説明

工業用潤滑油基油及び潤滑油

【課題】 電力消費量削減に寄与することができる工業用の炭化水素系潤滑油基油及び潤滑油を提供する。
【解決手段】15℃における密度が0.83〜0.85g/cm、粘度指数が103以上、環分析による%CNが12〜27、アニリン点が100〜130℃であることを特徴とする炭化水素系潤滑油基油。その炭化水素系潤滑油基油を含有することを特徴とする省電力型工業用潤滑油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用機械等の潤滑箇所へ適用でき、特に油圧作動油、ギヤ油、コンプレッサー油として用いることにより、電力消費量削減に寄与することができる工業用の炭化水素系潤滑油基油及び潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での温暖化が進行し、温室効果ガスの一つである二酸化炭素排出量削減が急務となっている。わが国でも、2006年にエネルギーの使用の合理化に関する法律、地球温暖化対策の推進に関する法律がそれぞれ改正施行され、工場、輸送事業者等はこれまで以上に電力消費量の削減が求められるようになってきた。
【0003】
電力消費量削減の一つの方法として、産業機械や輸送機械で使用される潤滑油側からの省電力化が図られている。省電力化の例として、特定の添加剤を配合することによる摩擦・摩耗の低減化が挙げられ、リン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩、脂肪酸エステル、カルボン酸アミド、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジチオカーバメートなどの配合技術による対応が試みられている(例えば、特許文献1、2参照)。また、特定の基油を使用することにより、配管等の圧力損失の低減を図った例も挙げられる(特許文献3参照)。
【0004】
一方、最近では産業機械の高出力化が進んでおり、それに伴い、潤滑油の高圧条件下での使用もいっそう増加していくことが考えられる。よって、電力消費量削減のためには、高圧条件下での潤滑油の摩擦低減、すなわち低トラクション性が求められる。また、同時に摩耗防止性が高いことも求められる。
【特許文献1】特開平5−140556号公報
【特許文献2】特開2001−040383号公報
【特許文献3】特開2004−250504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的に、工業用潤滑油は内燃機関用潤滑油に比べ、添加剤の配合量が少ないため、基油そのものの性能が高いことが求められる。すなわち、電力消費量削減効果の高い工業用潤滑油を得るためには、基油そのものが低トラクション性であり耐摩耗性にも優れていることが望ましい。
本発明は、省電力型の工業用潤滑油に適した低トラクション性と良好な耐摩耗性を有する炭化水素系潤滑油基油、及びその基油を含有する潤滑油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の密度、粘度指数、組成、アニリン点を有する炭化水素系の潤滑油基油が低トラクション性を示し、耐摩耗性にも優れることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、15℃における密度が0.83〜0.85g/cm、粘度指数が103以上、環分析による%CNが12〜27、アニリン点が100〜130℃であることを特徴とする炭化水素系潤滑油基油を提供するものである。
また、本発明は、上記記載の炭化水素系潤滑油基油を含有することを特徴とする省電力型工業用潤滑油を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭化水素系潤滑油基油は、特定の組成を有することで、低トラクション性を示し、かつ耐摩耗性にも優れ、省電力型潤滑油の基油として産業機械等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の炭化水素系潤滑油基油の密度は、JIS
K2249密度試験方法(15℃)において0.83〜0.85g/cmである。15℃密度が0.83g/cm未満であると、添加剤の溶解性が低下し、また十分な耐摩耗性も得られない。15℃密度が0.85g/cmを超えるとトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる。
本発明の炭化水素系潤滑油基油の粘度指数は、JIS
K2283動粘度試験方法において103以上であり、より好ましくは105以上であり、特に好ましくは110以上である。粘度指数が低すぎると低温粘度が高くなり、低温始動時の電力消費量が多くなる傾向がある。
【0010】
本発明の炭化水素系潤滑油基油の%CNは、ASTM D3238環分析方法において12〜27であり、より好ましくは12〜25である。%CNが12未満であると、添加剤の溶解性が低下し、また十分な耐摩耗性も得られない。%CNが27を超えるとトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる。
【0011】
本発明の炭化水素系潤滑油基油の、ASTM D3238環分析方法による%Caは5以下であることが好ましく、3以下がより好ましく、2以下が特に好ましい。%Caを5以下とすることで低トラクシン性としやすくなり、電力消費量を抑制しやすくなる。なお、%CAは芳香族系炭化水素の含有量と相関するが、芳香族系炭化水素はトラクション係数が高い傾向にあるため、より少ない方が好ましく、芳香族系炭化水素を実質的に含有しなくてもよい。
本発明の炭化水素系潤滑油基油のアニリン点は、JIS K2256アニリン点試験方法において100〜130℃であり、より好ましくは105〜130℃、特に好ましくは110〜130℃である。アニリン点が100℃未満であるとトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる。アニリン点が130℃を超えると、添加剤の溶解性が低下し、また十分な耐摩耗性が得られない。
【0012】
本発明の炭化水素系潤滑油基油は、本発明の構成を満たす限り、どのような方法で製造されたものでもよく、例えば原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製など適宜組合せた製造方法が挙げられるが、好ましい製造方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、原油の常圧蒸留で得られたボトム油を減圧蒸留装置で処理する。そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行い、その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得る。この残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分を水素化脱ロウ処理、安定化処理を行う。水素化脱ロウ処理の条件としては、アルミナ、シリカ-アルミナ、ゼオライト担体上に、Mo、W、Ni、Pdなどの周期律表の第6族、第8族金属を担持した触媒を用い、反応圧155〜190 kg/cmG、反応温度230〜300℃、LHSV1.0h−1が好ましい。
【0013】
また、溶剤脱ロウによるスラックワックスやフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等を原料とし、これらを水素化処理、水素化分解する方法も好ましい方法として挙げられる。
上記製造方法で製造された炭化水素系潤滑油基油は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明の潤滑油は、上記炭化水素系潤滑油基油そのものが低トラクション性と良好な耐摩耗性を有するため、炭化水素系潤滑油基油単体のみを含有する潤滑油であってもよいし、必要に応じて各種公知の添加剤を配合した潤滑油であってもよい。
そのような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、清浄分散剤、さび止め剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、泡消剤、抗乳化剤等が挙げられる。
【0015】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール等のフェノール系酸化防止剤、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、ホスホン酸エステル等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
極圧剤としては、ホスフェート、ホスファイト等のリン系極圧剤、硫化オレフィン等の硫黄系極圧剤、ZnDTP、ZnDTCなどの有機金属系極圧剤が挙げられる。
油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、オレイルアルコール等の高級アルコール、オレイルアミン等のアミン、ブチルステアレート等のエステルが挙げられる。
【0016】
清浄分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル等の無灰系清浄分散剤、アルカリ土類金属系清浄分散剤が挙げられる。
さび止め剤としては、カルボン酸、金属セッケン、カルボン酸アミン塩、スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分エステル等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾ−ルおよびその誘導体、アルキルコハク酸誘導体等が挙げられる。
【0017】
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート、ポリアルキルアクリレート等が挙げられる。
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート、イソブテン、オレフィンコポリマー等が挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン油やエステル系消泡剤等が挙げられる。
抗乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等の抗乳化剤が挙げられる。
これら添加剤は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
以下の製造方法で得られた炭化水素系潤滑油基油について、以下に記載した測定方法で各性状の測定と性能評価を実施した。実施例1〜3の結果を表1、比較例1〜3の結果を表2に示す。
【0019】
<炭化水素系潤滑油基油の製造方法>
(1)実施例1〜3の炭化水素系潤滑油基油
原油の常圧蒸留で得られたボトム油を減圧蒸留装置で処理し、そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行った。その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得た。残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分の水素化脱ロウ処理、安定化処理を行った。水素化脱ロウ処理は、反応圧170kg/cmG、反応温度280℃、LHSV1.0h−1の条件にて行った。
【0020】
(2)比較例1の基油
原油を常圧蒸留し、分留後の残油を減圧下で分留、得られた留出油をフルフラール溶剤抽出法によってパラフィンリッチラフィネートを精製した。つづいてそのラフィネートを脱ロウ処理して得られた脱ロウ油の高圧水素化処理を行った。高圧水素化処理は、アルミナ担体上にMo、Niを担持した触媒を用い、反応圧170 kg/cmG、反応温度325℃、LHSV0.36h−1の条件にて行った。
【0021】
(3)比較例2で用いた基油
ナフテン系原油を常圧蒸留し、ボトム油を減圧下で分留、得られた留出油を硫酸処理、白土処理を行い精製した。
(4)比較例3の基油
エチレンの低重合によって得られた1−デセンを重合、水添反応を行うことによって合成した、ポリ−α−オレフィンを用いた。
【0022】
<各性状の測定方法>
(1)密度
JIS K2249密度試験方法により15℃における密度を評価した。
(2)動粘度
JIS
K2283動粘度試験方法により40℃動粘度を評価した。
【0023】
(3)粘度指数
JIS
K2283動粘度試験方法により粘度指数を評価した。
(4)%CN、%Ca
ASTM
D3238環分析により%CN、%CAを評価した。算出に必要な屈折率、密度、分子量および硫黄分は、JIS K0062屈折率測定方法、JIS K2249密度試験方法、ASTM D2502分子量試験方法、JIS K2541位欧文試験方法にて測定した。
(5)アニリン点
JIS
K2256アニリン点試験方法により評価した。
【0024】
<評価方法>
(1)トラクション係数
四円筒疲労摩擦試験機にてトラクション係数を評価した。
材質SUJ−2,外径40mm、幅10mm、表面粗さ0.08μm以下の試験片を用い、すべり率5.3%、最大ヘルツ荷重1.7GPa、油温40℃、試験時間5分にて試験を実施した。
【0025】
(2)耐摩耗性
以下の試験条件でシェル四球試験を実施し、摩耗痕径で評価した。
試験条件:
テストピース:鋼(固定球)−鋼(回転球)
回転数 :1800rpm
荷重 :10kgf
試験時間 :30min
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
実施例1〜3は比較例1、2と比べトラクション係数が低く、省電力効果が期待できる。また実施例3は、%CNが12未満であり同程度の粘度である比較例3と比べトラクション係数は高いものの、耐摩耗性の面で優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15℃における密度が0.83〜0.85g/cm、粘度指数が103以上、環分析による%CNが12〜27、アニリン点が100〜130℃であることを特徴とする炭化水素系潤滑油基油。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化水素系潤滑油基油を含有することを特徴とする省電力型工業用潤滑油。

【公開番号】特開2009−126896(P2009−126896A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301248(P2007−301248)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】