説明

巻上機のブレーキ制御装置

【課題】巻上機の電磁ブレーキの温度上昇を抑制しつつ、電磁ブレーキの耐久性を向上させる。
【解決手段】巻上機は、吊荷を巻上げおよび巻下げするスプロケット13を有し、スプロケット13は交流の電動モータ23により駆動され、電動モータ23の出力軸24には電磁ブレーキ27が設けられている。電磁ブレーキ27は出力軸24に連結される回転ディスク32、これに締結される締結ディスク33を有し、電動モータ23を駆動させるときには締結ディスク33を回転ディスク32から離反する方向に吸引するコイル28を備えている。締結ディスクを回転ディスク32から離反させるブレーキ起動時の印加電圧は、ブレーキ吸引状態でのコイル28に対する印加電圧よりも高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気チェーンブロック等の巻上機に組み込まれる電磁ブレーキを制御する巻上機のブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷物つまり吊荷を上下動するための巻上機には、電気チェーンブロックやホイスト等がある。電気チェーンブロックは、ロードチェーンが掛け渡されたスプロケットを駆動することにより、ロードチェーンの一端部に設けられた荷物吊り下げ用の下フックを上下動させて荷物の巻上げと巻下げを行うようにしており、ロードチェーンの他端部は巻上機本体に設けられたチェーン収納器つまりチェーンバケットに収納されるようになっている。ホイストは、ワイヤが巻き付けられるドラムを駆動することにより、ワイヤの下端部に設けられた荷物吊り下げ用の下フックを上下動させて荷物の巻上げと巻下げを行うようにしている。スプロケットやドラムは電動モータにより回転駆動するようにしており、多くの巻上機においては、電動モータとして誘導モータが使用されている。
【0003】
このような巻上機には、吊荷の巻上げと巻下げとを一定の速度で行うタイプと、それぞれの速度を作業者のスイッチ操作により変化させるようにしたタイプとがある。速度を変化させるタイプにおいては、特許文献1に記載されるように、電動モータの回転数を変化させるために、電動モータはインバータ制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−291783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
巻上機本体には電動モータの出力軸をロックするために電磁ブレーキが装着されている。この電磁ブレーキを作動させると、出力軸はロックされることになり、例えば、吊荷を所定の高さまで吊り下げた状態のもとで吊荷の上下動を停止させることができる。電磁ブレーキは、駆動軸に取り付けられる被締結側のブレーキディスクである回転ディスクと、この回転ディスクに対向配置される締結側のブレーキディスクである締結ディスクとを有しており、締結ディスクは回転が規制された状態で回転ディスクに対して接近離反移動する。締結ディスクには、ばね部材により回転ディスクに密着する方向のばね力が加えられている。締結ディスクを回転ディスクから離反させるために、コイルが組み込まれた電磁石が締結ディスクに隣接させて配置されている。これにより、コイルに通電すると、ばね力に抗して締結ディスクは吸引されて回転ディスクから離れて電磁ブレーキは開放状態となる。一方、コイルに対する通電を停止すると、締結ディスクはばね力により回転ディスクに密着されて電磁ブレーキは締結状態となり主力軸はロックされる。
【0006】
電磁ブレーキとしてはコイルに直流電流を供給するようにした直流電磁ブレーキが使用されている。コイルに対する電力は、外部電源から電動モータに供給される交流電流を分岐し直流電流に整流して供給するようにしている。
【0007】
巻上機を用いて吊荷の巻上げと巻下げ操作が行われているときには、電磁ブレーキを開放状態とするために、コイルには電流を供給し続けることになるので、締結ディスクを吸引している状態のときには、電磁ブレーキは温度上昇することになる。締結ディスクを吸引して電磁ブレーキを開放状態に保持する際の温度上昇を抑制するために、コイルへの印加電圧を低下させると、回転ディスクに密着された状態の締結ディスクを回転ディスクから離反させるときにおけるブレーキの開放起動時間が長くかかることになる。
【0008】
開放起動時間が長くなると、吊荷を移動させるために電動モータに通電がなされてから電磁ブレーキが完全に開放状態となるまでに時間を要し、締結ディスクが回転ディスクに接触した状態で電動モータが回転を開始することになる。このため、それぞれのディスクに設けられたブレーキライニングの摩耗が早期に進行してしまい、巻上機の耐久性を低下させるという問題点がある。
【0009】
本発明の目的は、巻上機の電磁ブレーキの温度上昇を抑制しつつ、電磁ブレーキの耐久性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の巻上機のブレーキ制御装置は、吊荷を巻上げおよび巻下げする回転体を駆動する電動モータを有し、当該電動モータの出力軸を締結状態と締結開放状態とに切り換える巻上機のブレーキ制御装置であって、前記出力軸に連結される回転ディスク、当該回転ディスクに対して接近離反移動自在の締結ディスク、当該締結ディスクに前記回転ディスクに向けてばね力を加えるばね部材、および前記回転体を駆動するときに前記締結ディスクを前記回転ディスクから離反する方向に吸引するコイルを備えた電磁ブレーキと、前記電動モータに供給される交流を直流に整流して前記コイルに供給する整流回路と、前記締結ディスクが前記回転ディスクからの離反動作を終了したブレーキ吸引状態のもとでは、前記締結ディスクを前記回転ディスクから離反させるブレーキ起動時よりも整流する交流電流の整流成分を少なくする整流位相切換手段とを有し、前記ブレーキ吸引状態での前記コイルに対する印加電圧よりも前記ブレーキ起動時の印加電圧を高めることを特徴とする。本発明の巻上機のブレーキ制御装置は、前記電動モータに供給される三相交流電流を、前記ブレーキ起動時には半波整流若しくは全波整流するか、又は三相交流のうち単相若しくは二相交流を全波整流して前記コイルに印加し、前記吸引状態のもとでは前記単相交流を半波整流して前記コイルに印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吊荷を巻上げおよび巻下げするための回転体を駆動する電動モータに供給される交流電流を分岐して直流の電磁ブレーキのコイルに整流して供給するようにし、電磁ブレーキの起動時にはコイルに対して印加する電圧を、吸引状態のもとでコイルに対して印加する電圧を高めることにより、電磁ブレーキの開放起動動作を速めることができる。これにより、電動モータと電磁ブレーキの動作ギャップつまり動作遅れが無くなるので、ブレーキライニングの摩耗を低減することが可能となり、電磁ブレーキの耐久性を向上させることができる。また、吸引状態のもとでは起動時よりもコイルに対する印加電圧を低下させることにより、電磁ブレーキの温度上昇を抑制しつつ、電磁ブレーキの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態としての巻上機である電気チェーンブロックを示す正面図である。
【図2】図1の右側面図である。
【図3】図1に示された巻上機本体の拡大断面図である。
【図4】図3に示された電磁ブレーキを示す拡大断面図である。
【図5】メカニカルブレーキのラチェットホイールとラチェットの噛み合いが解かれた状態における図3のA−A線拡大断面図である。
【図6】メカニカルブレーキのラチェットホイールとラチェットが噛み合った状態における図5と同様の部分を示す拡大断面図である。
【図7】電磁ブレーキの作動を制御する制御装置を示すブロック図である。
【図8】吊荷の巻上げ運転や巻下げ運転がなされる際における電磁ブレーキと電動モータの作動タイミングを示すタイムチャートである。
【図9】電磁ブレーキの起動時と吸引時とにおける整流回路の入力電流と出力電流を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1および図2に示されるように、巻上機としての電気チェーンブロックは巻上機本体10を有している。巻上機本体10はハウジング11を有し、このハウジング11の長手方向中央の上側部には、上フックつまり上吊具12が装着されており、巻上機本体10はこの上吊具12により吊り下げられた状態で使用される。ハウジング11内には上吊具12の下側に位置させて回転体としてのスプロケット13が図2に破線で示されるように装着され回転自在となっており、このスプロケット13にはロードチェーン14が掛け渡されている。このロードチェーン14の一端部には、下フックつまり下吊具15が設けられており、この下吊具15には荷物つまり吊荷が引っ掛けられるようになっている。
【0014】
スプロケット13を回転駆動することにより下吊具15に引っ掛けられた吊荷は、巻上げ移動されたり、巻下げ移動されることになる。図1および図2に示されるように、ハウジング11にはロードチェーン14の他端部側を収容するためのチェーン収納器つまりチェーンバケット16が取り付けられており、吊荷が巻き上げられるとロードチェーン14の他端部側はチェーンバケット16内に入り込み、吊荷が巻下げられるとチェーンバケット16内からロードチェーン14が繰り出されることになる。巻上機本体10には、操作入力部17がケーブル18を介して接続されており、操作入力部17に設けられた巻上げ用スイッチと巻下げ用スイッチとを作業者が操作することにより吊荷の巻上げ動作と巻下げ動作が行われる。
【0015】
図3に示されるように、スプロケット13は中空のスプロケット軸21に固定されており、このスプロケット軸21の両端部はハウジング11に取り付けられた軸受22により支持され、スプロケット軸21はハウジング11内に回転自在に装着されている。ハウジング11内にはスプロケット13に対して巻上機本体10の長手方向一方側に位置させて、誘導型の電動モータ23が装着されており、電動モータ23のロータに固定された出力軸24は電動モータ23の両端面から外方に突出している。出力軸24の一方の突出端部24aは、ハウジング11に固定された支持板つまりブラケット25に設けられた軸受26によって回転自在に支持され、ブラケット25には電磁ブレーキ27が装着されている。
【0016】
この電磁ブレーキ27は、図4に示されるように、コイル28が環状となって組み込まれるソレノイドケース29を有し、このソレノイドケース29は複数本の締結ロッド31によりブラケット25に取り付けられている。ブラケット25とソレノイドケース29との間にはブラケット25に対向するように被締結側のブレーキディスクつまり回転ディスク32が配置され、この回転ディスク32は図3に示されるように出力軸24の突出端部24aにスプライン等の固定手段により固定されている。回転ディスク32とソレノイドケース29との間には、回転ディスク32に対向しこれに対して接近離反移動自在に締結側のブレーキディスクつまり締結ディスク33が配置されている。この締結ディスク33に形成された貫通孔34には締結ロッド31が貫通しており、締結ディスク33は締結ロッド31により回転が規制された状態で締結ロッド31に案内されて軸方向に移動する。
【0017】
ソレノイドケース29の中心部にはばねケース35が設けられており、このばねケース35内には、締結ディスク33に対して回転ディスク32に向かう方向のばね力を加える圧縮コイルばね36がばね部材として装着されている。回転ディスク32の両側には、図4に示されるようにブレーキライニング37a,37bが設けられており、圧縮コイルばね36のばね力により締結ディスク33が回転ディスク32に向けて押し付けられると、ブレーキライニング37a,37bを介して締結ディスク33と回転ディスク32がブラケット25に密着して出力軸24はロックされる。
【0018】
したがって、電磁石つまりソレノイドを構成するコイル28に対して通電を停止させた状態のもとでは、ばね力により締結ディスク33が回転ディスク32にブレーキライニング37aを介して密着するとともに回転ディスク32がブレーキライニング37bを介してブラケット25に密着するので、出力軸24は回転ディスク32を介してブラケット25に締結されてロックされ、電磁ブレーキ27は締結状態となる。一方、コイル28に通電すると、締結ディスク33が磁力によりばね力に抗してコイル28に向けて吸引され、締結ディスク33は回転ディスク32から離れることになり、電磁ブレーキ27は出力軸24の回転を許容する開放状態となる。
【0019】
図3に示されるように、電動モータ23の出力軸24の他方の突出端部24bは、ハウジング11に取り付けられる軸受41により回転自在に支持され、出力軸24はスプロケット軸21の内部に回転自在に組み込まれた駆動軸42に継手43を介して連結されている。この駆動軸42は出力軸24の一部を構成しており、その先端部はハウジング11に取り付けられた軸受44に支持されている。
【0020】
ハウジング11には駆動軸42と平行に減速軸45が軸受46を介して回転自在に装着され、駆動軸42の先端部に設けられた小歯車47は、減速軸45の端部に設けられた大歯車48と噛み合っている。この小歯車47と大歯車48により駆動軸42の回転を減速して減速軸45に伝達する減速機構49が形成されている。
【0021】
スプロケット軸21の外側にはメカニカルブレーキ50が装着されている。このメカニカルブレーキ50は、円筒形状のねじ部51と、このねじ部51の一端部に設けられたディスク部52とが一体となったブレーキディスク53を有している。ブレーキディスク53はねじ部51の内周面に設けられたスプライン等の固定手段によりスプロケット軸21に固定されている。
【0022】
メカニカルブレーキ50は、電磁力により作動する電磁ブレーキ27に比して大きな制動トルクが得られる。このメカニカルブレーキ50を、電磁ブレーキ27に加えて、スプロケット13側つまり負荷側に設けることにより、大きな負荷がスプロケット13に加わっても、確実にスプロケット13の回転を規制することができる。
【0023】
ねじ部51の外周面には雄ねじ54aが形成されており、この雄ねじ54aには、雌ねじ54bが形成されたブレーキ歯車55がねじ結合されている。このブレーキ歯車55は、減速軸45に設けられた連結歯車56に噛み合っており、駆動軸42の出力は減速軸45を介してブレーキ歯車55に伝達される。連結歯車56よりもブレーキ歯車55は大径となっており、減速軸45の回転は減速されてブレーキ歯車55に伝達される。
【0024】
ブレーキ歯車55の端面はディスク部52に対向しており、ブレーキ歯車55とディスク部52との間には、ラチェットホイール57が回転自在に装着されている。ディスク部52にはブレーキライニング58aが設けられ、ブレーキ歯車55の端面にはブレーキライニング58bが設けられており、ブレーキ歯車55がブレーキディスク53に対して締結方向つまりディスク部52に接近する方向に相対回転すると、両方のブレーキライニング58a,58bがラチェットホイール57に密着し、メカニカルブレーキ50は締結状態となる。これにより、ラチェットホイール57を介してブレーキディスク53とブレーキ歯車55は締結された状態となる。一方、ブレーキ歯車55がブレーキディスク53に対して締結を解除する方向つまりディスク部52から離れる方向に相対回転すると、ブレーキディスク53とブレーキ歯車55との締結が解除されて、メカニカルブレーキ50は開放状態となる。
【0025】
このように、ブレーキ歯車55がブレーキディスク53に対して相対回転すると、ブレーキ歯車55がブレーキディスク53のねじ部51にねじ結合されているので、ブレーキ歯車55はブレーキディスク53に対して締結位置と開放位置との間を軸方向に移動することになる。ブレーキ歯車55の開放限の位置は、ねじ部51の先端に取り付けられたストッパ59により規制されるようになっている。
【0026】
電動モータ23を正転方向に回転させて吊荷の巻上げ運転を行うときには、電磁ブレーキ27を開放し、電動モータ23によって図3において矢印で示すように出力軸24は正転方向に回転駆動される。これにより、減速軸45を介してブレーキ歯車55は出力軸24と同方向の締結方向に回転駆動され、ブレーキ歯車55はブレーキディスク53にラチェットホイール57を介して締結されるので、巻上げ方向に駆動される出力軸24によりスプロケット13は巻上げ方向に駆動され、下吊具15に吊り下げられた吊荷は、スプロケット13に掛け渡されたロードチェーン14により巻上げられる。
【0027】
図5および図6はそれぞれ図3におけるA−A線拡大断面図である。電動モータ23の出力軸24を正転方向に駆動すると、図5において減速軸45が矢印U1で示す巻上げ方向に回転駆動されるので、ブレーキ歯車55はラチェットホイール57を介してブレーキディスク53に締結されて、矢印U2で示す方向に回転駆動される。これにより、スプロケット13が巻上げ方向に駆動され、ロードチェーン14に吊り下げられた吊荷の巻上げ運転が行われる。なお、図5および図6においては、ブレーキ歯車55と連結歯車56の外径線が実線で示され、ピッチ線が一点鎖線で示されている。
【0028】
図5および図6に示されるように、ハウジング11には、ラチェットホイール57に噛み合うラチェット60が揺動自在に装着されており、図示しないばね部材によりラチェット60にはその先端がラチェットホイール57の外周面に接触する方向にばね力が加えられている。ラチェット60は、ラチェットホイール57が矢印D2方向つまり巻下げ方向に回転すると、図6に示されるように、ラチェットホイール57に噛み合ってラチェットホイール57が矢印D2で示す方向に回転するのを阻止する。
【0029】
吊荷を下吊具15により吊り下げた状態のもとで吊荷の上下動を停止させるときには、電動モータ23への電力供給を停止させるとともに電磁ブレーキ27への電力供給を停止させて電磁ブレーキ27を締結状態とすることになる。このときには、図6に示されるように、ラチェットホイール57にラチェット60が噛み合ってスプロケット軸21はロックされる。つまり、このときには、吊荷の荷重によりスプロケット軸21には巻下げ方向D2に回転力が加えられるが、出力軸24の回転が電磁ブレーキ27により停止されており、ブレーキ歯車55によりラチェットホイール57はディスク部52に締結された状態となるので、吊荷の荷重により巻下げ方向D2の回転力がスプロケット軸21に加わることになる。これにより、図6に示されるように、ラチェット60がラチェットホイール57に噛み合ってスプロケット13はロックされて回転が規制される。このように、メカニカルブレーキ50によってスプロケット軸21がロックされるので、電磁ブレーキ27を開放したとしても吊荷が巻下がることが防止される。
【0030】
一方、電動モータ23を逆転させて吊荷の巻下げ運転を行うときには、コイル28に電力を供給して電磁ブレーキ27を開放し、電動モータ23によって出力軸24を逆転方向に回転駆動する。このときには、吊荷によってスプロケット軸21には巻下げ方向の回転力が加わった状態のもとで、出力軸24が巻下げ方向に駆動され、減速軸45は巻下げ方向D1に回転駆動される。これにより、ブレーキ歯車55はブレーキディスク53に対して締結を解く方向に相対回転してメカニカルブレーキ50は開放状態となる。したがって、ラチェット60がラチェットホイール57に図6に示されるように噛み合った状態となっていても、ラチェットホイール57に対するディスク部52とブレーキ歯車55の密着が解かれ、吊荷の荷重によりスプロケット軸21は巻下げ方向に回転駆動される。
【0031】
電動モータ23の巻下げ方向の回転速度よりも吊荷によりスプロケット軸21に加わる巻下げ方向の回転速度が高くなると、ブレーキ歯車55はラチェットホイール57をディスク部52に密着する方向に相対回転することになる。これにより、図6に示されるように、ラチェット60が噛み合った状態のラチェットホイール57によりスプロケット軸21は回転が規制されてロックされる。このように、電動モータ23の巻下げ方向の回転によりメカニカルブレーキ50の開放動作と、吊荷の荷重によるメカニカルブレーキ50の制動動作とが繰り返されて、ブレーキライニング58a,58bをラチェットホイール57に滑らせながら、出力軸24の回転にほぼ同期した状態となって、吊荷は巻下げられることになる。この巻下げ運動時には、メカニカルブレーキ50は出力軸24による開放動作と、吊荷の荷重による制動動作とを繰り返すことになるので、出力軸24には吊荷による逆転方向の回転力つまり回転トルクが加わることはない。
【0032】
しかしながら、巻下げ運転を開始するときに、ラチェット60が図5に示されるようにラチェットホイール57に噛み合っていない状態となっていると、巻下げ運転によりラチェット60がラチェットホイール57に図6に示されるように噛み合うまで、メカニカルブレーキ50が動作しない状態となって、出力軸24は逆転方向の回転力つまり回転トルクが加わることになる。
【0033】
図3に示されるように、この巻上機は電磁ブレーキ27に加えてメカニカルブレーキ50を具備しているが、比較的軽量な吊荷を巻上げおよび巻下げ操作するために使用される小型の巻上機においては、電磁ブレーキ27のみを搭載するようにして、メカニカルブレーキ50を搭載しない形態とすることもできる。
【0034】
図7は電磁ブレーキ27の作動を制御する制御装置を示すブロック図である。三相の交流電流を供給する電源61はコントローラ62を介して電動モータ23に供給されるようになっており、この電動モータ23は三相の交流電流により駆動される誘導型の交流モータとなっている。コントローラ62には操作入力部17からの信号が送られるようになっており、操作入力部17に設けられた巻上げ用の操作スイッチが作業者により操作されると吊荷の巻上げ運転が行われ、巻下げ用の操作スイッチが操作されると吊荷の巻下げ運転が行われる。巻上げ運転時には電動モータ23に対しては正転方向に電力が供給され、巻下げ運転時には電動モータ23に対しては逆転方向に電力が供給される。
【0035】
電動モータ23に供給される電力を利用して電磁ブレーキ27を作動するようにしている。電磁ブレーキ27は直流電流により作動する直流の電磁ブレーキであり、電動モータ23に供給される交流電流を整流して電磁ブレーキ27のコイル28に供給するために、コントローラ62には整流回路63が接続されている。
【0036】
電磁ブレーキ27は、上述のように、吊荷の巻上げ運転および巻下げ運転が行われるときには、コイル28に電力を供給することによって開放状態に設定される。電磁ブレーキ27の起動時間を電動モータ23の動作タイミングと同等となるように電磁ブレーキ27に対する印加電圧を設定すると、電磁ブレーキ27が締結ディスク33を吸引し続ける吸引状態のもとではコイル28には過大電圧となって発生する熱量が増加して電磁ブレーキ27の温度上昇が大きくなる。このため、電磁ブレーキ27のサイズを大型化する必要がある。
【0037】
一方、電磁ブレーキ27を小型化して印加電圧を抑えると、電磁ブレーキ27の起動時間が長くなってしまう。このため、電磁ブレーキ27の起動時には電動モータ23の動作に対して電磁ブレーキ27の開放動作が遅れてしまうことになり、電磁ブレーキ27が半ブレーキ状態のままで電動モータ23の出力軸24が回転され、ブレーキライニング37a,37bの摩耗が進行してしまうことになる。
【0038】
そこで、電磁ブレーキ27の起動時つまり締結ディスク33を回転ディスク32から離反させるときにコイル28に印加する起動時印加電圧を、この離反動作を終了して締結ディスク33をコイル28により吸引し続ける吸引状態の電圧よりも増加させるようにしている。これにより、起動時間を短くするとともに、吸引状態のもとでコイル28の発熱を抑制するようにしている。
【0039】
そのため、図7に示されるように、コントローラ62から三相の交流電流が供給される整流回路63は、電磁ブレーキ27の起動時には三相の半波整流により直流に変換してコイル28に印加し、吸引状態のもとでは三相交流のうち単相交流を半波整流してコイル28に印加するようにしている。整流回路63は半波整流を行うダイオード等を有する整流回路と、三相交流の整流と単相交流の整流とを切り換えるための整流位相切換手段としてのタイマーを有しており、電磁ブレーキ27の起動が終了してから所定の時間が経過した時には吸引状態に切り換えられる。ただし、締結ディスク33の位置を検出するスイッチを整流位相切換手段として電磁ブレーキ27に設けることにより、所定の位相切換時間tが経過した後に、締結ディスク33が回転ディスク32から離反したことを検出したら吸引状態に切り換えるようにしても良い。
【0040】
図8は吊荷の巻上げ運転や巻下げ運転がなされる際における電磁ブレーキ27と電動モータ23の作動タイミングを示すタイムチャートである。図9は電磁ブレーキ27の起動時と吸引時とにおける整流回路63の入力電流と出力電流を示すタイムチャートである。
【0041】
図8に示されるように、操作入力部17の巻上げ用スイッチまたは巻下げ用のスイッチが操作されると、電動モータ23と電磁ブレーキ27に電力が供給される。これにより、電磁ブレーキ27が開放された状態のもとで電動モータ23によりスプロケット13が駆動される。電磁ブレーキ27を起動させて、ばね力に抗して回転ディスク32から締結ディスク33を離反させる起動時には、図9に示されるように三相交流が整流回路63により半波整流されて電磁ブレーキ27のコイル28に印加される。次いで、締結ディスク33が回転ディスク32から離反された後には図9に示されるように単相交流成分が整流回路63により半波整流されてコイル28に印加される。整流する位相成分の切換は、整流回路63内に組み込まれた整流切換手段としてのタイマー64によって位相切換時間tが経過した後に行われる。
【0042】
このように整流成分を切り換えることよって、電磁ブレーキ27に対しては起動時には吸引状態よりも高い電圧が印加されることになり、電磁ブレーキ27の起動時間を短くすることができる。一方、吸引状態のもとでは印加電圧が起動時よりも低くなり、吸引状態のもとでコイル28の温度上昇を抑制することが可能となる。
【0043】
上述した実施の形態においては、起動時には電動モータ23に電源61から供給される三相交流を半波整流してコイル28に印加し、起動後には整流切換手段としてのタイマー64により所定の位相切換時間tが経過したら、単相交流を半波整流してコイル28に印加する。このように整流成分が少なくして設定された電圧がコイル28に印加されて吸引状態が保持される。
【0044】
整流回路63としては、全波整流回路と半波整流回路とを有する形態がある。そのような形態においては、ブレーキ起動時には三相交流を全波整流してコイル28に印加するタイプと、三相交流成分のうち二相成分を全波整流してコイル28に印加するタイプと、単相成分を全波整流してコイル28に印加するタイプとがある。それぞれの形態においては、吸引状態のもとでは、半波整流回路によってコイル28には単相交流が半波整流されて印加される。これらの形態のうち、いずれの形態とするかは、巻上げ運転や巻下げ運転が行われる吊荷の最大荷重に応じたモータ出力に応じて選択される。
【0045】
巻上機の巻上げ速度と巻下げ速度とを変化させるようにした形態においては、電動モータ23の回転数を変化させるために、制御装置にはインバータが搭載される。インバータを有する巻上機においては、電動モータ23は図8において二点鎖線で示されるように、電動モータ23の起動時にはこれに供給される周波数を徐々に高めることにより、出力軸24の回転数が高められる。電動モータ23の回転を停止させるときには出力軸24の回転は徐々に低下されることになる。このように、巻上機としては、電動モータ23の回転数を変化させるようにした形態もあり、その場合には起動時ないしモータ停止時のみならず、巻上げ運転と巻下げ運転におけるそれぞれの速度は、作業者による操作ボタンの操作に応じて切り換えられる。
【0046】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した巻上機は下吊具15が設けられた索条としてのロードチェーン14が掛け渡されるスプロケット13を回転体とした電気チェーンブロックであるが、ホイストにも本発明を適用することができる。ホイストにおいては、下吊具が設けられた索条としてのワイヤが掛け渡される回転体としてのドラムを有しており、ドラムを駆動するための電動モータの出力軸には、電気チェーンブロックと同様に、電磁ブレーキが設けられることになる。また、電動モータ23と電磁ブレーキ27の作動を制御するコントローラの形態としては、マイクロプロセッサを有しROMに格納されたソフトウエアにより整流位相を切り換えるようにした形態と、マイクロプロセッサを使用することなく、スイッチング機器を有するディスクリート方式とした形態としても良い。
【符号の説明】
【0047】
10…巻上機本体、11…ハウジング、13…スプロケット(回転体)、14…ロードチェーン、15…下吊具、17…操作入力部、21…スプロケット軸、23…電動モータ、24…出力軸、27…電磁ブレーキ、28…コイル、32…回転ディスク、33…締結ディスク、36…圧縮コイルばね、37a,37b…ブレーキライニング、50…メカニカルブレーキ、51…ねじ部、52…ディスク部、53…ブレーキディスク、55…ブレーキ歯車、57…ラチェットホイール、60…ラチェット、61…電源、62…コントローラ、63…整流回路、64…タイマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷を巻上げおよび巻下げする回転体を駆動する電動モータを有し、当該電動モータの出力軸を締結状態と締結開放状態とに切り換える巻上機のブレーキ制御装置であって、
前記出力軸に連結される回転ディスク、当該回転ディスクに対して接近離反移動自在の締結ディスク、当該締結ディスクに前記回転ディスクに向けてばね力を加えるばね部材、および前記回転体を駆動するときに前記締結ディスクを前記回転ディスクから離反する方向に吸引するコイルを備えた電磁ブレーキと、
前記電動モータに供給される交流を直流に整流して前記コイルに供給する整流回路と、
前記締結ディスクが前記回転ディスクからの離反動作を終了したブレーキ吸引状態のもとでは、前記締結ディスクを前記回転ディスクから離反させるブレーキ起動時よりも整流する交流電流の整流成分を少なくする整流位相切換手段とを有し、
前記ブレーキ吸引状態での前記コイルに対する印加電圧よりも前記ブレーキ起動時の印加電圧を高めることを特徴とする巻上機のブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の巻上機のブレーキ制御装置において、前記電動モータに供給される三相交流電流を、前記ブレーキ起動時には半波整流若しくは全波整流するか、又は三相交流のうち単相若しくは二相交流を全波整流して前記コイルに印加し、前記吸引状態のもとでは前記単相交流を半波整流して前記コイルに印加することを特徴とする巻上機のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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