説明

工作機械の加工異常検知装置及び加工異常検知方法

【課題】切削条件が時々刻々と変化する加工パスにおいて、異常検知するためのしきい値を決定し、異常判定することを可能とする装置および方法を提供することである。
【解決手段】切削シミュレーションにより異常判定値となる切削力としきい値情報を予め算出しておき、切削中に取得した加工機の位置座標と切削力の計測結果より、比較すべきしきい値を決定し異常判定できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NC制御工作機械、特に、フライス切削加工に用いるNC制御工作機械において、加工中に発生する工具摩耗やびびり振動などの加工異常を検知し、摩耗過大によるワーク損傷や、びびり振動による加工異常を抑制する制御装置及びその制御方法に関するものである。
【0002】
また、本発明は、NC制御工作機械において、切削条件に対応した切削シミュレーションにより異常判定値(モデル)となる切削力としきい値情報を予め算出しておき、実切削加工中に取得した工作機械の切削工具の位置座標と実切削力の計測結果を得て、比較すべきしきい値を決定して異常判定ができるようにした工作機械の加工異常検知装置及び加工異常検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
工作機械を用いたエンドミル加工は、金属部品をさまざまな形状に加工する手法として一般的な加工方法であり、回転工具に取り付けられた切刃を被削材に切り込み、材料を除去することで様々な形状に加工する。通常、切削加工は角材や丸棒材などから部品形状を削りだす工程が多く、複雑な形状を有する部品を加工する場合は除去量が多くなるため、切込量や送り速度、工具回転速度を大きくする等して、高能率化を図っている。ここで、最近では製品性能向上のため、切削加工対象となる部品にNi基合金や高硬度鋳鋼材などの高強度・難削材が適用される場合が多く、加工能率を低下させた切削条件に落とさざるを得ず、自動化・高能率化する上での問題となっている。また、加工形状も3次元曲面を有する複雑な形状が多くなってきており、5軸マシニングセンタのような多軸工作機械で加工するケースが多くなっており、先の問題に対する加工能率の向上が課題となっている。
【0004】
このような材料や加工形状においては、切り込み量や回転軸の回転速度によっては、切込量や工具回転数を上げた際に、切刃にかかる力が大きくなるため、工具の振動(びびり)や切刃の摩耗、折損等に因る加工トラブルが発生しやすい。このような加工トラブルが発生すると、加工部分の表面粗さが悪化したり、傷ついたりするため、材料を廃棄することとなり、コストの高い高強度材や工具などが試損となる上に、廃棄コストがかかることとなり製造コスト上昇の原因となっている。そこで、工作機械の振動状態や加工状態をモニタリングし、異常が発生する直前に工作機械に指令を与えて加工条件を変更(工具回転数の減速等)する手法や、加工を停止することができる加工制御システム及び制御方法を構築する技術が必要となっている。
【0005】
このような課題に関し、従来より様々な方式により、切削の異常を検知する方法が提案されている。特許文献1や非特許文献1に示されているように、工具摩耗起因などの切削異常の検知方法として、主軸回転に用いるモータの駆動電流値を測定することでモータ負荷を推定し、あらかじめ設定したしきい値と比較することによって異常を検知する方法が知られている。特許文献1(特開昭59-146741号公報)には、「モデルワーク切削時の負荷データであるモデルデータを記憶しておき、実切削時の負荷データを時々刻々前記モデルデータと比較することによって切削異常を検知する装置において、所定時刻からあらかじめ定めた時間許容値の幅の範囲内で、すでに記憶しているモデルデータの中から実切削時の負荷データと同一のものがあるか否かを検索し、同一のものがあれば比較時刻の違いによる前記モデルデータと負荷データとの差は切削異常としない比較器を備えたことを特徴とする切削時の異常診断装置」が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、モータ負荷のしきい値の設定方法として、あらかじめ実験やシミュレーションによりモータ駆動電流値の変化パターンを把握しておき、この変化パターンから加工パス毎にしきい値を設定する方法が開示されている。特許文献2(特開平5−337790号公報)には、「加工プログラムに応じて、加工用工具を選択して加工を行なう工作機械の工具異常検出装置であって、前記加工用工具による加工時の負荷を検出する加工負荷検出手段、前記加工プログラムに応じて、前記加工用工具が実行する加工ステージごとに、工具の寿命を判定するための工具寿命判定用しきい値データと、検出を開始する時間を示す検出開始時間データと、監視する時間を示す監視時間データをそれぞれ記憶するデータ記憶手段、前記データ記憶手段から前記加工用工具に対する各データを読出し、そのデータで設定された監視時間内において、前記工具寿命判定用しきい値データと前記加工負荷検出手段の出力値とを比較し、前記工具の異常を判定する比較判定手段、および前記比較判定手段の異常を判定出力に応じて、異常加工時の動力波形を記憶する異常波形記憶手段を備えた、工具異常検出装置」が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、予め定めた切削パターン(固定サイクル)の組合せのもとで、切削力の予測値と主軸モータの電流値から得られる切削負荷を比較して、加工機の制御パラメータを補正する方法が示されている。特許文献3(特開2006-338625号公報)には、「エンドミルを用いて被加工物に所定の加工を行わせるべく、前記被加工物の加工領域を予め定めた固定サイクルの組み合わせに置き換え、各固定サイクル内での前記エンドミルの送り経路及び送り速度を、前記エンドミルに加わる切削抵抗の予測値を最適化すべく定めてなるNCプログラムを作成し、該NCプログラムに従って与えられる制御指令に応じてNC工作機械に加工動作を行わせるNC工作機械の加工制御システムにおいて、前記被加工物の加工中に前記エンドミルに実際に加わる切削抵抗を算出する実抵抗算出手段と、前記制御指令をフィードフォワード補正するフィードフォワード制御要素と、該フィードフォワード制御要素の制御ゲインを、前記実抵抗算出手段による算出結果に基づいて変更する手段とを備えることを特徴とするNC工作機械の加工制御システム」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59-146741号公報
【特許文献2】特開平5−337790号公報
【特許文献3】特開2006-338625号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】JIPMソリューション加工点の見える化研究会 “加工点の見える化技術” (2008) pp85−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、部品毎に予め設定値を設定しておく方法では、部品形状毎にしきい値設定のための実験や試作作業が必要となり、部品種類が多い場合には現実的な解決手段とはならない。また、加工パス毎にあらかじめしきい値を設定する方法では、一つの加工パスにおける切込量が一定のときのみ適用可能であり、切込量が変化して加工負荷が変化する場合には適用が難しい。また、切削パターンを予め定義しておいて加工する方法も、部品形状がある程度切削パターンに分解できる場合はよいが、切込みが変動する曲面を加工する場合には、比較するしきい値の設定が困難である。特に、5軸切削加工装置で加工するような切込み、送り速度などが時々刻々変化するような複雑な3次元形状の加工では、短い加工パスを多数分割する必要があり、それぞれの加工パスに対してのしきい値の設定が難しい。
【0011】
ここで、特許文献2または3で示されているように、切削条件から切削力を予測したシミュレーション結果と比較して異常を検知する方法は、一定の切削パターンには有効である。しかし、曲面加工など切削条件が変化する場合は、現在どこを加工しているかを認識することが難しい。本発明の目的は、切込量が時々刻々と変化する加工パスにおいても、現在どこを加工しているかの認識を可能とし、切削の異常検知のためのしきい値の決定を可能とする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のNC制御される工作機械の加工異常検知装置は、切削加工中の切削工具の座標値に関連した加工条件が記憶された切削位置・加工条件記憶手段と、前記切削工具の座標値に関連付けられた切削力の計算値を記憶する切削力計算値記憶手段と、切削加工中の切削工具の実切削力を計測する計測手段と、当該切削加工中の切削工具の実座標値を取得する座標値取得手段と、前記切削力計算値記憶手段より予め記憶した切削力の計算値のパターンと前記計測手段で取得した実切削力のパターンとを比較して同一とされる切削力計算値パターン抽出手段と、この切削力計算値パターン抽出手段で実切削力パターンと切削力計算値パターンとの比較により実切削力の遅れ時間を演算する遅れ時間演算手段と、加工条件に基づいた異常認定の切削力しきい値が切削工具の座標値に関連づけて記憶された切削力しきい値記憶手段と、前記切削工具の座標値での実切削力と前記検知認定の切削力しきい値とを比較することによって異常の有無を判定する異常判定手段を有することを特徴とする。
【0013】
本発明のNC制御される工作機械の加工異常検知装置は、工作機械の加工異常検知装置を前記計測手段を加工装置の主軸部に内蔵した力センサで構成したことを特徴とする。
【0014】
本発明のNC制御される工作機械の加工異常検知装置は、工作機械の加工異常検知装置を、前記計測手段を加工装置のテーブルと被削材との間に設置した力センサで構成したことを特徴とする。
【0015】
本発明のNC制御される工作機械の加工異常検知方法は、切削加工中の切削工具の座標位置情報を取得する第一のステップと、切削加工中の実切削力を取得する第二のステップと、第二のステップにおいて取得した実切削力のパターンと予め計算により予測してある切削力のパターンとを比較する第三のステップと、前記比較結果より予測した切削力のパターンと前記取得した実切削力のパターンとの間での遅れ時間を算出する第四のステップと、当該算出した遅れ時間により前記予め保存した切削力パターンでの予測値を決定する第五のステップと、前記予測値と測定した実切削力との比較をすることによって加工異常の有無を判定する第六のステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、切削量の測定値から比較すべき切削力予測値の異常検知しきい値を決定することができるため、曲面加工における異常検知が可能となり切削加工の高能率化とこれによる加工品の低コスト化を実現することができる。
【0017】
さらに、本発明によれば、NC制御される工作機械の加工異常検知装置は、工作機械の加工異常検知装置を前記計測手段を加工装置の主軸部に内蔵、例えば、加工装置のテーブルと被削材との間に設置した力センサで構成することにより、専用のNC制御工作機械として実現するにも安価に達成可能なものであり、汎用のNC制御工作機械において実現することも容易なものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1の加工異常検知方法のステップを説明するためのフロー図である。
【図2】本発明の機械加工装置の構成要素を説明するための構成概略図である。
【図3】本発明の加工異常検を行う制御部の構成を示した階層構成図である。
【図4】一般的な、直線切削加工を説明するための加工状態図である。
【図5】工具の移動方向が平面方向で変化する切削加工を説明するための加工状態図である。
【図6】工具の移動方向が垂直方向で変化する切削加工を説明するための加工状態図である。
【図7】切削力測定結果の変化を示す一例と、1刃切削力の最大値を外挿した曲線(プロフィール)を説明するための図であり、(a)は直線切削加工の場合、(b)は切削方向が変化する切削加工場合を示す図である。
【図8】本発明法における計測した切削力から遅れ時間を算出する方法を説明し、加工異常の検知を説明するための図である。
【図9】本発明の実施形態1の加工工具の送り速度と遅れ時間との関係を予めパラメータとして記憶したテーブル図である。
【図10】本発明の実施形態2の加工異常検知装置の構成要素を示した構成関連図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、切削条件が時々刻々と変化するNC工作機械の加工パスにおいて、異常検知するためのしきい値を予め決定しておき、実切削力と比較することによって異常判定をすることを可能とする加工異常検知装置および検知方法を提供するものである。以下、本発明が適用された実施形態の例について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明は省略する。
【実施例1】
【0020】
図1〜図9を用いて第一の実施例を説明する。図2に本発明に基づく実施例の工作機械の加工制御システムの装置の構成要素の概要を示す。なお、本実施例では3軸制御の機械加工装置を例に説明するが、制御軸数や装置構成はこれに限られるものではない。本加工制御システムは、一般的な3軸制御の工作機械である機械加工装置10に適用されるものであり、機械加工装置10の筐体11、加工工具14、加工工具14を保持して回転させる主軸13、主軸13をZ軸方向(垂直方向)に移動させる主軸ステージ12、被削材15、被削材を保持してXY軸方向(水平方向)に移動させるテーブル16、機械加工装置10をXYZ軸方向に移動制御せしめるためのNC制御装置17、主軸13に取付けて切削力を計測するための切削力測定センサ21a、テーブル16と被削材15の間に取り付けて切削力を計測する切削力測定センサ21b、及び、NC制御装置17との通信と切削力測定センサ21aと21bの計測値を保管する制御PC30で構成される。
【0021】
本発明の加工制御システムが適用されている機械加工装置10は、一般的な3軸制御の工作機械であり、加工工具14を回転させて被削材15に切り込み、被削材15を除去することによって、被削材15の形状を加工するものである。加工工具14は、被削材15から受ける力により、加工工具14や筐体11等が振動して加工面の表面粗さが低下したり、加工工具14が折損したりする等の不具合が発生することがあった。このような、一般的な機械加工装置10に対しても、力センサアンプ20と制御PC30を取り付けることによって本発明が適用可能なものである。
【0022】
次に、図4、図5、図6を用いて、異常を検知する際の切削加工の一例を説明する。図4において直線移動による切削加工を説明する。図4において、14は切削工具、15は被削材である。切削工具14は、図示しない駆動モータにより、中心軸14a回りに14bの方向に回転されており、この状態で幅D、深さHの切込みを与えて矢印Aの方向に移動する。これにより被削材には15a,15bに示した切削面が形成され、切削加工が行われる。図4で示す切削では切込み深さと加工方向が一定であるために、従来方法による異常検知でも有効な制御を達成することができる。
【0023】
これに対して、図5を用いて切込み方向が水平方向に変化する切削加工と、図6を用いて切込みが垂直方向に変化する切削加工について説明する。このような加工を行う場合には、専用のフィードバック制御可能なNC制御システムを組み込んだNC工作機械を構成するものであれば、所期の制御も可能ではあるが、制御は複雑で装置は高価なものとなり、一般的なNC制御工作機械において外付けのセンサを取り付けてフィードバック制御を行おうとしても、十分な制御は期待できない。なぜならば、NC制御により切削工具14を移動させたとしても、その時点の位置での振動や切削力を検知することができず、良好な制御が達成できない。図5においては、切削工具14は、矢印Bに示すように、水平方向ではあるが曲線に沿って移動して加工をする。これにより被削材15には15a,15bに示した切削面が形成され、切削加工が行われる。このような移動方向が直線的でない軌跡を切削工具14に指令する場合、切削位置によって切削力はX,Y方向に時々刻々変化するため、取り込まれた検知データの位置が特定できないために、異常判定のためのしきい値の設定が困難となる。特に、図5では切削面15bの幅を一定として記載しているが、実際には15bの幅は一定でない場合が多いため、更にしきい値の設定が困難となる。このため、従来技術では個々の場所で異常を検知する手法がとれず、最大の切削力となる場所を事前に実験で把握しておき、その位置での値をもとに異常検知する手法が現実的に選択されている。また図6は、曲面加工時のように切込みが垂直方向(Z軸方向)に変化する切削加工を示したものであり、矢印Cの方向に移動することにより、被削材15には曲面15cが形成される。図6の場合でも、図5の切削と同様に切削位置によって切削力はX方向及びZ方向に時々刻々変化するため、異常判定のためのしきい値の設定が困難となる。そこで本発明の制御方式では、以下に示す処理フローにて加工の異常判定を行う。
【0024】
図1に本発明の加工異常判定方法の処理フローを示す。まず、制御PC30側からNC制御装置17を介して、加工装置10により現在切削加工を行っている切削加工位置情報の取得ステップ(S1)を実施する。次に、加工装置10に取り付けた切削力測定センサ21a,21bにより、加工中の切削力の検出ステップ(S2)を実施する。次に、S2において取得した切削力を経時的に集積して切削力パターンとし、その切削力パターン(実切削力パターン)と予め保存した計算値の切削力パターン(モデル切削力パターン)を比較して合致する計算値の切削力パターン(モデル切削力パターン)の抽出ステップ(S3)を実施する。次に、この比較結果より、実際の切削位置と取得した位置情報とのずれ(切削力取得までの遅れ時間)の算出ステップ(S4)を実施する。次に、この遅れ時間の算出結果より予め保存した切削力予測値としての比較値の決定ステップ(S5)を実施する。次に、このステップ(S5)より決定した比較対象予測値(モデル切削力パターンの特定の座標位置での切削力)と測定した切削力(特定の座標位置での実切削力)の比較をすることによって加工異常の判定ステップ(S6)を実施する。
【0025】
以下、各ステップを詳細に説明する。切削加工位置情報の取得ステップ(S1)では、加工装置10のNC制御装置17より加工制御PC30を用いて加工装置10の加工工具14の各軸座標値を取得する。通常のNC制御の工作機械においては、NC制御装置17より加工制御PC30と通信するためのI/Oポートは標準的に備えられており、これを用いて通信することにより加工位置となる各軸座標値の現在値の取得が可能である。つまり、加工制御PC30から、NC制御装置17に対して現在の位置情報を問い合わせることにより、NC制御装置17から現在のX軸,Y軸,Z軸の値が出力される。なお、このようにして加工位置の取得は可能であるが、通信のためのクロック周波数と通信速度の影響をうけるため、取得した各軸の座標値は取得指令を出した瞬間の切削加工位置とは一致しない。このような位置の不一致を解決することが本発明の課題である。
【0026】
ここで、図3に加工制御PC30のデータ記憶部の構成を示す。このデータ記憶部の構成は、大きく3つの階層にわかれており、第1の階層31は、加工装置10を移動させるためのNCプログラム31aと、切削位置情報に対応した切削力の計算値31bとその時の加工機の各軸座標値31cを記憶する。第2の階層32は、切削中に加工装置10に備えた切削力センサ21a,21bより取得した切削力32aを記憶する。第3の階層33は、加工装置10より取得した切削加工位置情報33aを記憶する。
【0027】
次に、加工中の切削力の検出ステップ(S2)について説明する。図2において、力センサ21a,21bは、テーブル16や主軸ステージ12に内蔵したり、被削材15とテーブル16の間に挟み込むように配置する等して、一般的なNC制御工作機械に対しても設置することができる。この力センサ21a,21bにより、切削工具14に加わる切削中のX,Y,Z軸方向の負荷を切削力として検出する。力センサ21a,21bからの信号は力センサアンプ20を介して電気信号に変換され、加工制御PC30に取り込まれる。ここで、主軸ステージ12に内蔵された力センサ21aの代わりに主軸モータ(図示なし)の駆動電流値を計測して切削負荷を計測することも可能であるが、主軸電流値は切削工具14の回転変動を主とするのみであり、各軸(X,Y,Z軸)方向に対する負荷を算出することができないほか、主軸モータの内蔵物(回転子等)が慣性力をもって高速で回転しているため、切削負荷の変動成分を細かく抽出する手法としては、本発明のような力センサ21a,21bによる切削力測定の方が適している。但し、主軸モータ電流値による付加パターンを予め算出しておくことも可能であり、本発明の異常判定に用いることも可能である。
【0028】
ここで、力センサ21a,21bによる切削力測定の具体例を説明する。図7(a)は、工具回転数3300/min(rpm)で2枚刃の工具を回転させ、図4で示した直線切削のような定常切削状態での力センサ21a,21bにより得られる切削力信号の例を示す。工具回転数に対応し、0.009秒間隔で切削力21が取得されている。図7(a)に示されるように、切削工具14の刃先が空走する時間があるため、断続的な切削力がかかっている。このように、図4に示すような切込みが一定の際は、切削力の測定結果は図7(a)のように一定となり、この切削加工の状態においては、実際の切削位置と取得した位置情報とのずれ(切削力取得までの遅れ時間)は大きな問題とはならず、しきい値の設定は容易となる。これに対して、図5や図6に示された一般的な切削加工の場合では、図7(b)に示すように、力センサ21a,21bにより得られる切削力信号は、各軸方向への切込み変化により切削力21の値は変動し切削軌跡に応じた変化をしめす。ここで、切削力21の最大値を外挿したもの曲線(プロフィール)が切削力曲線22(切削力パターン)である。このようなプロフィール曲線は、測定結果として得られるものではなく、制御PC30により、実測切削力の最大値を外挿したものとして得られる。
【0029】
次に、取得した切削力パターンとの比較により、予め保存した計算値の切削力パターンの抽出ステップ(S3)とその方法について図8を用いて説明する。
まず、予め設定された加工条件から計算によって切削力の変化値を算出しておく。切削力の計算は、工具形状と加工条件より算出することが可能であり、市販のFEM解析ソフトを用いる場合や切取り厚さと生成する切り屑長さから算出する方法などがある。このような技術は公知のものであり、本明細書においては更に詳細な説明は行わない。この公知の手法によって算出した切削力より、図8の点線に示した切削力曲線23(モデル切削力パターン)を算出する。この切削力曲線23(モデル切削力パターン)は、複数の工具形状と複数の加工条件(切削加工の面形状等)に応じて複数の切削力曲線(モデル切削力パターン)を、加工制御PC30のデータ記憶部の第1の階層31の切削位置情報に対応した切削力の計算値31bとして記憶している(図3)。
【0030】
S1で取得した加工座標値を元に、計算により算出した切削力曲線23(モデル切削力パターン)と、S2で取得した実切削力の切削力曲線22(実切削力パターン)との比較を行い、プロフィールの一致したパターンの抽出を行う(S3)。図8に示したのはその一例であり、取得した各座標値を基準にすることで切削力曲線22(実切削力パターン)と23(モデル切削力パターン)の変化値がほぼ一致するモデル切削力パターンを抽出することが可能である。
【0031】
このモデル切削力パターンを抽出は、一連の加工が終了した後に、モデル切削力パターンと実切削力パターンとの比較を行って、実質的に同一のモデル切削力パターンを抽出することもできるし、途中段階までのパターンを比較することにより抽出することもできる。一連の加工が終了した後にモデル切削力パターンを抽出する場合には、次の加工の際に実切削力と切削力予測値との比較を行うようにする。また、途中段階までのパターンの比較によりモデル切削力パターンを抽出する場合には、その後の加工異常検知に用いて加工力を制御することができる。
【0032】
続いて、この切削力曲線22(実切削力パターン)と切削力曲線23(モデル切削力パターン)との比較結果より実際の切削位置と取得した位置情報とのずれ(遅れ時間)の算出ステップ(S4)について説明する。
図8に示したように、S3の切削力曲線のパターンが抽出されることにより、切削力曲線22(実切削力パターン)と切削力曲線23(モデル切削力パターン)との比較により、切削力曲線23(モデル切削力パターン)に対する切削力曲線22(実切削力パターン)の時間ずれ量を算出する。図8において、測定によって取得した切削力曲線22は、算出した切削力曲線23に対して、時間Tdだけ遅れていることがわかる。これは、切削力曲線22はNC制御装置17を介して取得した座標値を元に算出しているためほぼリアルタイムで計算できるのに対し、切削力曲線23は力センサ20からの信号を制御PC30が取得して計測することで通信時間分の遅れが生じており、その分が遅れとなって検出されるためである。このように、切削力曲線22と23とを比較して、両者のパターンをほぼ一致させるために必要な時間変化量を算出することにより、図8に示した遅れ時間Tdを算出するものである。この遅れ時間Tdは、工具の送り速度が増加するほど大きくなる。ここで、図9に示すように、予め遅れ時間Tdを送り速度と遅れ係数の二つをパラメータとしてテーブルに持たせておき、加工の始まりの制御の際に、このパラメータを参照して制御できるようにしておいてもよい。さらに、実際の加工では、予め設定したパラメータ(図9)に対して、リアルタイムで遅れ量(時間:Td)を計算することで、パラメータ化したテーブルの値を実際に計算したTdによって更新することで、加工初期から、より精度よく遅れ時間を算出することも可能である。一般的には、加工始点から加工を始める際には、予め設定したパラメータ(図9)を利用して制御を行い、計測により得た遅れ時間Tdにより制御する方式を採用することができる。
【0033】
次に、この遅れ時間Tdの算出結果より、予め保存したモデル切削力パターンの切削力予測値23aとしての比較値の決定ステップ(S5)を実施する。そのために、遅れ時間Tdが算出されていれば、実切削力22aから遅れ時間Td先行している切削力予測値23aを比較することで、各軸方向の切削力を比較することができ(図8(a)(b)参照)、例えば、加工面が傾斜しており、X,Y,Z軸方向の切削力が時々刻々変化する場合でも、比較すべき切削力成分が判別できる。
【0034】
次に、S5にて決定した比較値23aに対して、実切削力22aとの異常判定ステップ(S6)を実施する。この異常判定ステップ(S6)においては、必ずしも3方向(X,Y,Z軸方向)の異常判定をする必要はなく、代表的な方向、例えば、図5で示すような径切り込み方向の信号成分の力Fyを用いて判定すれば十分である。あるいは、切削状態量の変動が顕著に表れる方向の信号成分の力(例えば、図6の場合はFz)で判定してもよい。切削状態量の変動が顕著に表れる方向は、工具移動方向等によって決まる。異常判定のしきい値の算出手法は、切削力の大きさに対する、加工工具14と被削材15の剛性、および径切込量、軸切込量に依存し、各条件におけるしきい値を、あらかじめシミュレーションや実験によって算出した切削力に対してマージンを加えた値を導出しておき、テーブルに設定しておくことで異常判定のしきい値とすることができる。異常判定ステップ(S6)ではS5で求めた実切削力22aと異常検知しきい値を比較することによって、切削異常を検知する。本実施例によれば、径切り込みが時々刻々と変化する加工パスにおいて、動的に異常検知しきい値を決定する方法を提供することが可能なため、加工失敗による不良品発生を回避することができるとともに、製造コストの削減に寄与する。
【実施例2】
【0035】
図10を用いて、第2の実施例としての加工異常検知装置の装置構成を説明する。図10は、加工異常検知装置の一実施例を説明する構成要素間の関係を示す図である。本発明の加工異常検知装置は、切削力計測部101、座標値取得部102、切削力変化量比較演算部103、遅れ時間算出部104、切削力比較部105、異常判定部106、切削位置・加工条件記憶部107、切削力計算値記憶部108、切削力しきい値記憶部109、異常検知しきい値算出部110で構成される。
【0036】
切削力計測部101は、圧電素子方式の力センサを用いて工具に加わる切削負荷を切削力として測定する手段である。力センサは、図2に示した機械加工装置10のテーブル16や主軸ステージ12に内蔵したり、被削材15とテーブル16の間に挟み込むように配置する等して、設置することができる。座標値取得部102は、機械加工装置10の現在加工位置をNC制御装置17より取得する手段である。切削力変化量比較演算部103は、切削力計測部101にて取得した切削力変化量と、切削位置・加工条件記憶部107に保存された情報を元に切削力計算値記憶部108に記憶した切削力を抽出し、比較演算する手段である。遅れ時間算出部104は、切削力計測部101にて取得した実切削力と比較する切削力計算値(モデル切削力パターン)との間での遅れ時間を算出する手段である。切削力比較部105は、算出した遅れ時間を考慮して実切削力の取得値と計算値(モデル値)とを比較する手段である。異常判定部106は、異常検知しきい値算出部110が切削力しきい値記憶部109より所定のしきい値を取得した実切削力と比較して、異常の有無を判定する。
【0037】
切削位置・加工条件記憶部107には、切削位置にもとづいた切込み、送り速度などの加工条件が関連付けられて記憶されている。切削力計算値記憶部108には、切削位置にもとづいた切削力の計算値が記憶されている。切削力しきい値記憶部109には、加工条件としきい値が関連づけられて記憶されている。
【0038】
本実施例によれば、径切り込みが時々刻々と変化する加工パスにおいて、動的に異常検知しきい値を設定する手段を提供することが可能なため、加工失敗による不良品発生を回避することができるとともに、製造コストの削減に寄与する。
【0039】
以上、前記発明の実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記発明の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
11 筐体
12 主軸テーブル
13 主軸
14 切削工具
15 被削材
16 テーブル
17 NC制御装置
20 力センサアンプ部
21 切削力
21a,21b 力センサ
22 実測値
22a 実測切削力
23 切削力計算値
23a 切削力予測値
30 加工制御PC
101 切削力計測部
102 座標値取得部
103 切削力変化量比較演算部
104 遅れ時間算出部
105 切削力比較部
106 異常判定部
107 切削位置・加工条件記憶部
108 切削力計算値記憶部
109 切削力しきい値記憶部
110 異常検知しきい値算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NC制御される工作機械の加工異常検知装置であって、切削加工中の切削工具の座標値に関連した加工条件が記憶された切削位置・加工条件記憶手段と、前記切削工具の座標値に関連付けられた切削力の計算値を記憶する切削力計算値記憶手段と、切削加工中の切削工具の実切削力を計測する計測手段と、当該切削加工中の切削工具の実座標値を取得する座標値取得手段と、前記切削力計算値記憶手段より予め記憶した切削力の計算値のパターンと前記計測手段で取得した実切削力のパターンとを比較して同一とされる切削力計算値パターン抽出手段と、この切削力計算値パターン抽出手段で実切削力パターンと切削力計算値パターンとの比較により実切削力の遅れ時間を演算する遅れ時間演算手段と、加工条件に基づいた異常認定の切削力しきい値が切削工具の座標値に関連づけて記憶された切削力しきい値記憶手段と、前記切削工具の座標値での実切削力と前記検知認定の切削力しきい値とを比較することによって異常の有無を判定する異常判定手段を有することを特徴とする工作機械の加工異常検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械の加工異常検知装置において、前記計測手段を加工装置の主軸部に内蔵した力センサで構成したことを特徴とする工作機械の加工異常検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の工作機械の加工異常検知装置において、前記計測手段を加工装置のテーブルと被削材との間に設置した力センサで構成したことを特徴とする工作機械の加工異常検知装置。
【請求項4】
NC制御される工作機械の加工異常検知方法であって、
切削加工中の切削工具の座標位置情報を取得する第一のステップと、切削加工中の実切削力を取得する第二のステップと、第二のステップにおいて取得した実切削力のパターンと予め計算により予測してある切削力のパターンとを比較する第三のステップと、前記比較結果より予測した切削力のパターンと前記取得した実切削力のパターンとの間での遅れ時間を算出する第四のステップと、当該算出した遅れ時間により前記予め保存した切削力パターンでの予測値を決定する第五のステップと、前記予測値と測定した実切削力との比較をすることによって加工異常の有無を判定する第六のステップとを有することを特徴とする工作機械の加工異常検知方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−254499(P2012−254499A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129526(P2011−129526)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】