説明

工業用殺菌剤およびそれを用いた殺菌方法

【課題】水に対する溶解性が良好で、pH8.0を超過する適用対象に適用しても、優れた安定性を維持して、長期にわたって、細菌、カビ、酵母に対する優れた殺菌性を発揮することのできる工業用殺菌剤、および、その工業用殺菌剤を用いた殺菌方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるイミダゾリウム塩を含む本発明の工業用殺菌剤を、pH8.0を超過する産業用水や工業製品に適用する。本発明の工業用殺菌剤は、水に対する溶解度が高く、pH8.0を超過する適用対象に適用しても、優れた安定性を維持して、長期にわたって、細菌、カビ、酵母などに対して優れた殺菌性を発揮することができる。そのため、本発明の殺菌方法によれば、pH8.0を超過する産業用水や工業製品においても、安定した殺菌を実現することができるので、長期にわたって、生産性や品質の低下、悪臭の発生などを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用殺菌剤およびそれを用いた殺菌方法、詳しくは、pHが8.0を超過する適用対象に用いられる工業用殺菌剤、および、それを用いた殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の工業製品には、細菌、カビ、酵母などの有害な微生物が繁殖しやすく、生産性や品質の低下、悪臭の発生などの原因になっている。そのため、工業製品には、細菌、カビ、酵母に対して殺菌効果を発現する種々の工業用殺菌剤を添加することが広く知られている。
このような工業用殺菌剤として、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下、Cl−MITと省略する。)や2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下、MITと省略する。)などのイソチアゾリン化合物を添加することが広く知られている。
【0003】
また、このような工業用殺菌剤として、例えば、1,3−ジ−n−ドデシル−2−メチル−イミダゾリウムブロミドなどを使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭51−115476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、塗料などに用いられるアクリル系エマルションなどは、例えば、pH8.0を超過するアルカリ性に調整されている場合があり、このようなアルカリ性のアクリル系エマルションにも使用できる工業用殺菌剤が望まれている。
しかし、Cl−MITでは、適用対象がアルカリ性の場合には、添加後長期間経過すると、Cl−MIT自体が分解するという不具合がある。
【0005】
また、MITでは、細菌に対する殺菌性を有するものの、カビおよび酵母に対する殺菌性を有しないため、単独ではなく、通常、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下、OITと省略する。)と併用されるところ、OITが疎水性であるため、MITおよびOITが併用された工業用殺菌剤の水に対する溶解性が不良であるという不具合がある。
【0006】
また、特許文献1には、1,3−ジ−n−ドデシル−2−メチル−イミダゾリウムブロミドは、細菌に対する殺菌性を有することが記載されており、その最適な使用として、弱酸性〜中性(pH4〜8)の適用対象が記載されているものの、pH8.0を超過する適用対象における使用については、言及されていない。
そこで、本発明の目的は、水に対する溶解性が良好で、pH8.0を超過する適用対象に適用しても、優れた安定性を維持して、長期にわたって、細菌、カビ、酵母に対する優れた殺菌性を発揮することのできる工業用殺菌剤、および、その工業用殺菌剤を用いた殺菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、pH8.0を超過する適用対象に適用しても、優れた安定性を維持して、長期にわたって、細菌、カビ、酵母などに対して優れた殺菌性を発揮することのできる工業用殺菌剤、および、それを用いた殺菌方法について鋭意検討したところ、pH8.0を超過する適用対象に、イミダゾリウム塩を適用すると、上記した課題を解決できるとの知見を見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) イミダゾリウム塩を含み、pH8.0を超過する適用対象に適用されることを特徴とする、工業用殺菌剤、
(2) 前記イミダゾリウム塩が、下記一般式(1)で示されることを特徴とする、上記(1)に記載の工業用殺菌剤、
【0009】
【化1】

(一般式(1)中、R1およびR3は、同一または相異なって、水素または炭素数1〜18の炭化水素基を、R2は、水素または炭素数1〜12の炭化水素基を、X-はアニオンを示す。)
(3) 上記一般式(1)中のR1およびR3のうち、いずれか一方は、炭素数8〜18のアルキル基であり、他方は、炭素数7〜10のアラルキル基であることを特徴とする、上記(2)に記載の工業用殺菌剤、
(4) 適用対象のpHが、8.0を超過し、10.0以下であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の工業用殺菌剤、
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の工業用殺菌剤を用いて、pH8.0を超過する適用対象を殺菌することを特徴とする、殺菌方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の工業用殺菌剤は、水に対する溶解度が良好であって、pH8.0を超過する適用対象に適用しても、優れた安定性を維持して、長期にわたって、細菌、カビ、酵母などに対して優れた殺菌性を発揮することができる。そのため、本発明の殺菌方法によれば、pH8.0を超過する適用対象においても、安定した殺菌を実現することができるので、pH8.0を超過する適用対象において、長期にわたって、生産性や品質の低下、悪臭の発生などを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の工業用殺菌剤は、イミダゾリウム塩を含んでいる。
このようなイミダゾリウム塩は、イミダゾリウムのカチオンと、アニオンとから形成される塩であって、例えば、下記一般式(1)で示される。
【0012】
【化2】

(一般式(1)中、R1およびR3は、同一または相異なって、水素または炭素数1〜18の炭化水素基を、R2は、水素または炭素数1〜12の炭化水素基を、X-はアニオンを示す。)
一般式(1)の式中、R1およびR3で示される炭素数1〜18の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数2〜18のアルキニル基、炭素数3〜18のシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基などが挙げられる。
【0013】
炭素数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、iso−ペンチル、sec−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、イソデシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどの炭素数1〜18のアルキル基が挙げられる。
【0014】
炭素数2〜18のアルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、メタリル、イソプロペニル、1−プロペニル、2−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプチニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニルなどの炭素数2〜18のアルケニル基が挙げられる。
【0015】
炭素数2〜18のアルキニル基としては、例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、へプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、テトラデシニル、ヘキサデシニル、オクタデシニルなどの炭素数2〜18のアルキニル基が挙げられる。
炭素数3〜18のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル、シクロドデシル、シクロテトラデシル、シクロヘキサデシル、シクロオクタデシルなどの炭素数3〜18のシクロアルキル基が挙げられる。
【0016】
炭素数6〜18のアリール基としては、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アズレニルなどの炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。
炭素数7〜18のアラルキル基としては、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、1−フェニルプロピル、2−フェニルプロピル、3−フェニルプロピル、ジフェニルメチル、o、mまたはp−メチルベンジル、o、mまたはp−エチルベンジル、o、mまたはp−イソプロピルベンジル、o、mまたはp−tert−ブチルベンジル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−または3,5−ジメチルベンジル、2,3,4−、3,4,5−または2,4,6−トリメチルベンジル、5−イソプロピル−2−メチルベンジル、2−イソプロピル−5−メチルベンジル、2−メチル−5−tert−ブチルベンジル、2,4−、2,5−または3,5−ジイソプロピルベンジル、3,5−ジ−tert−ブチルベンジル、2,6−ジイソプロピル−4−tert−ブチルベンジル、4−イソプロピル−2,6−ジ−tert−ブチルベンジル、1−(2−メチルフェニル)エチル、1−(3−メチルフェニル)エチル、1−(4−メチルフェニル)エチル、1−(2−イソプロピルフェニル)エチル、1−(3−イソプロピルフェニル)エチル、1−(4−イソプロピルフェニル)エチル、1−(2−tert−ブチルフェニル)エチル、1−(4−tert−ブチルフェニル)エチル、1−(2−イソプロピル−4−メチルフェニル)エチル、1−(4−イソプロピル−2−メチルフェニル)エチル、1−(2,4−ジメチルフェニル)エチル、1−(2,5−ジメチルフェニル)エチル、1−(3,5−ジメチルフェニル)エチル、1−(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)エチルなどの炭素数7〜18のアラルキル基が挙げられる。
【0017】
一般式(1)の式中、R1およびR3において、好ましくは、これらのうち、いずれか一方は、炭素数8〜18のアルキル基であり、他方は、炭素数7〜10のアラルキル基である。
R1およびR3のいずれか一方の、炭素数8〜18のアルキル基としては、例えば、上記した炭素数1〜18のアルキル基のうちの、炭素数が8〜18のアルキル基が挙げられ、好ましくは、ドデシルが挙げられる。
【0018】
R1およびR3のいずれか他方の、炭素数7〜10のアラルキル基としては、例えば、上記した炭素数7〜18のアラルキル基のうちの、炭素数7〜10のアラルキル基が挙げられ、好ましくは、ベンジルが挙げられる。
一般式(1)の式中、R2で示される炭素数1〜12の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基などが挙げられる。
【0019】
炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、上記したR1およびR3で示される炭素数1〜18のアルキル基のうちの、炭素数が1〜12のアルキル基と同様のものが挙げられる。
炭素数2〜12のアルケニル基としては、例えば、上記したR1およびR3で示される炭素数2〜18のアルケニル基のうちの、炭素数が2〜12のアルケニル基と同様のものが挙げられる。
【0020】
炭素数2〜12のアルキニル基としては、例えば、上記したR1およびR3で示される炭素数2〜18のアルキニル基のうちの、炭素数2〜12のアルキニル基と同様のものが挙げられる。
炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えば、上記したR1およびR3で示される炭素数3〜18のシクロアルキル基のうちの、炭素数が3〜12のシクロアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0021】
炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、上記したR1およびR3で示される炭素数6〜18のアリール基のうちの、炭素数が6〜12のアリール基と同様のものが挙げられる。
炭素数7〜12のアラルキル基としては、例えば、上記したR1およびR3で示される炭素数7〜18のアラルキル基のうちの、炭素数7〜12のアラルキル基と同様のものが挙げられる。
【0022】
これらのうち、R2としては、好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、メチルが挙げられる。
一般式(1)の式中、X-で示されるアニオンは、例えば、1価のアニオンであって、このような1価のアニオンとしては、例えば、無機アニオン、有機アニオンが挙げられる。
【0023】
無機アニオンとしては、例えば、ハロゲンイオン(例えば、F-、Cl-、Br-、I-など)、ヨウ素酸イオン(IO3-)、臭素酸イオン(BrO3-)、塩素酸イオン(ClO3-)、過ヨウ素酸イオン(IO4-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、硝酸イオン(NO3-)、亜硝酸イオン(NO2-)、テトラフルオロボレートイオン(BF4-)、ヘキサフルオロフォスフェートイオン(PF6-)などが挙げられる。
【0024】
有機アニオンとしては、例えば、遊離の有機カルボン酸や遊離の有機スルホン酸などの遊離の有機酸などが挙げられる。
遊離の有機カルボン酸としては、例えば、蟻酸イオン(HCOO-)、酢酸イオン(CH3COO-)、プロピオン酸イオン(C25COO-)などの飽和カルボン酸イオン、例えば、アクリル酸イオン(CH2=CHCOO-)、メタクリル酸イオン(CH2=C(CH3)COO-)などの不飽和カルボン酸イオンなどが挙げられる。
【0025】
遊離の有機スルホン酸としては、例えば、メチル硫酸イオン((CH3)SO4-)、エチル硫酸イオン((C25)SO4-)、ベンゼンスルホン酸イオン(C64SO3-)、メチルベンゼンスルホン酸イオン(CH364SO3-)などが挙げられる。
-で示されるアニオンのうち、好ましくは、1価の無機アニオンが挙げられ、さらに好ましくは、ハロゲンイオンが挙げられ、とりわけ好ましくは、Cl-、Br-が挙げられる。
【0026】
イミダゾリウム塩は、単独または併用して用いられる。
また、このようなイミダゾリウム塩は、イミダゾリウムのカチオンと、アニオンとから形成される塩であるため、通常、水溶性であって、25℃における溶解度は、例えば、1〜1000g/水100g、好ましくは、10〜500g/水100gである。
本発明の工業用殺菌剤において、イミダゾリウム塩としては、具体的には、例えば、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムブロマイド、1−テトラデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキサデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロライド、1−オクタデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムブロマイド、1−ベンジル−2−ウンデシル−3−メチルイミダゾリウムメチルサルフェート、1−ドデシル−2−フェニル−3−エチルイミダゾリウムエチルサルフェート、1−ベンジル−2−フェニル−3−ドデシルイミダゾリウムクロライド、1,2−ジベンジル−3−オクタデシルイミダゾリウムブロマイド、1−オクチル−2−メチル−3−メチルイミダゾリウムトルエンスルホネート、1−ドデシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムアイオダイド、1,3−ジドデシル−2−メチルイミダゾリウムブロマイド、1,3−ジドデシル−2−メチルイミダゾリウムクロライド、1,2−ジメチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェートなどが挙げられる。好ましくは、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムブロマイド、1−テトラデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキサデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライドが挙げられ、さらに好ましくは、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライドが挙げられる。
【0027】
このようなイミダゾリウム塩は、例えば、特開昭51−115476号公報の記載に準拠して製造することができる。
本発明の工業用殺菌剤は、上記したイミダゾリウム塩をそのまま単独で用いることができる。また、工業用殺菌剤の製造時に、イミダゾリウム塩以外の有効成分や添加剤などをさらに添加して用いることもできる。
【0028】
上記したイミダゾリウム塩以外の有効成分としては、特に制限されず、その用途および目的に応じて、例えば、抗菌、殺菌、防腐、防カビ、殺酵母、防藻のうち、少なくともいずれかの効力を有する有効成分が挙げられる。
このような有効成分としては、特に制限されず、例えば、ヨウ素系化合物、トリアゾール系化合物、スルファミド系化合物、ビス四級アンモニウム塩系化合物、四級アンモニウム塩系化合物、フタロニトリル系化合物、ジチオール系化合物、チオフェン系化合物、チオカルバメート系化合物、ニトリル系化合物、フタルイミド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、尿素系化合物、イミダゾール系化合物(イミダゾリウム塩を除く。)、ニトロアルコール系化合物、フェニルウレア系化合物などが挙げられる。
【0029】
ヨウ素系化合物としては、例えば、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート(慣用名:IPBC)、p−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール(商品名:IF−1000、長瀬産業(株)製)、1−[[(3−ヨード−2−プロピニル)オキシ]メトキシ]−4−メトキシベンゼン、3−ブロモ−2,3−ジヨード−2−プロペニルエチルカーボネート(商品名:サンプラス、(株)三共製)などが挙げられる。
【0030】
トリアゾール系化合物としては、例えば、1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−4−n−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(慣用名:プロピコナゾール)、α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名:テブコナゾール)、α−(4−クロロフェニル)−α−(1−シクロプロピルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名:シプロコナゾール)、1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(慣用名:アザコナゾール)などが挙げられる。
【0031】
スルファミド系化合物としては、例えば、N−ジクロロフルオロメチルチオ−N',N'−ジメチル−N−フェニルスルファミド(商品名:プリベントールA4/S、バイエル製)、N−ジクロロフルオロメチルチオ−N',N'−ジメチル−N−4−トリルスルファミド(商品名:プリベントールA5、バイエル製)などが挙げられる。
ビス四級アンモニウム塩系化合物としては、例えば、N,N'−ヘキサメチレンビス(4−カルバモイル−1−デシルピリジニウムブロマイド)(商品名:ダイマー38、イヌイ(株)製)、N,N'−ヘキサメチレンビス(4−カルバモイル−1−デシルピリジニウムアセテート)(商品名:ダイマー38A、イヌイ(株)製)、4,4'−(テトラメチレンジカルボニルジアミノ)ビス(1−デシルピリジニウムブロマイド)(商品名:ダイマー136、イヌイ(株)製)、4,4'−(テトラメチレンジカルボニルジアミノ)ビス(1−デシルピリジニウムアセテート)(商品名:ダイマー136A、イヌイ(株)製)などが挙げられる。
【0032】
四級アンモニウム塩系化合物としては、例えば、ジ−n−デシル−ジメチルアンモニウムクロライド、1−ヘキサデシルピリジニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、コータミンD10EPR(花王(株)製)などが挙げられる。
フタロニトリル系化合物としては、例えば、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル(商品名:ノプコサイドN−96、サンノプコ(株)製)などが挙げられる。
【0033】
ジチオール系化合物としては、例えば、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オンなどが挙げられる。
チオフェン系化合物としては、例えば、3,3,4−トリクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシドなどが挙げられる。
【0034】
チオカルバメート系化合物としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。
ニトリル系化合物としては、例えば、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリルなどが挙げられる。
フタルイミド系化合物としては、例えば、N−1,1,2,2−テトラクロロエチルチオ−テトラヒドロフタルイミド(Captafol)、N−トリクロロメチルチオ−テトラヒドロフタルイミド(Captan)、N−ジクロロフルオロメチルチオフタルイミド(Fluorfolpet)、N−トリクロロメチルチオフタルイミド(Folpet)などが挙げられる。
【0035】
ハロアルキルチオ系化合物としては、例えば、N−ジメチルアミノスルホニル−N−トリル−ジクロロフルオロメタンスルファミド(Tolylfluanide)、N−ジメチルアミノスルホニル−N−フェニル−ジクロロフルオロメタンスルファミド(Dichlofluanide)、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−N、N'−ジメチル−N−フェニル−スルファミドなどが挙げられる。
【0036】
ピリジン系化合物としては、例えば、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジンなどが挙げられる。
ピリチオン系化合物としては、例えば、ジンクピリチオン、ナトリウムピリチオンなどが挙げられる。
ベンゾチアゾール系化合物としては、例えば、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0037】
トリアジン系化合物としては、例えば、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジンなどが挙げられる。
グアニジン系化合物としては、例えば、1,6−ジ−(4'−クロロフェニルジグアニド)−ヘキサン、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩などが挙げられる。
尿素系化合物としては、例えば、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレアなどが挙げられる。
【0038】
イミダゾール系化合物としては、上記したイミダゾリウム塩を除いたものであって、例えば、メチル−2−ベンズイミダゾールカルバメート(慣用名:MBC)、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾールなどが挙げられる。
ニトロアルコール系化合物としては、例えば、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノールなどが挙げられる。
【0039】
フェニルウレア系化合物としては、例えば、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレアなどが挙げられる。
これら有効成分は、単独または併用して用いられる。
上記の添加剤としては、特に制限されず、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、光安定剤などが挙げられる。
【0040】
界面活性剤としては、特に制限されず、例えば、石鹸類、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン界面活性剤、高分子界面活性剤など、公知の界面活性剤が挙げられ、好ましくは、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、酸化エチレンと酸化プロピレンとのブロック共重合物、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0041】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキ
ルナフタレンスルホン酸金属塩、ポリカルボン酸型界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸エステル金属塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩、リグニンスルホン酸金属塩などが挙げられる。また、これらの金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
【0042】
これら界面活性剤は、単独または併用して用いられる。
酸化防止剤としては、特に制限されず、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−t−ブチルフェノール]などのフェノール系酸化防止剤、例えば、アルキルジフェニルアミン、N,N’−ジ−s−ブチル−p−フェニレンジアミンなどのアミン系酸化防止剤などが挙げられる。これら酸化防止剤は、単独または併用して用いられる。
【0043】
光安定剤としては、特に制限されず、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられ、単独または併用して用いられる。
これら添加剤は、単独または併用して用いられる。
本発明の工業用殺菌剤において、イミダゾリウム塩以外の有効成分が添加される場合には、そのような有効成分の配合割合は、イミダゾリウム塩100重量部に対して、例えば、5〜1000重量部、好ましくは、10〜500重量部である。
【0044】
また、本発明の工業用殺菌剤において、添加剤が添加される場合には、各添加剤の配合割合は、イミダゾリウム塩100重量部に対して、界面活性剤では、例えば、0.1〜30重量部、好ましくは、0.2〜20重量部、酸化防止剤では、例えば、0.1〜10重量部、好ましくは、0.2〜5重量部、光安定剤では、例えば、0.1〜10重量部、好ましくは、0.2〜5重量部である。
【0045】
次いで、本発明の工業用殺菌剤を用いて、適用対象を殺菌する、本発明の殺菌方法について、説明する。
本発明の殺菌方法において、上記した本発明の工業用殺菌剤を用いて適用対象を殺菌するには、本発明の工業用殺菌剤を適用対象にそのまま添加すればよい。また、その目的および用途に応じて、例えば、液剤(水懸濁剤および油剤を含む。)、ペースト剤、粉剤、粒剤、マイクロカプセルなどの公知の剤型に製剤化して、適用対象に添加することもできる。また、製剤化において、包接化合物として調製してもよく、さらに、層状ケイ酸塩などのモンモリロナイト(スメクタイト類など)などに担持させ、あるいは、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルクなどに吸着させることにより調製したものを添加することもできる。
【0046】
本発明の殺菌方法において、上記した工業用殺菌剤が適用される適用対象は、水系であって、そのpHが8.0を超過している。具体的には、例えば、pHが、8.0を超過し、10.0以下であり、好ましくは、pHが、8.5〜9.5であり、さらに好ましくは、pHが、9.0〜9.5である。
また、適用対象としては、上記した水系で、pHが8.0を超過するものであれば特に制限されず、例えば、製紙パルプ工場、冷却水循環工程などの種々の産業用水や、切削油などの金属加工用油剤、カゼイン、澱粉粉、にかわ、塗工紙、紙用塗工液、サイズ剤、紙力増強剤、塗料、接着剤、合成ゴムラテックス、インキ、ポリビニルアルコールフィルム、塩化ビニルフィルム、樹脂製品、セメント混和剤、シーリング剤、目地剤などの各種工業製品などが挙げられる。
【0047】
適用対象としては、より具体的には、塗料や接着剤などに用いられるアクリル系エマルションなどが挙げられる。
また、本発明の殺菌方法において、本発明の工業用殺菌剤は、適用対象に応じて添加量を適宜決定すればよく、例えば、5〜1000mg(イミダゾリウム塩)/kg(適用対象)、好ましくは、10〜500mg(イミダゾリウム塩)/kg(適用対象)の濃度として、添加される。
【0048】
そして、本発明の工業用殺菌剤は、水に対する溶解度が良好であって、pH8.0を超過する適用対象に適用しても、優れた安定性を維持して、長期にわたって、細菌、カビ、酵母などに対して優れた殺菌性を発揮することができる。そのため、本発明の殺菌方法によれば、pH8.0を超過する適用対象、すなわち、pH8.0を超過する産業用水や工業製品(アクリル系エマルションなど)においても、安定した殺菌を実現することができるので、pH8.0を超過する産業用水や工業製品において、長期にわたって、生産性や品質の低下、悪臭の発生などを防止することができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
実施例1
1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライドを、工業用殺菌剤として後述する評価に供した。
実施例2
1,3−ドデシル−2−メチルイミダゾリウムブロマイドを、工業用殺菌剤として後述する評価に供した。
【0050】
比較例1
5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(Cl−MIT)を、工業用殺菌剤として後述する評価に供した。
比較例2
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT)を、工業用殺菌剤として後述する評価に供した。
【0051】
比較例3
1−ドデシル−2−メチルイミダゾールを、工業用殺菌剤として後述する評価に供した。
評価
(1) 殺菌試験
グルコース寒天培地(Glucose−bouillon agar)を、まず、下記表1および表2に示すpHにそれぞれ調整し、次いで、これらに上記した実施例1、2および比較例2および3の工業用殺菌剤を、所定量それぞれ添加し、次いで、以下に示す試験菌(細菌、カビ、酵母)を植菌した。
【0052】
その後、細菌については33℃で、18時間培養し、カビおよび酵母については33℃で、18時間培養した後、さらに28℃で、2日間培養した。培養後、倍数希釈法(Agar dillution method)(1000〜2.0μg/ml、10段階希釈)により、最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を求めた。その結果を、表1および表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

なお、表1および表2中、「No.」に対応する試験菌(細菌、カビ、酵母)は以下の通りである。
<細菌>
No.1:バチルス・ズブチリス(Bacillus subtillis、枯草菌、グラム陽性菌)
No.2:スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus、黄色ぶどう球菌、グラム陽性菌)
No.3:エシュリアヒア・コリー(Escheriachia coli、大腸菌、グラム陰性菌)
No.4:シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa、緑膿菌、グラム陰性菌)
No.5:セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens、霊菌、グラム陰性菌)
<カビ>
No.6:アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger、黒カビ)
No.7:ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum、青カビ)
No.8:クラドスポリウム・クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporioides、クロカワカビ)
No.9:アウレオバシヂウム・プルランス(Aureobasidium、pullulans、黒色酵母様菌)
No.10:アルタナリア・スピーシーズ(Alternaria sp.、ススカビ)
No.11:グリオクラヂウム・ヴィレンス(Gliocladium virens)
No.12:ムコール・スピネッセンス(Mucor spinescens、毛カビ)
<酵母>
No.13:ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra、赤色酵母)
No.14:サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae、白色酵母)
(2) 安定性試験
実施例1の工業用殺菌剤の10重量%水溶液を用意し、これを1N水酸化ナトリウム水溶液により、pH7.0、pH8.0およびpH9.5に、それぞれ調整した。
【0055】
また、比較例1および比較例2の工業用殺菌剤を、1:3の重量割合で混合し、これらの総量の10重量%混合水溶液を用意し、これを1N水酸化ナトリウム水溶液により、pH7.0、pH8.0およびpH9.5に、それぞれ調整した。
pH調整後、実施例1の水溶液と、比較例1および2の混合水溶液とを、60℃で、14日間静置後、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)により、残存する工業用殺菌剤を、それぞれ定量分析し、各工業用殺菌剤の残存率を求めた。その結果を、表3に示す。
【0056】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の工業用殺菌剤は、pH8.0を超過する適用対象、具体的には、pH8.0を超過する産業用水や工業製品などに添加して、殺菌性を付与する剤として、適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾリウム塩を含み、pH8.0を超過する適用対象に適用されることを特徴とする、工業用殺菌剤。
【請求項2】
前記イミダゾリウム塩が、下記一般式(1)で示されることを特徴とする、請求項1に記載の工業用殺菌剤。
【化1】

(一般式(1)中、R1およびR3は、同一または相異なって、水素または炭素数1〜18の炭化水素基を、R2は、水素または炭素数1〜12の炭化水素基を、X-はアニオンを示す。)
【請求項3】
前記一般式(1)中のR1およびR3のうち、いずれか一方は、炭素数8〜18のアルキル基であり、他方は、炭素数7〜10のアラルキル基であることを特徴とする、請求項2に記載の工業用殺菌剤。
【請求項4】
適用対象のpHが、8.0を超過し、10.0以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の工業用殺菌剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の工業用殺菌剤を用いて、pH8.0を超過する適用対象を殺菌することを特徴とする、殺菌方法。

【公開番号】特開2008−31100(P2008−31100A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206632(P2006−206632)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】