説明

布材

【課題】屈曲による導電性の鞘糸の断線を極力阻止できる布材を提供する。
【解決手段】非導電性の芯糸と、芯糸の軸芯周りにスパイラル状に配置する導電性の鞘糸24とを有する布材において、鞘糸24が、導電性の第一糸41と、第二糸42を有し、5本以上の第一糸41を、第二糸42の周りに撚りをかけつつ最密充填状態で配置した布材。前記第二糸は、初期引っ張り抵抗度が4.9GPa以上であって、前記第一糸よりも伸度が高い線材であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性の芯糸と、導電性の鞘糸(芯糸の軸芯周りにスパイラル状に配置する線材)を備えた布材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の布材として、特許文献1に開示の布材が公知である。この布材は、発熱線(芯糸,導電性の鞘糸)を有する。芯糸は、ポリエステルと綿からなる線材であり、鞘糸は、ステンレス等の金属線からなる線材である。
公知技術では、芯糸の周りに、一本の鞘糸を螺旋状に配置して発熱線を形成する。つぎに発熱線を、他の線材(絶縁性の線材)とともに織製して布材を形成する。この種の布材は、例えば車両用シートの表皮材として使用できる。そして発熱線を通電状態とすることにより、ヒータ部材として表皮材を機能させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−161456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上述の構成では、乗員の乗降動作等で表皮材がつまみ出され折り畳まれることがある。その際、発熱線が繰り返し折曲げられるなどして、鞘糸(単数の金属線)に応力が集中するなどして断線することがあった。
本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、屈曲による導電性の鞘糸の断線を極力阻止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の布材は、絶縁性の芯糸と、芯糸の軸芯周りにスパイラル状に配置する導電性の鞘糸を有し、例えば車両用シートの表皮材として使用できる。そして本発明の布材は、鞘糸を通電状態とすることによりヒータ部材等として機能するのであるが、この種の構成では、屈曲による鞘糸の断線を極力阻止できることが望ましい。
そこで本発明では、上述の鞘糸が、導電性の第一糸と、第二糸を有する。そして5本以上の第一糸を、第二糸の周りに撚りをかけつつ最密充填状態で配置することにより、屈曲時の内外径の伸縮差を緩和し、撚構造により屈曲変形を緩和することとした。
【0006】
第2発明の布材は、第1発明の布材であって、上述の前記第二糸を、初期引張抵抗度が4.9GPa以上であって、第一糸よりも伸度が高い線材(高弾性の線材)とすることで、鞘糸の耐屈曲性と引張強度を向上させることとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る第1発明によれば、屈曲による導電性の鞘糸の断線を極力阻止することができる。また第2発明によれば、導電性の鞘糸の断線を更に好適に阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】車両用シートの斜視図である。
【図2】布材一部の正面図である。
【図3】(a)は、第一線材の側面図であり、(b)は、別例の第一線材の側面図である。
【図4】更に別例の第一線材の側面図である。
【図5】(a)は、鞘糸の断面図であり、(b)は、変形例1の鞘糸の断面図であり、(c)は、変形例2の鞘糸の断面図であり、(d)は、変形例3の鞘糸の断面図である。
【図6】布材と接続部材一部の正面図である。
【図7】布材と接続部材一部の別の正面図である。
【図8】布材と接続部材一部の断面図である。
【図9】(a)は、参考例の鞘糸の概略断面図であり、(b)は、鞘糸の概略断面図であり、(c)は、鞘糸の別の概略側面図である。
【図10】試験回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図10を参照して説明する。図1には、適宜、部材前方に符号F、部材後方に符号B、部材上方に符号UP、部材下方に符号DWを付す。なお図9(a)(b)の鞘糸の概略図では、理解しやすい様に、撚りをかけずに引き揃えた状態を示す。
図1の車両用シート2は、シートクッション4とシートバック6とヘッドレスト8を有する。これら部材は、各々、シート外形をなすクッション材(4P,6P,8P)と、クッション材を覆う表皮材(4S,6S,8S)を有する。
典型的なクッション材として、例えばポリウレタンフォーム(密度:10kg/m3〜60kg/m3)を用いることができる。
【0010】
本実施形態では、布材10(後述)を、上述の表皮材として用いつつ、ヒータ部材として機能させる(図1及び図2を参照)。
布材10は、第一線材20f(芯糸22,鞘糸24)を構成糸として有する(図2及び図3を参照、詳細後述)。そして第一線材20fでは、導電性の鞘糸24が、芯糸22の周りにスパイラル状に配置するのであるが、この種の構成では、屈曲による鞘糸24の断線を極力阻止できることが望ましい。
そこで本実施形態では、後述の構成によって鞘糸24の断線を極力阻止することとした。以下、各構成について詳述する。
【0011】
[布材]
布材10は、複数の構成糸(第一線材20f,第二線材20s)と、接続部材12を有する(図2及び図6を参照、詳細後述)。そして接続部材12によって、布材10(第一線材20f)を通電して加熱させることにより、布材10をヒータ部材として機能させることができる。
なお布材10は、織物、編物、不織布のいずれでもよいが、本実施形態では、布材10としての織物を作製する。布材10としての織物は、平織物、斜文織物又は朱子織物等のいかなる構成の織物でもよい。
【0012】
(第一線材)
第一線材20fは、通電可能な導電性の線材であり、絶縁性の芯糸22と、導電性の鞘糸24(第一糸41,第二糸42)を有する(図3〜図5を参照)。
本実施形態では、用途により要求値は異なるが、JIS C 2525に準拠して測定した抵抗値が0.1〜47Ω/cmの第一線材20fを使用することが望ましい。
【0013】
(芯糸)
芯糸22は、典型的に比抵抗が108Ω・cmを超える線材(絶縁性)である。芯糸22の材質は特に限定しないが、天然繊維(植物系及び動物系の天然繊維、レーヨンなどの再生繊維)、合成繊維(ポリアミド及びポリエステル等の合成繊維、アセテートなどの半合成繊維)を用いてなる糸を例示できる。なお芯糸22として、上述の繊維又は糸を1種類のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
(鞘糸)
鞘糸24は、芯糸22の軸芯周りにスパイラル状に配置する線材であり、後述の第一糸41と第二糸42を有する。鞘糸24は、シングルカバリングでもダブルカバリングでもよく、また鞘糸24の撚り方向はS撚又はZ撚のいずれでもよい(図3を参照)。
芯糸22に対する鞘糸24の撚数は、芯糸22や鞘糸24の太さ(繊度)などによって適宜設定される。例えばシングルカバリングの場合、鞘糸24の撚数を20〜2000T/mに設定することで、第一線材20fに所望の耐久性を付与できる。鞘糸24の撚数が20T/m未満であると、所望の第一線材20fの耐久性が得られない傾向にある。
ここで鞘糸24をシングルカバリングする場合、鞘糸24の撚り戻しを防ぐために、第三糸43(鞘糸24とは異なる別の線材)を鞘糸24とは逆方向に撚ることもできる(図4を参照)。例えば鞘糸24がZ撚りであれば、第三糸43をS撚りとする。第三糸43の材質は特に限定しないが、後述の第二線材20sや芯糸22と同種の材質を例示できる。
【0015】
(第一糸・第二糸)
第一糸41とは、図5に示す様に常に鞘糸24の外周に配置された糸であり、第二糸42とは、常に鞘糸24の中心に配置されている。本実施形態では、第一糸41及び第二糸42として、JIS C 2525に準拠して測定した比抵抗(体積抵抗率)が100〜10-12Ω・cmの線材を使用できる。
第一糸41及び第二糸42として、金属線を例示できる(図5(a)を参照)。金属線として、金、銀、銅、黄銅、白金、鉄、鋼、亜鉛、錫、ニッケル、ステンレス鋼、アルミニウム及びタングステン等からなる線材が挙げられる。ここで第一糸41及び第二糸42で用いる金属線は、弾性伸長域が一般に低く、0.3〜0.5%程度である。これ以上の伸長は塑性変形領域となり疲労破損を引き起こすことになる。
これらのうちでは、ステンレス鋼製の金属線が耐食性及び強度に優れるため好ましい。ステンレス鋼(種類)は特に限定されず、SUS304、SUS316及びSUS316L等が挙げられ、SUS304は汎用性が高く、SUS316及びSUS316Lはモリブデンが含有されており、優れた耐食性を有するため好ましい。
【0016】
また第二糸42として、弾性が高く、第一糸41よりも伸度が高い線材(高弾性糸等)を例示できる(図5(b)を参照)。第二糸42を、弾性が高く第一糸41よりも伸度が高い線材とすることで、鞘糸24にかかる張力を第二糸42が負担する事になり、鞘糸24の耐屈曲性と引張強度を向上させることができる。
高弾性糸は、初期引張抵抗度4.9GPa以上(典型的に4.9GPa〜600GPa)の線材であり、好ましくは同抵抗度54GPa〜280GPaの線材である。初期引張抵抗度は、JIS L 1013 8.10に基づいて測定できる。
【0017】
高弾性糸(材質)として、産業用ポリエステル糸、高強力ポリエチレン糸を例示できるが、各種特性に優れる材質を使用することが望ましい。
各種特性に優れる材質(高強度、高融点又は難燃性の材質)として、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキシサゾール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリイミド繊維、PAN系炭素繊維を例示できる。
例えばパラ系アラミド繊維(初期引張抵抗度:54GPa〜199GPa)として、デュポン社製の商品名「ケブラー(登録商標)」、帝人社製の商品名「テクノーラ(登録商標)」を例示できる。ポリアリレート繊維(初期引張抵抗度:74GPa〜104GPa)として、クラレ社製の商品名「ベクトラン(登録商標)」を例示できる。そしてポリパラフェニレンベンゾビスオキシサゾール繊維(初期引張抵抗度:180GPa〜280GPa)として、東洋紡社製の商品名「ザイロン(登録商標)」を例示できる。
【0018】
(鞘糸の作成)
本実施形態では、5本以上(典型的に5〜10本)の第一糸41を、第二糸42の周りに撚りをかけつつ最密充填状態で配置して、所望の径寸法を有する鞘糸24を形成する(図5(a)〜(d)を参照)。ここで最密充填状態とは、第二糸42に外接させながら第一糸41を近接配置させたとき、最大数配置した本数である。例えば第一糸41と第二糸42の直径が等しい場合には第一糸41の本数は6本である。
鞘糸24の径寸法は特に限定しないが、例えば直径30〜200μmであることが好ましい。鞘糸24の直径が200μmを超えると、鞘糸24が剛直となるなどして、乗員に対して異物感を生じさせる原因となる。
ここで金属線の直径は、10〜50μm(比較的小径)に設定することが望ましい。そして第一糸41と第二糸42をともに金属線とすることにより、直径30〜150μmの鞘糸24を作成できる。
また高弾性糸の直径は、20〜100μmに設定することが望ましい。そして第一糸41を金属線として第二糸42を高弾性糸とすることにより、直径40〜150μmの鞘糸24を作成できる。
【0019】
(鞘糸の耐熱性)
鞘糸24(特に第一糸41)は、第二線材20s(後述)や芯糸22と比べて耐熱性を有することが好ましい。言い換えれば、加熱により溶融する温度、又は溶融しない糸である場合は、燃焼開始温度が第二線材20s等よりも高いことが好ましい。即ち鞘糸24は、第二線材20s等よりも高融点であるか、又は燃焼し難い糸であることが好ましい。
この燃焼性の指標としては、JIS K 7201及びJIS L 1091(1999)8.5E−2法(酸素指数法試験)に準拠して測定される限界酸素指数(LOI)を用いることができ、LOIが26以上である鞘糸24が好ましい。
上述の金属線は、一般的に、第二線材20sとして用いられる天然繊維や合成繊維よりも高融点であって、且つLOIは、通常、26以上である。例えばステンレス鋼繊維のLOIは49.6である。
【0020】
[第二線材]
第二線材20sは、典型的に比抵抗が108Ω・cmを超える線材(絶縁性)である(図2及び図6を参照)。第二線材20sの材質は特に限定しないが、天然繊維や合成繊維を用いてなる糸を例示できる(図2を参照)。第二線材20sとして、上述の繊維又は糸を1種類のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
(第二線材の耐熱性)
第二線材20sは、加熱により溶融する温度、又は溶融せず燃焼する温度が、燃焼開始温度が鞘糸24(特に第一糸41)よりも低く、溶融せず燃焼する線材の場合、LOIが26未満であることが好ましい。天然繊維のLOIは26未満であることが多く、例えば綿のLOIは、18〜20であり、羊毛のLOIは24〜25である。
更に合成繊維は、鞘糸24(第一糸41)よりも低融点であることが多く、燃焼性は鞘糸24(第一糸41)よりも高い場合が多い。例えば、ポリエステル繊維のLOIは18〜20であり、ナイロン繊維のLOIは20〜22である。
【0022】
[第一線材と第二線材の配置関係]
第一線材20fは、第二線材20sの間に単数(1本)織込んでもよく、複数(2〜10本、特に2〜5本)を連続して織込んでもよい(図2及び図6を参照)。なお図2及び図6等では、便宜上、第二線材20sで構成された布材10部分に符号20sを付す。
ここで第二線材20s中の第一線材20fの間隔W1は特に限定されないが、間隔は2〜100mm、特に5〜50mm程度が好ましい(図6を参照)。
間隔W1が狭いと(例えば2mm未満に設定すると)均等に温めることができるが、第一線材20f1本当たりの電流が少なくなり温度が低下する、もしくは温度を上げるために電圧を高くすれば、消費電力が増加することになる。
また間隔W1が広いと(例えば100mmを超えるように設定すると)第一線材20f1本当たりの電流が多くなり温度が上がる、若しくは電圧を下げて消費電力を抑制することができる。しかし、間隔W1が広いために温度にムラを生じやすくなる。
【0023】
布材10を表皮材(ヒータ部材)として用いるとき、第一線材20fを略等間隔に織り込むことで、車両用シート2(シートクッション4やシートバック6)の全面をより均等に暖めることができる(図1を参照)。
また着座者の特定の箇所(大腿部、肩部、背部等)を特に十分暖めたい場合は、布材10(ヒータ部材)の対応する箇所において第一線材20fを相対的に密に配置させ、他の箇所において相対的に疎に配置させることもできる。
【0024】
[表皮材の製造方法]
表皮材の製造方法は、切出し工程と、接続工程を有する。
切出し工程では、所望とする形状の織物片を、布材10の原反から切出す。原反からの織物片の切出し方法は特に限定されず、カッターにより切出すことができ、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ等のレーザを照射して切出すこともできる。
【0025】
接続工程では、布材10(表皮材)の両側端部に接続部材12を接続して、各第一線材20fをECU(図示省略)に接続する(図6を参照)。例えば複数の第一線材20fの各々の両端部を、ECUに接続するための接続部材12に電気的に接続する。
接続工程では、第一線材20fの両端部を、接続部材12が有する導体に接続し、それぞれの接続部材12の長さ方向の一端部の接続端子をECUに接続することにより、ECUからの信号で電源から電力が供給され、各第一線材20fが通電状態となる。
【0026】
(接続部材)
接続部材12の構成は特に限定されないが、織物等からなる帯状の基材の、少なくとも各第一線材20fの端部が接続される面にめっき処理が施されてなる接続部材12が挙げられる(図6〜図8を参照)。この接続部材12では、めっき層12a(導体の一例)と第一線材20fの端部を接続させ、かがり縫い等により固定する(縫合線SEW1)。その後、帯状の基材の一方の側端部を布材10の側端部に縫着することにより取付ける(縫合線SEW2)。
なお接続部材12は、布材10(表皮材)に取付けるときの作業のし易さ、及び車両用シート等の椅子に乗員が着座した時の荷重による変形のし易さ等の観点で、柔軟であることが好ましい。
【0027】
ここで第一線材20fの両端部近傍には、絶縁性の第二線材20sや芯糸22等が混在しており、これら部材(絶縁材)は、接続部材12を取付ける前に除去する必要がある。これら絶縁材は、第一線材20fと比べて融点が低く、またはより低温で燃焼が開始されるため、織物片の両側端部を加熱することによって、溶融させ、又は燃焼させて除去することができる。
加熱手段は特に限定されず、電熱加熱による発熱部材等を接触させる方法、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ等のレーザを照射する方法等が挙げられるが、レーザを照射する方法が好ましい。
【0028】
レーザを照射する方法であれば、絶縁材の材質等によって、レーザの強度及び出力を絶縁材の溶融、燃焼に必要とされるレベルに容易に調整することができ、絶縁材を効率良く除去できる。さらにレーザは、布材10のいずれの面から照射してもよく、布材10の表面に対して焦点位置をずらして照射することにより、一時に幅広に加工することもでき、布材10に往復して照射して絶縁材を帯状に除去することもできる。またレーザ照射とともに、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを吹き付けることにより、加熱による第一線材20f(鞘糸24)の酸化劣化を防止、又は少なくとも抑えることもできる。
【0029】
そして布材10を、例えばシートクッション4の表皮材として用いる(図1及び図2を参照)。このとき接続部材12が、シートクッション4の幅方向のどの位置になるかは特に限定しないが、接続部材12が、シートクッション4のうちの臀部や大腿部等が触れる部分にあると、硬さを感じて違和感がある。
またシートバック6に用いるときは、接続部材12が、シートバック6の背や肩部等が触れる部分にあると、硬さを感じて違和感がある。
そのため接続部材12は、表皮材と、この表皮材に隣接するサイド材等の他の部材との縫製部より外側に位置するように配置することが好ましい。このようにすれば、着座した乗員にほとんど違和感を発生させることなく、耐久性を向上させることができる。
【0030】
(鞘糸の耐久性)
ところでこの種のシート構成では、上述の通り、乗員の乗降動作等で表皮材がつまみ出され折り畳まれることがある(図1を参照)。このとき第一線材20fが折曲げられたり引っ張られたりすることで、鞘糸24に応力が集中するなどの不具合が生ずる(図2及び図3を参照)。
このとき本実施形態の鞘糸24では、5本以上の第一糸41を、第二糸42の周りに撚りをかけつつ最密充填状態で配置する(図5を参照)。
そして5本以上の第一糸41(比較的線径の小さい線材)を用いることで、同じ直径の一本の線とした場合よりも、第一線材20fが屈曲(湾曲)した際における個々の第一糸41の中心線(図9(a)の破線CLを参照)に対しての伸長差を小さくすることができる(図9(a)(b)を参照)。また各第一糸41に撚りをかけることで、第一線材20fが屈曲した際における鞘糸24の変形を、撚りをコイル形状として考えた場合、コイル形状の変形によって鞘糸24の屈曲変形を緩和できる(図9(c)を参照)。
また最密充填にする理由は、撚り構造を安定化させることにある。撚り構造が安定せず撚りがバラけると、その部分の撚構造、効果がなくなり、その結果、弱点部となり好ましくない。第二糸42は、鞘糸24の常に中心に配置されており、第一糸41よりも糸長が短く、鞘糸24が伸長された時、第二糸42に張力がかかりやすい。このとき第二糸42を、初期引張抵抗度が高く第一糸41よりも伸度が高い線材とすることで、鞘糸24にかかる張力を第二糸42が負担する事により、導電性を有する第一糸41を守り、したがって鞘糸24の耐屈曲性を向上させることができる。ここで伸度を高くする理由は、第一糸41の弾性伸長域よりも、第二糸42の弾性伸長域を広くする為であり、張力を負担する事になる第二糸42が疲労的な破壊を防ぐためである。また高弾性とするのは第二糸42に張力を負担させる為である。
以上説明したとおり本実施形態では、上述の構成により、個々の第一糸41にかかる応力を緩和する。このため本実施形態によれば、屈曲による導電性の鞘糸24の断線を極力阻止できる。
【0031】
以下、本実施形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されない。
[実施例1]
本実施例では、芯糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)の仮撚加工糸(330dtex/96フィラメント)を用いた。また鞘糸として、SUS316(φ20μm、伸度1.5%、弾性伸長域0.5%)の第一糸6本と、SUS316(φ20μm、伸度1.5%、弾性伸長域0.5%)の第二糸1本を用いた(合計7本)。そして6本の第一糸を、撚数1000T/mに設定して、第二糸の周りに撚りをかけつつ最密充填状態で配置して鞘糸(直径60μm)を作成した。
そして鞘糸を、撚数500T/mに設定して、芯糸に対してSZ撚ダブルカバリングを行ったものを実施例1の第一線材とした。
【0032】
また第二線材として、PETの仮撚加工糸(167dtex/48フィラメント)を使用した。そして経糸(第二線材)を整経したのち、ジャガード織機にて第二線材(緯糸)を打ち込む中で、緯糸90本に1本の周期で第一線材を打ち込んだ。
つぎに布材に対して、公知の仕上げ加工(起毛、剪毛)を行ったのち、バッキング剤を裏面に付与して乾燥したものを実施例1の布材とした。バッキング剤として、ブチルアクリレートとアクリロニトリルから合成されたアクリル系ポリマーと難燃剤を主成分とするものを用いた。そしてバッキング剤の付与量は45g/m2とし、乾燥温度は150℃×1minとした。布材の仕上げ密度は、経/緯=220/110本/2.54cmであった。また導電線材同士の間隔寸法(W1)は20mmとした。
【0033】
[実施例2]
本実施例では、鞘糸として、実施例1の第一糸8本と、初期引張抵抗度77GPaのポリアリレート繊維(φ36μm、伸度3%、弾性伸長域2%)の第二糸1本を用いた(合計9本)。つぎに8本の第一糸を、撚数1000T/mに設定して、第二糸の周りに撚りをかけつつ最密充填状態で配置することで鞘糸(直径76μm)を作成した。そして実施例1と同様の手法にて、実施例2の布材を作製した。
【0034】
[比較例1]
本比較例では、鞘糸として、SUS316(φ60μm)の第一糸1本を用いた。そして実施例1と同様の手法にて、比較例1の布材を作製した。なお本比較例では、芯糸に鞘糸をダブルカバリングしているので、第一線材には、鞘糸が2本存在することとなる。
【0035】
[比較例2]
本比較例では、鞘糸として、実施例1の第一糸4本(撚数1000T/m)を用いた。そして実施例1と同様の手法にて、比較例2の布材を作製した。
【0036】
[比較例3]
本比較例では、鞘糸として、実施例1の第一糸6本と、実施例1の第二糸1本を用いた。つぎに第一糸と第二糸を引き揃えて(撚りをかけることなく)鞘糸を作成した。そして実施例1と同様の手法にて、比較例3の布材を作製した。
【0037】
[屈曲性試験]
各実施例及び比較例の布材から、ヨコ(第一線材が織り込まれている方向)80mm、タテ25mmのサンプルを切出した。そしてサンプルを、曲率半径1mmにて真っ直ぐな状態から片側に120°屈曲させる動作を繰り返して、第一線材の断線回数を確認した。
本試験では、図10の回路を用いて第一線材の断線回数を確認した。そして第一線材を通電して電圧をモニタリングしながら電圧に変化が生じたときに屈曲部を観察し、1束が断線していることを確認した回数を断線回数と設定した。
【0038】
[結果]
比較例1では、約2000回の屈曲で第一線材が断線した。また比較例2では、約7500回の屈曲で第一線材が断線した。そして比較例3では、約5000回の屈曲で第一線材が断線した。
これとは異なり実施例1では、約30000回の屈曲で第一線材が断線した。また実施例2では、約50000回の屈曲で第一線材が断線した。このことから実施例1及び2の布材によると、上述の比較例と比べて、繰り返しの屈曲による導電性の鞘糸の断線を極力阻止できることがわかった。この結果は、5本以上の第一糸を、第二糸の周りに撚りをかけつつ最密充填状態で配置することで、撚り構造が安定し、撚り構造によって屈曲による変形を緩和している為と推測される。また第二糸を、高弾性かつ高伸度糸にする事で、張力を負担し、屈曲耐久性を向上させていると推測される。
そして典型的なクッション耐久評価では、単品耐久試験が25000回以上であれば合格することから、実施例1及び2の布材が有意であることがわかった。
【0039】
本実施形態の布材は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施形態の布材は、天板メイン部、天板サイド部、かまち部及び背裏部などの車両用シート2の各種構成の表皮材(例えば4S,6S,8S)として使用することができる。また布材は、車両用シートの表皮材のほか、家庭用の座席等の各種の座席の表皮材として使用することができる。
(2)また本実施形態では、専らヒータ部材として機能する布材10を説明した。布材10は、静電容量式センサの電極やアンテナとして使用できる。この場合、布材10の片側にのみ単数の接続部材を取付けることができる。
(3)また本実施形態では、表皮材自体を布材で構成する例を説明したが、表皮材の構成を限定する趣旨ではない。例えば表材(表皮材本体)の裏面に布材10を取付けることもできる。このとき表材と布材の間や、布材の裏面にパッド材(ウレタンラミ等)を配設することもできる。
【符号の説明】
【0040】
2 車両用シート
4 シートクッション
6 シートバック
8 ヘッドレスト
10 布材
12 接続部材
20f 第一線材
20s 第二線材
22 芯糸
24 鞘糸
41 第一糸
42 第二糸
43 第三糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の芯糸と、前記芯糸の軸芯周りにスパイラル状に配置する導電性の鞘糸とを有する布材において、
前記鞘糸が、導電性の第一糸と、第二糸を有し、5本以上の前記第一糸を、前記第二糸の周りに撚りをかけつつ最密充填状態で配置した布材。
【請求項2】
前記第二糸は、初期引張抵抗度が4.9GPa以上であって、前記第一糸よりも伸度が高い線材である請求項1に記載の布材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−184521(P2012−184521A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47724(P2011−47724)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】