説明

工具ホルダ

【課題】加工時の振動防止性能の向上を図る工具ホルダを提供する。
【解決手段】工具ホルダ100はホルダ本体110と、ホルダ本体に取り付けられる把持スリーブ130と、把持スリーブ内に形成され、工具200が把持される工具把持空間131と、把持スリーブが保持される保持空間140と、含油液体を貯留する流体貯留室151と、把持スリーブに係合するとともに、流体貯留室151内を第1室151aと第2室151bとに区画しつつ把持スリーブの長軸方向に移動可能とされた減衰リング153と、第1室151aと第2室151bとを連通する絞り通路155とを備え、加工時の把持スリーブの振動に伴って、減衰リング153が流体貯留室151内を把持スリーブ130の長軸方向に移動する際、絞り通路155を通じて第1室151aと第2室151bとの間で含油液体が移流するときの流体絞り抵抗によって減衰力を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械加工等に用いる工具を把持し、所定の加工作業に供するための工具ホルダの構築技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械加工等に用いる工具を把持する工具ホルダの構造が種々提案されている。例えば、下記特許文献1には、加工時に生じる振動の発生を抑えるように構成された工具ホルダが開示されているが、この種の工具ホルダの設計に際しては、加工時の振動防止性能の向上を図るべく更なる技術が要請される。
【特許文献1】特開平8−118178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明では、工具を把持する工具ホルダにおいて、加工時の振動防止性能の向上を図るのに有効な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明が構成される。なお、本発明は、工具を把持する工具ホルダを対象とするものであって、ここでいう「工具」には、穴あけ加工、研削加工、研磨加工、締付け加工等に用いられる工具が広く包含される。
【0005】
本発明にかかる工具ホルダは、工具を把持(「挟持」ないし「保持」ともいう)し、所定の加工作業に供するためのホルダとして構成され、ホルダ本体、把持スリーブ、工具把持空間、保持空間、流体貯留室、可動部及び絞り通路を少なくとも含む。ここでいう「所定の加工作業」として典型的には、穴あけ加工、研削加工、研磨加工、締付け加工等の作業が挙げられる。なお、工具ホルダによって把持される工具は、当該工具ホルダの一構成要素であってもよいし、或いは当該工具ホルダとは別の要素として構成されてもよい。すなわち、工具が把持された状態の工具ホルダのみならず、工具が把持される前の状態の工具ホルダも、本発明の「工具ホルダ」の範疇に含まれる。
【0006】
ホルダ本体は、工具ホルダのハウジングを形成する。このハウジングは、工具ホルダ自体の外郭をなすハウジングとして構成されてもよいし、或いは工具が工具ホルダごと加工機に取り付けられた状態では、工具ホルダ自体の外郭をなすハウジングと加工機のハウジングとによって構成されてもよい。
【0007】
把持スリーブは、ホルダ本体に取り付けられる長尺筒状の部材として構成される。この把持スリーブ内に把持スリーブの長軸方向に沿って工具把持空間が形成される。工具把持空間は、工具が把持される空間部分、すなわち工具の把持を実質的に行なう把持領域として構成される。
【0008】
保持空間は、把持スリーブの長軸方向に沿ってホルダ本体内に形成される。この保持空間は、把持スリーブが保持される領域として構成される。
【0009】
流体貯留室は、ホルダ本体内において流体を貯留する空間(領域)として構成される。可動部は、把持スリーブに係合するとともに、流体貯留室内を第1室と第2室とに区画しつつ把持スリーブの長軸方向に移動可能とされる。ここでいう「係合」については、可動部が把持スリーブに一体状に固定される係合態様、可動部が把持スリーブに対し相対的な移動が許容された状態で被着される係合態様等を広く包含する。従って、この可動部は、把持スリーブの一構成要素とされてもよいし、或いは把持スリーブとは別体構造とされてもよい。絞り通路は、流体貯留室の第1室と第2室とを連通する通路として構成される。
【0010】
上記構成の工具ホルダによれば、加工時の把持スリーブの振動に伴って、把持スリーブに係合する可動部が流体貯留室内を把持スリーブの長軸方向に移動する際、絞り通路を通じて第1室と第2室との間で流体が移流するときの流体絞り抵抗によって当該把持スリーブに減衰力が付与される。これにより、加工時に工具から受ける振動を流体絞り抵抗による減衰力によって減衰させることができ、以って加工時の振動防止性能の向上を図ることが可能となる。
【0011】
また本発明にかかる更なる形態の工具ホルダでは、前記の保持空間に、流体貯留室と、可動部が把持スリーブに係合する係合部とが配設された構成であるのが好ましい。すなわち、保持空間は、流体貯留室を形成する領域と、可動部と把持スリーブとが係合する領域とを兼務する単一の領域として構成される。このような構成によれば、流体貯留室や係合部を保持空間に合理的に配置することが可能となる。
【0012】
また本発明にかかる更なる形態の工具ホルダは、更に弾性部材及び第2の弾性部材を備える構成であるのが好ましい。弾性部材は、ホルダ本体と可動部とを接続し、可動部を把持スリーブの長軸方向に沿ってホルダ先端側へと弾性付勢する部材として構成される。ここでいう「ホルダ先端側」とは、典型的には工具ホルダの各部位のうち工具が把持される側、すなわち把持スリーブが取り付けられる側として規定される。第2の弾性部材は、ホルダ本体と把持スリーブとを接続し、保持空間で保持された把持スリーブを当該把持スリーブの長軸方向に沿ってホルダ後端側へと弾性付勢する部材として構成される。ここでいう「ホルダ後端側」とは、前述のホルダ先端側とは反対側として規定される。これら弾性部材及び第2の弾性部材は、典型的にはスプリングないしバネ部材や、ゴムないし樹脂製部材等によって適宜に構成される。
【0013】
このような構成によれば、把持スリーブを、保持空間の異なる2箇所においてそれぞれ、弾性部材及び第2の弾性部材によって弾性付勢するとともに、これら弾性部材及び第2の弾性部材の双方の弾性付勢力がバランスした位置において、把持スリーブがホルダ本体に対し少なくとも2箇所で弾性的に保持される。そして、加工時に把持スリーブが工具から受ける振動によって弾性部材及び第2の弾性部材が伸び縮みを繰り返そうとする動きが、流体絞り抵抗に起因して生じる減衰力によって抑えられる。これにより、加工時の振動防止性能をより高いレベルで実現することが可能となる。
【0014】
また本発明にかかる更なる形態の工具ホルダでは、前記の把持スリーブは、当該把持スリーブの板厚をホルダ先端側に向けて傾斜状に拡張して形成される傾斜面を備え、また前記の可動部は、把持スリーブの傾斜面に対しホルダ後端側から面接触で係合する第2の傾斜面を備え、把持スリーブに対し当該把持スリーブの長軸方向に沿ったスライド動作が可能とされる構成であるのが好ましい。本構成では、互いに係合する傾斜面及び第2の傾斜面は、弾性部材の弾性付勢力によって生じる可動部のホルダ先端側への押圧力を、把持スリーブをホルダ内方へと押圧する押圧力に変換する変換部として構成される。ここでいう「ホルダ内方」とは、工具ホルダの延在方向と交差する方向に関し工具に向かう側として規定される。このような構成によれば、可動部が弾性部材から受けるホルダ先端側への押圧力によって、把持スリーブは当該把持スリーブの長軸方向と交差する方向の位置決め機能、すなわち芯出し機能を付与することが可能となる。
【0015】
また本発明にかかる更なる形態の工具ホルダでは、前記の第2の弾性部材は、把持スリーブの傾斜面よりもホルダ先端側において把持スリーブの長軸方向と交差する方向の厚みが当該弾性部材の他の部位よりも薄肉化された薄肉部を有する構成であるのが好ましい。本構成では、把持スリーブの長軸方向と交差する方向に関し、第2の弾性部材の薄肉部を中心としたホルダ本体に対する把持スリーブの動作が許容される。このような構成によれば、把持スリーブの振動の際に第2の弾性部材が薄肉部において撓み易くなるため、把持スリーブは、加工時の振動によってその長軸方向と交差する方向へ荷重を受けたとき、予め設定された第2の弾性部材の薄肉部を中心として予定された態様で動作することとなり、当該動作を可動部の安定した減衰動作に変換することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、工具を把持する工具ホルダにおいて、加工時の振動防止性能の向上を図ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明における一実施の形態の工具ホルダの具体的な構成及び作用効果を、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1には、本発明の「工具ホルダ」にかかる一実施の形態の工具ホルダ100の縦断面構造が示されている。また図2には、図1中の工具ホルダ100のA−A線に関する横断面構造が示され、図3には、図1中の工具ホルダ100のB領域の拡大図が示されている。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態の工具ホルダ100は、被加工物(図示省略)の所定の加工作業を行なう工具200(図中の二点鎖線参照)を把持(「挟持」ないし「保持」ともいう)するホルダであって、概してホルダ本体110、工具把持機構120及び減衰機構150を含む。この工具ホルダ100は、工具200を把持して当該工具200ごと加工機(図示省略)に取り付けられる。ここでいう「所定の加工作業」として典型的には、穴あけ加工、研削加工、研磨加工、締付け加工等の作業が挙げられる。
【0020】
ホルダ本体110は、工具ホルダ100のハウジングを形成する。このホルダ本体110は、ホルダ先端部110a内に工具把持機構120が設けられている。この工具ホルダ100は、全体として工具200の長軸状の工具端部(「被挿設部」ともいう)201の把持が可能とされた長尺状の金属製部材として構成される。ここでいう工具200が本発明における「工具」に相当し、この工具200として、典型的には穴あけ加工、研削加工、研磨加工、締付け加工等に用いられる工具が挙げられる。またここでいうホルダ本体110が、本発明における「ホルダ本体」に相当する。
【0021】
なお、本明細書中では、工具ホルダ100の延在方向に関し工具200が把持される側、すなわち図1中に記号「FR」で示す図中右側を「ホルダ先端側」として規定し、その反対側、すなわち図中左側を「ホルダ後端側」として規定する。また工具ホルダ100の延在方向と交差する方向に関し工具200に向かう側を「ホルダ内方」として規定し、その反対側を「ホルダ外方」として規定する。
【0022】
工具把持機構120は、ホルダ本体110のホルダ先端部110aに取り付けられ、工具200の長軸状の工具端部201を把持する機構であり、把持スリーブ130、工具把持空間131、締め付け機構133を含む構成とされる。
【0023】
把持スリーブ130は、ホルダ先端側に開口状の工具把持空間131を有する長尺筒状の金属製部材として構成され、ホルダ本体110に取り付けられる。工具把持空間131は、把持スリーブ130の長軸方向(工具端部201の延在方向)に沿って把持スリーブ130内に形成されるとともに、その内径が把持スリーブ130の長軸在方向に関し一様となるように構成される。この工具把持空間131は、工具200の長軸状の工具端部201が挿設されて、工具200が把持される空間部分、すなわち工具200の把持を実質的に行なう把持領域として構成される。工具把持空間131のホルダ後端側にはストッパー132が設けられている。このストッパー132は、工具把持空間131に挿設された工具端部201に当接することによって、工具把持空間131における工具端部201の位置決めを可能とする。
【0024】
締め付け機構133は、コレット134及び締め付けキャップ135を含む。コレット134は、工具把持空間131に挿入された工具端部201の全周を取り囲むように設けられる部材として構成される。締め付けキャップ135は、把持スリーブ130の外壁面に螺合し、ねじ込み操作及びネジ戻し操作が可能とされた部材として構成される。締め付けキャップ135のねじ込み操作によって、コレット134による工具端部201の締め付け力が上昇する一方、締め付けキャップ135のねじ戻し操作によって、コレット134による工具端部201の締め付け力が低下する。ここでいう把持スリーブ130が、本発明における「把持スリーブ」に相当し、またこの把持スリーブ130の工具把持空間131が、本発明における「工具把持空間」に相当する。
【0025】
また、上記構成の把持スリーブ130は、保持空間140に挿入されて保持される。この保持空間140は、把持スリーブ130(ホルダ後端側のスリーブ端部130a)の長軸方向に沿ってホルダ本体110内に形成される空間(領域)として構成され、把持スリーブ130のスリーブ端部130aを収容保持する。ここでいう保持空間140が、本発明における「保持空間」に相当する。
【0026】
減衰機構150は、概して保持空間140に挿入された把持スリーブ130のスリーブ端部130aを弾性的に保持するとともに、弾性的に保持されたこの把持スリーブ130に対し当該把持スリーブ130の長軸方向に関する減衰力を付与する機構として構成される。この減衰機構150は、流体貯留室151、減衰リング153、絞り通路155、スプリング157及び弾性部材159を含む構成とされる。
【0027】
流体貯留室151は、ホルダ本体110と把持スリーブ130との間に介在するシール部材111,112によって密閉された空間部分とされる。この流体貯留室151には、流体としての含油液体が貯留される。この流体貯留室151は、当該流体貯留室151に連通する調節ネジ152によって含油液体の液圧が調節されて所望の液圧に保持される。また、この流体貯留室151は、減衰リング153を隔てて形成される第1室151a及び第2室151bを含む。この流体貯留室151が、第1室151a及び第2室151bに加えて更なる室を備える構成であってもよい。ここでいう流体貯留室151が、本発明における「流体貯留室」に相当し、またこの流体貯留室151の第1室151a及び第2室151bがそれぞれ、本発明における「第1室」及び「第2室」に相当する。
【0028】
減衰リング153は、流体貯留室151に配設されるリング状(環状)の部材として構成される。この減衰リング153は、一方では把持スリーブ130のスリーブ端部130aに係合する構成(「第1の構成」ともいう)を有する。また、この減衰リング153は、他方では流体貯留室151に配設されて当該流体貯留室151を第1室151aと第2室151bとに区画しつつ把持スリーブ130の長軸方向にスライド移動可能とされた構成(「第2の構成」ともいう)を有する。ここでいう減衰リング153が、本発明における「可動部」に相当する。
【0029】
減衰リング153の前述の第1の構成に関しては、この減衰リング153に設けられた傾斜面153aが、スリーブ端部130aに設けられた傾斜面130bに対しホルダ後端側から面接触で係合する。スリーブ端部130a側の傾斜面130bは、把持スリーブ130の板厚をホルダ先端側に向けて傾斜状に拡張し、且つ把持スリーブ130の外径を拡張して形成される。減衰リング153側の傾斜面153aは、減衰リング153の板厚をホルダ先端側に向けて傾斜状に縮小し、且つ減衰リング153の内径を拡張して形成される。ここでいうスリーブ端部130a側の傾斜面130bが、本発明における「傾斜面」に相当し、また減衰リング153側の傾斜面153aが、本発明における「第2の傾斜面」及び「係合部」に相当する。
【0030】
減衰リング153の前述の第2の構成に関しては、この減衰リング153が、流体貯留室151のうち、狭小の絞り通路155のみによって互いに連通される第1室151aと第2室151bとの間に介在する。第2室151bは、把持スリーブ130の長軸方向に関し減衰リング153を挟んで第1室151aとは反対側、すなわちホルダ先端側に配設される。流体貯留室151に貯留された含油液体は、把持スリーブ130の長軸方向にスライド移動する際に、絞り通路155を通じて第1室151aと第2室151bとの間で移流する。この絞り通路155は、第1室151aと第2室151bとの間で含油液体が移流するときの流体絞り抵抗によって把持スリーブ130に対し当該把持スリーブ130の長軸方向に関する減衰力を付与する機能を果たす。ここでいう絞り通路155が、本発明における「絞り通路」に相当する。
【0031】
本実施の形態では、保持空間140に、流体貯留室151と、減衰リング153が把持スリーブ130に係合する係合部分(傾斜面153a)とが配設された構成になっている。すなわち、保持空間140は、流体貯留室151を形成する領域と、減衰リング153と把持スリーブ130とが係合する領域とを兼務する単一の領域として構成される。このような構成によれば、流体貯留室151や減衰リング153を保持空間140に合理的に配置することが可能となる。
【0032】
図2に示すように、スプリング157は、ホルダ本体110と把持スリーブ130に係合する減衰リング153とを接続するコイル状のスプリング部材として構成される。このスプリング157は、減衰リング153を把持スリーブ130の長軸方向に沿ってホルダ先端側へと弾性付勢する機能を有する。ここでいうスプリング157が、本発明における「弾性部材」に相当する。
【0033】
図3に示すように、弾性部材159は、ホルダ本体110と把持スリーブ130とを接続するゴムないし樹脂材料製の部材として構成される。この弾性部材159は、保持空間140で保持された把持スリーブ130を当該把持スリーブ130の長軸方向に沿ってホルダ後端側へと弾性付勢する機能を有する。この弾性部材159は、筒状ないし円筒状に構成されナット160を把持スリーブ130側に設けられたネジ山にねじ込むことによって、把持スリーブ130に接続される。また、この弾性部材159は、把持スリーブ130の傾斜面130b或いは減衰リング153よりもホルダ先端側において把持スリーブ130の長軸方向と交差する方向の厚みが当該弾性部材の他の部位よりも薄肉化された薄肉部159aを有する構成であるのが好ましい。この薄肉部159aは、加工時の把持スリーブ130の振動の際に、弾性部材159の各部位のうち特に撓み易い位置として構成される。ここでいう弾性部材159が、本発明における「第2の弾性部材」に相当し、この弾性部材159の薄肉部159aが、本発明における「薄肉部」に相当する。
【0034】
なお、弾性部材159の薄肉部159aは、把持スリーブ130の長軸方向と交差する方向の厚みが他の部位よりも薄肉化されていればよく、図3に示すように厚みが一様とされた形状であっても良いし、或いは図4に示す変更例のように、弾性部材159に把持スリーブ130の長軸方向と交差する方向の窪みを設けた段差形状或いは段付き形状によって形成されてもよい。弾性部材159の撓み性能をより向上させるためには、図4に示すような形状の薄肉部159aを用いるのが好ましい。この弾性部材159の薄肉部159aは、必要に応じて省略することもできる。
【0035】
本実施の形態の上記構成によれば、把持スリーブ130は、保持空間140の異なる2箇所においてそれぞれ、スプリング157及び弾性部材159によって弾性付勢されるとともに、これらスプリング157及び弾性部材159の双方の弾性付勢力がバランスした位置において、ホルダ本体110に弾性的に保持される。
【0036】
ここで、上記構成の工具ホルダ100の作用効果を、図1に加えて、更に図5及び図6を参照しつつ説明する。ここで図5には、図1中の工具ホルダ100のC領域の拡大図が示され、図6には図1中の工具ホルダ100のC領域の拡大図であって、減衰リング153が図5とは異なる減衰位置にある様子が示されている。
【0037】
工具200を工具ホルダ100に把持する場合には、上記構成の工具ホルダ100を準備する。その後、使用者によって把持スリーブ130の工具把持空間131に工具200の工具端部201が挿入され、締め付け機構133の締め付け操作によって、工具200が工具把持機構120に把持される(図1参照)。
【0038】
このとき、互いに係合する把持スリーブ130側の傾斜面130b及び減衰リング153側の傾斜面153aは、スプリング157の弾性付勢力によって生じる減衰リング153のホルダ先端側へのスライド動作を、把持スリーブ130をホルダ内方へと押圧する押圧動作に変換する変換部として構成される。従って、この変換部によれば、減衰リング153がスプリング157から受けるホルダ先端側への押圧力によって、把持スリーブ130は当該把持スリーブ130の長軸方向と交差する方向の位置決め機能、すなわち芯出し機能が発揮される。ここでいう変換部が、本発明における「変換部」に相当する。
【0039】
その後、工具200を工具ホルダ100ごと加工機に取り付け、工具200を被加工物に作用させて加工を行なう。このとき加工時の振動により把持スリーブ130が例えばその長軸方向と交差する方向に振動する。この把持スリーブ130の振動は、互いに面接触する傾斜面130b及び傾斜面153aを介して減衰リング153に伝達され、これにより減衰リング153が把持スリーブ130の長軸方向に沿ってホルダ後端側(図1中の左側)及びホルダ先端側(図1中の右側)へと振動する。このとき、把持スリーブ130は、スプリング157及び弾性部材159の双方によってホルダ本体110に対し2箇所で弾性的に保持されている。従って、把持スリーブ130に係合する減衰リング153は、把持スリーブ130の振動に伴って矢印10方向及び矢印20方向に振動する。
【0040】
図5に示すように、減衰リング153が把持スリーブ130によって押圧されてホルダ後端側(図5中の矢印10方向)にスライド動作するとき、減衰リング153によって加圧された第1室151aの含油液体は、絞り通路155を通じて第2室151bへと移流する。一方、図6に示すように、減衰リング153が把持スリーブ130による押圧解除によってホルダ先端側(図6中の矢印20方向)にスライド動作するとき、減衰リング153によって加圧された第2室151bの含油液体は、絞り通路155を通じて第1室151aへと移流する。このとき、第1室151aないし第2室151bの含油液体が絞り通路155を移流するときの流体絞り抵抗によって、減衰リング153に把持スリーブ130の長軸方向の減衰力が付与され、これにより減衰リング153が振動する動作が減衰し収束する。従って、把持スリーブ130の振動は、減衰リング153を経て含油液体に伝達され、当該含油液体によって吸収されることとなる。
【0041】
特に本実施の形態では、把持スリーブ130がホルダ本体110に対しスプリング157及び弾性部材159によって弾性的に保持される構成であり、把持スリーブ130の振動に伴ってスプリング157及び弾性部材159が伸び縮みを繰り返そうとする動きが、含油液体の含油液体抗に起因して生じる減衰力によって抑えられる。これにより、加工時の振動防止性能をより高いレベルで実現することが可能となる。
【0042】
また、本実施の形態では、把持スリーブ130は、弾性部材159に予め設けられた薄肉部(図3に示す薄肉部159aや図4に示す薄肉部159a)を中心として把持スリーブ130の長軸方向と交差する方向への動作が許容される。このような構成によれば、加工時の把持スリーブ130の振動の際に弾性部材159が薄肉部159aにおいて撓み易くなるため、把持スリーブ130がその長軸方向と交差する方向へ荷重を受けたとき、予め設定された薄肉部159aを中心として予定された態様で動作することとなり、当該動作を減衰リング153の安定した減衰動作に変換することが可能となる。特に図4に示すような形状の薄肉部159aを用いることによって、弾性部材159の撓み性能をより向上させることが可能となる。
【0043】
〔他の実施の形態〕
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0044】
上記実施の形態では、保持空間140に、流体貯留室151と、減衰リング153が把持スリーブ130に係合する係合部分(傾斜面153a)とが配設される場合について記載したが、本発明では、流体貯留室151が設けられる領域と、減衰リング153が把持スリーブ130に係合する領域とがそれぞれ別々の空間に配設された構成を採用することもできる。
【0045】
また上記実施の形態では、保持空間140に挿入された把持スリーブ130を異なる2箇所にそれぞれ設けられたスプリング157及び弾性部材159によって弾性的に保持する場合について記載したが、本発明では、スプリング157や弾性部材159に相当する弾性部材の数や種類に関しては限定されない。本発明では、例えばスプリング157及び弾性部材159に更なる弾性部材が付加された構成や、スプリング157及び弾性部材159の少なくとも一方を省略した構成を採用することもできる。また、本発明では、スプリング157や弾性部材159に相当する弾性部材として、弾発力を発揮することが可能な各種の部材を用いることができ、例えばスプリングないしバネ部材や、ゴムないし樹脂製部材等の中から適宜に選択することが可能である。
【0046】
また上記実施の形態では、減衰リング153側の傾斜面153aとスリーブ端部130a側の傾斜面130bとが面接触で係合する場合について記載したが、本発明では、この係合構造としては傾斜面同士の係合構造以外を採用することもできる。また、本発明では、減衰リング153を把持スリーブ130に一体状に固定する構造や、把持スリーブ130の一部分によって減衰リング153を構成する構造等を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の「工具ホルダ」にかかる一実施の形態の工具ホルダ100の縦断面構造を示す図である。
【図2】図1中の工具ホルダ100のA−A線に関する横断面構造を示す図である。
【図3】図1中の工具ホルダ100のB領域の拡大図である。
【図4】図1中の工具ホルダ100のB領域の拡大図であって、弾性部材159の薄肉部159aの変更例を示す図である。
【図5】図1中の工具ホルダ100のC領域の拡大図である。
【図6】図1中の工具ホルダ100のC領域の拡大図であって、減衰リング153が図5とは異なる減衰位置にある様子を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
100…工具ホルダ
110…ホルダ本体
110a…ホルダ先端部
111,112…シール部材
120…工具把持機構
130…把持スリーブ
130a…スリーブ端部
130b…傾斜面
131…工具把持空間
132…ストッパー
133…締め付け機構
134…コレット
135…締め付けキャップ
140…保持空間
150…減衰機構
151…流体貯留室
151a…第1室
151b…第2室
152…調節ネジ
153…減衰リング
153a…傾斜面
155…絞り通路
157…スプリング
159…弾性部材
159a…薄肉部
160…ナット
200…工具
201…工具端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を把持し、所定の加工作業に供するための工具ホルダであって、
当該工具ホルダのハウジングを形成するホルダ本体と、
前記ホルダ本体に取り付けられる長尺筒状の把持スリーブと、
前記把持スリーブの長軸方向に沿って前記把持スリーブ内に形成され、前記工具が把持される工具把持空間と、
前記把持スリーブの長軸方向に沿って前記ホルダ本体内に形成され、前記把持スリーブが保持される保持空間と、
前記ホルダ本体内において流体を貯留する流体貯留室と、
前記把持スリーブに係合するとともに、前記流体貯留室内を第1室と第2室とに区画しつつ前記把持スリーブの長軸方向に移動可能とされた可動部と、
前記流体貯留室の前記第1室と前記第2室とを連通する絞り通路と、
を備え、
加工時の前記把持スリーブの振動に伴って、前記把持スリーブに係合する前記可動部が前記流体貯留室内を前記把持スリーブの長軸方向に移動する際、前記絞り通路を通じて前記第1室と前記第2室との間で流体が移流するときの流体絞り抵抗によって当該把持スリーブに減衰力を付与する構成であることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の工具ホルダであって、
前記保持空間に、前記流体貯留室と、前記可動部が前記把持スリーブに係合する係合部とが配設された構成であることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の工具ホルダであって、
前記ホルダ本体と前記可動部とを接続し、前記可動部を前記把持スリーブの長軸方向に沿ってホルダ先端側へと弾性付勢する弾性部材と、
前記ホルダ本体と前記把持スリーブとを接続し、前記保持空間で保持された前記把持スリーブを当該把持スリーブの長軸方向に沿ってホルダ後端側へと弾性付勢する第2の弾性部材と、
を備える構成であることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項4】
請求項3に記載の工具ホルダであって、
前記把持スリーブは、当該把持スリーブの板厚をホルダ先端側に向けて傾斜状に拡張して形成される傾斜面を備え、
前記可動部は、前記把持スリーブの前記傾斜面に対しホルダ後端側から面接触で係合する第2の傾斜面を備え、前記把持スリーブに対し当該把持スリーブの長軸方向に沿ったスライド動作が可能とされ、
互いに係合する前記傾斜面及び前記第2の傾斜面は、前記弾性部材の弾性付勢力によって生じる前記可動部のホルダ先端側への押圧力を、前記把持スリーブをホルダ内方へと押圧する押圧力に変換する変換部として構成されることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項5】
請求項4に記載の工具ホルダであって、
前記第2の弾性部材は、前記把持スリーブの前記傾斜面よりもホルダ先端側において前記把持スリーブの長軸方向と交差する方向の厚みが当該弾性部材の他の部位よりも薄肉化された薄肉部を有し、
前記把持スリーブの長軸方向と交差する方向に関し、前記第2の弾性部材の前記薄肉部を中心とした前記ホルダ本体に対する前記把持スリーブの動作が許容される構成であることを特徴とする工具ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−45967(P2011−45967A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197299(P2009−197299)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(591033755)エヌティーツール株式会社 (22)
【Fターム(参考)】