説明

巻取制御装置および巻取制御方法

【課題】張力外乱に起因してストリップの張力変動が生じた場合であっても、ストリップの張力変動に影響されず、意図した指令に忠実にマンドレルの回転速度を制御して、安定的にストリップを巻き取れること。
【解決手段】本発明の一態様にかかる巻取制御装置1は、熱間圧延されたストリップ15を巻き取るマンドレル13の回転速度を制御するものであり、補償部5と、駆動電動機6と、張力外乱オブザーバ7とを備える。駆動電動機6は、指示されたトルクによってマンドレル13を回転させ、且つマンドレル13の回転速度応答値を出力する。張力外乱オブザーバ7は、トルク指令値と回転速度応答値とをもとに、駆動電動機6に加わる外乱トルクを推定する。補償部5は、駆動電動機6に指示するトルクを外乱トルクに基づいて補償し、補償後のトルク指令値を駆動電動機6および張力外乱オブザーバ7に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延された金属材料を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御装置および巻取制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄鋼分野において、千数百℃程度に加熱した金属材料を一対のロールの挟圧作用および回転作用によって薄く延ばし、その後、この圧延した帯状の金属材料(以下、ストリップという)をコイル状に巻き取るライン、所謂、熱間圧延ラインが広く知られている。
【0003】
熱間圧延ラインでは、一般に、加熱後の金属材料を所望の厚さに圧延する仕上ミルの後段に、ピンチロールおよびコイラーが配置され、仕上ミルから送出されたストリップをピンチロールの回転作用によってコイラーへ導き、その後、コイラーの回転によってストリップを順次巻き取る。なお、このコイラーの回転心棒としては、通常、マンドレルが用いられ、駆動源によってマンドレルを回転させることによって、コイラーはストリップを巻き取ることができる。
【0004】
このような熱間圧延ラインにおいては、ストリップが仕上ミルから送出されてからピンチロールを介してコイラーに巻き付くまでの期間、コイラーがストリップを適切に巻き取り始めるようにするために、ピンチロールおよびマンドレルの回転速度が制御される。
【0005】
一方、仕上ミルから送出されているストリップがピンチロールを介してコイラーに巻き取られている期間では、ストリップに対する仕上ミルの挟圧作用およびマンドレルの回転作用によって、仕上ミルとマンドレルとの間のストリップに張力が負荷される。この状態においては、巻き取られるまでのストリップにかかる張力を適切なものに制御するため、マンドレルの回転速度が制御され、このマンドレルの制御を通じてストリップの巻取速度が制御される。一方、ピンチロールは、この期間、ストリップに対して特に負荷を加えず、マンドレルに向かう方向へストリップを送出する役割を果たす。
【0006】
なお、このような熱間圧延ラインに関連する従来技術として、例えば、ストリップが仕上圧延機から抜け出る前まで、ストリップを巻き取るマンドレルを電流制御によって駆動し、ストリップが仕上圧延機から抜け出た後に、このマンドレルを速度制御する装置(特許文献1参照)がある。また、ストリップ尾端が仕上スタンドを抜け出てからストリップの巻き取りが完了するまでの期間、マンドレルを速度制御するとともに、このマンドレルにかかる負荷電流値が、仕上スタンドからのストリップ尾端の抜け出し直前の電流値と常に一致するように、ピンチロールを速度制御する巻取制御方法(特許文献2参照)もある。
【0007】
また、ストリップ尾端が仕上圧延機から抜けた後、ピンチロールを回転させる電動機を制御して、ストリップを巻き取る際のストリップ搬送速度に比して遅い回転速度(周速)でピンチロールを回転させるとともに、このピンチロールを回転させる電動機の電流の実績をとらえ、それに基づいて上下間のピンチロールギャップを制御する方法(特許文献3参照)がある。また、ストリップの送り速度に比してピンチロールの周速を抑えた際に生じるストリップの擦り疵を抑制できる範囲に、この送り速度と周速とを制御する方法(特許文献4参照)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−75824号公報
【特許文献2】特開昭63−80921号公報
【特許文献3】特開2006−150403号公報
【特許文献4】特開平8−257636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した熱間圧延ラインにおいては、製品としてのストリップの品質向上という観点から、ストリップを巻き取る際に発生するストリップの擦り疵または折れ曲がり等の品質不良の低減のみならず、ストリップをコイル状に巻き取った際の形状(以下、コイル巻き形状という)の向上にも着目する必要がある。
【0010】
具体的には、ストリップの品質を向上するために、熱間圧延ラインにおけるストリップの張力、特に、仕上ミルからピンチロールを介してマンドレルに至るまでの間にストリップに負荷される張力の変動に留意してストリップの巻取速度を制御する必要がある。これによって、巻取時のストリップの蛇行およびストリップとピンチロールとの過度な摩擦等の不具合を防止しなければならない。これを実現するためには、このストリップの張力変動に影響されることなく、ストリップ巻取時のマンドレルの回転速度を指令に忠実に制御する必要がある。
【0011】
しかしながら、上述した従来技術では、仕上ミル等に順次挟圧されるストリップの板厚の変動または熱間圧延ラインの装置とストリップとのレベリング誤差等、熱間圧延ラインのシステム上の要因以外の外乱によってストリップの張力が変動した場合、このストリップの張力変動を引き起こす外乱(以下、張力外乱という)に影響されず、意図した指令に忠実なマンドレルの回転速度を実現することは困難であった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、張力外乱に起因してストリップの張力変動が生じた場合であっても、ストリップの張力変動に影響されず、意図した指令に忠実にマンドレルの回転速度を制御して、安定的にストリップを巻き取ることが可能な巻取制御装置および巻取制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる巻取制御装置は、熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御装置において、トルク指令値を受信し、受信した前記トルク指令値によって指示されたトルクを前記マンドレルに伝達して前記マンドレルを回転させるとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルの回転速度応答値を出力する駆動部と、前記トルク指令値と前記回転速度応答値とをもとに、外乱による前記金属帯の張力変動に応じて前記駆動部に加わる外乱トルクを推定するトルクオブザーバと、前記マンドレルの速度指令値に対応して前記駆動部に指示するトルクを前記外乱トルクに基づいて補償し、前記補償後のトルクを指示する前記トルク指令値を前記駆動部およびトルクオブザーバに送信する補償部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる巻取制御装置は、上記の発明において、前記トルクオブザーバは、前記トルク指令値に従い前記マンドレルを回転させる前記駆動部の動作をシミュレーションして、外乱による前記金属帯の張力変動が生じない条件下で回転した前記マンドレルの回転速度のシミュレーション値を算出する駆動部モデルと、前記シミュレーション値と前記回転速度応答値との差を用いて前記外乱トルクを推定する推定部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる巻取制御方法は、熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御方法において、駆動部によって前記マンドレルにトルクを伝達して前記マンドレルを回転するとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルの回転速度応答値を取得し、前記駆動部に前記トルクを指示したトルク指令値と前記回転速度応答値とをもとに、外乱による前記金属帯の張力変動に応じて前記駆動部に加わる外乱トルクを推定し、前記マンドレルの速度指令値に対応して前記駆動部に指示するトルクを前記外乱トルクに基づいて補償して、前記駆動部に対し、前記補償後のトルクによって前記マンドレルを回転するよう指示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、張力外乱に起因してストリップの張力変動が生じた場合であっても、ストリップの張力変動に影響されず、意図した指令に忠実にマンドレルの回転速度を制御して、安定的にストリップを巻き取ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置の一構成例を示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置の張力外乱オブザーバの一構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、巻取制御装置がストリップ巻取中のマンドレルの回転速度を制御する際の張力外乱オブザーバの処理フローの一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、張力外乱オブザーバを備えていない巻取制御装置によるマンドレルの速度制御結果を示す図である。
【図5】図5は、張力外乱オブザーバを備えた巻取制御装置によるマンドレルの速度制御結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる巻取制御装置および巻取制御方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態)
まず、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置の一構成例を示すブロック図である。この実施の形態にかかる巻取制御装置1は、図1に示す熱間圧延ラインの仕上ミル11から送出されたストリップ15をコイラーのマンドレル13によって巻き取る際、マンドレル13に生じる張力に応じてマンドレル13の回転速度を制御する装置である。
【0020】
すなわち、図1に示すように、この巻取制御装置1は、マンドレル13の回転速度を指示する速度指示装置(図示せず)からの指示信号を受け付ける受付部2と、この回転速度の指令値をトルクの指令値に変換するためのPI制御部3および制御ゲイン乗算部4と、ストリップ15の張力変動に対応してトルクを補償する補償部5と、マンドレル13を回転させる駆動電動機6と、張力外乱に起因する駆動電動機6の外乱トルクを推定する張力外乱オブザーバ7とを備える。
【0021】
受付部2は、外部の速度指示装置(図示せず)によって送信された速度指令信号S1を受け付ける。この速度指令信号S1は、熱間圧延ラインにおいて薄厚に処理されたストリップ15をマンドレル13に巻き取る際の巻取速度、すなわち、マンドレル13の回転速度を指示する信号である。
【0022】
また、受付部2は、フィードバックされたマンドレル13の速度応答値を用いて、この予め設定された速度指令信号S1を補正する補正部としての機能を有する。具体的には、受付部2は、上述したように速度指令信号S1を受信する都度、駆動電動機6からフィードバックされた速度応答信号S6を受信する。ついで、受付部2は、得られた速度指令信号S1の速度指令値と、このフィードバックされた速度応答信号S6の速度応答値とを用いて演算処理、例えば、速度指令値から速度応答値を減算する減算処理を実行して、この速度指令値を補正する。その後、受付部2は、この補正後の速度指令値に対応する速度指令信号S2をPI制御部3に送信する。
【0023】
ここで、予め設定された速度指令値は、フィードバックされた速度応答値を用いて補正処理を実行すれば、張力外乱以外の要因によって生じるストリップ15の張力変動を加味した指令値になる。すなわち、マンドレル13の回転速度は、この補正後の速度指令値に従って制御されれば、張力外乱以外の要因によるストリップ15の張力変動に影響されない。なお、この張力外乱以外の要因とは、例えば、ストリップ15の尾端部15aが仕上ミル11から抜け出る前後の状態変化等、熱間圧延ラインにおいてストリップ15を搬送する上で通常起こり得ることが容易に想定可能な要因である。
【0024】
PI制御部3および制御ゲイン乗算部4は、マンドレル13に対する速度指令値を駆動電動機6に対するトルク指令値に変換するためのものである。具体的には、PI制御部3は、受付部2から速度指令信号S2を受信し、その都度、得られた速度指令信号S2に対して比例制御および積分制御を実行する。制御ゲイン乗算部4は、このようにPI制御部3によって処理された信号に対して、適宜な制御ゲインを乗算する。上述した速度指令信号S2の速度指令値は、これらPI制御部3および制御ゲイン乗算部4の作用によって、駆動伝電動機6に対するトルク指令値に変換される。なお、この変換後のトルク指令値は、速度指令信号S2の速度指令値に従った回転速度でマンドレル13を回転させるために必要なトルクを駆動電動機6に指示する指令値である。このトルク指令値に対応するトルク指令信号S3は、補償部5に送信される。
【0025】
補償部5は、張力外乱を要因とするストリップ15の張力変動に対応して、駆動電動機6のトルクを補償する。すなわち、補償部5は、上述した速度指令信号S2によるマンドレル13の速度指令値に対応して駆動電動機6に指示するトルクを、張力外乱に起因する外乱トルクに基づいて補償する。
【0026】
具体的には、補償部5は、加算器等を用いて実現され、制御ゲイン乗算部4からトルク指令信号S3を受信し、その都度、張力外乱オブザーバ7から張力外乱トルク信号S4を受信する。つぎに、補償部5は、得られた張力外乱トルク信号S4に示される外乱トルクをもとに、例えば、このトルク指令信号S3のトルク指令値によって指示されるトルクに外乱トルクを加算して、このトルクを補償する。その後、補償部5は、この補償後のトルクを指示するトルク指令値を出力する。詳細には、補償部5は、このトルク指令値に対応するトルク指令信号S5を駆動電動機6および張力外乱オブザーバ7に送信する。
【0027】
ここで、上述したトルク指令信号S3のトルク指令値は、フィードバックされた外乱トルクを用いてトルク補償処理を実行すれば、張力外乱の要因によって生じるストリップ15の張力変動を加味した指令値になる。すなわち、このトルク補償処理後のトルクを駆動電動機6がマンドレル13に伝達すれば、マンドレル13の回転速度は、張力外乱に起因するストリップ15の張力変動に影響されない。なお、この外乱トルクとは、張力外乱に起因して生じるストリップ15の張力変動に応じて、マンドレル13を介して駆動電動機6に加わる負荷トルクである。
【0028】
駆動電動機6は、駆動モータおよび速度センサ等を用いて実現され、ストリップ15を巻き取る際にマンドレル13を回転させるとともに、このマンドレル13の回転速度を検出する。具体的には、駆動電動機6は、補償部5からトルク指令信号S5を受信し、その都度、受信したトルク指令信号S5のトルク指令値によって指示されたトルクをマンドレル13に伝達する。これによって、駆動電動機6は、トルク指令信号S5に応じた回転速度でマンドレル13を回転させる。
【0029】
また、駆動電動機6は、上述したようにマンドレル13を回転させた際の駆動電力等をもとに、マンドレル13に伝達したトルクに応答して実際にマンドレル13が回転した際の回転速度を、マンドレル13の回転速度応答値として検出する。その後、駆動電動機6は、マンドレル13を回転させつつ、その都度検出した回転速度応答値を示す速度応答信号S6を出力する。なお、この速度応答信号S6は、図1に示すように、上述した受付部2および張力外乱オブザーバ7にフィードバックされる。
【0030】
張力外乱オブザーバ7は、張力外乱によるストリップ15の張力変動に応じて駆動電動機6に加わる外乱トルクを推定する。具体的には、張力外乱オブザーバ7は、補償部5からフィードフォワードされたトルク指令信号S5を受信し、その都度、駆動電動機6からフィードバックされた速度応答信号S6を受信する。つぎに、張力外乱オブザーバ7は、得られたトルク指令信号S5に示されるトルク指令値と速度応答信号S6に示されるマンドレル13の回転速度応答値とをもとに、マンドレル13を回転させている駆動電動機6に加わる外乱トルクを推定する。その後、張力外乱オブザーバ7は、この推定した外乱トルクを示す張力外乱トルク信号S4を補償部5に送信する。
【0031】
つぎに、上述した張力外乱オブザーバの構成および動作について詳細に説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置の張力外乱オブザーバの一構成例を示すブロック図である。図3は、巻取制御装置がストリップ巻取中のマンドレルの回転速度を制御する際の張力外乱オブザーバの処理フローの一例を示すフローチャートである。
【0032】
図2に示すように、張力外乱オブザーバ7が、マンドレルモータモデル7aと推定値算出部7bとを有する。マンドレルモータモデル7aおよび推定値算出部7bは、駆動電動機6のモータ(コイルを含む)の慣性、制御周期、フィルタの遮断周波数等の各種パラメータを用いて実現され、制御系を離散化するために双一次変換を用いている。
【0033】
マンドレルモータモデル7aは、マンドレル13を回転させる駆動電動機6のモータ機能をモデル化したものである。マンドレルモータモデル7aは、実際の駆動電動機6にトルクを指示するためのトルク指令信号S5を入力することによって、上述した駆動電動機6の動作をシミュレーションする。推定値算出部7bは、外乱トルクを推定する推定部として機能し、マンドレルモータモデル7aのシミュレーション結果と速度応答信号S6とをもとに、駆動電動機6に加わる外乱トルクの推定値を算出する。
【0034】
具体的には、図3に示すように、張力外乱オブザーバ7は、まず、駆動電動機6に対してトルクを指示するトルク指令値と同じトルク指令値を取得する(ステップS101)。このステップS101において、マンドレルモータモデル7aは、上述したトルク指令信号S5を受信し、受信したトルク指令信号S5に示されるトルク指令値を取得する。
【0035】
つぎに、張力外乱オブザーバ7は、取得したトルク指令値をもとに、マンドレル速度を推定する(ステップS102)。このステップS102において、マンドレルモータモデル7aは、この取得したトルク指令値を用いて駆動電動機6の動作をシミュレーションする。すなわち、マンドレルモータモデル7aは、このトルク指令信号S5のトルク指令値に指示されたトルクをマンドレル13に伝達し、これによってマンドレル13を回転させる動作をシミュレーションする。このシミュレーションの結果、マンドレルモータモデル7aは、このトルクを用いてマンドレル13がトルク損失の無い状態で回転した際の理論上の回転速度、すなわちマンドレル速度を推定する。
【0036】
続いて、張力外乱オブザーバ7は、マンドレル駆動源の現速度応答値を取得する(ステップS103)。このステップS103において、推定値算出部7bは、上述した速度応答信号S6を受信し、受信した速度応答信号S6に示される実際のマンドレル13の回転速度応答値を取得する。なお、このステップS103における回転速度応答値は、マンドレル駆動源である駆動電動機6がステップS101におけるトルク指令値によって指示されたトルクをマンドレル13に伝達して得られたマンドレル13の回転速度の実測値である。
【0037】
つぎに、張力外乱オブザーバ7は、マンドレル駆動源に現在加わる張力外乱トルクを推定する(ステップS104)。このステップS104において、推定値算出部7bは、マンドレルモータモデル7aから、ステップS102において推定されたマンドレル13の回転速度の推定値を取得している。推定値算出部7bは、この取得した回転速度の推定値から、ステップS103において取得したマンドレル13の回転速度応答値(実測値)を減算し、これによって得られた演算値をもとに、張力外乱に起因して駆動電動機6に現在加えられる外乱トルクの推定値を算出する。
【0038】
続いて、張力外乱オブザーバ7は、得られた張力外乱トルク推定値を出力し(ステップS105)、その後、上述したステップS101に戻り、このステップS101以降の処理手順を繰り返す。このステップS105において、推定値算出部7bは、算出した外乱トルクの推定値を示す張力外乱トルク信号S4を補償部5(図1参照)に送信する。
【0039】
ここで、上述したような張力外乱オブザーバ7を備えた巻取制御装置1は、熱間圧延されたストリップ15を巻き取るマンドレル13の回転速度を制御する際、駆動電動機6によって、マンドレル13にトルク指令信号S5によるトルクを伝達してマンドレル13を回転するとともに、この伝達したトルクに応答して回転したマンドレル13の回転速度応答値を取得する。ついで、このトルクを駆動電動機6に指示したトルク指令値と、この取得した回転速度応答値とをもとに、外乱によるストリップ15の張力変動に応じて駆動電動機6に加わる外乱トルクを推定する。その後、マンドレル13の速度指令値に対応して駆動電動機6に指示するトルクを、この推定した外乱トルクに基づいて補償して、駆動電動機6に対し、この補償後のトルクによってマンドレル13を回転するよう指示する。以降、上述した手順を適宜繰り返す。本発明においては、このような巻取制御方法によって、ストリップ15を巻き取る際のマンドレル13の回転速度を制御する。
【実施例】
【0040】
つぎに、図1に示したように、仕上ミル11によって圧延されたストリップ15がピンチロール12を経由してマンドレル13に巻き取られる熱間圧延ラインを例示して、本発明の実施の形態にかかる巻取制御装置1の具体的な実施例を示しつつ、この巻取制御装置1による作用効果を説明する。
【0041】
この実施例においては、ストリップ15の一例として鋼帯を例示する。ストリップ15は、千数百℃程度に加熱された後、図1に示したように、仕上ミル11によって上下から挟持されつつ、ローラー回転の作用によって、厚み0.8〜25mmまで圧延される。このように圧延された帯状のストリップ15は、仕上ミル11から送出された後、図1の太線矢印に示される搬送方向に搬送されつつ、ピンチロール12によって、挟持されつつマンドレル13側へ案内される。マンドレル13に到達したストリップ15は、マンドレル13によって順次巻き取られる。この際、このマンドレル13の回転速度は、常時、巻取制御装置1によって制御される。
【0042】
ここで、上述したようにマンドレル13によって巻き取られているストリップ15には、その搬送方向とは逆の方向に張力が生じている。このストリップ15の張力は、仕上ミル11等のローラーによる挟持とマンドレル13による巻取との相乗作用等、熱間圧延ラインにおいてストリップ15を搬送する上で通常起こり得ることが容易に想定可能な要因によって生じる場合もあれば、想定困難な張力外乱によって生じる場合もある。
【0043】
これら双方の張力の少なくとも一方が発生している状態において、マンドレル13を回転させている駆動電動機6には、張力トルクが負荷される。張力トルクとは、張力が生じている状態でストリップ15をマンドレル13によって巻き取る際、この張力に起因してマンドレル13から駆動電動機6に負荷されるトルクである。
【0044】
一方、ストリップ15の張力は、その尾端部15aが仕上ミル11から抜け出る前後の状態変化等のストリップ15の挟持状態または張力外乱等に起因して、大きく変動する。このため、駆動電動機6に負荷される張力トルクは、このようなストリップ15の張力変動に伴って変動する。
【0045】
したがって、巻取中のストリップ15の蛇行等の不具合を発生させずに、マンドレル13にストリップ15を尾端部15aに至る最後尾まで巻取完了し、且つ、そのコイル巻き形状も良好なものにするために、巻取制御装置1は、以下のことを達成する必要がある。すなわち、巻取制御装置1は、上述した張力トルク、詳細には、張力外乱に起因する外乱トルクと、張力外乱以外の要因に起因する通常の張力トルクとの双方に対して好適に対応して、ストリップ15の巻取制御を行う。これによって、巻取制御装置1は、ストリップ15に生じる如何なる張力変動にも影響されることなく、意図した指令に対して忠実にマンドレル13の回転速度を制御する必要がある。
【0046】
ここで、この実施例においては、図1に示したように、ストリップ15の張力変動が極めて大きい状況、すなわちストリップ15の尾端部15aが仕上ミル11から抜け出る前後の状況について、意図する速度指令に対するマンドレル13の回転速度の制御精度を調査した。
【0047】
図4は、張力外乱オブザーバを備えていない巻取制御装置によるマンドレルの速度制御結果を示す図である。図5は、張力外乱オブザーバを備えた巻取制御装置によるマンドレルの速度制御結果を示す図である。なお、図4において、破線L1は、上述した速度指令信号S1によって指示されるマンドレル13の回転速度の指令値の経時変化を示し、実線L2は、上述した速度応答信号S6によって示されるマンドレル13の回転速度応答値の経時変化を示す。また、図5においても同様に、破線L3は、マンドレル13の回転速度の指令値の経時変化を示し、実線L4は、マンドレル13の回転速度応答値の経時変化を示す。
【0048】
なお、図4、5の何れにおいても、ストリップ15の尾端部15aが仕上ミル11から抜け出てから2秒が経過して6秒に至るまでの期間に、張力外乱によるストリップ15の張力変動が生じている。
【0049】
まず、張力外乱オブザーバ7を備えていない巻取制御装置では、図4の破線L1と実線L2とを比較して判るように、ストリップ15の尾端部15aが仕上ミル11から抜け出てから12秒という調査期間において、実線L2に示されるマンドレル13の回転速度応答値は、破線L1に示される速度指令信号S1の回転速度指令値に対して、全体的な傾向としては概ね追随している。しかし、張力外乱によるストリップ15の張力変動が生じた2〜6秒の調査期間において、マンドレル13の回転速度応答値(実線L2)は、回転速度指令値(破線L1)に追随しておらず、両者に差が生じている。
【0050】
このことは、マンドレル13を回転させている駆動電動機6のトルクが、マンドレル13を介して外乱トルクを受けて損失したことを意味する。すなわち、マンドレル13の回転速度は、張力外乱によるストリップ15の張力変動に影響され、この結果、意図した回転速度指令値によって指示された回転速度に忠実なものになっていない。
【0051】
これに対し、張力外乱オブザーバ7を備えた本発明にかかる巻取制御装置1では、図5の破線L3と実線L4とを比較して判るように、図4に示した場合と同じ調査期間において、実線L4に示されるマンドレル13の回転速度応答値は、破線L3に示される速度指令信号S1の回転速度指令値に対して略一致し、全体的な傾向として安定的に追随している。特に、張力外乱によるストリップ15の張力変動が生じた2〜6秒の調査期間において、マンドレル13の回転速度応答値(実線L4)は、回転速度指令値(破線L3)に安定的に追随しており、両者に差が殆ど生じていない。
【0052】
このことは、マンドレル13を回転させている駆動電動機6のトルクが、たとえ外乱トルクを受けたとしても、マンドレル13の回転速度を変動させる程に影響されていないことを意味する。すなわち、マンドレル13の回転速度は、張力外乱によるストリップ15の張力変動が生じた場合であっても、意図した回転速度指令値によって指示された回転速度に忠実なものになっている。このように、張力外乱オブザーバ7を備えた巻取制御装置1は、たとえ張力外乱が加わっても、如何なるストリップ15の張力変動の影響を受けず、意図した回転速度指令値に忠実にマンドレル13の回転速度を制御可能な速度制御系、所謂、ロバストな速度制御系を実現する。
【0053】
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する際、駆動電動機が、トルク指令値によって指示されたトルクをマンドレルに伝達してマンドレルを回転させるとともに、このトルクに応答して回転したマンドレルの回転速度応答値を出力し、張力外乱オブザーバが、この駆動電動機にトルクを指示したトルク指令値と取得した回転速度応答値とをもとに、外乱による金属帯の張力変動に応じて駆動電動機に加わる外乱トルクを推定し、補償部が、マンドレルの速度指令値に対応して駆動電動機に指示するトルクを外乱トルクに基づいて補償し、この補償後のトルクを指示するトルク指令値を駆動電動機および張力外乱オブザーバに送信している。
【0054】
このため、外乱トルクの推定値を用いてトルク指令値をフィードバック制御でき、これによって、外乱トルクが駆動電動機に加えられる都度、この外乱トルクを加味したトルク指令値を駆動電動機へ送信できる。この結果、駆動電動機に加えられる外乱トルクの変動、すなわち、この外乱トルクの要因になる張力外乱に起因して生じる金属帯の張力変動に応じて、トルク指令値を好適なものに高精度に制御できる。これによって、張力外乱による金属帯の張力変動の影響を受けることなく、意図した指令に対して忠実にマンドレルの回転速度を制御できる。この結果、巻取中の金属帯の蛇行等の不具合を発生させずに、常に安定して金属帯を巻き取れるとともに、最終的には、良好なコイル形状の状態に金属帯を巻取完了できる。
【0055】
また、上述したトルク指令値に従いマンドレルを回転させる駆動電動機の動作をシミュレーション可能なマンドレルモータモデルを用いて張力外乱オブザーバを構成している。このため、駆動電動機に対してトルクを指示するトルク指令値をマンドレルモータモデルにフィードフォワード入力することによって、このトルク指令値に応じた駆動電動機の動作を高精度にシミュレーションできる。この結果、張力外乱による金属帯の張力変動が生じない条件下におけるマンドレルの回転速度のシミュレーション値を高精度に算出でき、このシミュレーション値を用いることによって、上述した外乱トルクを高精度に推定することができる。
【0056】
さらに、外部の速度指示装置から受け入れた回転速度指令値に対し、駆動電動機によって検出したマンドレルの回転速度応答値を用いてフィードバック制御できるため、この回転速度応答値(すなわちマンドレルの回転速度の実測値)を加味した回転速度指令値をトルク指令値に変換できる。これによって、張力外乱以外の要因が引き起こす金属帯の張力変動に応じて、回転速度指令値を好適なものに高精度に制御できる。この結果、上述した張力外乱による金属帯の張力変動のみならず、張力外乱以外の要因による金属帯の張力変動の影響を受けることなく、意図した指令に対して忠実にマンドレルの回転速度を制御できる。
【0057】
ここで、熱間圧延ラインにおいて、巻取時の金属帯に負荷される張力に変動が生じた場合であっても、意図した指令に対して忠実にマンドレルの回転速度を制御できなければ、金属帯の蛇行または過度な磨耗等の不具合を防止しつつ、安定的に金属帯を巻き取ることは困難である。この結果、コイル巻き形状が不均一になるのみならず、金属帯に擦り疵等の不良が生じることから、金属帯の品質が低下する。
【0058】
しかしながら、本発明によれば、上述したように、張力外乱による金属帯の張力変動のみならず、張力外乱以外の要因による金属帯の張力変動の影響を受けることなく、意図した指令に対して忠実にマンドレルの回転速度を制御できるため、巻取時の金属帯に如何なる張力変動が生じた場合であっても、意図した指令に対して忠実にマンドレルの回転速度を制御でき、これによって、上述した金属帯の搬送不具合を防止しつつ、安定的に金属帯を巻き取れる。この結果、如何なる張力変動の影響も受けず、良好なコイル巻き形状に金属帯を巻き取れるとともに、金属帯に擦り疵等の不良が生じることを防止できることから、高品質な金属帯を得ることができる。
【0059】
なお、上述した実施の形態では、熱間圧延ラインによって圧延処理されるストリップ15の一例として鋼帯を例示したが、これに限らず、本発明にかかる巻取制御装置および巻取制御方法では、銅またはアルミニウム等の他の金属材料のストリップ15であっても、鋼帯の場合と同様の作用効果を享受する。
【0060】
また、上述した実施の形態では、トルク指令値によって指示されるトルクに外乱トルクの推定値を加算して、このトルクを補償する補償部5を例示していたが、これに限らず、補償部5は、このトルクと外乱トルクの推定値とを用いて外乱トルクを加味したトルク補償を実行すればよく、その際の演算処理は、このトルクと外乱トルクの推定値との減算処理、乗算処理、除算処理、または加減処理あるいはこれらを組み合わせた処理の何れであってもよい。
【0061】
さらに、上述した実施の形態では、フィードフォワード入力されたトルク指令値をもとにシミュレーションして得られた回転速度のシミュレーション値とマンドレル13の回転速度応答値(実測値)との減算処理を行って、外乱トルクの推定値を算出していたが、これに限らず、この回転速度のシミュレーション値とマンドレル13の回転速度応答値とを用いて外乱トルクの推定値を算出できれば、その際の演算処理は、減算処理、乗算処理、除算処理、または加減処理あるいはこれらを組み合わせた処理の何れであってもよい。
【0062】
また、上述した実施の形態では、外部からの速度指令値にマンドレル13の回転速度応答値を加算して、この速度指令値を補正していたが、これに限らず、この速度指令値を補正する際の演算処理は、この速度指令値に回転速度応答値を加味するものであればよく、減算処理、乗算処理、除算処理、または加減処理あるいはこれらを組み合わせた処理の何れであってもよい。
【0063】
さらに、上述した実施の形態では、ステップS102においてマンドレル速度を推定した後にマンドレル13の回転速度応答値を取得していたが、これに限らず、この回転速度応答値は、マンドレル速度の推定前に取得してもよい。また、上述した外乱トルクの推定処理(ステップS104)は、回転速度応答値の取得をトリガーにして実行してもよいし、回転速度応答値の取得後におけるマンドレル速度の推定処理の実行完了をトリガーにして実行してもよい。
【0064】
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 巻取制御装置
2 受付部
3 PI制御部
4 制御ゲイン乗算部
5 補償部
6 駆動電動機
7 張力外乱オブザーバ
7a マンドレルモータモデル
7b 推定算出部
11 仕上ミル
12 ピンチロール
13 マンドレル
15 ストリップ
15a 尾端部
S1,S2 速度指令信号
S3,S5 トルク指令信号
S4 張力外乱トルク信号
S6 速度応答信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御装置において、
トルク指令値を受信し、受信した前記トルク指令値によって指示されたトルクを前記マンドレルに伝達して前記マンドレルを回転させるとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルの回転速度応答値を出力する駆動部と、
前記トルク指令値と前記回転速度応答値とをもとに、外乱による前記金属帯の張力変動に応じて前記駆動部に加わる外乱トルクを推定するトルクオブザーバと、
前記マンドレルの速度指令値に対応して前記駆動部に指示するトルクを前記外乱トルクに基づいて補償し、前記補償後のトルクを指示する前記トルク指令値を前記駆動部およびトルクオブザーバに送信する補償部と、
を備えたことを特徴とする巻取制御装置。
【請求項2】
前記トルクオブザーバは、
前記トルク指令値に従い前記マンドレルを回転させる前記駆動部の動作をシミュレーションして、外乱による前記金属帯の張力変動が生じない条件下で回転した前記マンドレルの回転速度のシミュレーション値を算出する駆動部モデルと、
前記シミュレーション値と前記回転速度応答値との差を用いて前記外乱トルクを推定する推定部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の巻取制御装置。
【請求項3】
熱間圧延された金属帯を巻き取るマンドレルの回転速度を制御する巻取制御方法において、
駆動部によって前記マンドレルにトルクを伝達して前記マンドレルを回転するとともに、前記トルクに応答して回転した前記マンドレルの回転速度応答値を取得し、前記駆動部に前記トルクを指示したトルク指令値と前記回転速度応答値とをもとに、外乱による前記金属帯の張力変動に応じて前記駆動部に加わる外乱トルクを推定し、前記マンドレルの速度指令値に対応して前記駆動部に指示するトルクを前記外乱トルクに基づいて補償して、前記駆動部に対し、前記補償後のトルクによって前記マンドレルを回転するよう指示することを特徴とする巻取制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−49069(P2013−49069A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187497(P2011−187497)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】