説明

工具ホルダ

【課題】再ミスト化を確実に図り、切削液ミストを安定供給する工具ホルダを提供する。
【解決手段】先端部に刃具Pを取り付け可能であって回転駆動されるホルダ本体1と、ホルダ本体1の中心軸Xに沿ってホルダ本体1の内部に設けられ、ホルダ本体1の後端側から先端部に向けて切削液ミストMを供給する供給流路10と、を備え、供給流路10に上流側から下流側に向けて順に、供給流路10の流路断面積を絞る第1縮径部32と、第1縮径部32によって絞られた流路断面積を少なくとも第1縮径部32の上流側の流路断面積よりも拡張する拡径部33と、拡径部33によって拡張された流路断面積を有する拡径空間12と、拡径空間12の流路断面積を絞る第2縮径部42と、を備え、拡径空間12の外周部に、中心軸Xと交差する方向に沿った凹部13を、中心軸Xに沿って複数形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削液を霧状にした切削液ミストを先端部から噴出しながら切削作業が可能な工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
切削液ミストを噴出しながらの切削作業が可能な工具ホルダでは、回転式のものにあっては遠心力や重力等によって、また、回転式でないものであっても重力等によって、切削液ミストが供給流路の外周部に付着・堆積し、安定的に切削液ミストを供給できない場合がある。また、切削作業停止時には、堆積した切削液が遠心力や重力から解放されて、不測に垂れ流れることもある。
【0003】
この問題を解決するものとして、例えば回転式の工具ホルダについては、特許文献1に記載の技術があった。特許文献1に記載の技術は、工具ホルダの手前の供給流路(文献では、「ミスト通路」)内に、下流側開口部が上流側開口部よりも縮径した内孔及びこの内孔の半径方向外方に形成された外孔を有するノズルを備えている。
【0004】
切削液ミストは回転によって遠心分離され、供給流路の半径方向外側と中心側とで切削液ミストの濃度が異なるようになるところ、特許文献1に記載の構成であると、濃度の小さい中心側の切削液ミストは内孔を流通し、その気流速度は加速され、濃度の高い外側の切削液ミストは外孔を流通する。そして、内孔と外孔とが合流する空間において、外孔を流通した切削液ミストが内孔を流通して加速された切削液ミストに混合され、再ミスト化を図れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−158285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、切削液ミストは外孔を流通する際に再液化する可能性が高い。このため、比重の大きい再液化した切削液は、外孔から合流空間に放出されると、遠心力によって合流空間における外周部に押付けられて堆積するだけで、内孔を流通した切削液ミストと上手く混合されず、効率よく再ミスト化を図ることができない可能性がある。
【0007】
上記実情に鑑み、本発明は、再ミスト化を確実に図り、安定して切削液ミストを供給可能な工具ホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る工具ホルダの第一特徴構成は、先端部に刃具を取り付け可能であるホルダ本体と、前記ホルダ本体の中心軸に沿って前記ホルダ本体の内部に設けられ、前記ホルダ本体の後端側から前記先端部に向けて切削液ミストを供給する供給流路と、を備え、前記供給流路に上流側から下流側に向けて順に、前記供給流路の流路断面積を絞る第1縮径部と、前記第1縮径部によって絞られた前記流路断面積を少なくとも前記第1縮径部の上流側の前記流路断面積よりも拡張する拡径部と、前記拡径部によって拡張された前記流路断面積を有する拡径空間と、前記拡径空間の前記流路断面積を絞る第2縮径部と、を備え、前記拡径空間の外周部に、前記中心軸と交差する方向に沿った凹部を、前記中心軸に沿って複数形成した点にある。
【0009】
本構成であると、例えば、回転式の工具ホルダにあっては遠心力や重力等によって、また、非回転式の工具ホルダにあっては重力等によって、切削液ミストの一部は供給流路の外周部に付着・堆積して液化し、液化した切削液は、切削液ミストの気流によって下流側に送られて、特に拡径部の外周部に堆積する。一方、第1縮径部を通過する際に切削液ミストの気流速度は加速され、切削液ミストは第1縮径部から拡径空間に噴出される。即ち、流路断面積が小さい(気圧が高い)ところから流路断面積が大きい(気圧が低い)ところに、加速された気流が一気に放出されるため、切削液ミストは多少なりと放射状に拡散する。したがって、中心軸付近の切削液ミストはそのまま真っ直ぐに流下するものの、切削液ミストの一部は、第2縮径部にぶつかって跳ね返されて対流したり、径外方向に拡散されて拡径空間の外周部に直接吹き付けられたりする。
【0010】
また、拡径空間の外周面には、中心軸に沿って複数の凹部が形成されており、凹部には上述の液化した切削液が溜まる。凹部は、中心軸と交差する方向に沿っており、即ち、拡径空間の外周部に吹き付けられる気流の方向や、対流の流れ方向と交差している。したがって、凹部に溜まった切削液は、対流する気流や直接吹き付けられる気流によって凹部の角部分からしぶきを上げるように径内方向に向けて飛沫し、再ミスト化する。仮に滴状に飛沫したとしても、径内方向に向けて飛沫するので、第2縮径部に流入する乱れの無い気流速度の速い切削液ミストの気流に弾かれて拡散し、切削液は確実に再ミスト化される。
【0011】
拡径部の下流には第2縮径部が備えられているので、再ミスト化した切削液ミストを含んだ切削液ミストの気流速度が加速され、ミスト同士が凝集しにくく、再液化が防止される。
【0012】
このように、本構成の工具ホルダであれば、再ミスト化を確実に図ることができ、安定した切削液ミストの供給が可能となる。
【0013】
本発明に係る工具ホルダの第二特徴構成は、前記第1縮径部及び前記第2縮径部は、前記流路断面積を徐々に絞るよう設定され、かつ、前記第1縮径部と前記拡径部との境界部分に第1段部を備えた点にある。
【0014】
本構成によると、第1縮径部及び第2縮径部は流路断面積を徐々に縮径するため、切削液ミストの気流は乱れにくく、円滑に流通し、効率よく気流速度が加速される。また、第1縮径部と拡径部との境界部分に第1段部が備えられているので、第1段部によって供給流路の流路断面積が急激に広がって、気流と供給流路との縁が切れ、気流は拡径部の表面に沿いにくい。この結果、切削液ミストの気流速度が落ちず、対流等が生じやすくなって、凹部に溜まった切削液の再ミスト化が促進される。
【0015】
本発明に係る工具ホルダの第三特徴構成は、前記拡径空間と前記第2縮径部との境界部分に第2段部を備えた点にある。
【0016】
本構成であれば、拡径空間に溜まった切削液が、その表面付近を流通する気流によって第2段部にぶつけられ、径内方向に向けて飛沫し、再ミスト化する。仮に滴状に飛沫したとしても、径内方向に向けて飛沫するので、第2縮径部に流入する気流速度の速い切削液ミストの気流に弾かれて拡散し、切削液は確実に再ミスト化される。
【0017】
本発明に係る工具ホルダの第四特徴構成は、前記第2段部における前記流路断面積は、少なくとも前記第1段部における前記流路断面積よりも大きい点にある。
【0018】
本構成によると、第2段部における流路断面積が第1段部における流路断面積よりも大きいので、第1段部から拡散した切削液ミストの気流を広い面積で受けることができ、切削液ミストは上流から下流方向へ円滑に流通する。
【0019】
本発明に係る工具ホルダの第五特徴構成は、前記中心軸の方向において、前記第2段部は位置変更可能である点にある。
【0020】
本構成であれば、切削液ミストの噴出量等に応じて、第2段部の中心軸の方向における位置を変更することにより、各条件において最適に再ミスト化を図ることが可能である。
【0021】
本発明に係る工具ホルダの第六特徴構成は、前記供給流路に対して挿入固定可能な筒状の絞り部材を備え、前記絞り部材の挿入側の端部に前記第2段部を備え、かつ、前記絞り部材の内周部に前記第2縮径部を形成した点にある。
【0022】
本構成であると、ホルダ本体の内部に複雑な加工を施すことなく、供給流路に絞り部材を挿入固定するだけで、供給流路に第2段部及び第2縮径部を備えることができる。
【0023】
本発明に係る工具ホルダの第七特徴構成は、前記絞り部材は捻じ込みによって前記供給流路に対して挿入固定可能であって、前記ホルダ本体の内周部に形成した捻じ込み用のネジ溝が前記凹部である点にある。
【0024】
通路状の孔の内部に複雑な形状を施すのは難しいところ、本構成であると、捻じ込み固定用のネジ溝が凹部を兼用するため、供給流路の加工が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る工具ホルダの側面図である。
【図2】工具ホルダの側断面図である。
【図3】拡径空間付近の断面図である。
【図4】拡径空間の外周部の拡大断面図である。
【図5】別実施形態における拡径空間付近の断面図である。
【図6】別実施形態に係る拡径空間の外周部における中間付近の拡大断面図である。
【図7】別実施形態に係る拡径空間の外周部における上流側付近の拡大断面図である。
【図8】別実施形態に係る拡径空間の外周部における下流側付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を回転式の工具ホルダに適用した例を図面に基づいて説明する。
【0027】
〔概要〕
工具ホルダは、図1に示すごとく、先端部に刃具Pを取り付け可能であって、工作機械主軸Bに挿入支持されるホルダ本体1と、ホルダ本体1の挿入側である後端部に取り付けられるプルボルト5と、を備えている。ホルダ本体1は、工作機械主軸Bに備えられた不図示のモータによって、「中心軸」としての回転軸芯X回りに回転駆動可能である。プルボルト5の外周面を凹入して保持部51を形成してある。工作機械主軸Bの側のクランプCによって保持部51を挿入方向に把持しながら内部側へ引っ張って、ホルダ本体1を工作機械主軸Bに保持してある。ホルダ本体1の先端部にチャック2を備えており、チャック2によって刃具Pはホルダ本体1から取り外し自在である。工具ホルダの後端側であるプルボルト5のミスト供給口53から切削液ミストMを供給し、切削作業中に刃具Pの先端部からワークに対して噴出可能である。
【0028】
以下、プルボルト5の側を「上流側」、「後端側」と称し、刃具Pの側を「下流側」、「先端側」と称する。
【0029】
〔チャック〕
図2に示すごとく、チャック2は、一般的な構成であり、大きくは、筒状の締付ナット21及び筒状のコレット22を備えている。締付ナット21は、ホルダ本体1に捻じ込み可能に外挿されている。締付ナット21を締め込むと、締付ナット21は回転軸芯Xの方向に沿って移動する。コレット22は、締付ナット21に対して相対回転可能に係止されつつ、回転軸芯Xに沿って摺動可能にホルダ本体1の内部に挿入されている。コレット22には、回転軸芯Xの方向に沿ったスリットが複数形成されている。締付ナット21を締め込むことにより、コレット22は、ホルダ本体1に対して相対回転することなく挿入され、ホルダ本体1の内部のテーパー面によるクサビ作用により径内方向に撓んで縮径される。この縮径により、コレット22の内部に挿入した刃具Pの全周を均一に挟持することできる。
【0030】
〔供給流路〕
切削液ミストMは、図2に示すごとく、プルボルト5の後端側のミスト供給口53から供給され、ホルダ本体1の内部に設けた供給流路10及び刃具Pの内部に設けた不図示の孔を流通し、刃具Pの先端部から噴出される。切削液ミストMは、不図示のミスト発生部において、切削液Lと圧縮空気との混合によって発生し、ある程度の気流速度を持ってミスト供給口53に圧送供給される。供給流路10は、プルボルト5の内部に穿孔した孔部52、第3ノズル6の内部に穿孔した孔部61、パイプ7、第1ノズル3の内部に穿孔した孔部31、拡径空間12、「絞り部材」としての第2ノズル4の内部に穿孔した孔部41によって構成されている。
【0031】
各部材の組付け方法としては、ホルダ本体1の内部に回転軸芯Xに沿った孔部11を穿孔し、その孔部11に対して先端側から、第1ノズル3、第2ノズル4を順に挿入固定し、後端側からパイプ7、第3ノズル6、プルボルト5を順に挿入固定する。
【0032】
孔部11のうち中央部分から先端部付近にかけてネジ溝13を形成してある。第1ノズル3及び第2ノズル4は、ホルダ本体1の孔部11に対して捻じ込みによって挿入固定可能であると共に、回転軸芯X方向における位置を自在に調整可能である。第1ノズル3及び第2ノズル4と、ホルダ本体1の孔部11との間には殆ど隙間はない。ネジ溝13は、拡径空間12の外周部において、回転軸芯Xとほぼ直交(交差)する方向に沿った形状で、回転軸芯Xに沿って複数形成されており、本発明に係る「凹部」に相当する。
【0033】
第1ノズル3の孔部31は回転軸芯Xに沿っており、上流側の端部における流路断面積が最も大きく、下流側に向けてテーパー状に徐々に縮径されている。孔部31のうち、テーパー状に縮径される部分が本発明に係る「第1縮径部32」に相当し、第1ノズル3の下流側の端部が本発明に係る「拡径部33」に相当する。また、拡径部33は回転軸芯Xとほぼ直交する面であり、孔部31の下流側の端縁は角張っている。この角張った部分が、本発明に係る「第1段部34」に相当する。
【0034】
第2ノズル4の孔部41は回転軸芯Xに沿っており、上流側の端部における流路断面積が最も大きく、下流側に向けてテーパー状に徐々に縮径され、下流側の端部付近から再びテーパー状に拡径されている。第2ノズル4を第1ノズル3と離間させて位置決めし、拡径空間12を構成してある。孔部41のうち、テーパー状に縮径される部分が、本発明に係る「第2縮径部42」に相当する。また、第2ノズル4の上流側の端部は、回転軸芯Xとほぼ直交する面であり、孔部41の上流側の端縁は角張っている。この角張った部分が、本発明に係る「第2段部43」に相当する。
【0035】
第2ノズル4の孔部41の拡径された部分に、全体的に弾性部材44を固着してある。チャック2で刃具Pを固定する際は、弾性部材44に当接するまで刃具Pを挿入する。これにより、孔部の拡径された部分を刃具Pの位置決め部材として使用しつつも、弾性部材44が緩衝材となって第2ノズル4と刃具Pとは互いにガタつかず、また、切削液ミストの漏れを防ぐことができる。
【0036】
第3ノズル6の孔部61は回転軸芯Xに沿っており、上流側の端部付近で、下流側に向けてテーパー状に縮径され、その後は一定の流路断面積を有している。パイプ7は、全長に亘って一定の流路断面積を有する。パイプ7は、孔部61に圧入されており、第3ノズル6とパイプ7とは一体となっている。ホルダ本体1の孔部11の中間付近に段差を形成し、その段差に対して後端側から挿入した環状のエンド部材8を係止させてある。
【0037】
第3ノズル6の外径は、ホルダ本体1の孔部11の内径よりも多少小さく設定してある。第3ノズル6及びパイプ7は、パイプ7にスプリング9を外装した状態で、ホルダ本体1の孔部11に挿入する。最後にプルボルト5をホルダ本体1の孔部11に捻じ込み固定し、第3ノズル6及びパイプ7がホルダ本体1の孔部から抜け出しを防いでいる。スプリング9が第3ノズル6とエンド部材8とに亘って配設されているので、スプリング9の付勢力によって、第3ノズル6はプルボルト5に接触するよう後端側に常時付勢され、プルボルト5と第3ノズル6との間に隙間が生じることはない。さらに、第3ノズル6の後端側の端部にはシール部材62が配設されているため、プルボルト5と第3ノズル6との間から切削液ミストMが漏れ出すことはない。
【0038】
パイプ7の外径は、第1縮径部32の上流側の外径よりも小さく、かつ、第1縮径部32の下流側の外径よりも大きい。よって、パイプ7の下流側の端部は第1縮径部32の内周面に嵌り込み、供給流路10は円滑に接続される。なお、工作機械主軸Bの仕様によってプルボルト5の回転軸芯Xの方向の長さが変更されることがある。特に、プルボルト5の長さが短くなった場合は、スプリング9の作用によってプルボルト5と第3ノズル6との間に隙間が生じることはないが、第3ノズル6及びパイプ7の全長が一定であるため、パイプ7と第1縮径部32との間に隙間が生じ得る。しかし、切削液ミストMの気流速度は速いため、切削液ミストMがその隙間から漏れ出すことは殆どない。
【0039】
供給流路10はこのように構成され、供給流路10の流路断面積は、ミスト供給口53から第3ノズル6の途中までにおいて一定であり、第3ノズル6の途中でテーパー状に絞られ、その後はパイプ7の下流側の端部まで一定である。さらに、その流路断面積は、第1縮径部32でテーパー状に絞られ、拡径部33で一気に拡張される。さらに、供給流路10の流路断面積は、拡径空間12においては一定であるが、第2段部43において再び一気に絞られ、第2縮径部42でテーパー状に絞られた後に、刃具Pの後端側の端面に対応するよう再度拡張される。
【0040】
なお、図2から明らかなように、拡径空間12における流路断面積は一番広く、第2段部43における流路断面積は、第1段部34の上流側及び第1段部34の流路断面積よりも大きい。
【0041】
〔切削液ミストの流通〕
図2に示すごとく、ミスト供給口53から供給された切削液ミストMは、下流側に向けて流通し、先ずは第3ノズル6の縮径部分において円滑に加速される。そして、その気流速度を維持しつつ流通し、第1縮径部32によってさらに円滑に加速される。
【0042】
作業中において工具ホルダは回転しているため、切削液ミストMには多少なりと遠心力が作用し、切削液ミストMは渦を巻きながら回転軸芯Xに沿って上流側から下流側に流通する。切削液ミストMの一部は、流通途中において供給通路の外周面に付着・堆積し、液化する。液化した切削液Lは、遠心力によって供給通路の外周面に貼り付きながら、切削液ミストMの気流によって下流側に押され、図3に示すごとく、拡径空間12の外周部に溜まる。即ち、拡径空間12に露出するネジ溝13に切削液Lが溜まる。切削液Lは、遠心力、切削液ミストMの気流、自身の表面張力等の影響により、図3及び図4に示すような表面形状となって、拡径空間12の外周部及び各ネジ溝13に溜まる。
【0043】
拡径空間12が孔部31に対してかなり広いため、拡径部33の気圧に対して孔部31の気圧の方が高まっている。したがって、第1縮径部32によって加速された切削液ミストMは、図3に示すごとく、孔部から拡径空間12に多少放射状に拡散しつつ勢い良く噴出す。この結果、回転軸芯X付近の気流はそのまま回転軸芯Xに沿って孔部41に向って直線的に流下するが、第2宿径部の勾配がきついので、一部の切削液ミストMは第2縮径部42にぶつかり、径外方向に向けて対流する。また、角張った第1段部34を備えているので、気流と供給流路10との縁が切れて、切削液ミストMが拡径部33に沿いにくく、上述の気流が生じやすい。
【0044】
図4に示すごとく、対流した切削液ミストMの気流がネジ溝13に溜まった切削液Lの表面を高速でかすめ通る。これにより、ネジ溝13の歯先において、切削液Lが巻き上げられて、しぶきを上げるように径内方向に飛沫し、再ミスト化する。仮に滴状に飛沫したとしても、径内方向に向けて飛沫するので、回転軸芯X付近を直進する乱れの無い、かつ、気流速度の速い切削液ミストMの気流に弾かれて拡散し、切削液Lは確実に再ミスト化される。
【0045】
なお、第2縮径部42によって供給流路10が縮径されるので、再ミスト化した切削液ミストMを含んだ切削液ミストMの気流速度が加速され、ミスト同士が凝集しにくく、再液化が防止される。
【0046】
また、第2ノズル4部が回転軸芯X方向に移動可能であるため、例えば、切削液ミストMの噴出量(噴出圧)を増加すると、気流の流れが若干変わる可能性があるが、第2ノズル4の位置を変えることによって、最適な再ミスト化を実現可能な状態に調整することができる。
【0047】
〔別実施形態〕
上述の実施形態よりも、第2ノズル4における第2縮径部42の勾配を緩く設定した例について図5乃至図8に基づいて説明する。その他の構成については上述の実施形態と同じであるため説明しない。なお、上述の実施形態の構成と同じ構成については同じ符号を付すこととする。
【0048】
第1縮径部32によって加速された切削液ミストMは、図5に示すごとく、孔部から拡径空間12に放射状に拡散しつつ勢い良く噴出す。この結果、上述の実施形態に示したような気流状態が生じることもあるが、回転軸芯X付近の気流がそのまま回転軸芯Xに沿って孔部41に向って直線的に流下し、かつ、一部の切削液ミストMがネジ溝13に対して吹き付けられると共に、他の一部の切削液ミストMが拡径部33に対して吹き返して対流する場合がある。この場合の気流の流れについて以下に詳述する。
【0049】
図6に示すごとく、回転軸芯X方向における拡径部33の中間付近では、ネジ溝13に溜まった切削液Lの表面に対して、拡散された切削液ミストMの気流が勢い良くぶつかり、また、高速でかすめ通る。これにより、ネジ溝13の歯先において、切削液Lが巻き上げられて、しぶきを上げるように径内方向に飛沫し、再ミスト化する。仮に滴状に飛沫したとしても、径内方向に向けて飛沫するので、第2縮径部42に向って直進する乱れの無い気流速度の速い切削液ミストMの気流に弾かれて拡散し、切削液Lは確実に再ミスト化される。
【0050】
図7に示すごとく、回転軸芯X方向における拡径部33の上流側付近でも同様に、対流する切削液ミストMの気流が、ネジ溝13に溜まった切削液Lを上流側へ巻き戻すように高速でかすめ通る。これにより、ネジ溝13の歯先において、切削液Lが巻き上げられてしぶきを上げるように径内方向に飛沫し、再ミスト化する。
【0051】
図8に示すごとく、回転軸芯X方向における拡径部33の下流側付近では、放射状に分散された切削液ミストMの気流が、回転軸芯X付近を流通する気流に合流するように径内方向に軌道修正しながら、ネジ溝13に溜まった切削液Lの表面を下流側へ押す。そして、第二段部において、切削液Lが巻き上げられてしぶきを上げるように径内方向に飛沫し、再ミスト化する。
【0052】
上述の実施形態と本実施形態とについての説明から分かるように、切削液ミストMの気流速度の変更だけで無く、第2縮径部42の勾配や、第1ノズル3と第2ノズル4との離間距離(拡径空間12の回転軸芯方向の長さ)等の諸条件の変更によっても、切削液ミストMの気流の流れが変わる可能性がある。しかし、本発明であると、どのような気流の流れが生じても、切削液ミストMの最適な再ミスト化が実現可能である。
【0053】
〔その他の別実施形態〕
(1)上述の実施形態では、本発明を回転式の工具ホルダに適用した例について説明したが、これに限られるものではない。本発明は、非回転式の工具ホルダに適用しても良い。
【0054】
(2)上述の実施形態では、刃具Pの先端部から切削液ミストMを噴出する構成としたが、刃具Pを取り付けずに、コレット22の先端部から切削液ミストMを噴出する構成であっても良い。
【0055】
(3)上述の実施形態では、「凹部」として第2ノズル4を捻じ込むためのネジ溝13を一例として挙げたが、これに限られるものではない。拡径空間12の外周部において、回転軸芯Xと略直交する方向に沿って、回転軸芯Xに沿って複数形成されている凹部であれば、例えば、周方向に沿って断片的に設けた凹部であっても良い。また、凹部と凸部とは表裏一体の関係にあり、凹部ではなく、凸部を形成してあっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、先端部に刃具を取り付け可能であるホルダ本体と、ホルダ本体の中心軸に沿ってホルダ本体の内部に設けられ、ホルダ本体の後端側から先端部に向けて切削液ミストを供給する供給流路とを備えた各種の工具ホルダに適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 ホルダ本体
4 第2ノズル(絞り部材)
10 供給通路
12 拡径空間
13 ネジ溝(凹部)
32 第1縮径部
33 拡径部
34 第1段部
42 第2縮径部
43 第2段部
X 回転軸芯(中心軸)
P 刃具
M 切削液ミスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に刃具を取り付け可能であるホルダ本体と、
前記ホルダ本体の中心軸に沿って前記ホルダ本体の内部に設けられ、前記ホルダ本体の後端側から前記先端部に向けて切削液ミストを供給する供給流路と、を備え、
前記供給流路に上流側から下流側に向けて順に、前記供給流路の流路断面積を絞る第1縮径部と、前記第1縮径部によって絞られた前記流路断面積を少なくとも前記第1縮径部の上流側の前記流路断面積よりも拡張する拡径部と、前記拡径部によって拡張された前記流路断面積を有する拡径空間と、前記拡径空間の前記流路断面積を絞る第2縮径部と、を備え、
前記拡径空間の外周部に、前記中心軸と交差する方向に沿った凹部を、前記中心軸に沿って複数形成してある工具ホルダ。
【請求項2】
前記第1縮径部及び前記第2縮径部は、前記流路断面積を徐々に絞るよう設定され、かつ、前記第1縮径部と前記拡径部との境界部分に第1段部を備えた請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項3】
前記拡径空間と前記第2縮径部との境界部分に第2段部を備えた請求項2に記載の工具ホルダ。
【請求項4】
前記第2段部における前記流路断面積は、少なくとも前記第1段部における前記流路断面積よりも大きい請求項3に記載の工具ホルダ。
【請求項5】
前記中心軸の方向において、前記第2段部は位置変更可能である請求項3または4に記載の工具ホルダ。
【請求項6】
前記供給流路に対して挿入固定可能な筒状の絞り部材を備え、
前記絞り部材の挿入側の端部に前記第2段部を備え、かつ、前記絞り部材の内周部に前記第2縮径部を形成してある請求項3から5の何れか一項に記載の工具ホルダ。
【請求項7】
前記絞り部材は捻じ込みによって前記供給流路に対して挿入固定可能であって、前記ホルダ本体の内周部に形成した捻じ込み用のネジ溝が前記凹部である請求項6に記載の工具ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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