説明

差圧ダンパ装置

【課題】 ダンパ開放状態における気流の進行方向を適切にして、複数並べて設置した場合も処理効率を低下させることなく、大量の気体の流通に対応できる差圧ダンパ装置を提供する。
【解決手段】 平行クランク機構をなすアーム部3で、羽根体支持部4の向きが常にダンパ枠体2に対し一定となり、且つ、この羽根体支持部4に対しダンパ羽根体5が傾動可能とされて、ダンパ羽根体5が差圧に応じてその向きを変えつつ前後移動して、ダンパ枠体2を開閉することで、差圧による開放時には、ダンパ枠体2とダンパ羽根体5間の開口部分を羽根体全周囲に確保し、且つダンパ羽根体5下部でのダンパ枠体2とダンパ羽根体5との間隔を大きくすることとなり、開口部分における気流の通過を容易にして大量の気体を効率よく一方の空間10から他方の空間20に移動させられ、二空間間の差圧を設定圧内に速やかに調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの空間を隔てる壁に配置され、両空間の圧力差を所定範囲に抑える差圧ダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和設備の一部として、二つの空間を仕切る壁等に配設され、一方の空間内の気体圧力が設定値を超えて他方の空間より高くなった場合に、圧力差に基づいて開放状態となり、相対圧力の高い気体を一方の空間から他方の空間へ流出させて圧力差を緩和し、一方の空間の圧力をほぼ一定に維持すると共に他方の空間からの気体の逆流を防ぐ差圧ダンパ装置は、用途に応じて様々なものが従来から用いられている。その中で、クリーンルーム等の特定箇所での使用に適するものとして、スライド型の差圧ダンパ装置が提案されている。この従来の差圧ダンパ装置の一例として、特公平1−44973号公報に開示されるものがある。
【0003】
また、他の差圧ダンパ装置として、平行クランク機構を用いてダンパ羽根体を支持し、ダンパ羽根体の向きを常にダンパ枠体開口面に平行として、ダンパ枠体とダンパ羽根体間の開口部を羽根体全周囲に広く確保しつつ、構造の簡略化を図ったものが、本出願人により提案されており、特開2005−257136号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−44973号公報
【特許文献2】特開2005−257136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の差圧ダンパ装置は前記各特許文献に示されるような構成となっており、前記特許文献1に示されるものは、壁に設けられた傾斜開口部に対しこれを貫通してガイド軸を傾斜配置しており、このガイド軸に係合する羽根がガイド軸上を摺動して、傾斜開口部を差圧に応じ開閉する仕組みとなっている。ただし、圧力変動に対応させて羽根をガイド軸上でスムーズに動かすために、羽根とガイド軸との摺動における摩擦抵抗を極めて小さく抑える必要があり、羽根とガイド軸との間には高精度な直動運動用の軸受を配設すると共に、ガイド軸外周の表面精度を高め、抵抗を小さくすることが要求される。このため、用いられる軸受は円滑な動作を実現するために複雑な構造となっており、ガイド軸表面に対する精密加工の必要性と合わせ、装置全体のコストが高くなってしまうという課題を有していた。
【0006】
また、前記特許文献2に示される他の差圧ダンパ装置は、構造の簡略化によりコストダウンが図れ、且つ、装置の厚み方向の必要寸法を抑えられるという特長を有しているが、差圧ダンパ装置を二空間の間の差圧に伴う大量の気体流通に対応させるために、壁に複数横に並べて近接配置した場合、ダンパ枠体とダンパ羽根体間の開口部分全周から気体が吹出して低圧側空間に流入するために、別の差圧ダンパと隣接する横方向については、吹出した気体が、別の差圧ダンパから吹出した気体とぶつかる形となり、吹出気流が相互に干渉してスムーズに低圧側空間に流入できず滞る状態に至って、気体の低圧側空間への流入量を差圧ダンパ装置の設置数に比例させて大きくすることができず、差圧解消に係る気体処理効率が装置単体の場合より低下してしまうという課題を有していた。
【0007】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、ダンパ羽根体をスムーズに移動させて空気の流出入を確実に制御しつつ、ダンパ開放状態における気流の進行方向を適切にして、複数並べて設置した場合も処理効率を低下させることなく、大量の気体の流通に対応でき、圧力差を適切に調整できる差圧ダンパ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る差圧ダンパ装置は、隣合う二つの空間を隔てる壁に配設され、一方の空間の他方の空間に対する圧力差が所定の設定値以下の場合には両空間を非連通とする閉塞状態にある一方、前記圧力差が前記設定値を超える場合には開放状態となって両空間を連通させ、前記一方の空間から他方の空間への空間内気体の移動を許容する差圧ダンパ装置において、前記気体が内側を通る中空の略筒状部分を少なくとも有し、前記壁に設けられた孔にはめ込まれて配設されるダンパ枠体と、平行クランク機構として組合わされる四つのリンク部材で形成され、一のリンク部材を前記ダンパ枠体上部内周面に当該内周面に沿う配置で取付けられるアーム部と、当該アーム部における前記一のリンク部材と平行をなす他のリンク部材に固定され、ダンパ枠体に対する向きを維持しつつ移動可能に支持される羽根体支持部と、前記ダンパ枠体の他端側開口を閉塞可能な大きさの略板状体で形成され、前記羽根体支持部の上部に傾動可能に取付けられ、ダンパ枠体の前記他方の空間側に配設されるダンパ羽根体とを備えるものである。
【0009】
このように本発明においては、平行クランク機構をなすアーム部で、ダンパ羽根体を支持する羽根体支持部の向きが常にダンパ枠体に対し一定となり、且つ、ダンパ羽根体が羽根体支持部に対し傾動可能とされ、ダンパ羽根体が差圧に応じてダンパ枠体に対し他方の空間側でその向きを変えつつ前後に移動し、ダンパ枠体を開閉することにより、差圧に伴う気体のダンパ羽根体に加わる圧力が各部の重量等に基づくダンパ羽根体の閉塞力を上回ると、ダンパ羽根体が他方の空間側へ移動すると共に、ダンパ羽根体下部を前方に進める向きに傾動して、ダンパ枠体とダンパ羽根体間の開口部を羽根体全周囲に確保し、且つダンパ羽根体下部でのダンパ羽根体とダンパ枠体との間隔を大きくすることとなり、ダンパ枠体とダンパ羽根体間における気流の通過を容易にして、大量の気体を効率よく一方の空間から他方の空間に移動させられ、二空間間の差圧を設定圧内に速やかに調整できる。また、傾斜したダンパ羽根体に沿って、他方の空間に流入する気流を主に斜め下向きに進行させられることで、差圧ダンパ装置を横に並べて用いる場合の、横向き気流が隣合う他の装置からの気流に及す影響を小さくすることができ、ダンパ装置を並べて設置した数に見合った処理量を確保でき、複数並べた場合も効率よく気体を移動させられる。
【0010】
また、本発明に係る差圧ダンパ装置は必要に応じて、前記ダンパ羽根体と一体に前記羽根体支持部に対し傾動可能とされ、且つ重心をダンパ羽根体の羽根体支持部における傾動中心位置より前記一方の空間寄りに位置させつつ、重心位置調整可能として配設されるバランスウェイトを備えるものである。
【0011】
このように本発明においては、ダンパ羽根体と一体にバランスウェイトを配設し、ダンパ羽根体がダンパ枠体他端側開口を閉止している状態で、羽根体支持部に対するダンパ羽根体など傾動部分全体の重心を傾動中心位置より前記他方の空間寄りに位置させる状態を維持しつつ、バランスウェイトの重心位置を変化させられることにより、ダンパ羽根体を傾動させようとする気体の圧力に対抗するダンパ羽根体の閉塞力を変化させて、差圧に伴うダンパ羽根体の傾動の度合を調整できることとなり、ダンパ羽根体を挟む二つの空間の様々な差圧状態に適切に対応できる。
【0012】
また、本発明に係る差圧ダンパ装置は必要に応じて、前記アーム部のダンパ枠体及び羽根体支持部に取付けられていない所定のリンク部材に取付けられ、且つダンパ羽根体がダンパ枠体他端側開口を閉止している状態で重心をアーム部より前記一方の空間寄りに位置させつつ、重心位置調整可能として配設されるバランスウェイトを備えるものである。
【0013】
このように本発明においては、アーム部のダンパ枠体及びダンパ羽根体に取付けられていない所定のリンク部材に、バランスウェイトを配設し、ダンパ羽根体がダンパ枠体他端側開口を閉止している状態で、前記一のリンク部材を除いたアーム部とこのアーム部に支持される可動部分全体の重心をアーム部より前記他方の空間寄りに位置させる状態を維持しつつ、バランスウェイトの重心位置を変化させられることにより、ダンパ羽根体を他方の空間側へ移動させようとする気体の圧力に対抗して可動部分全体の開口閉塞状態を維持しようとする力を変化させて、差圧に伴う羽根体支持部及びダンパ羽根体の他方の空間側への移動の度合を調整できることとなり、ダンパ羽根体を挟む二つの空間の様々な差圧状態に適切に対応できる。
【0014】
また、本発明に係る差圧ダンパ装置は必要に応じて、前記一方の空間と他方の空間との差圧に伴って一方の空間側からダンパ羽根体に加わる気体の相対圧力による、羽根体支持部及びダンパ羽根体のダンパ枠体に対する他方の空間側へ向けての平行移動が、ダンパ羽根体の羽根体支持部に対する傾動を生じさせる圧力より小さい圧力で生じるように、前記バランスウェイトの重量及び/又は重心位置を設定し、少なくともダンパ羽根体がダンパ枠体近傍に位置する状態では、ダンパ羽根体の羽根体支持部に対する傾動を伴わず、ダンパ羽根体をダンパ枠体開口端面と平行な状態に維持しつつ、羽根体支持部及びダンパ羽根体のダンパ枠体に対する平行移動のみが生じるものである。
【0015】
このように本発明においては、バランスウェイトの重量及び/又は重心位置を、差圧に伴う羽根体支持部及びダンパ羽根体のダンパ枠体に対する平行移動が、同じく差圧に伴うダンパ羽根体の羽根体支持部に対する傾動より生じやすいように設定されて、ダンパ羽根体がダンパ枠体を閉止する状態から移動を開始する際、及びダンパ羽根体がダンパ枠体近傍からダンパ枠体に接してこれを閉止する際には、ダンパ羽根体はダンパ枠体に対し平行移動のみで動く状態となることにより、ダンパ羽根体とダンパ枠体との間に気密を維持するためのパッキン等の弾性材が配設される場合に、ダンパ羽根体が弾性材に対し一様に離隔、接近できることとなり、ダンパ羽根体が弾性材表面を擦るのを防止でき、弾性材表面の摩耗を生じにくくして弾性材の劣化を抑え、弾性材の気密保持機能を適切に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る差圧ダンパ装置の正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る差圧ダンパ装置の閉塞状態における縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る差圧ダンパ装置の開放開始状態における縦断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る差圧ダンパ装置の小通過流量時での開放状態における縦断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る差圧ダンパ装置の大通過流量時での開放状態における縦断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る差圧ダンパ装置の複数設置状態における正面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る差圧ダンパ装置の閉塞状態における縦断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る差圧ダンパ装置の小通過流量時での開放状態における縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る差圧ダンパ装置について、前記図1ないし図6に基づいて説明する。
前記各図に示すように、本実施形態に係る差圧ダンパ装置1は、二つの空間10、20を隔てる壁50の所定位置に配設される方形枠状のダンパ枠体2と、平行クランク機構をなす四つのリンク部材で形成されてダンパ枠体2内側に配設されるアーム部3と、このアーム部3の端部に固定されてダンパ枠体2に対する向きを維持しつつ移動可能に支持される羽根体支持部4と、この羽根体支持部4の上部に傾動可能に取付けられてダンパ枠体2の開口を開閉するダンパ羽根体5と、このダンパ羽根体5の上部に取付けられる第一バランスウェイト6と、アーム部3の所定箇所に取付けられる第二バランスウェイト7とを備える構成である。
【0018】
前記ダンパ枠体2は、方形断面形状の筒状部分を有する枠状体で形成され、二つの空間10、20を隔てる壁50に設けられた孔にはめ込まれて配設される構成であり、両空間10、20の差圧が設定圧力を越える程度に圧力上昇して、差圧に基づいて空間20側へ押されたダンパ羽根体5が開放した場合に、枠体内側部分において一方の空間10から他方の空間20側へ空気を通過させる仕組みである。このダンパ枠体2のダンパ羽根体5当接面には、当接時における両部材間の微小な隙間を排除する弾性材製のパッキン2aが配設される。
【0019】
前記アーム部3は、平行クランク機構として組合わされる四組のリンク部材3a、3b、3c、3dで形成され、短尺の一のリンク部材3aをこの機構の静止節として、ダンパ枠体2の上部内周面にこの内周面に沿う配置で取付けられて、全体をダンパ枠体2上部から吊下げ状態で配設される構成である。アーム部3のうち、リンク部材3aと平行をなす他のリンク部材3dは、その端部をリンク部材3cとの結合部位からさらに前記他方の空間20側に延長させて、前記羽根体支持部4と一体形成される構成であり、アーム部3により、羽根体支持部4に取付けられるダンパ羽根体5を移動可能に支持する仕組みとなっている。
【0020】
前記羽根体支持部4は、アーム部3における前記他のリンク部材3dの端部から上方に起立する部材で形成され、一体形成によりリンク部材3dに固定され、アーム部3によりダンパ枠体2に対する向きを維持しつつ移動可能に支持される構成である。
この羽根体支持部4は、平行クランク機構であるアーム部3により支持されることで、常にダンパ枠体2開口端面と平行な向きのまま移動可能とされる仕組みである。
【0021】
前記ダンパ羽根体5は、他方の空間20に面するダンパ枠体2開口部を閉止可能な大きさとされると共に中央部分を凸状に突出させた方形の略板状体からなり、ダンパ枠体2にアーム部3及び羽根体支持部4を介して取付けられ、ダンパ枠体2の他方の空間20寄り端部に、突出側を他方の空間20側へ向けた状態で配設される構成である。このダンパ羽根体5がダンパ枠体2と当接してダンパ枠体2開口部を閉止する状態では、ダンパ羽根体5はその中心をダンパ枠体2の中心と一致させるように配置される。なお、ダンパ羽根体5の背面、すなわち一方の空間10に向いた面は、反対側の凸状の突出形状とは逆の凹状をなし、その外周縁部は、中央部分の突出方向と反対側に所定長さ起立させた形状とされる構成である。
【0022】
ダンパ羽根体5の裏側部分、すなわち、中央部分の突出方向と反対側の部分には、羽根体支持部4との連結用の補助部材5aが一体に固定されている。この補助部材5aの上部が、羽根体支持部4の上端部に軸支され、これによりダンパ羽根体5全体が羽根体支持部4に対し傾動可能とされる仕組みである。具体的には、一方の空間10から他方の空間20へ向う方向を前方向、その逆方向を後方向とすれば、ダンパ羽根体5はその上部の軸支位置を中心として、羽根体下部を前後に振るように傾動することとなる。
【0023】
また、補助部材5aの上部には、ダンパ羽根体5に沿う補助部材5aの他部分に対し略直角をなして一方の空間10側へ延びる突出部5bが形成されており、この突出部5bに第一バランスウェイト6が突出部5b突出方向に位置調整可能として取付けられる構成である。さらに、補助部材5aの下部には、必要に応じて差圧調整用の第三のバランスウェイトを取付けることもできる。
【0024】
このダンパ羽根体5は、ダンパ枠体2の他方の空間20側で、アーム部3及び羽根体支持部4を介して、ダンパ枠体2に対する向きを変えつつ移動可能に支持されることで、二つの空間10、20の間の圧力差が大きい場合に、一方の空間10側からの相対圧力を受けて、ダンパ枠体2との当接状態から前方、すなわち他の空間20側へ動く一方、圧力差が低下すると後退して元の状態に復帰するなど、ダンパ枠体2開口部を両空間10、20の差圧に応じ開閉しつつ、空間10内空気のダンパ枠体2内を通じた他の空間10側への流出のみ許容する仕組みとなっている。
【0025】
前記第一バランスウェイト6は、ダンパ羽根体5裏側上部の突出部5bに取付けられ、ダンパ羽根体5と一体に羽根体支持部4に対し傾動可能とされる構成であり、通常はダンパ羽根体5の傾動中心位置より前記一方の空間10寄りに位置して、ダンパ羽根体5の傾動中心まわりにダンパ羽根体5における突出部5b以外の部分とは逆向きの回転モーメントを生じさせ、差圧によるダンパ羽根体5の羽根体支持部4に対する前方への傾動を起りやすくしている。そして、この第一バランスウェイト6の取付量(総重量)や、前記傾動中心位置からの距離を変えることで、ダンパ羽根体5の傾動の、差圧に対する感応性を調整できる仕組みである。
【0026】
ただし、羽根体支持部4に対する、ダンパ羽根体5や補助部材5a、及び第一バランスウェイト6などの傾動部分全体の重心位置は、羽根体支持部4上端部の傾動中心位置より前方、すなわち他方の空間20寄りに位置するようになっており、これに伴ってダンパ羽根体5がダンパ枠体2に当接する状態においてもさらに閉じ方向である一方の空間10側に傾動しようとする力が加わる仕組みとなっており、ダンパ羽根体5をダンパ枠体2に密着させ、ダンパ羽根体5が差圧以外の原因で開放状態となるのを防げる。
【0027】
第一バランスウェイト6が取付けられる突出部5bは、ダンパ羽根体5上部裏側から前記一方の空間10側へ突出して配設され、ダンパ羽根体5の閉止状態で、突出部5bの先端及び第一バランスウェイト6はアーム部3位置まで達しているが、突出部5b及び第一バランスウェイト6がダンパ枠体2の横方向における中央に位置しているのに対し、アーム部3の各リンク部材3a、3b、3c、3dはダンパ枠体2の横方向における中央を空けた形状として形成されていることから、ダンパ羽根体5の動作に伴って突出部5b及び第一バランスウェイト5が動いても、これらとアーム部3との接触はなく、ダンパ羽根体5の開閉を妨げることはない。
【0028】
前記第二バランスウェイト7は、アーム部3のダンパ枠体2及び羽根体支持部4に取付けられていない、前記一方の空間10寄り側に位置する長尺のリンク部材3bに端部を固定される螺子軸7a、及びこの螺子軸7aに螺合されるウェイト部7bからなる構成である。この第二バランスウェイト7は、ダンパ羽根体5がダンパ枠体2他端側開口を閉止している状態で、重心をアーム部3より一方の空間10寄りに位置させつつ、螺子軸7aに対するウェイト部7bの螺合位置を変化させることで重心位置調整可能として配設される構成である。
【0029】
この第二バランスウェイト7は、ダンパ羽根体5がダンパ枠体2他端側開口を閉止している状態で、重心をアーム部3より一方の空間10寄りに位置させることで、差圧による羽根体支持部4やダンパ羽根体5のダンパ枠体2に対する前方への移動を起りやすくしている。そして、この第二バランスウェイト7の取付量(総重量)や、リンク部材3bからの距離を変えることで、アーム部3の動きを伴った羽根体支持部4やダンパ羽根体5の移動の、差圧に対する感応性を調整できる仕組みである。
【0030】
リンク部材3aを除くアーム部3、羽根体支持部4、ダンパ羽根体5、及び各バランスウェイト6、7を含む可動部分全体の重心位置は、アーム部3の動作中心(静止節であるリンク部材3aの中心)位置より他方の空間20寄りに位置するようになっており、これに伴ってダンパ羽根体5がダンパ枠体2に当接する状態においてもさらに閉じ方向である一方の空間10側に向おうとする力が加わる仕組みとなっており、ダンパ羽根体5をダンパ枠体2に密着させて確実に開口を閉塞できる。
【0031】
次に、前記構成に基づく差圧ダンパ装置の動作について説明する。差圧ダンパ装置を取付けた壁50で隔てられた二つの空間10、20間の差圧が設定圧を越えると、各部材の重量に基づくダンパ羽根体5をダンパ枠体2に押付けようとする閉塞力に対し、圧力差に伴ってダンパ羽根体5を他方の空間20側へ押す一方の空間10の気体の圧力が打勝ち、この気体圧力で押されるダンパ羽根体5が、まず、ダンパ枠体2開口端面と平行な向きのまま、羽根体支持部4と共に、アーム部3の動きを伴いながら平行移動を開始し、ダンパ枠体2とダンパ羽根体5間に一様な隙間が生じる(図3参照)。
【0032】
続いて、羽根体支持部4の平行移動を伴いつつ、一方の空間10の気体圧力に押されるダンパ羽根体5が羽根体支持部4に対し下部を前方へ進める向きに傾動し、特にダンパ羽根体5下部でのダンパ枠体2とダンパ羽根体5との間隔を大きくした状態で、ダンパ枠体2とダンパ羽根体5間に開口が生じる(図4、図5参照)。
【0033】
開口が生じると、空間10の空気はダンパ枠体2内に入り、ダンパ枠体2とダンパ羽根体5との間を通って空間20へ流出する。このダンパ羽根体5の開放時、ダンパ枠体2とダンパ羽根体5間の開口部分を羽根体全周囲に確保し、且つダンパ羽根体5下部でのダンパ枠体2とダンパ羽根体5との間隔を大きくしていることで、ダンパ枠体2とダンパ羽根体5間における気流の通過を容易にして、差圧が大きく大量の気体が一方の空間10から他方の空間20へ移動しようとする場合でも、気体を効率よく他方の空間へ流入させることができる。
【0034】
また、一方の空間10側から他方の空間20側へ向う気流のうち、ダンパ羽根体5の背面にぶつかる気流を、背面をなす凹状面で受止め、さらに羽根体外周の起立部分で受ける状態となり、気流からの動圧をダンパ羽根体5の前方への移動及び傾動に有効に利用することができ、ダンパ羽根体5をスムーズに他方の空間側へ動かしてダンパ枠体2とダンパ羽根体5間の開口を十分確保できる。
【0035】
一方、高圧側の空間10から低圧側の空間20への空気の流出で両空間の差圧が設定圧力以下に下がると、気体圧力の低下に伴い、ダンパ羽根体5は羽根体支持部4の後方への平行移動を伴いつつ、羽根体支持部4に対し下部を後退させる向きに傾動する。そして、ダンパ羽根体5が、ダンパ枠体2開口端面と平行な向きとなった状態で、羽根体支持部4と共に、アーム部3の動きを伴いながら後方へ平行移動し、ダンパ羽根体5はダンパ枠体2に当接して開口を塞ぎ、再び二つの空間10、20が隔離された状態となる。
【0036】
第一バランスウェイト6や第二バランスウェイト7の重量及び重心位置の設定により、差圧変化に伴ってダンパ羽根体5がダンパ枠体2近傍からダンパ枠体2に接してこれを閉止する際や、逆にダンパ羽根体5がダンパ枠体2を閉止する状態から開放側に移動を開始する際には、ダンパ羽根体5はダンパ枠体2に対し平行移動のみで動く状態となることから、ダンパ羽根体5とダンパ枠体2との間で気密を維持するパッキン2aに対し、ダンパ羽根体5が一様に離隔、接近できることとなり、ダンパ羽根体5がパッキン2a表面を擦ることはなく、パッキン2a表面の摩耗を生じにくくして弾性材の劣化を抑え、パッキン2aの気密保持機能を適切に維持できる。
【0037】
ダンパ羽根体5がダンパ枠体2の開口端部を塞ぐ状態では、ダンパ羽根体5は可動部分の重量に基づく合成力によりダンパ枠体2に押付けられ、空間10の圧力が空間20に対し設定圧以上とならない限り、勝手に開いたり当接時に振動したりすることはない。また、急な圧力状態の変化で他方の空間20の圧力が空間10より高くなり、逆流が発生しやすい状況となった場合でも、ダンパ羽根体5が閉じる際、他方の空間20側からダンパ羽根体5を押す気流はダンパ羽根体5の突出形状に沿って流れてそのまま外周からその延長方向に離れていき、気流はダンパ枠体2とダンパ羽根体5との間の開口部分に流入しにくくなっており、ダンパ羽根体5が閉じた状態となる前に逆流となる気体の流入が生じる危険性は極めて少ない。
【0038】
ダンパ羽根体5が動いて開放状態となる設定圧力を調整する場合は、第二バランスウェイト7のウェイト部7bを螺子軸7aに対し螺動させて軸方向位置を変え、アーム部3の運動の中心部分であるリンク部材3a中心に対するウェイト部7bの前後位置を変え、ダンパ羽根体5や羽根体支持部4を閉じ側に移動させようとするリンク部材3a周りの合成力のうち、ウェイト部7bの荷重分を調整する。
【0039】
この場合、ウェイト部7bがより一方の空間10寄りに、すなわち、リンク部材3a中心から離れて位置するほど、ダンパ羽根体5や羽根体支持部4によるリンク部材3a周りの荷重が相殺され、開こうとする力に対する抵抗力(反力)が小さくなる。すなわち、開放時の設定圧がより低い値となる。こうしてウェイト部7bを位置調整することで、羽根体支持部4やダンパ羽根体5の移動が開始する開放時の設定圧力を容易に変更できる。
【0040】
また、必要に応じて、第一バランスウェイト6の突出部5bにおける取付位置を変えて、ダンパ羽根体5の羽根体支持部4に対する傾動が生じる設定圧力を調整して、羽根体支持部4とダンパ羽根体5がアーム部3の動きを伴いながら平行移動する動作とのタイミングを適宜調整できる。
【0041】
この他、差圧ダンパ装置1を、二空間の間で予想される差圧に伴う大量の気体流通に対応させるために、壁に複数横に並べて配設した場合(図6参照)、ダンパ羽根体5の開放時、ダンパ羽根体5を傾けて、ダンパ羽根体5下部でのダンパ枠体2とダンパ羽根体5との間隔を大きくしていることで、この間隔の大きい下側部分に気体が向いやすく、また、他方の空間20に向おうとする気流を、傾斜したダンパ羽根体5に沿わせつつ、主に斜め下向きに進行させられることで、別の差圧ダンパと隣接する横方向について、横向きに吹出した空気が、別の差圧ダンパから吹出した空気とぶつかる形となって、吹出気流が相互に干渉するといった悪影響を相対的に小さくすることができ、差圧ダンパ装置を並べて設置した数に見合った処理量を確保して、複数並べた場合も効率よく気体を移動させることができる。
【0042】
このように、本実施形態に係る差圧ダンパ装置は、平行クランク機構をなすアーム部3で、ダンパ羽根体5を支持する羽根体支持部4の向きが常にダンパ枠体2に対し一定となり、且つ、ダンパ羽根体5が羽根体支持部4に対し傾動可能とされて、ダンパ羽根体5が差圧に応じてダンパ枠体2に対し他方の空間20側でその向きを変えつつ前後に移動して、ダンパ枠体2を開閉することから、差圧に伴う気体のダンパ羽根体5に加わる圧力が各部の重量等に基づくダンパ羽根体5の閉塞力を上回ると、ダンパ羽根体5が他方の空間20側へ移動すると共に、ダンパ羽根体5を傾けて、ダンパ枠体2とダンパ羽根体5間の開口部を羽根体全周囲に確保し、且つダンパ羽根体5下部でのダンパ羽根体5とダンパ枠体2との間隔を大きくすることとなり、ダンパ枠体2とダンパ羽根体5間における気流の通過を容易にして大量の気体を効率よく一方の空間10から他方の空間20に移動させられ、二空間間の差圧を設定圧内に速やかに調整できる。
【0043】
また、アーム部3がダンパ枠体2の厚み方向に平行なリンク部材3a、3dの寸法を小さくされてもダンパ羽根体5の変位量を十分に確保できるため、羽根体閉止時に少なくともアーム部3全体を収容する大きさが望ましいダンパ枠体2の厚み方向の必要寸法を抑えられることとなり、壁50への設置における寸法的制約を少なくして様々な箇所に対応させられる。
【0044】
なお、前記実施形態に係る差圧ダンパ装置においては、ダンパ枠体2を方形開口断面形状に形成する構成としたが、これに限らず、ダンパ枠体2を矩形や円形など他の開口断面形状の枠状体として形成する構成とすることもできる。また、ダンパ羽根体5も、ダンパ枠体2の開口断面形状に合わせて矩形や円形など他の外形に形成する構成とすることができる。
【0045】
また、前記実施形態に係る差圧ダンパ装置においては、ダンパ羽根体5裏側に、ダンパ羽根体5の傾動中心位置より一方の空間10寄りに位置する状態で第一バランスウェイト6を配設する構成としているが、これに限らず、二空間の間に生じる差圧が大きく設定される場合、すなわち、ダンパ羽根体5がある程度差圧が大きくなってから開放すればよい場合には、羽根体支持部4に対し傾動するダンパ羽根体5の閉じ側に向おうとする回転モーメントを一部打消して開放を容易にするように働く第一バランスウェイトは設けない構成としてもかまわない。さらに、ダンパ羽根体5の閉じ側に向おうとする回転モーメントを大きくして開放しにくくするために、図7及び図8に示すように、ダンパ羽根体5の裏側に第三バランスウェイト8を設ける構成とすることもでき、この第三バランスウェイト8の取付量(総重量)や、ダンパ羽根体5の傾動中心位置からの距離を変えることで、ダンパ羽根体5の傾動の、差圧に対する感応性をより一層柔軟に調整できることとなる。この第三バランスウェイト8については、具体的には、図7及び図8に示すように、傾動中心位置から離れ、ウェイトの着脱作業も容易となる補助部材5aの下部に設けるのが好ましい。
【符号の説明】
【0046】
1 差圧ダンパ装置
2 ダンパ枠体
2a パッキン
3 アーム部
3a、3d リンク部材
3b、3c リンク部材
4 羽根体支持部
5 ダンパ羽根体
5a 補助部材
5b 突出部
6 第一バランスウェイト
7 第二バランスウェイト
7a 螺子軸
7b ウェイト部
8 第三バランスウェイト
10、20 空間
50 壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣合う二つの空間を隔てる壁に配設され、一方の空間の他方の空間に対する圧力差が所定の設定値以下の場合には両空間を非連通とする閉塞状態にある一方、前記圧力差が前記設定値を超える場合には開放状態となって両空間を連通させ、前記一方の空間から他方の空間への空間内気体の移動を許容する差圧ダンパ装置において、
前記気体が内側を通る中空の略筒状部分を少なくとも有し、前記壁に設けられた孔にはめ込まれて配設されるダンパ枠体と、
平行クランク機構として組合わされる四つのリンク部材で形成され、一のリンク部材を前記ダンパ枠体上部内周面に当該内周面に沿う配置で取付けられるアーム部と、
当該アーム部における前記一のリンク部材と平行をなす他のリンク部材に固定され、ダンパ枠体に対する向きを維持しつつ移動可能に支持される羽根体支持部と、
前記ダンパ枠体の他端側開口を閉塞可能な大きさの略板状体で形成され、前記羽根体支持部の上部に傾動可能に取付けられ、ダンパ枠体の前記他方の空間側に配設されるダンパ羽根体とを備えることを
特徴とする差圧ダンパ装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載の差圧ダンパ装置において、
前記ダンパ羽根体と一体に前記羽根体支持部に対し傾動可能とされ、且つ重心をダンパ羽根体の羽根体支持部における傾動中心位置より前記一方の空間寄りに位置させつつ、重心位置調整可能として配設されるバランスウェイトを備えることを
特徴とする差圧ダンパ装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載の差圧ダンパ装置において、
前記アーム部のダンパ枠体及び羽根体支持部に取付けられていない所定のリンク部材に取付けられ、且つダンパ羽根体がダンパ枠体他端側開口を閉止している状態で重心をアーム部より前記一方の空間寄りに位置させつつ、重心位置調整可能として配設されるバランスウェイトを備えることを
特徴とする差圧ダンパ装置。
【請求項4】
前記請求項2又は3に記載の差圧ダンパ装置において、
前記一方の空間と他方の空間との差圧に伴って一方の空間側からダンパ羽根体に加わる気体の相対圧力による、羽根体支持部及びダンパ羽根体のダンパ枠体に対する他方の空間側へ向けての平行移動が、ダンパ羽根体の羽根体支持部に対する傾動を生じさせる圧力より小さい圧力で生じるように、前記バランスウェイトの重量及び/又は重心位置を設定し、
少なくともダンパ羽根体がダンパ枠体近傍に位置する状態では、ダンパ羽根体の羽根体支持部に対する傾動を伴わず、ダンパ羽根体をダンパ枠体開口端面と平行な状態に維持しつつ、羽根体支持部及びダンパ羽根体のダンパ枠体に対する平行移動のみが生じることを
特徴とする差圧ダンパ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate