説明

巻上装置用液圧回路及びそれを備える巻上装置

【課題】 液圧回路を複雑化させることなく、昇降対象物を昇降させる際に、第1及び第2液圧モータに掛かる負荷を略均等に分担させること。
【解決手段】 液圧ポンプから吐出される圧液を第1及び第2液圧モータ側に供給するための共用給排通路と、共用給排通路からそれぞれが分岐して、第1液圧モータに接続する第1分岐通路及び第2液圧モータに接続する第2分岐通路と、巻上げ駆動時の供給側となる共用給排通路に対して設けられたカウンタバランス機構と、第1分岐通路の給排路のそれぞれに設けられている絞り部とを備え、液圧ポンプから第1液圧モータまでの通路の距離が、液圧ポンプから前記第2液圧モータまでの通路の距離よりも短く、絞り部は、第1分岐通路及び第1液圧モータによる第1分流通路抵抗と、第2分岐通路及び第2液圧モータによる第2分流通路抵抗との差を低減又は略零にする内径を有する構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン及びウィンチを含む巻上装置が備える巻上装置用液圧回路及びそれを備える巻上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウィンチの一例として、例えば図4に示すものがある(例えば、特許文献1参照。)。この図4に示すウィンチ1は、油圧ポンプ2から吐出される圧油によって第1油圧モータ3及び第2油圧モータ4が回転駆動して、その両方の回転動力が複数の歯車5a、5b、5cを介してドラム6に伝達されて、このドラム6を回転させることによって、昇降対象物を昇降させるように構成されている。
【0003】
そして、図4に示すように、第1巻上配管7には、第1カウンタバランス弁8が設けられ、第2巻上配管9には、第2カウンタバランス弁10が設けられている。そして、第1巻上配管7と、第2カウンタバランス弁10のバネ室11とが、圧力同調配管12によって接続されており、この圧力同調配管12の途中には、絞り部13が設けられている。
【0004】
上記のように構成されたウィンチ1を使用して昇降対象物を下降させる場合において、第2巻上配管9の圧力(パイロット圧力室14の圧力)が、第2カウンタバランス弁10のバネ室11の圧力(この圧力は、第1巻上配管7の油圧が圧力同調配管12を通って導かれて生じる。)よりも大きくなって、その圧力差が、バネ15の設定圧力よりも大きくなると、第2カウンタバランス弁10が開く。
【0005】
一方、第1カウンタバランス弁8は、第1巻下配管16の油圧と、第1カウンタバランス弁8のバネ17の設定圧力との関係によって開閉する
従って、第2カウンタバランス弁10が開くタイミングを、第1カウンタバランス弁8が開くタイミングに接近させるように、圧力同調配管12の途中に設けた絞り部13を設定することによって、巻下げ状態において、第1及び第2油圧モータ3、4の両方に略均等に負荷(油圧トルク)が掛かるようにすることができる。これによって、第1及び第2油圧モータ3、4のうちの一方の例えば第2油圧モータ4に負荷が集中することを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−151475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図4に示す従来のウィンチ1では、圧力同調配管12、並びに2つの第1及び第2カウンタバランス弁8、10を設ける必要があるので、このウィンチ1が備えている油圧回路が複雑となり、それに伴い油漏れの要因も増加する。更に、油圧回路の製造の手間とコストが増加し、しかも、油圧回路が大型化する。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、液圧回路を複雑化させることなく、昇降対象物を上昇及び下降させる両方の場合において、第1及び第2液圧モータに掛かる負荷(液圧トルク)を略均等に分担させることができる巻上装置用液圧回路及びそれを備える巻上装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る巻上装置用液圧回路は、液圧ポンプから吐出される圧液によって第1液圧モータ及び第2液圧モータが回転駆動して、その両方の回転動力が動力伝達機構を介してドラムに伝達されてこのドラムを回転させることによって、昇降対象物を昇降させる巻上装置に設けられる巻上装置用液圧回路において、前記液圧ポンプから吐出される圧液を前記第1及び第2液圧モータ側に供給するための共用給排通路と、前記共用給排通路からそれぞれが分岐して、前記第1液圧モータに接続する第1分岐通路及び前記第2液圧モータに接続する第2分岐通路と、巻上げ駆動の供給側となる前記共用給排通路に対して設けられたカウンタバランス機構と、前記第1分岐通路の給排路のそれぞれに設けられている絞り部とを備え、前記液圧ポンプから前記第1液圧モータまでの通路の距離が、前記液圧ポンプから前記第2液圧モータまでの通路の距離よりも短く、前記絞り部は、前記第1分岐通路及び前記第1液圧モータによる第1分流通路抵抗と、前記第2分岐通路及び前記第2液圧モータによる第2分流通路抵抗との差を低減又は略零にする内径を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係る巻上装置用液圧回路によると、液圧ポンプから第1液圧モータまでの通路の距離を液圧ポンプから第2液圧モータまでの通路の距離よりも短くし、絞り部を第1モータに接続する第1分岐通路の給排路のそれぞれに設けることによって、液圧ポンプから第1液圧モータに至る通路の通路抵抗を絞り部によって増加させ、液圧ポンプから第2液圧モータに至る通路の通路抵抗との差を低減することが可能となる。さらに、液圧ポンプから吐出されて第1液圧モータを通ってタンク側に戻される圧液の通路抵抗と、液圧ポンプから吐出されて第2液圧モータを通ってタンク側に戻される圧液の通路抵抗との差は、第1分岐通路及び第1液圧モータの圧液の第1分流通路抵抗と、第2分岐通路及び第2液圧モータの圧液の第2分流通路抵抗との差に略等しく、この第1分流通路抵抗と第2分流通路抵抗との差を、第1分岐通路の給排路のそれぞれに設けられている絞り部の絞り抵抗によって低減するように又は略零となるように設定される。これにより、第1及び第2液圧モータを巻上げ方向及び巻下げ方向のいずれの方向に回転駆動させるときも、第1及び第2液圧モータに掛かる負荷(液圧トルク)を略均等に分担させることができ、液圧モータの長寿命化が図れる。
【0011】
また、共用給排通路にカウンタバランス機構を設けたことにより、第1及び第2液圧モータのそれぞれにカウンタバランス機構を設ける必要がなくなり、回路構成が簡易になる。
【0012】
この発明に係る巻上装置用液圧回路において、前記共用給排通路から前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路が分岐する分岐部が、分流ブロックに形成され、前記分流ブロックが、前記第1液圧モータ側に設けられているものとすることができる。
【0013】
このように、第1分岐通路及び第2分岐通路の分岐部を分流ブロックに形成することによって、これら分岐部から圧液が漏れる可能性を小さくすることができる。そして、これら分岐部の剛性を高めることができるし、部品点数を少なくすることができ、製造の手間を低減し、製造時間の短縮を図ることができる。そして、分流ブロックを、第1液圧モータ側に設けることによって、これら分岐部の配置スペースを狭くすることができ、その結果、この巻上装置用液圧回路の小型化を図ることができる。
【0014】
この発明に係る巻上装置用液圧回路において、前記分流ブロックに前記絞り部が形成されているものとすることができる。
【0015】
このようにすると、絞り部を形成するために専用の別部材を用意する必要がないし、この絞り部のみを設置するための設置具が不要となり、絞り部の製造コストの低減を図ることができる。更に、絞り部の構造の簡単化を図ることができる。
【0016】
この発明に係る巻上装置用液圧回路において、前記絞り部は、オリフィスとすることができる。
【0017】
このように、絞り部をオリフィスとすると、作動液の粘度が変化したり、粘度が相違する作動液を使用しても、このオリフィスによって生じる圧液の通路抵抗の変化の大きさを小さくすることができる。これによって、作動液の粘度が変化するようなことがあっても、絞り部の絞り抵抗を含む圧液の第1分流通路抵抗と、圧液の第2分流通路抵抗とを常に互いに精度よく一致、又は略一致させることができる。その結果、第1及び第2液圧モータに掛かる負荷を精度よく均等に、それぞれのモータに分担させることができる。
【0018】
この発明に係る巻上装置用液圧回路において、前記絞り部の内径は、前記第2分岐通路の内径、それらの通路の合計長さ、それらの通路の曲がり数、それらの通路の粗さ、及びそれらの通路の圧液の流量のうちの1又は2以上の要素を含む条件に基づいて定められているものとすることができる。
【0019】
このように、絞り部の内径は、第2分岐通路の内径、それらの通路の合計長さ、それらの通路の曲がり数、それらの通路の粗さ、及びそれらの通路の圧液の流量のうちの1又は2以上の要素を含む条件に基づいて決定することができる。ここで、それら通路の内径が小さいほど、合計長さの寸法が大きいほど、及び曲がり数が多いほど、通路の粗さが大きいほど、通路抵抗が大きくなるので、絞り部の内径を小さくする必要がある。そして、圧液の流量が大きくなるほど通路抵抗が大きくなるが、絞り部の内径を小さくすると抵抗が通路抵抗以上に大きくなるため、絞り部の内径を流量に見合った程度に大きくする必要がある。
【0020】
本発明に係る巻上装置は、この発明の巻上装置用液圧回路を備えることを特徴とするものである。
【0021】
本発明に係る巻上装置によると、この巻上装置が備えている巻上装置用液圧回路が、この発明に係る巻上装置用液圧回路と同様に作用する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る巻上装置用液圧回路、及びこの巻上装置用液圧回路が設けられている巻上装置によると、絞り部を第1分岐通路の給排路のそれぞれに設けた構成としたので、この巻上装置用液圧回路を複雑化させることなく、昇降対象物を上昇及び下降させる両方の場合において、第1及び第2液圧モータに掛かる負荷(液圧トルク)を略均等に分担させることができる。従って、第1及び第2液圧モータのいずれか一方に負荷が集中することを防止することができ、第1及び第2液圧モータの寿命を延ばすことができる。
【0023】
また、カウンタバランス機構を第1及び第2液圧モータの両方のそれぞれに対して設けずに、共用給排通路に対してカウンタバランス機構を設けた構成としたので、この巻上装置用液圧回路を複雑化させることなく、負荷を、第1及び第2の両方の液圧モータに対して略均等に分担させることができる。しかも、カウンタバランス機構の数を少なくすることができるので、カウンタバランス機構の故障の可能性を低くすることができるし、この回路のコストの低減を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態に係る巻上装置の油圧回路図である。
【図2】同実施形態に係る巻上装置用油圧回路の分岐部を示す部分拡大断面図である。
【図3】同実施形態に係る巻上装置用油圧回路の絞り部を示す部分拡大断面図である。
【図4】従来のウィンチ用油圧回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る巻上装置の一実施形態を、図1〜図3を参照して説明する。この図1に示す巻上装置21は、油圧ポンプ22から吐出される圧油によって第1油圧モータ23及び第2油圧モータ24が回転駆動して、その両方の回転動力が動力伝達機構25を介してドラム26に伝達されてこのドラム26を回転させることによって、昇降対象物を昇降させるものであり、巻上装置用油圧回路27を備えている。この巻上装置21は、例えばクレーンやウィンチを含むものである。
【0026】
この巻上装置21は、図1に示すように、第1油圧モータ23及び第2油圧モータ24のそれぞれの回転軸に設けられている小歯車25a、25bが、ドラム26の中心軸に設けられた大歯車25cと噛合っている。これら小歯車25a、25b及び大歯車25cが動力伝達機構25である。そして、小歯車25aと大歯車25cとのギヤ比と、小歯車25bと大歯車25cとのギヤ比とは、同一のギヤ比となっており、これによって、第1油圧モータ23及び第2油圧モータ24は、同一の回転速度で同方向に回転するようになっている。
【0027】
従って、第1及び第2油圧モータ23、24が、それぞれ巻上げ方向(例えば正転方向)に駆動すると、ドラム26を巻上げ方向に回転させて昇降対象物を上昇させることができる。そして、第1及び第2油圧モータ23、24が、それぞれ巻下げ方向(例えば逆転方向)に駆動すると、ドラム26を巻下げ方向に回転させて昇降対象物を下降させることができる。
【0028】
そして、この巻上装置21は、図1に示すように、第1及び第2油圧モータ23、24を駆動するための油圧ポンプ22を備えている。そして、この油圧ポンプ22は、電動機28によって所定方向に回転駆動される。
【0029】
また、この油圧ポンプ22は、巻上装置用油圧回路27を介して第1及び第2油圧モータ23、24と油圧回路的に接続している。
【0030】
この巻上装置用油圧回路27は、油圧ポンプ22から吐出される圧油によって第1及び第2油圧モータ23、24を駆動させて、ドラム26を所望の方向に回転させることができるし、第1及び第2油圧モータ23、24を停止させて、ドラム26の回転を停止させることもできる。これによって、昇降対象物を昇降させたり、所望の高さ位置に停止させることができるようになっている。この巻上装置用油圧回路27は、方向制御弁29を備えている。
【0031】
方向制御弁29は、図1に示すように、これに接続する例えば操作レバー30をオペレータが操作することによって、油圧ポンプ22の吐出口から吐出される圧油を第1及び第2油圧モータ23、24に供給して、これら第1及び第2油圧モータ23、24を巻上げ方向もしくは巻下げ方向に駆動したり、停止させることができるようになっている。
【0032】
つまり、方向制御弁29は、図1に示すように、P1ポート、P2ポート、Tポート、Aポート、Bポート、及びCポートを備えている。このP1及びP2ポートは、上流側の圧油供給通路31を介して油圧ポンプ22の吐出口と接続し、Tポートは、下流側の作動油戻り通路32を介してタンク33と接続している。そして、Aポートは、共用給排通路の一方の通路34と接続し、Bポートは、下流側の作動油戻り通路32を介してタンク33と接続している。Cポートは、共用給排通路の他方の通路35と接続している。なお、図1に示す65は、アンチキャビテーション用の逆止め弁である。
【0033】
そして、図1に示すように、共用給排通路34の先端の分岐部36には、第1分岐通路37及び第2分岐通路38が接続しており、この第1分岐通路37は、第1油圧モータ23の作動油の一方の出入口部と接続している。そして、第2分岐通路38は、第2油圧モータ24の作動油の一方の出入口部と接続している。
【0034】
また、共用給排通路35の先端の分岐部39には、第1分岐通路40及び第2分岐通路41が接続しており、この第1分岐通路40は、第1油圧モータ23の作動油の他方の出入口部と接続している。そして、第2分岐通路41は、第2油圧モータ24の作動油の他方の出入口部と接続している。
【0035】
更に、共用給排通路の一方の通路34と他方の通路35とは、接続通路42を介して互いに接続されており、この接続通路42には、オーバーロードリリーフ弁43が設けられている。このオーバーロードリリーフ弁43は、共用給排通路34の油圧が設定圧力以上となることを防止するためのものである。
【0036】
そして、共用給排通路34には、逆止め弁44が設けられ、この逆止め弁44と並列にカウンタバランス弁45が設けられている。この逆止め弁44は、第1及び第2油圧モータ23、24への圧油の流れを許容し、逆方向への圧油の流れを阻止するように設けられている。カウンタバランス弁45は、共用給排通路35からパイロット通路46を介して導かれる油圧による力と、付勢手段47(バネ)による付勢力との力の差に応じて開閉するように設けられている。そして、パイロット通路46には、絞り部48が設けられている。これらカウンタバランス弁45及び逆止め弁44を含む油圧回路は、カウンタバランス機構49を構成している。
【0037】
なお、この実施形態で説明する各通路は、管状体又はブロックで形成されている。
【0038】
次に、図1に示す方向制御弁29を備えるこの油圧回路27について詳しく説明する。図1に示すように、方向制御弁29のスプール50が停止位置(b)の状態では、P2ポートとBポートとが接続した状態となり、油圧ポンプ22の吐出口から吐出された圧油が、作動油戻り通路32を通ってタンク33に戻される。そして、P1ポート及びCポートが閉鎖され、TポートとAポートとが接続した状態となる。
【0039】
この停止位置(b)の状態では、第1及び第2油圧モータ23、24(ドラム26)は、停止した状態が維持され、逆止め弁44によって巻下げ方向の回転が阻止された状態となっている。
【0040】
そして、方向制御弁29のスプール50が停止位置(b)から図1の右側に移動して巻上位置(a)に切り換わると、P1ポートとAポートとが接続すると共に、CポートとTポートとが接続し、P2ポート及びBポートが閉鎖される。この状態では、油圧ポンプ22の吐出口から吐出された圧油が、共用給排通路の一方の通路34、チェック弁44、第1分岐通路37を介して第1油圧モータ23に供給される。第1油圧モータ23から排出された油は、第1分岐通路40、共用給排通路の他方の通路35、及び作動油戻り通路32を通ってタンク33に戻される。そして、このとき、油圧ポンプ22の吐出口から吐出された圧油が第2分岐通路38を介して第2油圧モータ24にも供給される。第2油圧モータ24から排出された油は、第2分岐通路41、共用給排通路の他方の通路35、及び作動油戻り通路32を通ってタンク33に戻される。
【0041】
この巻上位置(a)の状態では、第1及び第2油圧モータ23、24(ドラム26)は、巻上げ方向に回転して、昇降対象物を上昇させることができる。
【0042】
また、方向制御弁29のスプール50が図1に示す中立位置(b)から左側に移動して巻下位置(c)に切り換わると、P1ポートとCポートとが接続すると共に、AポートとTポートとが接続し、P2ポート及びBポートが閉鎖される。この状態では、油圧ポンプ22の吐出口から吐出された圧油が、共用給排通路35、第1分岐通路40を介して第1油圧モータ23に供給される。第1油圧モータから排出された油は、第1分岐通路37、共用給排通路34のカウンタバランス弁45、及び作動油戻り通路32を通ってタンク33に戻される。そして、このとき、油圧ポンプ22の吐出口から吐出された圧油が、第2分岐通路41を介して第2油圧モータ24にも供給される。第2油圧モータから排出された油は、第2分岐通路38、共用給排通路34のカウンタバランス弁45、及び作動油戻り通路32を通ってタンク33に戻される。
【0043】
この巻下位置(c)の状態では、第1及び第2油圧モータ23、24(ドラム26)は、巻下げ方向に回転して、昇降対象物を下降させることができる。
【0044】
なお、図1に示すリリーフ弁51は、油圧ポンプ22の吐出圧を制御するためのものである。
【0045】
次に、図1に示す共用給排通路34,35の先端の分岐部36及び分岐部39について、図2及び図3を参照して説明する。
【0046】
図2に示すように、分岐部36及び分岐部39は、分流ブロック52に設けられている。この分流ブロック52は、モータ側連結ブロック53を介して第1油圧モータ23に取り付けられている。そして、分流ブロック52には、通路側連結ブロック54が取り付けられている。また、第2油圧モータ24には、モータ側連結ブロック55が取り付けられ、このモータ側連結ブロック55に通路側連結ブロック56が取り付けられている。
【0047】
次に、まず、一方の共用給排通路34側分岐部36を説明するために、共用給排通路34、第1分岐通路37、及び第2分岐通路38について説明する。
【0048】
図2に示す第1油圧モータ23側に設けられている通路側連結ブロック54には、連通孔57aが形成され、この連通孔57aの一方の開口部に共用給排通路34が接続し、この連通孔57aの他方の開口部に分流ブロック52に形成された連通孔58aの一方の開口部が接続している。そして、分流ブロック52に形成された連通孔58aの他方の開口部に第1分岐通路37が接続している。この第1分岐通路37は、モータ側連結ブロック53に形成されている。そして、この第1分岐通路37は、第1油圧モータ23の作動油の一方の出入口部に接続している。
【0049】
また、分流ブロック52には、連通孔58aの途中に別の連通孔59aが連通するように形成され、この連通孔59aに第2分岐通路38が接続している。この2つの連通孔58a、59aが分岐部36を形成している。
【0050】
そして、第2分岐通路38の第2油圧モータ24側の部分は、通路側連結ブロック56の連通孔60a、及びこの通路側連結ブロック56が取り付けられているモータ側連結ブロック55の連通孔61aによって形成されている。そして、この第2分岐通路38は、第2油圧モータ24の作動油の一方の出入口部に接続している。
【0051】
次に、他方の共用給排通路35側分岐部39を説明するために、共用給排通路35、第1分岐通路40、及び第2分岐通路41について説明する。これら共用給排通路35、第1分岐通路40、及び第2分岐通路41は、共用給排通路34、第1分岐通路37、及び第2分岐通路38と同様に構成されている。
【0052】
つまり、図2に示す第1油圧モータ23側に設けられている通路側連結ブロック54には、連通孔57bが形成され、この連通孔57bの一方の開口部に共用給排通路35が接続し、この連通孔57bの他方の開口部に分流ブロック52に形成された連通孔58bの一方の開口部が接続している。そして、分流ブロック52に形成された連通孔58bの他方の開口部に第1分岐通路40が接続している。この第1分岐通路40は、モータ側連結ブロック53に形成されている。そして、この第1分岐通路40は、第1油圧モータ23の作動油の他方の出入口部に接続している。
【0053】
また、分流ブロック52には、連通孔58bの途中に別の連通孔59bが連通するように形成され、この連通孔59bに第2分岐通路41が接続している。この2つの連通孔58b、59bが分岐部39を形成している。
【0054】
そして、第2分岐通路41の第2油圧モータ24側の部分は、通路側連結ブロック56の連通孔60b、及びこの通路側連結ブロック56が取り付けられているモータ側連結ブロック55の連通孔61bによって形成されている。そして、この第2分岐通路41は、第2油圧モータ24の作動油の他方の出入口部に接続している。
【0055】
次に、分流ブロック52の前記連通孔58a,58bが第1分岐通路37,40に開口する部分に設けられている絞り部62及び絞り部63について、図1〜図3を参照して説明する。これら2つの絞り部62及び絞り部63は、図1に示す第1分岐通路37、40及び第1油圧モータ23の圧油の第1分流通路抵抗PT1と、第2分岐通路38、41及び第2油圧モータ24の圧油の第2分流通路抵抗PT2との差を低減又は略零にするものである。
【0056】
この絞り部62及び絞り部63の内径は、第2分岐通路38及び第2分岐通路41のそれぞれの内径、それらの通路の合計長さ、それらの通路の曲がり数、それらの通路の粗さ、及びそれらの通路の圧油の流量の要素を含む条件に基づいて定められている。
【0057】
ここで、第2分岐通路38及び第2分岐通路41の内径が小さいほど、合計長さの寸法が大きいほど、曲がり数が多いほど、及び通路の粗さが大きいほど、通路抵抗が大きくなるので、絞り部62及び絞り部63の内径を小さくする必要がある。そして、圧油の流量が大きくなるほど通路抵抗が大きくなるが、絞り部の内径を小さくすると抵抗が通路抵抗以上に大きくなるため、絞り部62及び絞り部63の内径を流量に見合った程度に大きくする必要がある。
【0058】
ただし、絞り部62及び絞り部63の内径は、上記複数の要素のうち、通路抵抗として比較的大きく影響する1又は2以上の要素を含む条件に基づいて定めることができる。
【0059】
なお、この実施形態では、第1油圧モータ23及び第2油圧モータ24の圧油の通路抵抗は同一であるので、これらの通路抵抗は、互いに相殺される。
【0060】
また、これら絞り部62及び絞り部63は、図3に示すように、それぞれ同等のものであり、略直方体の分流ブロック52に形成されている。
【0061】
絞り部62は、分流ブロック52に形成された連通孔58aの第1分岐通路37と接続する開口部に形成されている。この絞り部62が形成されている開口部は、第1分岐通路37の一部を構成している。
【0062】
この絞り部62は、例えばオリフィスとして形成してある。このオリフィスは、連通孔58aの第1分岐通路37を構成する開口部の内周面に設けられた環状の突条64によって形成されており、この環状の突条64によって例えば円孔(絞り部62)が形成されたものである。この環状の突条64は、外側面(分流ブロック52の外側面)が平坦面として形成されている。そして、その内側面が円錐台状の傾斜面として形成されているが、この内側面も平坦面として形成することができる。
【0063】
また、絞り部63は、分流ブロック52に形成された連通孔58bの第1分岐通路40と接続する開口部に形成されている。この絞り部63が形成されている開口部は、第1分岐通路40の一部を構成している。
【0064】
この絞り部63は、絞り部62と同等のものであり、例えばオリフィスとして形成してある。よって、同等部分を同一の図面符号で示し、それらの説明を省略する。
【0065】
次に、上記のように構成された巻上装置21の作用を説明する。図1に示すこの巻上装置21を使用して、昇降対象物を上昇させるときは、まず、操作レバー30を操作して、方向制御弁29のスプール50を巻上位置(a)に切り換える。これによって、油圧ポンプ22から吐出される圧油を、共用給排通路34に通して第1分岐通路37に接続する第1油圧モータ23、及び第2分岐通路38に接続する第2油圧モータ24の両方のモータに分流させて供給することができる。すると、第1及び第2油圧モータ23、24が回転駆動して、その回転動力が動力伝達機構25を介してドラム26に伝達されて、このドラム26を巻上げ方向に回転させることができる。これによって、このドラム26に巻き付けられたロープ等を巻上げて、昇降対象物を上昇させることができる。
【0066】
そして、第1及び第2油圧モータ23、24から排出された油は、それぞれのモータと接続する第1分岐通路40及び第2分岐通路41を通って共用給排通路35で合流してタンク33に戻される。
【0067】
次に、昇降対象物を下降させるときは、操作レバー30を操作して、方向制御弁29のスプール50を巻下位置(c)に切り換える。これによって、油圧ポンプ22から吐出される圧油を、共用給排通路35に通して第1分岐通路40に接続する第1油圧モータ23、及び第2分岐通路41に接続する第2油圧モータ24の両方のモータに分流させて供給することができる。すると、第1及び第2油圧モータ23、24が回転駆動して、その回転動力が動力伝達機構25を介してドラム26に伝達されて、このドラム26を巻下げ方向に回転させることができる。これによって、このドラム26に巻き付けられたロープ等を巻下げて、昇降対象物を下降させることができる。
【0068】
そして、第1及び第2油圧モータ23、24から排出された圧油は、それぞれのモータと接続する第1分岐通路37及び第2分岐通路38を通って共用供給通路34で合流し、カウンターバランス弁45を介してタンク33に戻される。
【0069】
次に、この図1に示す巻上装置用油圧回路27に設けられている絞り部62及び絞り部63の作用を説明する。この絞り部62及び絞り部63を備える巻上装置用油圧回路27によると、この巻上装置21を使用して昇降対象物を上昇及び下降させる両方の場合において、油圧ポンプ22から吐出されて第1油圧モータ23を通ってタンク33側に戻される圧油の通路抵抗と、油圧ポンプ22から吐出されて第2油圧モータ24を通ってタンク33側に戻される圧油の通路抵抗との差は、第1分岐通路37、40及び第1油圧モータ23の圧油の第1分流通路抵抗PT1と、第2分岐通路38、41及び第2油圧モータ24の圧油の第2分流通路抵抗PT2との差(PT2−PT1)に略等しく、この第1分流通路抵抗PT1と第2分流通路抵抗PT2との差(PT2−PT1)を、第1分岐通路37、40の両方の各通路に設けられている絞り部62の絞り抵抗PS1及び絞り部63の絞り抵抗PS2によって低減又は略零にすることができる。ただし、第1分岐通路37から第1液圧モータ23までの距離は、第2分岐通路38から第2液圧モータ24までの距離よりも短く、第1分岐通路40から第1液圧モータ23までの距離は、第2分岐通路41から第2液圧モータ24までの距離よりも短く、第1分岐通路37と第1分岐通路40の合計距離は、第2分岐通路38と第2分岐通路41の合計距離よりも短く、(PT2−PT1)=(PS1+PS2)の関係がある。
【0070】
そして、絞り部62を第1分岐通路37に設けると共に、絞り部63を第1分岐通路40に設けることによって、第1及び第2油圧モータ23、24を巻上げ方向及び巻下げ方向のいずれの方向に回転駆動させるときも、絞り部62の絞り抵抗PS1及び絞り部63の絞り抵抗PS2を含む圧油の第1分流通路抵抗(PT1+PS1+PS2)と、圧油の第2分流通路抵抗PT2とを互いに略一致させることができる。
【0071】
これによって、昇降対象物を昇降させる際に、第1及び第2油圧モータ23、24に掛かる負荷を略均等に分担させることができる。従って、第1及び第2油圧モータ23、24のいずれか一方に負荷が集中することを防止することができ、第1及び第2油圧モータ23、24の寿命を延ばすことができる。
【0072】
次に、共用給排通路34に設けたカウンタバランス弁45の作用を説明する。このカウンタバランス弁45は、巻下げ駆動する際、共用給排通路35からパイロット通路46を介して導かれる油圧による力が、付勢手段47(バネ)による付勢力よりも大きくなったときに、その力の差に応じて開度が変わるようになっている。そして、パイロット通路46に設けられている絞り部48によって、カウンタバランス弁45の開くタイミングを遅延させる方向に調整することができる。
【0073】
このようにカウンタバランス機構49が構成されているので、負荷(油圧トルク)を、第1及び第2の両方の油圧モータ23、24に対して略均等に分担させることができる。
【0074】
そして、図1に示すように、カウンタバランス弁45を第1及び第2油圧モータ23、24の両方のそれぞれに対して設けずに、共用給排通路34にカウンタバランス弁45を設けた構成としたので、この巻上装置用油圧回路27を複雑化させることなく、負荷を、第1及び第2の両方の油圧モータ23、24に対して略均等に分担させることができる。しかも、カウンタバランス弁45の数を少なくすることができるので、カウンタバランス弁45の故障の可能性を低くすることができるし、この油圧回路27のコストの低減を図ることもできる。
【0075】
また、図3に示すように、分岐部36、39を分流ブロック52に形成することによって、これら分岐部36、39から圧油が漏れる可能性を小さくすることができる。そして、これら分岐部36、39の剛性を高めることができるし、部品点数を少なくすることができ、製造の手間を低減し、製造時間の短縮を図ることができる。そして、分流ブロック52を、第1油圧モータ23に対して設けることによって、これら分岐部36、39の配置スペースを狭くすることができ、その結果、この巻上装置用油圧回路27の小型化を図ることができる。
【0076】
更に、図3に示すように、分流ブロック52に絞り部62、63を形成したことによって、これら絞り部62、63を形成するために専用の別部材を用意する必要がないし、この絞り部62、63のみを設置するための設置具が不要となり、絞り部62、63の製造コストの低減を図ることができる。更に、絞り部62、63の構造の簡単化を図ることができる。
【0077】
そして、図3に示すように、絞り部62、63をオリフィスとすることによって、作動油の粘度が変化したり、粘度が相違する作動油を使用しても、このオリフィスによって生じる圧油の通路抵抗(PS1+PS2)の変化の大きさを小さくすることができる。これによって、作動油の粘度が変化するようなことがあっても、絞り部62、63の絞り抵抗を含む圧油の第1分流通路抵抗(PT1+PS1+PS2)と、第2分流通路抵抗PT2とを常に互いに精度よく一致、又は略一致させることができる。その結果、第1及び第2油圧モータ23、24に掛かる負荷を精度よく均等に、それぞれのモータに分担させることができる。
【0078】
ただし、上記実施形態では、図3に示すように、絞り部62、63を供給側の第1分岐通路37と排出側の第1分岐通路40に1つずつ設けたが、これ以外に、絞り部を複数に分けて直列に配置しても良く、又はいずれか一方の絞り部を単数として、他方の絞り部を複数に分けて直列に配置しても良い。
【0079】
そして、上記実施形態では、図3に示すように、絞り部62、63をオリフィスとしたが、オリフィス以外の構成として通路抵抗を成すようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明に係る巻上装置用液圧回路及びそれを備える巻上装置は、油圧回路を複雑化させることなく、昇降対象物を上昇及び下降させる両方の場合において、第1及び第2液圧モータに掛かる負荷を略均等に分担させることができる優れた効果を有し、このような巻上装置用液圧回路及びそれを備える巻上装置に適用するのに適している。
【符号の説明】
【0081】
21 巻上装置
22 油圧ポンプ
23 第1油圧モータ
24 第2油圧モータ
25 動力伝達機構
25a、25b、25c 歯車
26 ドラム
27 巻上装置用油圧回路
28 電動機
29 方向制御弁
30 操作レバー
31 圧油供給通路
32 作動油戻り通路
33 タンク
34、35 共用給排通路
36、39 分岐部
37、40 第1分岐通路
38、41 第2分岐通路
42 接続通路
43 オーバーロードリリーフ弁
44、65 逆止め弁
45 カウンタバランス弁
46 パイロット通路
47 付勢手段(バネ)
48 絞り部
49 カウンタバランス機構
50 スプール
51 リリーフ弁
52 分流ブロック
53、55 モータ側連結ブロック
54、56 通路側連結ブロック
57a〜61a、57b〜61b 連通孔
62、63 絞り部
64 突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧ポンプから吐出される圧液によって第1液圧モータ及び第2液圧モータが回転駆動して、その両方の回転動力が動力伝達機構を介してドラムに伝達されてこのドラムを回転させることによって、昇降対象物を昇降させる巻上装置に設けられる巻上装置用液圧回路において、
前記液圧ポンプから吐出される圧液を前記第1及び第2液圧モータ側に供給するための共用給排通路と、
前記共用給排通路からそれぞれが分岐して、前記第1液圧モータに接続する第1分岐通路及び前記第2液圧モータに接続する第2分岐通路と、

巻上げ駆動時の供給側となる前記共用給排通路に対して設けられたカウンタバランス機構と、
前記第1分岐通路の給排路のそれぞれに設けられている絞り部とを備え、
前記液圧ポンプから前記第1液圧モータまでの通路の距離が、前記液圧ポンプから前記第2液圧モータまでの通路の距離よりも短く、
前記絞り部は、前記第1分岐通路及び前記第1液圧モータによる第1分流通路抵抗と、前記第2分岐通路及び前記第2液圧モータによる第2分流通路抵抗との差を低減又は略零にする内径を有することを特徴とする巻上装置用液圧回路。
【請求項2】
前記共用給排通路から前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路が分岐する分岐部が、分流ブロックに形成され、
前記分流ブロックが、前記第1液圧モータ側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の巻上装置用液圧回路。
【請求項3】
前記分流ブロックに前記絞り部が形成されていることを特徴とする請求項2記載の巻上装置用液圧回路。
【請求項4】
前記絞り部は、オリフィスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の巻上装置用液圧回路。
【請求項5】
前記絞り部の内径は、前記第2分岐通路のそれぞれの内径、それらの通路の合計長さ、それらの通路の曲がり数、それらの通路の粗さ、及びそれらの通路の圧液の流量のうちの1又は2以上の要素を含む条件に基づいて定められていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の巻上装置用液圧回路。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の巻上装置用液圧回路を備えることを特徴とする巻上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−236710(P2012−236710A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108549(P2011−108549)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)