説明

差動式分布型感知器

【課題】切削の際に切換コックの可動軸の摺動面に凹凸による不一致が生じる割合を減少させ、切換コックの生産性を向上させることができるようにする。
【解決手段】コック本体10に、複数の空気通路17に連通する円錐台状の取付孔16を形成するとともに、空気通路17を切り換えるための複数の通気路24を有する可動軸20を、基本的に外径が円錐台状取付孔の小径部よりも小さくかつこの取付孔とほぼ同じ長さの円柱21から形成し、円柱21の軸方向中央部分は、外径が円柱の外径よりも大きくかつ外周面22が取付孔16の軸方向中央部分と密嵌可能な短尺のテーパ軸部23に構成し、テーパ軸部23に、空気通路17に連通接続するための全ての通気路24を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災警戒区域にはりめぐらせた空気管の内部空気の熱による膨張を検出して火災発生を感知する差動式分布型感知器に係り、より詳しくは各種流通試験のために設けられた空気経路切換用の切換コックの構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、火災警戒区域にはりめぐらせた空気管の内部空気の熱による膨張を検出して火災発生を感知するようにした差動式分布型感知器は知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなものにおいては、信頼性確保のため、各種の流通試験が必要である。そのため、差動式分布型感知器は、複数の空気通路とこれら空気通路に連通する取付孔を有するコック本体と、その空気通路を切り換えるための複数の通気路を有し前記取付孔に回動自在に挿着された可動軸と、からなる切換コックを備えている。そして、その切換コックによって空気の通路を切り換えることで、各種の流通試験を行えるようになっている。
【0003】
これを更に詳述するために図5及び図6を用いて従来技術について説明する。コック本体2には、火災警戒区域にはりめぐらせた空気管1Aの両端が接続される第1及び第2の空気管用ノズルP1,P2を備えている。さらにコック本体2には、緩慢な温度変化に対して空気管内の空気圧を大気圧に合わせるためのリーク孔(オリフィス)Lと、検出用ノズルFと、試験用ノズルTとが設けられている。また、可動軸2aを回動自在に取り付けるための円錐台状の取付孔が、第1及び第2の空気管用ノズルP1,P2とリーク孔Lと検出用ノズルFと試験用ノズルTとに連通させて設けられている。可動軸2aは、取付孔の略全長に亘って密嵌状態かつ回動自在となるように取付孔と同様の円錐台状に形成されている。さらに可動軸2aには、その回転操作によって各前記ノズルやリーク孔に選択的に連通接続可能となる複数の通気路6が形成されている。これにより、可動軸2aを回転操作して通気路6を切り換えることで、各種の流通試験が行え、コック本体2の取付孔内周面と可動軸外周面との間の密閉性も確保できるようになっている。
【0004】
ここで、各種試験について説明する。各種試験には、(a)ポンプ試験、(b)流通試験、(c)ダイヤフラム試験、(d)リーク試験の4つがある。
【0005】
ポンプ試験は、試験用ノズルTに注射器等の試験ポンプTPを接続し、この状態で試験ポンプTPから試験用ノズルTに作動空気圧に相当する空気を注入し、これによって検出用ノズルFに接続されているダイヤフラム3が変位して接点4,5がオンとなるまでの作動時間と、復旧するまでの復旧時間を測定するものである。
【0006】
流通試験は、試験用ノズルTに試験ポンプTPを接続し、さらに空気管1Aの他端にマノメータ等の圧力計Mを接続して、この状態で試験ポンプTPから試験用ノズルTに所定の空気を注入するものである。このとき、空気管1Aに接続された圧力計で所定の圧力が安定して測定できれば、この空気管1Aから空気が漏れていないことになる。
【0007】
ダイヤフラム試験は、第1の空気管用ノズルP1に試験ポンプTPと圧力計Mを接続して、この状態で試験ポンプTPから第1の空気管用ノズルP1に徐々に空気を注入するものである。このとき、ダイヤフラム3が変位して接点4,5がオンとなるときの空気圧を圧力計Mで測定する。
【0008】
リーク試験は、第2の空気管用ノズルP2に試験ポンプTPと圧力計Mを接続して、この状態で試験ポンプTPから第2の空気管用ノズルP2に空気を注入するものである。このとき、リーク孔Lから空気が漏れて圧力が低下する速度を測定する。
【0009】
以上の試験の際には、可動軸2aを回転させて各ノズルの空気経路と可動軸の通気路を切り換えて試験を行うようにしている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−77074号公報(図6,図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、切換コックを構成するコック本体および可動軸は、一般に黄銅製の切削品からなるため、切削加工時にバリ等の凹凸が生じ、所望の精度を得るのが難しい。このため、従来の差動式分布型感知器のように、円錐台状の取付孔や可動軸の略全長に亘って密閉性と高い精度が求められるものにあっては、生産性を上げることは難しい。また、取付孔と可動軸の密閉性を高めるために、可動軸の略全長に亘って潤滑剤を塗布する必要がある。しかし、可動軸に塗布した潤滑剤は、時間の経過と共に流れ出る等の問題がある。
【0012】
本発明の技術的課題は、切削の際に切換コックの可動軸の摺動面に凹凸による不一致が生じる割合を減少させ、切換コックの生産性を向上させることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る差動式分布型感知器は、下記の構成からなるものである。すなわち、複数の空気通路とこれら空気通路に連通する取付孔を有するコック本体と、前記空気通路を切り換えるための複数の通気路を有し取付孔に回動自在に挿着された可動軸と、からなる切換コックを備えた差動式分布型感知器において、コック本体の取付孔を、円錐台状に形成するとともに、可動軸を、基本的に外径が円錐台状取付孔の小径部よりも小さくかつこの取付孔とほぼ同じ長さの円柱から形成し、円柱の軸方向中央部分は、外径が円柱の外径よりも大きくかつ外周面が取付孔の軸方向中央部分と密嵌可能な短尺のテーパ軸部に構成し、テーパ軸部に、前記空気通路に連通接続するための全ての通気路を配置したものである。
【0014】
また、可動軸のテーパ軸部の一端または他端の少なくとも一方の外周部に、弾性材を設置するための弧状溝を形成したものである。
【0015】
また、可動軸のテーパ軸部外周面における各通気路の開口部の周縁、又はコック本体の取付孔内面における各空気通路の開口部の周縁に、それぞれ弾性材を設置するための凹溝を形成したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る差動式分布型感知器においては、可動軸を、円柱に形成し、円柱の軸方向中央部分は、外径が円柱の外径よりも大きくかつ外周面が取付孔の軸方向中央部分と密嵌可能な短尺のテーパ軸部に構成し、テーパ軸部に、前記空気通路に連通接続するための全ての通気路を配置して、可動軸に空気通路の切換に必要な部分のみテーパ部を設けるようにしている。このため、切換コックの可動軸の摺動面となるテーパ軸部外周面の面積を小さくすることができる。従って、可動軸の摺動面(テーパ軸部外周面)に切削加工によるバリ等の凹凸が生じたとしても、その影響を小さくすることができる。つまり、可動軸の摺動面に凹凸による不一致が生じる割合を減少させることが可能となって、切換コックの生産性を向上させることができる。
【0017】
また、可動軸のテーパ軸部の一端または他端の少なくとも一方の外周部に、弾性材を設置するための弧状溝を形成しているので、この弧状溝に例えばOリング等の弾性材を設置すれば、摺動部に塗布した潤滑剤が時間の経過と共に流れ出ることを防ぐことができる。
【0018】
また、可動軸のテーパ軸部外周面における各通気路の開口部の周縁、又はコック本体の取付孔内面における各空気通路の開口部の周縁に、それぞれ弾性材を設置するための凹溝を形成している。そのため、摺動部の密閉性がより向上し、摺動部に塗布した潤滑剤が時間の経過と共に各通気路や各空気通路内に侵入して流れ出ることを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る差動式分布型感知器の切換コックの構成部材である可動軸と弾性材(Oリング)との関係を示す分解斜視図、図2はその可動軸に弾性材(Oリング)を装着した状態を示す断面図、図3はその切換コックの構成部材であるコック本体と可動軸との組付状態を示す斜視図、図4は図3のA−A線矢視断面図である。
【0020】
本実施形態の差動式分布型感知器は、切換コック1が、コック本体10と、可動軸20とから構成されている。
【0021】
これを更に詳述すると、コック本体10には、図3及び図4のように火災警戒区域にはりめぐらせた空気管(図示せず)の両端が接続される第1及び第2の空気管用ノズル11,12と、緩慢な温度変化に対して空気管内の空気圧を大気圧に合わせるためのリーク孔(オリフィス)13と、検出用ノズル14と、試験用ノズル15とが設けられている。また、可動軸20を回動自在に取り付けるための円錐台状の取付孔16が、第1及び第2の空気管用ノズル11,12とリーク孔13と検出用ノズル14と試験用ノズル15とにそれぞれ独立した空気通路17を介し連通させて設けられている。
【0022】
可動軸20は、図1乃至図4のように基本的に外径が円錐台状取付孔16の小径部よりも小さくかつこの取付孔16とほぼ同じ長さの円柱21から形成されている。この円柱21の軸方向中央部分は、その外径が円柱21の外径よりも大きくかつ外周面(テーパ面)22が取付孔16の軸方向中央部分と密嵌可能かつ回動自在な短尺のテーパ軸部23に構成されている。また、テーパ軸部23には、コック本体10の各空気通路17と選択的に連通接続可能な複数の通気路24を備えている。さらに、コック本体10の軸方向に位置がずれている空気通路、例えば空気管用ノズル11,12とリーク孔13の間、または空気管用ノズル11,12と検出用ノズル14の間を選択的に連通接続可能な複数の長溝25が設けられている。つまり、テーパ軸部23には、コック本体10側の各空気通路17に選択的に連通接続するための全ての通気路24が配置されている。
【0023】
また、テーパ軸部23には、その縮径側端(一端)の外周部と拡径側端(他端)の外周部に、それぞれ弾性材(例えばOリング)を設置するための弧状溝26,27が形成されている。さらに、コック本体10の取付孔16にも弧状溝26,27と対向する部位に弧状溝18,19が形成されている。つまり、弧状溝26と18の間、及び弧状溝27と19の間に、それぞれOリング31,32が挾持されるようになっている。
【0024】
更にまた、テーパ軸部23には、図1及び図2のようにその外周面(テーパ面)22における各通気路24の開口部の周縁と各長溝25の周縁に、それぞれ弾性材(例えばOリング)を設置するための凹溝28,29が形成されていて、これら凹溝28,29内にOリング33,34が設置されている。なお、可動軸20の円柱21におけるテーパ縮径側の端部には、図示しない操作レバーを取付固定するためのねじ穴21aが形成されており、ねじ穴21aに装着される操作レバーによって、回動操作されるようになっている。
【0025】
操作レバーは、これとコック本体10の間に配置される図示しない付勢手段により、常時外方、つまり取付孔16内のテーパ軸部23に対してくさび効果が働く方向に付勢されている。そのため、Oリング31,32と共に可動軸20を取付孔16内の所定位置に弾性保持する機能を持っている。
【0026】
次に、本実施形態の差動式分布型感知器の切換コック1を構成するコック本体10と可動軸20の組付手順について説明する。まず、可動軸20のテーパ軸部23の各凹溝28,29内に、それぞれOリング33,34を装着する。次にテーパ軸部23の縮径側の端部の弧状溝26上に、Oリング31を載置する。その後、テーパ軸部23の拡径側の端部の弧状溝27にOリング32を押し付けた状態で、可動軸20をねじ穴21a側が先端となるように取付孔16内に挿入する。最後に、Oリング31,32が取付孔16の弧状溝18,19内に嵌り込むまで可動軸20を押し込む。これにより、Oリング31,32が弧状溝26と18の間、及び弧状溝27と19の間に、それぞれ挾持され、テーパ軸部23すなわち可動軸20が、Oリング31,32を介して取付孔16内の所定位置に弾性保持される。
【0027】
次いで、可動軸20のねじ穴21aに操作レバー(図示せず)を装着固定する。これにより、コック本体10と可動軸20の組付が完了する。
【0028】
このように、本実施形態の差動式分布型感知器においては、取付孔16の軸方向中央部分と密嵌可能な短尺のテーパ軸部23に構成し、テーパ軸部23に、空気通路17に連通接続するための全ての通気路24を配置して、可動軸20に空気通路17の切換に必要な部分のみテーパ部を設けるようにした。そのため、切換コック1の可動軸20の摺動面となるテーパ軸部外周面22の面積を小さくすることができる。従って、可動軸20のテーパ軸部外周面22に切削加工によるバリ等の凹凸が生じたとしても、その影響を小さくすることができる。この結果、可動軸20のテーパ軸部外周面22に凹凸による不一致が生じる割合を減少させることが可能となって、切換コック1の生産性を向上させることができる。なお、可動軸の軸心部分は必ずしも円柱にする必要はなく、例えば角柱やその他の断面多角形状の柱としてもよいことは言うまでもない。
【0029】
また、可動軸20のテーパ軸部23の両端の外周部に、それぞれOリング31,32を設置するための弧状溝26,27を形成する。さらに、コック本体10の取付孔16における弧状溝26,27と対向する部位にも弧状溝18,19を形成する。このように弧状溝26と18の間、及び弧状溝27と19の間に、それぞれOリング31,32を挾持するようにしているので、摺動部の密閉性の確保が容易となる。つまり、テーパ軸部外周面22に潤滑剤を塗布した場合に、この潤滑剤が時間の経過と共に流れ出ることを防ぐことができる。なお、このシール機能は、必ずしもテーパ軸部23の両端にOリング31,32を配置することで得られるものでなく、感知器の設置状態(位置、角度等)によってはテーパ軸部23の一方の端のみにOリングを配置してもよいものである。特に、可動軸20のテーパ軸部23の縮径側においては、テーパ軸部23の外周面22と取付孔16の内周面との間でくさび効果が働くため、縮径側のOリング31の設置位置が自ずと固定される。このため、テーパ軸部23側のみ弧状溝26を設けても、テーパ軸部23の外周面22と取付孔16の内周面との間にOリング31を確実に挟ませることができる。
【0030】
また、可動軸20のテーパ軸部外周面22における各通気路24の開口部の周縁と各長溝25の周縁にそれぞれ凹溝28,29を形成して、各凹溝28,29内にそれぞれOリング33,34を設置するようにした。そのため、可動軸20とコック本体10を組み付ける前に各Oリング33,34の取付状態を視認することができて、組付作業が容易となる。さらに、組付後は摺動部の密閉性がより向上し、摺動部に塗布した潤滑剤が時間の経過と共に各通気路24又は各空気通路17内に侵入して流れ出ることを防ぐことができる。なお、ここでは各Oリング33,34を設置するための凹溝28,29を可動軸20側に設けたものを例に挙げて説明したが、これら凹溝をコック本体10の取付孔16内面における各空気通路17の開口部周縁に設けても良いことは言うまでもない。この場合は、摺動部に塗布した潤滑剤が時間の経過と共に直接各空気通路17内に侵入して流れ出ることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る差動式分布型感知器の切換コックの構成部材である可動軸と弾性材との関係を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る差動式分布型感知器の可動軸に弾性材を装着した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る差動式分布型感知器の切換コックの構成部材であるコック本体と可動軸との組付状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る差動式分布型感知器の図3のA−A線矢視断面図である。
【図5】従来の差動式分布型感知器の構成図である。
【図6】従来の差動式分布型感知器の試験方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 切換コック
10 コック本体
16 取付孔
17 空気通路
20 可動軸
21 円柱
22 テーパ軸部外周面
23 テーパ軸部
24 通気路
26,27 弧状溝
28,29 凹溝
31,32 Oリング(弾性材)
33,34 Oリング(弾性材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空気通路とこれら空気通路に連通する取付孔を有するコック本体と、前記空気通路を切り換えるための複数の通気路を有し前記取付孔に回動自在に挿着された可動軸と、からなる切換コックを備えた差動式分布型感知器において、
前記コック本体の前記取付孔を、円錐台状に形成するとともに、
前記可動軸を、基本的に外径が前記円錐台状取付孔の小径部よりも小さくかつ該取付孔とほぼ同じ長さの円柱から形成し、該円柱の軸方向中央部分は、外径が該円柱の外径よりも大きくかつ外周面が前記取付孔の軸方向中央部分と密嵌可能な短尺のテーパ軸部に構成し、該テーパ軸部に、前記空気通路に連通接続するための全ての通気路を配置したことを特徴とする差動式分布型感知器。
【請求項2】
前記可動軸のテーパ軸部の一端または他端の少なくとも一方の外周部に、弾性材を設置するための弧状溝を形成したことを特徴とする請求項1記載の差動式分布型感知器。
【請求項3】
前記可動軸のテーパ軸部外周面における各前記通気路の開口部の周縁、又は前記コック本体の取付孔内面における各前記空気通路の開口部の周縁に、それぞれ弾性材を設置するための凹溝を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の差動式分布型感知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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