説明

布バネ材用織物

【課題】高い引裂強度を有し、かつ耐摩耗性に優れた安全性の高い布バネ材用織物であって、張設座席での座り心地、回復性が良好であり、かつ厚みが薄く軽量で取扱い性が良好な布バネ材用織物を提供する。
【解決手段】経糸と緯糸の少なくとも一方が150〜1500dtexのポリアミド繊維より構成される布バネ材用織物であって、該織物のカバーファクターは、1650〜3500であり、該織物の厚さは、0.2〜0.7mmであり、該織物の重量は、130〜600g/mであり、該織物における該ポリアミド繊維の織密度が20〜120本/2.54cmであり、該織物における該ポリアミド繊維の糸長方向に沿った5%伸長時の応力は、55〜300N/4cm幅であり、かつ、該5%伸長後の回復率は、85%以上であることを特徴とする前記布バネ材用織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務用等の座席シート用クッション材として用いられる布バネ材用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系エラストマー繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維等の弾性繊維で構成された織編物をフレームに張設することにより、弾性繊維の伸長回復性を活かしてクッション性を発現させることができ、金属バネや、ウレタンクッション材に比べて、薄型、軽量、高通気性等の特徴を有する座席が得られる。このような弾性繊維からなる織編物は布バネと称され、事務椅子や家具等の多くの座席用途に使用されつつある。
【0003】
以下の特許文献1には、伸長時の応力と繰り返し変形後の残留歪を適正範囲とし、エラストマー繊維を織編物の交点部分で熱融着させることにより、目ずれせずに優れた弾性と弾性回復性を示し、クッション材として好適な弾性織編物が提案されている。しかしながら、特許文献1の織編物は、交点部分が熱融着されて補強されているものの、引裂きに対する抵抗力が十分ではなく、強度的に不十分なものであった。更には、ポリエーテルエステル系エラストマー繊維及びポリエステル繊維によって構成されるため耐摩耗性が劣り、金属フレームと接合している部位等の摩耗が激しいことにより、長期使用時の耐久性が不十分であった。
【0004】
以下の特許文献2には、地組織のタテ方向及び/又はヨコ方向に挿入糸が挿入された経編地であり、コース数とウエール数の積と5%伸長時の応力を規定することにより、高い引裂き抵抗力を有し、かつ伸長回復性の良好な布バネ材が提案されている。しかしながら、特許文献2の布バネ材は経編地で構成されており、引裂き抵抗力を上げるために太い繊維を用いて編み密度を高めているため、厚くて重く、取扱い性が悪いという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−159052号公報
【特許文献2】特開2006−97170号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、高い引裂強度を有し、かつ耐摩耗性に優れた安全性の高い布バネ材用織物であって、張設座席での座り心地、回復性が良好であり、かつ厚みが薄く軽量で取扱い性が良好な布バネ材用織物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、織物における使用繊維、繊度、カバーファクター、厚み、重量、織物の5%伸長時の応力特性等について鋭意検討し、実験を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
【0008】
[1]経糸と緯糸の少なくとも一方が150〜1500dtexのポリアミド繊維より構成される布バネ材用織物であって、該織物のカバーファクターは、1650〜3500であり、該織物の厚さは、0.2〜0.7mmであり、該織物の重量は、130〜600g/mであり、該織物における該ポリアミド繊維の織密度は、20〜120本/2.54cmであり、該織物における該ポリアミド繊維の糸長方向に沿った5%伸長時の応力は、55〜300N/4cm幅であり、かつ、該5%伸長後の回復率は、85%以上であることを特徴とする前記布バネ材用織物。
【0009】
[2]前記ポリアミド繊維の引張強度が5cN/dtex以上である、前記[1]に記載の布バネ材用織物。
【0010】
[3]前記布バネ材用織物のタテ方向の5%伸長時の応力をA、そしてヨコ方向の5%伸長時の応力をBとする時、A/Bの比又はB/Aの比が1.1〜7.0である、前記[1]又は[2]に記載の布バネ材用織物。
【0011】
[4]前記布バネ材用織物の少なくとも片面が樹脂加工されている、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の布バネ材用織物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い引裂強度を有し、かつ耐摩耗性に優れた安全性が高く、張設座席での座り心地、回復性が良好であり、かつ厚みが薄く軽量で取扱い性が良好な布バネ材用織物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
布バネ材とは、略4角形や、多角形、その他各種形状のフレームに布バネ材を縫製、樹脂成型、ボルト止め等の各種方法で張設することにより、面状のクッション材を形成し、布バネ材の伸長特性を利用して人が座った際のクッション性を発現させるものである。
フレームと布バネ材のみでクッション材を形成することもでき、必要に応じて布バネ材の上に立体編物、硬綿、不織布等の繊維状クッション材やウレタン、表皮材等を積層したクッション材とすることもできる。
【0014】
本発明の布バネ材用織物は、耐摩耗性及び引裂強度を十分な性能にするために、経糸と緯糸の少なくとも一方が150〜1500dtexのポリアミド繊維より構成される。耐摩耗性をより良好にするには経糸と緯糸が共にポリアミド繊維であることが好ましい。ポリアミド繊維の繊度は150dtex未満であると、織物の引裂強度及び引張強度が低下し、一方、1500dtexを超えると厚く、重すぎるものとなる。ポリアミド繊維の好ましい繊度は200〜1000dtexであり、より好ましくは200〜600dtexである。
ここで、本発明の布バネ材用織物の引裂強度は、布バネ材に切り傷や穴が生じた場合に、傷や穴の広がりを抑える上で、300N以上であることが好ましく、より好ましくは350N以上、さらに好ましくは400N以上である。
【0015】
本発明に係るポリアミド繊維としては、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン612等の繊維が挙げられるが、耐熱性に優れるナイロン66繊維がより好ましい。ナイロン66繊維としてはナイロン66ホモポリマー繊維、ナイロン66コポリマー繊維(ナイロン66/6、ナイロン66/6I、ナイロン66/610等)、ナイロン66にナイロン6、ナイロン610等をブレンドした繊維等が耐熱性の点で好ましい。ポリアミド繊維には、ポリマーや原糸の製造工程や加工工程で、生産性や特性を改善するために通常使用されている各種添加剤が付与されていてもよい。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、増粘剤、顔料、難燃剤、艶消剤等を付与することができる。
【0016】
本発明に係るポリアミド繊維の引張強度は、布バネ材の引裂強度、引張強度を高める上で5cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは、6cN/dtex以上、更に好ましくは7cN/dtex以上であり、高ければ高いほど安全性の高い布バネ材となる。
【0017】
布バネ材の耐摩耗性、引裂強度、及び伸長回復性を十分に高い性能にするために、本発明の布バネ材用織物のポリアミド繊維の織密度は、20〜120本/2.54cmである必要がある。ポリアミド繊維の織密度が20本/2.54cm未満であると耐摩耗性、引裂強度、伸長回復性の何れの性能も低く、布バネ材としては不十分なものとなり、一方、120本/2.54cmを超えると厚くて重く、取扱い性の悪い布バネ材となり、加えて織物に良好な伸びが得られず、人が上に座った際に人体にフィットしない硬く座り心地の悪いものとなる。ポリアミド繊維の織密度の好ましい範囲は25〜100本/2.54cm、より好ましくは30〜80本/2.54cmである。ポリアミド繊維の経糸又は緯糸カバーファクターは、耐摩耗性、引裂強度、伸長回復性、座り心地を高める上で900〜2000であることが好ましい。
【0018】
また、経糸カバーファクターと緯糸カバーファクターの和で表される布バネ材用織物のカバーファクターは、1650〜3500であることが必要である。カバーファクターが1650未満の場合、耐摩耗性、破断強度が不十分となり、一方、3500を超えると厚く、重く、取扱い性の悪い布バネ材となる。本発明の布バネ材用織物のカバーファクターのより好ましい範囲は1700〜3000であり、さらに好ましくは1800〜2800である。
【0019】
張設座席において人が上に座った際に適度に伸長・変形し、布バネ材が人体にフィットするために、本発明の布バネ材用織物におけるポリアミド繊維の糸長方向に沿って織物を伸長させる際の5%伸長時の応力は、55〜300N/4cm幅であることが必要である。5%伸長時の応力が55N/4cm幅未満では、張設座席において着座時の沈み込みが大き過ぎることにより反発感が無くなりクッション性が低下すると共に、回復性も悪くなり、一方、300N/4cm幅を超えると、人が座った際の沈み込みが少なく、布バネ材が人体にフィットし難くなり、硬く、座り心地の悪いものとなる。より好ましい該5%伸長時の応力は、60〜250N/4cm幅であり、さらに好ましくは60〜200N/4cm幅である。
【0020】
さらに、本発明の布バネ材用織物におけるポリアミド繊維の糸長方向に沿った5%伸長後の回復率は、85%以上であることが必要である。回復率が85%未満の場合、張設座席において布バネが長期に使用される際、人の体重により布バネ材に大きな永久歪が生じ、布バネ材の着座感が初期に対し大きく変化する。該5%伸長後の回復率は、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0021】
布バネ材用織物のタテ方向とヨコ方向の伸長応力の比については、タテ方向とヨコ方向の一方は伸長応力を高めることにより布バネ材の面剛性を上げ、他方は伸長応力を比較的低くすることにより人体へのフィット性を向上させることが好ましい。このためにはタテ方向の5%伸長時の応力をA、ヨコ方向の5%伸長時の応力をBとした時に、A/Bの比、又はB/Aの比が1.1〜7.0であることが好ましい。より好ましくは、A/Bの比、又はB/Aの比が1.2〜5.0、さらに好ましくは1.2〜4.0である。A/Bの比、又はB/Aの比が1.1未満の場合、硬過ぎてフィット性に乏しい布バネ材となるか、又は伸びすぎて面剛性が低く、長期使用時に塑性変形の大きいものとなる。A/Bの比、又はB/Aの比が7.0を超える場合も、面剛性が低く長期使用時に塑性変形の大きい布バネ材となる。
【0022】
尚、本発明の布バネ材用織物は、張設状態で人の体重を支え、かつ、勢いよく膝をつく行為や、衝突時等の衝撃力が加わった際に十分抵抗できる強度が必要となる。このためにはタテ及びヨコ方向の引張強度は1500N/4cm幅以上が好ましく、より好ましくは2000N/4cm幅以上、さらに好ましくは2500N/4cm幅以上である。
【0023】
また、運搬時や裁断・縫製時等の取扱い性を良好にし又は乗物用シートの薄型軽量化に対応するために、本発明の布バネ材用織物の厚みは、0.2〜0.7mmであり、その重量は、130〜600g/mである必要がある。該厚みは、より好ましくは0.25〜0.60mmであり、該重量は、より好ましくは130〜400g/m、さらに好ましくは130〜350g/mである。
【0024】
本発明の布バネ材用織物においては、経糸と緯糸の少なくとも一方にポリアミド繊維が使用されるが、他方に用いる繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維等の合成繊維を用いることができる。また、経糸と緯糸の少なくとも一方に用いるポリアミド繊維には、数本交互に他の繊維を混用し、また合撚や混繊等の方法で他の繊維が複合化されていてもよい。混用や複合化する他の繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維等の合成繊維を用いることができる。
【0025】
布バネ材用織物の経糸及び緯糸の形態は、未加工糸、紡績糸、撚糸、仮撚加工糸、流体噴射加工糸等いずれのものを採用してもよい。また、マルチフィラメントであってもモノフィラメントであってもよい。但し、モノフィラメントを用いる場合は、モノフィラメントがスリップして生じる織物の組織変形や人が着座した後の塑性変形を防止するために、モノフィラメントが織物組織の交点で接着されていることが好ましい。接着の方法はモノフィラメント表面を低融点のポリマーで覆った鞘芯モノフィラメントを用い、織物を製織した後にヒートセット等で熱融着させる方法や、織物を樹脂加工する方法が好ましく用いられる。
【0026】
本発明の布バネ材用織物は、裁断時の糸の解れや、織物に切り傷等が生じた場合の糸の解れを防止するため、樹脂によるコーティング加工、ディッピング加工、ラミネート加工等の樹脂加工が施されていることが好ましい。中でも織物の少なくとも片面に樹脂をコーティング加工することがより好ましい。コーティング加工に使用する樹脂は特に限定する必要はなく、通常一般に使用されている樹脂を使用することができる。例えば、シリコーン、クロロプレン、クロロスルホン化ポリオレフィン、アクリル、フッ素、ポリウレタン、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレンブタジエン等の樹脂を用いることができる。中でも、耐熱性、耐寒性、難燃性を有するシリコーン樹脂が特に好ましい。また、樹脂には公知の増粘剤、難燃剤、耐熱剤、酸化防止剤、接着剤、充填剤、触媒、架橋剤、顔料、粘性安定剤等が含有されていてもよい。
【0027】
織物に樹脂をコーティングする方法は特に限定はなく、既存のナイフコート、ロールコート、リバースコート等の通常のコーティング法、スプレー法、ドライラミネート法、ウエットラミネート法、押し出しラミネート法等を用いることができる。樹脂をコーティングする前の基布は、硬化させた樹脂が簡単に基布より剥離しない樹脂処方との組み合わせであれば、精錬しても無精錬でも構わない。
【0028】
本発明の布バネ材用織物の織組織は、平織、格子織、斜子織が好ましく、製織方法はエアジェット製織、ウォータージェット製織、レピア製織等を使用することができる。
本発明の布バネ材用織物は、フレームに張設して座部及び/又は背部を形成する張設座席に好適に用いられるが、布バネ材をフレームに張設する状態は限定されるものではなく、布バネ材の周囲または少なくとも2辺を背部又は座席のフレームに緊張状態又は弛ませた状態で張ることにより、布バネ材が座席の座部や背部を形成すればよい。
【0029】
フレームへの布バネ材の固定方法としては、任意の方法を用いることができる。例えば、特開2002−219985号公報に記載のように、布バネ材の末端部に断面略U字状で溝部を有するプレート部材を固着し、該プレート部材の溝部を適宜のフレーム材に係合する方法、布バネ材の末端部を溶着、縫製、樹脂加工等により処理した後、端部を押さえ部材等で押さえてボルト止め等でフレームに固定する方法、端部を折り返して縫製した空洞の中に金属棒を通し、金属棒をフレームに固定する方法等、任意の方法を用いることができる。尚、本発明の布バネ材をコイルスプリング、トーションバー等の金属バネを介してフレームに固定する方法等を用いることにより、よりストローク感のあるクッション性が付与できる。
【0030】
本発明の布バネ材用織物は、製織後、精錬、樹脂加工、熱セット等を経て製品となる。
布バネ材用織物の仕上げセットで用いる熱処理機としては、ピンテンター、クリップテンター、ショートループドライヤー、シュリンクサーファードライヤー、ドラムドライヤー、連続又はバッチ式タンブラー等が使用できる。
仕上げ加工後の布バネ材用織物は、融着、縫製、樹脂加工等の手段で端部を処理し、また熱成型等により所望の形状に加工して、張設座席用の布バネ材として用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)5%伸長時の応力、5%伸長後の回復性
布バネ材用織物をポリアミド繊維の糸長方向に沿って20cm×4cm(幅)の短冊状にカットした試験片(ポリアミド繊維に沿う方向が長辺となる)を5枚採取し、チャックによるつかみ長を50mm、つかみ間隔を100mmとする際の基準線を2本引く(2本の基準線の間隔が100mm)。島津オートグラフAG−B型(島津製作所製)を用い、つかみ長50mm、つかみ間隔100mm、引張り速度50mm/minの条件で、5%まで伸長させた時の引張り応力を求める。また、5%伸長後は50mm/minの速度で0%伸長の位置まで戻し、試験片をチャックから取外しフリーの状態で平板上に1時間放置した後の基準線間の長さ(L1)を測定する。計5回測定し、それぞれの平均値を求める。5%伸長後の回復性は下記式により求める。ポリアミド繊維が経糸及び緯糸に使用されている場合は、経糸方向と緯糸方向をそれぞれ測定する。
5%伸長後の回復性(%)=(105−L1)×100/5
【0032】
(2)引張強度
(1)と同様の試験片を採取し、(1)と同様の試験機により試験片が破断する際の荷重を測定する。
【0033】
(3)引裂強度
JIS L−1096(シングルタング法)に準じた。
【0034】
(4)耐摩耗性
JASO M403−88(テーバーロータリアブレッサ法)に準じた。
【0035】
(5)カバーファクター(K)
織物のカバーファクター(K)は経糸のカバーファクター(Kw)と緯糸のカバーファクター(Kf)の和で表す。
Kw=経糸密度(本/2.54cm)×√経糸繊度(dtex)
Kf=緯糸密度(本/2.54cm)×√緯糸繊度(dtex)
K=Kw+Kf
【0036】
(6)織物の厚さ
JIS L−1096に準じた。
【0037】
(7)張設座席での座り心地(フィット性)及び回復性
座部が幅52cm、奥行き47cm、高さ32cmの口型金属パイプ材からなる座席フレーム(背もたれなし)を作製する。幅50cm×長さ57cmの布バネ材のポリアミド繊維の糸長方向の両端2辺の全幅にポリブチレンテレフタレート樹脂製の略U字状のプレートを縫製で取り付ける。布バネ材の一方の略U字プレートを座席フレーム前縁下に取り付けた金属製略U字プレートとかみ合わせ、布バネ材の幅全体に10Kgの荷重をかけて張力を付与した状態で座席フレームの前後に布バネ材を張り、座席フレームの後ろ縁下の金属製略U字プレートと布バネ材の樹脂製略U字状のプレートとかみ合わせて布バネ材と張設する。10Kgの張力により金属製略U字プレートと樹脂製略U字プレートの位置がずれる場合は、金属製略U字プレートのボルト止めした位置をずらせて調節する。布バネの長さ方向と膝の向きを合せて、座席の上に体重65Kgの男性が10分間座った後、退席する。
【0038】
着座時の座り心地(布バネ材のフィット性)を、以下の4段階で相対評価した:
◎:フィット性に非常に優れる;
○:フィット性にやや優れる;
△:フィット性にやや劣る;
×:フィット性に非常に劣る。
【0039】
さらに、退席後の布バネの回復状態を、目視により以下の4段階で相対評価した:
◎:完全に元通りに回復している;
○:ほぼ元通りに回復している;
△:ややくぼみ(変形)が残る;
×:大きくくぼみが残る。
【0040】
[実施例1〜3]
470dtex70フィラメント、強度8.2cN/dtexのナイロン66繊維を経糸及び緯糸に用い、エアジェット織機で織密度を変更して3種類の平織の生機を得た。尚、経糸は整経油剤S1700(互応化学株式会社製)を0.8wt%付着させて整経した。得られた生機を170℃でヒートセットを行い、次いで、ナイフコーティングにより片面にシリコーン樹脂をコーティングした後、乾燥機内で180℃、3分間熱処理して、布バネ材用織物を得た。得られた布バネ材用織物の諸物性を、以下の表1に示す。
得られた布バネ材用織物は、引張強度、引裂強度、耐摩耗性が高く、張設座席での座り心地、回復性が良好なものであった。また、厚みが薄く軽量で、裁断、縫製、運搬等の取扱性も良好であった。尚、傾向として緯糸に使用したナイロン66繊維の本数が少ない(緯糸のカバーファクターが小さい)と回復性が若干低下し、また、タテ方向とヨコ方向の5%伸長時の応力比が1のものは座り心地が若干低下する傾向が見られた。
【0041】
[実施例4]
実施例3と同様の経糸に940dtex140フィラメント、強度8.1cN/dtexのナイロン66繊維を緯糸に使用して平織の生機を得た。得られた生機は実施例3と同様にヒートセット、樹脂コーティングを行って布バネ材用織物を得た。得られた布バネ材用織物の諸物性を、以下の表1に示す。
得られた布バネ材用織物は、引張強度、引裂強度、耐摩耗性が高く、張設座席での座り心地、回復性が良好なものであった。
【0042】
[実施例5〜7]
235dtex48フィラメント、強度8.2cN/dtexのナイロン66繊維、940dtex140フィラメント、強度8.1cN/dtexのナイロン66繊維、1400dtex210フィラメント、強度8.0cN/dtexのナイロン66繊維をそれぞれ経糸及び緯糸に用い、エアジェット織機で平織の生機を得た。得られた生機は実施例1と同様にヒートセット、樹脂コーティングを行って布バネ材用織物を得た。得られた布バネ材用織物の諸物性を、以下の表1に示す。
得られた布バネ材用織物は、引張強度、引裂強度、耐摩耗性が高く、張設座席での回復性が良好なものであった。尚、傾向としてナイロン66繊維の繊度が細くカバーファクターの小さい実施例5は引張強度、引裂強度が低下すると共に、張設座席での回復性が劣る傾向が見られ、ナイロン66繊維の繊度が太い経糸のカバーファクターの大きい実施例7は硬すぎてフィット性がなく座り心地が劣る傾向が見られた。
【0043】
[実施例8、9]
470dtex70フィラメント、強度8.2cN/dtexのナイロン66繊維、560dtex96フィラメント、強度5.1cN/dtexのポリエステル繊維を用い、それぞれを経糸及び緯糸としてエアジェット織機で平織の生機を得た。尚、経糸は整経油剤S1700(互応化学株式会社製)を0.8wt%付着させて整経した。得られた生機は実施例1と同様にヒートセット、樹脂コーティングを行って布バネ材用織物を得た。得られた布バネ材用織物の諸物性を、以下の表1に示す。
得られた布バネ材用織物は、引張強度、引裂強度が高く、張設座席での座り心地が良好なものであった。尚、ポリエステル繊維を経糸又は緯糸に使用すると、ポリエステル繊維の糸長方向での5%伸長後の回復率がやや低い織物となり、張設座席での回復性が劣る傾向が見られた。また、耐摩耗性がやや低下する傾向が見られた。
【0044】
[比較例1]
140dtex48フィラメント、強度8.0cN/dtexのナイロン66繊維を経糸及び緯糸としてエアジェット織機で平織の生機を得た。尚、経糸は整経油剤S1700(互応化学株式会社製)を0.8wt%付着させて整経した。得られた生機は実施例1と同様にヒートセット、樹脂コーティングを行って布バネ材用織物を得た。得られた布バネ材用織物の諸物性を、以下の表1に示す。
得られた布バネ材用織物は、引張強度、引裂強度、耐摩耗性が低く、張設座席での座り心地、回復性も非常に劣るものであった。
【0045】
[比較例2]
1540dtex258フィラメント、強度8.0cN/dtexのナイロン66繊維を経糸及び緯糸としてエアジェット織機で平織の生機を得た。尚、経糸は整経油剤S1700(互応化学株式会社製)を0.8wt%付着させて整経した。得られた生機は実施例1と同様にヒートセット、樹脂コーティングを行って布バネ材用織物を得た。得られた布バネ材用織物の諸物性を、以下の表1に示す。
得られた布バネ材用織物は、引張強度、引裂強度、耐摩耗性は高いものの、5%伸長時の応力が高く、張設座席での座り心地が非常に劣るものであった。また、厚くて重く取扱い性の悪いものであった。
【0046】
[比較例3]
470dtex70フィラメント、強度4.7cN/dtexのナイロン6繊維を経糸及び緯糸としてエアジェット織機で平織の生機を得た。尚、経糸は整経油剤S1700(互応化学株式会社製)を0.8wt%付着させて整経した。得られた生機は実施例1と同様にヒートセット、樹脂コーティングを行って布バネ材用織物を得た。得られた布バネ材用織物の諸物性を、以下の表1に示す。
得られた布バネ材用織物は、5%伸長時の応力が低く、張設座席での座り心地、回復性が非常に劣るものであった。
【0047】
[比較例4]
560dtex96フィラメント、強度5.1cN/dtexのポリエチレンテレフタレート繊維を経糸及び緯糸としてエアジェット織機で平織の生機を得た。尚、経糸は整経油剤S1700(互応化学株式会社製)を0.8wt%付着させて整経した。得られた生機は実施例1と同様にヒートセット、樹脂コーティングを行って布バネ材用織物を得た。得られた布バネ材用織物の諸物性を、以下の表1に示す。
得られた布バネ材用織物は、5%伸長後の回復率が低く、張設座席での座り心地、回復性が非常に劣るものであった。また、耐摩耗性も不良であった。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の布バネ材用織物は、高い引裂強度を有し、かつ耐摩耗性に優れた安全性の高い布バネ材用織物であって、張設座席での座り心地、回復性が良好であり、かつ厚みが薄く軽量で取扱い性が良好な布バネ材用織物であるため、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務用等の座席シート用クッション材として用いられる布バネ材に好適に利用しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸の少なくとも一方が150〜1500dtexのポリアミド繊維より構成される布バネ材用織物であって、該織物のカバーファクターは、1650〜3500であり、該織物の厚さは、0.2〜0.7mmであり、該織物の重量は、130〜600g/mであり、該織物における該ポリアミド繊維の織密度は、20〜120本/2.54cmであり、該織物における該ポリアミド繊維の糸長方向に沿った5%伸長時の応力は、55〜300N/4cm幅であり、かつ、該5%伸長後の回復率は、85%以上であることを特徴とする前記布バネ材用織物。
【請求項2】
前記ポリアミド繊維の引張強度が5cN/dtex以上である、請求項1に記載の布バネ材用織物。
【請求項3】
前記布バネ材用織物のタテ方向の5%伸長時の応力をA、そしてヨコ方向の5%伸長時の応力をBとする時、A/Bの比又はB/Aの比が1.1〜7.0である、請求項1又は2に記載の布バネ材用織物。
【請求項4】
前記布バネ材用織物の少なくとも片面が樹脂加工されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の布バネ材用織物。

【公開番号】特開2011−6797(P2011−6797A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148591(P2009−148591)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】