説明

工具ポット及び工具マガジン

【課題】係合部材の配置自由度を向上することことができる工具ポット、及びそれを備えた工具マガジンの提供を目的とする。
【解決手段】工具ポット10は、工具ホルダ100のシャンク部102を収容するポット本体11を備えている。ポット本体11のシャンク収容孔15に略円柱状の支持体60が挿通されている。支持体60には内外に貫通するスリット65が形成されている。そのスリット65を介して、係合部材90が、シャンク収容孔15と支持体60によって区画形成されている空隙に突出している。係合部材90及びシャンク部102が係合することで、工具ホルダ100が工具ポット10に保持された状態となる。係合部材90は回動可能に軸支されており、その回動中心軸はシャンク収容孔15の軸方向と交差する方向に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具ポット及び工具マガジンに関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の工作機械においては、複数の工具(ツール)を待機させるための工具マガジンを備えているものが知られている。詳細には、工具マガジンには複数の工具ポットが設けられており、工具が取り付けられた工具ホルダを各工具ポットに保持させることで複数の工具が待機されている。工具ポットに保持された工具は、自動工具交換装置により工作機械の主軸に装着される。これにより、主軸に所望の工具を装着してワークを順次加工することが可能となっている。
【0003】
近年では、工作の高速化に対応して工具の保持剛性の向上が図られている。具体的には、工具ホルダの保持形態を1面拘束から2面拘束等に変更して、工具の保持をより一層確実なもとしている。ここで、2面拘束型の工具ホルダに対応した工具ポットの一般的な構成について図7の(a)を用いて説明する(例えば、特許文献1参照)。図7の(a)は工具ポット150の概略図である。工具ポット150は、筒状の本体160を有しており、その内部にはシャンク収容孔161と、支持体収容孔162とが連続的に設けられている。工具ホルダ165の着脱は、シャンク収容孔161の先端開口側から行なわれる。また、支持体収容孔162には円筒状をなす支持体170が収容されている。支持体170におけるシャンク収容孔161と対向する筒部171には、シャンク収容孔161に対して放射方向に延び内外に貫通した貫通孔172が複数設けられている(図7には1の貫通孔172のみを示す)。それら貫通孔172は外側で孔径が小さくなる窄み状をなし、各貫通孔172には係合部材としての鋼球173が支持体170の中心側から挿入されている。支持体170の内部には円柱状のスライドピン175が設けられており、このスライドピン175によって鋼球173の位置が規制されている。具体的には、鋼球173が貫通孔172から一部突出した状態で位置決めされている。また、スライドピン175は段差状に形成されており、スライドピン175が移動することで鋼球173が段差部位に嵌まり貫通孔172からの突出量が減少する。スライドピン175は、圧縮ばね180によって工具ホルダ165の挿入方向に向かって付勢されている。
【0004】
工具ホルダ165の基端側がシャンク収容孔161に押し込まれることで、工具ホルダ165のクランプ面166と鋼球173とが係合した状態となり、工具ホルダ165が工具ポット150に保持される。このような工具ホルダ165の保持状態においてスライドピン175が付勢力に抗して押し込まれることで、鋼球173の突出が抑えられ、クランプ面166と鋼球173との係合状態が解除される。これにより、工具ホルダ165を工具ポット150から取り外し容易な状態となる。
【特許文献1】特開平8−257861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の構成の工具ポットにおいては、支持体170が円筒状をなし、貫通孔172が外側で孔径が小さくなる窄み状をなしているため、その加工が困難であると考えられる。貫通孔172を支持体170(詳しくは筒部171)の外側から加工する場合、貫通孔172を奥側に向かって徐々に拡径させるには複数種類の工具と工程とが必要なる。このように加工過程が複雑化することで、作業性の悪化及びコストの増大が生じると懸念される。
【0006】
そこで一般的には、図7の(b)に示すように、工具孔174を介して貫通孔172の加工が行なわれることが多い。工具孔174は、支持体170における筒部171の中心軸線を挟んだ貫通孔172の反対側に形成されており、工具Tの挿入隙が確保されている。その工具孔174を介して工具Tを挿入することで、筒部171の内側からの貫通孔172の加工を容易なものとしている。かかる場合、工具孔174を設けることで、貫通孔172の設定位置が限定されやすくなると考えられる。すなわち、係合部材としての鋼球173の設定位置に対する制約が強まると想定される。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、係合部材の配置自由度を向上することことができる工具ポット、及びそれを備えた工具マガジンの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお以下においては、理解の容易のため、発明の実施の形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0009】
手段1.先端に工具が取り付けられた工具ホルダ(工具ホルダ100)の基端側が収容される収容凹部(シャンク収容孔15)と、
その収容凹部に収容された前記工具ホルダと係合されることにより、当該工具ツールの前記収容凹部からの抜け落ちを抑制する係合部材(係合部材90)と、
その係合部材を、前記収容凹部へ突出して前記工具ホルダに係合可能な第1位置、及びその第1位置よりも後退して前記係合状態を解除する第2位置に切替える切替え手段(移動体70)と、
を備え、
前記係合部材が回動可能に軸支されるとともに、前記切替え手段により前記係合部材の回動中心から偏心した位置が操作されることにより、前記係合部材が前記2位置間で回動されることを特徴とする工具ポット。
【0010】
手段1の工具ポットでは、係合部材が回動可能に軸支されている。係合部材は、切り替え手段によって操作されると、第1位置から第2位置の間で回動する。これにより、工具ホルダとの係合状態と係合解除状態とが切り替わる。係合部材においては、その軸支部分によって、位置変化及び抜け落ちの規制がなされている。このため、従来のような係合部材としての鋼球の抜け落ち防止のために孔径を変化させるといった構成が不要となる。故に、係合部材の配置自由度の向上に貢献することができる。また、工具ポットの製造工程の煩雑化を抑制することができる。
【0011】
工具ホルダの基端側が筒状をなし、その内周面と係合部材とが係合する構成においては特に、係合部材の変位を規制するための構成を簡素化できることで、係合部材の配置自由度の向上への貢献は顕著なものとなる。なお、工具ホルダにおける係合部材との係合部位は、その内周面に限定されるものではなく、その外周面であってもよい。
【0012】
手段2.前記係合部材が、
工具ホルダの装着方向と交差する方向に延びるとともに、前記工具ホルダを挿入した際に当該工具ホルダに回動中心から偏心した位置で当たる当接部(当接面93a)と、
前記工具ホルダに対して、その装着完了位置で係合する係合部(係合面92)と
を少なくとも備えていることを特徴とする手段1に記載の工具ポット。
【0013】
手段2によれば、当接部と係合部とを別々に設定した。工具ホルダは挿入された際に当接部に当たり、当接部が工具ホルダに接した状態で移動することで回動する。これにより係合部材が工具ホルダに対して係合可能な状態となる位置に切り替えられる。すわわち、当接部は係合部材を係合可能な状態に案内するガイド機能を有している。一方、装着完了位置においては、工具ホルダと係合部とが係合することで工具ホルダが工具ポットに保持された状態となる。すなわち、係合部には工具ホルダを保持するための機能が付与されている。このように、係合部材における異なる部位にそれぞれ個別の機能を付与することで、工具ホルダの装着作業性の担保と工具ホルダの保持機能の担保を好適に両立できる。
【0014】
手段3.前記係合部材の回動中心軸線(例えば支持ピン68及びピン孔91の中心軸線)は、前記工具ホルダの挿入方向と交差する方向に延びていることを特徴とする手段1又は手段2に記載の工具ポット。
【0015】
係合部材の回動中心軸線は、本手段に示すように、工具ホルダの挿入方向と交差する方向に延びる構成とするとよい。仮に、回動中心軸線の方向と工具ホルダの挿入方向とが同一方向となる構成とした場合、工具ホルダの挿入に伴った係合部材の移動を実現しにくくなる。また、工具ホルダが係合部材に当たった際に生じる負荷も大きくなると考えられる。これにより、作業性の担保及び係合部材(特にその軸部)の保護が困難になると想定される。本手段に示すように、回動中心軸線を挿入方向と交差させることで、工具ホルダの押し込みに対し係合部材を回動させやすくすることができる。これにより、作業性の担保及び係合部材の保護に貢献することができる。例えば、回動中心軸線が工具ホルダの挿入方向と直交する構成とすればよい。
【0016】
手段4.前記切り換え手段は、
前記工具ホルダの着脱方向においてスライド移動可能な移動体(移動体70)と、
前記係合部材及び前記移動体のうちいずれか一方に設けられている軸部(連結ピン75)と、
他方に設けられ、前記軸部を所定の方向にのみ移動可能な状態で収容する収容部(回動規制部94)と
を備えていることを特徴とする手段1乃至手段3のいずれか1つの手段に記載の工具ポット。
【0017】
手段4によれば、移動体のスライド移動に伴って、軸部が収容部内を移動する。予め軸部の移動可能な方向を所定の方向に規制しておくことで、移動体の動きの合せて係合部材が回動するというリンク構造を構築することができる。すなわち、係合部材と移動体との引っ掛かりを実現するには、本手段に示すように、軸部が収容部に嵌まった状態で所定の方向にのみ移動可能な構成とするとよい。
【0018】
手段5.前記移動体における工具ホルダ側の先端部位には前記工具ホルダに接触する接触部(当接面73a)が設けられ、前記接触部と前記工具ホルダとが当接した状態において、前記工具ホルダから前記係合部が離間していることを特徴とする手段4に記載の工具ポット。
【0019】
手段5によれば、移動体の押し込みに伴い係合部が工具ホルダから離間する。更に、移動体を押し込むことで、移動体の接触部が工具ホルダに当たる。工具ホルダの保持状態は解除されているので、移動体のスライド移動に伴って工具ホルダが工具ポットからの離脱方向に移動する。これにより、工具ホルダは、係合部と工具ホルダとの係合位置から離れるため、仮に移動体の押し込み操作を止めたとしても再び保持状態とならない。すなわち、一度所定の位置まで移動体を押し込んだ後は、その移動体を押し込み位置にて保持する必要が無い。このため、取り外し作業の効率化に貢献することができる。また、工具ホルダが移動することで保持状態が解除されたことを作業者に報知できるため、過度の押し込みによる係合部材等への負荷を抑えることができる。
【0020】
なお、切り替え手段が移動体を工具ホルダの装着方向へ付勢する付勢部材を備える構成とするとよい。保持状態が解除された後、移動体の押し込み操作を止めることで、移動体は付勢力によって初期位置に復帰する。すなわち、係合部材は回動し、初期位置に復帰する。かかる場合、係合部材が工具ホルダの周面に接触する構成とすればよい。これにより、保持状態が解除された後も、工具ホルダと係合部材との間に滑り摩擦による抵抗力が発生し易い状態とし、工具ホルダが不意に移動するといった不都合を抑制することができる。係合部材として鋼球を用いていた従来の構成においては、鋼球が工具ホルダと接触しても、鋼球自身が転がるため、転がり摩擦が発生することとなる。しかしながら、転がり摩擦による抵抗力は滑り摩擦による抵抗力と比較して非常に小さいため、上述したような不都合を抑制するだけの抵抗を発揮しにくい。摩擦を大きくしようとすれば、付勢力を大きくすることで対応可能であるが、これは工具ホルダ装着時の押し込み力の増加を招くおそれがある。故に、工具ホルダの装着時及び取り外し時の作業性の両立は困難であると考えられる。上述の如く、係合部材を回動可能とすることで、工具ホルダ装着時の負荷の増大を抑えつつ、工具ホルダ取り外しの作業性向上に貢献することが可能となる。
【0021】
手段6.前記係合部材の移動を規制する規制部(ストッパ部72や蓋体81)を有し、前記係合部材は、前記規制部によって規制された状態で前記第1位置かそれよりも突出している位置にあることを特徴とする手段1乃至手段5のいずれか1つの手段に記載の工具ポット。
【0022】
手段6によれば、係合部材の位置の設定を各状態で変更可能である。すなわち、工具ホルダを装着する前及び、装着完了後で係合部材の位置(以下第3位置という)を異なるものとすることができる。これにより、工具ホルダの装着しやすさと抜けにくさとの調整自由度の向上に貢献することができる。
【0023】
例えば、係合部材の位置が第3位置から第1位置に切り替わることで生じる突出量の差異によって、係合状態保持のための付勢力を生じさせるとよい。具体的にはバネ等の付勢手段によって、上述した突出量の差異による付勢力を発生させるとよい。
【0024】
手段7.前記工具ホルダの基端部は筒状をなし、
前記工具ホルダの筒状部分に内接する内側筒部(支持体60)が設けられており、
前記工具ホルダが前記工具ポットに保持された状態で、前記収容凹部の内周面と前記工具ホルダ外周面とが接触する工具ポットにおいて、
前記内側筒部は、その内外に貫通する開口部(スリット65)を有し、前記開口部を介して、前記係合部材が前記内側筒部の内外に突出しており、前記移動体が前記内側筒部の内部に挿通されていることを特徴とする手段4乃至手段6のいずれか1つの手段に記載の工具ポット。
【0025】
工具ホルダを収容凹部に収容した状態で、収容凹部の内周面及び内側筒部の外周面によって内外から接触させるとよい。これにより、工具ホルダ保持状態での安定性を向上することができる。かかる場合、移動体を有する構成においては、着脱時の作業性を向上できる反面、移動体の通過スペースが必要になる。このスペース確保に起因して、工具ホルダと壁部との接触面積を十分に確保できないことが懸念される。
【0026】
移動体を内側筒部の内部に収容することで、内側筒部の外周面と工具ホルダの内周面とを接触させることが容易となる(接触面積を担保しやすい)。これにより、工具ホルダの保持の安定性向上に貢献できる。
【0027】
手段8.前記工具ホルダの基端部が筒状をなすとともに前記収容凹部の内周面は円柱状をなし、
前記係合部材が、前記収容凹部の中心軸線を挟んで対向する位置に少なくとも1対設けられていることを特徴とする手段1乃至手段7のいずれか1つの手段に記載の工具ポット。
【0028】
手段8によれば、係合部材が収容凹部の中心軸線を挟んで対向する位置に設けられている(以下、対向配置という)。このように対向配置が可能なことで、工具ホルダの所定の方向への位置ばらつき、すなわち係合部材が並んでいる方向への位置ばらつきを一層好適に抑えることが可能である。
【0029】
係合部材として鋼球を用いる構成の場合、上述の如く開口部を加工するための工具孔を設けることで、対向配置は困難になると考えられる。しかしながら、本手段においては、開口部の加工を簡素化できるため、対向配置が容易となる。係合部材の配置自由度の向上に貢献し、より一層好適に工具ホルダの保持剛性を高めることが可能となる。
【0030】
また、手段7との組み合わせにおいては、各係合部材に対してそれぞれ移動体を設ける必要がなく、内側筒部の内部でスライド移動する移動体によって複数の係合部材を回動させることができる。これにより、構成の簡略化に貢献することができる。
【0031】
手段9.複数の工具ポットを備え、これら各工具ポットに工具を保持させることにより工作機器の主軸に取り付ける工具を待機させる工具マガジンであって、
前記各工具ポットを、手段1乃至手段8のいずれか1つの手段に記載の工具ポットとしたことを特徴とする工具マガジン。
【0032】
手段9によれば、工具マガジンに設けられたすべての工具ポットに関して、保持剛性を向上させることができる。さらに、製造効率の向上が実現されることで製造コストの低減を図ることができる。そして、これに伴って、複数の工具ポットを備える工具マガジンの製造コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、発明を具体化した実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は工具ポット10の側面図、図2は工具ポット10の平面図、図3は図2のA―A線断面図、図4は図3の部分拡大図、図5は保持機構50を主要構成部品毎に分解して示す分解斜視図である。
【0034】
工具ポット10は工具マガジンに取り付けられている。工具マガジンは、主軸に取り付けられたスライスカッタ,ドリル等の各種工具(ツール)を用いてワークを加工する工作機械に設けられている。工具マガジンには、多数の工具ポット10が設置されている。これら工具ポット10に各種工具を備えた工具ホルダ100が保持されていることにより、工具マガジンには工具が多数待機された状態となっている。そして、これら待機された工具ホルダ100は自動工具交換装置により主軸との間で自動交換される。
【0035】
工具ポット10は、上記のとおり工具ホルダ100を着脱可能に保持するためのものである。図3又は図4に示すように、工具ホルダ100は、所定工具の保持機能を有する本体部101と、工具ポット10に嵌まる略円筒状のシャンク部102とを備えている。シャンク部102は、本体部101から離れる方向に向けて徐々に縮径される先細り状をなしている。シャンク部102の内周面において、シャンク部102の先端側には、環状凸部103が設けられている。環状凸部103は、シャンク部102の開口縁に沿って延びるとともに、シャンク部102の内方に突出している。この環状凸部103によって、シャンク部102の軸方向と交差するクランプ面104が構成されている。クランプ面104が工具ポット10の内部にて引っ掛かることで、工具ホルダ100は工具ポット10に保持された状態となる。工具ホルダ100の装着についての詳細は後述する。
【0036】
工具ポット10は、ポット本体11と、工具ホルダ100を装着完了位置にて保持する保持機構50とを備えている。ポット本体11は、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂により略筒状に形成されている。ポット本体11には、その外壁に縦横に延びるリブ12が一体形成されており、その強度の向上が図られている(図1参照)。また、ポット本体11の外壁には周溝13が形成されており、この周溝13が工具マガジンに把持されることで、工具ポット10の工具マガジンへの装着がなされている。なお、周溝13に代えて工具マガジンに対する装着部を別途設けてもよい。
【0037】
再び図3等を用いて説明すれば、ポット本体11には、シャンク部102のほぼ全域が収容されるシャンク収容孔15が形成されている。シャンク収容孔15は先端開口16に向けて拡径されるテーパ状をなしており、先端開口16から工具ホルダ100のシャンク部102が挿入される。より詳しくは、シャンク収容孔15とシャンク部102とは略同一形状をなしており、両者がテーパ結合することで工具ホルダ100の移動が規制されている。
【0038】
シャンク収容孔15の基端側には連通孔17が形成されている。連通孔17は、シャンク収容孔15に対して同一軸線上で連なっており、ポット本体11の基端側(すなわち工具ホルダ100側と反対側)に開放されている。連通孔17には、前記保持機構50が基端開口18から挿入されて収容されている。また、連通孔17は、支持体60の基端側から所定の範囲内で基端側に向かって徐々に拡径されるテーパ状をなしており、支持体60の挿入作業の容易化が図られている。
【0039】
ここで、図2〜図5を用いて保持機構50について説明する。保持機構50は、略円筒状の支持体60と、支持体60に収容される移動体70とを備えている。
【0040】
支持体60は、略円筒状をなす筒部61と、その筒部61の一端部に形成され筒部61の放射方向に突出するフランジ部62とを備えている。以下、筒部61におけるフランジ部62が設けられた側を基端側とし、他方を先端側として説明する。筒部61の外径寸法は連通孔17の最小内径寸法とほぼ同一となっている。支持体60は連通孔17の基端開口18から挿入され、その先端側の端部がシャンク収容孔15内に突出している。かかる状態においては、支持体60の放射方向への移動が筒部61の外周面と連通孔17の内周面との接触によって抑えらされている。ポット本体11にはフランジ部62を収容する収容部19が基端開口18の縁部に沿って形成されており、フランジ部62が収容部19に嵌まることで、ポット本体11に対する支持体60の位置決めがなされている。具体的には、ポット本体11の軸方向での位置決めがなされている。なお、筒部61の外周に、基端開口18側から連通孔17とシャンク収容孔15との境界部位に向かって徐々に縮径されるテーパ面を形成することも可能である。そのテーパ面と連通孔17とをテーパ結合させることで、支持体60の連通孔17の中心軸線と直交する方向への移動を規制することができる。
【0041】
筒部61の外径寸法は、シャンク部102の環状凸部103の内径寸法とほぼ同等に設定されており、筒部61の外周面(当接面61a)が、シャンク部102の環状凸部103の周面と当接している。工具ホルダ100のシャンク部102は、当接面61aとポット本体11のシャンク収容孔15とによって内外から挟まれた状態となっている。これにより、工具ホルダ100が装着された際に工具ポット10内での位置ずれが好適に抑えられている。
【0042】
支持体60の内周面は段差状をなしている。詳述すれば、その内周面は、シャンク収容孔15側に形成された第1孔部63と、連通孔17側に形成された第2孔部64とで構成されている。図3に示すように、第1孔部63の内径寸法は第2孔部64の内径寸法よりも小さく設定されている。
【0043】
支持体60の孔部63,64には、金属製で棒状の移動体70が挿入されている。移動体70は図5等に示すように略円柱状の円柱部71と、その円柱部71の一方の端部に形成された段差状のストッパ部72とを備えている。以下、ストッパ部72側を移動体70の基端側、他方を移動体70の先端側と称する。移動体70の円柱部71の外径寸法は支持体60の第1孔部63の内径寸法とほぼ同等に設定されており、第1孔部63によって中心軸線と直交する方向への移動体70の移動が規制されている。
【0044】
ストッパ部72は円柱部71と同一中心軸線を有する円柱状をなし、その外径寸法は円柱部71の外径寸法よりも大きく設定されている。より詳しくは、第2孔部64の内径寸法よりも若干小さく設定されており、ストッパ部72は第2孔部64に嵌まった状態となっている。移動体70が支持体60に収容された状態においては、移動体70の円柱部71と支持体60の第2孔部64との間に円筒状の空間が区画形成されている。この区画形成された空間に、コイルバネ80が配置されている。具体的には、コイルバネ80に移動体70が挿通された状態となっている。コイルバネ80は、移動体70の軸線方向において両孔部63,64の段差部位とストッパ部72とに挟まれており、移動体70の軸心方向へ圧縮された状態となっている。これにより、移動体72が工具ホルダ100の装着方向へ付勢された状態となっている。
【0045】
図3に示すように、支持体60の基端側には、移動体70の工具ホルダ100の装着方向への移動を規制する蓋体81が設けられている。蓋体81は中央に蓋体開口部82を有する板状をなしている。蓋体開口部82は円形をなし、その円周縁に沿って複数の第1ボルト孔83が形成されている。一方、支持体60には軸線方向に延びる有底のボルト穴60aが形成されており、ボルト穴60aはボルト孔83に対して連通可能となっている。それら第1ボルト孔83及びボルト穴60aにボルト55がねじ込まれることで、支持体60と蓋体81とが締結されている。また蓋体81には、第1ボルト孔83よりも外側に複数の第2ボルト孔84が形成されている(図1参照)。一方、ポット本体11には軸線方向に延びる有底のボルト穴11aが形成されており、ボルト穴11aは第2ボルト孔84に対して連通可能となっている。これら第2ボルト孔84及びボルト穴11aにボルト56がねじ込まれることで、ポット本体11と蓋体81とが締結されている。換言すれば、保持機構50が蓋体81を介してポット本体11に固定されている。
【0046】
蓋体開口部82の孔径寸法は、ストッパ部72の外径寸法よりも小さく設定されており、移動体70のストッパ部72が蓋体81に当接している。これにより、移動体70の支持体60からの飛び出しが規制されている。また、蓋体開口部82を介してストッパ部72(移動体70)の押し込み操作が可能となっている。すなわち、ストッパ部72の基端側面は移動体70の操作部を構成している。ストッパ部72と蓋体81とが当接している状態においては、前記コイルバネ80は圧縮された状態となっている。換言すれば、移動体70は蓋体81に向かって、すなわち工具ホルダ100の装着方向と反対の方向に向かって常時付勢された状態となっている。
【0047】
次に、工具ホルダ100の工具ポット10からの脱落を防止する保持機構50の特徴的な構成について説明する。
【0048】
図5等に示すように、支持体60を構成する筒部61の先端側には、筒部61の軸線方向と同じ方向に延びるスリット65が複数(本実施の形態においては2つ)形成されている。スリット65は、筒部61の内外に貫通しているとともに、筒部61の先端方向に開放されている。このように、スリット65を内方,外方,先端方向の3方向に開放させることで、その加工性の向上に貢献している。また、スリット65は支持体60の中心軸線を挟んで対向するように配置されている。すなわち、両スリット65と支持体60の中心軸とは同一直線上に配置されている。各スリット65を挟んでそれら各スリット65の両側には相対向する板部66がそれぞれ設けられている。それら板部66の略中央には板部66と直交する丸孔67が形成されており、それら丸孔67には金属製の支持ピン68が挿通された状態で固定されている。
【0049】
支持ピン68には、図5等に示す、金属製の係合部材90が取り付けられている。より具体的には、係合部材90に形成されたピン孔91に支持ピン68が挿通されている。ピン孔91の内径は支持ピン68の外径とほぼ同等であり、係合部材90は支持ピン68の軸線を中心として回動可能な状態となっている。係合部材90はスリット65の隙間寸法よりも小さい厚み寸法を有する板材よりなり、板部66と平行に配置されている。係合部材90は、スリット65を介して回動することで、筒部61の内外に突出可能となっている。また、係合部材90はスリット65と同数(すなわち2つ)設けられており、それら一対の係合部材90は筒部61の中心軸線を含んだ同一の平面に配置されている。
【0050】
係合部材90は、シャンク部102と筒部61との間に区画形成された空隙に突出している。突出している係合部材90が、クランプ面104と係合することで、工具ホルダ100が工具ポット10に保持された状態となる。以下、係合部材90の主要な構成について説明する。
【0051】
係合部材90は、クランプ面104と対向し当該クランプ面104と係合する係合面92を備えている。係合面92は、係合部材90の回動軸線を中心とする弧状をなしており、その回動軸線(すなわち支持ピン68)は、クランプ面104よりもシャンク収容孔15の手前側(図3における下方)となるように配置されている。このため、係合部材90が所定の範囲内で回動した場合であっても、クランプ面104と係合面92との距離関係が変わりにくくなっている。換言すれば、両面92,204の係合状態が維持されやすくなっている。仮に係合部材90が工作機からの振動等によって若干回動したとしても、係合状態は担保される。
【0052】
係合部材90の回動中心から係合面92までの距離寸法を2倍した寸法は、両係合部材90の回動中心間の距離寸法、すなわち支持ピン68の中心軸線間の距離寸法よりも小さく設定されている。このため、係合部材90を対向して配置することで、両者の距離が自身の回動によって縮まりやすい構成となっているが、両係合部材90は干渉することなく互いに独立して回動しやすくなっている。
【0053】
係合部材90における、筒部61の外側に突出している部分には、工具ホルダ100の挿入時にシャンク部102の先端部位が当たる当接面93aが形成されている。当接面93aは、工具ホルダ100の装着方向と交差し、その装着方向に向かって徐々に外側に傾く傾斜状をなしている。工具ホルダ100がシャンク収容孔15の奥方に押し込まれることで、シャンク部102の先端部位が当接面93aを押すこととなる。当接面93aの傾斜によって、係合部材90が回動し、その突出量が減少する構成となっている。
【0054】
一方、係合部材90における、筒部61の内側に突出している部分には、係合部材90の回動範囲を規制する回動規制部94が形成されている。回動規制部94は、係合部材90の厚み方向に貫通する貫通孔で構成されている。また、回動規制部94は、回動中心軸線から放射方向に延びる長孔状をなしている。これに対応して、移動体70の先端部には回動規制部94に嵌まる連結ピン75が設けられている。連結ピン75の外径寸法は回動規制部94の短手方向の開口寸法と同等に形成されており、回動規制部94に嵌まった状態では、その回動規制部94の長手方向に移動可能となっている。
【0055】
より詳しくは、移動体70の先端部には、移動体70の軸方向と同じ方向に延びる板部73が複数(具体的には2つ)形成されている。両板部73は係合部材90と略平行で且つ相対向するとともに、所定隙間を隔てた状態で配置されている。両板部73の隙間寸法は係合部材90の厚み寸法よりも大きく設定されており、その隙間には係合部材90の一部、すなわち回動規制部94とその周辺部位が収容される構成となっている。各板部73には、自身に直交する丸孔74が回動規制部94に連通する位置に設けられている。それら丸孔74及び回動規制部94に連結ピン75が挿通された状態で、板部73に固定されている。このように回動規制部94に連結ピン75が嵌まることで、移動体70のスライド移動と係合部材90の回転移動とが連動する構成となっている。
【0056】
具体的には、移動体70の移動に伴い連結ピン75の位置が移動した際に、連結ピン75が回動規制部94の内周面に接触して変位することで、係合部材90も移動体70と同じ方向へ変位しようとする。しかしながら係合部材90は支持ピン68によって軸支されているため、その軸線を中心として回動する。すなわち、これら連結ピン75等によって構成されたリンク機構によって、移動体70の移動範囲による係合部材90の移動範囲の規制が行われる。
【0057】
図3等に示すように、工具ホルダ100の保持状態においては、移動体70が蓋体81に当たっている。このため、工具ホルダ100の装着方向への移動が抑えられている。上述の如く係合部材90と移動体70との動きはリンクしている。このため、工具ホルダ100との係合位置からの係合部材90の移動方向は一の方向に限定される。すなわち、係合が解除される方向へのみ回動可能となっている。また、移動体70はコイルバネ80によって工具ホルダ100の装着方向へ付勢されているため、係合部材90は係合位置に付勢された状態となっている。
【0058】
また、両板部73によって挟まれた空間は移動体70の軸線方向に所定の長さ寸法を有しており、係合部材90の回動を妨げない構成となっている。具体的には、移動体70の軸線方向における、丸孔74の中心軸線から両板部73の基端部までの距離寸法を、係合部材90(詳しくは係合面92)の半径寸法の2倍程度とすることで、係合部材90の可動隙を担保している。また、回動規制部94は放射方向に開放されている。これにより、メンテナンス等で移動体70を着脱する際には連結ピン75を取り外すことなく作業を行なうことができ、移動体70の着脱作業の煩雑化が抑制されている。
【0059】
なお、円柱部71に、両板部73によって挟まれた空間と連続する凹み等を形成することで、係合部材90の可動隙を担保することも可能である。また、係合部材90の回転角度が所定量に達した状態で、円柱部71と係合部材90とが接触するように可動隙を設定してもよい。これにより、係合部材90の回動範囲を制限し、回動規制部94からの連結ピン75の抜けを抑制することができる。
【0060】
板部73の先端部、すなわち工具ホルダ100の本体部101と対向する部分には、本体部101に当接可能な当接面73aが形成されている。移動体70が工具ホルダ100の離脱方向に向かってスライド移動することで、当接面73aが本体部101に当たる。係合部材90は、当接面73aが本体部101に当たった際に、本体部101と所定のクリアランスを担保可能な構成となっている。具体的には、当接面73aと本体部101とが当たった状態で、係合部材90における本体部101に対向する部位(対向面93b)は、本体部101に対して所定の隙間を担保する構成となっている。なお、係合部材90においては、係合面92と当接面93aと対向面93bとによってその周面が構成されており、全体として略扇状(略4半円状)をなしている。より詳細には、係合面92が当接面73a及び対向面93bによって挟まれた状態となっているが、係合部材90の形状はこれに限定されるものではない。係合部材の変形例についての詳細は後述する。
【0061】
次に、工具ポット10の組み立て作業について説明する。
【0062】
先ず、係合部材90が取り付けられた支持体60の第2孔部64にコイルバネ80を挿入する。その後、支持体60の孔部63,64に移動体70を挿入する。この際、移動体70の支持体60への押し込みによってコイルバネ80が圧縮される。このように支持体60に移動体70及びコイルバネ80を収めた状態で、蓋体81を支持体60にボルト55によって固定する。これにより、移動体70及びコイルバネ80が支持体60内に封入された状態となる。
【0063】
ユニット化された支持体60をポット本体11の基端開口18から挿入する。所定の位置まで押し込むことで、支持体60のフランジ部62がポット本体11の収容部19に当接し、支持体60におけるポット本体11の軸方向での位置決めがなされる。ここで、蓋体81とポット本体11とをボルト56により固定することで、支持体60がポット本体11に装着される。この後、移動体70の連結ピン75を係合部材90の回動規制部94に嵌めることで、工具ポット10の組み立てが完了する。
【0064】
ここで、図6を用いて、工具ポット10に対する工具ホルダ100の装着作業について説明する。図6は、工具ポット10を正面から見た状態での工具ホルダ100の着脱の様子を示す部分概略図であり、図6の(a)は工具ホルダ100と係合部材90とが接触した状態を示し、図6の(b)は工具ホルダ100の保持状態を示し、図6の(c)は工具ホルダ100の保持状態を解除した状態を示し、図6の(d)は工具ホルダ100の押し出し状態を示す。工具ホルダ100を装着する際には、図6の(a)→図6の(b)の順に作業が行われる。
【0065】
図6の(a)に示すように、工具ホルダ100のシャンク部102が、工具ポット10の先端開口16から挿入されると、シャンク部102の先端が係合部材90の当接面93aに接触する。そして、所定の力で工具ホルダ100を押し込むことで、シャンク部102の先端によって当接面93aが押され、係合部材90が工具ポット10の内側に回転移動する。これにより、移動体70は工具ホルダ100の装着方向とは逆の方向に移動される。かかる場合、移動体70が移動することでコイルバネ80が圧縮され、工具ホルダ100の押し込みに対して所定の抗力が発生する。工具ホルダ100を更に押し込むと、係合部材90が環状凸部103に乗り上げ、押し込み操作に対する抗力が緩和される。
【0066】
図6の(b)に示すように、工具ホルダ100の押し込み量が所定量に達すると、工具ホルダ100の本体部101とポット本体11の先端部とが接触し押し込みが規制される。これとほぼ同期して、係合部材90の環状凸部103への乗り上げが解除され、係合部材90が支持体60の外側に向かって回動する。係合部材90は初期位置に復帰するとともに、係合面92とクランプ面104とが係合する。結果として工具ホルダ100の装着方向及び離脱方向への移動が規制され、保持状態すなわち装着完了状態となる。
【0067】
次に、工具ホルダ100の取り外し作業について説明する。工具ホルダ100の取り外しの際には、図6の(c)→図6の(d)→図6の(a)の順に作業が行われる。図6(b)に示す装着完了状態から、蓋体81の蓋体開口部を介して移動体70を押し込むことで、移動体70はコイルバネ80の付勢力に抗して工具ホルダ100に向かって移動される。移動体70の移動に伴い、係合部材90が回動し、係合面92とクランプ面104との係合状態が解除される。すなわち、係合面92がクランプ面104から離間する(図6(c)参照)。
【0068】
移動体70をさらに押し込むことで、移動体70の当接面73aが工具ホルダ100の本体部101に当たる。図6の(d)に示すように、かかる状態においては工具ホルダ100の離脱方向への移動は規制されていないため、移動体70の移動に伴って工具ホルダ100も移動する。この状態まで移動体70を押し込んだ後その押し込みを止めると、移動体70は、コイルバネ80の付勢力によって蓋体81に接触する位置に復帰しようとする。かかる場合、移動体70の移動に伴い係合部材90も回動するが、係合部材90の回動は環状凸部103に乗り上げた位置で停止する。すなわち、係合解除状態が維持され、且つ係合部材90と環状凸部とが付勢力によって強干渉した状態となる。この後、工具ホルダ100を工具ポット10から引き抜くことで、工具ホルダ100の取り外しが完了する。
【0069】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の優れた効果を奏する。
【0070】
工具ホルダ100の保持手段としての係合部材90を軸支した状態で配置した。「開口部」としてのスリット65においては、係合部材90が回動する際の通過経路を担保するように形成されており、その形状の簡素化が図られている。すなわち、スリット65は支持体60の内外に貫通し、その大きさは支持体60の外側と内側とで同一となっている。このため、スリット65の加工を支持体60の外部から実施することが可能である。
【0071】
一般的に、工具ポットの係合部材としては鋼球が用いられることが多い。かかる構成においては、開口部をテーパ状又は球面状とすることで、鋼球の突出を許容しつつ壁部からの脱落防止が図られている。鋼球用の開口部を設けるには、壁部の外側からの加工では困難であると考えられる。そこで例えば、壁部を円筒状に形成し、円筒の内側からの加工が施される等している。より具体的には、壁部における開口部の設定位置の反対側に工具を挿入するための工具孔を形成し、その工具孔を介することで壁部の内側からの開口部の加工が実施されている。本実施の形態においては、スリット65の加工を支持体60の外側から行うことができるため、製造工程の簡略化を図り、製造コストの増加を抑えることができる。更に、工具孔等を必要としないことで、スリット65(すなわち係合部材90)の配置自由度の低下を抑制可能である。
【0072】
なお、スリット65を形成するための工具孔を別途必要としないため、支持体60の強度担保に貢献することができる。これにより、スリット65の配置自由度の低下を一層好適に抑えることができる。
【0073】
工具ホルダ100を装着する際には、シャンク部102の先端部が係合部材90の当接面93aに当たる。工具ホルダ100に対する当接面93aの傾斜角度によって、工具ホルダ100の装着時の負荷(以下、単に装着負荷という)を変更することができる。すなわち、コイルバネ80による付勢力以外の要因によって装着負荷の設定を変更することができる。また、係合部材90の突出量を一定としながら、当接面93aの傾斜角度を変更することも可能である。これにより、係合面92とクランプ面104との引っ掛かりを担保しつつ、装着負荷の設定を変更することができる。故に、工具ホルダ100の保持機能を担保しつつ、装着負荷を低減することが可能となっている。
【0074】
係合部材90が支持体60の軸心を挟んで対向する位置に設けられている。これにより、工具ホルダ100の位置ばらつきを好適に抑えることができる。特に、一方の係合部材90の係合位置を基端として、工具ホルダ100が回動するといった不都合を好適に抑えることができる。また、工具ホルダ100を装着する際に傾いた状態となり、シャンク部102とシャンク収容孔15及び支持体60とが強干渉することで、装着負荷が大きくなるといった不都合を抑制することができる。
【0075】
係合面92はピン孔91を中心とする円弧状をなしている。このため、仮に係合部材90が若干回動したとしても、クランプ面104と係合面92との距離は一定に保たれやすくなっている。すなわち、クランプ面104と係合面92の係合状態が維持されやすくなっている。例えば、工作機からの振動が工具マガジンを介して工具ポット10に伝わったとしても、係合部材90が振動により回動することで、係合状態が解除されるといった不都合を生じにくくすることができる。
【0076】
工具ホルダ100を工具ポット10から取り外す際には、移動体70のストッパ部72を工具ホルダ100の離脱方向に押し込めばよい。これにより、クランプ面104と係合面92との係合状態が解除される。本実施の形態においては特に、ストッパ部72を所定量以上に押し込むことで、工具ホルダ100が離脱方向に少し移動する。これにより、作業者は押し込み操作が十分であることを目視にて容易に確認できるため、作業性煩雑化を抑制できる。また、工具ホルダ100の移動がなされた後、押し込みを止めたとしても、係合状態が解除されたまま維持される。このため、ストッパ部72の押し込みを一度だけ行えばよく、その押し込み位置にて保持する必要が無い。このため、作業性の煩雑化を更に抑制することができる。
【0077】
工具ホルダ100の係合状態が解除された後は、所定の範囲で、環状凸部103と係合部材90とが接触した状態となる。より具体的には、コイルバネ80によって両環状凸部103及び係合部材90とが強干渉した状態となる。このため、工具ホルダ100の移動に対しては滑り摩擦抵抗が発生しやくなっている。工具ホルダ100は、係合状態が解除された後、摩擦抵抗によってその移動が抑えられているため、不意の移動が抑制されやすくなっている。
【0078】
移動体70は、押し込み操作によってスライド移動し、ポット本体11の基端側から突出しない構成となっている。また、移動体70を引き操作するための把持部等を必要としない構成となっている。このため、工具ポット10の小型化に貢献することができる。これにより、より多くの工具ポット10を工作機械に装着することが可能となる。故に、工作の態様に応じた工具ポット10の付け替え等を減らし、作業性を向上することができる。
【0079】
シャンク部102は支持体60及びシャンク収容孔15によって、内外から挟まれた状態となっている。より具体的には、シャンク部102の内周面は筒部61の外周面と接触しており、シャンク部102の外周面はシャンク収容孔15の内周面に接触した状態となっている。これにより、工具ホルダ100が装着された状態での、工具ポット10との接触面積の拡大が図られている。接触面積を確保することで、工具ホルダを保持状態した状態での安定性を向上することができる。
【0080】
支持体60を円筒状とし、その内部に移動体70を収納している。移動体70が支持体60の外部にてスライド移動する場合、支持体60とシャンク部102との接触面積の担保が困難となる。しかしながら、上述の如く、移動体70が支持体60とシャンク収容孔15との間に突出しない構成とすることで、上述したシャンク部102との接触面積の担保を容易なものとすることができる。
【0081】
係合部材90を1対設ける構成とし、それらがともに支持体60の内部に突出する構成とした。両係合部材90が支持体60の内部にて移動体70に引っ掛かることで、移動体70によって両者の回動を規制できる。複数の移動体によって複数の係合部材の回動を別途規制する場合と比較すれば、各係合部材90の回動を同期させることが容易である。このため、工具ホルダ100の装着際に、押し込み方向がずれたとしても、いずれかの係合部材90が十分に回動せず係合状態への以降がスムーズに行なわれないといった不都合を抑えることができる。
【0082】
また、1つの移動体70によって複数の係合部材90を回動させることが可能であるため、部品点数の増加を抑え、構成の煩雑化の回避に貢献することができる。
【0083】
なお、上述した実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0084】
(a)上記実施の形態においては、本発明における技術的思想を、基端部が筒状をなす工具ホルダ(いわゆる2面拘束型工具ホルダ)を収容する工具ポット10に適応したが、基端部が柱状をなす工具ホルダ(いわゆる1面拘束型工具ホルダ)を収容する工具ポットに適応してもよい。具体的には、工具ホルダ100の内周面に対して、係合部材90が係合することで工具ホルダ100を保持する構成としたが、工具ホルダの外周面に対して、係合部材が係合することで工具ホルダを保持する構成とすることも可能である。
【0085】
(b)上記実施の形態においては、移動体70をポット本体11の内部に押し込むことで工具ホルダ100の保持状態が解除される構成としたが、移動体70をポット本体11の外部に引っ張ることで工具ホルダ100の保持状態が解除される構成としてもよい。例えば、係合部材90の支持位置すなわち支持ピン68の位置を、クランプ面104と係合部材90との接触部位よりもシャンク収容孔15における奥方に設定するとよい。かかる場合、コイルバネ80による付勢方向を工具ホルダ100の離脱方向と同方向とすることが望ましい。このように付勢方向を変更することで、工具ホルダ100の保持状態を好適に維持することが可能となる。また、移動体70の基端側には、当該移動体70を把持する把持部を設けることが望ましい。把持部を設けることで、移動体70の引っ張り作業の容易化に貢献することができる。
【0086】
(c)上記実施の形態においては、係合部材90は扇状に限定されるものではない。工具ホルダ100を挿入する際に当たる当接部と、工具ホルダ100と係合する係合部とを少なくとも備えていればよい。例えば、円板状をなす構成としてもよいし、半円状をなす構成としてもよい。また、三角形等の多角形状をなす構成とすることも可能である。但し、円板状とする場合、係合部材の回動中心を構成するピン孔を円板の中心から外れた位置に設定することが望ましい。このように係合部材の中心をオフセットすることで、回動に起因する突出量の変化を担保することが可能となる。
【0087】
(d)上記実施の形態においては、「当接部」としての当接面93aが平面状をなす構成としたが、これを変更し、曲面状をなす構成とすることも可能である。
【0088】
「係合部」として係合面92を備える構成としたが、係合面92に代えて平面を備える構成としてもよい。係合面92の曲率が一定となる構成としたが、これを変更し、各部位において曲率が異なる構成とすることも可能である。例えば、当接面93aとの境界部位に向かって徐々に曲率が小さくなる構成とするとよい。これにより、係合部材90の回動時に、当接面93aと係合面92との境界部位がクランプ面104に引っ掛かるといった不都合を抑制することができる。
【0089】
(e)上記実施の形態においては、「切り替え手段」として移動体70を備える構成としたが、移動体70を備えない構成とすることも可能である。かかる場合、係合部材90に「付勢部材」を取り付けるとよい。また、コイルバネ80に代えて、板バネ等を用いることも可能である。
【0090】
(f)上記実施の形態においては、係合部材90を2つ設けたが、その個数は2つに限定されるものではない。例えば、1つ設けてもよいし、3つ設けてもよいし、4つ以上設けてもよい。
【0091】
(g)上記実施の形態においては、移動体70に「軸部」としての連結ピン75を設け、係合部材90に「収容部」としての回動規制部94を設けた。これを以下のように変更してもよい。すなわち、移動体70に凹部等の収容部を設け、係合部材90に突起等の軸部
を設けてもよい。
【0092】
(h)上記実施の形態においては、回動規制部94が係合部材90の放射方向に開放されているが、開放されていないくてもよい。例えば、回動規制部94に代えて、長孔や溝状の凹部を設けることも可能である。
【0093】
(i)上記実施の形態においては、工具ホルダ100が保持された状態で、シャンク部102はシャンク収容孔15の周面及び筒部61の外周面に接触する構成とした。これを以下のように、変更してもよい。すなわち、シャンク部102がシャンク収容孔15の周面及び筒部61の外周面のうち少なくとも一方にのみ接触する構成とすることも可能である。
【0094】
(j)上記実施の形態においては、ポット本体11と支持体60とを別体で設けたが、これら両者を一体で設けることも可能である。例えば、高強度の合成樹脂材料やアルミ等の金属材料によって、両者を一体成形することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】工具ポットの側面図である。
【図2】工具ポットの平面図である。
【図3】図2のA―A線断面図である。
【図4】図3の部分拡大図である。
【図5】保持機構を主要部品毎に分解して示す分解斜視図である。
【図6】工具ポットを正面からみた状態での工具ホルダの着脱時の様子を示す部分概略図である。
【図7】課題を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0096】
10…工具ポット、11…ポット本体、15…収容凹部としてのシャンク収容孔、17…連通孔、50…保持機構、60…支持体、61…円筒部、62…フランジ部、65…開口部としてのスリット、68…支持ピン、70…切り替え手段を構成する移動体、71…円柱部、72…操作部としてのストッパ部、75…連結ピン、80…付勢部材としてのコイルバネ、81…規制部としての蓋体、82…開口部、90…係合部材、91…ピン孔、92…係合部としての曲面、93a…当接部としての対向面93b…平面、94…収容部としての回動規制部、100…工具ホルダ、101…本体部、102…シャンク部、103…環状凸部、104…クランプ面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に工具が取り付けられた工具ホルダの基端側が収容される収容凹部と、
その収容凹部に収容された前記工具ホルダと係合されることにより、当該工具ツールの前記収容凹部からの抜け落ちを抑制する係合部材と、
その係合部材を、前記収容凹部へ突出して前記工具ホルダに係合可能な第1位置、及びその第1位置よりも後退して前記係合状態を解除する第2位置に切替える切替え手段と、
を備え、
前記係合部材が回動可能に軸支されるとともに、前記切替え手段により前記係合部材の回動中心から偏心した位置が操作されることにより、前記係合部材が前記2位置間で回動されることを特徴とする工具ポット。
【請求項2】
前記係合部材が、
工具ホルダの装着方向と交差する方向に延びるとともに、前記工具ホルダを挿入した際に当該工具ホルダに回動中心から偏心した位置で当たる当接部と、
前記工具ホルダに対して、その装着完了位置で係合する係合部と
を少なくとも備えていることを特徴とする請求項1に記載の工具ポット。
【請求項3】
前記切り換え手段は、
前記係合部材の回動中心軸線は、前記工具ホルダの挿入方向と交差する方向に延びていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の工具ポット。
【請求項4】
前記工具ホルダの着脱方向においてスライド移動可能な移動体と、
前記係合部材及び前記移動体のうちいずれか一方に設けられている軸部と、
他方に設けられ、前記軸部を所定の方向にのみ移動可能な状態で収容する収容部と
を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つの請求項に記載の工具ポット。
【請求項5】
前記工具ホルダの基端部は筒状をなし、
前記工具ホルダの筒状部分に内接する内側筒部が設けられており、
前記工具ホルダが前記工具ポットに保持された状態で、前記収容凹部の内周面と前記工具ホルダ外周面とが接触する工具ポットにおいて、
前記内側筒部は、その内外に貫通する開口部を有し、前記開口部を介して、前記係合部材が前記内側筒部の内外に突出しており、前記移動体が前記内側筒部の内部に挿通されていることを特徴とする請求項4に記載の工具ポット。
【請求項6】
前記工具ホルダの基端部が筒状をなすとともに前記収容凹部の内周面は円柱状をなし、
前記係合部材が、前記収容凹部の中心軸線を挟んで対向する位置に少なくとも1対設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つの請求項に記載の工具ポット。
【請求項7】
複数の工具ポットを備え、これら各工具ポットに工具を保持させることにより工作機器の主軸に取り付ける工具を待機させる工具マガジンであって、
前記各工具ポットを、請求項1乃至請求項6のいずれか1つの請求項に記載の工具ポットとしたことを特徴とする工具マガジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−83066(P2009−83066A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257988(P2007−257988)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(591140813)株式会社カテックス (11)
【Fターム(参考)】