との間の摩擦的な力で軸受スリーブ18が保持され、軸受スリーブ18と一体の回転軸4空回り止めされた状態て拘束される。これによって回転体5としての回転テーブル3、回転軸4、軸受スリーブ18などは、割出し後、所定の割出し角度を維持したままの状態でハウジング2に正確かつ確実に保持される。
【0042】
なお、薄肉円筒部17は、軸受スリーブ18のフランジ部37と梃子部材12との間に介在して、梃子部材12の作用点部14をフランジ部37の外周面に直接当てないで、挺子部材12の作用点部14に回転方向の力を作用させないようにしている.また、フランジ部37を囲続する薄肉円筒部17によってフランジ部37を保持するため、挺子部材12によって局部的に押圧力を作用させる場合と比べ、フランジ部37に対し円周方向に亘ってほぼ均−な保持力を作用させることができる。この薄肉円筒部17の機能は実用上有益であるが、薄肉円筒部17は、既述の通り本発明において必須ではなく、省略できる。
【0043】
以上のように、クランプ装置6は、テーパ面8と押圧部材11としての梃子部材12との当接による増力機構と、押圧部材11として梃子の作用を奏する梃子部材12を採用した増力機構とを有している。このため、ピストン部材7が押圧力変換手段9としての押圧部材11(梃子部材12)に作用させる押圧力は、上記2つの増力機構によって、二段階で増力される構成となっている。
【0044】
具体的には、図4に示すように、ピストン部材7の軸線方向の変位に伴って梃子部材12に作用する軸線方向の力をF1とすると、テーパ面8の作用により半径方向に向く力がF2に増力されて梃子部材12に作用する。さらに、半径方向へ向けて梃子部材12に作用した押圧力F2は、上記の通り、梃子の原理により、距離比b/a倍に相当する分だけ増力された押圧力F3として薄肉円筒部17に作用する。この構成により強固なクランプ力を得ることができる。
【0045】
次に、図5ないし図9は、クランプ装置6の他の具体例を示している。まず、図5のクランプ装置6は、図1なしい図4のクランプ装置6とほぼ同じで、常時クランプ式を採用しているが、ピストン部材7は、その先端の細い部分で、支え部材40の案内穴44に案内され、圧力室33の内部で摺動自在となっており、その後端位置で、圧縮ばねなどの付勢ばね部材45によって前進方向つまりクランプ方向に付勢されている。したがって、この場合は、付勢ばね部材45が本発明でいう付勢手段10となる。
【0046】
また、図1なしい図4のクランプ装置6と同様に、ピストン部材7の後端部とハウジング2との間に、圧力室33が形成されており、圧力室33にピストン部材7をクランプ方向へ付勢するための作動流体34が供給される。作動流体34は、圧力室33に流入し、ピストン部材7をクランプ方向へ付勢するため、ピストン部材7は、付勢ばね部材45による付勢力に加えて、作動流体34からの付勢力(クランプ力)を受ける。これらの2つの付勢力によって、付勢力(クランプ力)が増大できるものとなっている。もちろん、この圧力室33に作動流体34を供給するための機構も付勢手段10となる。なお、ピストン部材7の円テーブル3側、つまり前進端側に形成された戻し用圧力室46には、アンクランプ時に、アンクランプ用の作動流体47が流体ポート48、流体流路49から供給される。
【0047】
次に、図6のクランプ装置6は、図5のクランプ装置6において、付勢ばね部材45を省略した例である。すなわち、ピストン部材7は、クランプ方向への変位、アンクランプ方向への変位を、それぞれクランプ用の作動流体34、アンクランプ用の作動流体47の供給によって行われる。したがって、クランプ装置6は、作動流体34または作動流体47の供給によって、ピストン部材7の停止位置として後退位置または前進位置を自由に決定でき、後退位置によって常時クランプ式に、または前進位置によって常時アンクランプ式のいずれにもなり得る。
【0048】
図7のクランプ装置6は、図1ないし図4のクランプ装置6の主要とほぼ同じ構成としながら、クランプ部材16に複数の薄肉円筒部17を形成するとともに、回転体5の一部にも薄肉円筒部50を形成することによって、クランプのための摩擦箇所を複数とした例である。具体的には、図7のように、クランプ部材16は、半径方向に距離をおいた径の異なる複数(図示の例では2個)の薄肉円筒部17を形成している。これに対応して、回転体5の一部の軸受スリーブ18もそのフランジ部37の最外周部において、薄肉円筒部17の間に入り込む1または2個以上の薄肉円筒部50を形成している。この例によると、軸受スリーブ18はクランプ部材16の機能を兼ねていることになる。
【0049】
このように、1個の薄肉円筒部50は、2個の薄肉円筒部と対向するように回転軸4の軸線方向に延在し、かつ2個の薄肉円筒部17の間に配置させる様に設けられる。なお、この回転軸4側の薄肉円筒部50も、クランプ部材16側の薄肉円筒部17と同様に、半径方向に撓み変形する材料により構成されている。この構成によれば、図1等の構成と比べて、クランプ箇所(摩擦面)が複数となるため、それに伴って摩擦力を発生する接触面(クランプ面)が増え、より大きな保持力(クランプ力)を発生することができる。もちろん、薄肉円筒部50は、2個以上でもよい。
【0050】
また、図8のクランプ装置6は、押圧力変換手段9の構成として、図1等の例における梃子部材12に代えて鋼球51を使用した例である。このピストン部材7が前進するとき、テーパ面8が鋼球51を回転軸4の中心方向に移動させるため、鋼球51は、薄肉円筒部17を軸受スリーブ18のフランジ部37に押し当てる。ここてテーパ面8および鋼球51は増力機構を構成している。
【0051】
図1ないし図8の例では、回転体5(軸受スリーブ18)が押圧部材11から押圧力を受ける被押圧部材となっており、クランプ部材16の薄肉円筒部17が回転軸4を囲繞し、押圧部材11が半径方向の内側へ向けて押圧力を作用させる構成となっているが、本発明のクランプ装置6は、これらに限定されず、図9に示すように、押圧部材11によって半径方向の外側へ向けて押圧力を作用させる構成とすることも可能である。
【0052】
具体的に記載すると、図9のクランプ装置6は、円テーブル3の外周側の下面にリング状の被押圧部材52を固定する。この被押圧部材52は、円テーブル3に対して取付けボルト53によって取付けられるが、円テーブル3の一部で一体的に形成したものでもよい。また、クランプ部材16は、取付けボルト35によりハウジング2の面に取付けられ、その薄肉円筒部17は、被押圧部材52の内周面に非接触状態で対向するように配置されている。この結果、被押圧部材52が薄肉円筒部17を囲繞するように設けられる。
【0053】
そして、薄肉円筒部17を挟んで、被押圧部材52の内周面に対向する位置に各押圧部材11(梃子部材12)を配置し、ピストン部材7の変位に伴ってそのテーパ面8により梃子部材12を介して半径方向外側へ押圧力を作用させる構成となっている。なお、圧力室33は、2つの環状のケース部材27によって形成されている。
【0054】
本発明は、以上の例以外の他の例によっても実施できる。図1等に示す梃子部材12を採用したクランプ装置6において、図3、図4および図7に示すように、梃子部材12と梃子部材12の半径方向内側に位置するハウジング2に固定された部材(図示の例はクランプ部材16)との間に、両者に当接するゴム、ウレタンなどの弾性部材54を介装してもよい。弾性部材54を介装する構成によれば、クランプ時からアンクランプ時への切り替え(ピストン部材7のアンクランプ方向への移動)に伴う梃子部材12の初期位置(アンクランプ時の位置)への復帰が弾性部材54の弾性力により確実に行われる。
【0055】
なお、クランプ時には押圧力によって薄肉円筒部17が撓んでいるため、その押圧力が解除されると、薄肉円筒部17は自身の弾性によって変形前の状態に復帰し、それに伴って梃子部材12も初期位置へ復帰する。上記弾性部材はその復帰をより確実にするための補助的なものとして利用できる。例えば、図示の例では、クランプ部材16の力点部13側の端部は、ピストン部材7の変位に伴ってクランプ部材16が固定されている部材上を摺動するが、この摺動がスムースに行われ無い場合、ピストン部材7がアンクランプ方向へ変位しても、梃子部材12が半径方向外側へ変位せず、クランプ状態が維持された状態となるおそれがある。上記弾性部材を用いれば、クランプからアンクランプへの切り替え時にピストン部材7がアンクランプ方向へ移動すると、それに伴って梃子部材12が半径方向外側へ確実に変位し、上記弾性部材の存在によって、クランプ状態が維持されることが防止できる。
【0056】
既に記載したように、回転軸4を囲繞する薄肉円筒部17や薄肉円筒部50は必ずしも必要なく、クランプ部材16を省略し、押圧部材11によって直接的に回転軸4も回転軸4と一体的に回転する部分を保持するようにしてもよい。
【0057】
前述の各実施例では、押圧力変換手段9が増力機能を有するものとしたが、本発明はこれに限定されない。押圧力変換手段9は、ピストン部材7のクランプ方向への移動によって押圧力を受け、それに応じて回転軸4に対し半径方向の押圧力を作用させるものであればよい。例えば、図1の構成であっても、回転軸4の軸線に対するピストン部材7におけるテーパ面8の角度を45°とし、かつ、梃子部材12の力点部13から支点部15までの距離aと支点部15から作用点部14までの距離bとの比を1:1とすれば、その梃子部材12は増力作用を奏しないものとなるが、本発明はこのような増力作用を奏しない構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
既に記載したように、本発明に係る回転割出し装置は、実施例の回転テーブル装置に限らず、工具装着用のスピンドル(主軸)を回転駆動する装置(スピンドルユニット)を支持し、スピンドルユニットをを旋回駆動する装置(主軸ヘッド)や、主軸ヘッドを工作機械のZ軸と平行な軸線周りに回転駆動する部分(装置)にも適用できる。前者の場合は、スピンドルユニットが回転駆動対象部材に相当し、後者の場合は、主軸ヘッドが回転駆動対象部材に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る工作機械における回転割出し装置1の断面図である。
【図2】図1でのA−A矢印位置での断面図である。
【図3】本発明に係る工作機械における回転割出し装置1のクランプ装置6の断面図である。
【図4】本発明に係る工作機械における回転割出し装置1のクランプ装置6の要部の拡大断面図である。
【図5】本発明に係る工作機械における回転割出し装置1の他の実施態様の断面図である。
【図6】本発明に係る工作機械における回転割出し装置1の他の実施態様の断面図である。
【図7】本発明に係る工作機械における回転割出し装置1の他の実施態様の断面図である。
【図8】本発明に係る工作機械における回転割出し装置1の他の実施態様の断面図である。
【図9】本発明に係る工作機械における回転割出し装置1の他の実施態様の断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 工作機械における回転割出し装置 2 ハウジング
3 円テーブル(回転駆動対象部材) 4 回転軸
5 回転体 6 クランプ装置
7 ピストン部材 8 テーパ面
9 押圧力変換手段 10 付勢手段
11 押圧部材 12 梃子部材
13 力点部 14 作用点部
15 支点部 16 クランプ部材
17 薄肉円筒部 18 軸受スリーブ
19 取付けボルト 20 ウォームホィール
21 ウォーム 22 取付けボルト
23 ボス部 24 軸受
25 収容孔 26 段部
27 ケース部材 28 取付けボルト
29 取付けボルト 30 カバー
31 ボルト 32 オイルシール
33 圧力室 34 作動流体
35 取付けボルト 36 スペーサ
37 フランジ部 38 流体ポート
39 流体流路 40 支え部材
41 取付けボルト 42 スペーサ
43 ばね部材 44 案内穴
45 付勢ばね部材 46 戻し用圧力室
47 作動流体 48 流体ポート
49 流体流路 50 薄肉円筒部
51 鋼球 52 被押圧部材
53 取付けボルト 54 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(2)内で回転自在に設けられると共に端部に回転駆動対象部材(3)が固定される回転軸(4)と、該回転軸(4)を含む回転体(5)に対し回転軸(4)の半径方向へ押圧力を作用させて回転体(5)の割り出された回転角度位置を保持するクランプ装置(6)とを含む、工作機械における回転割出し装置(1)において、
前記クランプ装置(6)は、前記ハウジング(2)内で前記回転軸(4)の回転軸線の方向に変位可能に設けられたピストン部材(7)であってそのクランプ位置側の側面にテーパ面(8)が形成されたピストン部材(7)と、前記回転体(5)と前記ピストン部材(7)との間に介装され前記ピストン部材(7)の変位に伴って前記ピストン部材(7)から前記回転軸(4)の回転軸線の方向への押圧力を受けると共に、その押圧力を前記回転軸(4)の半径方向に変換して前記回転体(5)へ作用させる押圧力変換手段(9)と、前記押圧力変換手段(9)が前記回転軸(4)の半径方向へ押圧力を発生させる方向へ前記ピストン部材(7)を付勢する付勢手段(10)とを含む、ことを特徴とする工作機械における回転割出し装置(1)。
【請求項2】
前記押圧力変換手段(9)は、前記ピストン部材(7)と前記回転体(5)との間において、前記回転軸(4)の円周方向に亘って複数設けられる押圧部材(11)を含む、ことを特徴とする請求項1記載の工作機械における回転割出し装置(1)。
【請求項3】
前記押圧部材(11)は、前記回転軸(4)の軸線方向に延在するように設けられた梃子部材(12)であって、該梃子部材(12)は、一端部に形成された力点部(13)において前記ピストン部材(7)の前記テーパ面(8)に接触すると共に前記ハウジング(2)に対し回動可能に係止される支点部(15)および前記回転軸(4)と対向する作用点部(14)を有し、前記力点部(13)から前記支点部(15)までの距離が前記支点部(15)から前記作用点部(14)までの距離よりも長くなるように形成されている、ことを特徴とする請求項2記載の工作機械における回転割出し装置(1)。
【請求項4】
前記クランプ装置(6)は、前記押圧力変換手段(9)と前記回転体(5)との間に、ハウジング(2)に対して相対回転不能に固定されたクランプ部材(16)であって前記回転体(5)の押圧力を受ける面と対向すると共に、前記回転軸(4)の半径方向に変形可能なリング状の薄肉円筒部(17、50)を有するクランプ部材(16)を有する、ことを特徴とする請求項1、請求項2、または請求項3記載の工作機械における回転割出し装置(1)。
【請求項5】
前記ピストン部材(7)の前記テーパ面(8)の前記回転軸線に対する角度が45°よりも小さく形成されている、ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の工作機械における回転割出し装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−90422(P2009−90422A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264193(P2007−264193)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】